サッカーと社外取締役

  • Facebook
  • Twitter
  • はてなブックマーク
  • Delicious
  • Evernote
  • Tumblr

「観察の観察の観察」さんにトラックバックいただきました。(その1その2

「社外取締役が重要」という論旨は賛成なのですが、

ニッポン放送が勝つにしても負けるにしても、レブロンの判決のように、「社外取締役の検討が十分でなかったから”×”」というように、社外取締役の役割に言及してほしいなあ、ということです。
もちろん、社外取締役が今回の仮処分の結論導出の中心的要素になるということは、まだちょっと無理っぽいですが、以前も申し上げたとおり、そういう「ニュアンス」がちょろっとでも入っていれば、日本の資本市場にはプラスになるんじゃないかなあ、ということです。

というのは
ナシ
でしょう。
社外取締役が常識の社会ならともかく、それじゃあタダの「後出しじゃんけん」です。

とのこと。
私の説明不足で「社外取締役の数が多い方が勝ち」というように取られてしまったのかとも思いますが、そうではなくて、ニッポン放送の買収対抗策に対して仮処分するかどうかを裁判所が検討する際に、ニッポン放送の対抗策が「脅威」に対抗する合理性のあるものであったのか経営陣の保身に過ぎないのかを判断するには、一つには社外取締役の位置づけが重要だろう、そこを今回裁判所はどう判断するのか知らん?ということを言いたかったわけです。

なるほど、ニッポン放送の決定についてのみ、社外取締役のチェックが効いていたかどうかを問題にするということでしょうか。それならばフェアな判断基準の一つとしてもいいのかもしれません。
(中略)
逆に社外取締役のチェックを「アリバイ」にされるという逆作用も考えられます。社外からきたといっても、日本人はすぐに取り込まれますから。

そのリスクはありますね。
ただ、今後のM&Aが頻発する社会では、誰かが、その敵対的買収が株主にとって「いい」買収なのか「悪い」買収なのかを判断しないといけない。経営の内情を詳しくわからない裁判官が全部それを処理するわけにはいかない。
とすると、やはり社外取締役を拡充する方向しか無いんじゃないかと考えるんですが、どうでしょうか?
ゴルフや草サッカーからプロのサッカーへ
「観察の観察の観察」さんは、スポーツがご専門とお見受けしましたので、スポーツに例えさせていただきますと、
例えば、サッカーで「今のはファールだ」「いや、たまたまパスをカットしようとして足を出したら、そっちがつまずいただけだ」というようなトラブルが発生した場合、もしその場に審判がいなくて紛糾し、いちいち試合が中断して「スポーツ紛争調停所」みたいなところに駆け込んで、「こうだったんですけど、どっちが悪いっすか」みたいなことを聞きに行くというのは、聞かれた方も困ると思うんですよね。
今までの日本の社会は、ゴルフのように審判がいなくてもかなりうまくいく「紳士のスポーツ」のノリだったわけです。いまだに、紳士に囲まれて仕事をしている企業さんは「外部の審判」の必要性はピンと来てないでしょう。しかし、今後、M&Aや株主代表訴訟が頻発して、体が激しくぶつかるサッカーのような様相に変わっていった場合、「その場」に審判がいないと絶対うまくいかないと思うわけです。
もちろん、サッカーと同じく、「あの審判、ぜってーあっちに有利な判定ばっかしてるぜ」てなことは(人間がやることですから)起こりうるわけですが、少なくともグラウンドに審判がいないよりはましかと。
しかも、上場会社は「草サッカー」じゃなくて「プロ」なわけですから、控えの選手に「じゃ、君、主審やっといて」てなノリで内輪のだれかが審判をやるのではなく、「ちゃんとした審判」を「よそから」連れて来た方がいいんじゃないかと思うわけです。
「これからのプロのサッカーの試合には、どちらかのチームに肩入れしないプロの審判が必要だよ、」
「まずはそういう独立性の高い審判がジャッジして、それでも問題がある場合にはこっちに来てちょうだい、」
「当方はちゃんとした審判がちゃんとよく見てジャッジした結果は尊重しますよ。だけど、どっちかに肩入れしてる審判だったり、いいかげんな審判だったら、こっちが判断しますよ」
というような方向性が見える判断を裁判所が出したらかっこいいのになあ、と思った次第です。
(ではでは。)

[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。

14 thoughts on “サッカーと社外取締役

  1. トラックバック、きちんと読まれてるんですね。えらいな〜(^^
    ゴルフからサッカーへの話、わかりやすいと思います。
    たとえに使われていた中身以外でも、自分のボールさえ、きちんとカップへ運ぶことを考えればいいゴルフと、敵にいつボールを奪われるかわからないサッカーという視点で見れば、今回の件の一つのたとえになっていると思います。
    深く理解されているから、たとえもピタッとするんだろうな。

  2. 社外取締役も万能ではないんですね。本場アメリカのエンロンでも社外取締役が便宜を受けて独立性を失っていたという記事を読みました。
    今回のニッポン放送VSフジテレビは米国型ガバナンスに移行する際の通過儀礼で、社外取締役という制度もまだまだ紆余曲折が予想されるということでしょうか。

  3. 社外取締役について東京地決がmentionするというのは、淡い期待じゃないかと思います。仮に社外取締役が会社の意思決定をチェックしていたとしても、それを是とした社外取締役の判断の合理性が問われるでしょう(ここが米国法と日本法の違いでしょう)から、予め意見書のようなものを作成していれば格別、そうでなければ陳述書程度しか立証の手段はないわけで。まあ、K弁護士のことだからそのような証拠は作っているかもしれませんが、いずれにせよ、時間との勝負である仮処分という手続で、全ての考慮事項に目を配った決定文が出ることを期待すると、裏切られるんじゃないかと思います。

  4. そうですね、現状の日本では社外取締役に実効性のあるコーポレートガバナンスはまず期待できないでしょう。米国ではClass Action Suitが経済活動のあらゆる局面で活用されています。資力のない個人でも株主代表訴訟を容易に起こせる仕組みになっている点が米国の特徴ではないでしょうか。例えば株主と経営者の間に利害が衝突した場合に取締役会が株主の利益に反した行動を取ったと見なされると直ぐに訴訟されて取締役会メンバーが損害賠償責任を負う立場になるので、M&Aの申し出があった場合には株主にとっての利害得失を客観的に検討せざるを得ないということになりますね。米国でも取締役は大体CEOから任命される訳で経営陣に対するシンパシーや恩義はあるでしょうが、取締役個人が損害賠償責任を負うということになると誰に対しても説明できる判断を示せなければならない訳です。翻って日本ではこうした訴訟で取締役の責任が云々されることはまずないようですし、裁判所が踏み込んだ判断を回避する傾向が強く結果として経営者寄りの判決が多いのではないでしょうか?もうひとつ、米国では陪審制度が採用されているので判決における一般個人レベルの判断が反映されやすいという点が関係しているかもしれません。日本でも陪審制度に移行すると過去の判例主義のくびきから放たれて新しい時代感覚のある裁決が現れるかもしれませんが・・・。どんなもんでしょうか?

  5. その3 望ましい結末とは?

    「いかなる国民も、他の国民の国内的慣習や国内的必要などの是非を判断する資格はない。したがって、われわれは、われわれ自身は別として、誰かに向かって、われわれ自身の国の中での行事やしきたりなどについて、弁解がましいことを言う必要はないのである」
    (ジョージ…

  6. 米国商事法に陪審制度ってありましたっけ?
    米国だと衡平法裁判所(というか機能)ってのがありましたっけねえ。

  7. kantさん曰く:
    「米国商事法に陪審制度ってありましたっけ?」
    U.S. Constitution: Seventh Amendment
    Seventh Amendment – Civil Trials
    In Suits at common law, where the value in controversy shall exceed twenty dollars, the right of trial by jury shall be preserved, and no fact tried by a jury, shall be otherwise re-examined in any Court of the United States, than according to the rules of the common law.

  8. 現実逃避のweb巡回

     ほら、あれだ。仕事でウザイ事が有った(損も得もしないけど感情だけを害された。むこうも害したんだろうが知らん)けど、そんな時は現実逃避だ。 今日は一日中根転がってウェブブラブラしてた。んでライブドア問題。http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/special/84/http…

  9. MostlyVowelsさんありがとうございます。
    要するに、日本と米国では判断基準からしてまったく違うって事ですね。
    日本では外野がどんなに感情的に騒いでも、司法が”冷静に”判断できるってことですね。

  10. ライブドア・フジテレビ問題とは何だったのか(10)「新株予約権の法的論点(2)」

     前回のブログで、ライブドア・ニッポン放送事件における裁判所の判断の枠組みについてお話したが、今回はそこで残された課題についてお話していきたい。
     大まかに言うと、「会社は誰のものなのか」という点と「企業価値とは何なのか」という点だ。いずれも具体的な…

  11. こんにちは。
    いつも勉強させていただいております。
    この記事に関し、TBさせていただきましたのでよろしくお願いします。