1級デューデリジェンス士過去問題例

(平成16年度試験より。)  (ご注意:ジョークです。)
あなたの勤務する監査法人は、公開会社A社からデューデリジェンスの仕事を引き受けることになりました。公開会社A社は別の公開会社B社に対して第三者割当増資による巨額の投資を検討しています。以下の問1、問2を読んで設問に答えなさい。
問1.A社の担当者は、あなたに対して、「この投資を行うことは事実上もう決定しているので、デューデリジェンスも適当に形だけやっていただければ結構ですよ。」と伝えたとします。この場合、デューデリジェンス作業の責任者である専門家として、あなたはどのような態度を取ることが望ましいですか。下記の選択肢の中から最も適切と考えられるものを選びなさい。
(1) デューデリジェンスの場合、証券取引法や商法に定められた監査とは異なり、任意の調査(レビュー)であるので、基本的にクライアントが求めるレベルの調査を行えばよい。
(2) 今回のような公開会社が行う巨額の投資の場合、後でA社の取締役が代表訴訟された場合等に報告書が証拠として提出される場合もあるので、クライアントの意向に関わりなく、監査法人として専門家の注意義務を果たしたと言える水準の調査を行う。
(3) A社担当者の希望する調査の範囲が、B社への投資を決定するためには不足していると考えられる場合には、A社担当者に、「この範囲では取締役が注意義務違反を問われる可能性がある」旨を告げ、調査範囲の修正を促す。
(4) クライアントの希望とは関係なく、監査法人が通常行う項目についての調査を実行する。
問2.あなたは、調査結果を仮にまとめたドラフト版のレポートをA社担当者に提示して最終報告書の打ち合わせをしています。専門家であれば調査の課程で通常なら発見できるであろう いくつかの事項について、A社の担当者から、「これらの事項が記載されていると、当社はB社に投資をできなくなってしまうので、最終報告書からはこれらの部分は削除してほしい。」と依頼があったとします。この場合、責任者のあなたは、どのような態度を取ることが望ましいですか。下記の選択肢の中から最も適切なものを選びなさい。
(1) 監査法人が専門家としての注意義務違反に問われる可能性があるため削除はできない旨を告げて、最終報告書に当該事項の記載を行う。
(2) 監査法人とA社との関係が悪化する可能性に配慮し、最終報告書には記載しない。
(3) A社の代表者または契約書に記載された相手方担当者に口頭で当該内容について十分説明を行って、それを監査法人内のみで使用する議事録またはワーキングペーパーに記載するにとどめ、最終報告書には当該事項を記載しない。
(4) 「あんたとはもうやってられまへんわ」と言って、デューデリジェンスの担当を辞す。
あなたの勤務する法律事務所は、この公開会社A社からデューデリジェンスの仕事を引き受けることになりました。以下の問3を読んで設問に答えなさい。
問3.あなたの報告書および監査法人が出した報告書には、深刻なB社の法的・財務的問題点が記載されており、普通に考えればB社に対する投資は行うべきでないことが明らかであったとします。これにも関わらず、A社代表者は、B社に対する投資を進めようとしています。
デューデリジェンスを指揮した弁護士であるあなたは、A社代表者に対してどのようなアドバイスをしますか。最も適切なものを選択しなさい。
(1) 取締役の注意義務または忠実義務違反があったとして訴訟されて負ける可能性もあることをA社代表者に説明し、B社に対する投資に強硬に反対する。
(2) 取締役の注意義務または忠実義務違反として訴訟されて負ける可能性もあることを一通り説明して、あとはA社の決定に任せる。
(3) 訴訟になったときに備え、B社に対する投資が合理的であった旨の内部検討資料をA社とともに準備する。
(4) 「あんたとはもうやってられまへんわ」と言って、A社の担当を辞す。

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LegalXML

XBRL(会計版XML)関係者の某氏にご教授いただきましたが、「オープンな法体系(SF小説風)」に登場させた「法律版のXML」、すでに実在するようですね。
LegalXML
http://www.legalxml.org/
失礼いたしました。>LegalXML関係者様
「XBRLほどには盛り上がっていない感じ」、という話もありますが、確かにWebを拝見しても、あまりアウトプットが載っていないようにも見えます。
単純に考えて、法律の分野をXML化するというのは、会計分野をXML化するよりも相当複雑な(気が遠くなる作業が必要な)気がします。
「SF小説風」の中では、「『法律上の概念』と『言語による表現』のレイヤーが切り離され」「クリック一発で日本語にもフランス語にも韓国語にも表示されるようになった。」とカンタンに書いてみましたが、
それぞれの国の法律は(会計以上に)それぞれの国で固有の概念を持っているはずで、それを言語に依存しないメタな概念として抽出できるかというと・・・実際には非常に難しそうな気もします。
「ざけんじゃねー!」「そんな簡単に行くなら苦労せんわい!」と激怒された方がいらっしゃいましたら、ご容赦ください。あくまで「SF小説風」でございますので・・・(汗)
(ではまた。)

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和解案、正式発表されましたね

(追記18:11)、(追記あり19:07)
ライブドアとフジテレビの和解案が正式発表されました。
適時開示のプレスリリースのリンクを掲げておきます。
コメントは・・・あまりないですが、ライブドアさん、交渉がうまいなー、という感じですね。
もうちょっとフジテレビさんに有利な条件での着地もあったんじゃないかと思いますけど、これ以上、ライブドアさんを追いつめないのはじっくり考えると正解かも知れません。
(ただ、フジテレビの株主や、ニッポン放送の前回のTOBに応じてくれた株主や、その株主の株主が納得するかどうかは別のお話。)
産活法の現金対価の株式交換は、47thさん大当たり〜、です。
(追記:19:07)
某記者の方に教えていただいてなるほどと思いましたが、リリースにある下記の一文は非常に趣深い一文ですね。

証券取引法に基づく諸手続を経て、フジテレビはライブドアが実施する第三者割当増資を引き受ける予定です。基本合意された第三者割当の内容は下記の通りですが、払込期日までに実施されるフジテレビによるライブドアのデューディリジェンスの結果によっては、当該内容は変更または本資本参加は中止される可能性があります。

これだけの出資をするわけなので、当然、デューデリはちゃんとやらんといけませんわね。
フジテレビさんがどこまでどんなデューデリをするか、ですが。(微笑)
(ではまた。)
●ニッポン放送分
親会社の異動に関するお知らせ
フジテレビによるニッポン放送の完全子会社化に関する基本合意のお知らせ
●フジテレビ分
基本合意のお知らせ
フジテレビによるニッポン放送の完全子会社化に関する基本合意のお知らせ
ニッポン放送子会社化に関するお知らせ
●ライブドア分
株式会社ライブドア・パートナーズの株式譲渡に関するお知らせ
基本合意のお知らせ
第三者割当による新株式発行に関するお知らせ
■産業活力再生特別措置法
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H11/H11HO131.html

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オープンな法体系(SF小説風)

みなさんから、契約書を著作権で保護する必要があるかどうかについて、いろいろご意見をいただきました。
以前より「オープンな法体系」というものについていろいろ思考(妄想)しておりまして、それをSF小説風に書くとこんな感じになるかな、ということでまとめてみました。
半日で書きあげて、あまり「ハードな考証」をしたわけでもないので、ツッコミどころ満載かと思いますが、ご興味のある方は、ご笑覧いただければ幸いです。
(以下、登場人物・団体等は実在のものとは関係ありません。)

−−−

2035年2月15日。
昨日、大きなディールをクローズさせたボクは、江ノ島を遠くに望む高台にある鎌倉の自宅で博士論文を書いている。
テーマは「21世紀における電子法学発展の歴史とOLI仕様の変遷」。
2007年にシリコンバレーで発案されたXMLによる法律文書の体系、「OLI」(Open Legal Interface)が、どのように実務界で発展し、経済と産業に影響を与えてきたか、という内容である。

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契約書の著作権(その2)

昨日のエントリにいただいたコメントを総合すると、どうも日本では契約書の著作権については(法的にあるか無いかはともかく)「無い」という前提でうまく回ってきたけど、米国では「(弁護士事務所等に)ある」ということで確立してるということのようですね。
確かに、よくある表現の一枚ぺらのNDA(守秘義務契約)の契約書の内容がほとんど同じだったからといって「著作権の侵害だ!」とか騒がれても困りますが、一方で、(例えば)厚さ10cm以上もあるような延べ何百時間もかけて詰められたストラクチャードファイナンスの契約書が、別の会社で固有名詞以外一言一句同じにコピーされても法的に保護されませんよというのでは、ちょっと作った人に申し分けなさすぎる気がします。
日本ではそもそも、5年くらい前までは例えばベンチャーキャピタルさん等がベンチャー企業に投資するときにも、契約書は最大手クラスでも「1枚」とか、大抵は「いやー、面倒なので(締結しなくて)結構ですよ」てなことをおっしゃったりしてました。明らかに法的保護を必要とするような「労作」は、証券化など「狭い世界」で使われるだけだったので、t.ikawaさんおっしゃる「職人の仁義」的ガバナンスが成立してたのかも知れません。(k2bzさんおっしゃるとおり、今後どうなるか、というのはありますね。)
《ぬえ》さんがおっしゃるように、ISDA (International Swap and Derivatives Association, Inc.) では、原則複製禁止、ただし契約締結目的であれば正本を一部購入すれば複製可、ということになってるようですね。
4765008258.09.MZZZZZZZ.jpg
新デリバティブ・ドキュメンテーション—デリバティブ取引の契約書実務
植木 雅広 (著)
(の4ページあたりにも書いてありました。)
(ではまた。)

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契約書の著作権

以前、大手法律事務所系の弁護士さんと雑談していたときに、
「ところで、契約書って当然、著作権法の保護を受けますよね?」
と聞いたら、
(「当たり前じゃん。契約書も著作権法上の『著作物』に該当するに決まってるし、オレら、それでメシ食っとんねん。コピーして勝手に流用したりすんじゃねーぞ。」と言われるかと思いきや、)
「えっ?えーと、どうなのかなあ。考えたことないなあ。保護されないんじゃないのかなあ。そんなこと言ったら、大手の事務所でも米国あたりの契約書を翻訳してパクって来てたりするのもどうか、みたいな話になっちゃうしなあ。」
みたいなことをおっしゃるので、「えっ」って感じだったのですが。テキトーな仕事をする方ならともかく、大変よく勉強していい仕事をされる方なので、意外感もひとしお。
他の事務所の契約書の文言なんかをお互いに見て、「なるほど、こう来るか」と学習しあっているので、一種の「オープンソース」または「持ちつ持たれつ」的感覚が業界内にあるということなのか。それとも意外に弁護士さんの知財保護的感覚って弱いということなのか。
−−−
一般的にプロフェッショナルな職業って、「紺屋の白袴度」が高いことが多いように思われますが、どうでしょう?
弁護士事務所は、他人の契約書は作るけど、弁護士さんと仕事を始める前に「今回の仕事はこういう契約で」と契約書を結んだ記憶はあまりないですし、
監査法人は人の情報の開示についてはプロなのに、あんまり自分の法人の情報は開示してらっしゃらないですし、
戦略コンサル会社が自分の会社の戦略はあまりなかったり(苦笑)、ITコンサル会社の社内システムがガタガタだったり。(苦笑)
−−−
そういえば、送られてきた契約書のMS-Wordのファイルのプロパティの「作成者」に、他の事務所の名前が入ってるというのも何度かみたことがあります。
もちろん中身を十分理解して流用してらっしゃるならいいんですが、先日、相手方の弁護士さんから送られてきた、「又は」と「または」、「及び」と「および」が激しく混在した契約書を見て、(内容もイケてなかったので)、「これはいくらなんでも、中身をよく検討せずにあちこちからコピペって来たんだろうなあ」と思った次第。
「『又は』と『または』をちゃんと統一しろ!」と厳しくご指導される弁護士さんとか法務担当者の方を多く見かけてきたので、「やっぱり法律の教育をちゃんと受けてらっしゃる方は基本動作がちゃうなあー」と関心することが多かったんですが、必ずしも全員がそういう方ばっかりでもないということのようですね。
(私自身の「紺屋の白袴度」をツッコまれると激しく困るので、本日はこの辺で・・・)

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遅ればせながら花見とワインのご報告

スパムコメントが大量に来てたので消してたら、間違ってどなたかのコメントを(たぶん1件だけ)消しちゃいました。大変申し訳ありません。<(_ _)>
−−−
週刊モーニング連載の初?(追記:そういえば一時期、島耕作でもワインやっていた)のワインまんが、「神の雫」
4063724220.01.MZZZZZZZ.jpg
に載っていた、飲むと「QUEEN」が目の前に現れるという(!)マルチメディアなワイン、シャトーモンペラ(Chateau Mont-Perat)
img10151104644.jpg
が、taka-mojitoさんのブログで紹介されていたので、(今までワインを飲むなんて高尚な趣味はなかったのですが)、1本買って、先週日曜日、花粉と砂塵が舞い散る花見の席
hanami2005.jpg
で飲んでみました。
・・・・
残念ながら、フレディ・マーキュリーは目の前に現れてくれなかった・・・。_| ̄|○
こりゃ、クイーンが現れたり、イチゴ畑で女神が振り向いたりするようになるには、かなり修行が必要そうで・・・。
(ではまた)

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ライブドアとフジ、月内にも和解?

本日は、ここ数日の2割増のアクセスがありますので、おそらく、このネタを期待して見に来られている方が多いんじゃないかと思いますので、コメントをば。
ライブドアとフジ、月内にも和解へ
朝方、隊長のページでこの読売新聞さんの記事を発見したんですが、読売新聞さんのホームページには「個別の記事にリンクするな」と書いてあったので、このYahoo!Newsから配信された記事にリンクさせていただきます。

 関係筋によると、ライブドア側はニッポン放送の株主総会で合併などの重要事項に拒否権を発動できる3分の1超を手元に残し、残りをフジテレビに譲渡する案を示している。

3分の1を手元に残す意味はあるんでしょうか?
フジテレビ側としても、グループ再編をどんどこ進めたいと思いますが、ニッポン放送にライブドアが(しかも1/3も)残ったままだと、ポニーキャニオン等、ニッポン放送が持っている株を動かすのも動かしづらい。
適当なところで妥協せずに、100%子会社化されるのがオススメだと思いますけどねえ。
今ままで、すべてにおいて「ま、今回はこんなところで」というその場しのぎ的ノリで資本政策を行ってきたのが、フジテレビやニッポン放送の資本の大きなゆがみに繋がっちゃったわけですから。その反省を踏まえて、今回こそダイナミックにグループ構造をあるべき姿に変えていかないと、いけないんじゃないでしょうか?
また、ライブドアから「実質的に」株を買い取るとして、村上ファンド等、残りの株式はどうするんでしょうか。またTOBをかけるんでしょうか?上場廃止になって、残りの株主をsqueeze-outするにしても、(合併とか会社分割とか営業譲渡とかに)ライブドアの同意が必要になるとややこしいことになります。
株式交換してニッポン放送をフジテレビの100%子会社化しちゃうんじゃ、だめなんですかねえ?

 譲渡にあたっては、フジテレビがライブドアから直接買い取るのではなく、ライブドアの100%子会社で、ニッポン放送株を大量保有しているライブドア・パートナーズをフジテレビが買収することで、実質的にニッポン放送株を買い取る案が浮上している。

「いくらで買い取るのか」というのが問題ですね。
ライブドアの取得価額に合わせるのか、TOBの5,950円とするのか、今の株価にするのかどうか。
なんと、本日はニッポン放送の株価、上がってますね。公開廃止とsqueeze-outのリスクがますます高まってるように思えるんですが、私の見方は悲観的すぎるんでしょうか。
株しか保有してないと考えられるライブドア・パートナーズに「おみやげ」をもたせて、「DCF法で算定した結果」てな感じで(高めの)譲渡価格を決めるんでしょうか。
ライブドアさんの過去の株式交換のリリースなんかを見ると、そういうのはお得意中のお得意のようですが、それ、フジテレビ側のコンプラ的に大丈夫ですかね?
また、次にTOBをかけるとして、そのTOBの価格と、前回のTOBとの価格と、ライブドア・パートナーズからの実質買い取り価格の3つのつじつまがあうかどうか。
ライブドアからは高く買って、他の少数株主からは前回と同じ5,950円で、というようなことになったら、村上ファンドさんのような「企業価値について積極的に発言する」株主さんもいらっしゃるわけですし。

 また、ライブドアがフジテレビを引受先とする第三者割当増資を実施し、フジテレビがライブドアの発行済み株式数のうち、最大15%程度を取得する方向で調整が進んでいる。

これも、フジテレビ側のコンプラ・コポガバとして、「なぜライブドア株を取得する必要があるのか」「ライブドア株を取得して利益が見込めるのか」という点を明確にしないと非常にまずいかと思います。「違法性の高いことをする会社」と名指ししていた会社の株を取得するわけですからね。

 ライブドア側は当初、取得したニッポン放送株をフジテレビに譲渡する代わりに、フジテレビ株を一定割合取得する案をフジテレビ側に示していた。

それでいいじゃないですか、ねえ。
株式交換で全ニッポン放送株主に平等に、というのが、一番きれいじゃないかと思いますが、なんでイヤなのかしらん。
「どっちが上か」てな(古風な)お考えに基づくものなのかも知れませんが、前述の通り、株式を「持たれる」より「持つ」方が、非常に法的・経済的リスクが高まる気がいたします。
(取り急ぎ)

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日本では金持ちは幸せになれないのか(その2)

(本日、仕事ではディープな作業をしてましたので[苦笑]、またまた漠然とした一般論で恐縮ですが。)
日本では金持ちは幸せになれないのかに、いろいろコメント・トラックバックいただきましてありがとうございました。
「金と幸せは別だろ?」という反応が結構多かったですが、おっしゃるとおりかと思います。
実際、「金のため」に起業して成功してる人ってあまり見かけないですよね。
大きな夢と実力がある経営者に ファイナンスに強い相棒が付いている場合には成功してる例が多いですが、逆にトップがカネの計算には強いけど他のことはよくわからないというベンチャーはイケてないことが多い気がします。(これ、おそらく日本だけじゃなくて、アメリカでもそうでしょう。)
(金融業以外)、ファイナンスの技術はあくまで「ツール」であって、メインであってはならないんでしょうね。
(私自身も「世の中全てカネやで〜」とか言ってる人よりは、夢を追って目をキラキラさせてる人の方が好きなわけでして・・・。)
ただし、世の中全体を考える場合には「金と幸せは別だろ」というわけにはいかない。例えば、GDPが対前年5%下がったとしたら、「収入が多少減っても自分が幸せと思えば幸せ」で済むかというとそうではなくて、ほぼ確実に世の中「エラいこと」になります。
(ミクロでもマクロでも)経済学自体も、「お金があればあるほど幸せ」というのをベースに組み立てられてるわけでして。(個々人がどうかはともかく)全体的・一般的には、「お金があるほど幸せになれる」モードの社会になっている必要があるんじゃないか?という問題意識、だったわけです。
「ごくせんと証券取引法」でも書きましたが、やはりこのへん、個人の素直な感覚と社会全体がうまくいくルールの間にはギャップがあるんでしょうか。
それとも、「一人一人の個人はカネがあまり欲しいと思ってないのに、企業は国際的に競争力がありGDPも高いレベルで保たれている」という状態は、今後も(今後は?)成立しうるんでしょうか?
それとも、組織のトップになるような層は「滅私」で、中間のボリュームゾーンが「カネよこせ〜」状態であり、ニート等やる気のない層はやはりカネには興味がない、というような構成がマクロ的には美しいんでしょうかね?
「マズローの欲求段階説」的にも、ある程度カネがたまってきたら「名誉」とか別のものを目指そうとするから、あまりカネの効用は無くてもいいのかも知れませんね。(お金持ちの気持ちはよく存じませんので、何とも言えませんが・・・。)
(ではまた。)

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日本では金持ちは幸せになれないのか

最近よくトラックバックをいただく小飼 弾さんの「一億総貴族化社会」より。

実は、金は稼ぐより遣う方が難しいのだ。(中略)
「金を稼ぐ」という行為は、「多次元を一次元にmapする」行為だ。額に汗して得た100万円も、万馬券で当てた100万円も、一度100万円になってしまえばどちらも同じ100万円だ。金を遣うのはこれの反対だ。ある人は100万円でうまいものを食って贅肉に”map”し、別の人はそれで本を買ってうんちくに”map”し、はたまたある人はそれを再投資して、「それが200万円になるリターンと10万円になるリスク」に”map”する。稼ぐのは画一的で、遣うのは多様的なのだ。

私も日本社会は、「収入側(の格差が広がっていること)」よりも「支出側」に問題がある気がします。
年収2000万円効用最大説
もう20年以上前ですが、ある大学教授(経済学)曰く、
「日本ではどうも年収2000万円くらいの人が効用が最大って気がするなあ。
それ以上稼いでいる人を見ても、あまりに忙しくて好きなことをする時間がなかったり、家族と生活がすれ違いだったりして、あまり幸せじゃないような気がする。」
とのこと。
その後、日本もちょっとは実力社会になった?ので、もうちょっとトルクのピークは高回転側にシフトしてる気もしますが、ミクロ経済学の教科書に「貨幣の限界効用=1」てなことが書いてあるのに反して、日本では金を持てば持つほどスケーラブル(青天井)に幸せになっていく感じが全くしません。
年収1億円の人が年収300万円の人の30倍くらい幸せそうかというと、まったくそう思えない。(隠してるだけで、ホントは30倍以上幸せなのかしらん?)
なぜか?ということについて、儒教がどうの士農工商がどうのこうのという説明も可能かとは思います。本日発売のスピリッツの「美味しんぼ」でも、「最近は拝金主義の世の中になって嘆かわしい」てなことが書いてあって、背景の絵が雑誌の証券投資の特集記事だったりするので、私としてはそっちの方が嘆かわしかったのですが。とかく日本だと急速に金持ちになった人は「成り金」扱いを受けたりするわけですが、そうした扱いに負けないくらい「金があって幸せ」ということにならないと、誰も金持ちになろうと思わないし「そこそこ」しか目指さないわけで。
優秀な人が「そこそこ」しか目指さない社会のマクロのパフォーマンスは、優秀な人が青天井に付加価値の増大を目指す社会に比べて、著しくパフォーマンスが悪くなるのは明らかです。
ベンチャーを起業しても、時価総額50億円にして自分が何十億円か獲得したら、それ以上稼いでもバッシングを受けるだけということだと非常に困るわけです。100億円の企業を1000億円に、1兆円の時価総額の企業を10兆円に押し上げる経営者に対して、「やりがい」の他には、「使い道のない金」と「バッシング」だけが報酬というのでは、よほど性格がヘンな人しか日本の国富を増やしてくれないことになります。
「金があったら何やってもいい」なんてことは決して申しませんが、堀江社長が言う「金があれば何でもできるということがオープンな社会」という趣旨には、基本的に賛同する次第です。
金持ち向け産業の未発達
つまり、今の日本は「金でできること」が少なすぎるんじゃないでしょうか。換言すれば、日本の金持ちがあまり幸せそうじゃないのは、「金持ち向け産業」が未発達だからという点が大きいのではないかと。
「金持ちの層」が薄いと、その層向けの産業もなかなかビジネスとして成立しない、つまり「卵とニワトリ」のところが出て来てしまうわけで。「中流」の層が厚いと、中流向けのマーケットしか発達しないわけです。250円の牛丼は美味くなり、いろんな機能がついた家電は発達するが、プライベートジェットを持つ人は現れない。
プライベートジェットを持ってる人が近所に1000人いる社会では、ジェットを使わない時は他の人にレンタルするビジネスや、プライベートジェット専門のパイロットの層も厚くなったりして、それ関連のいろんな産業も発達するわけですが、プライベートジェットを持ってる人が10人しかいなかったら、なかなかそれに関連するビジネスも発達しない。
日本ではシティバンクのプライベートバンキング部門もお取りつぶしになっちゃったわけです。マーケットが小さいのでお金持ちの要求に応えてヤバめのことにも手を出さないといけなかった結果、一線を踏み越えちゃったということなんでしょうね。
プール付きの家を買おうと思ってもそもそも土地がバカ高い、ということもあるかも知れません。カリフォルニアとかフロリダの青い空にはプールが似合うけど、春は花粉、梅雨時はドンヨリ、夏は蒸し暑いといった日本の気候には、そもそもプールが似合わないのか。
プレイメイトみたいな金髪美女だったらプールが似合うけど、日本人の体型だとそれは似合わんのか?いやいやASIENCE、世界が嫉妬する髪へ(BGM 坂本龍一)、とか・・・。
逆に、日本は所得格差が小さすぎるので、「召使い」的サービスの労働力のコストが高くなりすぎるのかも知れません。家なり資産なりをスケーラブルにどんどん大きくしていくと、人間以外の家電等で代替できない部分がどうしても増えていくわけですが、家に赤の他人がいっしょに暮らしているというのも非常にウザいですしね。
昔、ちょっとお金持ちな友人の母親が、「お手伝いさんを雇っても、あまり性格がよくない人が多い上に、すぐ辞めちゃう」と嘆いてました。確かに、今の日本で年俸250万円で性格がよくて「はいご主人様」とかよく言うことを聞いて何年も尽くしてくれる人を雇おうってのは無理すぎます。
(追記:格差を今より大きくした方がいい、とか、治安が悪くなってもいいということを言ってるのではないです。無理にトレードオフにしなくても、治安はそのままで金持ちが増えられないという理由はない。)
家事用ロボットが実用化されたあかつきには、日本もみんなが金持ちになりたがる国になるか知らん。
株主の(資産運用の)ために働くべき取締役も「fiduciary」な人ばかりとも限らなかったり。
・・・と、考え出すとキリがないですが、本日はこのへんで。
(ではまた。)

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