消費者金融的経済学

昨日のエントリでやや言葉足らずだったところを補足しようと思ってgoogleで検索していたら、おもしろいものを発見。
chinese_law_and_economics.jpg
(一部、レイアウトを変えてあります。)
http://translate.adaffiliate.net/first.cgi?url=www.tez.com/review/k199902.htm
これ、私のホームページの、昔、週刊ダイヤモンドの書評に書かせていただいた「会社法の経済学」の書評の中国語訳なんですが、ということは、中国の方に私のホームページを読んでいただいている、ということでしょうか?
(SEO的に、URLを大量に自動生成してGoogleに食わせているだけかとも思ったのですが、どのサイトでも引っかかるわけでもないようで。)
理論的には、翻訳ソフトをかませれば、世界どこの国の人でも私のホームページを読めるとわかっていても、実際に自分の書いたものが中国語に翻訳されて読まれているのを見ると、ドキーっとしますね。(日本でしか通用しないようなアホなこと書いてなかったか、とか、ちょっぴり「ワールドカップ日本代表」的な(笑)身の引き締まる気持ちであります。)
で、本題の「舌足らずだった部分」ですが
「ローエコ」的な観点は日本にもっと導入されないといけないし、未だに、経済関係の法令の立法の際に、そうした観点が必ずしも考慮されてないのは大問題だと思います。
今回も、47thさんに「消費者金融問題に対して経済学的な考え方を適用するのは無理無理〜」と申し上げている話ではなく、全く逆でして、「(ご両親がいらっしゃったり、試験だったりで大変でしょうけど)期待してますので〜(わくわく)」という意味ですので、念のため。
「死」と経済学
ただ、消費者金融業界に経済学を適用する場合に、やはり、いくつか注意しないといけない点はあるとは思います。
普通の経済行為の場合については、例外的な挙動をする人についても、たいていは放っとけばいいわけです。独占禁止法などが想定する「市場の失敗」が発生するようなケースでも、異常なケースは除いた形で立法しても十分機能すると思いますし、また例えば、生活が破綻するほどブランド物を買っちゃう人がいても、「だからブランド業者に規制をかけろ」というような議論も出てきません。
ところが、多重債務者は、へたすると死んじゃったり、一家離散しちゃったりするわけですね。「死」とか「一家離散」とかいった、「金で解決できない」事態に対して、「だって人が死んでるんですよ、キーッ」と攻撃されると、(やや抽象的な)経済学的な思考をする側としても、なかなか(政治や立法の面で)防戦が難しい面があるのではないかと思います。
(もちろん、「だから経済学的な考え方はやめときましょう」という話ではありませんので、念のため。)
「普通の人」の合理性
「ウシジマくん」に出てくるのは、かなり「異常値」的な方々ですし、多重債務者問題といっても、そうしたことに陥るような人は利用者の全体のほんの数%程度で、大半の人は満足して消費者金融のサービスを利用しているわけです。
では、そういう大半の「普通の人」は、経済学的な観点から見て「普通」なのか?
以下は、私が80年代の後半(まだ大手専業者も上場していない時代)、消費者金融業界についてリサーチしていて、某(現在は一部上場の)消費者金融業者の企画部の方にヒアリングに行ったときに、「貸出量の金利弾力性」みたいな文脈で出てきた話なんですが;

うちで、顧客の金利に対する感度を見るために、一部上場企業の課長クラスを無作為に2グループにわけて、DMを出してみたんです。
1つのグループに出したDMには10%台の金利が書いてあって、もうひとつのグループは30%台の金利。
ところが、驚いたことに、この2つのグループからのレスポンス率は、まったく同じだったわけです。
一部上場企業の課長クラスですよ?
どう考えても一般常識を十分に持っている客層だと思うんですが、そういう人たちでさえ、消費者金融の金利に対する感度というのは、全くないとも考えられるデータでしょ?

そのDMの母集団が偏っていたのかどうかわかりませんし、いまや「しっかり計画しましょう」「事前によく確認しましょう」と大量にCMが流されることで、利用者教育も図られ、話は変わってきている・・・のかも知れませんが、ちょっと経済学をよく勉強されておられる方の一般常識とは違った需要関数が存在するかも、と疑わざるを得ないお話で、大変びっくりした記憶があります。
(もちろん、これも、「だから経済学が適用できない」という話ではありませんので、念のため。)
かねてから私が考えている仮説ですが、日本人の教育水準は、ほとんどの人が足し算、掛け算はできるけど、2回以上の掛け算(つまり、(1+r)nといった複利の計算)が体感的にわかっている人は、人口の5%くらいなんじゃないかな、と思っておりまして。
まじめな話、小学校や中学校で、他の授業を多少削ってでも、「複利の恐怖」に関する授業をみっちりやった方がいいと思います。
で、金利は(少なくとも上限40.004%くらいまでは)自由化。
ただし、昨日申し上げたように、貸金業法に従って業務が行われているかどうかは、モニタリングを強化、闇金は徹底的に摘発、とするのがよろしいんじゃないかと思いますが、どうでしょうか?
(貸金業法は、すでにいろいろ細かくやってはいけないことを定めているので、それをenforceするしくみを作ればいいだけのことでは?)
「一部の人」のために、上限金利を下げて業界全体の収益性を圧迫することは、闇金の発生等、「市場のゆがみ」を発生させ、社会全体の厚生度を大きく下げることになると思うんですが。
(ではまた。)

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なぜ過剰取立は起きるのか?(47thさんの記事より)

47thさんの記事「なぜ過剰取立は起きるのか?(イントロ)」で、消費者金融業界の過剰取立の問題を「ローエコ的な発想」で検討される、とあります。
個人的には、刑事罰のある金利の下限を引き下げて業者を締め付けるよりは、「説明義務」等を強化するなど利用者の合理性を高めたり、業務のモニタリングの仕組みを強化する方向で考えるのが好きなのですが、

ご参考:消費者金融の金利は「安すぎる」?
http://tez.com/blog/archives/000114.html

多重債務者問題は「経済学」が通用する世界なのか?
下記のマンガ
ushijima_kun.jpg
闇金ウシジマくん

を読むと、ちょっとそんな考えもふっとびます。
ナニワ金融道
naniwa_kinyu.jpg
は、まだ貸す方も借りる方も「人間」って感じがしたのですが、「ウシジマくん」に出てくる方々は、どちらも、私がお付き合いのある「人間」からはほど遠い方々で。実態をよく存じませんが、あまりのリアルさに、やはりそういう実態も実在するんだろうなあ、と想像する次第です。
そうした、「説明義務だモニタリングだと工夫したところで、とてもマトモな挙動をしてくれなさそうな人たち」を、法がどこまでどのように規制したり保護したりしなきゃいけないのか、というのが、「経済学」的な考察から導かれるものなのかどうか、(上限金利の引き下げで合法的には成り立たない顧客層への貸付が闇金業者に流れたり、そういった闇業者と同じ土俵で回収しなければならない「一部上場企業」がどういう状況に陥っているか、返済困難に陥ってる人とか多重債務者が、実際にどんな人たちなのかを見ることもなしに語れるのかどうか)、このマンガを読んで悩んでしまった次第です。
違法性のコスト
私が中学生のころ、「某大手ファーストフードチェーンの肉にはネコ肉が混ぜられている」という都市伝説?が流行ったのですが、子供心に、「ネコ肉で削減できるコストより、その機密管理をするコストのほうが高くつくんじゃないの?」と思ったのを記憶しています。
同様に、消費者金融業者の場合も、(金利が100何%のころは、男性社員が個別に外出して取り立ててもペイするかも知れないが)、20%台前半の金利ともなると、大規模コールセンターから電話して、定められた督促プロセス(法的な書面の郵送等を含む)を踏んだにも関わらずそれでも回収困難と判断されるものは一定の基準で償却しちゃうほうが、個別に違法性のある強引な取立てをするよりもコストが安く付くのではないかと考えておりましたので、今回の「一部上場企業」の事件には、ちょっとびっくりしました。(同社は、電話の内容を否定されているようですが。)
残高が一定とすると、上限金利が引き下げられたら、回収率を上げないと利益は伸びませんので、そうしたプレッシャーが働いたということはないんでしょうか?
前にも、他の一部上場貸金業者の会長が盗聴に関わったりしてましたので、単にコーポレートガバナンスが機能していないだけかも知れません。
例えば、独立取締役を過半数(は、いきなり無理としても数名くらいでも)入れるとともに、内部統制を強化し、債権回収部門の電話はインバウンド・アウトバウンドともすべて録音、リアルタイムで上長のモニタリングを受けたり、後から内部監査もできるようにしておいて、外出しての回収を例外的に行う場合には、日報等で細かく記録を残す・・・てな対応じゃよくならないんですかね?
金融庁検査って無いの?
ところで、貸金業者というのは、銀行や証券会社と違って、金融庁さんの「検査マニュアル」みたいのはないんでしたっけ?
金融庁の所管の法令・ガイドライン等
http://www.fsa.go.jp/common/law/index.html
のページを見ても、貸金業者に対する検査マニュアル、というのが見当たらないんですが。(他の場所にあるんでしょうか?)
体系的・定期的検査が入ってないのであれば、上限金利を下げるのではなく、金融庁が検査して、利用者への説明義務の履行状況や回収状況のモニタリングを機能させれば、一発でよくなる気もしますが、どうなんでしょう?
(ではまた。)

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ラマヌジャンの頭の中を垣間見る

イギリスの数学者ハーディが、彼が見つけ出したインドの天才数学者ラマヌジャン(イギリスの風土が体に合わなかったのか入院中)を見舞った時に、

「今、乗ってきたタクシーのナンバーは、1729というつまらない数だった」

というと、ラマヌジャンは、すぐさま、

「それはつまらない数などではなく、正の3乗数の和で2通りに表すことができる最小の自然数です。」

と答えた・・・というのを、先日の「たけしの誰でもピカソ」でやってました。
(ビートたけし氏は、最近、数学にハマってらっしゃるそうです。)
で、問題の1729ですが、
1729=123 + 13 = 103 + 93
と、2つの3乗数の和で2通りに表されるのですが、「なんでそんなことが一瞬でわかるんじゃい!」と思いますよね? 私も、すごい人もいたもんだ、と思ってたんですが、先日、朝目覚めた時に、ぱっとひらめいて、なんとなくラマヌジャンの頭の中が垣間見れたような気がしました。
フェルマー予想
数学者にとっては、x3 + y3という形は非常に馴染み深いものだったはずです。
なぜなら、「3 以上の自然数 n について、xn + yn = zn となる 0 でない自然数 (x, y, z) の組み合わせが存在しない」、というフェルマー予想(フェルマーの最終定理)の証明は、数学者にとっては最大の夢のひとつだったはずなので。
インド人は99×99まで九九を習う?
ほんとかどうか存じませんが、インド人の九九は99×99まであるとか。
1729というと、非常にデカい数のような気がしますが、(99×99の話がホントなら)天才数学者でなく、普通のインド人にとっても、かなり「小さいほう」の数なんじゃないでしょうか。
(追記:いただいたコメントやwebなどを見ると、2桁の九九はかなり一般的だが、99×99まで覚えている人は、かなりマレのようですね。)
実際、20までの3乗数を一覧表にしてみると、下記のとおりですが、
image005.jpg
黄色い色をつけたあたりは、実は、インド人じゃないみなさんでも比較的見覚えがある数字じゃないでしょうか。
9の3乗数(81×9)までは、インドの九九のテーブルに(ほぼ)含まれる数字なわけですね。ラマヌジャンだったら、20の3乗数くらいまでは、ぜんぶ「馴染み深い」数字だったんじゃないかと。
と考えると・・
「1729」という数字を見た時に、まず必ずや、「1728(=123)と1違いじゃん」というのはラマヌジャンの頭の中に一瞬で思い浮かんだはずです。(この間、0.01秒
1=13というのは日本の小学生でもわかりますから、フェルマー予想に慣れた頭なら、1729=123 + 13という絵はすぐ思い浮かんだはず。
もひとつ、「1729」という数字を見ると、「729」という数字が容易に見てとれます。
729は前記のテーブルのとおり、9の3乗数。1000が10の3乗数だということは、これも日本の小学生でもわかりますので、1729=103 + 93と表せるのは、ラマヌジャンなら、同じく0.01秒で頭の中に浮かんだのではないかと思います。
ラマヌジャンは数学の専門家なので、「つまらない」と言われると「ほんとにつまらないかな?」という職業的猜疑心が働いたはず。この2通りの3乗数で表される数が特別な意味を持つには、あと何の「役」がつけばいいか?
2つの3乗数の和だけなら、9=13 + 23とか、もっと小さい数があるのは自明。(0.01秒)
1729が、他の2つの3乗数の和で表せないのも自明。1と9と10と12を使ってしまっているので、後は113を使うしかないが、これは当てはまらない。(0.02秒)
とすると、1729が「2つの3乗数の和で表せる最小の数」というのはどうだ?(0.1秒)
・・・というところまでは一瞬で到達したと思うのですが、この先(1729が要件を満たす最小の自然数であることの証明)が、ちょっと凡人では想像が難しくなってきます。
113が入る1729未満のケースは上記でつぶしたとして、103+93の和より小さい異なる数の3乗数の組み合わせは、下記のとおり、45通りしかありませんので、ラマヌジャンならしらみつぶしでも一瞬で解けたとは思いますが、もうちょっとエレガントなひらめきがあるんでしょうか?
image006.jpg
前述のフェルマー予想をn=3で実際に数字を当てはめてみたことがあったとすると、上記のような数字たちは、ラマヌジャンにとっては、すでに「メモリー上に展開されている」ものだったかも知れません。
(後半、エレガントなひらめきが出なかったのが悔しいですが・・・ではまた。)

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なぜこじゃれたオフィスの受付電話はみんなBang & Olufsenなのか?

外資系企業など、ちょっと こじゃれたオフィスの受付に置いてある電話は、なぜみんな、Bang & Olufsen
bang_and_olufsen.jpg

なんだろう?、と疑問をお持ちになったことのある方はいらっしゃいませんでしょうか?
今回、弊オフィスの受付電話を選ぶにあたって、Bang & Olufsenは(も、確かにカッコいいのですが)、「そっち系」のオフィスではあまりにありふれているので、もっと他にこじゃれた電話機はないかいな?と思って探してみたんですが、このモノが大量にあふれる豊かな日本で、そういったデザイン性に優れた受付用電話というのは、驚くほど選択肢が少ないことに気づきました。
大型の量販店も、通りかかるたびに何軒か見てみたものの、あるのは日本の大手メーカーの家庭用の多機能電話機ばかりで、シンプルでデザイン性に優れたオフィス(受付)向けのものは皆無。
ネットで検索しても、驚くほど選択肢が少なく・・・。インターネットは、「ロングテール」なはずなんですけどねえ。
−−−
で、なぜこんな状況に陥るのかを考えてみたのですが;

マーケットは意外に小さそう
まず、平成16年6月1日現在の我が国の総民営事業所数は592万事業所(しかないわけ)で、この事業所の10%が「こじゃれた」受付電話のニーズがあるとして、その受付に置く電話の数は、約60万台。
5年に一回、設備更新が発生するとすると、年間約12万台しか市場がないことになります。
年間何百万台も売れる携帯電話市場などからすると、非常に小さい市場ですね。
(受付電話は外資系メーカーの電話機でも、PBXとの相性の関係などで、オフィス内でも同じメーカーのものを使ってる例は見たことがありません・・・。)

通信端末の認定制度
おまけに、電話機は、ただデザインすればいいというもんじゃなくて、電気通信事業法上の登録認定機関の認定を受けないとダメのようで。

電気通信事業法
第二章 電気通信事業/第五節 指定試験機関等/第二款 登録認定機関(第八十六条〜)

この登録認定機関は、JATE(財団法人電気通信端末機器審査協会)さんだけでなく、テュフ ラインランド(TÜV Rheinland)ジャパンさんなどもやっているようで、
JATEの報告書(6ページ)によると、認定機器台数ベースのシェアで、JATE65.2%、テュフ21.1%・・・等となっております。
この「最大手」のJATEさんですら、認定の手数料合計で年間2億円弱の収入しかなく、1件当たり単純平均で、20万円ちょっと。認証/認定の申込に必要な書類一覧というのを見ても、かなりいろんな専門的書類を用意しないといけないようで、こういうのを専門家に作成を頼んだら1台デザインするのに、認定だけで最低100万円くらいはお金がかかりそうですね。
そのほかにも、肝心のデザインフィーや、実際の電話の機械の設計費用も当然かかります。
つまり、オーバーヘッドのコストが意外にかかりそうです。
−−−
というわけで、オフィスの「顔」で、すごく目立つわりに、時計のように「ムーブメント」だけ大手メーカーから買ってきて、いろんなデザインが競い合う・・・というわけにいかない市場なのかも知れませんねえ・・・。
(・・・というようなことが、疑問が浮かんでから30分程度で調べられてしまう今のインターネットというのも、スゴいですが・・・)

(ではまた。)

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遠山記念館

先日、白洲次郎夫妻が住んでいた「武相荘」をご紹介しましたが、同じく、東京近郊にあるあまり知られてない いいとこシリーズ。
−−−
白洲次郎の前日にご紹介させていただいたSoup Stock Tokyoの遠山正道会長ですが、雑誌の記事を見ると、お父様は日興証券(現日興コーディアルグループ)の副社長だったとのこと。日興証券の創業者も「遠山」姓ですので、創業者一族でらっしゃるんでしょうね。
そんな日興証券創業者の遠山元一氏が建てたのが、埼玉の川島町にある現遠山記念館
teitaku.jpg

遠山記念館の邸宅は、川島町出身である日興證券の創立者遠山元一(明治23年〜昭和47年)が幼少時に没落した生家を再興し、苦労した母・美以(慶応2年〜昭和23年)の住まいとするために建てたものです。長屋門、渡り廊下でつながる東棟・中棟・西棟から構成される伝統的日本建築は、室岡惣七氏設計、全国各地の銘木と選りすぐられた技術により、2年7ヶ月を費やして昭和11年に完成しました。
美以没後は主として遠山元一の接客に使用されましたが、その後邸宅の保存と遠山元一が長年にわたって蒐集した美術品を、広く一般に公開することを目的に、昭和43年に財団法人の認可を受け敷地内に美術館を付設し、財団法人遠山記念館として昭和45年に開館しました。

以前、埼玉奥地に住んでたときに一度行ったことがあるのですが、この邸宅が、とにかくすばらしい。現代の職人では再現不可能というような、日本建築のすごい技術(華美ではなく、しぶい「いい仕事」)がふんだんに盛り込まれてます。
ベンチャーを立ち上げて親孝行してやろうという志のある方は、お近くに行かれた際は(あまり川島町に行く機会というのも無いでしょうけど)ぜひ一度見に行くことをオススメします。
(こういう「ホンモノ」のいいものを幼少の頃から見て、ご先祖の苦労した話を聞かされていると、目も肥えるし、社内ベンチャーも成功するのかも知れません。)
ちなみに、同じく川島町には、本田航空の飛行場があって、日本郵船さんの飛行船(よく東京上空で広告のために飛んでいるやつ)のほか、お金持ちのプライベートジェットなども置いてありますので、こちらも行ってみると立身出世欲が沸いてくるかも知れません。
(ではまた。)

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日本版restricted stock試案

(以下、あくまで「思考実験」中のものですので、このとおりにやってうまくいくことを保証しているものではありませんし、こうした方法をオススメしているものでもありません。念のため。)
−−−
「地獄を見るか?『ストックオプションの費用化』」というエントリで、上場企業(特にボラティリティの高いベンチャー企業等)については、ストックオプションの費用化ですごい額の費用が計上されることもあるんじゃないか、ということを書かせていただきました。
たとえば、時価総額4000億円の企業が発行済株式総数の0.5%の株式を目的とするストックオプションを発行し、ボラティリティが大きいので株価の50%ものオプションバリューが発生してしまった、とします。
すると、4000億円の0.5%の50%ですから、ストックオプションだけで10億円もの「費用」が計上されることになります。
アメリカでは、こうした「高コスト(計上)」や、役職員への税務上のリスクを嫌って、ストックオプションをやめて「restricted stock」に切り替える企業も増えてきているようです。
Microsoftさんもrestricted stockに切り替えた模様。

参考文献:
About.com:「Restricted Stock Is Better Than Stock Options」
http://management.about.com/cs/adminaccounting/a/restrictedstock.htm
About.com:「Restricted Stock FAQ」
http://management.about.com/cs/money/a/ResStkFAQ1203.htm
(「Generally, restricted stock awards are smaller than stock option grants by a factor of two or three (one half or one third the size). If a stock option grant were 100 shares, a restricted stock award would usually range from 33 to 50 shares. 」、というようなことも書いてあります。)
株式関連報酬を巡る所得課税上の諸問題(百瀬 智浩 税務大学校研究部教育官)
http://www.ntc.nta.go.jp/kenkyu/ronsou/36/momose/ronsou.pdf

では、日本でも、こうしたrestricted stock方式で費用計上を極力回避する方法はないか?ということを考えるのが、本エントリの目的です。
基本的なアイデア
基本的には、新株予約権を長期間保有するのではなく、(生の)株式を発行し、それを一定期間ロックアップして部分的に売却可能としていく(べスティングを付ける)ことによって、ストックオプションと同様のインセンティブを発生させよう、ということです。
アイデアA(単純な株式の有利発行)の概要
真っ先に思い浮かぶのは、単純な株式の有利発行のケースです。

  • 株主総会で株式の有利発行の決議をします。発行価額は「1株1円」。(特別決議)
  • ただし、その株式は、会社やその他の第三者が保管して、契約で役職員が自由には引き出せないようになってます。
  • 上場企業でも「1円ストックオプション」を発行した企業は多いので、それと同じことですから、(株主総会でのあまり合理的とは限らない反感はともかく)、理屈としてはこれもアリのはずです。
    また、ストックオプションと違って、税制適格の要件(2年間据え置きとか行使額1200万円まで等)に関係なく、インセンティブプランが設計できる可能性があります。
    ところが、これは「ストックオプション」ではないので費用計上しなくていいかというとそうではなくて、「ストックオプション等に関する会計基準(平成17年12月27日)」の、15項「財貨またはサービスの取得の対価として自社の株式を交付する取引」に該当すると考えられるので、時価と1円の差額が「費用」として計上されちゃって、ストックオプション費用の計上回避にはつながりません。(time value分は回避できている、という言い方もできますが。)
    アイデアB(新株予約権発行・即行使)の概要
    税務を考えてみると、前項のアイデアA(単純な株式の有利発行)で、1円の株式を受け取った役職員等は、時価と1円の差額が給与所得として(総合)課税されることになります。
    ところが、改正法人税法54条と関係する政令では、新株予約権は該当しても、株式の有利発行は対象にしてないとすると、「本源的価値」を費用計上しなければならない上に損金参入もできなくて、踏んだり蹴ったりです。
    そこで、1円ストックオプションを発行してすぐ行使する、というアイデアが浮かびます。

  • 株主総会で新株予約権の有利発行の決議をします。(特別決議)
  • 行使価額は「1株1円」
  • 行使可能期間を、「発行の当日のみ行使できる」ものとします。(こうすることによって、time valueをゼロにするところがミソ。)
  • このため、取締役会で発行決議をし、発行した当日に行使、1円を払い込み。(給与天引き等)
  • 行使して取得した株式を、会社やその他の第三者が保管して、契約で役職員が自由には引き出せないようになっているのは、アイデアAと同じ。
  • こうした場合、「本源的価値(時価-1円)」を費用計上しないといけないのは「アイデアA」と同じですが、その費用計上した額を計上時に(おそらく)損金参入できるところがミソ。
    つまり、新株予約権の発行時に貸借対照表の「純資産の部」に新株予約権、反対勘定として費用が計上され、すぐに新株予約権は払込資本に振り替えられるわけですが、税効果を考えれば、総発行額(約株価時価×株式数)の実効税率40%分、純資産は増大します。また、純利益へのインパクトも株価の60%で済むわけです。
    時間的価値(time value)で株価の60%でも、本源的価値(intrinsic value)で60%でも同じじゃないか、と思われるかも知れませんが、アイデアAやアイデアBでは、役職員は、株価×株数分だけ給料をもらっているのと同じですが、time valueだけで60%になってしまうストックオプションだと、役職員はまだ何ももらってないのに費用だけ計上される、ということになります。会社も、それなら株をあげちゃったほうがいい、という判断になるかも知れません。
     
    アイデアC(給与を払って新株時価発行)の概要
    どうせ時価分全額費用計上されるのであれば、よく考えたら、その分給与を払って天引きし、払い込みに当てれば、同じことですね。

  • 取締役会で株式の時価発行の決議をします。(公開会社であれば株主総会不要。)
  • 発行された株式は、第三者等が保管して、契約で役職員が自由には引き出せないようにします。
  • アイデアA、アイデアBと違って、株主総会決議も不要(公開会社であって、取締役報酬の枠をオーバーするようなことがなければ。)で、総務部門などはかなり気が楽。
    アイデアA、アイデアBは、株をもらった従業員が、自分で確定申告をしないといけないですが、この案だと会社の年末調整で済んでしまうので、トータルで見た事務手続きはかなり楽なはず。
    ただし、アイデアA、アイデアBと同様、所得税がドーンとかかる分について、よけいにキャッシュで給料を支払わないといけないので、結局、トータルの(税効果前)コストは株の時価以上にかかることになります。
    アイデアD(新株時価発行&拘束案)の概要
    今回、ストックオプションの費用計上を回避しようとしているのに、アイデアAやアイデアBでは、結局、株価の何十%もの費用が計上されてしまいます。
    もうちょっとなんとかならんもんでしょうか。
    そこで、ファイナンスを付けてくれる第三者(ノンバンク等)がいれば、以下のようなスキームも考えられます。

  • 取締役会で株式の時価発行の決議をします。(公開会社であれば株主総会不要。)
  • 例えば、1年は売却不可で、1年毎に1/4づつ売却可能になっていくべスティング条件の場合、発行時に会社が25%くらいを給与で支給、残り75%を銀行・ノンバンク等がファイナンスして払い込みます。
  • 発行された株式は、ファイナンスをしたノンバンク等またはその他の第三者が保管して、契約で役職員が自由には引き出せないようにします。
  • 会社は、金利負担も考えて毎年一定額の追加の給与または報酬を支払い、天引きでファイナンスをしたノンバンク等の資金を返済していきます。
  • ノンバンクの内規上の掛け目も考えて、最終的にファイナンスの額が時価の(例えば)30%までに達したら、給与の支払いはストップ。(将来、株価が順調に上がれば、会社の費用計上額は小さくて済む。)
  • image001.gif
    (株価が横ばいだとした場合の模式図。)
    image003.gif
    所得税申告手続きへの配慮
    この方式は、複数年度に分散して給与が支払われるので、特に累進税率がキツくなっている方にはよりマイルドな方法になります。
    また、アイデアCと同様、確定申告不要。
    アイデアA・B・Cも同様ですが、この預けておく口座を特定口座にしておけば、ストックオプションと違って、売却について確定申告する必要もありません。
    従業員のリスクへの配慮
    一方で、借り入れは実質的にノンリコース的な条件になっていて、従業員が株価の思わぬ下落で損失を被らないように考慮する必要があります。
    「見せ金」とみなされない配慮
    会社が直接、従業員にローンで金を貸したりすると、「見せ金」とどう違うのか、というようなことになると思いますが、取引銀行が従業員向けにローンを出して、会社がその銀行に預金を積んでおく、というのも微妙そうです。
    第三者のノンバンクが貸せば大丈夫か、具体的な契約内容が詰まってきた段階で、弁護士の意見書等取っておく必要があるかも知れませんね。
    相場への影響の配慮
    また、相場が急落して、貸し付けてるノンバンクが担保を処分する場合、市場で売却して相場の下落にさらに拍車がかかる可能性をどう考慮するか、とか。
    その場合に、自社株の買い付けをするかどうか、それが証取法上問題ないか、とか。
    逆に、株価が50%下落した場合には、強制売却して手仕舞う等、レンダーの都合上、ノックアウト条項的な条項も入れておく必要があるかも。
    このへん、モンテカルロシュミレーション的に、ボラティリティの値がどれくらいだと、ストックオプションにした場合に費用がどのくらい、アイデアDだと、1年後にノックアウトする確率がどのくらい、等、やってみると非常に面白そうです。
    「インセンティブ」になるかどうかへの配慮
    そもそも2年目で株価が50%くらいになっちゃったらストックオプションを発行していたとしても「こりゃ、行使するチャンス無いかも・・・」と悲壮感が漂っているでしょうから、例えば株が○%下がったらそこで強制的に終わり、というようなことでも、あまり問題はないかも知れません。
    会社は株価が高い(100%の)ときにファイナンスできたわけですから、ストックオプションを発行した場合より、「得した」とも考えられるわけです。
    付与量(株数)をストックオプションに比べて減らす手もある
    また、前記「ご参考」のabout.comのFAQに書いてあるように、ストックオプションに比べて、付与する株数を1/2とか1/3にする、ということでもいいかも知れません。ストックオプションと違って、「本源的価値」の部分も会社が出してくれるわけですからね。
    以上、just思い付き、でまとまりがなくてすみません。
    実際には、付与する役職員等の年収や金利、株価の変動、税額等を考慮して、Excel等でちゃんとシミュレーションする必要があるかと思います。

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    ネパールでデモ(開発と長期費用)

    「フェアトレード、NPOの「戦略」、認証・監査」で書きましたが、「フェアトレード」では、長期的な設備投資等も含めたコストを負担できるお金を生産者に支払うことを義務づけています。
    エントリにいただいた47thさんのコメントによると、

    丁度今ゼミのペーパーで途上国への投資・取引におけるソフト・ロー的な枠組みの意義と限界を調べていたので、参考になりました^^(中略)
    あと、”sustainable development”というのは、開発の分野のトレンドの言い回しのようで、この世界ではそこかしこで使われいるんですが、一つの定義としては「将来世代が自らのニーズを充足する能力を損なうことなく、今日の世代のニーズを満たすこと」というのがあるようです。

    この「sustainable」または「長期的な」費用の概念というのは、NTTさんが他のキャリアに回線(ドライカッパーや、ダークファイバー)等を貸し出すときにも問題になりましたが、定義が明確なようで、実は「何をどこまで入れるか」で、かなり「難しい」(テキトーな)概念だという気もします。
    例えば、今、「掘っ立て小屋に住んでいる」零細生産者が「10年後に電子レンジや携帯電話を使ってる」ことを想定するのが「sustainable」なのか、それとも、「今と同じ掘っ立て小屋」に住めるギリギリの補修等を含めただけのコストがそうなのか。
    日本でも、「生活保護を受けてる人にクーラーは贅沢」なのかどうかが争われましたが、社会全体の生活水準は、だんだん上がっていっているわけで、完全に横ばいの絶対水準をキープしてたら、世界での地位は下がっていくわけでして。(一方で、全世界の人が先進国並の生活を目指したら、環境的に地球が保つんでしょうか。)
    最近、非常にびっくりしたのが、先週末の「世界ふしぎ発見」。ネパールのシェルパ族の人たちは、昔はほぼ全員、登山ガイドを目指していたし、その仕事に誇りを持っていたわけですが、登山家等から学校が寄付され、教育水準が上がってきて、現在では小学校50人のクラスのうち、登山ガイドを目指したい人、と訊いたら、手を挙げた子はなんと1人!だけ。後は、「教師」「医者」「弁護士」になりたい、てなことを言ってました。
    昨日は、こんなニュースも。
    外出禁止令無視しデモ ネパールのゼネスト【カトマンズ9日共同】(4月9日23時34分)
    http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060409-00000098-kyodo-int

    「NERV(ネルフ)」のマーク
    NERV[1].jpg
    じゃないですが、ネパールの人たちも「善悪を知る実」を食べ、いちじくの葉っぱを身につけて、「楽園」を追い出されちゃった、ということですかね。
    コーヒー生産地でも、だんだん「知恵が付く」と、コーヒー生産への労働力供給が減るので、集約化が発生して交渉力も付いて、生活水準もあがることで、結局、「最低限の」コーヒー生産のコストも自ずと上がっていくのかもしれません。
    (ではまた。)

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    ネットでエヴァンゲリオン、の巻

    イスラエルで「死海文書」を見たことのある磯崎です。
    Yahoo!さんが「劇場版 新世紀エヴァンゲリオンが見放題!」というキャンペーンをやってらっしゃるところで申し訳ないんですが、「今話題の、アメリカの急速にトラフィックをのばしてきている某画像共有系サービス」*(追記参照)で、エヴァンゲリオンがテレビ版も含めて見放題、という話を聞いて、ちらっと見てみたら、ホントに全部見られるんですね。
    (注:筆者に著作権侵害を増長する意図や意志はございません。)
    (追記4/11 7:54)
    AlexaでRankの上昇カーブを見ると、下図のようにすさまじいことがわかります・・・。(昨日、世界25位)
    この急角度は、おそらく、ネットビジネスで過去最高じゃないでしょうか。
    bo_service.png
    (/追記終)
    他のブログでも、よくこの「某画像共有系サービス」のコンテンツにリンクを張っているケースがあるんですが、見入ってしまうものも多いです。映像はガヒガヒですが、コンテンツとして「惹き付けられる」かどうかは、画像がHQとかHDとかどうかじゃない、ってことですね。
    実は、インターネットの動画系コンテンツって、今まで長時間見たいと思ったモノはほとんどゼロだったんですが、それって、インターネットが動画配信に向くかどうか、という話ではなく、やっぱり、見たくなるようなコンテンツがインターネットに登場していなかったことが大きかったんじゃないかと。
    −−−
    先日、某ゲーム制作会社の会長さんが、
    「『エンタテインメント』というのは、そもそも非常にアンチ・キリスト的概念で、entertainというのは、もともと『悪魔に魅入られる』というような語源を持っている」
    というような話をされてまして、「はー、なるほど」と思ったんですが。
    「エヴァンゲリオン」といえば「アンチ・クライスト的」コンテンツの最たるもんで、こんなん欧米で放送できるのかしらん、と前から思ってたのですが、上記のアップされているコンテンツは全部英語字幕付き。(アメリカのケーブルテレビあたりで放映されたバージョン、というウワサ。)スタッフ名や主要な画面上の文字(タイトルとか「シンジの部屋」とか)まで英語になっているバージョンとか、字幕だけ英語のバージョンとか、いろいろ混ざっているようです。
    昔から、「なんで、一人なのに『サード・チルドレン』と複数なんだろう?(もしかして、そういう特性の子供たちを集合名詞的にとらえてその中の一人、といった意味で使うときには、英文法的にアリなのかしらん?)」などと疑問に思っていたんですが、字幕だと単純に「third child」と単数になっていて、「やっぱ英語的にはchildでいいんだ」と胸のつかえも取れました。
    da_vinci_code.jpg
    「ダヴィンチコード」
    もブームになってるので、欧米でも、アンチ(現)キリスト教的コンテンツのマーケットは出てきているのかもしれませんね。
    ・・・・と、(正直ベースで)何も意識せずにここまで書いてきて、このエントリのURLが「666」(https://www.tez.com/blog/archives/000666.html)だと気づいて、マジでゾーッ||||
    事故に遭わないように気をつけたいと思います。
    (・・・・ではまた〜。)

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    Web2.0な披露宴

    本日、はてなの川崎さんの披露宴に呼んでいただいて行って参りました。
    web_shinkaron.jpg
    ウェブ進化論
    (引出物でいただきました)が大ヒット中(今見たらアマゾンで4位)の梅田望夫さん、近藤 淳也(jkondo)さん、reikonさんと同じテーブルだった他、もちろん伊藤直也(naoya)さんもいらっしゃいましたし、百式の田口さんもご出席など、アルファブロガーな方々もオンパレード。
    おまけに、mixiの笠原さんやgreeの田中さんなども出席されてたので、はてなも含め非常にweb2.0(謎)な披露宴でしたね。出席者の合計PV(ページビュー)(謎)を考えても、なかなかすごいものがあるかと。
    川崎さん、おめでとうございました!
    (ではまた。)

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    フェアトレード、NPOの「戦略」、認証・監査

    最近、スターバックスで、「フェアトレード・コーヒー」をよく見かけるようになって買って飲んだりしてますが、飲み比べてみると、フェアトレード・コーヒーは他のコーヒーよりちょっとだけ値段が高いけど、気のせいかエグ味が少なくてスッキリした味のような気がします。フェアトレード商品は、後述の通りオーガニックにも気をつかっているそうなので、そのせいかも知れませんが。
    で、ハタと気づくわけですが、「フェアトレード」があるということは「そうじゃないトレード」も存在するわけですわな。「フェアじゃないトレード」と聞いて思い浮かぶのは、インディ・ジョーンズに出てくる悪者白人(サファリルックの胸元から胸毛モジャモジャ)みたいな人が「ヘヘヘ」と薄笑いを浮かべながらムチをピシーッと振って、現地人のお年寄りや女性、まだいたいけな子供なのに学校もいけずに生産に駆り出されてる子供たちなどが怯えてる、みたいなイメージでしょうか。いずれにせよ、「学校にも行けない子供達が摘みました」みたいなイメージが頭に浮かんじゃうと、コーヒーを飲んでもおいしくないことは確か。
    ということで、スターバックスのホームページを見てみると、FLO(Fairtrade Labelling Organizations International) というNPOがフェアトレード運動を提唱しているとあります。

    「ヨーロッパ」発祥の運動
    ホームページを見ると、FLOの本部はドイツのボンにあるとのこと。
    fairtrade.gif
    http://www.fairtrade.net/

    イギリスやフランスやオランダやスペインじゃなくて、植民地があまりなかったドイツに本部がある、というところは興味深いですね。

    「戦略」がないと状況は改善しない
    コーヒーなどの農産物は、先進国と発展途上国との間の取引で、交渉力に大きな差があるでしょうし、生産国側の労働者が過剰に搾取されないようにするのは、購買国側の法律や制度などだけでは規制しにくいところでしょうから、まさに、「市場の失敗」が発生しやすい例ではないかと思います。
    ただ、前述のような「明らかにフェアじゃない」トレードというのはイメージしやすいですが、では「フェア」とはどういうことなのか?、それはどうやって決めるのか?、という疑問がわきませんか?
    日本で「慈善活動」というと、「とにかく生産国の子供たちがかわいそうなことになってるんですぅー」みたいな、感情に訴えかける(だけの)感じとか、活動に参加する人は手弁当で、みたいなイメージを持たれるかもしれませんが、かねがね私、そういうのは関わってる人たちの自己満足にはなってもホントに世の中を変えることには繋がらないんじゃないかと思っておりまして。ノーベル平和賞を取るようなNPO団体の活動を見てみると、ちゃんと(かどうか)給料も払って、それなりのクオリティの人たちを常勤の職員として多数雇い入れ、国際的にかなり大規模な活動をしております。状況を変化させるためには、「想い」だけじゃなくて、「戦略」や「ファイナンスの仕組み」「合理性」「関与している人も食っていけるsustainableな仕組み」が必要じゃないかと。

    以前、ニューヨークのグッゲンハイム美術館がニューヨーク市の保証で債券を発行する時に作った分析レポートを見たのですが、

    • 当美術館が企画展をやることにより、○○○万人の集客が見込める。
    • アンケートをとると、その○%はNY市外からの来客で、
    • さらに、そのうちの○%は市内に宿泊して、ホテル税を支払うことになる
    • それらの市外からの来客が、マンハッタンで落とす金は一人平均○○ドル
    • 結果として、当美術館がNY市に与える経済的波及効果は○○百万ドル
    • (→だから、NY市がこの債券を保証することは意味がありまんねん。)

    というようなことが理路整然と書いてあって非常にびっくりしました。日本だと、美術館の館長というのは、学芸員とか大学の先生が偉くなって着くポジションというイメージがありますが、グッゲンハイムの館長はMBAですね。
    「寄付する人には何の得にもならないが、とにかく寄付してくれ」ではなくて、双方win-winになるような提案を行える力、というのが、真の意味でNPOが目的を達成するために求められるのではないかと思うわけです。

    「ISO的」な「規格化」
    このFLOのホームページを見ると、「ビンボーな子供がウルウルした目でこっちを見ている写真」みたいな感情を刺激するコンテンツはほとんどなくて、もっともボリュームがあるのは、フェアトレードと認定されるための「規格」についてのドキュメント群です。
    このページを見ると、FLOの認証部門を「FLO-Cert Ltd」という法人化して、そこでフェアトレードの認証をビジネスにしているようですね。
    FLO-Cert Ltdは、「製品認証業務を行っている第三者機関が、適格であり信頼できると認められるために遵守しなければならない一般要求事項を規定」するISO 65も取得しているようですし、フェアトレードの対象となる零細農家等にも、ISO9001とかISO14000によく似たフェアトレード準拠の表示やドキュメンテーションを要求しています。
    ただ感情的に「もっとフェアに!」と叫ぶのではなく、「フェアとは何か」をロジカルに定義して、しかもその要件が本当に満たされているか、後から監査可能な形な証跡を要求し、PDCA(Plan-Do-Check-Action)のサイクルを回せるようにしているわけです。
    (例えば、「GENERIC FAIRTRADE STANDARDS FOR Small Farmers’ Organisations」というpdfファイルをご覧ください。)
    これ以外にも、バナナ、カカオ等、個別の産品ごとの規格などもありますし、使ってはいけない薬物(殺虫剤、保存料等)も、細かく定められています。
    価格とか交易条件についても、

    • pay a price to producers that covers the costs of sustainable production and living;
    • pay a premium that producers can invest in development;
    • partially pay in advance, when producers ask for it;
    • sign contracts that allow for long-term planning and sustainable production practices.

    といった形で定められてますが、これは、ミクロ経済学で言うところの(sustainableな投資を含む)長期費用の概念でしょうか。ミクロ経済学では「(市場への生産者の参入が自由な)長期」では利潤はゼロ(ただし、再生産のための投資はコストとして差し引き後)となって、そこで、社会全体の効用が最大化する(確かそう記憶してます)ので、ここでも、感情的に「とにかくたくさん払ってあげてください〜」と言うのではなく、経済学的に合理的な水準を設定する、というところが非常に興味深い。
    また、コーヒー、バナナ、カカオ等の嗜好品は「需要の価格弾力性」が小さく、多少価格を上げたところで商売に大きく響くというものではないでしょうし、「気持ちよく」消費できることが顧客満足にもつながるなずなので、そうした領域からフェアトレードの概念を導入するというのもなかなか戦略的にナイスなんではないかと思います。

    日本ではまだ関心低いが・・・
    日経四紙で検索しても、「フェアトレード」というキーワードの入った記事は、この半年で10くらいしかありません。フェアトレードとは何かを説明した記事は、さらにその中の2つくらい。
    特定非営利法人フェアトレード・ラベル・ジャパンのホームページを見てみると、下記のようなグラフがあり、
    fairtrade_graph.jpg
    日本は、(総貿易量は世界でも首位の方だと思いますが)、フェアトレード商品の取引量は先進国で最も少ないようですね。
    そんな中、大日本印刷さんは、今年4月から、社員食堂や来客用のコーヒーをフェアトレード製品に切り替えられたそうです。(詳細はこちら
    弊磯崎哲也事務所でも、(DNPさんに追随して)、コーヒーは全部フェアトレード製品に切り替えることにしよっと。

    (ではまた。)

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