今回の地裁のニッポン放送の新株予約権発行差し止めの仮処分とこれまでの経緯を考えて、他の企業への教訓(法律的にというよりも、主にコーポレートガバナンスやIR的に)としては以下のような感じでしょうか。
本エントリは、他の企業で今回のような状況のときにどうしたらいいかの参考としてもらうためのものですので、「ライブドア派としての勝利宣言」とか「フジテレビ派(苦笑)としての反省点」と取っていただかないようにしていただけるとありがたいです。やはり、今後の大買収時代を迎えるにあたって、買収防衛が全否定されるのはまずいし、敵対的買収が全否定されるのもまずいわけで、そのへんのバランス感覚を考えて頂く一助になれば幸いです。
「株主のため」というスタンスを強調
全体として「株主のため」というスタンスがニッポン放送側に欠如していたのではないかと思います。
ニッポン放送やフジテレビ経営陣の記者会見では、印象として「自分たちの保身」「グループ絶対主義」といった要素が全面に出てしまってました。こうした態度が地裁の決定に影響したかどうかはともかく、一般の投資家や国民への印象は相当悪くなったのは事実。
買収防衛策を打ち出すにしても、「どちらが株主のために有利なのかを見極めるために時間を確保するためのものです」という点を強調したほうがよかったんじゃないかと思います。
第三者専門家の活用
今回の地裁の決定は、有利発行でない点については、「大和証券エスエムビーシー株式会社作成の説明資料等に明らかに不合理な点は認められないから」とあっさりと「OK」が出てしまったのでちょっとびっくり。
また、ライブドア側が提出した事業計画についても、「債権者(ライブドア)の事業計画に基づき第三者機関であるPwCアドバイザリー株式会社の行った分析にかかるものであることからすると」と、第三者の分析を評価しています。
オプション価値や事業計画の中身についてはいろいろツッコもうと思えばツッコめる余地もあったのではないかと思いますが、とにかく仮処分が出るまでの時間は短いですから、裁判官がその中で詳細なオプションの数式やら事業計画の前提を詳細に検討することはほぼ不可能なはず。今回も、裁判官は「プロセス」を見るべきで、企業の複雑な個別の状況の中身を完全に理解するなんてことを考えるべきではないというスタンスを取られたのかも知れません。(私はそれは正しいと思います。)
今後、高裁や最高裁がどう判断されるのかはよく存じませんが。
実際に買収者側の言い分を聞く
というわけで、やはり、ニッポン放送としては事前にライブドアの意見を聞いて事業計画を提出させ、それをさらに第三者に「ほんとにこの事業計画通りいくのか」と算定させた意見書を取っておくべきだったんじゃないでしょうか。(時間的に間に合ったかどうかはともかく。)
少なくとも、「ライブドアと交渉するつもりはない」ではなく、「ライブドアさんの事業計画もよく伺って、フジテレビと比べてどちらが株主のためになるのかをよく取締役会で検討したい。」くらいのことを言うべきだったのではないかと思います。
社外取締役がもっと前面に出てたら?
せっかく久保利弁護士や野中ともよさんといった社外取締役を4人も抱えていたわけですから、
「社内の取締役だけで判断すると株主のためにどちらがいいのか公平な判断ができないので、取締役会とは別に、社外取締役だけで今回の防衛策について検討をしてもらいました」
というように、もっと社外取締役を活用したほうがよかったと思います。
社外取締役としては「そんな火事場に引きずり出されるのはイヤだ」ということじゃなかったとは思いますが、まさに、それが社外取締役の役目でしょ?
「排除的」「抑圧的」な買収防衛策でないことを強調
今回の買収防衛スキームでは、「これでフジテレビの子会社になることが決定」と(やや勝ち誇ったようにも聞こえる)形で報道がなされてしまいましたが、ニッポン放送としては、ユノカル基準でいう「排除的」「抑圧的」な買収防衛策でないことをもっと強調したほうがよかったんじゃないでしょうか。
以前も書きましたが、
「この新株予約権は消却可能なものです。」とか、
「ライブドアさんは、違法な可能性がある立会外取引によって株を取得されました。このスキームはそうした状況にいったんストップをかけ、株主のみなさんに、どちらが本当に有利なのかを判断していただくための時間を確保するためのものであって、フジテレビの子会社になることを決定づけるものではありません。」
くらいのことを言ってもよかったんじゃないかと思いますが。(交渉としては弱気すぎ?)
スキームにもうひと工夫は?
単なる新株予約権だったら、大量に新株が発行されてフジテレビの子会社になって「The End」という感じが強くなってしまうので、もうちょっとスキームに「排除的」「抑圧的」でないというニュアンスを加える方法は無かったのかな?とも思いますが。
例えば、普通株でなく、消却可能な優先株を購入できる新株予約権みたいなものだとおもしろいですが(単なる思いつきなので税務上等のいろんな角度からの検討してないですが)、いずれにせよこれは株主総会決議で定款変更しないとできないですから今回ちょっと使えません。
ニッポン放送とフジテレビの二者契約で、「新株を発行した場合、別途、慎重に検討してライブドアに売った方がいいということになった場合には、新株を消却する」というような決まりをしておいたらどうかとも考えたのですが、新株の行使価格+新株予約権の発行価額の合計額で消却するのが難しそうです。
そもそもフジテレビは引き受けるという機関決定をしてなかったわけですから、契約も結べるわけないですわな。
ま、弁護士さんが徹夜でいろいろ考えられたのでしょうから、スキームとしてはこれ以上どうしようもなかったのかも知れませんが、
例えば、フジテレビとしても、
「TOBが終了しだい、新株予約権を引き受けるかどうかを慎重に検討する」
「その場合、ニッポン放送の株主にとってどちらが有利なのかのニッポン放送取締役会の判断を尊重して、今後のスキームの変更に応じる。」
というような「精神論」だけでも取締役会決議等で明確にしておいた方が、(対裁判所はともかく)、少なくとも投資家にはウケがよかったような気がします。
(取り急ぎ。)
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