企業評価とバブルの発生メカニズム

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昨日のコメントに対して、梅田さんやatomisedcross さんからコメントいただきました。ありがとうございます。
梅田さんと「言いたいことがずれている」んではないかと、atomisedcrossさんからコメントいただいておりますが、いえいえ。一日に書ける量に限りがあるのでコメントしておりませんでしたが、私も梅田さんと同じく、ヒジョ〜に「違和感」を感じているんです。
ので、本日はこの「直観に基づく違和感」が何なのかを自分なりに整理してみたいと思います。
「バブルの匂い」
結論から言うと、この「違和感」は「バブルの匂い」から来るのではないでしょうか。
中妻穣太さんにいただいたtrackbackの記事と、引用いただいた私のエンロン本の書評もご参照あれ。)
昨日の渡辺千賀さんのblog「Google IPO:未公開企業の価値の計算」の中で、Comparable(類似会社比準方式)その他の企業評価手法について書かれてましたが、まさにこの人間(市場)が行う企業評価の手法、モノの価値の考え方そのものにバブル発生のメカニズムが隠されているのではないかと思います。
現在の市場が見るGoogleの企業価値は、明らかにこうした企業評価方法、特に「類似会社比準」的な考え方で考えられています。「Yahooに比べたらどうか」「eBayと比べたらどうか」「もしかして、Microsoftを脅かすOS的存在になるんじゃねーのか?」
「椅子は一つ」・・・(か?)
ネットバブルの時も例えばポータルのマーケットでいくと、Yahooもexciteも何もかんも、「他社があのくらいの値段だから」という論理で値付けされてました。
ところがネットの恐ろしいところは、多くの場合、勝ち組が1社に絞られるところ。
つまり、「シュレディンガーの猫」のように、ふたを開けるまでは猫は生きてるか死んでるかわからないが、最後の瞬間、勝ち組は確定し、「あなたの選んだ箱の中の猫は死んでました」ということになるわけです。
DCFで考えると、「今後この企業が生み出すであろうキャッシュは、1年目、2年目、3年目・・それぞれ○億円、△億円、□億円・・・」ということでvaluationされていたのが、その2年目以降が消え去るわけです。
「精子」(笑)の例えのほうがわかりやすいかも知れません。
どの精子もがんばって卵子に向かって必死に泳ぐわけですが、卵子に到達できるのは一匹だけ。あとは全部死ぬわけです。
ネットのバブル崩壊メカニズム
マクロ経済全体で考えて見ると、例えばあるマーケットで、
A社:3,000億円
B社:2,500億円
C社:2,000億円
合計:7,500億円
という時価総額だったとします。どれもが勝ち残る可能性がある状況では、その会社が「将来も生きているとして」valuationされるわけですが、死んだ瞬間に、死んだ企業の価値は限りなくゼロになってしまう。(渡辺千賀さんのblogでいうと、「Firesale value」。)
これが、棲み分けのできるfragmentedな市場で細かい企業が死んだり生まれたりするというのなら、マクロ的な影響は大したことないわけです。しかし、B社、C社が死んで0になったとすると、A社の将来生み出すキャッシュフローの確実性が高まってA社の価値が4,000億円に上がったとしても、マーケット全体の合計では3,500億円分の価値が消失してしまうわけです。
A社:4,000億円
B社:  0億円
C社:  0億円
合計:4,000億円
ましてや、Googleは2.5兆円とか4兆円とかいうお話になってしまっているわけで。
つまり、5年後に、MicrosoftとYahooとGoogleは、仲良く3社とも棲み分けて生き残っているんでしょうか?
「ネットバブルとはここが違う」という反論がおありの方もいらっしゃるかと思います。
もちろんそうです。違います。ネットバブルの時の多くの企業と違って、Googleはすでに大黒字ですし。
ただし、「あの時と同じ」バブルというのは発生しないんです。今や、誰もチューリップの球根が1億円になるだろうとか、春日部の3,000万円の土地がもうすぐ5,000万円になるんじゃないか、てなことは考えない。「今度はあの時と違う!」と思うから、バブルになるわけで。
バブルの中で語るバブル
ネットバブル絶頂のころに、San Joseの郊外に白亜の殿堂を買った技術者(日本人でないので土地バブルを体験していない)の家に遊びにいったのですが、
「この家の3軒となりは○○社のfounderの家、こっちの横は△△社のCEOの家だ。いいところだろ?今はこの値段で買えたが、来年はこんな値段じゃ買えない。俺はラッキーだ。」
てなことを言ってるので、(頭がバブってやがるぜ)と思って、
「80年代終盤のトーキョーでもみんな同じことを言ってたけど、不動産の値段は1/3になっちゃったよ。ここだって、280を車で10分行ったら広大な原野が広がってるじゃない。ちょっとあそこを開発するだけで、いくらでも土地供給が増えて、値段なんて簡単に下がっちゃうよ。」
とは申し上げたのですが、
「いや、東京とシリコンバレーは違う!東京は単なるアジアの一都市だが、シリコンバレーはインドや中国から大量に技術者が流入してくる世界の技術の中心なんだ。インドや中国の人口がどのくらいだと思ってるんだ?だから、いくら土地供給があろうが、土地の値段は上がり続けるよ。」
とおっしゃるので。
東京も、80年代後半には「東京は国際金融センターになって世界の人が押し寄せるので、土地供給が圧倒的に不足する」はずだったんですけどね。
その1年前の99年ごろ、東海岸の某大手金融機関に伺った際にも、そこのトップの方々は、ご自分の保有する会社の株のキャピタルゲインで明らかに顔がほころんでらっしゃいまして。
私が、「今のアメリカの株価は、ちょっとバブルが入ってるんじゃないかと思うんですよ。なんか、雰囲気が80年代終盤の日本と非常によく似てます。」と余計なことを申し上げると、
「君はうちの著名アナリスト○○のレポートを読んだかい?80年代終盤の東京と、今のアメリカは全く違う。なぜなら・・・」という感じで、取り付く島なし。
つまり、バブルの渦中で「これはバブルだ」と指摘しても白い眼で見られるだけ、というのもバブルの特徴ですので、バブルの話はこのくらいにしときます。
個々の企業の行動を非難できるか?
ここで重要なのは、「マクロ合計で考えるとそれだけの価値はないが、個々の企業の行動は生き残りのために必死でやっている合理性のあることであり、また、個々の企業価値計算はそれなりに合理性がある。」というところ。全体としてバブってるかどうかに関係なく、個々の企業の行動としては、ゲーム理論的にある手を選択するのが最も合理的ということがあります。
また、企業の失敗を、後から「ほれ見たことか」というのは簡単なのですが、将来がどうなるのかを完全に言い当てることは非常に難しい。将来に不確実性がある中で神ならぬ生身の人間が有限な能力で判断して運営しているのが企業の行動なわけです。
人為的に「この精子が元気そうだから、これを使おう」と体外授精してしまうのが「計画経済」なら、あくまでどの精子にも最後までチャンスを与えよう、というのが「市場経済」でして。
だから、このマクロとミクロのギャップに「違和感」を感じたとしても、個々の企業の行動として、(エンロンのように粉飾決算するというような一線を踏み越えてしまえば別ですが)、法や公序良俗に明らかに反する行動でない限り、それをとやかくいうのは、私は「かわいそう」な気がしますし、資本市場の基本的なルールからも逸脱していないと思います。
Googleも命がけで卵子を目指す一匹の「精子」なわけですから。
#これで、私もGoogleのboard memberに会う楽しみができたかも。
「ハーイ。私が『精子』のJohn Doerrだ。ハッハッハ。いや、ジョークジョーク。(笑)」

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4 thoughts on “企業評価とバブルの発生メカニズム

  1. 素晴らしいエントリーで、梅田さんのエントリーより私にはわかりやすかったです。
    私はGoogleは全く間違っていないという立場ですが、意見の相違の原因を考えてみると、Googleは特別なのか?
    あるいは特別な存在(IPOを超越したユニークで特殊な経営)を目指す資格があるか?どうかだと思います。
    私は少なくとも目指す資格があると考えるからGoogleに賛成な訳ですが、
    これが東京の土地、シリコンバレーの家、精子といった1参加者に過ぎないならGoogleふざけるなとなります。
    私はGoogleに山内任天堂的な傲慢とも言えるユニークで特殊と思えるような経営でMSやYahooと戦って欲しいですね。
    そのほうが勝率が高そうだし、負けても絶対に潰れない(今の任天堂のような)会社になるのではないかと期待しています。

  2. こんにちは。
    丁寧な回答ありがとうございます。
    実は、私も(?)株を少々しており、数ヶ月で2倍弱になっている状況です。
    バブルのニオイと言うことに関しては、同感です。
    Google上場にあたっては、Googleよりも証券会社がしてほしくてたまらないといったことも聞きます。
    新生銀行上場前に、IPO購入資金作りのために、株価上昇と下落を繰り返し、IPO直前では現金資金を作るため、
    大きく日経平均が下げた事例があるのですが、今回はワールドワイドにそのようなことが行われている気もします。
    あくまでも個人的な推測ですが、5月は毎年、国内外の証券会社の棚卸のせいか、大きく株価が上下するのですが、今年は
    割と景気が良い割に、株価が下がっているのは、Google上場にあわせた現金資金の作成のためのような気がしてなりません。
    また、マイクロソフト、アマゾン、yahooはGoogleとぶつける銘柄ゆえ、これら特殊なIT銘柄が、軒並みより評価され株価が高いレベルまで行っている気がします。
    (それを知っての孫氏のyahoo分割劇等々はさすが?)
    また、銘柄的にも海外の投資家や証券会社のかかわっている銘柄が明らかに、高レーティングになっているのも事実です。
    昨日の書き込みの「モラル」にはいろいろな含みがあるのですが、いずれにしてもそういうことに、
    技術屋の立場としてGoogleができるだけかかわってほしくないと思っていましたが、今回の「無理やりのIPO」を受けるためには、妥協点として仕方なかったのでしょうね。
     現状昨年カカクコムの上場し、高値株価基準の銘柄が作られたことで、軒並み株価上昇しやすくなったようにも思います。
    また、ベンチャーキャピタルというだけで、PERが100以上に平気で行き、怪しくもバイオと言うだけでPERが300を超えるものまであるようなので、
    懸念するまもなく今はバブルなのだと考えています。
    追伸
    シュレディンガーの猫の表現は、私もしたかったのですが、理系しかわからないかと思いはずしましたが、おかげですっきりしました(笑)