ライブドアのMSCBとMPOについて、ちらっと考えてみた

47thさんが「借株について本気出して考えてみた」で、ライブドアの貸株について本気出して考えてらっしゃいますので、私も、そのへんについてちらっとだけ考えてみたいと思います。
この記事の中で、taka-mojitoさんの「ライブドア、ニッポン放送株35%を取得」 という記事から以下の部分を引用されてますが、

ただ、よくよく考えてみれば、LB証券としては、ライブドアに貸した800億円が株式に化けるに過ぎないわけで、ライブドア株を長期保有する意思がない限り、800億円の見合いとして入手した株式を売り抜けることが最重要課題であるはずなのです。・・・(中略)・・・今回のLB証券の場合は、800億円のロング・ポジションを持っているのと同じなので、いかに安く買うかではなく、いかに高く売るかがポイントになるのだと思います。
結局、LB証券としては、ニッポン放送株の値段を見てフレキシブルにショート・セルを行い、自己のポジションをヘッジするために、借株の約束を取り付けておいたという単純なことなのではないか、というのがぼくの現時点での推論です。もう実は売り始めているかも・・・?

今回のCB引き受けは、証券会社にとって「ロング」なんでしょうか?
(お二人がロングと断定されていると私が思っているということではありません。ごく一部だけを引用してますので、お二人のお考えは、上記の元記事をよーくお読みください。)
今回のMSCBの条件は、一昨日の記事でも書いたとおり、ライブドアの立場に立って悲観的に考えればかなり「ガクガク(((((゚Д゚)))))ブルブル」な条件なわけですが、逆にCB保有者にとっては、「株価との連動性が非常に高い」条件です。マクロにざっくり見ると基本的にはロングじゃなくてニュートラルなのかな、と。
今回の新株予約権は800個で、「一部行使はできないものとする」となってますので、1個1億円分ごとに株式に転換していかないといけませんが、ライブドアの出来高を見ると、毎日100億円前後は出来ているようですので、1億円単位でも比較的すぐに消化可能でしょう。今回の条件では、直前3連続取引日の90%で転換できるので、価格が上昇傾向の時に転換すれば、これだけでほとんどリスクヘッジできちゃってるのではないかと思います。
ではプレスリリースに、

今回の調達に伴い、当社筆頭株主及び代表取締役社長兼最高経営責任者である堀江貴文は、その保有する当社発行普通株式の一部をリーマン・ブラザーズ証券会社グループに貸借する合意を行っております。

とある貸株の意味は何なのかな、ということですが。
好意的に解釈すると、「下限転換価額を下回りそうになったら堀江社長から株を借りますよ」とか、「転換を請求して事務手続き上株式が売却可能となるまで、リスクヘッジのために借りた株を売っておく」というだけかも知れませんね。
でも、(以前も書きましたが)そういう「健全な」条件なら、プレスリリースにもそう書いておけばいいのにね。
なぜ「MPO」は和製英語なのか?
だいたい、Web上の論調を見ても、MSCBやその発行を行った経営者や、それを引き受ける証券会社は「ワルモノあつかい」されることが多いかと思いますが、以下、「ホントにそうなんでしょうか?」という観点から。
MSCBを証券会社に対して発行し、証券会社が株に転換して市場に徐々に放出する方法を「MPO」(Multiple Private Offering、マルチプル・プライベート・オファリング)と言うようですが、Googleでこの用語を引いてみても、日本語のページしかヒットしないので、おそらく、「MSCB」同様、和製英語なんでしょう。
(追記:この記事の次のエントリー参照。)
もしかしたら、海外では違う言い方をしてるのかも知れませんが、同じスキームが存在すれば、わざわざ和製英語を作らないでしょうから、やはりそういうスキームは海外には存在しない可能性が高いのでは。
では、仮にそうだとして、なぜ海外では採用されないのに日本ではこうしたスキームが採用されるのでしょうか?
「日本の発行体がアホだから」とか、「証券会社が発行体をだましているから」とか、「アメリカはコーポレートガバナンスが発達してるし、代表訴訟のリスクがあって、こんなMSCBは事実上発行できないから」とかいうことも考えられますが、以前も「転換社債(CB)を用いた”新”資金調達スキーム(その2)」という記事でちらっと書いたとおり、もしかすると、日本の商法等の法律や制度が(発行までに二週間以上かかるとか、公告のコストが高いのであまりちょこちょこ発行できないとかなど)フレキシビリティを欠いているからかも知れませんね。
スタジオジブリ風に言うと、

きれいな水と土では腐海の木々も毒を出さないとわかったの。
汚れているのは土なんです。

ということで、「腐海」や「虫」が悪いんじゃない、(そういう「土」のもとでは、そうした「生態系」が自然にできあがる)、という観点ですが。
法律や制度の「ゆがみ」のせいで、既存株主が損害を受け、証券会社がおいしいことになっているのであれば、MSCBや証券会社をワルモノにするよりも、制度の方を変えた方がいいのかも知れませんけど。
さて、どうなんでしょうか。
MPOの実態
今回いろいろググって見ると、MPOについて詳しく述べられているページをいくつか発見しました。
複合デリバティブ商品の概要と評価方法−MPO商品の評価
KPMG税理士法人 パートナー 河野辺 雅徳、シニアマネージャー 伊東 康彦
http://www.kpmg.or.jp/resources/newsletter/financial/cf/200410/03.html
という記事では、MSCB等のオプションバリュー等をどうやって算定しているかについて、

格子法(ツリー・モデル)
格子法は、MPO商品が有するような複雑なオプションの価値算定が可能であり、かつ商品特性に応じたモデルの変更が可能なことから、一般に、MPO商品におけるオプション価値の算定には格子モデルが最適であると考えられている。格子法には二項モデル(バイノミアル・ツリー・モデル:図表3参照。なお、二項モデルによる計算方法例は図表4参照)および三項モデル(トリノミアル・ツリー・モデル)等といった多項モデルがある(なお、格子法の詳細については、既著『経営者のための事業価値評価』(中央経済社)および本誌2004年5月10・20日合併号(1050号)「事業投資の意思決定とバリュエーション」を参照されたい)。なお、評価の精度と実務上の取扱いの容易さを勘案して、我々は通常「三項モデル」を用いて評価を行っている)。

と、KPMG税理士法人さんでは、「三項モデル」を使って評価されているということが記載されています。
また、証券会社等がどうやって評価しているかについては、

証券会社等多くの金融機関においては、MONIS社(現在はSungard社に吸収合併)が開発した「MONIS Convertibles XL」と呼ばれる評価モデルを用いて評価を行っている場合が現状では多い。

ということで、「10階層の多層構造の格子モデルを使い評価額をはじき出すモデル」を使っているようです。(こういうことやってるのは、ちゃんとした証券会社だけで、怪しげなMSCBを引き受けているところはそんなことやってないような気もしますが・・・。)
kpmg_mpo.gif
(出所:KPMG税理士法人)
そのモデルについてはこちら。
Monis Convertibles XL version 6.0
http://www.sungard.com/ products_and_services/
(お試し可能とのこと。)
「専門家」に聞いたのか?
こうした評価方法は、まだ一般の事業会社ではわかる人は極めてまれでしょうし、こうした評価方法のわかる専門家が発行体側のアドバイザーとしてついているかどうかが問題ですね。
アメリカの裁判では、取締役の注意義務を問う場合、「専門家に聞いたのか?」というのが一つの基準となると聞いてます。
こうしたモデルでは、個々のパラメータ(特に、原資産である株式のボラティリティの推計をどうするか、あたり)を適当に設定することで、リスクの程度はいかようにでも見せられると思います。
今回のライブドアでのCBの発行は、かなり「バタバタ」行われた印象があるのですが、もし、証券会社側が「これだけ資料をそろえておけば、有利発行をしたとは言われないですよ」とか「御社にとってもリスクはあまりないです」といって出してきた資料を鵜呑みにして、発行体側で別途第三者である専門家に確認してなかったとしたら、注意義務を怠っていたと言われる気もします。
実務では、そういった「第三者」も証券会社が紹介してくれるのかも知れませんが。(証券会社から紹介された「第三者」が、「この条件は発行体にとってヒドすぎる」というようなコメントを言ってくれるとは思えませんけど・・・。)
その他参考資料
また、旬刊経理情報2005年1月10・20日号 の「新しい資金調達方法MPOの仕組みと留意点」という特集がかなりまとまっているようです。(各記事の1ページ目だけ、pdfが見られます。)
以下の方々が記事を書かれてらっしゃいます。
多様なニーズに応えるMPOの仕組みとメリット
野村證券� キャピタル・ソリューション部 エクイティ・ソリューション二課長 冨永 康仁
http://www.keirijouhou.jp/keirijouhou/1072/1072008.pdf
前述のKPMGさんの記事では、「MPO商品は、そもそも外資系証券会社が日本市場に持ち込んだ商品といわれているが」と、「外来種」であるような記述がありますが、この野村證券さんの記事では、MPOは「野村證券が二〇〇三年一二月に初めて提供した新しいエクイティ・ファイナンス手法である。」と、「日本起源説」を唱えられているようです。
MPOをめぐる法的問題有利発行か否か
あさひ・狛法律事務所弁護士 新家 寛
http://www.keirijouhou.jp/keirijouhou/1072/1072014.pdf

本稿では昨年一二月以来、各種MPO案件に当初より関与してきた弁護士の立場から、MPOの有利発行性を検討する上で留意してきた点のいくつかを紹介する。

設例で解説 MPOにおける発行証券の評価方法
みずほ第一フィナンシャルテクノロジー�
業務推進部 課長 児玉 雄一
http://www.keirijouhou.jp/keirijouhou/1072/1072020.pdf

MPOで利用される商品はエクイティオプションの要素を含んでいることから、その価値評価ではオプション評価モデルを利用することが適当と考えられる。また、評価者は、評価対象の商品性に応じて適切なモデルを選択して、可能な限り忠実に商品性を再現する必要がある。本稿では、MPOで利用される商品の評価手法を、事例を使って紹介する。

MPOにおける発行・転換・償還時の会計と税務
ユナイテッド・パートナーズ会計事務所パートナー・税理士 松 為久、寺田 芳彦
http://www.keirijouhou.jp/keirijouhou/1072/1072025.pdf

その実態は公募増資に近似するが、会計・税務上はいわゆる転換社債として取り扱われ、転換社債と同様な処理となる。転換社債については転換時の会計処理が明確でないこと、税務上は有利発行の議論が存在することにスポットを当てている。また、トピックスとして簡単に米国会計基準の場合の取扱いについても触れている。

(ご参考まで。)

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フジテレビのTOB条件変更は「アリ」?

12日の記事「渋い一手?フジテレビのTOB目標引き下げ」に、「student」さんからコメントいただきました。

そもそも、いったん公表した公開買付の買受予定株式総数を減少させることは許されるのでしょうか?
証券取引法第27条の6第3項を見ると
「買付け等の価格の引下げ、買付予定の株券等の数の減少、買付け等の期間の短縮その他の政令で定める買付条件等の変更は、前二項の規定にかかわらず、行うことができない。 」とあるのですが・・・。

「fujiko」さんにもお答えいただいてますが、フジテレビさんとしては証券取引法に禁止された変更ではないという解釈なんでしょうね。同じくトラックバックいただいたtaka-mojitoさんの「フジテレビ、『買付予定株式数』を25%超に引き下げ」に詳しく解説されてますので、詳しくはそちらをご覧いただければ、と思います。
taka-mojitoさんは、

「買付予定の株券等の数」というのは、法律が予定する原則的な形態においては、一応の指標というくらいの意味しかなく、例外として許されている条件を付けて初めて下限や上限を画す機能を持つことになるということになります。つまり、「買付予定の株券等の数」の定義自体には、もともと上限という意味はないし、ましてや今回のフジテレビは「買付予定の株券等の数」によって上限を画しているわけではないということです。

とされてますが、一方、職場の同僚の方が今回のフジテレビのTOB条件の変更と同様のケースを金融庁に問い合わせたところ、「それは『買付予定の株数等の数の減少』に当たる」と言われて、(追記:その、「後から下限を下げられない」という結論に対して)「何と非常識な」と思われたとのことで、結論は留保されて、47thさんにフッてらっしゃいますので、お二人のやりとりを見守ることといたしまして・・・。
米国の場合
ちなみに、
「敵対的M&A」防衛マニュアル—平時の予防策 緊急時の対抗策
450237640X.09.MZZZZZZZ.jpg
野村証券IBコンサルティング部 (編集) 中央経済社
では、

米国の場合、TOB期間中におけるTOB価格の引き下げは可能である。
(1934年米国証券取引法 Rule 4e-1(b))

として、オラクルがピープルソフトへのTOBの途中でTOB価格を引き下げた事例を紹介しています。(同書81ページ)
ということは、(今回の件が日本の法律でどう解釈されるかどうかはおいといて)、TOB中に応募者に不利益な変更しちゃダメというのは、あまり普遍性のある法理ではないんでしょうね。
これの意味するところは、「応募した人が機会損失を負ってもしゃあない」ということですからちょっとビックリしますが、欧米では株式を対価とするTOBも多く、(買収側の株式の価値は刻々と変化するし)、機会損失を言い出したらキリがないから、そんな規制しても意味がないということでしょうか?(←思いつきによる推測。)
(ではまた。)

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ライブドアのMSCB(ガクガクブルブルその2)

先日の記事「ライブドアのMSCB」の「ガクガク(((((゚Д゚)))))ブルブル」に対して、いろいろご批判のコメントをいただきました。

うう?ブルブル、じゃわからないですが??
どんな条件なのですか?
投稿者 hassuru hassuru : February 11, 2005 08:58 AM

(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブルじゃなくてちゃんと説明しろよ。
投稿者 みつを : February 11, 2005 06:55 PM

はい。すんまへん。以下、謹んでご説明させていただきます。<(_ _)>
まず資料
まず、転換社債の諸条件の現物を見たい方はこちらをご覧ください。

公告:
http://ir.nikkei.co.jp/data/pdf/20050209/05020275.pdf
プレスリリース:
http://ir.nikkei.co.jp/irftp/data/…/12080010.pdf
(プレスリリースの方が、内容が詳しいです。)

主要な条件
このプレスリリースを見ると、たくさんの条件が書いてありますが、特に重要なのは下記のあたりだと考えられます。

(3) 新株予約権の行使に際して払込をなすべき額
� 本新株予約権の行使に際して払込をなすべき1 株当たりの額(以下「転換価額」という。)は、当初450 円(以下「当初転換価額」という。)とする。
� 転換価額の修正
本新株予約権付社債の発行後、毎週金曜日(以下「決定日」という。)の翌取引日以降、転換価額は、決定日までの3連続取引日(終値のない日は除き、決定日が取引日でない場合には、決定日の直前取引日までの3 連続取引日とする。)の株式会社東京証券取引所における当社普通株式の普通取引の毎日の売買高加重平均価格の平均値の90%に相当する金額(以下「修正後転換価額」という。)に修正される。但し、かかる算出の結果、修正後転換価額が157 円(以下「下限転換価額」という。但し、下記�により調整される。)を下回る場合には、修正後転換価額は下限転換価額とする。
(5) 新株予約権の行使請求期間
2005 年2 月25 日から2010 年2 月23 日まで

特に、
・平均単価を出すのが3取引営業日というところ、
・発行日の翌週から毎週、転換価額が修正されるところ、
・下限転換価額が34.8%と非常に低いところ
・そして、一度株価が下がると株価が回復しても二度と転換価額はあがらない条件になっているところ、(「てつ」さんのご指摘により削除。コメント欄参照)
等が、注視すべき点かと思います。
これが、どのくらいよろしくない条件かというのをデータで見てみましょう。
以前も用いたデータで、一昨年の10月から昨年の9月までの200ちょっとの転換社債の発行例を調べたデータを用いてます。私がNIKKEI NETの公告pdfから一つ一つひろったデータで、あまり精査もしてませんが、おおかたの傾向を見るには問題ないかと思います。
平均単価算定日数
まず、平均単価を出す日数。これが長いほど「売り崩し」に強いと考えられますが、
image002.gif
上図のように、今回のライブドアさんのMSCBの条件「3日」は、下から全体の15%未満のところにあります。
転換価額修正頻度
次に、転換価額がどのくらいの頻度で修正されるか。今回のMSCBは「毎週」ですが、
image008.gif
上図のとおり、「毎週」は、頻度の高いものから数えて全体の9%ちょっとのところにあります。
頻度が高いほど、直前の転換価格をさらに割り込む可能性が高まるわけで、下方にしか修正されない転換社債では、下がり始めるとどんどん転換価額が下がる要因になり得ます。
当初転換価額に対する下限価格の割合
次に下限の低さ。(当初転換価額に対する%)
これが株価下落の「底なし度」を表すわけですが、今回のMSCBは当初転換価額の35%弱です。
image009.gif
上図のように、これも低い方から数えて約10%のところにあります。
以上のように、どの条件も下から数えた方が早い。というか、この条件より「下」の企業は、どことは申しませんが、株価がタダみたいになっちゃったシステム会社さんとか、架空取引で有名になった会社さんとか、ちょっとナニな企業さんが多いのも事実。(だからといって、ライブドアさんもナニだ、ということを申し上げるつもりはありませんが)、投資家の方々にある種の「連想」を喚起させるのはいたしかたないかと思います。
ご注意いただきたいのは、上記の通り、発行される転換社債の約6割は(条件の差はあれ)転換価格は修正されますので、「MSCB」なわけで、前にも述べたとおり、「MSCB=わるもの」という認識はちょっと行き過ぎではないかと、私は思います。
ただ、今回のライブドアさんの転換社債の条件がその中でどう位置づけられるかというと、上記の通り、とても「いい方」とは言えないんじゃないでしょうか?
コールオプション条項
ただし。この転換社債には「コールオプション条項」がついてます。

7社債に関する事項
(4) 繰上償還
�コールオプション条項による繰上償還
当社は、その選択により、本社債所持人に対して10 日以上の事前の通知を行うことにより、2005年3 月以降、毎月の各取引日において、残存本社債の全部又は一部(但し、額面金額合計100 億円以上)をその額面金額に対する下記の割合で表される償還金額により繰上償還することができる。
「取引日」とは、株式会社東京証券取引所が開設されている日をいい、終値が発表されない日を含まない。
2005 年3 月1 日から2005 年3 月31 日まで107%
2005 年4 月1 日から2005 年4 月30 日まで106%
2005 年5 月1 日から2005 年5 月31 日まで105%
2005 年6 月1 日から2005 年6 月30 日まで104%
2005 年7 月1 日から2010 年2 月23 日まで103%

ということで、「あまりひどいことになったらコールオプションを行使して返すつもりですから」という「説明(言い訳)」がしやすい。
また、普通のオプションのモデルに「株価が一定以上に下落したらコールオプションを使用する」というような(好意的な)仮定を加えた単純なモデルであれば、シンプルなモンテカルロシミュレーション風のモデルで理論価格も計算しやすいかと思いますが、「実際に借り換えができるかどうか」は、ライブドアの財務状況に関わってくるので、まともにやろうとするとモデルが非常に複雑になってしまう可能性があります。(つまり、うがった見方をすれば、この条件を入れておけば、「低価発行で違法だ!」というツッコミは受けにくいかも。)
実際、このCB、今後、株価が上がっていけば何の問題もないわけです。
しかし、問題は株価が下がり始めた場合。
こうしたキツい条件のMSCBの場合、株価低落→転換価格低下→希薄化→さらなる株価低落というような「負のスパイラル」が働きだす可能性は高いですし、そういう状況下で、800億円もの資金をこのCBよりいい条件で借り換えできるのかどうかは、はなはだ疑問じゃないでしょうか?
加えて、証取法164条の関係もあり、あまり短期間で転売というようなことが行いにくいとすると、株価が下がり切っちゃった後、ということもあり得ます。
モデルとしても、例えば「株価が2割以上落ちた場合には、これ以上のいい条件での借り換えはできない」というように仮定を単純化してしまえば、コールオプションを付けないオプションバリューと付ける場合のオプションバリューは、あまり差がないことになってくるのではないかと考えられます。
とすると、やはり、このMSCBの条件は、

ガクガク(((((゚Д゚)))))ブルブル

と申し上げるのが適当ではないかと考える次第であります。
(ご参考まで。)

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渋い一手?フジテレビのTOB目標引き下げ

フジテレビ、ニッポン放送株のTOB目標を引き下げ

フジテレビジョンは10日、ニッポン放送株式の公開買い付け(TOB)の実施時期を3月2日まで延長すると発表した。従来は2月21日までだった。最低取得株数も1233万5341株から413万5341株へ引き下げた。保有しているニッポン放株を合算して、発行済み株式の25%以上(従来は50%以上)の取得を目指す。

「大人の渋い一手」という感じでしょうか。
当初は、「TOB価格引き上げ案」も出ていたようですが、浮動株もほとんどない現状で価格つり上げ合戦に出ても、フジテレビがつらいわりには、ライブドア側にも与えられる影響はわずか。
一方、仮に25%超をゲットできれば、ニッポン放送の保有しているフジテレビ株の議決権を「無力化」できます。

商法第二百四十一条�
会社、親会社及子会社又ハ子会社ガ他ノ株式会社ノ総株主ノ議決権ノ四分ノ一ヲ超ユル議決権又ハ他ノ有限会社ノ総社員ノ議決権ノ四分ノ一ヲ超ユル議決権ヲ有スル場合ニ於テハ其ノ株式会社又ハ有限会社ハ其ノ有スル会社又ハ親会社ノ株式ニ付テハ議決権ヲ有セズ

ニッポン放送はフジテレビ以外の関係会社の株式も保有していますが、とりあえず、フジテレビとしては、当初の予算より少ない25%超の取得でフジテレビ本体への影響を防御。
相手は、ビミョーな条件のMSCBを発行して体勢のバランスが崩れかけてるところですから、フジテレビ側は長期戦の構えに持ち込めば、相手の自滅の可能性も無くはありません。
「票読み」がどうなってるかにもよりますので、まだなんとも言えませんが。
(ではまた。)

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ライブドアのMSCB

株式の取得の方に集中してたもので、MSCBによる資金調達の方をよく見てなかったのですが・・・。
本日、外出先でラーメンを食っている時に某テレビ局の方から電話をいただきまして、
「ライブドアが発行するMSCBについてコメントいただけないでしょうか?」
と聞かれましたので、
「すみませーん、まだ条件をよく見てないんですがー。」
とお伝えした上で、
「ま、MSCBも世間でこれだけいろいろ叩かれてきましたので、さすがに、例えば下方だけじゃなく上方にも転換価格が修正されるとか、下限は高めに設定しておくとか、それなりの条件のモノになってるんじゃないでしょうか。見てないので何とも言えませんけどー。」
とか、テキトーなことを言ってしまったので、移動中に早速、ネットで条件を見てみたところ・・・。
「うっ・・・。こっ・・・これは・・・・」 ガクガク(((((゚Д゚)))))ブルブル
(コメントするまでもないので、以下略。)
(追記:内容については、「ライブドアのMSCB(ガクガクブルブルその2)」ご参照。)

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ライブドアのニッポン放送株1/3超取得は違法か?(その3)

こんばんは、滝川クリステルです。もとい、磯崎哲也です。
昨晩のフジテレビ「ニュースJAPAN」では、一っ言もライブドアについて触れてませんでしたね。(ちょっとびっくり。)
(追記あり:2/11 6:00)
さて、47thさんからトラックバックいただきました。

それにしても、磯崎さんも、またセンセーショナルなタイトルを・・・いえいえ、昨日は取り急ぎ思いついたことを書いたので、やや舌足らずなところもあったのかもしれませんが、私は、ライブドアの今回の取引を「違法だ」なんて・・・そんな大それたことは申し上げていないんです・・・信じてください。
ただ、「アグレッシブ」あるいは「法的リスクが高い」ということを言いたかっただけですので・・・(え?同じこと?)
ただただ、依頼者から相談されたら「お薦め」はしませんが、「どうしてもやりたい」というのであれば、「違法行為には加担できませんので辞任します」というような話ではなく、「えー、本当にいいんですか?知りませんよ・・・」(渋々)というレベルの話です。

ということだそうです。
私も「違法か?」と言っただけで、「違法だ」とは申し上げてませんので、念のため。(笑)
>みなさま
ただ、先日のエントリーの最後にも書きましたが、私としては、フジテレビさんに、「違法だ!」と言って、告発するなり、東京地裁の民事第9部あたりに駆け込むなりしていただいて、司法がどう判断するのかは、(不謹慎に聞こえるかも知れませんが)、非常に見てみたいところです。
住友信託 vs UFJの件もそうでしたが、今までは、「そんなことで裁判所のお世話になるなんて、いやですわねー」という感じだったものを、お白州の場に引き出すことで、いろんなことがオープンになって、法制度の問題点やあるべき事前の手当などが広く周知されるので非常に社会に与える教育効果が大きいと思うんですよね。
買収防衛策整備の必要性
先日、買収防衛にお詳しい某弁護士さんが、
「ドイツやイギリスなど、ヨーロッパでは、議決権の30%を買いたい人は(既存株主が売りたいと言えば)100%買わないといけないという、攻める側への規制がある。つまり、”経営にコミットする人”にしか買収を許さない。
一方、アメリカでは、攻める側にこうした公的な規制がない代わりに、守る方もライツプランやポイズンピルで自由に防御していいことになっている。
これに対して、日本では、攻める方は自由だが、守る方は規制でがちがちに縛られている。守る側に圧倒的に不利。」
とおっしゃってました。
今回も、ライブドアさんはわずか1/3超を取得するだけで、フジサンケイグループ全体に非常に大きな影響を与えられてしまうわけです。
いわば、釣り人が糸を垂れて、撒き餌(TOB)をせっせとやって魚がたくさん集まってきたところを、横から悪ガキが、タモで一番大きいのを数匹ごそっと持って行っちゃったようなもんですからね。
それにつけても、以前、梅田望夫さんの記事に関連して行ったGoogleのdual classの株式によって買収防衛するのがいいのか悪いのかという議論が思い出されますが、私はやっぱり、アメリカでは「相手が銃を持ってるかも知れないから、自分も銃で武装する権利がある」という考え方で均衡が図られているんだと思いますし、Googleの取締役は、「MicrosoftやYahooが斬りかかってきたらどうするか?」という点にも注意を払ってIPOしたのは正解だと思います。
日本でも、今まで、「日本は安全だから、別に身を守ることなんて考えなくてもいいや。」と考えられてきたわけですが、今回のように横から人が集めた大物をかっさらうような「やんちゃな悪ガキ」がたくさん登場しつつあるわけですから、真剣に防御策を考えないといけないですね。
大株主異動のインサイダー取引
と、今ふと大変なことを思いついちゃいましたが。
以前、「ニッポン放送株式取得とインサイダー取引」で、双方がTOB等を知っていて取引する場合にはインサイダー取引にならないという規定(167条)をご紹介しましたが、TOBでない方の証券取引法第166条第6項第7号にも、同様の規定があります。
しかし、両方とも下記のように、

七  第一項又は第三項の規定に該当する者の間において、売買等を取引所有価証券市場又は店頭売買有価証券市場によらないでする場合(当該売買等をする者の双方において、当該売買等に係る特定有価証券等について、更に第一項又は第三項の規定に違反して売買等が行われることとなることを知つている場合を除く。)

と、「市場外で」行うことが条件になってます。
昨日申し上げたように、今回の場合、「市場外」で行ったのならTOBにしないと違反ですし、もし、ライブドアが大株主になることを知っていた場合、「市場内」で取引を行ったのなら、インサイダー取引に該当してしまうんじゃないでしょうか。(知っていたとしたら、ですが。)
昨日のVWAPに対して、手数料分くらいしか乗ってないわけですが、インサイダー規制は
「利益が出る出ないに関わりなく」違反
になります。
また、違反になった場合には、利益だけが没収されるのではなく、それに関わる「財産」が没収になります。つまり、仮に(仮に、です)全部そうだとすると700億円くらい。
うーん。このへんは大丈夫なんでしょうか。
今回の開示のタイミング
「しがない」さんからコメントいただきました。

YAHOOファイナンスのインサイダーではないかという書き込みは東証の適時開示情報サービスを見てのコメントじゃないでしょうか。
http://www.tse.or.jp/disclosure/index.html
こちらで7日以前の買い付けについては8:20分に開示されています。

ほんとですね。ありがとうございます。
知ってないとその時点で、「ライブドアと村上は繋がっている。」(ヤフー掲示板のコメント)というところまで考えがおよばないんじゃないかとも思いましたが、まあ同じ六本木ヒルズですし、ニッポン放送といえば村上ファンドですし。もちろん、これが証拠になるというようなもんでもありません。

ToSTNeT取引の約定詳細についてはこちら。
http://www.tse.or.jp/market/tostnet.html
この買い付けについては適時サービスのほうで9:25分に開示されているようです。

ほんとだ。だから9時半で値段が跳ね上がってたわけですね。ありがとうございます。
ちなみに、教えて頂いた東証さんの「ToSTNeT取引-超大口約定情報」では、「ToSTNeT-1の株券に係る単一銘柄取引のうち売買代金が50億円以上のもの」だけ公開されてます。
image002.gif
これを足しても9,370,270株、約567億円にしかなりません。
自分の持ち株数とぴったり同じだったらバレバレなわけですが、この開示を抜けようとおもったら、50億円以下に細かくわけて約定させればいいわけですしね。
ん?
まてよ。もしかして、上述の「大株主」のインサイダー取引違反を回避するために、まず、「前日まででライブドアが大株主になったので、大株主が異動しますよ」というのを8:20分に開示して、その直後の8:22分あたりからToSTNeTで取引を開始したということでしょうか?
ライブドアさんが、35%のうち先に一部を普通取引で取得したのは、「ToSTNeTで入手する予定の分」では33%に足らないからだとばかり思ってましたが、よく考えたら、

株式会社ライブドア:1,756,760株(発行済株式総数の5.4%)
株式会社ライブドア・パートナーズ:9,720,270株(発行済株式総数の29.6%)
合計:11,477,030株(発行済株式総数の35.0%)

ですから、33.33%ギリギリ取得するんだったら、何もライブドアが先行して5%超取得して、わざわざ開示する必要もなかったわけですからね。
(追記)ホントにインサイダー取引にならないのか?
(2/11 6:00)
taka-mojitoさんからコメントいただきました。

さて、今日は、読んでいて若干気になった点があったので、勇気をもって一言。
「主要株主の異動」は、確かに証取法166条の重要事実に該当するのですが、これがインサイダー取引となるのは、ニッポン放送の会社関係者がその職務等に関し、その事実を知って公表前に取引を行った場合、または当該ニッポン放送の会社関係者から当該情報を受領した人が公表前に取引を行った場合ではないでしょうか。つまり、従前の株主とライブドアとが、ニッポン放送の会社関係者と無関係に(会社関係者から情報を得ずに)、直接情報交換を行った場合には、どちらもいわゆるインサイダーとはならず、証取法166条の規制対象とはならないのはないでしょうか。

おっしゃるとおりですね。
というか、帳簿閲覧権を持つ3%以上の株主は「会社関係者」ではあるのですが(証取法166条�(2))、インサイダー取引に関係するのは、「当該権利(帳簿閲覧権)の行使に関し知ったとき」ですから、今回は関係ないですね。大変失礼しました。
ご指摘ありがとうございました。

加えて、「主要株主の異動」は、発生事実ですので、厳密にいえば、従前の株主とライブドアとの取引成立によって、その事実が発生するということで、取引の時点では重要事実が発生していないということにもなるのではないでしょうか。

ここは微妙だと思ったわけです。
つまり、株主はおそらく複数名いるわけで、仮にいきなりToSTNeTで10%の株がライブドアに異動して「事実」が発生したとすると、少なくとも二番目以降の取引をする株主は、「事実の発生後」に取引をしたことにならないでしょうか?
(今回の場合、先にライブドア本体による普通取引での買い集めして当日9:20分にはリリースしてますし、そもそも帳簿閲覧権に関係ないので、今回はそこは関係ないわけですが。)

あと、仮に「主要株主の異動」が発生した場合、公表を行うべきなのは、ニッポン放送のはずで、ライブドアが開示を行ったとしても、インサイダー取引との関係では、重要事実の公表にはならないと思われます。磯崎さんが「主要株主」ではなく、「大株主」という用語を用いているところに、ひょっとして意味があるのかもしれませんが、とりあえず気づいた点を指摘させていただきました。私の方に誤解等あるようでしたら、ご指摘いただければ幸いです。

(インサイダー情報に該当する大株主の移動があるとして)、それに関する大量保有報告書の提出や適時開示や報道があっても、ニッポン放送が公表するまでは取引しちゃだめと解されるでしょうか?(166条だけ読むとそうとも読めますが。)
ニッポン放送は、大量保有報告書が出されたら、その内容をプレスリリースしないといけなかったでしたっけ?
さて、仮に一昨日にタイムスリップして、「ホリエモンが某大株主等から合計35%のニッポン放送の株をゲットするらしいぜ」という情報を「会社関係者」等から聞いちゃった場合に、みなさんならニッポン放送株を買いますか?ということですが。
儲かるのは確実。でも、絶対有罪にならないかしらん?「バスケット条項」等にひっかかる可能性はないか?というようなことで、どうも、まだ「地雷」が残ってるような気がしてなんとなくおっかないですが、やっぱり、(荒っぽく言うと)、どんなに儲かるのが確実な一部の人しか知らない情報であっても、「会社の内部」から出た情報でなければ、インサイダー取引にはならないということですね。
と、今見たら、taka-mojitoさんとやりとりされて、47thさんも記事で、きれいに整理されてらっしゃいます。こちらも大変参考になりますので、ぜひ、ご覧ください。
(追記その2)167条対策は?
47thさんの「ブロック・トレードとインサイダー取引規制」(2)へのリンク
TOBの場合のインサイダー取引の解説をしてらっしゃいます。
施行令31条に要注目のもよう。
(取り急ぎ。)

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ライブドアのニッポン放送株1/3超取得は違法か?(続き)

さて、ライブドアのニッポン放送株取得の方法と日付ですが、前掲のプレスリリースによると、「ToSTNeT-1による時間外の市場内取引によって」「平成17年2月8日」に買付け、とあります。
日経の報道の時刻は10時53分になってますので、それ以前の本日の時間外というと、寄付(よりつき)前ということになるんでしょうね。

ToSTNeT取引に関する業務規程、信用取引・貸借取引規程及び受託契約準則の特例
http://www.tse.or.jp/guide/rule/teikan/13.pdf

ホームページでのToSTNeTの説明
http://www.tse.or.jp/cash/tost/#

上記規定の第9条で、ToSTNeTで売買が成立した場合には、売買価格が公表されるということになってます。
チャートの動き
本日のチャートは以下の通り。
NipponHoso20050208.gif
どのタイミングでToSTNeTの情報が公表されたのかわかりませんが、少なくとも「ライブドアが取得」というのは公表されてないでしょうから、9時直後はあんまり上がってないわけですが、それでもTOB価格を上回っているので、ニッポン放送を注視してる投資家は、変な値段の付き方だなあとは思ったでしょうね。で、9時半頃にどかんと一山。
日経の記事の時刻が前場の終わり(10時53分)ですので、ここで一般の個人投資家等も気づいたんでしょうか、後場は一段と上げてます。
「ライブドアが買った」というのはインサイダー情報?
インサイダー規制に、上場会社の発生事実として「主要株主の異動」が含まれてますので、公表前(何時何分でしょうか?)に、それを知って買ってた人は規制にひっかかる可能性もあるかと。
ちなみに、Yahoo!ファイナンスのニッポン放送株の掲示板を見たら、本日一番のメッセージから、

タイトル:ライブドア 2005/ 2/ 8 8:50 メッセージ: 835
投稿者: xxx(8歳/男性/海外ネバーランド)
買ってます。

タイトル:ライブドアと村上は  2005/ 2/ 8 9:21 メッセージ: 836
投稿者: xxx
繋がっている。ということは・・・
ここからどうなるか本当に楽しみ!

と、朝一番から情報漏れまくり・・・。(苦笑・・・。)
ToSTNeT-1は「市場内」か「市場外」か
47thさんは、ToSTNeT-1は「取引所有価証券市場外」とみなされてしまい、証券取引法違反となってしまうリスクがあるとされているとのことですが、前掲の東証の解説ページによると、
「売買内容の公表:相場報道システムを通じて、個別銘柄の取引内容、総売買高、総売買代金等を公表」
とありますので、情報の開示という意味では一般の取引と変わらないとも言えます。
また、(直接は関係ないですが)、昨年証取法が改正されて、今年4月からは、証券会社に「最良執行義務」が課せられるようになります。考え方としては、今まで証券取引所に取引が集中していたのを、欧米のように、取引所やPTSが競争する環境を作るということの一貫で、「市場」の概念は、「取引所という一点」から、もうちょっと「ふわっ」とした概念に変貌しつつある(ただし、価格等の情報はリアルタイムで共有される)という流れかと思います。
(もちろん、今の証取法はPTSで買い集めるのがTOBの規制に引っかからないとは読めないわけですが。)
参考:大和総研:最良執行義務の細則案(2004年12月9日)
http://www.dir.co.jp/research/report/law-research/securities/04120902securities.pdf
こういう意味でも、ToSTNeTは「立会外」ではあるものの、まさに「東証の中」ですから、ずばり「市場内」になるような気がしますが、どうなんでしょうか。
(アメリカ等では、TOBの規制とPTSとの関係はどうなってるんでしょうか?)

ToSTNeT-1 は、機関投資家等の多様な取引ニーズに対応するもので、単一の銘柄の注文についてネットワーク上で匿名で取引の相手方を探し出し、個別に条件交渉を行い、取引を成立させることができます。

という東証のホームページでの説明からしても、相手がだれだかわからずに取引するのであれば、マーケットインパクトを与えずに取引もできるわけだし、「市場内」とみなして、一般的には問題ないと思われます。というか、それだけ大量の注文を普通取引にブチ込まれても、それはそれで迷惑そう。
ただーし。
ほ:「例のアレなんですが。」
む:「はい。」
ほ:「今からToSTNeT-1で買い、入れますんで。」
む:「じゃあ、こっちも証券会社に言ってToSTNeTに売りを入れとくので。」
ほ:「よろしくー。」
む:「それでは。」
てな会話(仮設例)が、六本木ヒルズ内(仮設例)などで行われていたとした場合に、47thさんのおっしゃるように、「実質的に市場外で取引したのと同じではないか?」という疑問は沸き起こるところ。
というか、もしそういう取り決めが当事者間であったということが発覚した場合には、これは、証券取引法違反で摘発できますでしょうか?(いろんな意味で、ちょっとムリっぽい気もしますが。)
報道によると、当然のことながら、堀江社長は、

一方、ライブドアにニッポン放送株式を売却したのは、1月現在で大株主のエム・エイ・シー(村上世彰代表)ではないのかとの指摘については、「誰から買ったかは、特定が難しい」とし、明らかにしなかった。ただし、村上世彰氏には、「事前に意向を聞きに行った」としている。

と、あくまで、ToSTNeTによる相手方がわからない取引だったというスタンスを取ってますね。
ただ、「事前に意向を聞きに行った」とはおっしゃってますね。「会ったことも無い」といったら、すぐバレちゃいますからね。でも、二人だけで話していたら、何話してたかは立証はほぼ不可能。録音とかビデオでも撮ってない限り。
また、ライブドアさんは、社長単独で800億円の買い物ができる規定(取締役会規定等)になってるんでしょうか。権限の範囲内の行為だったのか?というのは興味ありますね。
または、早朝取締役会を開いたか。
ディフェンス側のフジテレビとしては、この取引が実質的に証券取引法によるTOBの規定に従わないで行われたものであるということで株券の受け渡しをさせない仮処分申請をかける、というような手は有効でしょうか?(ライブドアがTOBの手続きを踏み直したら価格はもっと上げざるを得ないでしょうから、ライブドアの負担は増えるでしょうけど、フジテレビの負担ももっと増えますね。)
うーん。ビミョー。まだ一波乱も二波乱もありそうですね。
ではまた。

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ライブドアのニッポン放送株1/3超取得は違法か?

47thさんからトラックバックいただきました。
「ライブドア参戦」のM&A業界へのインパクト 
記者会見
先ほどのエントリーを書いたときには、まだライブドアさんのホームページにプレスリリースが見あたらなく、今も見たらページがありませんというようなエラーになるのですが、47thさんの掲示されているリンクからはpdfが見られます。
http://finance.livedoor.com/disclose/tmp/120800d0_20050208.pdf
これによると、午後4:30からの記者会見はストリーミングで
http://finance.livedoor.com/finance/list7
から見られるとのこと。
なお、「ご覧頂くにはlivedoorの会員ID(無料)が必要となります。」とのことです。(商売がお上手ですね。)
取得の方法(プレスリリース)
プレスリリースの内容は以下の通り。

当社は、本日、当社子会社である株式会社ライブドア・パートナーズ(代表取締役:堀江貴文)を通じて、ToSTNeT-1による時間外の市場内取引によって、株式会社ニッポン放送(証券コード4660・東証第二部)の株式の買付けを実施いたしましたので、下記の通りお知らせいたします。
                         記
1.対象銘柄
 株式会社ニッポン放送の普通株式
 東証2部(証券コード:4660)
2.買付け株数
 9,720,270株(発行済株式総数の29.6%)
3.買付け日
 平成17年2月8日
4.累計保有株数
 株式会社ライブドア:1,756,760株(発行済株式総数の5.4%)
 株式会社ライブドア・パートナーズ:9,720,270株(発行済株式総数の29.6%)
 合計:11,477,030株(発行済株式総数の35.0%)

証券取引法の規制
47thさんが問題にされてるのは、証券取引法の1/3規制。以前も掲げましたが、証券取引法では、

第二十七条の二  その株券、新株予約権付社債券その他の有価証券で政令で定めるもの(以下この章及び第二十七条の三十の十一(第四項を除く。)において「株券等」という。)について有価証券報告書を提出しなければならない発行者の株券等につき、当該発行者以外の者による取引所有価証券市場外における買付け等(株券等の買付けその他の有償の譲受けをいい、これに類するものとして政令で定めるものを含む。以下この節において同じ。)は、公開買付けによらなければならない。ただし、次に掲げる株券等の買付け等については、この限りでない。(中略)
四  著しく少数の者から株券等の買付け等を行うものとして政令で定める場合における株券等の買付け等(当該株券等の買付け等を行う者及びその特別関係者の株券等所有割合の合計が三分の一を超えない場合に限る。)

と、市場外で3分の1以上となる買付を行ってはいけないと定められており、証券取引法施行令第七条 第4項ではさらに、

法第二十七条の二第一項第四号 に規定する政令で定める場合は、株券等の買付け等を行う相手方の人数と、当該買付け等を行う日前六十日間に、取引所有価証券市場外において行つた当該株券等の発行者の発行する株券等の買付け等(公開買付け(同項 本文に規定する公開買付けをいう。以下この節において同じ。)による買付け等並びに同項第一号 及び第二号 並びに次項第七号から第十号までに掲げる買付け等を除く。)の相手方(内閣府令で定めるものを除く。)の人数との合計が十名以下である場合とする。

と定められています。
今回の買付は3分の1は超えてますので、取引が「市場内」でないと法律違反なわけですが、47thさんとしてはToSTNeT-1での取引は「市場内」の取引には該当しないというのが現在の取扱であり、これを「市場内」として買い付けてしまうのは「現在のTOB規制の制度設計に対する挑戦です。」ということですね。
うーん。
ちょっと中継時間が近づいてきているので、まずはここまで。
(つながるんでしょうか?)
(追記 16:26)
価格はいくらだったのか?
東証のホームページの解説によると、ToSTNeT-1は、

機関投資家等の多様な取引ニーズに対応するもので、単一の銘柄の注文についてネットワーク上で匿名で取引の相手方を探し出し、個別に条件交渉を行い、取引を成立させることができます。

という立会外のシステムであり、取引価格は、

●普通取引の直前の約定値段(特別気配を含む、以下同じ)を基準として上下7%の範囲内の価格
● 午前8時20分〜午前9時…前日終日VWAPに手数料相当額を加減して得た値段
午前11時〜午後0時30分…前場VWAPに手数料相当額を加減して得た値段
午後3時〜午後4時30分…後場及び終日VWAPに手数料相当額を加減して得た値段

とあるので、ザラ場なら直前の約定値段に7%プラスできますが、プレスリリースのとおり「時間外」ということになると、VWAP(加重平均価格)に手数料を加算した値段でしか約定できないですね。
市場価格は今日の寄り付きまではフジテレビが提示したTOB価格に張り付いてましたので、後者では、株を手放す機関投資家等の側にとって、あえてフジテレビのTOBに応じずライブドアの誘いに乗るという経済的インセンティブがないはず・・・。
(うーん。)
(追記 16:37)
案の定、こんなん出て見れまへーん・・・。

Warning: mysql_connect(): Too many connections in /usr/home/edge-dev/finance/htdocs/finance/config_new.inc on line 21

Warning: mysql_select_db(): Can’t connect to local MySQL server through socket ‘/tmp/mysql.sock’ (2) in /usr/home/edge-dev/finance/htdocs/finance/config_new.inc on line 24

Warning: mysql_select_db(): A link to the server could not be established in /usr/home/edge-dev/finance/htdocs/finance/config_new.inc on line 24

Warning: mysql_query(): Can’t connect to local MySQL server through socket ‘/tmp/mysql.sock’ (2) in /usr/home/edge-dev/finance/htdocs/finance/view_new.php on line 7

Warning: mysql_query(): A link to the server could not be established in /usr/home/edge-dev/finance/htdocs/finance/view_new.php on line 7

Warning: mysql_query(): Can’t connect to local MySQL server through socket ‘/tmp/mysql.sock’ (2) in /usr/home/edge-dev/finance/htdocs/finance/view_new.php on line 9

Warning: mysql_query(): A link to the server could not be established in /usr/home/edge-dev/finance/htdocs/finance/view_new.php on line 9

Warning: mysql_fetch_array(): supplied argument is not a valid MySQL result resource in /usr/home/edge-dev/finance/htdocs/finance/view_new.php on line 9

Warning: mysql_query(): Can’t connect to local MySQL server through socket ‘/tmp/mysql.sock’ (2) in /usr/home/edge-dev/finance/htdocs/finance/viewinc_new.inc on line 4

Warning: mysql_query(): A link to the server could not be established in /usr/home/edge-dev/finance/htdocs/finance/viewinc_new.inc on line 4

Warning: mysql_fetch_array(): supplied argument is not a valid MySQL result resource in /usr/home/edge-dev/finance/htdocs/finance/viewinc_new.inc on line 4

「だから、地上波も必要なんです。」ってなオチじゃないでしょうね・・・。

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ライブドア、「ニッポン放送戦」に参戦

フジテレビが株式公開買い付け(TOB)中だったニッポン放送株を、ライブドア(さん)が35%取得されたそうです。(はぐれバンカーさん、コメントに情報ありがとうございました。)

ライブドア、ニッポン放送株35%を取得
 インターネット関連サービスを提供するライブドアが8日、東証二部上場のラジオ放送会社、ニッポン放送の株式を35%取得したと発表した。同日までに市場で買い取った。ニッポン放送はフジサンケイグループの中核企業の一つ。(中略)
 ライブドアは7日までに市場で買い増し、出資比率を5.36%に引き上げた。さらに8日早朝には東京証券取引所の立ち会い外取引システムを利用し、機関投資家などから29.63%を追加取得。合計で35%を手中に収めた。投資総額は概算で700億円。株主が33.4%以上の株式を取得した場合、株主総会で重要事項に対する拒否権を持つことができる。(以下略)(10:53)

全株取得を目指してTOBするフジテレビは、それなりの「ご予算」の制約もありますし、それまでの株価の20%増しもの価格を付けてるわけで、あまりそれ以上高い株価を付けると取締役の責任も問われる可能性もあるので、とりあえずあの価格での買い付けとなったわけですが、
立会外で機関投資家から追加取得したということは、ライブドアさんはTOBの価格より好条件を提示したんでしょうね。
証券取引法では、TOBをいったんかけたらTOB以外の方法でその株を買っちゃいけませんので、

第二十七条の五  公開買付者等は、公開買付期間(公開買付開始公告を行つた日から公開買付けによる買付け等の期間の末日までをいい、当該期間を延長した場合には、延長した期間を含む。以下この節において同じ。)中においては、公開買付けによらないで当該公開買付けに係る株券等の発行者の株券等の買付け等を行つてはならない。(以下略)

フジテレビとしては、途中でよりよい条件が出てきたとしても、個別に一部の株主からよりよい条件で買うことはできず、やるとすれば買付条件全体を修正するしかなくなります。これは「ご予算」全体を上げないといけない上に、公告を出したりと事務手続きも面倒で、全株買付を目指している方としては、状況判断をしながら機動的に条件を変更するというのはかなり面倒なわけですね。

第二十七条の六  公開買付者は、公開買付けに係る買付条件等の変更を行おうとする場合には、公開買付期間中に、内閣府令で定めるところにより、買付条件等の変更の内容その他内閣府令で定める事項を日刊新聞紙に掲載して公告を行わなければならない。(以下略)

一方、ライブドアは、「潜水艦」のようにひそかに現大株主と自由な条件で交渉を進められるわけです。
記事にあるように、ニッポン放送株の3分の1超を保有すれば、フジテレビの株式を22.51%(昨年9月末現在)保有するニッポン放送のリストラ(例えばフジテレビとの合併や株式交換による完全子会社化など。)をブロックすることができます。フジテレビに比べて少ない投資で、かなりの「バリュー」を持つ可能性があります。
今日午後4時半から会見だそうですが、「テレビ局経営に乗り出します」てなことを宣言するんですかね?
立会外システムで機関投資家などから29.63%取得って、細かくいろんな投資家からゲットしたとも思えませんが、まとめてたくさんに持ってるのって、やっぱり「村上ファンド」さんでしょうか。
秘密裏に交渉するにも、同じ六本木ヒルズ内だし。
(ではまた。)

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ファンドの課税「強化」を考えた人は「バカ」じゃない

一昨日のエントリー、「ファンドの外国人投資家への課税「強化」、ですって?」に対して、Bewaad Institute@Kasumigasekiさんから「続・バカには正しくバカと言おう」というトラックバックいただきました。ありがとうございます。
(このBewaadさん、現役の霞ヶ関官僚の方らしいのですが、いろいろ記事を拝見すると、霞ヶ関内部の考え方などが垣間見れて、非常にためになります。)
さて、一昨日の私の記事の要旨は、

みなさん、本件を新たな課税ととらえてらっしゃるようですが、税法上今でもすでに外国人投資家が払わないといけない(誤解を恐れずに平たく言えば「脱税」してるともいえる)税金を払えと言ってるだけじゃないの?。
これを考えた方は「低能」どころか、批判を浴びている株転がし的なファンドを含む事業投資的ファンドへの外国人投資家を中心に、日本が取るべき税金をきっちり確保するとともに、VCをはじめとする一般的な株式投資には比較的影響が出ないようにし、さらに税率も過度に高いものとならないことにするという、なかなかうまい落としどころを考えたもんだと思いますし、これで対日投資が減るというような大げさなもんでもないでしょう。

ということだったのに対して、トラックバックしていただいた内容は、

isologueの「ファンドの外国人投資家への課税「強化」、ですって?」での議論は、要すれば今回の措置はもともとファンドであっても課税される前提であったことについて、その「ファンド」とは何かという点であまりにもグレーゾーンが広かったものを、きちんと課税対象だと「明確化」した、というものです。この点については、LP(Limited Partnership)とかLLC(Limited Liability Company)といった類の、主としてアメリカ法に基づく準法人組織に対応する日本法の規定がなかったことに問題があったように思います。

従来の日本法に基づく制度に当てはめれば、民法上の(任意)組合か商法上の匿名組合が似通っているわけですが、これらは基本的に各出資者に租税負担が帰属し、ファンド自体には法人格がないという取扱いなので、法人税の対象にはなりません。では、上記のLPやLLCその他類似の組織には法人格があるのでしょうか、それともないのでしょうか。法人格があるのであれば法人税の対象になりますし、なければ対象にはなりません。

結論から言ってしまうと、アメリカでの取扱いは目的により法人格がないようにもあるようにも取り扱うというもので、何らかの行為がなされるときに、それがLP等への各出資者の行為と考えた方が合目的的なものについては法人格はないと考えますし、逆であればあるものとして取り扱われます。今回の租税の取扱いはこれらの組織について、こと法人税を課すかどうかについては法人格があると考えますよ、ということです。

ということでした。
私の説明が悪くかつ非常に文章が長かった面もあるかと思いますが、これ、ちょっと違うと思います。
つまり、私が「うまい落としどころ」だと思ったのは、以下のような点からです。
うまさその1:パススルー性は認めた点
もともとのグロービスの堀さんのコラムでも、「今回の課税強化はこのパススルー性の否定で、国際的にもおかしい」という旨のことが主張されており、また今回のBewaadさんの記事でも、今回の課税強化でファンドのパススルー(pass through)性自体が否定されたように読めるのですが、今回の「強化」では、ファンド自体に法人税を課さない「パススルー性」には手を付けてません。
課税されるのはあくまで、ファンドの構成員であるLP(Limited Partner=投資家)。
ファンドは、LPが払うべき税金を「源泉徴収する」(代わりに取り立てとく)だけで、ファンドが法人税を課されるわけではありません。
今後は日本版LLPもできますし、税務上パススルーのファンドが日本経済の再生や新しい産業の創成に役に立っているというのは、私は逆に今回の件で、課税側にも着実に認識されてきているのではないかと思ったのですが、どうでしょうか。
うまさその2:「キャピタルゲイン」には課税しないこと
これも一昨日のエントリーに詳しく書きましたが、外国法人等のキャピタルゲインには課税しないというタテマエは一応貫かれているところもうまいです。
「課税してるじゃん!」というツッコミが聞こえてきそうですが、あれ(法人税法施行令第187条�)は「実質的な中身は事業譲渡だから課税します」という趣旨なわけですね。
つまり、まず、外国法人等であっても、日本国内で「事業」をやっていたら課税されます。これは当然ですよね?不平等条約下じゃないので、外国人といえど「日本国内で」行った事業の儲けに日本政府が課税権を持つのは当然です。
また、外国法人等が国内でやっていたその事業を営業譲渡して儲かったら、それにも課税されます。これも納得できますよね。
では、日本でやっていたその事業を、営業譲渡じゃなくて会社丸ごと「株式」の形にパッケージングして譲渡したらどうでしょうか。実態としてはさっきと同じ事業丸ごとの譲渡なのに、「それはキャピタルゲインだから課税されない」というのはヘンですよね。
しかし一方で、例えば3%しか持ってない人は、「会社を経営していた」というよりは、純粋にフィナンシャルな投資をしていたわけであり、そのキャピタルゲインに課税するのはよろしくない。
・・・ということで、法人税法施行令第187条�や所得税法施行令第291条�では、「事業譲渡類似」の線引きを「25%以上」としていたわけです。今回から初めてというわけではなく、昔からもう既に。
じゃあ、どうやって「25%」を判定するかですが、令第187条�は、子会社とか奥さんとかお妾さん等に株を分散させたりしてても、まとめて25%と見ますよ、ということを定めています。(これも以前から。)

4 第一項第三号ロに規定する特殊関係株主等とは、同号ロの内国法人の株主等及び当該株主等と第四条(同族関係者の範囲)に規定する特殊の関係その他これに準ずる関係のある者をいう。

要するに「グル」「仲間」はひとまとめで考えますよ、ということです。
それでは、ファンドのGPや各LPは「グル」なんでしょうかどうでしょうか?というと、みんなでまとまって投資しているので、普通の人の感覚だと明らかに「グル」じゃん?と思うと思うのですが、どうでしょうか?
今まで、上記の条文の「その他これに準ずる関係のある者」なのかどうかがいまいちはっきりしてなかったので、今回そこを「明確化」したというわけです。
今回の「課税強化」に反対される方は、理論的にはここ(つまり、各LPはまったくバラバラな投資家であり、それを束ねても事業譲渡類似にあたらないのだ、ということ)を攻撃しないといけないんじゃないかと思います。
(ただ、一般の国民は、再生ファンドが弱った日本企業を買って短期で高く売却するような行為は、まさに「日本国内での事業譲渡」にしか見えないでしょうし、「ファンドの個々の投資家は一人づつ別々です」というのも詭弁にしか聞こえないと思いますので、「政治的には」、対内投資が減る、というような言い方のほうがいいのかも知れませんが。)
うまさその3:タテマエ上「減税」です。
ということで、今までもそうした外国人投資家がそういうケースには日本で納税しなきゃいけなかったとも考えられるわけですが、これ、もし納税するとなると、例えば投資家が法人なら法人税率(〜30%)で税金を計算して納めないといけません。
ところが、今回の源泉徴収は20%ということになったわけです。
税制大綱の記述だけではよくわかりませんが、現行の匿名組合の規定と同じように20%の源泉徴収だけで課税関係が終了するのであれば、(タテマエとしては)「減税」ですよね。
「脱税」してた(または、条文はそうは読めないという「見解の相違」のある)人から見ると、当然「増税」に見えるわけでありますが。
というわけで、まとめますと、今回の「強化」は、「ファンドに」課税されるわけでもなければ、「(ピュアな)キャピタルゲインに課税される」わけでもありません。
−−−
いずれにせよ、税金というのは、取られる側からすると、どんな理屈があろうと絶対イヤなわけです。(笑)
しかし、以上のように考えてくると、今回の「課税強化」は、「取りっぱぐれをなくす」という意味の「強化」であり、日本の課税権の範囲を考えると極めて合理性な施策なんじゃないかと思うんですが、みなさん、どう思われますか?
(ではまた。)
(追記)
ご参考:切込隊長氏の本日の記事。「例のアレの増税に関する議論」
例によって(切込隊長ブログのトラフィックが多いからか?)、トラックバックのタイムアウトエラーが出てしまって、2回もトラックバックがついてしまいました。すみません。

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