TOBと事後設立

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「経営・会計通信」のKrpさんからトラックバックをいただきました。
「少数株主を追い出す」http://krp.web.infoseek.co.jp/mt/archives/000103.html
「最近見つけた磯崎哲也事務所さんのblogは、私にとっては非常に参考になります。」
と言っていただいております。ありがとうございます。
krpさんの経営・会計通信もちょっと前に発見して、今回、全部目を通させていただきましたが、非常に参考になります。今後ともよろしくお願いいたします。<(_ _)>
ちなみに、最近よく、「TOBの際に新設の株式会社・有限会社をSPC(特別目的会社)にして公開株を取得する場合、商法上の事後設立(商法246条)に該当するのか?」という質問をよく受けます。
これを法的にどう解釈すればいいのでしょうか、という問題ですが。私、弁護士でもないのであくまで個人的意見ですが、以下、krpさんが「少数株主を追い出す(続き)」で引用されていたEDINETのロキテクノのMBO関連の臨時報告書をベースに検討してみたいと思います。
(ちなみに、該当するリンクを直接クリックしても表示されず、EDINETのトップページhttp://info.edinet.go.jp/EdiHtml/main.htm)から辿らないと表示されないみたいです。(→「ENTERボタン」→「内国会社」→「50音で”ロ”」→「ロキテクノ」→2003/7/22の「臨時報告書」))
事後設立は商法の条文では、
商法246条�
第二百四十五条第一項ノ規定ハ会社ガ其ノ成立後二年内ニ其ノ成立前ヨリ存在スル財産ニシテ営業ノ為ニ継続シテ使用スベキモノヲ資本ノ二十分ノ一以上ニ当ル対価ヲ以テ取得スル契約ヲ為ス場合ニ之ヲ準用ス」
商法173条�
「前項ノ規定ハ左ノ各号ニ掲グル場合ニ於テハ其ノ各号ニ定ムル事項ニ付テハ之ヲ適用セズ
一 (略)
二 第百六十八条第一項第五号又ハ第六号ノ財産ガ取引所ノ相場アル有価証券ナル場合ニ於テ定款ニ定メタル価格ガ其ノ相場ヲ超エザル場合 其ノ財産ニ係ル同項第五号又ハ第六号ニ掲グル事項」

となっておりますので、
(1) 会社が成立後2年以内であること
(2) 成立前より存在する財産を取得すること
(3) その財産は営業のために継続して使用すべきものであること
(4) 資本の5%以上にあたる対価であること
が要件となっており、以上の要件にあてはまらなければそもそも事後設立に該当せず、裁判所の検査役、または弁護士・公認会計士等の証明は不要。また、商法173条�の、
(5) 取引所の相場のある株式が価格を超えない
場合には、事後設立には該当するものの証明は不要、ということになります。
一般的にTOBのアドバイザー等の方々の間では、「こうした新設会社での取得は事後設立に該当するので、2年以上経過した休眠会社を探してこなければならない」というのが通説であり実務になっているようなんですが、適当な休眠会社が見つからない場合や、デューデリ(買収調査)にかける時間が足りない場合もあるでしょうし、簿外負債等のリスクもあるので、できれば新設の法人のほうがいいに決まってます。ということで、「事後設立に該当する」というのは、どういう根拠にもとづくものなのかを検討してみたいと思います。
新設会社だと、「(1) 会社が成立後2年以内」ですし、TOBの場合には借入金でレバレッジをかけることもあって、「(4) 資本の5%の対価」にはとても納まらないです。
ただし、「(2) 成立前より存在する財産」「(3) その財産は営業のために継続して使用すべきものであること」についてはどうでしょうか。
「(3) その財産は営業のために継続して使用すべきものであること」は、一般的には「固定資産」的なものを指すとされ、商品などには適用されないと考えられます。(でないと、会社成立後に生産した商品しか仕入れられず、商売になりまへんがな。古物商も新設法人ではできないことになります。売るつもりで仕入れた1000万円の九谷焼の壷が3年間売れなかったとしても、「継続して持っていたから事後設立だ、商法違反だ。」ということにもならないでしょう。商品は、物によって回転の速いものもあれば遅いものもあります。)
このロキテクノの臨時報告書を見てみると、ロキテクノの完全親会社として設立する会社の定款の目的が「次の事業を営む会社の株式を所有することにより、当該会社の事業活動を支配、管理することを目的とする。」と通常の持株会社と同様の「長期保有」っぽい書き方になっているので、SPCの方の目的も同じような書き方になっているとすると事後設立に該当しちゃうかなあという感じもします。しかし、はじめから株式の売買(投資業務)を会社の目的とし、貸借対照表上も取得した株式を「子会社株式」(固定資産)ではなく、「商品」として「営業投資有価証券」(棚卸資産)に計上すれば、事後設立には該当しない気がします。
ベンチャーキャピタルの会計においては、たとえ投資した会社の株式を50%超保有することになったとしても、それが営業の目的を達成するためであり、傘下に入れることが目的で行われていないことが明らかにされたときには、子会社に該当しないこととし、連結もされません。(会計制度委員会「金融商品会計に関するQ&A」Q71、「連結財務諸表における子会社及び関連会社の範囲の決定に関する監査上の取扱い(監査委員会報告第60号)2(6)�等参照)(もちろん、子会社の範囲と事後設立の範囲が一致するとも限らないのですが。)
このSPC、通常の持株会社というよりは、ベンチャーキャピタルと同様の性質を持っていますよね?
また、このロキテクノ等のスキームをもう一ひねりして、例えば完全親会社を作った後にもう一段ロキテクノが株式移転で完全親会社を作ってその株式をSPCに譲渡したらどうでしょうか?その株式はSPCが設立された後に「製造(?)」されたものなので、「(2) 成立前より存在する財産」にもあてはまらない気がしますが。
ちなみに、TOBの場合、相場の時価に10%とか20%プレミアムを付けて買い付けることが多いので、上述の「(5) 取引所の相場のある株式が価格を超えない」というケースにも該当しない場合が大半でしょう。弁護士・会計士等が価格の証明をすれば裁判所の検査役も必要ないのですが、曲がりなりにも市場で価格が形成されているものに対して、その10%とか20%上の価格が適正価格ですというロジックを組むのは非常に大変そうです。(もちろん、TOBをかける方は、10%とか20%プレミアムを乗せても、さらに儲かる可能性が高いと考えているわけですから、証明できる可能性はあると思います。)
長くなりましたが、以上のように考えると、新設法人をSPCに使ったTOBというのが事後設立に該当するとは法律上は必ずしもいえないと思うのですがどうでしょうか。何かそうしなければならない判例その他の事情があるのでしょうか?
(いろいろ他にもおもしろい点はあるのですが、本日はこれにて。)

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One thought on “TOBと事後設立

  1. 少数株主を追い出す(完)

    磯崎哲也さんのblogに刺激を受けて書き始めた「少数株主を追い出す」方法シリーズですが、磯崎さんご自身からもトラックバックを頂き、過分なお言葉も頂戴しております。さらに、磯崎さんからは私がEDINETに張ったリンクがリンク切れの点もご指摘頂きました。早…