ミズクラゲと企業買収

krpさんが「経営・会計通信」「少数株主を追い出す(完)」で少数株主を追い出す(スクイーズ・アウト)の方法についてまとめておられます。
事後設立による検査役検査の回避の方法については、

それ以外の方式の場合は、磯崎さんはいくつか可能性を上げておられますが、私は、公認会計士や税理士による算定によるしかないと思います。

とおっしゃってます。
磯崎哲也事務所でも、事後設立の価格等の証明やっております<(_ _)> ので、わざわざ検査回避の方法を考えてビジネスチャンスを減らすこともないのですが(笑)、私は、前回ご提示した方法も場合によっては使えるのではないかという気がするのですが。

また、このロキテクノ等のスキームをもう一ひねりして、例えば完全親会社を作った後にもう一段ロキテクノが株式移転で完全親会社を作ってその株式をSPCに譲渡したらどうでしょうか?その株式はSPCが設立された後に「製造(?)」されたものなので、「(2) 成立前より存在する財産」にもあてはまらない気がしますが。

つまり、被買収法人の株式を取得後、まず下図のように完全親会社を設立するわけですが、
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ここで、もいっちょ被買収法人の完全親会社を設立し、
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「完全親会社2」の株式をSPCに譲渡した後、
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完全親会社1を清算して、少数株主のスクイーズ・アウト終了、ということになります。
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会社が層に分かれて剥離していくところが、ミズクラゲの幼生(ストロビラ)がくびれて分裂していくところ(ストロビレーション)に似ていて「かわいい〜」かと。(女子高生とかに人気が出そうです。)
これを「ストロビレーション方式」(笑)と命名したいと思います。
参考URL:
信州大学教育学部生物 坂口研究室
ヒドラ・ミズクラゲ紹介:
http://biology.shinshu-u.ac.jp/sakaguchiHP/hydraframe.html
ポリプからエフィラへの変態:
http://biology.shinshu-u.ac.jp/sakaguchiHP/hydra/aurita5.html
SPCが新設法人であっても、この完全親会社2の設立日はさらにそれ以降ということになりますので、どうみてもその株式は、「SPCの設立以前には存在しなかった資産」、ということになるんではないかと思いますが、どうでしょうか?
SPCは一番最初に被買収法人の株式を取得してしてますが、これは「事業のため継続して使用する」目的ではなく、SPCの目的は完全親会社2の株式を(継続)保有することです。
「完全親会社2といっても、被買収法人と中身はほとんどいっしょじゃねーか」というツッコミもあろうかと思いますが、仮にも別法人ですので違うものですし、「加工されたものはアリ」にしていただけないと、(例えば)「資本金1千万円の法人が、会社設立前から存在する木材を使って会社設立後に製作された51万円の机を買ったら事後設立なのか?」というようなことになってしまってキリがありません。
「SPCの子会社が製造したものをSPCが保有するのはけしからん」というのであれば、SPC1、SPC2を作って、SPC1で「製造」したものをSPC2に販売して、SPC1は完全親会社1と合併した後にいっしょに清算、ということでもよろしいかと。
まあ、こうした法的な判断が定まっていないことや、休眠法人の簿外負債リスクやデューデリの手間がイヤという方は、会計士等に価格等の証明をご依頼ください。
事後設立は現物出資の検査の潜脱を防ぐための規定ですが、もともと「あんま意味ねーじゃん」という批判の強かった規定ですし、「会社法制の現代化に関する要綱試案」(7ページ下)
http://www.moj.go.jp/PUBLIC/MINJI39/refer01.pdf
でも、検査役の調査制度は廃止する方向ですので、こうした証明ももうすぐ必要なくなるかと思います。
(ではでは。)

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キャピタルゲインと匿名組合

先日、TOBと事後設立のお話をした中で、SPC(特別目的会社)がTOBで取得した株式が「商品」なのか「固定資産」なのか、という問題提起をさせていただきましたが、その判断の一つの観点としては、投資のexit戦略による見方があると思われます。
株式を保有しているSPC(投資法人等)自体を売却することによりキャピタルゲインを得るというのであれば、SPC自体としては購入した株式を売却する意図はとりあえず存在しないということで、SPCにとっては「固定資産」的かも知れませんが、前回掲げた案のようにSPC自体が取得した株式を売却するのが目的であれば、「商品」的な資産ということになる気がします。
SPCは通常、株式会社や有限会社ですので、ここで単純にSPCで保有株式を売却してしまうと、SPCに大量の利益が発生して法人税が課せられます。が、投資組合などSPCへの出資者とSPCが「匿名組合契約」(商法535条〜)を締結しておいて、SPCで発生したキャピタルゲインは、すべて匿名組合損益として吸い上げてしまえば、SPCでは法人税が課税されません。
(ただし、匿名組合出資者の税務に注意。)
こういう税務上「透明 (fiscally transparent) 」な「器(vehicle, entity)」を、税務では「導管体(conduit)」と呼んでいます。
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先日も、会社分割をした会社の方から、「親会社のほうは赤字だが分割した子会社で利益が出てしまい、連結納税の届出をしていなかったので損益が通算できない。どうしたもんか・・・。」とご質問をいただきました。
(分割前に税務についても考えておくのが普通だとは思いますが^^;)、一つの手としてこうした匿名組合出資を組み合わせる手が美しかったかも知れません。
ちなみに、前回のロキテクノのTOBの事例で出資者となっているファンドは投資事業有限責任組合のようですが、この有限責任組合というのはもともとベンチャー投資を念頭において設立された制度で、昔は投資できるのが未公開株などに限られていて、たいそう使い勝手が悪かったのですが、プライベートエクイティ関連の識者の方々の意見なども取り入れて、現在では投資対象を大幅に広げており、匿名組合出資にも投資できることになってます。(下記条文参照)
(ではまた。)
参考URL:
中小企業等投資事業有限責任組合契約に関する法律
http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxselect.cgi?IDX_OPT=2&H_NAME=&H_NAME_YOMI=%82%bf&H_NO_GENGO=H&H_NO_YEAR=&H_NO_TYPE=2&H_NO_NO=&H_
FILE_NAME=H10HO090&H_RYAKU=1&H_CTG=1&H_YOMI_GUN=1&H_CTG_GUN=1

第三条  中小企業等投資事業有限責任組合契約(以下「組合契約」という。)は、各当事者が出資を行い、共同で次に掲げる事業の全部又は一部を営むことを約することにより、その効力を生ずる。
(中略)
四の二  中小企業等を相手方とする匿名組合契約(商法第五百三十五条 の匿名組合契約をいう。以下同じ。)の出資の持分又は信託の受益権(中小企業等の営む事業から生ずる収益又は利益の分配を受ける権利に限る。)の取得及び保有

法令データ提供システム
http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxsearch.cgi

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(社債なし)新株予約権の発行

ちょっと不思議な公告を見つけました。
本日の日経朝刊12面の森電機の「新株予約権発行に関する取締役会決議公告」です。
参考URL、日経総合企業情報:
http://ir.nikkei.co.jp/data/pdf/20040411/04040074.pdf
この会社さん、東証二部上場なのですが、今どきめずらしいほど全く情報がありません。
(ホームページなし、EDINET開示なし、日経の記事も2年で6件ほど。それも、ほとんど決算の囲み記事などで会社の内容に関する情報なし。ちなみに、「森精機」さんとは全く別の会社です。)
業績は、前期(2003年3月期連結)で売上7億円、当期損失22億円、株主資本7.9億円。しかし、株価は金曜日の終値が19円、発行済株式数が166,701,964株で、時価総額が31億円。(・・・・。)
参考:Yahoo! Japan Finance http://quote.yahoo.co.jp/q?s=6993&d=1y
で、本題ですが。
増資とか新株予約権付社債というならわかるのですが、新株予約権だけを単独で発行しているというのは、非常にめずらしいかと思います。(他に記憶がありません。)
発行価額は2500万円×2と2種類発行。
(条件は全く同じですが、一つは、Maxlink Grobal Ltdという会社が引き受けることになっていて、「ユーロ円建」と書いてあります。「ユーロ円建」として別に分けて公告の料金を倍にする必要はあるんでしょうか? このMaxlink Grobal という会社についてもwebでは見当たらないです。「Grobal」というのは「Global」のスペル違いでしょうか?もう一つの「ユーロ円建でない」新株予約権を引き受ける株式会社バネットという会社もwebでとりあえず見当たりません。)
「10.新株予約権の発行価額及び新株予約権の行使の際の払込金額の算定方法」は、以下のとおりとなっております。

新株予約権は行使価額が当社株価により修正され、また部分行使が可能であることから、新株予約権の発行価額を決定するに当たりオプション算定モデルであるブラック・ショールズ・モデルは適切でないと判断し、当社が今後の事業展開に必要となる運転資金及び事業資金を安定的かつ継続的に確保するために株式会社バネット(Maxlink Grobal Ltd)を新株予約権の割当先として発行する必要があること、本新株予約権及び同時に発行する2005年3月満期新株予約権(ユーロ円建新株予約権)の行使により1株あたりの価値が相当程度希薄化すること、資本増強により財務内容の安定性が期待できるので将来ボラティリティが下がること、及び過去13年間配当していないこと等により財務リスクがあること等を総合考慮し、本新株予約権1個の発行価額を250,000円とした。また、行使価額は平成16年4月6日の株式会社東京証券取引所における当社普通株式の普通取引の終値の100%である20円を当初行使価額とし、その後は13.に規定するように行使期間中いつでも修正されることとした。

来年の3月までいつでも行使でき、新株予約権の部分行使も可能、というオプション権者にとっては比較的有利な内容で、新株予約権1個の行使により50万株の株式が購入できるので、1株あたりのオプション価格は0.5円、株価20円として2.5%ということになります。
新株予約権は行使価額が当社株価により修正され、また部分行使が可能であることから、新株予約権の発行価額を決定するに当たりオプション算定モデルであるブラック・ショールズ・モデルは適切でないと判断し、
というところまでは、「いつでも行使できる”アメリカン”オプションで、ブラック・ショールズ・モデルだとオプション価格が安すぎるので、格子モデルなど他のモデルを使って計算しました」と言うのかと思ってちょっとワクワクしますが、実際には「・・等を総合考慮し」ということで価額を決定されてます。
同時に発行するもう一種の新株予約権により「1株あたりの価値が相当程度希薄化すること」というのはどうでしょうか?市場価格程度で行使する権利なわけですから、希薄化しないとも言えると思うのですが。
「資本増強により財務内容の安定性が期待できるので将来ボラティリティが下がる」というのもどうなんでしょうか。新株予約権の行使で最大20億円全額が払い込まれれば確かに安定するかも知れませんが、そもそも、これはあくまで「オプション(権利)」であって、行使するかどうかはまだ決まってないわけですよね。「事業資金を安定的かつ継続的に確保する」というなら、増資の決議をしてしまう方が投資家にはわかりやすいと思うのですが、新株予約権では本当に行使してもらえるのかどうか、この情報だけではよくわかりません。情報がほとんどない割に、売買高もかなりあり、Yahoo!ファイナンスの掲示板も活発なところを見ると、現在のボラティリティは、PERやPBRからは説明が付かない株価をベースに投機的な売買により発生している要因も大だと思われます。
極めつけが、12.(2)「行使価額の調整」のところですが、
「行使価額は、行使期間中いつでも、当該日に先立つ株式会社東京証券取引所における当社の普通株式の普通取引の終値(気配表示を含む)がある5取引日(当日を含まない)の終値の平均値の1円未満を切り上げた金額が、当日有効な行使価額を下回る場合、当該金額に修正される。
という、すごい条件がついてます。
先日の横浜銀行の転換価額修正のスーパー強化版という感じです。
参考:isologueバックナンバー:https://www.tez.com/blog/archives/000041.html
横浜銀行のが30営業日なのに対して、こちらは5取引日で、しかも気配値でもOK。横浜銀行の転換価額はマイナス20%の下限が付いていましたが、こちらは下限の無い「底なし」です。(というか、下限1円。)
しかも、行使価額は、一度下がったら その後どんなに株価が上がっても二度と上がらない条件と読めます。
来年の3月までずっと20円以上で推移すれば総額20億円の行使で1億株で、発行済株式の約37.5%になるわけですが、仮にこの期間中に1回でも5日間連続で(昨年5月の株価並の)8円ぐらいの株価になってしまったとすると、全部行使で2.5億株、発行済株式のちょうど60%、6円でちょうど3分の2、1円だと92.3%になります。(もちろん、授権枠の制約はありますが。)
本銘柄は貸借銘柄にはなっていませんが、相場により、既存の株主の権利が大きく変化する可能性がある内容となっているかと思います。
(小型株なので、比較的少ない資金で大きく相場が変動する可能性がありますし、EB債などと同様、相場が動くことによって、関係者の利害が大きく影響されるスキームです。もちろん、恣意的な相場形成を行うことは違法[証券取引法159条等]ですし、記録はすべて残るので万が一そうした取引を行った場合、発覚する可能性も大ですが。)
新株予約権の「有利発行」の時は株主総会決議が必要ですが、この新株予約権は取締役会決議で発行しています。会社としては、「特に有利なる条件」ではない、と判断されているのだと思います。
(なお、このblogの他のコメントもそうですが、本コメントについても、一般に開示された情報を題材に、財務、会計、商法等の理解の参考等にしていただくことを目的としており、投資のための情報提供、投資の勧誘、株式の売買を推奨する目的のものではありません。また、本コメントは筆者の属するいかなる組織の意見でもなく、筆者個人の意見であります。)
参考:
商法第280条ノ21
 株主以外ノ者ニ対シ特ニ有利ナル条件ヲ以テ新株予約権ヲ発行スルニハ定款ニ之ニ関スル定アルトキト雖モ其ノ新株予約権ニ付テノ前条第二項第一号、第二号及第四号乃至第八号ニ掲グル事項並ニ各新株予約権ノ最低発行価額(無償ニテ発行スル場合ニハ其ノ旨)ニ付第三百四十三条ニ定ムル決議アルコトヲ要ス

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TOBと事後設立

「経営・会計通信」のKrpさんからトラックバックをいただきました。
「少数株主を追い出す」http://krp.web.infoseek.co.jp/mt/archives/000103.html
「最近見つけた磯崎哲也事務所さんのblogは、私にとっては非常に参考になります。」
と言っていただいております。ありがとうございます。
krpさんの経営・会計通信もちょっと前に発見して、今回、全部目を通させていただきましたが、非常に参考になります。今後ともよろしくお願いいたします。<(_ _)>
ちなみに、最近よく、「TOBの際に新設の株式会社・有限会社をSPC(特別目的会社)にして公開株を取得する場合、商法上の事後設立(商法246条)に該当するのか?」という質問をよく受けます。
これを法的にどう解釈すればいいのでしょうか、という問題ですが。私、弁護士でもないのであくまで個人的意見ですが、以下、krpさんが「少数株主を追い出す(続き)」で引用されていたEDINETのロキテクノのMBO関連の臨時報告書をベースに検討してみたいと思います。
(ちなみに、該当するリンクを直接クリックしても表示されず、EDINETのトップページhttp://info.edinet.go.jp/EdiHtml/main.htm)から辿らないと表示されないみたいです。(→「ENTERボタン」→「内国会社」→「50音で”ロ”」→「ロキテクノ」→2003/7/22の「臨時報告書」))
事後設立は商法の条文では、
商法246条�
第二百四十五条第一項ノ規定ハ会社ガ其ノ成立後二年内ニ其ノ成立前ヨリ存在スル財産ニシテ営業ノ為ニ継続シテ使用スベキモノヲ資本ノ二十分ノ一以上ニ当ル対価ヲ以テ取得スル契約ヲ為ス場合ニ之ヲ準用ス」
商法173条�
「前項ノ規定ハ左ノ各号ニ掲グル場合ニ於テハ其ノ各号ニ定ムル事項ニ付テハ之ヲ適用セズ
一 (略)
二 第百六十八条第一項第五号又ハ第六号ノ財産ガ取引所ノ相場アル有価証券ナル場合ニ於テ定款ニ定メタル価格ガ其ノ相場ヲ超エザル場合 其ノ財産ニ係ル同項第五号又ハ第六号ニ掲グル事項」

となっておりますので、
(1) 会社が成立後2年以内であること
(2) 成立前より存在する財産を取得すること
(3) その財産は営業のために継続して使用すべきものであること
(4) 資本の5%以上にあたる対価であること
が要件となっており、以上の要件にあてはまらなければそもそも事後設立に該当せず、裁判所の検査役、または弁護士・公認会計士等の証明は不要。また、商法173条�の、
(5) 取引所の相場のある株式が価格を超えない
場合には、事後設立には該当するものの証明は不要、ということになります。
一般的にTOBのアドバイザー等の方々の間では、「こうした新設会社での取得は事後設立に該当するので、2年以上経過した休眠会社を探してこなければならない」というのが通説であり実務になっているようなんですが、適当な休眠会社が見つからない場合や、デューデリ(買収調査)にかける時間が足りない場合もあるでしょうし、簿外負債等のリスクもあるので、できれば新設の法人のほうがいいに決まってます。ということで、「事後設立に該当する」というのは、どういう根拠にもとづくものなのかを検討してみたいと思います。
新設会社だと、「(1) 会社が成立後2年以内」ですし、TOBの場合には借入金でレバレッジをかけることもあって、「(4) 資本の5%の対価」にはとても納まらないです。
ただし、「(2) 成立前より存在する財産」「(3) その財産は営業のために継続して使用すべきものであること」についてはどうでしょうか。
「(3) その財産は営業のために継続して使用すべきものであること」は、一般的には「固定資産」的なものを指すとされ、商品などには適用されないと考えられます。(でないと、会社成立後に生産した商品しか仕入れられず、商売になりまへんがな。古物商も新設法人ではできないことになります。売るつもりで仕入れた1000万円の九谷焼の壷が3年間売れなかったとしても、「継続して持っていたから事後設立だ、商法違反だ。」ということにもならないでしょう。商品は、物によって回転の速いものもあれば遅いものもあります。)
このロキテクノの臨時報告書を見てみると、ロキテクノの完全親会社として設立する会社の定款の目的が「次の事業を営む会社の株式を所有することにより、当該会社の事業活動を支配、管理することを目的とする。」と通常の持株会社と同様の「長期保有」っぽい書き方になっているので、SPCの方の目的も同じような書き方になっているとすると事後設立に該当しちゃうかなあという感じもします。しかし、はじめから株式の売買(投資業務)を会社の目的とし、貸借対照表上も取得した株式を「子会社株式」(固定資産)ではなく、「商品」として「営業投資有価証券」(棚卸資産)に計上すれば、事後設立には該当しない気がします。
ベンチャーキャピタルの会計においては、たとえ投資した会社の株式を50%超保有することになったとしても、それが営業の目的を達成するためであり、傘下に入れることが目的で行われていないことが明らかにされたときには、子会社に該当しないこととし、連結もされません。(会計制度委員会「金融商品会計に関するQ&A」Q71、「連結財務諸表における子会社及び関連会社の範囲の決定に関する監査上の取扱い(監査委員会報告第60号)2(6)�等参照)(もちろん、子会社の範囲と事後設立の範囲が一致するとも限らないのですが。)
このSPC、通常の持株会社というよりは、ベンチャーキャピタルと同様の性質を持っていますよね?
また、このロキテクノ等のスキームをもう一ひねりして、例えば完全親会社を作った後にもう一段ロキテクノが株式移転で完全親会社を作ってその株式をSPCに譲渡したらどうでしょうか?その株式はSPCが設立された後に「製造(?)」されたものなので、「(2) 成立前より存在する財産」にもあてはまらない気がしますが。
ちなみに、TOBの場合、相場の時価に10%とか20%プレミアムを付けて買い付けることが多いので、上述の「(5) 取引所の相場のある株式が価格を超えない」というケースにも該当しない場合が大半でしょう。弁護士・会計士等が価格の証明をすれば裁判所の検査役も必要ないのですが、曲がりなりにも市場で価格が形成されているものに対して、その10%とか20%上の価格が適正価格ですというロジックを組むのは非常に大変そうです。(もちろん、TOBをかける方は、10%とか20%プレミアムを乗せても、さらに儲かる可能性が高いと考えているわけですから、証明できる可能性はあると思います。)
長くなりましたが、以上のように考えると、新設法人をSPCに使ったTOBというのが事後設立に該当するとは法律上は必ずしもいえないと思うのですがどうでしょうか。何かそうしなければならない判例その他の事情があるのでしょうか?
(いろいろ他にもおもしろい点はあるのですが、本日はこれにて。)

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官報ファン

すでにご案内の方も多いと思いますが、1999年秋から官報はネットでも見られるようになってます。http://kanpou.npb.go.jp/
無料で見られますが、掲載されるのはその日の正午からで、しかも一週間分だけ。一週間以上経った官報をネットで見たい場合には、「官報情報検索サービス」http://kanpou.npb.go.jp/search/introduce.htmlを申し込む必要があります(月2,100円。こちらは2001年9月からサービス開始。)が、一週間分でもタダで見られれば、かなり使い出はあります。
そもそも、法律違反に問われた場合、公布された法律を「知りませんでした」では済みませんし、手形の公示催告や商法関係の諸手続きなど公告で権利関係に大きな影響を与える可能性のある制度も多いので、「国民なら必ず見ておく必要がある」とも言えます。(言えないか。)
以前、「国土交通大臣 林 寛子」と書いてあって、「そんな大臣いたっけ?」と思ったら扇千景議員の本名だったり、といろいろマニアックな発見もあります。(マニアックすぎるか。)
破産や民事再生などに関するナマナマしい情報も。法人名はともかく、破産者等の個人名・住所まで出ちゃうのはプライバシー上問題とも言えますが、どこにも情報が公開されずに勝手に借金が踏み倒されるのも困りますので、それはそれで仕方ないのですが。
以前は、官報は「公告しても実際、誰も見てないしー。」というようなシロモノだったわけですが、インターネットが普及して、こうしてタダで誰でも見られるようになると、問題はいろいろ出てきます。
前述の官報のホームページに、
平成15年4月頃から、自己破産者を対象に官報掲載料金の支払いを求める通知書が送り付けられています。この件につきましては、裁判所及び国立印刷局は一切関知しておりません。
とあります。
弱ってる人に付け込んで、悪いことを考えるヤツはいるもんですね。
(ではまた。)

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「公的資金」とは何ぞや

横浜銀行、昨日のプレスリリース(http://www.boy.co.jp/topics/040406.pdf)では、「当行が当該権利を行使するか否かは現時点では未定であります。」としていた横浜銀行の転換社債の120%コールオプション条項ですが、本日、行使する旨の公告が行われてます。(日経38面)
(isologueバックナンバー
https://www.tez.com/blog/archives/000040.html
https://www.tez.com/blog/archives/000041.html
参照)
日経によると、横浜銀行はこの転換社債の株式転換で自己資本を強化し、公的資金を前倒しで返済しようということですが。
この銀行に注入された「公的資金」というのは、「銀行が政府から国民の税金をタダでもらった。けしからん!」と思っている人が多いのですが、実は中身は「優先株式」であり、「もらった」のとはちょっと違います。
またまた横浜銀行のケースを使わせていただいて恐縮ですが。(各行だいたい内容的には同じなので。)
同行の有価証券報告書http://www.boy.co.jp/k_t/yuukasyoken_2002.pdf28ページ以下に、「公的資金」である第一回優先株式、第二回優先株式の内容が掲載されてます。保有者は両方とも(財務省等ではなく)、「株式会社整理回収機構」になってますね。また、整理回収機構の分類は、32ページから33ページにまたがる表のところで「政府及び地方公共団体」ではなく、「金融機関」として開示されてます。(整理回収機構って、確かに公社等ではなく「株式会社」ですが、「金融機関」に分類されるんでしょうか。)
開示されている優先株式の内容について、詳細に検討していきますと、(カッコの番号は、後ろに添付した第一回優先株式の内容に対応してます。)
(1) 銀行は、普通株主に優先して優先株主に優先配当金を支払わないといけません。ただし、優先配当金を全額払えなかった場合でも、翌年以降にその未払い分は払わなくていいよ(プレッシャーを感じないで経営改善してね)、という「非累積条項」がついてます。また、優先配当金には上限がついてますので、結局これは配当というよりは、「払えなかったら払わなくていい借金の金利」的な性質を持ってます。
(2) 万が一銀行が解散することになった場合でも、残余財産は1株500円までしか支払われません。まず、預金者などの債権者に財産を分配してから優先株主が分配を受け、それでも残った場合に普通株主にも分け前が行くことになります。つまり、株式というより劣後債務(借金)的な性質を持ってます。
(5) この優先株には議決権がありません。つまり、国(整理回収機構)は、銀行の経営には参画しないということですが、
(3)で、普通株式へ転換できることになっており、また、
(4)で、平成21年7月30日までに転換請求のなかった優先株式は、平成21年7月31日をもって一斉に普通株式に転換することにもなってます。
普通株式に転換されてしまうというのはすなわち(一部)国有化、ということになるので、「こういう事態にならないと行使しないよ」ということが、実際にはより詳細に定められているとは思います。
他にも、恐らく「当行は、いつでも本優先株式を買い入れ、これを株主に配当すべき利益をもって当該買入価額により消却することができる。」というような買い入れ消却に関する条項がついているのではないか(でないと公的資金を返せないので)という気がしますが、書いてないですね。
以下、横浜銀行の第一回優先株式の内容:
(1)優先配当金
� 優先配当金
毎年3月31日現在の優先株主に対し、普通株主に先立ち、優先株式1株につき年5円66銭の優先配当金を支払う。ただし、当該営業年度において優先中間配当金を支払ったときは、当該優先中間配当金を控除した額とする。
� 非累積条項
ある営業年度において、優先株主に対して支払う利益配当金の額が優先配当金の額に達しないときは、その不足額は翌営業年度以降に累積しない。
� 非参加条項
優先株主に対しては、優先配当金を超えて配当は行わない。
� 優先中間配当金
中間配当を行うときは、毎年9月30日現在の優先株主に対し、普通株主に先立ち、優先株式1株につき2円83銭の優先中間配当金を支払う。
(2)残余財産の分配
残余財産を分配するときは、優先株主に対し、普通株主に先立ち、優先株式1株につき500円を支払う。優先株主に対しては、上記500円のほか残余財産の分配は行わない。
(3)普通株式への転換
� 転換請求期間
平成13年8月1日から平成21年7月30日までとする。ただし、株主総会において権利を行使すべき株主を確定するための基準日の翌日から当該基準日の対象となる株主総会終結の日までの期間を除く。
� 転換価額
優先株式の普通株式への転換価額は505円40銭とする。
また、転換価額は、平成11年7月31日とその後平成20年7月31日までの毎年7月31日に修正される。
ただし、今後時価を下回る払込金額をもって普通株式を発行する場合や株式の分割により普通株式を発行する場合等、一定の事由が生じた場合には転換価額を調整する。
(4)普通株式への一斉転換条項
平成21年7月30日までに転換請求のなかった優先株式は、平成21年7月31日をもって、優先株式1株の払込金相当額をそのときの普通株式の時価で除して得られる数の普通株式となる。この場合に使用する時価は、平成21年7月31日に先立つ45取引日目に始まる30取引日の東京証券取引所における当行の普通株式の普通取引の毎日の終値の平均値とする。ただし、当該平均値が200円を下回るときは、優先株式1株の払込金相当額を200円で除して得られる数の普通株式となる。
(5)議決権条項
法令に定める場合を除き、優先株主は株主総会において議決権を有しない。
(6)新株引受権等
法令に定める場合を除き、優先株式について株式の併合または分割は行わない。
優先株主には新株の引受権、新株予約権の引受権または新株予約権付社債の引受権を与えない。

他行の例:
株式会社東京三菱フィナンシャルグループ有価証券報告書(平成15年9月期 半期報告書[一部])
http://www.mtfg.co.jp/finance/securities/2003_half/pdf/yu_mtfghalf0304.pdf
株式会社みずほフィナンシャルグループ有価証券報告書(平成15年3月期 [一部])
http://ir.eol.co.jp/extra/8411/PDF/8411-200203-05.pdf
株式会社UFJホールディングス有価証券報告書
http://www.ufj.co.jp/ir/lib/yukasyoken/yukasyoken.html
株式会社三井住友フィナンシャルグループ有価証券報告書(平成15年9月期 半期報告書[一部])
http://www.smfg.co.jp/library/statement/h1603fghanki_pdf/1603_hanki_07.pdf
株式会社りそなホールディングス有価証券報告書(平成15年9月期 半期報告書[一部])
http://www.resona-hd.co.jp/ir/pdf/i_03b_01/042/hd_034-055.pdf
住友信託銀行 (平成15年3月期 [一部])41ページ
http://www.sumitomotrust.co.jp/IR/company/finance/yuka/132-01.pdf
三井トラスト・ホールディングス株式会社(平成15年3月期)41ページ
http://www.mitsuitrust-fg.co.jp/invest/pdf/yu_cmtb60.pdf

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転換社債(横浜銀行)[追記]

この横浜銀行の転換社債、ですが、ちょっと注意が必要なので追記します。
日経の記事だけ読むと、「横浜銀行、株価が20%上がって絶好調」とも読めますが、発行時の転換価格は525円だったのに、市場価格が20%下がったので転換価格の下方修正条項に従って転換価格を20%引きの420円に引き下げており、株価が回復して504円を上回ったということですから、実際には株価は「行って来い」で、もと(発行時の水準程度)に戻っただけです。
image002.gif
しかも、1×0.8×1.2=0.96ですので、一回大きく下がってまた株価が回復してくれば、当初の行使価格より4%株価が下落した水準でも買い戻しが可能になるわけです。
株式分割等が発生したために転換価格を修正したというなら株式の性質自体が変わってますので変更後の転換価格をベースにするというのはすんなり納得できますが、株価が1回下がってまた回復しても株式の中身は何も変わってないにも関わらず、コールオプションを発行者に行使されてしまうのは、なんとなく釈然としない気もするのではないでしょうか。
ただし、よく考えると、転換価格は20%下がってますので、転換して得られる株式数は当初想定された株式数の1.25倍になってます。つまり、株価が発行以来ずっと525円程度で横ばいの場合より、一度大きく下がってから今の価格に回復するほうが、転換社債権者としては得してます。
逆にいうと、新聞ではポジティブな感じで書いてありますが、株価はもとに戻っただけですし、横浜銀行は発行時の条件よりは株を多く発行しなければならず「損」することになります。また、記事を読むと、「120%コールオプション条項の条件にひっかかった」から「株式への転換が急速に進む公算が大きい」とも読めますが、償還期日が今年の9月に迫っているので、それまで株価が下方修正後の転換価格の420円以上で推移すれば、このコールオプション条項の適用がなくても、株式への転換は進むはずです。(このコールオプション条項の適用があったほうが、「急速に」進むのは間違いありませんが。)
(以上、ご参考まで。)

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転換社債(横浜銀行)

本日の日経朝刊は、いろいろおもしろい記事があるのですが、
(「個人投資家に株買いやすく」(3面、isologueバックナンバー投資単位の引き下げとボラティリティ参照)、「資産担保証券の市場整備」、「公的資金返済金融庁は複雑」、「市場外取引で免許交付(ほふりクリアリングに)」(以上7面)、「セプテーニ、トライコーンを子会社化」(16面 セプテーニ過去最大の買収とのこと)等)
横浜銀行の転換社債が、「120%コールオプション条項」がついていてちょっとヒネってあって面白いです。
CB全額株式転換へ 公的資金完済、前倒し視野」(7面)

横浜銀行は六日、転換社債(CB)六百億円を額面で繰り上げ償還できる権利が発生したことを明らかにした。投資家にとって額面償還は不利なため、株式への全額転換が急速に進む公算が大きい。転換後は自己資本比率が〇・九%程度上がる見通しで、財務面で余裕のできる同行が公的資金を今年度中に完済する可能性も出てきた。
 横浜銀は二〇〇一年十一月に六百億円のCBを発行。東証での株価の終値が転換価格(四百二十円)より二〇%高い価格(五百四円)を二十営業日連続で上回った場合に銀行の判断で繰り上げ償還できる権利(コールオプション)が発生する条項を盛り込んでいた。
 横浜銀株の終値は三月十日に五百五円を付けてから高水準を維持。二十営業日目に当たる六日も六百六十六円と基準値を上回り、権利行使条件を満たした。横浜銀が権利行使に踏み切る可能性を考慮すると、CBの保有者は額面(百円)での償還を待つよりも、転換価格の四百二十円で普通株に転換し、市場売却した方が有利になる。(以下略)

決議時の公告(平成13年11月1日)
http://ir.nikkei.co.jp/data/pdf/20011101/01110001.pdf
転換価額修正公告(平成15年7月28日:525円→420円)
http://ir.nikkei.co.jp/data/pdf/20030728/03070144.pdf
この公告、ホームページのプレスリリースでも、新聞の記事検索でもリリースされていないようですが、決議時の公告にあるように、この転換社債には120%コールオプションのほかに、株価が20日連続で転換価格を下回ると転換価格を最大20%まで引き下げるという条項もついていて、その適用を受けて転換価格を(ひそやか?に)引き下げていたんですね。
株価推移(Yahoo!Japan Finance)
http://quote.yahoo.co.jp/q?s=8332.t&d=c&k=c3&z=m&h=on
今回のリリース
http://www.boy.co.jp/topics/040406.pdf

平成13 年11 月16 日発行の株式会社横浜銀行120%コールオプション条項付第4 回無担保転換社債(転換価額下方修正条項および転換社債間限定同順位特約付)につきまして、管理委託契約証書第1条(7)号(ホ)に基づく120%コールオプション条項の要件が本日平成16年4 月6 日に充足され、今後当該転換社債の全部を額面100 円につき金100 円で繰上償還する権利が当行に生じたことをお知らせいたします。
当行が本条項に従って権利を行使する場合には、当該権利発生日より15 日以内かつ当該償還日に先立つ30 日以上60 日以下の期間内に必要な事項につき公告をおこなうこととなりますが、当行が当該権利を行使するか否かは現時点では未定であります。

(本日は、これにて。)

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今どきの社会科教科書

上の息子が小学校三年生になって教科書をもらってきたので、社会科の教科書(光村図書出版「社会3・4上」)を見せてもらったんですが、なんだか自分が小学校三年生の時に勉強したのとはだいぶ違う感じです。
まず、「わたしだけのたんけん・はっけん・けんきゅうノートを作ってみよう」ということで、仮説構築や調査計画の策定等を行わせ、街に出て仕事をしている人などに実地でヒアリングをさせたり。
また、
あいての気もちを考えて聞きましょう。
はじめに
「おいそがしいところすみません。○○小学校の3年の○○です。今、社会科の学習で○○○についてしらべています。お話を聞かせていただいてもよろしいですか。」

など、ヒアリングをする際のポイントを押さえさせたり。
スーパーマーケットだと「新せんさ」「しなものたくさん」「やすさ」「べんりさ」などの観点から、物流や顧客ニーズなどを学ぶ構成になってますし、最後には(PowerPointこそ使わないものの)プレゼンテーションにまで落とし込むところまでやります。
コンサルティングファーム即戦力って感じ。(笑)
私なんぞ社会人になってから新人研修で某スーパーでコンサルティング実習をさせてもらったりしましたが、今思えばいろいろ「あいての気もちを考え」ない質問をしてイヤな顔されたり、最終プレゼンでもよく知りもしないでいろいろ生意気なこと言ったりと、小学三年生以下のことをやってたんじゃないかとお恥ずかしい限り。
「今どきの若いやつは・・」と良く言いますが、「日本で一番長い川は?」てなことを詰め込まれてた世代よりは、よほどよくなるんじゃないでしょうか。
(全然関係ないですが、先週日曜日に息子とショートコースにいったら、ホールインワン出してたしなあ。(苦笑)
最近はインターネットやハードディスクビデオなど、ラーニングのためのツールもばっちりそろってますし、もうゴルフの知識でも全くかなわなくなってきました・・・。[単なる親バカ話でした・・・。])
(ではまた。)

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いらない会社の処分法

本日東証二部に上場した株式会社クリード(http://www.creed.co.jp/)が、日経朝刊29面の下のほうに(簡易)合併の公告を出しています。
最近、グループ会社の再編で合併する公告は珍しくないのですが、今回の公告がちょっと面白いのはその合併する会社の数。

当社(甲)は、平成16年3月23日開催の取締役会において平成16年6月1日を合併期日として、乙、丙、丁、戊、己、庚、申及び壬と合併することを決議し、平成16年3月23日に合併契約書を締結いたしました。(以下略)

ということで、つまり9社が同時に合併するわけです。(”甲”とか”乙”とかは普通ですが、”申”及び”壬”とかって、なかなか見かけませんよね。)
クリードの15年5月期の有価証券報告書
http://www.creed.co.jp/ir_jpn/whatsnew/S42.pdf
6ページ「関係会社の状況」によると、同社の連結子会社は25社、うち有限会社が14社(うち資本金300万円が13社)。
今回合併する子会社は8社。うち、資本金3000万円の株式会社が1社あるほかは、後の7社すべて資本金300万円の有限会社です。
これらの有限会社は、恐らく不動産のプリンシパルインベストメント用の「器(vehicle)」だったもので、不動産を売却した利益を「匿名組合契約」などで本体に吸い上げた後の(失礼な表現かもしれませんが)「抜け殻」というか「ポンカス」のペーパーカンパニーなのではないかと思われます。
前出の有価証券報告書の連結財務諸表の注記では、「1.連結の範囲に関する事項」で、

「なお、前連結会計年度において連結子会社でありました(有)○○・・・(計5社社名略)は、当連結会計年度に持分を処分したことにより子会社で無くなったため、連結の範囲から除外しております。」

(32ページ)
と書いてあり、(おそらくこれも「抜け殻」となったペーパーカンパニーの出資を誰かに引き取ってもらって)連結対象からはずしたものだと思われます。ただし、結局、その持分を受け取った人は、ペーパーカンパニーであっても帳簿を付けたり住民税の均等割額など払ったりでコストもかかりますし、まともに解散・清算手続きを踏むと、何度も登記をしたり裁判所に届け出たり公告をしたりと、事務手続きもたまったもんではありません。
また、従来は「額面の50円化(大昔)」「事後設立回避」「会社設立コスト・資金がいらない」等に利用するメリットがあったペーパーカンパニーも、昨今は「額面株式の廃止」「1円会社の登場」「事後設立の価格等証明で裁判所の検査役の選任が不要に」などで、価値が低下気味で、将来再転売できる可能性も低くなってきました。
平成9年商法改正で簡易合併(商法413条ノ3)の規定が導入され、合併に際して発行する株式が、発行済株式総数の5%以下の場合には、合併手続きが非常に簡単になりましたので、不要になった会社で(簿外負債等のリスクの無い)「得体の知れている」会社については、売却したり清算したりするより、(簡易)合併しちゃう方が事務手続きもはるかに簡単、ということで、今回は簡易合併を用いたものではないでしょうか。
(以上、私のjust推測ですので、ご注意ください。)
(本日はこれにて。)

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