Googleのコーポレートガバナンス(続き)

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梅田さんから、先日の私の「Googleのコーポレートガバナンス」に対して、本日の「英語で読むITトレンド GoogleのIPOに対する直観に基づく違和感」で、過分なお言葉を頂戴いたしました。ありがとうございます。
また、「通りすがりA」さんからもコメントをいただきました。こちらもありがとうございます。
「通りすがりA」さん曰く;

『例えばこれが株主総会ではなくて取締役会の議決権について、「(社内の)経営陣は一人当たり社外取締役の2倍の取締役会の議決権を持つ」というようなことであればガバナンス上大問題ですし・・・』
グーグルの種類株は、書かれていることと同じ問題点をはらんでませんか?
株主総会では認められて、取締役会では認められないというのはおかしいと思います。
株主総会は取締役会よりも上位の意思決定機関ですよ。
本当に開示すれば何をしても良いのか?
エンロンやワールドコムのCEOがこのような種類株を保有していたらどうなったのでしょうか?

これは非常にgood questionだと思います。
多くの人が感じる「違和感」に共通する要素が端的に示されているんじゃないでしょうか。
昨日のコメントのとおり、このClass B common stockのClass Aとの違いは議決権数を引き上げる効果(だけ)です。つまり、

Because of our dual class structure, our founders, executives and employees will continue to be able to control all matters submitted to our stockholders for approval even if they come to own significantly less than 50% of the shares of our outstanding common stock.(S-1の89ページ等)

ということになるわけですが。
私の考えは以下のとおりです。まず、結論的なところから。
「エンロンやワールドコムのCEOがこのような種類株を保有していたらどうなったのでしょうか?」
ここで一つ逆に質問させていただきますと、
「経営陣が50%以上の議決権を持つ企業は必ず不正行為をするのでしょうか?」
・・・んなこたぁないですよね。
犯罪の意図のある人が多くの議決権を保有するとヤバいことになりますが、逆は真ならず。議決権を多く保有することがガバナンス上の問題に直結するのかというとそうではないです。
(例に挙げさせていただいて恐縮ですが具体例があったほうがわかりやすいので)
たとえば有価証券報告書を見ると、楽天株式会社は平成15年12月31日現在、三木谷浩史、株式会社クリムゾングループ、三木谷晴子(敬称略)の上位3名で約54.4%の株式を保有しており、実質、三木谷社長が過半数の議決権をコントロールできると考えられます。では、それがゆえに楽天はコーポレートガバナンス上問題がある会社と言えるでしょうか?
・・・んなこたぁないですよね。
また、株式公開にあたって襟を正すために、三木谷社長は持株を第三者に売却するなどして持株比率を下げてから公開すべきだったでしょうか?さらに、すべての公開会社は、社長個人の実質的なコントロール権を過半数以下におさえてから公開すべきでしょうか?
・・・そういうガバナンスの考え方は「新しい」かも知れませんが、今のところあまり検討されていない考え方ではないかと思います。
(最近の米国では、すでに証券会社のアナリストと営業部門の電話や電子メールはつながらないようにしている(!!)とか、アナリストは証券会社から分離してパブリックドメインなものにしようとか、数年前では考えられないような施策や議論が行われていますので、未来の資本主義社会では、そういう考え方になっている可能性は否定できませんが。)
こうした社長の持株比率の高さは、強いリーダーシップで次々にストラテジックな施策を繰り出せることにつながるのではないかと思います。
ただし、(楽天がどうということではなく一般論として)、それが社長の驕りや慢心につながる可能性がないとは言えません、が。
「株主総会は取締役会よりも上位の意思決定機関ですよ。」
おっしゃるとおりです。ただし、(米国の会社法やGoogleの定款等での規定を詳細には存じませんが)、取締役の多数決で会社の重要事項が決定されるとすると、直接には会社のコントロールは取締役会が行うことになります。(つまり、gmailに今後どのくらい資源を投入するか、とか、orkutを全体の事業の中でどう位置づけるのか、というような話は、経営上めちゃくちゃ重要かもわかりませんが、株主総会決議事項ではありません。株主総会は取締役会の上位機関ではありますが、その権限は取締役の選任等のごく一部の事項に限られ、意思決定の大半は取締役会以下のメンバーで行われることになります。)
昨日引用したとおり、現在、Googleの社内取締役は3名、社外取締役は6名。ですので、ガバナンスの直接の成否は、この取締役、特に社外取締役がどこまで良識を持ち正当な注意を払って業務執行を監督してくれるか、というところにかかっているわけです。
この方々の経歴はすさまじく、「信用できる方々である」と判断せざるを得ないオーラを放ってますが、実は見掛け倒しの「腰抜け」の方々ばっかりだったら、ガバナンスの仕組みとしては失敗です。
(話がそれますが、昨日、「梅田さん、Googleのboard membersに会う」という図を想像したら、結構、楽しかったですね。
「ハーイ。私が『腰抜け』のJohn Doerrだ。ハッハッハ。いや、ジョークジョーク。(笑)」
と、9人一人一人に握手を求められたりして・・・。
ぜひ、一発、ガツンとかましてきてください。>梅田さん)
(話を元に戻しますと)、ご心配のとおり、法律上はこの議決権を使って取締役を経営陣の息のかかった子飼いの人間(昔の同級生とか)に入れ替えてしまう可能性がないとは言えません。
が、「超監視状態」下に置かれているGoogleでそれができますか?ということですね。
(少なくとも、「市場」はそれにかなり落胆して、株価は大きく下がると思います。)
「本当に開示すれば何をしても良いのか?」
いいわきゃないですね。
(ちなみに、エンロンやワールドコムは、そもそも「開示してなかった」ので、今回の議論よりずっとレイヤーの低いお話です。)
しかし、このClass B common stockは「あり」だと思います。
また、梅田さんが「ちょっと株価が高すぎるんじゃないの?」というニュアンスで書かれていることについては、また後日コメントさせていただければと思います。
念のため申し上げておきますと、私は、昨日も本日も、「Googleの公開株価が適正である」というようなことは、一切申し上げておりません。
(というか、正直、「ひえー、高けー」という感じですが。)
あくまで、「議決権とコーポレートガバナンスの構造」について、(梅田さんの記事にTakanoさんがコメントされているように、非常に「普通」で「あたりまえ」の(あまりオモシロクない)観点から)、Class Bも「あり」ではないか、ということです。
「ボッタクリ」の件については、また後日。
(ではまた。)
参考URL:(例えば)通商白書2003「米国、制度面から見た企業システムの変化」
http://www.meti.go.jp/hakusho/tsusyo/soron/H15/01-03-02-01.html

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8 thoughts on “Googleのコーポレートガバナンス(続き)

  1. 「ちょっと株価が高すぎるんじゃないの?」というニュアンスは今回の論点には全く入れていないつもりです。念の為。
    あと僕の問題意識でたぶん大きいのは、実際にトップが50%の株式を持っている場合と、Class Bを持つことでパワーを握り続ける場合との違いかもしれません(前者はよいが後者は?)。
    経営がうまくいっているときというのは、大抵どういうガバナンスでも会社はうまくまわります。問題は悪くなったときのことです。仮に悪くなったとして、さらに資金調達した場合、経営者の持分は普通なら応分に減っていき、それとともに自然にガバナンスが働くようになってきます。しかし、Class Bの場合だとそうはいかないのではないでしょうか。それを指して僕は「固定的」と表現したつもりです。ひょっとしたら、僕が何か大きな勘違いをしているでしょうか?

  2. Googleのガバナンス

    Googleのガバナンスに関して、面白い記事を書かれている方が多いので、ここで紹介させて頂きます。論点は、創業者2人が優先的な決定権を持つ株を持つという点です。 私は、正直このガバナンスが正しいのかどうかよりも、どうやったらGoogleみたいな企業が生まれるのか、の…

  3. コメントありがとうございます。
    『「ちょっと株価が高すぎるんじゃないの?」というニュアンスは今回の論点には全く入れていないつもりです。念の為。』
    失礼いたしました。
    ただし、客観的に(PBRやPERなどから)見て、Googleの株価がふつうの株よりかなり高めであり、ダウンサイドリスクが非常に高いということは言えるんじゃないかと思います。
    また、Class Bのマジックによって、”本当の時価総額”は表面的な時価総額よりさらに高くなっているというトリックもあるかと思います。
    『問題は悪くなったときのことです。』
    これも、おっしゃるとおりかと思います。
    ただし、Class Bがあることで、Class Aだけの場合よりは、当然、経営者を淘汰するパワーは働きにくくなるわけですが、Class Bの力も無尽蔵ではありません。
    どこまで株価が下がればその効果が出てくるか、という「程度問題」になるわけですが、少なくとも、ネットバブル時によくあったように、1兆円以上の株価が数百億円まで下がってしまうような下がり方をした場合には、経営陣も無傷では済まないでしょう。
    詳細については、また、後日コメントさせてください。ではでは。

  4. [business][google]既にただの観客ですが・続GoogleのIPO

    Googleが議決権の異なる2種類の株式を設定すること自体に制度的な問題があるわけではありませんので、残されているのはポリシーの問題、そして将来予測の問題だけです。そのどちらに対しても、私は何事かを言 …

  5. こんばんは、初めまして。
    これは梅田さんに、お返事した方が良いことかもしれませんが、お二人の言いたいことがずれているのかなと思い、
    書き込みさせて頂くことにしました。
     梅田さんが無意識に感じて、GoogleのIPOに対して意見されたことは、
    GoogleのIPOに対してではなく、社会、世間、世界のモラルの問題なのかもしれないと思いました。
     もっとも、アメリカナイズされた株式市場の文化に、(古風な日本的)モラルを言っても始まらないのかもしれませんが、
    そもそも、エンロンの粉飾決算や議論が途中で止まってしまったブッシュ大統領への政治献金問題などは論外であると思っています。
     起業経営者は、株式上場によって得られるであろう経営者と投資会社へのキャピタルゲイン、
    更には金融市場の活性化と言う、経済学的な働きだけを考えるだけではなく、
    かつて、原爆の原理を作り出したことで後に心を病んだアインシュタインの様に、
    社会や世界、地球環境への配慮も忘れてはならないのだと思っています。
     マイクロソフトだけとは言いませんが、資金、お金に任せた力業が通ってしまう世の中では、
    悪しき副産物(=モラルの崩壊)最終的なつけを、何も関係のない第三者に押しつけているのかもしれないと思っています。
    私の理系の思想を応用すれば、エネルギー保存の法則にならい、
    経済が発展し、繁栄するとき、長い時間をかけて作られてきた、文化やモラルを破壊して、それをエネルギーにして発展するように
    も思えます。
     もしかすると、梅田さんの思いは、深い部分で、そんなところを訴えたかったのかと少しだけ考えてしまいました。
     差し出がましい上、勘違いしていましたら申し訳ありません。

  6. もう一つ、お二人の意見とGoogleのIPOの現実(MSNからの買収を避ける)について、
    以前聞いたエピソードと重なる部分を感じたので、書き添えます。
    茶碗を見た古代人が、
    ある人は丸いと言い。
    ある人は三角だと言い。
    あるひとは楕円だと言う。
    それぞれ話は全て正しいのですが、見る方向が違えば、おのずと結果が違うのだと思います。
    人はどんな事が大事か(見る方向)を決め、それを主張(丸か三角か)する。
    それはblogの一番楽しいところだし、自分の視野の狭さを気づかせてくれる、とても有意義な時間だと思っています。

  7. 私のコメントに対して詳細なお返事ありがとうございます。
    私が言いたかったことは、梅田さんのコメントの通り、種類株で議決権の過半数を持つのと普通株にて過半数持つのとは意味合いが違うということです。
    あえて種類株にて議決権を維持しようとしているところに、ガバナンスのゆがみが生じるのではないかと思います。
    これまた梅田さんがコメントされている通り、経営が上手くいかなくなった場合を危惧する必要があります。
    グーグルという非常に人気のある銘柄であるため、すぐにエンロンやワールドコムを想像される方は少ないとは思いますが、日本の上場審査は「性悪説」を前提に行われます。
    ガバナンスをゆがめる「仕組み」、モラルハザードを起す「仕組み」があること自体が問題となります。
    しかし、ブログってこういう議論ができていいですね!(笑)

  8. Google IPOのやり方は良くないのか?

    GoogleのIPOについての梅田さんの記事が話題になっている。 GoogleのIPO申請、そのやり方に異議あり (抜粋:CNET Japan) これまでの「公開企業の資本構造のルール」に則って、粛々と株式公開するので、何が不足なのか。Googleの唯我独尊的経営思想をチェックする機能を、…