ライブドアのMSCB(ガクガクブルブルその2)

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先日の記事「ライブドアのMSCB」の「ガクガク(((((゚Д゚)))))ブルブル」に対して、いろいろご批判のコメントをいただきました。

うう?ブルブル、じゃわからないですが??
どんな条件なのですか?
投稿者 hassuru hassuru : February 11, 2005 08:58 AM

(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブルじゃなくてちゃんと説明しろよ。
投稿者 みつを : February 11, 2005 06:55 PM

はい。すんまへん。以下、謹んでご説明させていただきます。<(_ _)>
まず資料
まず、転換社債の諸条件の現物を見たい方はこちらをご覧ください。

公告:
http://ir.nikkei.co.jp/data/pdf/20050209/05020275.pdf
プレスリリース:
http://ir.nikkei.co.jp/irftp/data/…/12080010.pdf
(プレスリリースの方が、内容が詳しいです。)

主要な条件
このプレスリリースを見ると、たくさんの条件が書いてありますが、特に重要なのは下記のあたりだと考えられます。

(3) 新株予約権の行使に際して払込をなすべき額
� 本新株予約権の行使に際して払込をなすべき1 株当たりの額(以下「転換価額」という。)は、当初450 円(以下「当初転換価額」という。)とする。
� 転換価額の修正
本新株予約権付社債の発行後、毎週金曜日(以下「決定日」という。)の翌取引日以降、転換価額は、決定日までの3連続取引日(終値のない日は除き、決定日が取引日でない場合には、決定日の直前取引日までの3 連続取引日とする。)の株式会社東京証券取引所における当社普通株式の普通取引の毎日の売買高加重平均価格の平均値の90%に相当する金額(以下「修正後転換価額」という。)に修正される。但し、かかる算出の結果、修正後転換価額が157 円(以下「下限転換価額」という。但し、下記�により調整される。)を下回る場合には、修正後転換価額は下限転換価額とする。
(5) 新株予約権の行使請求期間
2005 年2 月25 日から2010 年2 月23 日まで

特に、
・平均単価を出すのが3取引営業日というところ、
・発行日の翌週から毎週、転換価額が修正されるところ、
・下限転換価額が34.8%と非常に低いところ
・そして、一度株価が下がると株価が回復しても二度と転換価額はあがらない条件になっているところ、(「てつ」さんのご指摘により削除。コメント欄参照)
等が、注視すべき点かと思います。
これが、どのくらいよろしくない条件かというのをデータで見てみましょう。
以前も用いたデータで、一昨年の10月から昨年の9月までの200ちょっとの転換社債の発行例を調べたデータを用いてます。私がNIKKEI NETの公告pdfから一つ一つひろったデータで、あまり精査もしてませんが、おおかたの傾向を見るには問題ないかと思います。
平均単価算定日数
まず、平均単価を出す日数。これが長いほど「売り崩し」に強いと考えられますが、
image002.gif
上図のように、今回のライブドアさんのMSCBの条件「3日」は、下から全体の15%未満のところにあります。
転換価額修正頻度
次に、転換価額がどのくらいの頻度で修正されるか。今回のMSCBは「毎週」ですが、
image008.gif
上図のとおり、「毎週」は、頻度の高いものから数えて全体の9%ちょっとのところにあります。
頻度が高いほど、直前の転換価格をさらに割り込む可能性が高まるわけで、下方にしか修正されない転換社債では、下がり始めるとどんどん転換価額が下がる要因になり得ます。
当初転換価額に対する下限価格の割合
次に下限の低さ。(当初転換価額に対する%)
これが株価下落の「底なし度」を表すわけですが、今回のMSCBは当初転換価額の35%弱です。
image009.gif
上図のように、これも低い方から数えて約10%のところにあります。
以上のように、どの条件も下から数えた方が早い。というか、この条件より「下」の企業は、どことは申しませんが、株価がタダみたいになっちゃったシステム会社さんとか、架空取引で有名になった会社さんとか、ちょっとナニな企業さんが多いのも事実。(だからといって、ライブドアさんもナニだ、ということを申し上げるつもりはありませんが)、投資家の方々にある種の「連想」を喚起させるのはいたしかたないかと思います。
ご注意いただきたいのは、上記の通り、発行される転換社債の約6割は(条件の差はあれ)転換価格は修正されますので、「MSCB」なわけで、前にも述べたとおり、「MSCB=わるもの」という認識はちょっと行き過ぎではないかと、私は思います。
ただ、今回のライブドアさんの転換社債の条件がその中でどう位置づけられるかというと、上記の通り、とても「いい方」とは言えないんじゃないでしょうか?
コールオプション条項
ただし。この転換社債には「コールオプション条項」がついてます。

7社債に関する事項
(4) 繰上償還
�コールオプション条項による繰上償還
当社は、その選択により、本社債所持人に対して10 日以上の事前の通知を行うことにより、2005年3 月以降、毎月の各取引日において、残存本社債の全部又は一部(但し、額面金額合計100 億円以上)をその額面金額に対する下記の割合で表される償還金額により繰上償還することができる。
「取引日」とは、株式会社東京証券取引所が開設されている日をいい、終値が発表されない日を含まない。
2005 年3 月1 日から2005 年3 月31 日まで107%
2005 年4 月1 日から2005 年4 月30 日まで106%
2005 年5 月1 日から2005 年5 月31 日まで105%
2005 年6 月1 日から2005 年6 月30 日まで104%
2005 年7 月1 日から2010 年2 月23 日まで103%

ということで、「あまりひどいことになったらコールオプションを行使して返すつもりですから」という「説明(言い訳)」がしやすい。
また、普通のオプションのモデルに「株価が一定以上に下落したらコールオプションを使用する」というような(好意的な)仮定を加えた単純なモデルであれば、シンプルなモンテカルロシミュレーション風のモデルで理論価格も計算しやすいかと思いますが、「実際に借り換えができるかどうか」は、ライブドアの財務状況に関わってくるので、まともにやろうとするとモデルが非常に複雑になってしまう可能性があります。(つまり、うがった見方をすれば、この条件を入れておけば、「低価発行で違法だ!」というツッコミは受けにくいかも。)
実際、このCB、今後、株価が上がっていけば何の問題もないわけです。
しかし、問題は株価が下がり始めた場合。
こうしたキツい条件のMSCBの場合、株価低落→転換価格低下→希薄化→さらなる株価低落というような「負のスパイラル」が働きだす可能性は高いですし、そういう状況下で、800億円もの資金をこのCBよりいい条件で借り換えできるのかどうかは、はなはだ疑問じゃないでしょうか?
加えて、証取法164条の関係もあり、あまり短期間で転売というようなことが行いにくいとすると、株価が下がり切っちゃった後、ということもあり得ます。
モデルとしても、例えば「株価が2割以上落ちた場合には、これ以上のいい条件での借り換えはできない」というように仮定を単純化してしまえば、コールオプションを付けないオプションバリューと付ける場合のオプションバリューは、あまり差がないことになってくるのではないかと考えられます。
とすると、やはり、このMSCBの条件は、

ガクガク(((((゚Д゚)))))ブルブル

と申し上げるのが適当ではないかと考える次第であります。
(ご参考まで。)

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20 thoughts on “ライブドアのMSCB(ガクガクブルブルその2)

  1. はじめまして。参考&勉強になりました。特にオプション条項の解釈について。
    ひとつ、「そして、一度株価が下がると株価が回復しても二度と転換価額は
    あがらない条件」という点、もう少し詳しくご説明いただけませんでしょうか。
    上記資料からでは
    「毎週金曜日(以下「決定日」という。)の翌取引日以降」に修正されるので、
    株価が上がれば転換価額もあがる余地があるように読めるのですが、
    そうではないのでしょうか?
    こういった文章、あまり読みなれてないもので、ご遠慮なくご指摘ください。(^^;

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  4. てつさん、
    大変失礼しました。上がる余地はあると読めます。
    こういった上方にも修正されるものの場合、「上限転換価額」も設定するのが大半なので、上方には修正されないものとばかり勘違いしてました。
    これで、「ガクガク(((((゚Д゚)))))ブルブル」度はちょっと減ります。株価が下方に転がりはじめた場合のリスクが大きいことには変わりがありませんが。
    ご指摘いただきまして、どうもありがとうございます。
    (ではでは。)

  5. 磯崎さん、ありがとうございます。
    上記、了解しました。
    逆に言えば、上方については限度額なしとも理解できるわけですね。

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  9. MSCBについて興味を深く、拝見させていただきました。
    直感的に思ったことは、MSCBは、
    引受人の利益=利息、の債権で、
    株価変動という形で既存株主が直接負担しているのではないかと。
    つまり、投資結果による株価変動から引受人の利益を引いたものが、
    既存株主のキャピタルゲインもしくはロスになっているのではないかということです。
    したがって、発行体企業の株価の変動からだけでは、
    CBの性質を判別できないのではと思いました。
    CBの性質の良し悪しは、社債や借入金と同じで、
    どれだけの利息を払わなければならないかということではないでしょうか。
    (借入金等は間接的に株主が利息を負担している)
    そう考えると、引受人がリスクを低く、利益を多く、
    取れるようなCBが悪いCBだと思ったのですが、
    (それらのCBは高金利で借入をしていることと同義)
    どうでしょうか?

  10. あのコールオプション条項って何ですか?
    株価が下落した場合に権利を行使しても
    損するのはライブドアではないのですか?
    プットオプションならわかりますけど・・・・
    そのあたりどうなのでしょうか?

  11. Livedoorの一件でCBの引受幹事のリーマンブラザーズが一番おいしかったのでしょうか。引受け手数料のほか、CBの転換価額の下方修正条項によってかなりおいしい蜜だけをすけるような仕組みになっているような気がするんですが。

  12. ほりえもん

    やっぱり書くべきだよね。
    まずは、ヒトコト。
    「すげぇよ、ほりえもん!」
    では。
    僕なりに分析。
    (あくまで、”僕なり”なんで真に受けないでね)
    【ニッポン放送買うメリット】
    †フジテレビの筆頭株主のため、事実上フジテレビが手に入る
    †そ…

  13. 転換価額の上方修正もあり、という前提では
    「もし株価が上がってもLehmanBrosが転換するか?」
    というのが、新たな焦点になりますね。
    転換せず2007年(再来年ですね)に800億円耳を揃えて返せ、ってなったら
    代わりの800億円って用意できるのかしらん?
    私の前の職場は一部上場会社でしたが
    以前300億円のCBを償還する直前にメイン行の一つが資金繰り難に陥り借り換えに参加せず、資金計画が大きく狂いました。
    (銀行はその後破綻)
    結局SBを発行+他のメイン行(ここはここで当時経営不安が言われていましたが)から
    200億を調達してやっとの思いで償還したようです。
    話がそれましたが、800億というのはそれ以上に大きい金額ですよね。

  14. 転換社債の公告を見て気付いたのですが、ライブドアの登記簿上の本店は、
    「新宿区歌舞伎町2−16−9」なんですね。何か理由があるのでしょうか?

  15. 時代の変わり目にいるのでしょうかね。
    堀江さんがどうなろうが、
    この流れは止まらないでしょう。
    それにしてもテレビ局って神聖不可侵なものという幻想みたいなものを
    持っている人が多いことには意外性を感じますが。
    これからはネットの時代なのでしょうか。

  16. フォーサイドとMSCB

    フォーサイド・ドット・コムの株価がなかなか上がらない(>_フォーサイド・ドット・コムの株価がなかなか上がらない(>_