1級デューデリジェンス士過去問題例

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(平成16年度試験より。)  (ご注意:ジョークです。)
あなたの勤務する監査法人は、公開会社A社からデューデリジェンスの仕事を引き受けることになりました。公開会社A社は別の公開会社B社に対して第三者割当増資による巨額の投資を検討しています。以下の問1、問2を読んで設問に答えなさい。
問1.A社の担当者は、あなたに対して、「この投資を行うことは事実上もう決定しているので、デューデリジェンスも適当に形だけやっていただければ結構ですよ。」と伝えたとします。この場合、デューデリジェンス作業の責任者である専門家として、あなたはどのような態度を取ることが望ましいですか。下記の選択肢の中から最も適切と考えられるものを選びなさい。
(1) デューデリジェンスの場合、証券取引法や商法に定められた監査とは異なり、任意の調査(レビュー)であるので、基本的にクライアントが求めるレベルの調査を行えばよい。
(2) 今回のような公開会社が行う巨額の投資の場合、後でA社の取締役が代表訴訟された場合等に報告書が証拠として提出される場合もあるので、クライアントの意向に関わりなく、監査法人として専門家の注意義務を果たしたと言える水準の調査を行う。
(3) A社担当者の希望する調査の範囲が、B社への投資を決定するためには不足していると考えられる場合には、A社担当者に、「この範囲では取締役が注意義務違反を問われる可能性がある」旨を告げ、調査範囲の修正を促す。
(4) クライアントの希望とは関係なく、監査法人が通常行う項目についての調査を実行する。
問2.あなたは、調査結果を仮にまとめたドラフト版のレポートをA社担当者に提示して最終報告書の打ち合わせをしています。専門家であれば調査の課程で通常なら発見できるであろう いくつかの事項について、A社の担当者から、「これらの事項が記載されていると、当社はB社に投資をできなくなってしまうので、最終報告書からはこれらの部分は削除してほしい。」と依頼があったとします。この場合、責任者のあなたは、どのような態度を取ることが望ましいですか。下記の選択肢の中から最も適切なものを選びなさい。
(1) 監査法人が専門家としての注意義務違反に問われる可能性があるため削除はできない旨を告げて、最終報告書に当該事項の記載を行う。
(2) 監査法人とA社との関係が悪化する可能性に配慮し、最終報告書には記載しない。
(3) A社の代表者または契約書に記載された相手方担当者に口頭で当該内容について十分説明を行って、それを監査法人内のみで使用する議事録またはワーキングペーパーに記載するにとどめ、最終報告書には当該事項を記載しない。
(4) 「あんたとはもうやってられまへんわ」と言って、デューデリジェンスの担当を辞す。
あなたの勤務する法律事務所は、この公開会社A社からデューデリジェンスの仕事を引き受けることになりました。以下の問3を読んで設問に答えなさい。
問3.あなたの報告書および監査法人が出した報告書には、深刻なB社の法的・財務的問題点が記載されており、普通に考えればB社に対する投資は行うべきでないことが明らかであったとします。これにも関わらず、A社代表者は、B社に対する投資を進めようとしています。
デューデリジェンスを指揮した弁護士であるあなたは、A社代表者に対してどのようなアドバイスをしますか。最も適切なものを選択しなさい。
(1) 取締役の注意義務または忠実義務違反があったとして訴訟されて負ける可能性もあることをA社代表者に説明し、B社に対する投資に強硬に反対する。
(2) 取締役の注意義務または忠実義務違反として訴訟されて負ける可能性もあることを一通り説明して、あとはA社の決定に任せる。
(3) 訴訟になったときに備え、B社に対する投資が合理的であった旨の内部検討資料をA社とともに準備する。
(4) 「あんたとはもうやってられまへんわ」と言って、A社の担当を辞す。

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29 thoughts on “1級デューデリジェンス士過去問題例

  1. 磯崎様、
    いつもお世話になっております。1級デューデリジェンス士過去問題例をUpされたことに便乗して前々から疑問に思っていることをご質問させていただけませんでしょうか。
    「公開企業(この場合「公開企業B社」)に対してデューディリジェンスを実施して投資の意思決定をすることはインサイダー取引に抵触しないのでしょか」
    どうも市場で明らかになっていない事象をデューディリジェンスで発見した場合、それに基づいて投資の意思決定をするのはルール違反の気がします。
    よろしくお願いします。

  2. あ、それはいいご質問ですねー。
    私がお答えするよりもっと専門家の方が答えられた方がよろしいかと思いますが、単に未公開の事実を見ちゃったというだけではインサイダー取引にはあたらないでしょうし、インサイダー取引の要件に該当するような情報を入手してしまったらインサイダー取引に該当する可能性が出てくるということなんじゃないかと思いますが、そもそも第三者割当による株式の取得は、「売買その他の有償の譲渡若しくは譲り受け」に該当するんでしょうか。
    (ちょっと法令等にあたらないと不安なんですが、今からちょうど外出しますので、他の方がお答えいただくことをきぼーんぬ。)

  3. デューディリの過程で、インサイダー情報ぽいのを発見してしまった場合、当然、インサイダー規制に抵触することを避けるため、会社に対し、公表するようお願いすることになると思います。で、そういう場面は、実際に結構あると思いますよ。

  4. 舌足らずな感じがしたのでもう一言。第三者割当そのものがインサイダー取引だということにはならないとしても、出資する者としては、Exitが確保されていてほしいわけで、インサイダー規制が障害になって欲しくないからです。この点、対象会社が公表したくないと言った場合の対応は、ケースバイケースでリスクをどの程度とるかということによると思います。

  5. なるほど!
    、、、といきたいところですが、Close前に公表したらDeal Breakしませんか。
    Downside Riskの話ではなく、例えば大型の商談がかなりの確率(というか後はサインするだけとか)で見込める、海外の子会社が絶好調だけど3ヶ月の決算のズレで反映されてないとか、もっとGeneralにForecastや製品開発・マーケティングの部分でのUpside話とかって会社の内部に入り込んでデューディリジェンスをすればかなり見えてくると思うんですよね。でもそれをDeal前に公表したら株価上がってしまってDeal Breakしませんか?
    そもそもそれらがインサイダーに当てはまるかもよく分かりませんが、一般株主が到底知らないことをデューディリジェンスで分かってしまうのは不公平ではないんでしょうか。

  6. 実はこんな体験があったのでお伺いしているんです。
    デューディリジェンスではないんですが、ある会社のお偉いさんから、部外者の私に、こんなに好決算になるんだよ、とか言って決算短信の数字を教えてもらったことがありまして、どう考えても2-3週間後ぐらいに(とんでもなく)上方修正するんですよね。こういう場合、個人的にその会社の株を買えば儲かる、と認識しましたし、実際買っていれば儲かりました。
    今でも買えばよかった、と後悔することしきり、という話は置いておいて、実際、デューディリジェンスを行う側ってForecastって絶対気になると思うんですよね。そんでもって受ける側はどうしても資料作成・確認・承認を経て公表までのプロセスに一定の時間が必要なわけで、そのタイムラグでインサイダー情報チックなことを知ってしまう、ということありえると考えるんです。とすると、これを公表してからDealを行うって言うのはBreakしろ、と言っているのと等しくて、結局、そこはなあなあで終わってしまうんじゃないかなー、と思います。でも、法的にはきちっとなんだか線もありそうですね。
    ご教示いただきたく。

  7. A社のいいようにDD報告を出して損失が発生したら、後から就任したA社の取締役から
    監査法人なり法律事務所が民事訴訟をおこされたりするんじゃないのですか?
    DDの契約書の書き方にも拠りますが。

  8. MAAdvisorさんのおっしゃっているのは、もっともな悩みですね。でも、それは、インサイダー取引の誘惑と闘っているだけのような気がするのですが(笑)。つまり、インサイダー情報を公表しないままDealに持っていくかどうかは、そのリスクをとるかどうかだと。

  9. MA Advisor :さん。すごい脱線ですが、突っ込ませてください(><;)。
    インサイダーチックっていうか、決算修正情報を事前に知って
    株を売り買いしたら普通に「黒」決定なのでは・・・・

  10. MA Advisorさんの第三者割当増資に関する疑問の件、磯崎さんが最初に指摘されている通り、証券取引法第百六十六条第一項では
     
    「当該上場会社等の特定有価証券等に係る売買その他の有償の譲渡若しくは譲受け又は有価証券指数等先物取引、有価証券オプション取引、外国市場証券先物取引若しくは有価証券店頭デリバティブ取引(以下この条において「売買等」という。)をしてはならない。」
     
    と規定しており、第三者割当増資の引受けは売買でも譲り受けでもないようなので、インサイダー取引規制の対象外に思われます。
    他の奴に聞けば一発回答が返って来ると思うのですが、自分は専門外で知識が無く、間違っているかもしれません。
     
    何れにしても、仮に違法でなくても、増資引受後に重要事実が公表され、株価が上昇した場合、売却益を得なくても社会的批判を受けることは間違いないと思われますので、避けるべきと思います。
    また発行会社側においては、新株発行無効訴訟や株主代表訴訟などのリスクが発生するものと考えた方が良いのではないかと思います。
     
    繰り返しますが、あくまでも感想レベルの内容ですので。。。。。。
     
     
    さて、記事本体の設問、正直、全然分からんのですが、
    問1.(2)  問2.(1) 問3.(1)
    どの選択肢もそれぞれもっともらしく思える。。。

  11. くどいようですが、適用外だとの認識が間違いかもしれない理由としては証券取引法第百六十六条第六項において、わざわざ新株引受権を行使することにより株券を取得する場合などを適用除外であると規定していることがあります。
    新株引受権の行使時に自己株式を割り当てられることが株式の譲り受けに見なされるからなのかも知れませんが。。。
    うーん、わからんですね。

  12. 第三者割当増資って、証取法上は「売買」ではなく、「私募」に該当するんじゃないでしょうか?

  13. 不動産投資に見る役所・会社・個人の無知

     先日の朝日新聞のリート記事(これはGoogleで配信された)にやや違和感を持った。そう言えば何ヶ月か前事務所に 「某大手証券会社の●●です」と大声を発しながら若いセールスマンが 飛び込んできた。5分時間をくれ、リートをご存じですかという。うるせー仕事してんだ…

  14. 第三者割当をインサイダー取引の文脈で問題にしているのですから、当然、公開会社を前提にしているのかと思ってました。そうだとすると、「私募」はありえさそうですね。(本筋から脱線したテーマなような気がしますが、一応コメントしときました。)

  15. 興味深いやりとりだなぁと拝見しつつ、本筋でないところで一つだけ。
    立法当時に書かれた(確か立法担当者だったと思いますが)横畠氏という方の本が、今でも実務ではかなり先例的な地位を占めているのですが、確か、その中で新株の発行は「原始取得」なので、インサイダー規制にひっかからないといとかかれていて、理屈はともかく、それで実務は動いているようです。
    ところが、この解釈の痛いところは、新株発行には当てはまるけど、自己株式の処分(金庫株の割当)には適用できないところで、金庫株解禁改正のときに何か議論したような記憶があります・・・で、条文を見ると新株引受権と新株予約権の行使による取得が除外事由になっているのは、これの絡みかも知れませんね。平成13年6月改正の時の整備法をみれば分かるのですが、手許に資料がないので、ご存知の方がいらっしゃったら御教示を、お願いします。
    で、回答ですが、こういう依頼者の方とは、なるべくお付き合いしないようにする・・・では、ダメですかね。

  16. いろいろとコメントありがとうございます。大変、参考になります。
    実務的に考えると、第三者割当増資と譲受けを分けて考えるのが何か意味があるのか、疑問を持たざるを得ません。単にSellerがデューディリジェンスの対象会社自身か、株主(親会社とか)かで、結局はデューディリジェンスを対象会社に対して行って上場会社の内部情報を得ることには変わりない気がします。
    私も例はインサイダー真っ黒のケースだと思ってましたが、あの時に間髪入れずに「第三者割当増資を引き受けさせてください!」と言うべきだったなんて、、、そりゃ、金額的小額性から支配権維持目的でないのは明白なんで発行するのはOKなんでしょうが。

  17. インサイダーもそうですが、リーガルDDのジレンマとしてよく云われる都市伝説には、株券の善意取得の保護が受けられなくなる、とか、瑕疵担保責任の保護が受けられなくなる、とかいうのがありますね。もっとも実際のところこれらの都市伝説がholdするのか(DDしないとそれで万事うまくいくのか)どうかはちと疑問ですし、これらの保護がないとしても対処する方策はあり得るわけですけど。

  18. 書き忘れましたが、数年前の自由と正義の論文とM&A法大全の該当箇所以外に、一級デューデリジェンス士試験(リーガル専攻)に役立ちそうな文献をご存知の方はご教示ください。

  19. kumapoohさんの都市伝説に、もう一つ。
    破綻会社からの事業の譲受でDDをやりすぎると、否認権or債権者取消権リスクが高まるというのもありますね。

  20. [LF株式]「だったら聞くなよ」系

    [http://www.tez.com/blog/archives/000429.html:title]に反応してしまいます。 本当はこっち[http://www.tez.com/blog/archives/000424.html:title]に反応すべきなのは良く分かっているつもりなのですが。 で、受験生の立場で解答しようという訳ですが。 「もう決定して…

  21. デューディリ士落第

    磯崎さんが1級デューデリジェンス士過去問題例を公表しています。
    大変難しい状況なので、上京するときに親から「君子危うきに近寄らず」と釘をさされた私としては、勝手に「(5)こういう依頼者の方とはなるべくお付き合いをしない」という選択肢を追加してしまいたいぎ..

  22. 面白過ぎるんで、試しにやってみます(見当違いな気もしますが・・・)
    どれも難しい問題で、スタンスを問われそうで困ります。
    問1 監査計画の見直しに応じて(2)か(3)な気がしますが、会計監査としては
    (4)が正しいんでしょうか?
    問2 重要性の強さに応じて(1)か(3)でしょうか?(4)は某が数年前にはよく
    やっていた気が・・・
    問3 これは事務所内で経営責任のある立場か否かで(2)か(4)です。(1)は
    余程、信頼関係のあるお客さん以外、やらないんじゃないかなあ・・・

  23. こんにちは、監査法人勤務新米会計士です。
    1(3)
    2(1)
    3(4)
    デューデリジェンス士になれますかねぇ・

  24. 1級デューデリジェンス士過去問対策講座解説(平成18年度改定決定版)←SF編ですSF編(^^;)

    次のようなコピーが都内某オフィスビルの1階コンビニの店舗外ゴミ箱の外に落ちていま

  25. はじめまして、面白いやり取りで参加させていただきます。
    でも、そんなこといったらM&Aアドバイザーなんてインサイダーだらけですよね。
    オーナーからこっそりなんて、しょっちゅうですし。ってかそれがないと仕事にならないし。
    それを誘惑と取るかは本人のモラル/リスクとして。アナリストだってそうですね。
    実務的にはM&A Advisorさんがおっしゃるとおり、インサイダーに増資も株式譲渡も
    へったくれ(営業譲渡、株式移転、合併、減資、単純提携等々)もないと思いますが。
    問3はアドバイザー、依頼者側からは、程度の差はあれ答えは2以外ないと思います。
    (4との回答がありますが、意味不明です、、、実務になれば分かります。)
    問2は1(→4)しかありません。3の監査法人がダメダメになってるのかも。
    問1は1でいいと思います。3をもうちょっと違う言い方をするならわかりますが。
    DD士がデシジョンメイクに立ち入るのはちょっとウザいですね(生意気言ってスミマセン)
    本当にプロならうまい伝え方するでしょうし、自分たちの抜け道も当然用意するはずです。

  26. ・自分の主張は早く裁判できちんと話したい

    「起訴するならすればいい」堀江容疑者、なお否認
              (読売新聞) – goo ニュース
    「自分は知らないことだ」と話しているという。
    {/hiyo_eye/} 1級デューデリジェンス士過去問題例
       (平成16年度試験より。)(ご注意:ジョークです。)
      …

  27. (1) 取締役の注意義務または忠実義務違反があったとして訴訟されて負ける可能性もあることをA社代表者に説明し、B社に対する投資に強硬に反対する。
    (4) 「あんたとはもうやってられまへんわ」と言って、A社の担当を辞す。
     
    はじめまして よろしくお願いします。
    このような状況がジョークでなく、実際にもありうると思いますが、答えは(1)で(反対する権限はない・立場にはないのでしょうか)、それでも、投資が実行されるようであれば、(4)の辞任するというのが正解ではないでしょうか。
    辞任後、その弁護士は、そのような違法行為(?)について、どのように対処すればよいのでしょうか。当局に通知する必要があるのでしょうか。それとも、守秘義務があり、後は野となれ山となれ、ということになるのでしょうか。
    こちらは素人ですので、正解を教えていただければ幸いです。