特許関連サイト(これはすごい)

特許について調べていたら、以下のホームページを発見しました。
「B-Files」
http://b-files.hp.infoseek.co.jp/
Yahoo!の特許のカテゴリー(トップ>政治>法>知的財産権>特許)のトップにも掲載されているので、その筋では超有名なのだと思いますが、不勉強で存じませんでした。
特に、「電波系」「めばえ系」「文学系」のあたりに掲載されている特許は秀逸です。ひさびさに腹を抱えて大爆笑。([ある意味]勉強にもなりますが、爆笑したり脱力したりする可能性があるので、お仕事中に読むのはあまりお勧めしません。:-)
「特許」と「ベンチャー」は、ある意味似てるなと思いました。「ベンチャー」も多くは真面目にやっていて可能性もあるものですが、本人は大真面目で一見してもよくわからないが実は成立しない話ということもよくあります。「大儲け」を期待しているけど、実際にそうなるものはほんの一握り、というところも同じ。
今後、新興市場やグリーンシートなどに公開される企業が増えて裾野が広がることはもちろんいいことですが、「電波の香り」のする企業も必然的に増えることになりますので要注意ですね。
(ではまた。)

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ストックオプション費用計上

昨日(4月2日)の日経9面に「ストックオプション費用計上 米、義務化巡り深まる対立」という記事が載ってます。
米国の財務会計基準審議会(FASB)が、従業員向けのストックオプションの費用計上を2005年から義務化する公開草案を発表して産業界等からは反発されている、国際会計基準審議会の方向性とも一致する、というような内容です。(日経には「国際会計基準理事会」とありますが、「審議会」の方が日本語訳としては一般的かと思います。)
中でも、以下の部分は注目。
「従業員向けストックオプションは市場で自由に売買できないため、公正価値の評価方法が確立されていない。FASBは今回、これまで使われてきた「ブラック・ショールズ・モデル」に代わり、「格子モデル」という手法を採用するよう促している。様々な条件を考慮できる利点があるが、大量で細かい計算が必要で、より複雑な作業になるとされる。」
「格子モデル(lattice model)」は、「Aの場合、Bの場合・・」というように二項(以上)のツリー(それが格子(lattice)に見える)を作っていって価値を計算する、(ヨーロピアン・オプションだけでなくアメリカン・オプションやその他のエキゾティックなオプションなどの)オプション・バリューの計算やリアル・オプションなどの計算に用いられる手法です。
数年前までは、「会計」というと基本的には「足し算、引き算」の世界のお話だったのですが、例えば退職給付会計や減損会計などで、ディスカウント・キャッシュフロー(DCF)法などの考え方が盛り込まれてきて、(1+r)のn乗といった「掛け算、割り算」の”才能”が要求されるようになってきました。さらにストックオプションでは、σ(分散)とか平方根とかの理解を超えて、ケース別の(Excelなどでの)シミュレーションが求められてくるということになるという流れになってきたわけですね。
退職給付とか減損会計などは大企業では問題になるけど成長過程のベンチャー企業には当てはまらないケースが大半であったわけですが、ストックオプションとなるとベンチャー企業にもバリバリに関係してきます。
なかなか大変な時代になってきました。
(本日はこれにて。)
参考URL等:
Share-Based Payment—an amendment of Statements No. 123 and 95 (Proposed Statement of Financial Accounting Standards)(FASB)
http://www.fasb.org/draft/ed_intropg_share-based_payment.shtml
Fair Value Measurement(ページii)Issue 4(b):
Some constituents assert that the fair value of employee share options cannot be measured with sufficient reliability for recognition in the financial statements.
In making that assertion, they note that the Black-Scholes-Merton formula and similar closed-form models do not produce reasonable estimates of the fair value because they do not adequately take into account the unique characteristics of employee share options.
For the reasons described in paragraphs C21-C25, the Board concluded that fair value can be measured with an option-pricing model with sufficient reliability. Board members agree, however, that closed-form models may not necessarily be the best available technique for estimating the fair value of employee share options—they believe that a lattice model (as defined in paragraph E1) is preferable because it offers the greater flexibility needed to reflect the unique characteristics of employee share options and similar instruments.
However, for the reasons noted in paragraph C24, the Board decided not to require the use of a lattice model at this time.

Appendix E GLOSSARY
http://www.fasb.org/draft/ed_sbp_appe.pdf
Lattice model
A model that produces an estimated fair value based on the assumed changes in prices of a financial instrument over successive periods of time. The binomial model is an example of a lattice model. In each time period, the model assumes that at least two price movements are possible. The lattice represents the evolution of the value of either a financial instrument or a market variable for the purpose of valuing a financial instrument. In this context, a lattice model is based on risk-neutral valuation and a contingent claims framework. (Refer to the definition of closed-form model for an explanation of the terms risk-neutral valuation and contingent claims framework.)

Exposure Draft ED 2 SHARE-BASED PAYMENT (IASB)
http://www.iasb.org/uploaded_files/documents/8_38_ed2.pdf

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企業買収対抗方法の「特許」

昨日のスクイーズ・アウトに関連してwebを調べていたら、驚いたことに、特許庁の特許電子図書館(IPDL)(http://www.jpo.go.jp/shiryou/ipdl/ipdl_a.htm)で検索すると、以下のように企業防衛の方法についての特許出願があります。
【出願人】クデールブラザーズ・エルエルピー
【発明者】アーサー・エム・ミッチェル、斎藤 輝夫、田子 真也
【弁理士】生田 哲郎、外1名
1. 特許公開2003-196481 株主保護プラン
2. 特許公開2003-174800 株主保護プラン
3. 特許公開2003-164200 株主保護プラン
「本件発明は会社株主の権利を保護する装置または方法に関するものであり、特に少数株主の利益を保護するためのものである。本件発明の一つの具体化として日本法の下で設立された株式会社によって利用されるポイズン・ピルを提供する。」
ポイズン・ピルというのは、敵対的な企業買収があったときに敵対的な株主の株式の価値を相対的に落とすなどして対抗する手段のことです。特許なので「装置または方法」と言ってますが、中を読ませていただくとほとんど商法のお話で、買収に対抗するために、新株予約権を発行する等の内容です。
そうしたものに特許性があるのかどうかという話はさておき、米国での買収の事例や日本の商法の通説と米国法との違いの話などが展開されていて、中身は非常におもしろく具体的で勉強になりますので、ご興味のある方は特許庁のHPで中身をお読みください。
(ではまた。)

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株主を追い出す(スクイーズ・アウト)

本日のお題は、TOBして100%子会社化を計ろうとしたけどTOBに応じない株主が仮に残っちゃった場合にはどうやって出て行っていただこうか、というお話です。
本日、JASDAQ公開のサロモン アンド テーラーメイド株式会社のTOB(公開買付)の公告が日経に載っています。昨日の終値950円より約26%高い1株1,200円で公開している株式すべてを買い付けて上場廃止にする予定とのことで、これをお手本にさせていただきますが、まず、公告の「1.公開買付けの目的」によると、

公開買付者(注:フランス法人サロモン エス・アー)は、本公開買付けにおける目的がアディダス・サロモングループにおける戦略的経営の実現の一環として対象会社を公開買付者の100%子会社とすることにあることから、本公開買付けにより対象会社の発行済普通株式の100%を取得するに至らない場合であっても、引き続き対象会社の100%子会社化に伴う組織再編を進めていく予定です。

ということで「既存の株主は全員出て行っていただきます。(決意は固いよ。)」というところを示しつつ、以下のようなスキームで株主を「追い出す」ことを想定しています。
まず、現状は、こういった株主構成になってるわけですが、
image002.gif
これをTOBして、全一般株主が応じればそこで100%子会社化完了です。
株主がちょっと残ってしまうとこういう形になるわけですけど、
image004.gif
ここで、以下のように「株式移転」(商法364条)を行います。

この関係で、公開買付者は、本公開買付けの実施後、株式移転により対象会社の全株式を所有する完全親会社を設立し、

で、こうなるわけですが、
image006.gif

完全親会社をアディダス・サロモングループの他の100%子会社に吸収合併させることを検討しています。

ということで、さらに、こうなります。
image008.gif

この場合、株式移転により、それまでの対象会社の株式は完全親会社に移転し、対象会社の株主に対しては特定の移転比率に応じた完全親会社の株式が割り当てられ、従来の対象会社の株主は完全親会社の株主となります。株式移転が行われた場合には、日本証券業協会の店頭売買有価証券の登録等に関する規則に従って対象会社の株券は店頭登録が取り消され、対象会社の株式は株式店頭市場において取引ができなくなり、これを将来売却することが困難になることが予想されます。
なお、公開買付者は、完全親会社の株式を店頭登録又は上場することを検討しておりません。

ということで、「TOBに応じなかった場合は、どうにもなりまへんで。」と言っておいて、トドメで、

また、その後の合併において、完全親会社の株主で存続会社の株式の1株未満を割り当てられる株主には、商法の規定に従って金銭が交付されることになります。この場合に交付される当該金銭の額は、本公開買付けにおける買付価格と異なる可能性があります。

といってます。
(ここが最大のポイントですが)、サロモン アンド テーラーメイドの現在の発行済株式数は15,510,000株ですが、例えば、残った最大の株主が10,000株保有しているとし、株式移転でも同じ株数だけ株式が発行されて、合併する他の100%子会社が155株しか発行していなくて、被合併会社の株式10万株に対して合併会社の株式1株が割り当てる吸収合併を行うとすると、合併後の会社の株式数は155+155=310株で、残った最大の株主の株式は0.1株分の「端株」になってしまいます。
この端株を金銭で買い取ってしまい、100%子会社化を達成しようということだと考えられます。
こういうのを「squeeze out (merger)」といいます。
image010.gif
(本日はこのへんで。)
参考URL等
「会社法制の現代化に関する要綱試案」に対する意見(経済産業省)
http://www.meti.go.jp/topic/downloadfiles/e40106bj.pdf

我が国経済の活性化には企業再生ファンド等による再生は非常に重要であるためある株主(支配株主)が少数株主に対し株式の売り渡しを請求できる権利を認める制度(スクイーズ・アウト)を設けるべきである。

「デットとエクイティに関する法原理についての研究会」報告書(日本銀行金融研究所)
http://www.imes.boj.or.jp/japanese/kinyu/2001/kk20-3-1.pdf

株主間の利害対立に関する典型的な問題としては、「多数派株主が、株主総会における議決権等法律上与えられた権限を利用して、少数派株主を会社から追い出す」という、いわゆるスクイーズ・アウト(squeeze-out)と呼ばれる問題がある。

「世界から見た日本のプライベートエクイティ」ウォーバーグ・ピンカス・ジャパン マネージングディレクター深川哲也氏 (独立行政法人経済産業研究所)
http://www.rieti.go.jp/jp/events/bbl/03061301.html

第4に、少数株主の扱いです。米国の場合ですと、スクイーズ・アウトといって、対価をキャッシュで払って強制的に買い取れますが、日本ではできません。日本では、株の単位を大きくしていって、端株扱いにしてしまうという姑息な手段が使われたりします。

高崎経済大学論集結合企業と代表訴訟(2・完)山田泰弘
http://www1.tcue.ac.jp/home1/k-gakkai/ronsyuu/ronsyuukeisai/45-3/yamada.PDF

また、結合企業の形成と解消を一度に行うことも、その合法性に問題があるものの、実務上行われ、ジャパニーズ・スクィーズ・アウトと呼ばれているようである。ジャパニーズ・スクィーズ・アウトとは、企業買収において、買収対象会社の総議決権数の3分の2を取得した後、買収対象会社につき株式交換・株式移転を行い、新たに買収対象会社の親会社となった会社から、対象会社の株式を100%譲り受けた後に、親会社を清算してしまう方法をいう。

合併等に際し1株未満の株式の譲渡代金を被合併法人等の株主等に交付した場合の適格合併等の判定(国税庁)
http://www.nta.go.jp/category/tutatu/sonota/houzin/1053/01/1_4_2.htm
(端株主にお金を支払っても適格合併に該当しなくなることはない、という内容。)

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投資単位の引き下げとボラティリティ

昨年末はライブドアの100分割が話題になりましたが、本日は投資単位の引き下げについて。
平成13年9月に、「株式投資単位の引き下げ促進に向けたアクション・プログラム」が発表され、全ての上場企業はその投資単位を時価ベースで50万円未満とするよう努めることとされ、その後、各証券取引所等の規定の中でも、そうした努力義務が盛り込まれています。
実際に株式分割等を行うと、市場はそれを好感して株価が上がることが多いですが、株価でなくボラティリティ(変動率)にはどういう影響を与えるのでしょうか。
ちょっと古いですが、昨日webでちょっとおもしろい論文を見つけました。
株式投資単位の引き下げがボラティリティに与える影響
奥山 英司 星野 真智子
http://home.hiroshima-u.ac.jp/jea2002/okuyama.pdf
要旨:
東京証券取引所に上場する41 銘柄の株式について,株式売買単位の変更(くくり直し)が,株式収益率のボラティリティに与える影響について分析を行った.

というものですが、この論文では、分析対象について、
「株式分割は発行株式数が変化するため,株価自体に影響を与える.さらに日本の企業は,株式分割後も配当を据え置く例が多く,実質的な増配が行われる.従って,株式分割後の正確な株価を計算するのが非常に困難であり,それによるボラティリティの増大が予想される.
一方でくくり直しに関しては,売買単位を引き下げるだけで,株式自体の性質を変えることはない.さらに,株式分割を行った株式よりもくくり直しを行った株式の方がはるかに多い.従って,くくり直しが行われた株式を分析対象とすることは,多くのサンプルに基づいて,個人投資家の参入が容易になった影響を分析することが可能であると期待される.」

ということで、純粋に投資単位変更の影響を分析するために、株式分割の事例は除いて、単元株の引き下げ(くくり直し)の事例のみを扱っています。
結論として、
くくり直しを行った銘柄のボラティリティは,多くの場合くくり直し前後で有意には変化が見られなかった.
しかし,TOPIX を用いた市場全体のボラティリティの変化と比較すると,1999 年度以前にくくり直しを行った銘柄ではボラティリティが増大する傾向にあるものの,2000 年度にくくり直しを行った銘柄ではボラティリティが低下していた.
このような違いは,1999 年10 月の株式売買委託手数料完全自由化や,それに伴うインターネット等を活用した低料金の取引機会の拡大が影響しているのではないかと思われる.全国証券取引所や日本証券業協会が推進している個人投資家の株式市場参入拡大は,現時点では株式市場の安定化をもたらす方向に作用していると考えられる.

としています。つまり、オンライン証券でデイトレーダーなどの個人投資家の売買が活発化することにより、価格変動がより激しくなってるんじゃないかというギワクがあるわけですが、データを見るとそうした個人投資家の活発な売買は逆にボラティリティを低下させており、価格形成を滑らかにする「潤滑油」の効果を果たしていると言えるのではないか、ということですね。
おもしろいですね。データがちょっと古いので、最新の研究があったらぜひ拝見したいところです。
(以下、参考URL、条文)
投資単位の引き下げと単元株制度導入の動向(あずさ監査法人2002.02)
http://www.azsa.or.jp/b_info/ipo/200202/ipo_200202_02.html
商法第221条(単元株制度)
 会社ハ定款ヲ以テ一定ノ数ノ株式ヲ以テ一単元ノ株式トスル旨ヲ定ムルコトヲ得但シ一単元ノ株式ノ数ハ千及発行済株式ノ総数ノ二百分ノ一ニ当ル数ヲ超ユルコトヲ得ズ
� 一単元ノ株式ノ数ヲ減少シ又ハ其ノ数ノ定ヲ廃止スル場合ニ於テハ第三百四十二条ノ規定ニ拘ラズ取締役会ノ決議ヲ以テ定款ノ変更ヲ為スコトヲ得
(以下略)

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投資サービスと規制

金融や商法などの領域でご活躍の神田秀樹 東京大学教授が、本日の日経朝刊31面の経済教室で「投資サービス法の整備を 横断的ルール必要」というテーマで書かれてます。
要旨:

ラーメンファンド、ワインファンドなどの多様な投資商品の登場は歓迎すべきだが、今のままでは詐欺的な商品が出てくる危険性もある。
証券取引法の規定する有価証券の範囲は狭すぎてこうした新商品を取り締まるのには向かない。
また、例えばベンチャーキャピタル業界等がファンドへの投資を証取法上の有価証券とすることが規制強化であるとして反対してきたように、へたな規制をすると新しい芽を摘んでしまいかねない。
米国では幅広い「投資契約」について規制。英国でも銀行や保険も含めた横断的な金融サービス法に改組されている。
これを取り締まる「日本版SEC」などの「番人」の強化も必要。

「誰がベンチャーを助けてくれるの?」日本の未公開株市場の構造にも書きましたが、以前、金融庁に問い合わせたところ、「うちは証券会社での公開株の取引を取り締まる担当はいますが、未公開株の取引とか証券会社以外の法人が行う募集とかを取り締まる担当ってちょっといないんですよねー。」というお話でした。
先日も、怪しげなDMが届きまして。
「当社は証券会社ではありません。上場を予定している企業の第三者割当のサポートをしています。」と、ある未公開企業の第三者割当増資の概要を付け公開益を匂わせた上で、「先に申込証拠金を振り込んだ人には、詳細を送ります。」という明らかに証取法違反の内容でした。つまり、どう見ても証券会社以外による募集に該当しますし、50名以上に送られているDMだとすると公募にも該当するかと思いますが、証取法上の目論見書に相当するような財務のデータ等は何も添付されていません。
単に証取法違反ということではなく、恐らく、オレオレ詐欺とか請求書詐欺の変形版の可能性が高いと思われます。
こうしたマージナルな金融サービスについて、「(資本金○円以上の)証券会社じゃなきゃできない」というような参入障壁については低くすることを検討すべきだと思いますが、一定のルールを設定し、かつ、そういう「怪しげな(というか明らかに法律違反の)」業者は取り締まるという運用にしないと、善意で活動している真面目なベンチャーやベンチャーのサポーターが割を食うことになってしまいます。
神田先生のご提言に基本的に大賛成。
(以上)

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ベンチャーこそ委員会等設置会社

本日(3月29日)日経25面で、「米企業、消える”会長兼CEO”」という記事があり、インテルのアンディ・グローブ会長のコメントも載ってますということで、本日は「ガバナンス」に関して。
日本でも米国型のボードシステムである委員会等設置会社が平成14年の商法改正で登場し、すでに、ソニーや日立製作所、オリックスといった企業が採用しています。ただ、大半の人は、「委員会等設置会社は、そういった超大企業向けのガバナンスのシステムで、うちの会社には関係ないよ」という感じをお持ちではないでしょうか。
今回は、あえて「ベンチャーこそ委員会等設置会社を検討してみたら?」という提言をしたいと思います。
(ここでいうベンチャー企業とは、中堅中小企業であるかどうかという規模の問題ではなく、株式公開またはM&Aにより投資家に株式の売却(exit)の機会を与えようとすることにより株式で資金調達をし成長をしていこうとする会社のことを指すこととします。)
ベンチャー企業は、
1.ベンチャーキャピタル等から投資を受けていることが多く、社外取締役を置いていることが多い。
2.2億円以上資金を調達している有望なベンチャーであれば、商法上の「中会社(資本金1億円超)」ですし、10億円以上調達していれば確実に「大会社(資本金5億円以上)」になります。(「株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律」第1条の2等)
商法上の中会社になると、監査役の責任は会計に関する監査だけでなく業務監査にも及び、非常に大きくなります。大会社になると監査役の会計に関する監査責任はぐっと軽減されますが、代わりに監査法人等に会計監査を依頼しなくてはいけないことになります。
委員会等設置会社で注意が必要な点としては、監査法人等の監査を受けなければならない点と、社外取締役を置かなくてはならない点ですが、ベンチャー企業はいずれにせよその両方ともすでにやっていることが多い。委員会等設置会社のメリットとしては、監査役を置けない(置かなくていい)ということがあります。
特に商法上の大会社では「常勤」の監査役が求められるのでそのコストが確実に発生しますし、2人以上社外監査役をおかないといけません。最低でも取締役3人+監査役3人の非常に大掛かりな役員構成が要求されます。
委員会等設置会社の場合、最低取締役3人(最低2人以上は社外取締役)が要求されるだけですので、ベンチャーの成長のステージに応じた最適な人数で役員会を構成することができます。
監査委員会、報酬委員会、指名委員会の3つの委員会を作る必要がありますが、そのために膨大な規程類を作成しないといけないというわけではありませんし、行うことも基本的には今までの取締役会や監査役の機能と重複しています。開催も、取締役会と合わせてやればいいわけですし、メンバーも重複していいので、従来やっていた取締役会よりも負担が増えるということは(予想に反して)あまりないといえます。
問題は、こうした仕組みで会社がうまく運営ができるのか、社外の人が多いと社長の思ったとおりの会社運営がしづらくなるのではないか、はたしてこうしたしくみでガバナンスがうまくできるのか、というようなことになりますが、これについて詳しくはまたの機会に。
基本的には、かなりうまくいくし、ガバナンスとしてもプラスになるのではないかと考えています。
とりあえず、本日は、このへんで。

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特許権侵害と鑑定人

青色ダイオードの中村氏の訴訟に代表されるように、特許権に関わる訴訟はこれからますますホットになると考えられます。特許権侵害による損害額の計算などは財務諸表や帳簿を見る力が要求されるなど、なかなか弁護士や裁判官だけでは厳しいということで、平成11年の特許法改正で計算鑑定人制度(特許法第105条の2)が導入され、最近、この鑑定人選定について最高裁判所から公認会計士協会に協力依頼があったそうで、昨日はその研修に出席してました。
その中で、一点だけ。(以下、特許法の計算鑑定人に限らない民事訴訟法上の一般論ですが、)
鑑定人になるのは「学識経験者」の(権利ではなく)「義務」なんですね。
民事訴訟法(第四節 鑑定)
第212条(鑑定義務)
鑑定に必要な学識経験を有する者は、鑑定をする義務を負う。(以下略)

つまり、世の中「裁判所に関わるなんてことは一生なさそう」と思っている人が大半だと思いますが、「真面目に生きてる一般の人」でも何か学識経験がある人が裁判所から指名された場合には、鑑定をしなければならない義務がある(つまり「ちょっと忙しいので」「私の趣味じゃないので」というような理由では断れない)、ということですね。陪審員制度と同じような「国民の義務」ということです。
また、裁判所と鑑定人の関係は、双方の合意に基づく「契約」ではなく、裁判所から国民に対する一方的な「命令」に基づくものということになります。
実際にあるかどうかはおいといて、例えば、
「人工心臓弁の特許侵害に関して、心臓手術に詳しい開業医が鑑定人に指名される」
というようなことはもちろん、
「ソーシャル・ネットワーキングのビジネスモデル特許訴訟に関して、ソーシャル・ネットワーキングの日本での第一人者のネット系ベンチャーの社員が東京地裁から鑑定人に指名される」
とか、
「美少女フィギュアの意匠権侵害に関して、その分野についてチョー詳しいアキバ系オタクのA君が指名された」
というようなことも、法律上は可能性があるということですね。
計算鑑定人などは比較的代替性が高いと思われるので、裁判所から高圧的に命令を受けてイヤイヤ鑑定人になるというわけではなく、時間単価や作業に要する時間などを見積もって合意の上鑑定人になるプロセスを踏むようですが、非常にマニアックな分野で他に代わる人がいないような場合には、より「命令」に近い形でフツーの(オタクな)人などに鑑定人のお鉢が回ってくる可能性もあるということで。
(ではでは。)

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銀行が株式公開助言

じりじり間合いをつめて来てますねー。本日の一番の注目記事ですね。
銀行が株式公開助言、金融庁、付随業務に認める。3/27, 日経朝刊5ページ
 金融庁は銀行に対し、取引先の企業に株式公開を助言したり、証券会社に公開候補の企業を知らせたりする業務を認める。二十六日に改正した事務指針で、銀行の「付随業務」の一つとして明記した。中小企業など銀行取引先の株式公開の機会を高め、証券市場の活性化も促す。(中略)
証券取引法六五条は銀行の証券業務を禁じており、証券業界の一部には銀行が株式公開の助言まで手掛けることは証取法の禁止規定に触れるとの声も出ていた。これに対し、金融審議会(首相の諮問機関)や総合規制改革会議などは規制緩和を要望、金融庁も勧誘行為を除けば、銀行の業務としても問題ないと判断した。(以下略)

「勧誘行為を除けば、銀行の業務としても問題ないと判断した」とか言っちゃってますが、証取法65条改正により、今年中にこの勧誘行為も認めるつもりなのはご案内のとおりです。
これによって、戦後証取法65条によって作られた日本版グラス・スティーガル法の壁はとっぱらわれ、日本が本格的なユニバーサルバンキングの時代に突入することになります。(あくまで形式上は「仲介業」ではありますが。)
銀行は中小企業に対するアドバイザリーフィーで収入が得られるとともに、65条改正後は、例えば中小企業をグリーンシートに公開させれば、その公開時の引受や売出しの仲介でまたまたフィーが入ることになります。
今まで「融資」という(企業から見て)debtの形で資金供給をしていたのが、自分のB/S(貸借対照表)を通さず、equity(自己資本)の形で企業に資金を供給できる。一般論として、企業の自己資本比率は高まり融資のリスクは下がるし、銀行の自己資本比率も高まってBIS規制のクリアもしやすくなった上、フィーも入る。銀行にとっていいことばかりです。
本来は直接金融で調達すべきものまで借入で調達していたのが、日本がバブル崩壊によりここまで痛手を負ってしまった理由とも言えますので、事業のリスクの性質のよってそれぞれ最適な資金調達手段が行いやすくなるという意味では「いいこと」です。
銀行は証券に比べて、とにかく窓口も多いし、日常的に企業と取引してキャッシュや手形の動きもつかんでますので、そういう意味では(公開の直前だけ一時的に付き合う証券会社の引受部門などよりも)企業(特に中堅中小企業やベンチャー)の真の実態を見たアドバイスができる可能性があります。
ただ、そもそもグラス・スティーガル法が大恐慌以降、銀行の証券業務を封印してきたのは、腐りかけたヤバい企業に債権や株式を発行させて、そのリスクを一般の投資家に押し付けて自分の融資のリスクを減らすというような「ババ抜き」を銀行がやらかしたからなわけですから、そうした行為には要注意です。証取法65条改正がパンドラの箱を開けることではなく、日本再生のスタートになるといいんですけどね。
参考:証券取引法65条
銀行、協同組織金融機関、信託会社その他政令で定める金融機関は、第二条第八項各号に掲げる行為(注:証券業務)を行うことを営業としてはならない。(以下略)

(本日はこのへんで。)

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TOB(公開買付)

本日は、株式の公開買付(TOB)が2発。
一つが、株式会社幸洋コーポレーションが福岡証券取引所「Qboard」の第一号上場銘柄の株式会社ビジネス・ワンに対して行うもの。もう一つが、株式会社CSKがコスモ証券株式会社に対して行うものです。
TOB(Takeover Bid)は、「証券取引法」第二章の二(公開買付けに関する開示 第27条の2〜第27条の22の4)、「証券取引法施行令」第三章(第6条〜第14条の3の12)、「発行者である会社以外の者による株券等の公開買付けの開示に関する内閣府令」、「発行者である会社による上場株券等の公開買付けの開示に関する内閣府令」等で規定が定められているものです。
以下の条文のとおり、公開されている株式を市場外で買い付ける場合には、原則としてTOBの手続きを踏むことが必要です。具体的には「有価証券報告書を提出しなければならない会社」が対象となりますので、例えばグリーンシート銘柄でも(グリーンシートは必ずしも有価証券報告書を作成してるところばかりではないですが、作成してるところは)TOBをしなければならないことになります。ネット系の企業などは「生もの」的なところがあり「旬」を見はからってM&Aで買収されることも多いので、TOBをしなければならないとなると、時価総額が小さい割に相対で取引するよりはかなり面倒になるので、プチ公開がデメリットになる可能性もあります。
ビジネスワンも昨日の時価総額が(わずか)3.74億円なので、ビミョーなところですね。
第二十七条の二
 有価証券報告書を提出しなければならない会社が発行者である株券、新株予約権付社債券その他の有価証券で政令で定めるもの(以下この章及び第二十七条の三十の十一(第四項を除く。)において「株券等」という。)の当該株券等の発行者である会社以外の者による取引所有価証券市場外における買付け等(株券等の買付けその他の有償の譲受けをいい、これに類するものとして政令で定めるものを含む。以下この節において同じ。)は、公開買付けによらなければならない。ただし、次に掲げる株券等の買付け等については、この限りでない。
一 取引所有価証券市場における有価証券の売買等に準ずるものとして政令で定める取引による株券等の買付け等
二 新株予約権を有する者が当該新株予約権を行使することにより行う株券等の買付け等その他の政令で定める株券等の買付け等
三 当該買付け等の後におけるその者の所有(これに準ずるものとして政令で定める場合を含む。以下この節において同じ。)に係る株券等の株券等所有割合がその者の特別関係者(第七項第一号に掲げる者については、内閣府令で定める者を除く。次号において同じ。)の株券等所有割合と合計して百分の五を超えない場合における当該株券等の買付け等
四 著しく少数の者から株券等の買付け等を行うものとして政令で定める場合における株券等の買付け等(当該株券等の買付け等を行う者及びその特別関係者の株券等所有割合の合計が三分の一を超えない場合に限る。)
五 株券等の買付け等を行う者がその者の特別関係者(第七項第一号に掲げる者のうち内閣府令で定めるものに限る。)から行う株券等の買付け等その他政令で定める株券等の買付け等

TOBの適用除外になるケースとしては、上記のとおり、
取引所での取引での買付(第一項本文)
店頭売買有価証券市場における店頭売買有価証券の取引(JASDAQ銘柄のJASDAQでの取引)(第一号)
ストックオプションの行使等の場合(第二号)
株券等所有割合が5%以下の場合(第三号)
10名以下からの買付けで株券等所有割合の合計が1/3を超えない場合(第四号、証券取引法施行令第7条�)
その他、子会社株式の取得、売出しの場合、従業員持株会的な場合、等(第五号)
などですので、基本的には普通の市場外での買付けはTOBによらないといけないということになります。
(本日はこのへんで)
参考URL:
証券取引法の一部を改正する法律について(大蔵省平成2年)
http://www.mof.go.jp/kankou/hyou/g464/464_b.pdf
「ソトー巡る買収合戦で注目、TOBって何?」
http://manabow.com/qa/tob.html
「なぜ敵対的TOBが増えているのか」マッキンゼー・アンド・カンパニー 本田桂子
http://www.mckinsey.co.jp/articles/2000/03/20000311-1.html
11年度中小企業白書
http://www.chusho.meti.go.jp/hakusyo/h11/zenbun/html/p1423000.htm

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