「公的資金」とは何ぞや

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横浜銀行、昨日のプレスリリース(http://www.boy.co.jp/topics/040406.pdf)では、「当行が当該権利を行使するか否かは現時点では未定であります。」としていた横浜銀行の転換社債の120%コールオプション条項ですが、本日、行使する旨の公告が行われてます。(日経38面)
(isologueバックナンバー
https://www.tez.com/blog/archives/000040.html
https://www.tez.com/blog/archives/000041.html
参照)
日経によると、横浜銀行はこの転換社債の株式転換で自己資本を強化し、公的資金を前倒しで返済しようということですが。
この銀行に注入された「公的資金」というのは、「銀行が政府から国民の税金をタダでもらった。けしからん!」と思っている人が多いのですが、実は中身は「優先株式」であり、「もらった」のとはちょっと違います。
またまた横浜銀行のケースを使わせていただいて恐縮ですが。(各行だいたい内容的には同じなので。)
同行の有価証券報告書http://www.boy.co.jp/k_t/yuukasyoken_2002.pdf28ページ以下に、「公的資金」である第一回優先株式、第二回優先株式の内容が掲載されてます。保有者は両方とも(財務省等ではなく)、「株式会社整理回収機構」になってますね。また、整理回収機構の分類は、32ページから33ページにまたがる表のところで「政府及び地方公共団体」ではなく、「金融機関」として開示されてます。(整理回収機構って、確かに公社等ではなく「株式会社」ですが、「金融機関」に分類されるんでしょうか。)
開示されている優先株式の内容について、詳細に検討していきますと、(カッコの番号は、後ろに添付した第一回優先株式の内容に対応してます。)
(1) 銀行は、普通株主に優先して優先株主に優先配当金を支払わないといけません。ただし、優先配当金を全額払えなかった場合でも、翌年以降にその未払い分は払わなくていいよ(プレッシャーを感じないで経営改善してね)、という「非累積条項」がついてます。また、優先配当金には上限がついてますので、結局これは配当というよりは、「払えなかったら払わなくていい借金の金利」的な性質を持ってます。
(2) 万が一銀行が解散することになった場合でも、残余財産は1株500円までしか支払われません。まず、預金者などの債権者に財産を分配してから優先株主が分配を受け、それでも残った場合に普通株主にも分け前が行くことになります。つまり、株式というより劣後債務(借金)的な性質を持ってます。
(5) この優先株には議決権がありません。つまり、国(整理回収機構)は、銀行の経営には参画しないということですが、
(3)で、普通株式へ転換できることになっており、また、
(4)で、平成21年7月30日までに転換請求のなかった優先株式は、平成21年7月31日をもって一斉に普通株式に転換することにもなってます。
普通株式に転換されてしまうというのはすなわち(一部)国有化、ということになるので、「こういう事態にならないと行使しないよ」ということが、実際にはより詳細に定められているとは思います。
他にも、恐らく「当行は、いつでも本優先株式を買い入れ、これを株主に配当すべき利益をもって当該買入価額により消却することができる。」というような買い入れ消却に関する条項がついているのではないか(でないと公的資金を返せないので)という気がしますが、書いてないですね。
以下、横浜銀行の第一回優先株式の内容:
(1)優先配当金
� 優先配当金
毎年3月31日現在の優先株主に対し、普通株主に先立ち、優先株式1株につき年5円66銭の優先配当金を支払う。ただし、当該営業年度において優先中間配当金を支払ったときは、当該優先中間配当金を控除した額とする。
� 非累積条項
ある営業年度において、優先株主に対して支払う利益配当金の額が優先配当金の額に達しないときは、その不足額は翌営業年度以降に累積しない。
� 非参加条項
優先株主に対しては、優先配当金を超えて配当は行わない。
� 優先中間配当金
中間配当を行うときは、毎年9月30日現在の優先株主に対し、普通株主に先立ち、優先株式1株につき2円83銭の優先中間配当金を支払う。
(2)残余財産の分配
残余財産を分配するときは、優先株主に対し、普通株主に先立ち、優先株式1株につき500円を支払う。優先株主に対しては、上記500円のほか残余財産の分配は行わない。
(3)普通株式への転換
� 転換請求期間
平成13年8月1日から平成21年7月30日までとする。ただし、株主総会において権利を行使すべき株主を確定するための基準日の翌日から当該基準日の対象となる株主総会終結の日までの期間を除く。
� 転換価額
優先株式の普通株式への転換価額は505円40銭とする。
また、転換価額は、平成11年7月31日とその後平成20年7月31日までの毎年7月31日に修正される。
ただし、今後時価を下回る払込金額をもって普通株式を発行する場合や株式の分割により普通株式を発行する場合等、一定の事由が生じた場合には転換価額を調整する。
(4)普通株式への一斉転換条項
平成21年7月30日までに転換請求のなかった優先株式は、平成21年7月31日をもって、優先株式1株の払込金相当額をそのときの普通株式の時価で除して得られる数の普通株式となる。この場合に使用する時価は、平成21年7月31日に先立つ45取引日目に始まる30取引日の東京証券取引所における当行の普通株式の普通取引の毎日の終値の平均値とする。ただし、当該平均値が200円を下回るときは、優先株式1株の払込金相当額を200円で除して得られる数の普通株式となる。
(5)議決権条項
法令に定める場合を除き、優先株主は株主総会において議決権を有しない。
(6)新株引受権等
法令に定める場合を除き、優先株式について株式の併合または分割は行わない。
優先株主には新株の引受権、新株予約権の引受権または新株予約権付社債の引受権を与えない。

他行の例:
株式会社東京三菱フィナンシャルグループ有価証券報告書(平成15年9月期 半期報告書[一部])
http://www.mtfg.co.jp/finance/securities/2003_half/pdf/yu_mtfghalf0304.pdf
株式会社みずほフィナンシャルグループ有価証券報告書(平成15年3月期 [一部])
http://ir.eol.co.jp/extra/8411/PDF/8411-200203-05.pdf
株式会社UFJホールディングス有価証券報告書
http://www.ufj.co.jp/ir/lib/yukasyoken/yukasyoken.html
株式会社三井住友フィナンシャルグループ有価証券報告書(平成15年9月期 半期報告書[一部])
http://www.smfg.co.jp/library/statement/h1603fghanki_pdf/1603_hanki_07.pdf
株式会社りそなホールディングス有価証券報告書(平成15年9月期 半期報告書[一部])
http://www.resona-hd.co.jp/ir/pdf/i_03b_01/042/hd_034-055.pdf
住友信託銀行 (平成15年3月期 [一部])41ページ
http://www.sumitomotrust.co.jp/IR/company/finance/yuka/132-01.pdf
三井トラスト・ホールディングス株式会社(平成15年3月期)41ページ
http://www.mitsuitrust-fg.co.jp/invest/pdf/yu_cmtb60.pdf

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