「ブルドック型」新株予約権の”奇妙な性質”をどう解釈するか

  • Facebook
  • Twitter
  • はてなブックマーク
  • Delicious
  • Evernote
  • Tumblr

金曜日のエントリで書いたように、ブルドックソースが今回買収防衛策として発行した新株予約権には、(買収防衛策としてだけでなく、一般論としても)、

  • 会社法上の財源規制が働かない、
  • 会計上、利益操作が非常に簡単に行えてしまう。(のではないか。)
  • 税務上、自己新株予約権の取得を単に債務の消滅と考えると、自己株式取得の場合と比較して、著しく不当な結果(みなし配当やそれに係る源泉徴収も必要ない、利益圧縮が可能。配当所得を譲渡所得に置き換えられる、など)が発生してしまう。

など、大きな問題が想像されます。
これを、統合的に解釈するにはどうしたらいいのか?というのをあれからずっと考えていて、これならイケるかな?というアイデアを思いついたので、以下に記載しておきます。


 
(以下、ざっと考えただけのコメントでありますし、ブルドックソースの株主のみなさん他の税務に関わるアドバイスを目的としたものでもありません。当然のことながら、会社の正式な発表をご覧いただくとともに、具体的な案件は、読者の方の顧問弁護士、税理士等にご相談ください。)
会社法上の問題
明らかに、財源規制を潜脱するのが目的のようなスキームは否定されるべきだと思いますが、今回、ブルドックは約140億円も利益剰余金があり、スティールへのキャッシュの支払いは約23億円なので、今回のは、財源規制を潜脱するのが目的ともいえないですし、そのことをもって新株予約権の発行自体が無効ということにする必要はないのではないか、と思います。
ただし、

  • 普通株式を株主割当する場合には、財源規制なし。
  • 現金を全株主に支払う場合には、財源規制あり。
  • 全部または一部の株主から株式を有償で買い取る場合には、財源規制あり。

なのに、「現金で買い取れる」新株予約権としただけで財源規制を逃れられるというのは、やはり、「法の抜け道」な気がしますので、今後パッチを当てる必要もあるのかも知れません。
つまり、一株当たり1,188円分の社債を全株主に付与するとしたら、それは現物配当として財源規制を受けると思うんですが、1,188円分の新株予約権を割当てても財源規制を受けないというのは、「それが将来、株式に変わるだろうから」ということを前提にしていて、現金で買い取ることについては、あまり深く考えていなかったからではないか、という気がします。
単純に、自己新株予約権を有償で取得する場合には(intrinsic value分だけでも)財源規制をかける、というのでは、なにか不都合が発生しますでしょうか?
税務上の問題
今回のスティール分など、現金で買い取る部分の新株予約権については、税務上は、経済的・実質的に普通株式に転換してすぐ買い取ったのと同じであると考えるのが一番すっきりする気がします。
まず、以下の法人税法22条のとおり、資本等取引は課税の対象とならないというのが法人税の基本的な考え方であります。

(各事業年度の所得の金額の計算)
法人税法第二十二条
 内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする。
2  内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。
3  内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。(中略)
三  当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの
4  第二項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする。
5  第二項又は第三項に規定する資本等取引とは、法人の資本金等の額の増加又は減少を生ずる取引及び法人が行う利益又は剰余金の分配(資産の流動化に関する法律第百十五条第一項 (中間配当)に規定する金銭の分配を含む。)をいう。

株式の発行や配当など、会社法の手続きを正式に経たものだけが資本等取引だよ、とは言っていないことにご注意。
以下の法人税基本通達1-5-4でも、

法人税基本通達1-5-4
(資本等取引に該当する利益等の分配)
法第22条第5項《資本等取引の意義》の規定により資本等取引に該当する利益又は剰余金の分配には、法人が剰余金又は利益の処分により配当又は分配をしたものだけでなく、株主等に対しその出資者たる地位に基づいて供与した一切の経済的利益を含むものとする。(平14年課法2−1「四」、平19年課法2−3「六」により改正)

「株主等に対しその出資者たる地位に基づいて供与した一切の経済的利益を含む」と言ってますので、当然、株主に対する新株予約権の無償割当てでは益金や損金は発生しません。
で、こうした経済的利益の「買取り」の場合が問題になるわけですが、租税法律主義を考えつつも、こうした法が想定していない形式の取引が出てきた場合には、租税平等の原則から実質課税の原則に立って、「これは実質は普通株式に転換してすぐ買い取ったのと同じである」と考えるのは、アリだという気がします。
(追記7/8, 9:00:まさに、ここがポイントだと思うので、裁判例、採決例などの研究が必要そうです。)
仮にそうだとすると、それも資本等取引になりますので、そこから損益は発生しないことになります。
スティール分の税務
税務上、仮に「普通株式に転換してすぐ買い取ったのと同じ」と解釈されるとすると、新株予約権を約23億円で取得する際にキャッシュを払う場合、みなし配当が発生し、それに関する源泉徴収(4億円くらい?)が発生することになります。
買収防衛上も、ちょっとは「つらい思い」をしてもらわないといけないですし、後から源泉徴収が必要だったということになって、ペナルティが発生してもなんなので、ブルドック側としては、そういう解釈がいいのでは。
源泉徴収するということになると、誤っていても正しくても、それをスティールが直接国と争うことはできないので(平成4年2月18日最高裁判決など)、多少のダメージにはなるかと思います。
(追記7/10, 10:45、「修正版」をアップしました。みなし配当と見るのはちょっと難しいが、損金にはしないほうがいいのでは?という感じです。)
一般株主の税務
前回のエントリに書いたとおり、所得税法57条の4の「当該交付を受けた株式又は新株予約権の価額が当該譲渡をした有価証券の価額とおおむね同額となつていないと認められる場合を除く。)」には該当しない・・・ので、課税は発生しないということでよろしいんじゃないかと思います。
発行会社の税務
発行時には処理なし、普通株式を対価に取得したときも、処理なし・・・というのは当然として。
前述のとおり、自己株式の取得に準じるとすると、新株予約権を取得してキャッシュを渡したときには、即時、資本積立金、利益積立金と消去し、税務上は自己新株予約権の帳簿残高はゼロ、ということになるかと思います。
会計上の問題
以前のエントリに書いたとおり、無償で株主割当てする場合に明確にあてはまる規定がないようですので、「一般に公正妥当と認められる会計原則」に従って処理すべきということになるかと思います。
自己新株予約権を残しておけばPLインパクトがなく、消却したときに損失が立つ(つまり、損失を)というのでは、利益操作が自由にできてしまう・・・と考えると、これを一般に公正妥当と認めるのは難しい気がします。
取得したときには純資産の部のマイナスとするのは当然として、消却したときには、自己株式の消却に準じて、その他資本剰余金から先に減額し、減額しきれない分はその他利益剰余金と相殺する。また、そういった処理をしているということを注記する・・・といったことでいかがでしょうか。
(結果として、新株予約権を消却することで、利益を自由に調整することはできない。)
他の新株予約権(現金を対価として発行された新株予約権や、ストックオプションなど)でも、やはり、in the moneyになっている新株予約権(intrinsic value[本源的価値]が存在するもの)については、これを取得して、消却すると損失が発生するが消却しないと発生しないということだと、いくらでも利益操作ができてしまうのは同じで、会計基準の欠陥ではないかとも思いますが、株主割当でなければ、量的にはあまり大量には発生しないし、in the moneyになるかどうかは予想しづらいので、当初から利益操作のために新株予約権を発行する、ということにはなりにくいと思います。
ただ、新株予約権を取得する際に、たとえば、intrinsic value[本源的価値]分については、自己株取得に準じた扱いとする等の改正をしたらどうなるか、というのも考えてみたい気もします。
(ではまた。)

[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。

2 thoughts on “「ブルドック型」新株予約権の”奇妙な性質”をどう解釈するか

  1. みなし買取課税という見方は、権利付与から買取に至る一連の取引をひとつの取引とみるわけなので、step transaction doctrineの適用ぽい考え方ですね。新株予約権であるから転換を擬制するかというアイデアが出てくるのでしょうが、行使制限により行使できない権利を行使したものとみなすのはちょっと苦しいでしょうし、実在しないstepを追加して考えるより、stepを減らす方向で単純に23億円の現金配当(みなし配当部分を割り出す面倒な計算は不要)だと考えるほうが、step transaction doctrineの考え方に沿うような気がします。
    もっとも、この権利付与・買取という取引はスティール側が望んで仕組んだものではないこと、限定列挙された課税要件を前提とする源泉徴収制度の性質から言って、今回は源泉課税するのは無理だと思いますが。今後の税制改正で検討されるかもしれませんが、譲渡制限なども絡めて上手く範囲を絞らないと、自社株予約権の買取は何でも対象に入ってきかねないように思います。

  2. どうもありがとうございます。先般いただいたコメントも参考にさせていただいて、いろいろ考えてみました。
    >行使制限により行使できない権利を行使したものとみなすのはちょっと苦しいでしょう
    うーん、そうですね。行使期間に入っていないうちに取得するんですからね・・・。
    >現金配当(みなし配当部分を割り出す面倒な計算は不要)だと考えるほうが
    それだと、資本金等の部分についてまで源泉されてしまうので、ちょっとかわいそうだと思ったんですが、確かにやるとしたら現金配当のほうがすっきりするかと思います。
    >自社株予約権の買取は何でも対象に入ってきかねないように思います。
    「intrinsic valueかどうかでわける」など、いろいろ考えてみたのですが、「なんでも対象」ということで整理するのもいいかなともふと思いました。ただ、消却ではない消滅の場合との対比など、いろいろそれはそれであちこちに影響が出てきそうであります。
    ではまた。