パソコンがぶっこわれた(その2)

先日壊れたパソコンのかわりに代替機(新品)を投入したが、それもまた壊れた。orz
今度は、マザーボードがメモリを認識してくれない模様。
ノロワレテいるのかしらん。それとも、私の机の下に放射能を発する虫とかが住んでいるのか?
(というわけで、本日はこの辺で。)

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メールの暗号化とインボー(その3)

自民党、圧勝ですね。
日本って、21世紀になっても利権型の政治が続くのかと思っていたら、国民の意識は想像以上に変わっていたようです。あくまで「意識」であって、郵政民営化に関する「知識」がどこまであってか、というのはさておき、国の債務や年金といった大問題が控える中、「意識」だけでも「改革」という方向が明確に国民から示された、というのは大きいかと思います。
−−−
さて、中妻 穣太さんが新しいブログをはじめられたようです。
コメントが書き込めないようなので、トラックバックさせていただきますが。

この話のミソは、wordのファイルの暗号化の強度は、暗号化の「方式」で決まるのではなく、「パスワード」の強度で決まる、というところです。

大枠としてこの考え方は正しいと思いますが、
引用:

例えば、十人程度の関係者間で契約書を決める場合に、私が目撃したケースでは、パスワードは、非常に容易に推測できるものが使われているケースが95%以上で、英大文字小文字、数字や記号がランダムに入り混じった文字列が使われているようなケースはまず見たことがありません。(そうでないと、当事者がパスワードを忘れてしまって仕事が進まないことによる損失の方がはるかにデカくなると考えられます。w

続く部分を見ると、磯崎さんはもしかして、「暗号の解読」=「パスワードへのブルートフォースアタック」だと思っていらっしゃるのではなかろうか、と読めます。

いや、さすがにそれはないです・・・。
素直に読んでいただたとおり、いくら暗号化自体を強力にしても、パスワードという「バックドア」が存在したら、文書全体の強度はそちらの方で決まっちゃいますよ、という話です。
PGPのような公開鍵暗号をもちいた暗号ソフトでは、こういう「裏口」となる強度の低い鍵とかパスワード自体が存在しませんが、wordのファイルをやりとりしている限りでは、必ずそこが弱点になってきちゃう、
セキュリティは「全体」として強度を考えないと意味ないですよね、ということです。
企業買収防衛策に例えると、「○○型」といったスキーム自体の強度のお話が暗号化方式自体の強度で、その企業買収防衛策を導入する企業のコーポレートガバナンスの状態とか、取締役会や特別委員会などでの意思決定自体の実態が、「バックドア」といった感じでしょうか。
いくら理論的に完璧なスキームを導入しても、意思決定の実態がコテコテの保身だったら、そっち(裁判)で負けちゃう。(し、負けてくれないと困る)。

営業とか法務とか企画とか「文系」的職場の方が、契約書等の重要書類をメールの平文で「ブリブリ流してる」と、著しく注意義務を欠いていた、と言えるでしょうか、どうでしょうか?
(中略)
しかし、例えば、普通の上場企業同士が取引の条件等の交渉をしてるような場合で、片方はプロバイダがIIJ、片方はso-net、途中IXを通りますが、といった場合に、そんな「ワルモノ」を想定する必要があるか、メールを暗号化してないと注意義務を欠いていたことになるかというと、どうでしょうか?

これは、ITセキュリティの問題というより、法曹の問題ですよね…。

うーん、そうでしょうか?
現代では、法律屋さん会計屋さんなどがITセキュリティを避けて通れないのと同様、ITセキュリティ屋さんにも法律の問題が問われてくると思いますけど。
確かに、「裁判は やってみなけりゃ わからない」のではありますが、「あなたはどう考えてこう行動したんですか?」と聞かれて、「セキュリティの理論と運用の現実を考え合わせて、これこれこのように判断して行動しました」と言うのと「すみません、何も考えてませんでした」というのとでは、勝率もだいぶ変わってくるかと思います。
(ではまた。)

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パソコンがぶっこわれた

昨日、メインで使っているパソコンのWindowsが起動途中で立ち上がらなくなっちゃいました。ディスクをはずして他のパソコンで見てみるとちゃんと読めるので、ソフト的な障害か。で、こんなこともあろうかと「コールド・スタンバイ」させておいた予備のパソコンに、バックアップしてあったファイルを移したり、てんやわんやであります。
(ので、本日のエントリは中身がございません。)
午後3時から、先週購入したドライバー(パソコンのじゃなくて、ゴルフの)を練習場で使ってみる。飛ぶじゃん。
今までのは3年前に「初心者ならこのくらいのを使え」とゴルフ屋に薦められたR(柔らかい)シャフトでしたが、今度はS(硬めの)シャフト。今まで230〜250yといった飛距離だったのが、最低250y、ラン込みで280yくらい転がったりします。(しかもまっすぐ。)(追記注:「練習場の表示」での280yです。[かなり甘め。])
苦節三年、ヘッドスピードがちょっとは上がってきてたんでしょうね。プラス、道具の技術革新もすばらしい。
(ではまた。)

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メールの暗号化とインボー(その2)

「メールの暗号化とインボー」に、sonic64さんからコメントいただきました。

Word では、少なくとも128ビットの AES は使えますよ。

(ほんとだ。)ありがとうございます。
「読み取りパスワード」の横の「詳細設定」のところで、暗号の強度を選べるようになってます。
存じませんでした。(そして、他の多くのみなさんもご存じないかと思います・・・。これもインボーか。w)
続く中妻 穣太さんのコメント曰く;

Office文書の暗号化レベルについては知らなかったのですが、128ビットAESに対応しているなら、現状望みうる限り最高強度と言えそうですね。

「暗号化」に関してはそうかも知れないですね。
ただ、この話のミソは、wordのファイルの暗号化の強度は、暗号化の「方式」で決まるのではなく、「パスワード」の強度で決まる、というところです。
例えば、十人程度の関係者間で契約書を決める場合に、私が目撃したケースでは、パスワードは、非常に容易に推測できるものが使われているケースが95%以上で、英大文字小文字、数字や記号がランダムに入り混じった文字列が使われているようなケースはまず見たことがありません。(そうでないと、当事者がパスワードを忘れてしまって仕事が進まないことによる損失の方がはるかにデカくなると考えられます。w)
結果として、普通、メールに添付されるwordのファイルのレベルは、「そこそこ」(つまり、普通の人が簡単に試行錯誤で開けることはできないかも知れないが、諜報機関等を想定した場合には、数時間以内に解かれてしまう程度)の強度にしかなっていないのが現状ではないかと思います。

とりあえず現状では、Office文書を暗号化してメール添付すると同時に、その暗号化キーを封書にして郵送すると相当セキュアだと思います。ちょっと時間はかかってしまいますが、重大な文書についてはこういう手を打つ必要もあるかと。
これよりは少し強度が落ちますが、暗号化キーだけ「携帯のメールで」送るのも悪くないです。携帯の経路に割り込むのは非常に困難ですし、割り込めたとしても片方だけでは意味がないからです。(ただし、携帯to携帯でないと意味がないです)
いろんな意味での「二重化」がセキュリティの基本ですね。

セキュリティの教科書的にはまさにそのとおり。(上記のように書かないと、情報セキュリティ関係の試験では、点をもらないと思います。)
が、実際の「文系」的職場で、そんなことやってるのは、まず見たことないですね。
注意義務の観点からセキュリティに関する注意義務
中妻さんが前回のコメントで曰く;

その反面、メールはどの会社も官公庁も平文でブリブリ流してると。
ISPとか組織内部にちょっと悪いやつがいたら、簡単に流出しますよ。

さて、それではここで問題です。
営業とか法務とか企画とか「文系」的職場の方が、契約書等の重要書類をメールの平文で「ブリブリ流してる」と、著しく注意義務を欠いていた、と言えるでしょうか、どうでしょうか?
「ISPとか組織内部にちょっと悪いやつがいたら、簡単に流出」するのは確かなんですが、それは、電気通信事業法で2〜3年の懲役を食らう(179条)犯罪を構成するようなお話ですよね。
もちろん、例えば、マンガ喫茶のパソコンで契約書を作って送信して情報が漏れちゃった、というやつがいたら、「著しく注意義務を欠いていた」と言えるかも知れません。または、アメリカ政府が非常に不快感を示している次期戦闘機の主要技術に関する情報をメールの平文で流したら、アメリカ側に漏れちゃいました、とかいう話なら、激しく注意義務を欠いていたと言えるかも知れません。
しかし、例えば、普通の上場企業同士が取引の条件等の交渉をしてるような場合で、片方はプロバイダがIIJ、片方はso-net、途中IXを通りますが、といった場合に、そんな「ワルモノ」を想定する必要があるか、メールを暗号化してないと注意義務を欠いていたことになるかというと、どうでしょうか?
例えば、「電話での会話」についても、「電話会社や組織内部にちょっと悪いやつがいたら、簡単に流出」するわけですが、双方の受話器に暗復号装置をつけて会話しないと注意義務を問われるかというと、大半の場合はそんなことはないわけですよね。
(どうでしょうか?)
平文でメールしても大丈夫、ということを申し上げているわけではありませんので、念のため。
(ということで、本日はこのへんで。)

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change of control条項と買収側の善管注意義務

本日の読売新聞朝刊1面に、「新日鐵・住金・神鋼 特許相互利用締結へ−拒否権条項 買収防衛も狙う」という記事が載ってます。
要するに、これらの鉄鋼三社が、クロスライセンス契約を締結する際に、3社のうち1社が第三者に買収された場合、残る2社は買収者に特許の利用を認めないという条項を盛り込んでおくことによって、交渉なしに敵対的に買収する気をそぐ、という方法です。
日本で、こうしたchange of control(資本拘束条項)を、買収防衛目的で積極的に活用しようというのはめずらしいかも知れませんが、「契約の譲渡の禁止」をはじめ「合併や○%以上の株主の変動等の際に、サービスの供給者が一方的に契約を打ち切れる」というような条項は、ごく普通の契約書にもよく入っている特にめずらしくもないもの。(例えば、外資系のソフトウエア会社の契約書など。)
change of control条項のデューデリ
合併や買収の際には、買収側の弁護士さんが法務デューデリで、こうした重要な契約書についてチェックをして、change of control条項のチェックをかけていくのも、フツーの話です。
ところが、敵対的買収の際には、こうしたデューデリは行えません。今回の鉄鋼三社さんの場合は、あえてこうした条項の存在をアピールして、「事前警告」する意図なんでしょうけど、そうしたことを公言していない会社でも、そうした条項が隠れている可能性は大いにあるわけです。敵対的買収を行う買収者は、何が入ってるかわからない「福袋」を買うようなもんで、そうした条項のうち被買収会社の経営に重要な影響を与えるものが存在しないだろうという推測に合理性があったということでないと、善管注意義務違反に問われてもしかたがないかも知れません。
あのニッポン放送買収の時には、「ライブドアに買収されたときには、フジテレビからのコンテンツ提供等を打ち切ることも考える」ということがアナウンスされました。しかし、フジテレビからニッポン放送やポニーキャニオンへのコンテンツ提供等については、「グループ内にいるから供給する」という合意が両者間にもともと存在したと考える方が自然でしょう。「コンテンツ等を供給しない」というのは「有事」の買収防衛としての策としてそういうアナウンスをしたというよりは、もともとそういうネイチャーの会社だったとも考えられます。
契約書というものをあまり重視してらっしゃらないギョーカイなので契約「書」がないだろうという推測にはかなりの合理性があったかも知れませんがw、「契約」自体が存在しなかったかどうかが事前に外部から合理的に推測できたかどうかは大変微妙。そのへんを考えずに買収に走ったとのだとしたら、かなり「度胸ある行動」だったと言えるかも知れません。
change of control条項と株価
こうした「change of control」条項を買収対策で公言するのはいいんですが、契約にそういう条項がついているということは、その分、企業の価値としては下がる、という考え方もできるわけで、株価にはあまりいい影響を与えないかも知れないですね。
ちなみに、本日の株式市場は、(このせいかどうか存じませんが)3社とも下げて始まっています。
敵対的買収と企業規模
いつの間にか日本技術開発に対する夢真ホールディングスの買収劇も終わってましたが、あの買収劇の一つの大きな特徴として、「金額が小さい」ということがあったのではないかと思います。
買収がアナウンスされる前の日本技術開発の時価総額は40億円弱。過半数を取るとして「たった」20億円。この程度の金額であれば、いろいろ買収対抗策がほどこされていても、中身がよくわからなくても、”シャレ”で敵対的買収をしかけてくるところが現れてもおかしくないかも知れません。
しかし、企業価値が数百億円とか数千億円ともなると、それを買収する資金は、株式の上場やファンドの投資家から集められているわけで、そこの代表者は、株主や投資家に対して注意義務を果たす責任を負っていることを理解しているはずだし、デューデリも行うはずです。(普通は。)
数十億円規模の会社の買収でも、失敗したら社長が辞任することになるんですから、いわんや、もっとでっかい企業の買収なら、デューデリしないで敵対的に買っていくことが許されるケースは まれ なんじゃないかと思いますが、どうでしょうか。
(ではまた。)

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メールの暗号化と「インボー」

「専門家のモバイルパソコンと情報セキュリティ」には、たくさんコメント、トラックバックいただきました。ありがとうございました。
中妻 穣太さんからのコメント:

>「金融庁の見解では、『見られたかどうかがわからないので、それは事故に当たる』ということになった」

これひどい話ですよね。w
その反面、メールはどの会社も官公庁も平文でブリブリ流してると。
ISPとか組織内部にちょっと悪いやつがいたら、簡単に流出しますよ。
それに比べたら、その某監査法人のノートPCはよほどセキュアだと思いますけどね。

(ちなみに、その金融庁さんのご見解は、伝聞のまた伝聞ですので、ホントにそういう言い回しで言われたかどうかは、よくわかりません。念のため。)
これだけインターネットが発達し、WebについてはSSLなども発達した今日この頃、メールの暗号化だけがいつまで経っても普及しないのは不思議と言えば不思議。
理屈で考えれば、メールは非常に強く「ネットワーク外部性」が働くので、同報先(例えば関係者が10人いるとして)に一人でも使いたい暗号を採用してない人がいたらコミュニケーションができまへんので、暗号化が普及しないのも不思議でないと言えば全く不思議ではないのですが。
一方、マイクロソフトなどの大企業がその気になれば(例えばOutlook等のメールソフトのインストール時に暗号鍵作成を必須にするとか、メール作成で暗号化をデフォルトにするなど)、あっという間に普及するとも思うのですが、これって、あえて暗号を普及させないようにしようというNS○やCI○等のインボーだというのは考えすぎでしょうか?
Officeの暗号化ってどうよ?
弁護士さんや会計事務所とのやりとりなど、ビジネス系の世界では、MS-Officeの「読み取りパスワード」を設定するのが、「デファクト」の暗号化になりつつあるのではないかと思います。ビジネスやってる人でOfficeを使ってない人はほとんどいないという「普及率の高さ」がメリットですが、デメリットは「鍵配送」が問題になる点。たいていの方は、同じメールか、その直後のメールに「パスワードは、xxxxです」と親切に書いてあるので(大苦笑)、中妻さんがおっしゃる「平文での送信」とほとんど同じレベルでして、例えれば、「ハガキ」に重要な契約書の中身などを書いて送っているのと同じであります。(「郵便屋さん(通信経路上)」に悪い人がいないことを信じるしかない。)
通常の民間企業どうしのやりとりであれば、別に「郵便屋さん」を疑ってかかる必要もないのかも知れません。(本人同士では重要でも、第三者が見てもしょうがない話のことが多い。)
例えば港区のベンチャー企業が5億円の出資を受ける交渉をしているやりとりを、盗聴してまで見るインセンティブを持つ第三者というのはあまり想定できません。
ただ、過去の日米自動車交渉などの政府間交渉でも、日本側の作戦が全部米国側に(おそらく盗聴で)筒抜けだった、というようなまことしやかなウワサを聞くと、コワい人(一定以上の技術レベルの諜報組織を持つ国家など)の利害がからむ場合、平文でメールを送るなんてのはもってのほかかも知れませんね。
(元大統領や国務長官等がアドバイザーについているような外資系ファンドによる日本企業の買収で、CI○がインターネットの相互接続点(IX)付近にスニッファーをしかけて・・・・てなのは、ロバート・ラドラムとかマイケル・クライトンの小説の影響を受けたモーソーでしょうか?)
「対テロ対策」という視点も思いつきますが、テロリストの方々が、実名や平文でメールを送るなんてことはまず考えられない。(笑)
とすると、メールの暗号化を普及させないのが「インボー」とすれば、それは「経済活動面」の諜報活動を容易にするため、という方がmake senseです。
とは言え、FAXや電話や手渡しで一つの文書毎にパスワードを関係者全員に通知するのもビジネスの実務としては非常に無理があります。
シニアな方やエラい方に「おまえも暗号ソフトをインストールしろ」ともなかなか言えませんし。
ここで事情通の方にご質問ですが。
Word等で「読み取りパスワード」をかけた場合の暗号の強度はどのくらいなのでしょうか?対称鍵ベースで128bit(今の最速のコンピュータで数兆年かかるハズ)というような強度ではなく、40bit程度(最速のコンピュータで数時間以内に解ける)という程度かな、と予想してるのですが。(以前は、40bit以上の暗号が米国国外持ち出し原則禁止だったこともあり。)
つまり、「民間企業ではちょっと解読はできないが、NS○やCI○には容易に解読できるレベル」、ということですが。(考えすぎ?)
ではまた。

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条件決議型ワクチン・プラン

商事法務No.1739に掲載された、「条件決議型ワクチン・プラン」の設計書〔上〕(武井弁護士他)を拝読いたしました。
〔上〕と書いてあるので、〔下〕とまとめて読もうかと思っていたら、次の号の商事法務を読んでも〔下〕が載ってません。(追記19:26:今、47thさんのブログを確認したら、「上は」と書いてあるので、やはり「下」もあるんでしょうね。)
ということで、「条件決議型ワクチン・プラン」について、遅ればせながらどうでもいいコメント(というか私の個人的備忘録)をば。
スキームのポイント
この論文のポイントは、ずばり、

条件決議型ワクチン・プランでは、差別的行使条件が付された新株予約権の無償割当(新会社法二七七条)をあらかじめ「停止条件付」で決議する。

という部分かと思います。(87ページ)
新会社法第277条は、

(新株予約権無償割当て)
第二百七十七条 株式会社は、株主(略)に対して新たに払込みをさせないで当該株式会社の新株予約権の割当て(以下この節において「新株予約権無償割当て」という。)をすることができる。

となっており、次の第278条は、

(新株予約権無償割当てに関する事項の決定)
第二百七十八条 株式会社は、新株予約権無償割当てをしようとするときは、その都度、次に掲げる事項を定めなければならない。
一 株主に割り当てる新株予約権の内容及び数又はその算定方法
二 (略)
三 当該新株予約権無償割当てがその効力を生ずる日
四 (中略)
3 第一項各号に掲げる事項の決定は、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければならない。ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りでない。

となってます。
「停止条件付」というのは、おそらく、この278条1項3号の「当該新株予約権無償割当てがその効力を生ずる日」という決議事項の部分を、
「ある者が、(発行済株式総数の5分の1を超える株式を取得する等の)トリガー条項(論文では『フリップ・イン条項』)に該当することとなったことを当社取締役会が認識し、公表した日から起算して○日後」
というような形で決めておく、ということではないかと思います。
「停止条件付き」という部分については、ブログ「ビジネス法務の部屋」で山口利昭弁護士が、新株予約権の発行のような「団体法上の行為について、民法上の「停止条件」というものを付すことが法律的に可能かどうか」という問題提起をされてます。
法律的な議論はよく存じませんが、経済的な観点から考えると、法律で上記のような条件決議を禁止することで、何か(その分 社会が発展するとか、ルールが明確になって調整コストが減少するとかの)メリットがあるのかというと、全く無いような気もしますが。(どうなんでしょうか。)
また、新会社法では定款自治が広く認められるようになったので、上記の278条3項のように、定款で定めればどの機関でも決議ができるようですね。
(「取締役会設置会社だけど株主総会で決議したい」、という場合には、まず、「(一定の条件の)新株予約権の無償割当てについては株主総会決議を要する」といった感じに定款を変更する決議をしてから、次の議案でその発行を決議する、といった感じになるんでしょうか?
「買収防衛策には株主総会決議が必要」という論旨も根強くあるようですが、形式的にいくら株主総会決議を経てもいても、目的が保身だったらダメとすべきだし、取締役会で決議しても、きちんとガバナンスが働いて株主のためになるんだったらOKじゃないかと思うんですが。ex.オーナーと安定株主で3分の2の議決権を取れてしまうようなコテコテのオーナー企業的公開会社の場合、どうなんだ?とか。)
コスト
実際にビジネスされている方が最も知りたいのは、主に「裁判で負けへんでっしゃろな?(法的安定性)」と「で、ナンボかかるんや?(コスト)」という2点でしょう。(商事法務の論文は格調高いので、こういった下世話な疑問にはズバっとお答えいただけないことが多いんですが。)
裁判所がどう判断するかは具体的な条件にも関わってくるかと思いますが、この方式の最大のウリの一つは「事前警告型」と並んで最もコストが安くて済むところかと思います。(弁護士さんの報酬を除けば、とりあえず取締役会議事録の紙代に毛が生えた程度でいいはず。)
導入を検討している企業からすれば、「信託型」が5000万円〜とウワサされるのと、だいぶ違うかと思います。
強制交換
新株予約権が無償で割当てられた後に、これを行使して株式を取得しないと、買収者の希薄化が実現しないわけですが、これも、

米国のフリップ・イン型ライツ・プランで採用されている強制交換(exchange)条項と同様の効果を得るために、株式を対価とした会社側からの強制取得条項(会社法二三六条一項七号イ)を付すことも状況によっては考えられる。

と、新会社法の強制取得の規定を使うアイデアが提示されてます。

会社法二三六条一項七号
当該新株予約権について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができることとするときは、次に掲げる事項
イ 一定の事由が生じた日に当該株式会社がその新株予約権を取得する旨及びその事由
ロ 当該株式会社が別に定める日が到来することをもってイの事由とするときは、その旨
ハ イの事由が生じた日にイの新株予約権の一部を取得することとするときは、その旨及び取得する新株予約権の一部の決定の方法
ニ イの新株予約権を取得するのと引換えに当該新株予約権の新株予約権者に対して当該株式会社の株式を交付するときは、当該株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)又はその算定方法
(以下略)

つまり、無償割当と強制交換を組み合わせれば、実際の事務手続きは株式分割で子株を一定の基準日の株主に付与するのと限りなく同じ手続きでできることになるかと思います。
コスト的には、この「オートマ」方式が一番安そうです。
(備忘メモ:買収者に割当てた新株予約権については、「ハ」で定める新株予約権の一部の条件に「買収者の関係者等でないこと」等とするのか、それとも、「二」で交付する株式の数の算定方法として、「買収者の関係者等はゼロ」、とするのか?)
発動後の事務手続き
実際にトリガー・イベントが発生して新株予約権を発行するときには、現行の商法では新株予約権には申込書が必要ですが、新会社法では無償で割り当てられるので「申込書を提出してください」という1往復が省略できるわけですね。
(新株予約権の申込手続きの複雑さについては、
「インボイスの新株予約権申込証、来ました」
のあたりの一連のインボイスさん関連エントリーがご参考になるかと思います。)
また、新会社法における新株予約権は、原則新株予約権証券を発行する現商法と違って、「証券発行新株予約権」([新株予約権付社債に付された以外の]新株予約権で、当該新株予約権に係る新株予約権証券を発行することとする旨の定め[会社法236条1項10号]があるもの。会社法249条1項3号ニ)だけが証券を発行するので、おそらく、このスキームの新株予約権は、新株予約権証券を発行しないタイプになるはず。
つまり、現商法では、
image004.gif
となるところが、新会社法下でこのスキームを採用すると、
image006.gif
となり、さらに強制交換を使うと、
image008.gif
といった感じ。さらに、将来(平成21年6月までに)、上場会社の株券が電子化されることになると、
image010.gif
と、まったく株主との書類のやりとりをしないで完結することも可能になるかと思います。
株式交換とどこが違うのか?
一方、新株予約権の無償割当てと強制交換のタイミングがほぼ同時となってくると、「事前警告型の株式分割と何が違うねん?」という疑問もわいてきます。
事前警告型で株式分割をする場合には、基準日の株主名簿に従って機械的に新株が割り当てられるのに対し、新株予約権の条件決議の場合には、「こいつは買収者とグルと判明している人には新株が行かないようする」など、より微妙な調整もできる可能性があるという点が相違点の一つでしょうか。(「大砲」と「トマホークミサイル」といった違い?)
「オートマ」が最良か?
新株予約権行使の申込を行わず強制交換する「オートマ」方式では、株主に書類を書く負担や資金負担も発生しませんし、失権等で後でもめることもなさそうです。ただし、新株予約権者から「私は買収者やその関係者の要件に該当しません」という言質を取れないので、面倒でも行使または交換の申込をはさむ方がいいかも知れません。(どうせ発動しないとすれば、どちらでも同じ。)
ワクチンプランにより取得した株式もいっしょに後で買収者に売却する契約があるのに、それに該当しないと偽って申告して株式を取得した場合、まともな人ならその株式の法的安定性や行為の適法性については考えるでしょう。
また、プランの中身が理解できなかったり長期不在だったりで行使(交換)の申込ができなかった人については、「買収者の要件に該当しないと会社が認めた人には発行できる」ような文言にしておけば、なんとかなるでしょうか。(特に、シェアに関係しないような小口・多数の株主については。)
「差し止められにくさ」は?
私がスキーム毎の法的安定性を語るのはおこがましいのでやめときますが、どんなスキームを採るにせよ、例えば現経営陣が保身のために発動させようとしてる場合には差し止められてしかるべきだし、情報が行き渡らない中で不利な条件で会社が買われることを防止しようというような正当な理由がある場合には差し止められない、ということでないと、世の中のためにはならないかと思います。
(あるスキームを使えば、どんな買収者でもブロックできるんだったら、実際には経営者の保身もできるし、株主には不利益になるわけで。)
(本日はこのへんで。)

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杉並の水害

朝起きたら、杉並の実家の近くがすごいことになってるので、おったまげました。
米国のハリケーン「カトリーナ」の被害を対岸の火事と思っていたというわけでもないんですが、実際に自分の知ってる場所が同じようなことになってる映像を見ると圧倒されるものがあります。
妙正寺川が氾濫したのは、私の幼稚園時代(つまり40年くらい前)以降、記憶がありません。(我が家は川のそばではないので、当時も今回も、おかげさまで浸水はまぬがれたんですが・・・。)
当時は確かまだ、川岸は「土」で自然のまんま(道路はジャリ道の時代)でしたが、その後、川は完全にコンクリでガチガチに固められ、人間のテクノロジーによって、完全に自然を制圧したかに見えたんですが・・・。
おまけに、確か最近では、神田川等があふれた場合の水を流し込むために、環八だか環七だかの大深度地下に超巨大空間を作ってたと記憶してるんですが、アレは機能しなかったんでしょうか。
先日、タモリ倶楽部で「マンホール特集」をやっていて、汚水と雨水の下水管の違いを説明してましたが(汚水用マンホールには穴が開いてないが、雨水用マンホールには穴が開いている。集中豪雨で下水道に急激に水が流れ込むと下水管の中の空気が圧縮されてマンホールの蓋がブッ飛ぶので、マンホールの蓋には穴を開けておかないとまずい、等)、
「バックボーン(大深度地下の空間)」の容量不足というよりは、「バックボーン」にたどり着くまでの、支線の下水管のキャパがオーバーした、ということでしょうか?
被災された方には心よりお見舞い申し上げます。
(ではまた。)

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ポケバイの英才教育

昨日、はるばる千葉のショートコースまで一家でゴルフの練習にでかけたところ千葉北インター出てすぐのところのポケバイのコースが目に入ったので、帰りにちょっと見学を。
ウサワには聞いてましたが、幼稚園から小学校低学年くらいのちびっこ達が、膝のパットを擦りながら、すごいスピードでコーナーリングしていくんです。
poke_bike.jpg
我が家の数軒隣に住む、某外資系タイヤメーカーにお勤めの方も、小学校3年生の息子さんをここまで連れて行ってまして。先日はポケバイの全国大会まで出場されたとか。首都圏でバイクの練習をできるところって、ここくらいしか無いらしく、GPクラスの選手も何人かここから輩出しているそうで。
何事も子供を世界レベルに育てようとすると、お金がかかりそうですね。先日、ゴルフの横峯さくらのお父さんが、子供のころゴルフの練習場代等に月に30数万円(!)かけていたというテレビ番組を見て愕然。ウチがかけてるコストは1〜2桁低かった・・・。orz
さくらパパは、プロで初勝利する直前には、財布の中に数千円しか入ってないところまで金銭的に追い詰められてたそうで、決して「ゴルフは金持ちでないと強くなれない」とは言えないとは思いますが・・・・・・「金がかからないスポーツ」とも言えないですねえ。
(ではまた。)

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「暴力」とは何か

この夏、駒大苫小牧高の事件を見て思ったこと。
相撲部屋で親方が竹刀で弟子を叩いているのは、あれは「暴力」なのか、「指導」なのか。
「格闘技」はアリだけど、「野球」だからダメなんすかね?
「プロ」はいいけど、「アマ」はダメとか?
(ではまた。)

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