47thさんから早速トラックバックいただきました。
信託型ライツ・プランは、「個人的にはあんまり好みではない」とのことですので、早く、47thさん「お好み」のプランを日本の法律の下で”実装”するとどんな感じになるのか知りたいなあ:-)、と思っております。(わくわく)
私も、当初、信託型に直感的に持っていた印象は、
・ 信託銀行を介在させないといけないので、(不動産流動化などで信託受益権を使う場合に発生する信託報酬やリーガルフィー等のオーダーから考えると)、結構コストが高くついちゃうのかなあ?、とか、
・ SPCや信託といった(会社と株主以外の)第三者が介在するので、税務上、ややこしいことになりそうだなあ、とか
いうような感じのものでした。
ただ、今回、2社のスキームを拝見させていただいて思ったのは、以下のような感想(印象)です。
まず第一に、日本だと、実務上、こうした株式に関する事務を行う事態になった場合には、何らかの形で証券代行(≒信託銀行)さんのお世話にならないといけないはずで、「ライツプラン(ポイズンピル)は実際に使われることはまずないはず」と言っても、いざ実際使うことになったら事務が破綻するということではそこがライツプランの弱点になりかねませんから、どのようなスキームを採るにせよ、あらかじめ信託銀行さんとかなり綿密な打ち合わせをしておく必要はあるはず。
めったにあることじゃない複雑なモノだけに、「バックアップサービサー」じゃないですが、少なくとも「有事」の際にそれなりの体制(お客様問い合わせ窓口等も含め)を展開できて、株主名簿との連携もうまく取れて、法務知識もあるアウトソース先というのは信託銀行さん以外に考えにくいわけで。
今年はドサクサなのでライツプラン関係のフィーが高騰してる・・・かどうかはさておき、ドサクサ的要因が落ち着いてくれば、信託型のスキームそれ自体にはそれほど高コスト要因は無いのかな、という気もしてきました。
第二に税務上も、(例えば「時価」をどう考えるかが読めないといった)不確実な部分はあるにせよ、「理論上」はそうしたいくつかの部分がクリアになれば、(当初危惧していたような)御無体な税金が当事者のだれかに課せられることはあまりなさそうだなあ、という感じもします。
ということで、「注:以下、本当に「即興」ですので、裏はとっていない点あしからず」とのことではありますが47thさんにコメントいただきましたので、私も脊髄反射的に、感じたことをコメントさせていただければと思います。(以下、太字の見出しは47thさんのもの。)
業法上の問題?
まず、考えられるのは銀行法と独占禁止法上の株式保有規制ですかね?
銀行法と独占禁止法で、確か銀行は5%を超えて事業会社の株式を保有できなかったはずで、仮に信託銀行がライツを自ら行使すると、ここへの抵触が問題となってきます。
もっとも、例外的に、受託者として保有している株式で、議決権行使について受益者の指図に従うこととなっているものであれば、この5%算定の枠の外になっていたと思うのですが、「一定基準日における不特定多数の株主」を受益者とするときにも、この例外が適用されるのか?、とか、受益者が特定できなかったり、諸事情で受益者への分配ができなかった株式はどうなるのか?、といったことを考えると、信託銀行が自ら行使するというのは難しいような気もします。
例えば、イー・アクセスさんのリリースの「信託契約の要項」によると、
3. 受益者
第一受益者:基準日現在の株主(ただし新株予約権の条件に従い新株予約権を行使できない特定株式保有者等は除く)基準日は、特定株式保有者が出現したことを会社が公表した後に設定し、公表する。
第二受益者:委託者
とあって、SPCが「第二受益者」というのになっているようです。
信託銀行が信託に基づいて自ら行使するのではなくて、SPCが指図して行使させれば、問題ないような気もするのですが。(←裏取りなし。)
投信法との関係
もう一つすぐに思いつくのは、投信法との関係です。信託に行使価額相当額の金銭を委託して、これが行使価額の払い込みに充当されると、投信法にいう投資信託に該当する可能性が出てくるような気がします。
このリスクそのものは、新株予約権という金銭以外の財産を信託するSPC型ではない直接型にもあって、直接型について、一応お墨付きが出ていることからすれば、程度問題という側面もあるのでしょうが、厳密にいうと別の種類のリスクということになってくるような気がします。
ヨーロッパでは、「信託」は十字軍以来の(「法人」より長い)伝統があるとかで、頼めばなんでもやってくれそうなオーラを醸し出していますが、日本だと(昨年改正されたとはいえ)まだいろいろ使いにくいんでしょうか。
SPCが行使価格相当の(少額の)キャッシュを持っていて、有事の際にはSPCが信託勘定に振り込んで行使を指図するというのでも信託法に引っかかっちゃうでしょうか。
開示規制?
理屈の上では信託型の場合には、一般株主に分配するものとして受益権(指図権)、新株予約権、株式という3つがあるのでしょうが、株式の分配の場合は証取法上の売出し規制との関係を考える必要があるように思います。
これは、本当は新株予約権自体の分配のときにも同じなのですが、発行価額と行使価額の合計が1億円未満に抑えていると違う状況になるのかも知れません。(実は昔考えたときには、行使価額1円というのは、余り考えていなかったので、この点は詰めて考えたことがありません)
「時価」ベースでいくと新株予約権をタダで配るのも株式をタダで配るのも同じような気がしてましたが、「売出し」の定義である「50名以上の者を相手方として、均一の条件で、既に発行された有価証券の売付けの申込み又はその買付けの申込みの勧誘を行う場合」というのを字面どおりに解釈すると、一方的にタダで新株予約権や株式をあげちゃう行為は「売り付け」でも「勧誘」でもない気もします。
「信託勘定の中」で第二受益者から第一受益者に経済的価値がやりとりされたのか、SPCから株主に「証券の譲渡」が行われたと見るのか、というのも信託のミステリアスな部分ですね。
手残株の処理?
机の上では、信託銀行が株式を引き受けるといっても、それは一時的なことで、最終的には全て一般株主に分配されることになる「はず」です。
しかし、実際には名義書換失念株、所在不明株主、外国株主etc・・・で、信託銀行の手許に株式が残ってしまう可能性があります。
この場合の手残株をどう処理するかというところで、自己新株予約権の取得や消却と違って、相対による自己株式の取得については会社法上厳しい手続的規制がかかってしまいます。
というわけで、株式の場合「残ったから消してしまいましょう」というわけにはいかず、手残り株の処理やその間の議決権や配当受領権の処置という困難な問題が残ってくることになりそうです。
逆に、前回述べたように、何かの理由(長期に不在にしていた、郵便物が書類の山に埋まっていた、病気になってどたばたしていてそれどころじゃなかった、等)で期間内に新株予約権を行使できなかった一般株主がいたとした場合、(買収者だけでなく)その人にも非常に大きな損失が発生しちゃいますが、すでに株式が発行されていれば、そうした人の救済もしやすいのかなあ、と思ったりもしました。
税務上のインプリケーションの違い?
最後に、これは本当に直感的なものなのですが、信託レベルで行使する場合には、莫大な額の行使益が一時的に認識されるわけです。磯崎さんは、すぐに無償分配すれば、損金で相殺できると仰るのですが、寄附金認定されてしまうと益だけが残ってしまう形になってしまうような気がします。ただ、この問題は、新株予約権の場合にも同様の問題は生じ得るので、理論的に見れば、程度問題なのですが、市場価格のついている株式と、一義的な時価算定の困難な新株予約権では実務的なリスクは変わってくるような気もします。
この点は、先日の国税庁の自民党向けの資料において、
契約条件によりSPCに寄附金課税は生じない。(注:�[行使時]の時点の時価と�[付与時]の時点の時価との差額が譲渡損益と認識されるとともに、�[行使時]の時点の時価が費用・損失と認識されることから、結果として、�[付与時]の時点の受贈益に見合う費用・損失が生ずる。)
と書いてあるので、今のところ寄付金課税する気はなさそうだな、と安心しておりました。
「信託導管理論」的にいくと、
(信託財産に係る収入及び支出の帰属)
法人税法第十二条
信託財産に帰せられる収入及び支出については、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める者がその信託財産を有するものとみなして、この法律の規定を適用する。ただし、合同運用信託、投資信託、特定目的信託、(中略)に帰せられる収入及び支出については、この限りでない。
一 受益者が特定している場合 その受益者
二 受益者が特定していない場合又は存在していない場合 その信託財産に係る信託の委託者
(中略)
4 第一項の場合において、受益者が特定しているかどうか又は存在しているかどうかの判定に関し必要な事項は、政令で定める。(信託財産に係る収入及び支出の帰属)
法人税法施行令第十五条
(1、略)
2 法第十二条第一項の場合において、受益者が特定しているかどうか又は存在しているかどうかの判定は、同項に規定する信託財産に係る収入及び支出があつた時の現況による。(信託財産に係る収入及び支出の帰属)
所得税法第十三条(略、法人税法と同様)
ということで、信託契約で、「いつ(行使時か、交付時か)」受益者が確定すると設計するかで、課税関係も変わってくるのかなと考えたり。
(まとまりませんが、今回はこれにて。)
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