談合の課徴金減免制度とゲーム理論 (と、ジャック・バウアー)

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日曜日の日経新聞朝刊の1面トップにも載っていましたが、談合を自主申告した場合の独禁法上の課徴金を減免する制度が「拡充」されるそうです。
これは、先日の週刊ダイヤモンド誌の編集長氏の巻頭コラムにもあったとおり、一種の「司法取引」なわけでして、村社会の日本にそういうノリが通用するのかしらんという事前の予想に反して、大企業までもが次々に談合を「自白」して課徴金を免れているとのこと。


 
この制度、「囚人のジレンマ」を連想させますが、(私、ゲーム理論の専門家ではございませんが)、ゲーム理論の入門書にでてくるシンプルな囚人のジレンマよりは、ちょっと複雑な話かと思います。
例えば;

  • 入門書的なケースでは、相手が自白して自分が自白しないとより罪が重くなりますが、この課徴金減免制度では、早く名乗り出る方がより課徴金の額が少なくなるだけなので、「ジレンマ度」は少ないのでは。(それとも、やはり囚人のジレンマの一種だと考えていいんでしょうか。)
  • 特定の談合が、「公取委の調査でいつかは発見される話だ」と考えるのか、「全員がしゃべらなければ公取委が調査してもバレない話だ」と考えられるのか、にもよるかも知れません。
  • 名乗り出た企業も出遅れた企業も今後も同じマーケットで競争をしていくわけなので、「繰り返し型」の囚人のジレンマと考えればいいのか。それとも、「繰り返させない」ことが目的であって、実際、先に名乗り出た企業に対しては、「三○重工のヤロー・・・」という怨念がたちこめるので、制度の意図したとおり、とても二度と仲良く談合する雰囲気ではなくなるのか。(実は、名乗り出る順番も談合で決めたりしていたら、トホホ・・・ですが・・・。)
  • 上場企業であれば、株主代表訴訟で「先に名乗り出れば少ない課徴金で済んだのに、そうしなかった」点を突かれると負ける可能性も大いにあるかと思います。すなわち、法人の負担の問題だけでなく、直接談合に関係しない取締役個人にまでトバッチリが来る可能性があり、法人内の利害も一枚岩ではないはず。

等。
「大盤振る舞い」過ぎないのか?
記事では、

  • 別々とみなしていた親子会社を1社としてカウントする。(結果として、高い減免率が適用される企業が増える)
  • 今までは、名乗り出た順に3社までしか減免の対象にならなかったが、これを5社までに増やす
  • 公取委の立ち入り検査後の申告でも減免される企業数を増やす

といった内容を検討中とされていますが、これって、「悪いことをした会社」に対して「大盤振る舞い」過ぎないでしょうか?
「24 -TWENTY FOUR-」 で、極悪人のテロリストが捕まって、核爆弾とか細菌兵器等の大量殺戮兵器のありかを握っている場合に、「written and bindingな大統領のpardon」を要求して大統領が応じるシーンが1シーズンに何度も出てくるのですが、日本人的には、「数十万人を助けるためとはいえ、極悪人を無罪にするとは・・・」というところに非常に違和感があるかと思います。(もちろん、アメリカ人にも違和感があるからこそ、「24」がウケているんだと思いますが。)
記事では、「公取委が入手する違反情報を増やすため」とありますが、それやこれや考えると、1社名乗り出れば、談合の情報や証拠としては十分ではないんでしょうか?ましてや3社も減免すれば十分で、なぜ5社にもする必要があるのか。
(ジャック・バウアーと違って、実際の調査では、なかなか一つの手がかりを糸口に全体像にたどり着く、というのは難しいのか?)
この制度では、「違反行為を強要した場合等には適用を受けられない」(独禁法第七条の二12項3号)ので、談合を常時仕切っていた「悪玉中の悪玉」は名乗り出るインセンティブが無いから、もしかすると、名乗り出てくるのは相対的に「小物」な会社だけで、小物3社では証拠固めが難しい、ということでしょうか?(・・・ちょっと常識的には納得しがたいですが。)
ローエコ(law and economics)的観点がほとんどないといわれる日本の法体系の中にあって、珍しく「経済学的な」制度だと思っていたので、これが、前述のようなゲーム理論とか法改正後の実務の問題点等を詳細に検討した上で再改正を検討しているのか、その他の要因によるものなのかどうか、非常に興味あります。
まさか、公取委さんに限って、「課徴金に差がつく現状は、先にチクった企業だけ得をしてズルい」といった村社会の圧力が働いたための変更・・・ということではないとは思いますが・・・・。
3社から5社に増やすことによる年間の追加的減免額の総額予想が例えば5億円なら、年間5億円分の人員を拡充して調査機能を強化したほうが、世間が考える「公正さ」はアップするんじゃないでしょうか。
今後出てくるであろう、再改正の理由について注目してみたいと思います。
 
以下、ご参考:
「ここがポイント!“改正”独占禁止法」
http://www.jftc.go.jp/kaisei/kaiseileaflet.pdf

私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律
第七条の二  事業者が、不当な取引制限又は不当な取引制限に該当する事項を内容とする国際的協定若しくは国際的契約で次の各号のいずれかに該当するものをしたときは、公正取引委員会は、第八章第二節に規定する手続に従い、当該事業者に対し、当該行為の実行としての事業活動を行つた日から当該行為の実行としての事業活動がなくなる日までの期間(当該期間が三年を超えるときは、当該行為の実行としての事業活動がなくなる日からさかのぼつて三年間とする。以下「実行期間」という。)における当該商品又は役務の政令で定める方法により算定した売上額(当該行為が商品又は役務の供給を受けることに係るものである場合は、当該商品又は役務の政令で定める方法により算定した購入額)に百分の十(小売業については百分の三、卸売業については百分の二とする。)を乗じて得た額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない。ただし、その額が百万円未満であるときは、その納付を命ずることができない。
一  商品又は役務の対価に係るもの
二  商品又は役務について次のいずれかを実質的に制限することによりその対価に影響することとなるもの
イ 供給量又は購入量
ロ 市場占有率
ハ 取引の相手方
(中略)
7  公正取引委員会は、第一項の規定により課徴金を納付すべき事業者が次の各号のいずれにも該当する場合には、同項の規定にかかわらず、当該事業者に対し、課徴金の納付を命じないものとする。
一  公正取引委員会規則で定めるところにより、単独で、当該違反行為をした事業者のうち最初に公正取引委員会に当該違反行為に係る事実の報告及び資料の提出を行つた者(当該報告及び資料の提出が当該違反行為に係る事件についての調査開始日(第四十七条第一項第四号に掲げる処分又は第百二条第一項に規定する処分が行われなかつたときは、当該事業者が当該違反行為について事前通知を受けた日。次号及び次項において同じ。)以後に行われた場合を除く。)であること。
二  当該違反行為に係る事件についての調査開始日以後において、当該違反行為をしていた者でないこと。
8  第一項の場合において、公正取引委員会は、当該事業者が第一号及び第三号に該当するときは同項又は第四項から第六項までの規定により計算した課徴金の額に百分の五十を乗じて得た額を、第二号及び第三号に該当するときは第一項又は第四項から第六項までの規定により計算した課徴金の額に百分の三十を乗じて得た額を、それぞれ当該課徴金の額から減額するものとする。
一  公正取引委員会規則で定めるところにより、単独で、当該違反行為をした事業者のうち二番目に公正取引委員会に当該違反行為に係る事実の報告及び資料の提出を行つた者(当該報告及び資料の提出が当該違反行為に係る事件についての調査開始日以後に行われた場合を除く。)であること。
二  公正取引委員会規則で定めるところにより、単独で、当該違反行為をした事業者のうち三番目に公正取引委員会に当該違反行為に係る事実の報告及び資料の提出を行つた者(当該報告及び資料の提出が当該違反行為に係る事件についての調査開始日以後に行われた場合を除く。)であること。
三  当該違反行為に係る事件についての調査開始日以後において、当該違反行為をしていた者でないこと。
9  第一項の場合において、公正取引委員会は、当該違反行為について第七項第一号又は前項第一号若しくは第二号の規定による報告及び資料の提出を行つた者の数が三に満たないときは、当該違反行為をした事業者のうち次の各号のいずれにも該当する者(第七項第一号又は前項第一号若しくは第二号の規定による報告及び資料の提出を行つた者の数と第一号の規定による報告及び資料の提出を行つた者の数を合計した数が三以下である場合に限る。)については、第一項又は第四項から第六項までの規定により計算した課徴金の額に百分の三十を乗じて得た額を、当該課徴金の額から減額するものとする。
一  当該違反行為に係る事件についての調査開始日以後公正取引委員会規則で定める期日までに、公正取引委員会規則で定めるところにより、単独で、公正取引委員会に当該違反行為に係る事実の報告及び資料の提出(第四十七条第一項各号に掲げる処分又は第百二条第一項に規定する処分その他により既に公正取引委員会によつて把握されている事実に係るものを除く。)を行つた者
二  前号の報告及び資料の提出を行つた日以後において当該違反行為をしていた者以外の者
(中略)
12  公正取引委員会が、第七項第一号、第八項第一号若しくは第二号又は第九項第一号の規定による報告及び資料の提出を行つた事業者に対して第一項の規定による命令又は次項の規定による通知をするまでの間に、次の各号のいずれかに該当する事実があると認めるときは、第七項から第九項までの規定にかかわらず、これらの規定は適用しない。
一  当該事業者が行つた当該報告又は提出した当該資料に虚偽の内容が含まれていたこと。
二  前項の場合において、当該事業者が求められた報告若しくは資料の提出をせず、又は虚偽の報告若しくは資料の提出をしたこと。
三  当該事業者がした当該違反行為に係る事件において、当該事業者が他の事業者に対し第一項に規定する違反行為をすることを強要し、又は他の事業者が当該違反行為をやめることを妨害していたこと。

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3 thoughts on “談合の課徴金減免制度とゲーム理論 (と、ジャック・バウアー)

  1. メカニズム・デザイン

    今年のスウェーデン銀行賞(通称ノーベル経済学賞)は、「経済制度の設計」についてHurwicz、Maskin、Myersonの3人に授賞された。おそらく、こ…

  2. 相手が名乗り出ないときに自分が名乗り出ると損しますから、囚人のジレンマではありませんね。
    囚人のジレンマのエッセンスは、相手が自白してもしなくても自分が自白するのが有利である(支配戦略である)ということです。ちゃんと分析してませんが、課徴金減免制度だけを考えると支配戦略はないんじゃないでしょうか。