企業買収防衛戦略

GoogleのIPOに関連してコメントさせていただいております買収防衛策ですが。
資本構成が必ずしも安定的でない企業の経営者にとっては、IPOすることによって買収を防止するために労力を払い続けなければならないというのは非常に苦痛です。
程度問題ですが、経営トップのパワーの(例えば)8割をそのために使わないといけないとすると、どうでしょうか。
社長は何もしないでも毎年どんどん業績が上がっていくなんて会社はそうはないですし、ましてや、非常に競争も激しいネット系企業であれば、他社動向を察知し、事業を拡張する陣頭指揮に注力したほうが、本質的な企業価値は上がるはずです。
例えばIPOで20億円調達して、社長が事業に注力できないことにより年間3億円の機会損失があったとしたら、15%の金利を払ってるのと同じということになります。経済合理性から考えれば、別の資金調達方法を考えたほうがいいかも知れませんわね。
こうした「労力」は、株主(特に大株主)に対して「うちの株を持ち続けた方が得ですよ」と説明することなので、きれいに言えば「IR」ということになります。
しかし、抽象的なガバナンス論では「会社は株主のもの」かも知れませんが、実務的にはインサイダー規制で特定の株主に対して開示できる情報は厳しく制限されてます。(このように、会社の場合、「所有者」に一番キモの情報をしゃべれない、というところが、単なるモノの所有とは全く異なります。)
株主をつなぎとめるためには、開示されてない一番「キモ」の情報をしゃべりたいところですが、その情報を話すことができない。
資本構成が必ずしも安定的でない場合、経営トップはそうした制約の中で、株主をつなぎとめていかなければいけません。
(「きれいごとはいいけど、実際どーすんのよ?」という感じですね。)
ということで、そうしたことに労力を払わずに済む有効な企業買収防衛策があったら、手を伸ばしたくなるところではあります。
今朝の日経朝刊1面下に、西村ときわ法律事務所の武井 一浩弁護士らによる、(ずばり)「企業買収防衛戦略」という本の広告が載ってました。
image001.jpg
武井 一浩、太田 洋、中山 龍太郎 (編著) 商事法務(2004/04)

広告によると、「日本型ポイズンピルの導入に向けて実務家必読!」だそうです。(早速、Amazonで発注してみました。)
(以上)
<目次>
第1章 企業買収防衛戦略の必要性と正当性——近時の状況と日本企業の特殊性を踏まえて(武井一浩)
企業買収防衛戦略とは何か/敵対的買収の手法/現在の日本における敵対的買収をめぐる環境/敵対的買収の果たす意義/敵対的買収がもたらす弊害/企業買収防衛策と内容のバランス論/敵対的買収から無防備状態にあること自体の経営非効率性
第2章 企業買収防衛策の法的論点と実務上の諸問題——一連の商法改正と日本型ポイズン・ピルの導入を視野に入れて(武井一浩/太田 洋/中山龍太郎)
企業買収防衛策の種類/ポイズン・ピル(ライツ・プラン)/日本型ポイズン・ピルの設計/ポイズン・ピル導入の日本法上の諸論点/会社利益の判断権者と買収防衛策のバランス論
第3章 米国におけるポイズン・ピルの「進化」とその最新実務(太田 洋/中山龍太郎)
第4章 米国におけるポイズン・ピル以外の企業買収防衛戦略と日本への示唆(太田 洋)
第5章 敵対的企業買収に対する対抗策の基礎(松井秀征)
第6章 企業買収防衛策をめぐる理論状況(森田 果)
第7章 パネル・ディスカッション 日本型ポイズン・ピルの導入に関する法的諸問題
(江頭憲治郎/大杉謙一/手塚裕之/保坂雅樹/内間 裕/太田 洋/中山龍太郎/武井一浩)

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バブって、いーとも!

バブルって「悪いこと」でしょうか?
私、結構バブってるのって好きです。だって、新しいものが生まれたり、新旧勢力が交代したり、いろいろドラマがあって楽しいじゃないですか。人類の文化の大半は、バブってる時代や国で生まれたものじゃないかと思います。
人間は物事を認識したり意思決定したりするのに、「Yahooはこの位の株価だから」とか「シリコンバレーではみんなこうしているから」とか「あの有名人がこう言っているから」とか「あの有名企業がやってることだから」と、どうしてもパターン認識的な発想をしてしまいがちです。このため、「基本的に何やってもOK」な市場経済では、大きな動きに皆が引きつられて動く「バブル」がどうしても発生してしまいます。
バブルは、どこがいけないのでしょうか?
バブルが「悪」かどうかは、バブルの「程度」と「社会の構造」によっても違ってくるのではないかと思います。
下図は、日本銀行調査統計局の「資金循環の日米比較:2003年4Q」による、2003年12月末時点の日米の家計の資産構成の対比図です。
financial_assets2.JPG
この図で、日米の資金循環構造の最も大きな違いは「預金」。つまり、米国の家計の保有する資金が、株式や投資信託、債券などを通じて企業等に供給されているのに対して、日本の資金は、その過半が「銀行」を通じて企業に供給されているところ。
銀行というのは、預金者には元本と利息を保証して資金を調達してますので、景気が非常に悪くなって貸し付けている企業がバタバタと倒れると、その損失は当然、銀行が抱え込むことになります。このため、大規模な景気後退期には、銀行はこの損失を負担しきれなくなります。
当たり前ですね。日本ほどの経済大国の個人金融資産リスクの過半(約790兆円)を、わずか数百の銀行等や郵貯が全部立て替えているという、極めて「脆弱な」構造なわけですから。
これに対して、米国では家計は経済変動のリスクを(良くも悪くも)「直接」負っています。
両方の国とも、大きなバブルが崩壊すると国民に影響が及ぶのはまったく同じ。ただし、そのプロセスが大きく異なります。
日本の場合、市場がクラッシュしても家計はその場ではほとんど影響を受けない。一生、そのまま影響を受けないならいいんですが、直接クラッシュの影響を受けた銀行がもたないため、貸し渋るの渋らないの、公的資金を投入するのしないの、という話をしているうちに景気はどんどん悪化、回復までに非常に時間がかかります。景気対策や公的資金として投入された税金は、すぐに増税という形で取り返せるわけじゃないので、これもすごい時間をかけてじりじりと家計に負担となってくるわけです。で、結果として、バブル崩壊から景気回復まで、十数年が「失われて」しまう。
こういう構造の下では、「バブルは悪である」かも知れません。
これに対して、米国の場合、市場がクラッシュすると家計の資産が一瞬にして直接大打撃を受けます。が、「以上。終わり。」という感じ。
もちろん、自分の資産が減少した家計は、消費の量も減らしたりするし、IPOがパタっと止まっちゃったりもしますが、ネットバブル崩壊から4年くらいで、もう「ケロッ」としちゃってます。
米国型の「切り替えが早い」インフラは、「後のことは気にせず、とにかく何でもチャレンジしてみよう!」という発想を担保します。個人が自分で考えてリスクを取ったことに対して損失をこうむるわけだから納得性もあります。
(当然、損した時には「チクショー!」と怒るでしょうが、納得せざるを得ない。)
日本型のしくみだと、誰かが何かとてつもないことをやって失敗したら、結局、多くの人が長期間 迷惑を被ることになってしまいます。しかも、自分が悪かったせいでもないのに、他人の融資が焦げ付いたせいで自分にトバッチリが来るわけです。
結果として、「人様にご迷惑をおかけするようなことはやめときなさい」「他の人と同じことをしときなさい」ということにもなります。
1994年ごろにタイムスリップして見ましょう。確実に言えるのは、銀行員と公務員が中心になって意思決定を行う旧来型の日本のシステムだけだったら、「インターネットをつかったビジネスを発展させましょう」てなことをいくら主張しても、まったく相手にされなかっただろう、ということ。
おそらく、10年経った今になっても、未だに通信は電話やFAXが中心、9600bpsくらいでテレーっと画像が出てくる「パソコン通信」があるだけ。送金も未だに昼休みに銀行で列に並んでたし、本も書店で買ってたんではないかと思います。
銀行員は「合理的に」思考するので、極めて競争が厳しいインターネットビジネスに超過利潤が発生するとはとても思えず、融資する根拠が無いし、政府が補助金を出すにしてもせいぜい数百億円止まりだったでしょう。
ところが、ネットがバブったせいで、数十兆円単位(!)のお金がエクイティの形でネットに向かい、(利益も出ないのに)ガンガン投資が行われ、ソフトウエアが改良され、サービスが向上して、そのおかげで、今やこんなに便利な世の中になっちゃった、と言えるかと思います。
また、これ、シリコンバレーの日本人の方に聞いて涙出そうになった話なのですが。
小さい子供がサッカー大会に出るので応援に行ったら、ボールが来たのにキックしようとして空振りし、スッテンコロリンしてしまった。
日本人の親は、「何やってるのよ、もう!」という気持ちで、思わず苦笑いしてしまったが、周りのアメリカ人の親を見回すと、全員が「Good try!」「Good try!」と叫んでいる。
チャレンジを心から賞賛するアメリカ人を見て、心の中で子供の失敗を非難してしまった自分を反省した、というお話。
その日本人の方は、私なんかから見ると日本人離れしているというかシリコンバレーのノリそのものの方なんですが、それでもやはり「日本人」だったわけですね。
イラクの人質事件にしても、日本だと「他人に迷惑かけやがって」ということになっちゃうのですが、あれがアメリカ人が人質になって戻ってきたら、アメリカ人一流のノーテンキさで、人質は「ヒーロー扱い」なんじゃないでしょうか。
以上のようなことを考えてくると、krpさんが「Google の Class B 株に異議を唱えた梅田望夫さんの感覚は、このシリコンバレーの文化にもとづくものといえるでしょう。」と書かれてるんですが、これって(ある意味)まったく逆で、非常に日本的な感覚にもとづくものなんじゃないの?という気がします。
(だって、Google が Class B を保有したままIPOしたって、梅田さんにナンも迷惑かかんないじゃん。)
「日本的感覚」を悪いと言ってるわけじゃないですし、みんながGoogleのIPOに熱くなってバブルの香りがしているときに、いろんな考え方があるのは非常にいいことだと思います。(本気で。)
ただ、そのお考えは、「シリコンバレー」っぽくはないと思うわけです。
(ではまた。)
その他ご参考URL:
yublog「バイオとネットの違いは何か?」
http://nkcp.zive.net/yublog/archives/003025.html
[情報化社会の航海図]
情報経済の崩壊を越えて(2):インターネットビジネスはコモデティ化をどのように越えるのか
http://blog.japan.cnet.com/watanabe/archives/001207.html

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Dual Class株式の研究(カナダのケース)

世間はwinnyの作者の逮捕でケンケンガクガクやっているようですが、本blogはマイペースにDual Class構造を追いたいと思います。
GoogleのS-1で、

Academic studies have shown that from a purely economic point of view, dual class structures have not harmed the share price of companies. The shares of each of our classes have identical economic rights and differ only as to voting rights.

と、学術研究ではDual Class構造は株価に悪影響を与えないとされている、てなことを書いてありましたが、出典も書いてないのでWebを調べて見ました。
すると出るわ出るわ。Dual Class構造については非常にたくさん研究が行われているようです。しかも、ざっと見たところでは、こうしたDual Class構造は、必ずしも評判がよくないし、(Googleが言うのと異なり)株価に中立ではないという研究もあるようです。
ただし、その原因は、(これもさらっと見た段階ですが)、創業家一族による同族会社的経営によって会社の業績が下がり、(または創業家は給料をたくさん取っていてその分配当が少なくなるなど)、ガバナンス構造に問題がある場合が多い模様。
Googleの場合は、こうした異論があることを最初から想定していると思われ、「李下に冠を正さず」というか、「これでもか」というぐらいがっちりしたガバナンスの構造を最初から導入していますので、こうしたデメリットの部分は小さいのではないかと個人的には思います。
SHAREのレポート
検索で出てきた中でも、Shareholders Association for Research and Education(SHARE)というカナダの団体(=national not-for-profit organization helping pension funds build investment practices that protect the interests of plan beneficiaries and contribute to a just and healthy society.という団体らしいです。)の2004年4月のレポートがよくまとまっていたので、本日はこれを取り上げて見たいと思います。
http://www.share.ca/files/pdfs/SHARE%20Dual%20Class%20-%20final1.pdf
驚くことに、カナダでは上場企業の20-25%(!)もが、このDual Class構造を採用しているそうで、例えばFour Seasons Hotels Incのような有名企業もDual Class構造だとのこと。
米国では、Dual Class構造を採用している上場企業はカナダよりぐっと少なくなりますが、それでも上場企業の3%程度は採用しているそうです。(下図)
image001.jpg
(P10)
Dual Class構造は、海外では(「普通」とは言わないまでも)珍しいスキームではないようです。
ガバナンスとの関係については、

The existence of a dual-class structure does not imply poor governance, but where problems arise, ordinary investors have difficulty pushing for change. (P5)

ということで、Dual Class構造にすることがすなわちガバナンスが欠落していることにはならない、としながらも、仮に問題が起こった場合には、株主が変革を促しにくい点を指摘しています。
米国での歴史
米国では、NYSEが1920年代にDual Class構造を禁止したということで非常に歴史が古いですが、その時にもFord社だけは例外だったとのこと。
1980年代に入って(買収ブームのせいでしょうか)、Dual Class構造は解禁になり、また、1990年代初頭からNYSEは規制を検討し始め、1994年には再び禁止となったとのこと。(P9)
既存株の取扱
NYSEの既存公開株についての規定を紹介しています。

The Exchange’s Listed Company Manual states, pursuant to SEC Rule 19c-4:
Voting rights of existing shareholders of publicly traded common stock registered under Section 12 of the Exchange Act cannot be disparately reduced or restricted through any corporate action or issuance. Examples of such corporate action or issuance include, but are not limited to, the adoption of timed phased voting plans, the adoption of capped voting rights plans, the issuance of supervoting stock, or the issuance of stock with voting rights less than the per share voting rights of the existing common stock through an exchange offer.

上記の規定は、すでに上場されている普通株の権利を損なうような資本構造の変更をやっちゃだめですよ、ということですね。つまり普通株一本で上場していたのに後から「10倍の議決権を持つClass Bを発行します」みたいなことはやめてくれ、と。
ただし、すでにDual Class構造を採用していた株式については、一定の「safeguard」の下で引き続きOKということのようです。
このSHAREという団体は、既存のDual Class構造を取っている上場会社については株の種類を一元化することを勧めており、また、一元化すると株価も上がりますよ、と言っています。(下図)
image002.jpg
(P20)
統合することで、権利は増えるわけですし、株の買い手として「買収を視野に入れた投資家」も含まれるようになるわけですから、需給バランスからして、上がって当然と言えば当然ですが。
IPOはOK
一方で、IPOの場合は例外にすべきという議論があることもあげています。(P26)

the founders argue that they need some protection from takeovers and an ability to concentrate on long-term growth rather than short-term results.

前述のNYSEの規定でも、IPOする企業がDual Class構造を持っているのは別に構わないとのこと。
既上場の株式の権利の変更は「話が違う!」ということになりますが、あらかじめ「うちはこういう構造ですけど、よかったら買って下さい」というのは「あり」だということですね。
また、

There is an obvious attraction for multiple-class IPOs. Even in the United States, more than 7 percent of companies go public with dual-class share structures.

ということで、米国でもIPOする企業の7%以上はdual class構造を採用しているようです。かなり多いんですね。
SHAREの提言(一部)
ということで、このSHAREという団体は、7つの提言を挙げています。(P27)
そのうち、いくつかをあげますと。
TSX Venture Exchangeの上場企業はDual Class構造を採用してもOKとする。(IPOや成長銘柄については配慮して、一定の条件のもとOKということにしたものでしょう。)
TSX Venture Exchangeに上場している株式については、

「require subordinate class approval for the continuation of dual-class share structures at least every three years」

ということで、少なくとも3年ごとに種類株主総会の決議で、この構造を続けるかどうかを決議する。(これは、いい手かも知れませんね。)

Permit subordinate class shareholders to directly elect a portion of the Board of Directors.

劣後Classの株主が、取締役の一部を直接選任できるようにする。(これもいい手かも知れませんね。日本の商法222条参照。)

Limit voting strength of multiple voting shares to a total of 51% of total outstanding
votes and to no more than 10 votes per share.

優先Classの議決権は多くとも51%にして、1株あたりの議決権は10個を超えないこと、ということですね。これは買収対抗上は弱すぎるという異論があるかも知れませんね。
以上、ご参考まで。

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Googleのガバナンス構造の整理

(しかし、このGoogleの開示資料[S-1]というのは、回鍋肉(ホイコーロー)というか四川風本格麻婆豆腐というか、一皿でごはん4杯5杯は軽く行けてしまうくらい味が濃いですなあ。)
Webでもあちこちで引用していただいているようで、ありがとうございます。
ただ、いろんなblogを拝見している中で、「梅田さんが”民主制”を主張しているのに対して、磯崎は”現経営陣による長期独裁制賛成論者”だ。」と理解されている方もいらっしゃるようなんですが(苦笑)、全く違います。
創業者等の議決権比率が高い今のGoogleの構造でも、ちゃんとガバナンスは働くし、他の会社と同様、経営陣がヘボい時は退陣せざるを得ませんよ、議決権とガバナンスは違います、ということを申し上げているのです。
ということで、今まで申し上げたことと重複する部分もありますが、Googleのガバナンス構造について、再度整理しておきたいと思います。
辞任は議決権割合とは関係ない
そもそも日本でも米国でも、株主総会等での解任という「最終兵器」まで使わないと経営者が引退しないというケースはまれです。
例えばGoogleが時価総額4兆円くらいのときに400億円投資した年金などの機関投資家がいたとして、業績悪化して時価総額が1兆円まで下がり、持株の価値が100億円になっちゃったとします。この場合、年金は、「私らは1%しか株を保有しておりませんので、言いたいこともいろいろありますが、何も申し上げません。」なんてつつましいことは絶対言わないです。だって、300億円も損させられてるわけですから。
現経営陣が退陣した方が業績が上がるのであれば、訴訟という手段も含めて、株主はガンガン要求を突きつけてくるはずです。
また、例えば(例にあげて恐縮ですが)西武鉄道というのは、有価証券報告書の大株主の状況を見ると平成15年3月31日現在、株式会社コクド45.35%、西武建設株式会社7.07%、株式会社プリンスホテル0.98%で、少なくとも53.4%の議決権は堤義明会長の思い通りになると考えられます。
が、だからといって、堤会長は辞任しないという選択肢があったでしょうか?
現代の株式市場では、過半数の議決権よりも株価や社会的責任などの力の方が強いガバナンス力になっていると言っていいのではないかと思います。
リスク開示と唯我独尊は違う
S-1の「OWNER’S MANUAL」(ivページ)に書いてある「As an investor, you are placing a potentially risky long term bet on the team, especially Sergey and me.」という記述は、「オレたちはどんなことがあっても株主権を行使して経営者の椅子にしがみつくぜ」、ということを言っているのではないと思います。おそらく、通常の資本構造と異なるので、一般投資家に注意喚起するために、こうした記述を加えたほうがいいとの弁護士や幹事証券などからのアドバイスもあり、「リスク開示」的な観点(+もちろん「俺たちはGoogleが好きだし、やる気もマンマンでっせ」という観点)から書かれているものであって、「唯我独尊」とは違うのではないかと思います。
例えば、ファーストフードのカップスープに、「熱いのでヤケドをすることがあります。お気をつけください。」と書いてあったからといって、「おまえらは、客にヤケドさせようと思ってスープ売っとんのかー!」とか、「絶対ヤケドしないスープを出さんかい!」と怒るのもヘンですよね。
それは、一般消費者にリスクを開示しているだけだからです。
もちろん、創業者二人はもうすぐ数千億円の大金持ちになるわけですから、心の中で「うっひょひょ〜」という浮かれた気持ちが全く無いだろうとは申しません。
が、それと、将来何をやっても辞任しなくていい構造になっているかどうかは、まったく話が異なります。
辞めるインセンティブもでかい
前述のとおり、Googleの創業者が何かヘマなことをやった場合には、必ず、株価にも悪影響を及ぼしてきます。
彼らが経営を続けた場合、彼らの保有するGoogle株式の価値は1000億円にまで下落するが、経営者を交代したら3000億円の価値になるのであれば、彼らも経営を別の人にバトンタッチした方が全然得なわけです。
組織構造
S-1には組織図は記載されていませんが、中の記述を拾っていくと、Googleの組織構造は下図のようになっているものと考えられます。
image002.gif
委員会
Googleは、取締役会の付属機関として「audit committee」「leadership development and compensation committee」「corporate governance and nominating committee」「executive committee」の4つの委員会を設けていますが、GoogleのS-1を見ても、誰が委員会のメンバーなのかの記述がちょっと見あたりません。
日本の商法特例法では、委員会等設置会社の各委員会は過半数を社外取締役で構成することが要求されてます(商特第21条の8第4項)が、GoogleのS-1でも、役職員の報酬体系を提言する「compensation committee」については、officerや従業員が委員になれない旨が定められており(73ページ)、また、89ページの「Compliance with Exchange Governance Rules」では、Nasdaq や NYSEの同族会社的「controlled company」の例外規定を使って必ずしも「independent director」が委員会をrepresentationしなくてもいい旨を定め、変わって内規によって、取締役会およびexecutive committeeを除く3委員会のメンバーの過半数は、Googleの従業員等でない者としなければならない旨を定める予定であることがうたわれています。(なぜ、Nasdaq や NYSEの原則規定を使わないのかについては、恐らく、買収対抗スキームとして、そのほうがフレキシビリティがあるから、という意図ではないかと思いますが、よくわかりません。)
また、同ページで、定款では原則としてCEOとChairmanは兼務できないが、取締役会の2/3の承認があれば兼務できる旨が記載されています。(現在は、Eric Schmidt氏 が兼務しているようです。)
以上からすると、基本的にGoogleでは、フレキシビリティは残しつつも、社外取締役が過半数入って経営陣の独断で会社の舵取りはできない「民主的な」ガバナンス構造を採用しているように見えます。
将来、会社のパフォーマンスが悪くなり、年金等の株主から経営者の経営責任が問われることになった場合、指名委員会や取締役会が、「それでも創業者を経営陣に残した方がいい」という判断をするにはよっぽどの根拠を示す必要があるし、また、創業者を経営陣に残すことが株主の利益に反すると考えられるにも関わらず創業者を残す決定をした場合、株主からの訴訟も覚悟しないといけないと思われます。
今の社外取締役のメンバーは社会的地位も見識もある方々のように見受けられますので、そうした正当な社会的圧力が強くかかった場合には潔く辞任することを勧め、それでも応じない場合には、創業者たちをdirectorとして選任はしないのではないでしょうか。
共同的な意思決定
「RISK FACTORS」には、Googleは、「run the business and affairs of the company collectively」と、CEOと創業者2名が共同して経営の意思決定に当たることとされています。
「Decisions are often made by one of us, with the others being briefed later.」とありますので、この「collectively」というのは、日本の(あまり使われていない)共同代表制度のように、契約書にまで必ず3人連名で署名するようなイメージというよりも、基本的には3人合意の上で進めていこう、ということだと思います。
この、「すべて3人で相談しあって決める」という体制は、一般のアメリカ企業と比べても、「独裁的」というよりは、かなり「民主的」な印象を受けます。
内部統制
同じくリスクファクターに、「We will incur increased costs as a result of being a public company」ということで、公開にあたって、「Sarbanes-Oxley Act of 2002(企業改革法)」その他で要求される内部統制体制を構築するので、そのためのコストがいろいろかかる、ということが記述されています。
以上のように、Googleは、少なくとも日本やアメリカの一般的な企業よりも経営陣に対して厳しく監督が行われる(または「民主的」な)ガバナンス構造を有していると言えますし、経営陣の椅子も必ずしも「固定的」とはいえないと思います。
(以上)

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GoogleのDual Class構造(illustrated)

「通りすがりA」さんからいただいたコメントから。

私が言いたかったことは、梅田さんのコメントの通り、種類株で議決権の過半数を持つのと普通株にて過半数持つのとは意味合いが違うということです。
あえて種類株にて議決権を維持しようとしているところに、ガバナンスのゆがみが生じるのではないかと思います。

・・・ということで、ちょっと図解してみました。
image002.gif
2つの観点
私が、このGoogleのDual Class構造がガバナンスの問題ではないと申し上げるのは、まず一つは「要は気持ちの持ちようじゃないの?」ということです。
「Class BはClass Aの10倍の議決権がある。」(上図で(A)→(B))と見ると、「Class Bのやつだけズリぃぞ!俺たちにももっと議決権をよこしやがれ。」という気持ちにもなりますが、
「Class Bは同じ議決権に対してClass Aの1/10の経済的価値しかありません。」または「Class Aは同じ議決権あたりClass B の10倍の価値がございます。」(上図で(B)→(A))と言われれば、「うん、Class Aも悪くないじゃん。」という気持ちにならないですか?
公開した後に、いきなり「本日よりClass Bの議決権は10倍とさせていただきます。」と言われたら、「おい、ざけんじゃねーぞ!」と怒ってかまわないと思いますが、Googleは初めから今の株主がそういう構造で株式を保有しているところを、今回、「こういう条件ですがよろしいですか?」と断って株を公募するわけです。
つまり、もともと100%株式を保有している創業者が5%だけ公募してIPOしても、それがガバナンスの問題に直結するわけではないのと同様、この構造でもそれがガバナンスの問題に直結するというわけではないはずです。
さらに、Googleの創業者たちは普通の100%所有のオーナー会社とは違って「図の点線で囲まれた白い(X)の部分の経済的価値は放棄している」とも考えられるわけです。
2種類の投資家
また、S-1によると、

Academic studies have shown that from a purely economic point of view, dual class structures have not harmed the share price of companies. The shares of each of our classes have identical economic rights and differ only as to voting rights.

とのことです。
元の論文が引用されてませんが、恐らく、同様のDual Class構造を取るメディア企業(New York Times Company、the Washington Post Company、Dow Jones)などの株価等を見て、こうした構造が株価に悪影響を与えないという研究があるんでしょう。
フツーの投資家は、一般に会社の経営に参画したいわけではなく、ただ株で儲けたいだけなので、議決権の一部を付けないことでまったく同じ経済的価値の株が安く買えるなら、それは、フツーの投資家にとっては、いい選択肢と言えるかも知れません。((A)の観点。)
(B)の観点からGoogleを見るのは、「あなたのすべてがほしい」というスケベ心のある人だけです。
「巨人たちの戦い」のルール
これがもし時価総額25億円の企業の株式なら、「あ、オタクの株、全部もらっとくよ。支払はAMEXでいい?(笑)」というお金持ちな企業は結構いっぱいいます。そういう場合は、市場原理を働かすためにも、Class Bなんて姑息なことはしない方がいいかも知れない。
しかし、時価総額2兆5千億円((B)の観点からすると20兆円超のオーダーか)ともなると、(B)の観点からGoogleを眺めるのは、MicrosoftなどGoogleのライバルとなる世界でも一握りの企業等に限られてきます。
こういうレベルの話で、金の力にモノを言わせてGoogleを買いに入るというのは、市場原理というよりは、むしろ適切な資源配分を保証する市場原理が歪められた独占禁止法的フィールドのお話にもなってきます。
ということで、Googleクラスの企業であれば、純粋にサービスや製品の良さでの競争が歪められないようにするという意味でも、単純にClass Aだけで公開するというより、こうしたDual Class構造を取って公開するほうがいいと言えるかも知れません。
(Googleの経営陣がヘボかった場合にきちんとガバナンスが働く可能性があるのか、という点については、また後日。)
ではでは。
ご参考URL:
オープンな社会とベンチャー(isologueバックナンバー):
https://www.tez.com/blog/archives/000051.html

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企業評価とバブルの発生メカニズム

昨日のコメントに対して、梅田さんやatomisedcross さんからコメントいただきました。ありがとうございます。
梅田さんと「言いたいことがずれている」んではないかと、atomisedcrossさんからコメントいただいておりますが、いえいえ。一日に書ける量に限りがあるのでコメントしておりませんでしたが、私も梅田さんと同じく、ヒジョ〜に「違和感」を感じているんです。
ので、本日はこの「直観に基づく違和感」が何なのかを自分なりに整理してみたいと思います。
「バブルの匂い」
結論から言うと、この「違和感」は「バブルの匂い」から来るのではないでしょうか。
中妻穣太さんにいただいたtrackbackの記事と、引用いただいた私のエンロン本の書評もご参照あれ。)
昨日の渡辺千賀さんのblog「Google IPO:未公開企業の価値の計算」の中で、Comparable(類似会社比準方式)その他の企業評価手法について書かれてましたが、まさにこの人間(市場)が行う企業評価の手法、モノの価値の考え方そのものにバブル発生のメカニズムが隠されているのではないかと思います。
現在の市場が見るGoogleの企業価値は、明らかにこうした企業評価方法、特に「類似会社比準」的な考え方で考えられています。「Yahooに比べたらどうか」「eBayと比べたらどうか」「もしかして、Microsoftを脅かすOS的存在になるんじゃねーのか?」
「椅子は一つ」・・・(か?)
ネットバブルの時も例えばポータルのマーケットでいくと、Yahooもexciteも何もかんも、「他社があのくらいの値段だから」という論理で値付けされてました。
ところがネットの恐ろしいところは、多くの場合、勝ち組が1社に絞られるところ。
つまり、「シュレディンガーの猫」のように、ふたを開けるまでは猫は生きてるか死んでるかわからないが、最後の瞬間、勝ち組は確定し、「あなたの選んだ箱の中の猫は死んでました」ということになるわけです。
DCFで考えると、「今後この企業が生み出すであろうキャッシュは、1年目、2年目、3年目・・それぞれ○億円、△億円、□億円・・・」ということでvaluationされていたのが、その2年目以降が消え去るわけです。
「精子」(笑)の例えのほうがわかりやすいかも知れません。
どの精子もがんばって卵子に向かって必死に泳ぐわけですが、卵子に到達できるのは一匹だけ。あとは全部死ぬわけです。
ネットのバブル崩壊メカニズム
マクロ経済全体で考えて見ると、例えばあるマーケットで、
A社:3,000億円
B社:2,500億円
C社:2,000億円
合計:7,500億円
という時価総額だったとします。どれもが勝ち残る可能性がある状況では、その会社が「将来も生きているとして」valuationされるわけですが、死んだ瞬間に、死んだ企業の価値は限りなくゼロになってしまう。(渡辺千賀さんのblogでいうと、「Firesale value」。)
これが、棲み分けのできるfragmentedな市場で細かい企業が死んだり生まれたりするというのなら、マクロ的な影響は大したことないわけです。しかし、B社、C社が死んで0になったとすると、A社の将来生み出すキャッシュフローの確実性が高まってA社の価値が4,000億円に上がったとしても、マーケット全体の合計では3,500億円分の価値が消失してしまうわけです。
A社:4,000億円
B社:  0億円
C社:  0億円
合計:4,000億円
ましてや、Googleは2.5兆円とか4兆円とかいうお話になってしまっているわけで。
つまり、5年後に、MicrosoftとYahooとGoogleは、仲良く3社とも棲み分けて生き残っているんでしょうか?
「ネットバブルとはここが違う」という反論がおありの方もいらっしゃるかと思います。
もちろんそうです。違います。ネットバブルの時の多くの企業と違って、Googleはすでに大黒字ですし。
ただし、「あの時と同じ」バブルというのは発生しないんです。今や、誰もチューリップの球根が1億円になるだろうとか、春日部の3,000万円の土地がもうすぐ5,000万円になるんじゃないか、てなことは考えない。「今度はあの時と違う!」と思うから、バブルになるわけで。
バブルの中で語るバブル
ネットバブル絶頂のころに、San Joseの郊外に白亜の殿堂を買った技術者(日本人でないので土地バブルを体験していない)の家に遊びにいったのですが、
「この家の3軒となりは○○社のfounderの家、こっちの横は△△社のCEOの家だ。いいところだろ?今はこの値段で買えたが、来年はこんな値段じゃ買えない。俺はラッキーだ。」
てなことを言ってるので、(頭がバブってやがるぜ)と思って、
「80年代終盤のトーキョーでもみんな同じことを言ってたけど、不動産の値段は1/3になっちゃったよ。ここだって、280を車で10分行ったら広大な原野が広がってるじゃない。ちょっとあそこを開発するだけで、いくらでも土地供給が増えて、値段なんて簡単に下がっちゃうよ。」
とは申し上げたのですが、
「いや、東京とシリコンバレーは違う!東京は単なるアジアの一都市だが、シリコンバレーはインドや中国から大量に技術者が流入してくる世界の技術の中心なんだ。インドや中国の人口がどのくらいだと思ってるんだ?だから、いくら土地供給があろうが、土地の値段は上がり続けるよ。」
とおっしゃるので。
東京も、80年代後半には「東京は国際金融センターになって世界の人が押し寄せるので、土地供給が圧倒的に不足する」はずだったんですけどね。
その1年前の99年ごろ、東海岸の某大手金融機関に伺った際にも、そこのトップの方々は、ご自分の保有する会社の株のキャピタルゲインで明らかに顔がほころんでらっしゃいまして。
私が、「今のアメリカの株価は、ちょっとバブルが入ってるんじゃないかと思うんですよ。なんか、雰囲気が80年代終盤の日本と非常によく似てます。」と余計なことを申し上げると、
「君はうちの著名アナリスト○○のレポートを読んだかい?80年代終盤の東京と、今のアメリカは全く違う。なぜなら・・・」という感じで、取り付く島なし。
つまり、バブルの渦中で「これはバブルだ」と指摘しても白い眼で見られるだけ、というのもバブルの特徴ですので、バブルの話はこのくらいにしときます。
個々の企業の行動を非難できるか?
ここで重要なのは、「マクロ合計で考えるとそれだけの価値はないが、個々の企業の行動は生き残りのために必死でやっている合理性のあることであり、また、個々の企業価値計算はそれなりに合理性がある。」というところ。全体としてバブってるかどうかに関係なく、個々の企業の行動としては、ゲーム理論的にある手を選択するのが最も合理的ということがあります。
また、企業の失敗を、後から「ほれ見たことか」というのは簡単なのですが、将来がどうなるのかを完全に言い当てることは非常に難しい。将来に不確実性がある中で神ならぬ生身の人間が有限な能力で判断して運営しているのが企業の行動なわけです。
人為的に「この精子が元気そうだから、これを使おう」と体外授精してしまうのが「計画経済」なら、あくまでどの精子にも最後までチャンスを与えよう、というのが「市場経済」でして。
だから、このマクロとミクロのギャップに「違和感」を感じたとしても、個々の企業の行動として、(エンロンのように粉飾決算するというような一線を踏み越えてしまえば別ですが)、法や公序良俗に明らかに反する行動でない限り、それをとやかくいうのは、私は「かわいそう」な気がしますし、資本市場の基本的なルールからも逸脱していないと思います。
Googleも命がけで卵子を目指す一匹の「精子」なわけですから。
#これで、私もGoogleのboard memberに会う楽しみができたかも。
「ハーイ。私が『精子』のJohn Doerrだ。ハッハッハ。いや、ジョークジョーク。(笑)」

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Googleのコーポレートガバナンス(続き)

梅田さんから、先日の私の「Googleのコーポレートガバナンス」に対して、本日の「英語で読むITトレンド GoogleのIPOに対する直観に基づく違和感」で、過分なお言葉を頂戴いたしました。ありがとうございます。
また、「通りすがりA」さんからもコメントをいただきました。こちらもありがとうございます。
「通りすがりA」さん曰く;

『例えばこれが株主総会ではなくて取締役会の議決権について、「(社内の)経営陣は一人当たり社外取締役の2倍の取締役会の議決権を持つ」というようなことであればガバナンス上大問題ですし・・・』
グーグルの種類株は、書かれていることと同じ問題点をはらんでませんか?
株主総会では認められて、取締役会では認められないというのはおかしいと思います。
株主総会は取締役会よりも上位の意思決定機関ですよ。
本当に開示すれば何をしても良いのか?
エンロンやワールドコムのCEOがこのような種類株を保有していたらどうなったのでしょうか?

これは非常にgood questionだと思います。
多くの人が感じる「違和感」に共通する要素が端的に示されているんじゃないでしょうか。
昨日のコメントのとおり、このClass B common stockのClass Aとの違いは議決権数を引き上げる効果(だけ)です。つまり、

Because of our dual class structure, our founders, executives and employees will continue to be able to control all matters submitted to our stockholders for approval even if they come to own significantly less than 50% of the shares of our outstanding common stock.(S-1の89ページ等)

ということになるわけですが。
私の考えは以下のとおりです。まず、結論的なところから。
「エンロンやワールドコムのCEOがこのような種類株を保有していたらどうなったのでしょうか?」
ここで一つ逆に質問させていただきますと、
「経営陣が50%以上の議決権を持つ企業は必ず不正行為をするのでしょうか?」
・・・んなこたぁないですよね。
犯罪の意図のある人が多くの議決権を保有するとヤバいことになりますが、逆は真ならず。議決権を多く保有することがガバナンス上の問題に直結するのかというとそうではないです。
(例に挙げさせていただいて恐縮ですが具体例があったほうがわかりやすいので)
たとえば有価証券報告書を見ると、楽天株式会社は平成15年12月31日現在、三木谷浩史、株式会社クリムゾングループ、三木谷晴子(敬称略)の上位3名で約54.4%の株式を保有しており、実質、三木谷社長が過半数の議決権をコントロールできると考えられます。では、それがゆえに楽天はコーポレートガバナンス上問題がある会社と言えるでしょうか?
・・・んなこたぁないですよね。
また、株式公開にあたって襟を正すために、三木谷社長は持株を第三者に売却するなどして持株比率を下げてから公開すべきだったでしょうか?さらに、すべての公開会社は、社長個人の実質的なコントロール権を過半数以下におさえてから公開すべきでしょうか?
・・・そういうガバナンスの考え方は「新しい」かも知れませんが、今のところあまり検討されていない考え方ではないかと思います。
(最近の米国では、すでに証券会社のアナリストと営業部門の電話や電子メールはつながらないようにしている(!!)とか、アナリストは証券会社から分離してパブリックドメインなものにしようとか、数年前では考えられないような施策や議論が行われていますので、未来の資本主義社会では、そういう考え方になっている可能性は否定できませんが。)
こうした社長の持株比率の高さは、強いリーダーシップで次々にストラテジックな施策を繰り出せることにつながるのではないかと思います。
ただし、(楽天がどうということではなく一般論として)、それが社長の驕りや慢心につながる可能性がないとは言えません、が。
「株主総会は取締役会よりも上位の意思決定機関ですよ。」
おっしゃるとおりです。ただし、(米国の会社法やGoogleの定款等での規定を詳細には存じませんが)、取締役の多数決で会社の重要事項が決定されるとすると、直接には会社のコントロールは取締役会が行うことになります。(つまり、gmailに今後どのくらい資源を投入するか、とか、orkutを全体の事業の中でどう位置づけるのか、というような話は、経営上めちゃくちゃ重要かもわかりませんが、株主総会決議事項ではありません。株主総会は取締役会の上位機関ではありますが、その権限は取締役の選任等のごく一部の事項に限られ、意思決定の大半は取締役会以下のメンバーで行われることになります。)
昨日引用したとおり、現在、Googleの社内取締役は3名、社外取締役は6名。ですので、ガバナンスの直接の成否は、この取締役、特に社外取締役がどこまで良識を持ち正当な注意を払って業務執行を監督してくれるか、というところにかかっているわけです。
この方々の経歴はすさまじく、「信用できる方々である」と判断せざるを得ないオーラを放ってますが、実は見掛け倒しの「腰抜け」の方々ばっかりだったら、ガバナンスの仕組みとしては失敗です。
(話がそれますが、昨日、「梅田さん、Googleのboard membersに会う」という図を想像したら、結構、楽しかったですね。
「ハーイ。私が『腰抜け』のJohn Doerrだ。ハッハッハ。いや、ジョークジョーク。(笑)」
と、9人一人一人に握手を求められたりして・・・。
ぜひ、一発、ガツンとかましてきてください。>梅田さん)
(話を元に戻しますと)、ご心配のとおり、法律上はこの議決権を使って取締役を経営陣の息のかかった子飼いの人間(昔の同級生とか)に入れ替えてしまう可能性がないとは言えません。
が、「超監視状態」下に置かれているGoogleでそれができますか?ということですね。
(少なくとも、「市場」はそれにかなり落胆して、株価は大きく下がると思います。)
「本当に開示すれば何をしても良いのか?」
いいわきゃないですね。
(ちなみに、エンロンやワールドコムは、そもそも「開示してなかった」ので、今回の議論よりずっとレイヤーの低いお話です。)
しかし、このClass B common stockは「あり」だと思います。
また、梅田さんが「ちょっと株価が高すぎるんじゃないの?」というニュアンスで書かれていることについては、また後日コメントさせていただければと思います。
念のため申し上げておきますと、私は、昨日も本日も、「Googleの公開株価が適正である」というようなことは、一切申し上げておりません。
(というか、正直、「ひえー、高けー」という感じですが。)
あくまで、「議決権とコーポレートガバナンスの構造」について、(梅田さんの記事にTakanoさんがコメントされているように、非常に「普通」で「あたりまえ」の(あまりオモシロクない)観点から)、Class Bも「あり」ではないか、ということです。
「ボッタクリ」の件については、また後日。
(ではまた。)
参考URL:(例えば)通商白書2003「米国、制度面から見た企業システムの変化」
http://www.meti.go.jp/hakusho/tsusyo/soron/H15/01-03-02-01.html

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Googleのコーポレートガバナンス

Krpさん(「種類株」)梅田望夫さん(「GoogleのIPO申請、そのやり方に異議あり」)が取り上げられていた、Googleの1株で10個の議決権を持つ「Class B common stock」にかかわるガバナンスの問題について、ですが。
株主総会での議決権の比率は問題になるか?
梅田さん曰く:

問題の本質は、公開後のコーポレートガバナンスにある。2人の創業者が、一般の普通株に比べて強い議決権を持つ別種の普通株を保有し続ける構造をGoogleは提案しているが、これは許容すべきではない。そして、もっといえば、その背後にあるGoogleの唯我独尊的経営思想に危険を感じ、深く懸念する。株式公開という重要なターニングポイントにおいて、その点を、きっちり創業者たちにわからせておかなければならない。

通常、コーポレートガバナンス論では、取締役や監査、内部統制の仕組みなどについてはよく論じられますが、特定の株主グループの議決権比率が高いことが理論上問題になるということはあまりないと思います。持株比率が高いのはダメということだと、子会社や関連会社ではコーポレートガバナンスの仕組みは構築できないということになってしまいますので。
Googleが今回とったスキームは、「創業者の意のまま」を意図したものというよりは、「ポイズンピル」的な買収対抗策として、米国では比較的よく用いられる考え方の延長線上で理解できるものではないかと思います。
(GoogleのS-1
http://www.sec.gov/Archives/edgar/…/ds1.htm
のP89からの「Anti-Takeover Effects of Delaware Law and Our Certificate of Incorporation and Bylaws」参照。
以前書いた、「企業買収対抗方法の「特許」」で掲げたポイズンピル特許の記述も、米国でのポイズンピルのスキームを研究するのに参考になります。)
例えばこれが株主総会ではなくて取締役会の議決権について、「(社内の)経営陣は一人当たり社外取締役の2倍の取締役会の議決権を持つ」というようなことであればガバナンス上大問題ですし、「Class B common stock」1株が「Class A common stock」10株に転換できる、というような話なら、経済的にもズルっぽいわけですが、そうではないですし。
もちろん、梅田さんは議決権だけを問題にしているわけではなくて、それを端的な例としてGoogleに「唯我独尊的経営思想」が感じ取れるということを問題にしてらっしゃるということだと思います。
私は、Googleの経営陣に会ったこともないので、その方々が唯我独尊的思想の持ち主なのかどうかは存じませんが、一般にIPO時の開示資料では「適合性の原則(Suitability Rule)」(に関わる訴訟)を考慮して「こういうリスクもああいうリスクもあるよ(それでも株買いたいなら買え)」的な表現に傾きがちなので、そうした表現が「唯我独尊」的に感じられるのだ、とも考えられます。(このS-1の文章は、シリコンバレーの有名弁護士事務所Wilson Sonsini Goodrich & Rosatiのチェックもばっちり入っているものと思われます。)
社会的、経済的ガバナンス
今回のIPOを考えて見ると、今まで正確な売上や利益もわからなかったGoogleが詳細な情報を開示するという点で大きな前進がありました。加えてGoogleは、(時価総額20億円程度の小型株などとは違って)、「世界が最も注目する公開企業」の一つになるわけです。Googleが今後開示する情報は、アナリストやSECをはじめとする世界中の人からそれこそ舐めるように読み込まれ、Googleは、ちょっとでも怪しげなことをしたら訴訟等を覚悟しないといけない、財務資料をごまかそうとしてもErnst & Youngが見張ってる、といった、「超監視構造」の中に組み込まれることになります。
また、株価が下がるようなことをすれば、経営陣も自分の財産に1000億円単位で損害を被る可能性があるわけです。唯我独尊でなく「他人の意見を聞く」ということも含めて、経営陣は、会社を成功させようという方向にインセンティブが働くと考えるのが自然かと思います。
何をgovernすべきなのか
取締役等の役員が監督すべき観点には、(1) 会計処理の適正性、(2) 適法性、(3) 妥当性があると言われています。
例えば、エンロンで問われたのは主として(1)と(2)、特にSPCを多数使って粉飾を行い、(1)の会計処理の適正性を欠いたということでした。
エンロン後の企業改革法(Sarbanes-Oxley Act)の成立で、こうしたことを防止するための監査法人等に関するルールの強化、内部統制の拡充、などのしくみも導入されてきています。また、Googleの従業員は2004年3月末で1,907人(S-1 39ページ)。会社として決して小さくはないですが、Googleは収益構造も比較的単純で、エンロンのように、(1)や(2)のレベルのガバナンス上の問題が発生する可能性は比較的小さいのではないかと考えられます。
問題は(3)の業務執行の妥当性の監督について、です。これは、技術やマーケティングなど、Googleが成功するか失敗するかの意思決定すべてに関わってくる非常に範囲の広い概念で、取締役会の各directorの力量が問われるところです。
directorの監督は期待できないか?
ということで、一体どういうメンバーがdirectorをやっとるんかいな?、ということになるわけですが、

ボードメンバーが、これまでのルールを破るこんな異例な資本構造を導入したいと望むわけがないから創業者の無理が通った結果に違いないが、こんな案を是認したボードも腰抜けだと思う。

と、梅田さんが「腰抜け」と呼んだボードメンバーは9人。経営陣からはEric Schmidt、Sergey Brin、Larry Pageの3名で社外取締役は以下の6名です。(S-1の69ページ以降)

L. John Doerr: ベンチャーキャピタルKleiner Perkins Caufield & ByersのGeneral Partnerで、Amazon.com、 drugstore.com、 Homestore.com、Intuit、palmOne、 Sun Microsystemsなどのdirectorを兼任。
John L. Hennessy:Stanford大学President、Cisco Systemsの取締役経験者。
Arthur D. Levinson:Genentechの会長兼CEO、Apple Computerのdirector等経験者。
Michael Moritz:これも言わずと知れたSequoia CapitalのGeneral Partner。
Paul S. Otellini:IntelのPresident and COO経験者
K. Ram Shriram:Netscapeの初期経営メンバー、(Amazon.comに買収された)Junglee のCEO、Amazon.comのVice President of Business Developmentなどを歴任。

もちろん、最も大事なのは個々の取締役がどの程度真剣にGoogleおよびその株主のことを考えて行動してくれるかどうかという「精神面」であって、メンバーのブランドや機構論はそれを形式的に支えるものでしかないわけですが。
経営者が親戚のおっさんや、自分の思い通りに動く昔の同級生などで取締役会メンバーを固めてるとかいうのであればガバナンス上大きな問題ですが、上記のメンバーは少なくとも形式的には「これ以上どうせいっちゅーねん?」という経歴の方々です。
また、S-1の71ページによると、現在は株式などの種別ごとに取締役選任権がありますが、「Upon the closing of this offering, these board representation rights will terminate.」と書いてあります。では、IPO後は議決権にモノを言わせて経営陣が親戚のおっさんをかき集めてdirectorに据えられるのかというと、それは(社会的なプレッシャーからも)無理ではないでしょうか。
結局、経営者を直接governするのは取締役会なので、そのメンバーがちゃんとした監督をする人たちであれば、会社としての妥当性や透明性は保たれると考えられます。
「代わり」はいるのか?
梅田さんがおっしゃるとおり、シリコンバレーでは日本のように、創業者が「わしの目の黒いうちは社長の椅子は渡さん!」といってるみたいなノリとは無縁で、創業者より優秀な経営者候補がいれば、資本の原理に従って企業価値をより高められる人が経営者に付く、というシステムになっているようです。
ただし、これはあくまで企業価値をより高められる人がいれば、の話で、創業者がそのまま経営陣にいたほうが企業価値が上がると合理的に考えられるのなら、何も経営陣からはずす必要はないはずです。
Sergey BrinとLarry Pageのお二人は、どの程度「代えのきく」方々なんでしょうか?
その程度の人なら世界に何人かはいそうな方々なのか、Googleの事業を行うのに余人をもって代えがたい方々なのか。
本人らも、「こいつがやったほうが俺がやるよりも株が上がる」と明らかに思われる人が現れたら、とっとと役員を辞めて株を売っぱらい、カリブの豪華別荘で暮らせばいいだけです。BからAに転換すると、議決権は1/10になりますが、経済的価値は変わらないわけですから。
というか、たとえそういうことを考えていたとしても、IPO時の資料に「僕より才能のある人はいくらでもいると思うので、いい人が現れたら交代しても全然構わないっすよ」なんてことは書く必要もないと思います。
予想されるスキーム構築の経緯
「Class B common stock」は最近IPOに向けてあわてて発行されたものではなく、少なくとも2001年中には発行されていたようです。また、同じく1株で10個の議決権を持つClass A Senior common stockは、設立のときからあったようです。(S-1のF-5、F-6ページのEquityの推移、F-28、F-35ページ等参照。)
さらに、S-1の1ページには、「GoogleはCalifornia で1998年9月に設立されたが、2003年の8月にDelaware州でreincorporatedした」と書かれております。
つまり、梅田さんは「ボードメンバーが、これまでのルールを破るこんな異例な資本構造を導入したいと望むわけがない」とおっしゃいますが、VCは「もともとそういう資本構造の会社」に投資したし、directorたちは今までのIT系事業に関わってきた見識からプロコンを考えた上で、従来から存在したClass B common stock をGoogleの今後の事業展開のためにあえて残し、Delaware州法も活用したAnti-Takeoverのスキームの中に位置づけるほうが望ましい、と判断したとも考えられます。
対買収戦略をとることは「悪」か?
リスクファクターのしょっぱな(S-1の4ページ)に「We face significant competition from Microsoft and Yahoo」と書いてあります。ここで、製品やサービスなどの競争もさることながら、IPOした企業同士では、競争相手の戦力を無力化する手法として「買っちゃう」という手が使えるわけです。
(ご参考:「オープンな社会とベンチャー」
https://www.tez.com/blog/archives/000051.html
MicrosoftやYahooは、「ネットワーク外部性」などの外部性が極めて強く働くビジネスモデルで、経済学的に言えばいわゆる「市場の失敗」が発生している企業ともいえます。
そもそも、そういう「市場メカニズムで必ずしもgovernされない」相手に対して、こちらは市場の標準的な慣習に沿って戦う義理はあるのでしょうか?
みなさんがGoogleのdirectorだったとして、こういう状況で「Microsoftに買収されたら、それはそれで大金持ちになるんだからいいじゃん。買収対抗策なんて考えずにフツーのIPOで行こうよ。」と言えるかということですが。
上空から空爆される危険性が大いに予想されるにも関わらず、身を隠すところのない平原に丸腰で突撃することを勧められるかというと、私はちょっとその自信はないですね。
せっかく経営陣が1株で10個の議決権のある株式を持っているにも関わらず、わざわざそれを1/10の議決権しかない株式に転換しろと勧めたせいで、安めに買収されてしまった、または買収騒ぎのおかげで業績が悪化した、などということになれば、Kleiner Perkins やSequoiaに投資している投資家をはじめ株主からも訴訟を受けかねないのではないでしょうか。
「あり」か「なし」か
経営者の持株比率が低いために「本業」以外の(買収への対抗作業を含む)フィナンシャルな雑事に大きな労力を割かれて苦労しているベンチャー企業の経営者を多く見かけるので、私としては、こうしたスキームを採用したことについてはつい評価しちゃうんですけど。
もちろん、Googleのdirectorのに実際にお会いしてみたら、やっぱり「ただのお飾り」や「腰抜け」の方々で、目先の金に目がくらんだりクビが怖くて言いたいこともいえない方々なのかも知れません。また、買収対抗策をとったから成功が約束されるというわけではありませんし、通常より経営陣の主張がとおりやすくなるのは間違いないので、今後、経営陣の判断ミスでGoogleが破綻することになっても責任取れませんので、あしからず。
ただ、私の結論として、こういうAnti-Takeoverスキームを組み込んだIPOは(特にGoogleのような状況に置かれている企業の場合)「あり」だと思います。
(ではまた。)

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会社設立への優先株式の利用(reloaded)

krpさんより「自己資金なしで(1円会社でない)会社を作る方法(種類株式の利用)」にトラックバックをいただきました。
(「種類株」http://krp.web.infoseek.co.jp/mt/archives/000124.html
ありがとうございます。
私も、種類株は創業期の資金調達にはきわめて有効な手段だと思います。問題は、上場を目指す場合に、それを普通株何株に転換するかで、上場後の経営権が左右されてまうことでしょうか。
創業後、会社が軌道に乗ってきたあたりでベンチャーキャピタル等から出資を受ける場合には、種類株の要件をどうするかというのは非常にシビアな問題になってくるかと思います。相手(VC等)はファイナンスのプロですし、金額もそれなりに大きくなりますので。
また、krpさんの上記の記事や梅田望夫さんが問題にされていた、GoogleのB種普通株(Class B common stock)によるガバナンスのような問題
http://blog.japan.cnet.com/umeda/archives/001187.html
もあるかと思います。
(これについては、ちょっと意見がありますが、また今度。)
ただ、私が「自己資金なしで会社を作る方法(種類株式の利用)」で申し上げたのは、設立時のエンジェルの方などによる出資のケースで、なんとか最低資本金をクリアしようというレベルのお話なので、比較的単純に考えられるんじゃないかと考えています。
例を挙げますと、
(1) 設立時に創業メンバーが普通株式で50万円出して、エンジェルの方が優先株式で950万円出資するとします。つまり、出す資金の比率は1:19。
(2) 普通株式は1株5,000円で創業者は100株。優先株式は1株95万円で10株とします。
(3) 優先株式には、残余財産の優先分配権が付きます。また、ベンチャーの場合、配当はあまり期待できないですが、理論上は、普通株式に配当を行う場合、優先株主には1株あたり普通株式1株あたりより多い配当(単純に95万円/5千円とすると190倍だが、それに限らない。)の配当が支払われるというような決めにしておかないとバランスが取れないですね。(他の優先権も付けられますが、ここでは省略。)
(4) 優先株式の議決権は、1株あたり1個とします。つまり、エンジェルの方の議決権は10個なので10/110=全体の約9%だけとなります。
(5) 優先株式は普通株式への転換請求権を持ちます。優先株式1株に対して普通株式1株。
(6) そして、IPO準備に入った場合等には、優先株式は普通株式に転換する旨の強制転換条項(商法222条ノ8)を付けておきます。これも、優先株式1株に対して普通株式1株。
image002.gif
以上のような条件の優先株であれば、上場前には必ず普通株式に転換されているので、主幹事証券や証券取引所にイヤな顔をされることもないでしょうし、上場後もエンジェルの方の議決権は9%未満にしかなりませんので、資本政策上も妥当でしょう。
逆に、「資金は95%出しておいて議決権9%というのは、ちょっとひどいんじゃないの?」という気がする方もいらっしゃるかも知れません。が、優先株式のまま保有すれば、残余財産の優先分配権等の優先権もついてますし、950万円しか資金を出していないのに、IPOで仮に会社が40億円の時価総額になったとすれば、設立後の増資等によって持株比率が5%まで落ちていたとしても、2億円、約21倍になるわけですから、悪い話じゃないのではないかと思います。(もちろん、成功した場合には、ですが。イー・アクセスのように設備集約型の場合はともかく、ベンチャーはツブれたら何も残らないことが多いので、残余財産の優先分配権など、あまり関係ないかも知れません。)
当然、上記のいろいろな比率や数値は、エンジェルの方のタイプや目的によっても異なります。
「田んぼを売って金はうなるほどあるけど、会社の経営とかまったくわからん。」というエンジェルの方なら、あまり議決権を付与するのはリスクがありますし、逆に、「元ベンチャー経営者でIPOで大金持ちに。人格的にもすぐれ、経営上のアドバイスや人脈紹介も大いに期待できる。」というような方なら、もっと議決権を付与しても全くOKかも知れません。
さらに、ベンチャー側の魅力度や有望度でも、交渉力は変わってきますね。
また、以上は、公開を目指しているベンチャーの場合を想定してますが、はじめから公開は目指さない起業の場合には、また、設計が変わってきます。
(ではまた。)

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ホテルの通信設備

連休に遠出すると混んでて大変なので、数年前から連休の旅行といえば逆張りで近場のホテルに出かけるパターンが多くなってます。一家4人の交通費を考えれば、遠くの安ホテルに泊まるよりも、バブリーな雰囲気の割にトータル・コストはかえって安いし。
ということで、本日は、(今さらではありますが)六本木ヒルズのグランドハイアットに泊まってます。
5年くらい前までは電話機にモジュラージャックの穴が付いているホテルも少なくて、電話につながってるモジュラージャックをはずしたり、家具を移動させて壁のモジュラージャックにさしたり、大変な思いをして通信したもんですが、最近は100MbpsクラスのLANが客室に標準装備になってきまして。
デスクの引き出しに、ちゃんとLANケーブルも入ってます。
GrandHyattTokyoLan1.JPG
こんな感じで接続。
GrandHyattTokyoLan2.JPG
LANに接続すると、(Explorerのデフォルトのページに指定しているわけではないのに)ホテルの紹介ページが立ち上がります。
GrandHyattTokyoHP(s).JPG
http://www.grandhyatttokyo.com/index_f.html
(外からアクセスした場合に出てくるトップページと違います。)
(ではまた。)

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