証取法改正で「シリコンバレー的ファンド」等の運営に影響が出るか?

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証券取引法が改正され、銀行等に証券仲介業が解禁されるなど規制緩和的動きがある一方で、今まで規制のなかった「証券取引類似」のサービスに対する規制の強化も進みます。
「ファンド」と名の付く投資組合、コンテンツファンド、持株組合等を運営される方は要注意かと思います。
証取法改正の内容
具体的には、証券取引法第二条�3号および4号で、投資事業有限責任組合、民法組合、匿名組合、またはこれに類似する外国法によるファンドについては、今年の12月1日より証券取引法の規制を受けることになります。

証券取引法第二条第二項
三 投資事業有限責任組合契約(投資事業有限責任組合契約に関する法律(平成十年法律第九十号)第三条第一項に規定する投資事業有限責任組合契約をいい、商品投資に係る事業の規制に関する法律(平成三年法律第六十六号)第二条第二項第二号の契約のうち政令で定めるものに該当するものを除く。以下この号及び次号において同じ。)に基づく権利又は組合契約(民法(明治二十九年法律第八十九号)第六百六十七条第一項に規定する組合契約をいう。)若しくは匿名組合契約(商法(明治三十二年法律第四十八号)第五百三十五条に規定する匿名組合契約をいう。)であつて投資事業有限責任組合契約に類するものとして政令で定めるものに基づく権利
四 外国の法令に基づく契約であつて、投資事業有限責任組合契約に類するものに基づく権利

以前のエントリー「投資サービスと規制」で、神田秀樹 東京大学教授の「投資サービス法の整備を 横断的ルール必要」という論文をご紹介したとおり、今後も、投資類似サービスについては規制強化の方向です。
旬刊商事法務2004.7.15号の記事「証券取引法等の一部改正の概要」(金融庁総務企画局市場課、田原泰雅氏、端本秀夫氏、谷口義幸氏、吉田修氏)によると、

この投資家保護範囲の拡大に係る規定については本年十二月一日施行されるが、この措置により、株式・社債・金銭債権・匿名組合出資持分・信託受益権・工業所有権、著作権等に投資を行う組合については、証券取引法上のディスクロージャー規制や不公正取引規制の対象となる(以下略)

とのこと。
「ベンチャーキャピタル業界等がファンドへの投資を証取法上の有価証券とすることが規制強化であるとして反対してきた」(上述、神田教授の論文)というようなことを配慮してか、

ディスクロージャーについては経過措置を置くこととし、施行日である十二月一日前に勧誘を開始した組合については、当面、ディスクロージャー規制は適用されず、平成十八年六月一日に出資者が五百人以上である場合、有価証券報告書を提出することとされる。

とありますので、有価証券報告書を作るというシンドイ作業は当面行わなくていいようです。
投資顧問業との関連
一方で、(証券取引法そものもではなく)投資顧問業との関連において、同記事では、

ファンドについては、有価証券に係る投資顧問業の規制等に関する法律の適用の有無が問題とされることが多い。投資事業有限責任組合は、法律上、組合員の共有に属する組合財産を、組合員の共同の事業として運用する組合であると規定されており、実務上も、組合の業務を執行する無限責任組合員とその他の有限責任組合員との間で話合いを行いながら投資判断をしていることが一般的であるとのことである。このように、話し合いによって投資対象を選定するなど、他人から投資判断を一任されているとは言えない場合については、証券投資顧問業には当たらないと考えられる。一方で、組合型ファンドの形態を取っていても、他人から投資判断について一任され、その投資判断に基づいて当該他人のために投資を行っている営業の実態があれば、証券投資顧問業にあたると考えられる。

と述べています。
組合というのは、そもそもは「みんなで話し合って決める」という趣旨のvehicleですし、記事中で「その他の有限責任組合員との間で話合いを行いながら投資判断をしていることが一般的であるとのことである」とはおっしゃってますが、実際にベンチャーファンド等の組合契約においては、無限責任組合員または業務執行組合員(以下「GP」)に一任されるような構成になっていることが多いのではないかと思います。
なぜかというと、ベンチャーへの投資とかM&Aは、極めて守秘性が高くまた迅速に投資の意志決定を行わないといけないため、いちいち組合員と相談しながら投資や売却の意志決定を行うということは不可能に近いため、で。
上場しているベンチャーキャピタルや金融機関系のファンド会社などは、コンプラ体制や開示の体制もそれなりにしっかりしてますので、(ぶつぶつ言いながらも)投資顧問業者になってしまえばいいだけの話ではないかと思いますが・・・。
「シリコンバレー的な」ファンドへの影響
問題は、10億円前後またはそれ以下の「プチファンド」や、個人がGPをつとめるような「シリコンバレー的な」ファンド、または、株式の保有を行う目的で設立された持株組合的なファンドなどが、従来型の運用を続けられるのか?という点。
有価証券に係る投資顧問業の規制等に関する法律(投資顧問業法)では、投資一任業務を行う投資顧問業者は、

第二十四条(認可)
 投資顧問業者は、投資一任契約に係る業務を行おうとするときは、その行おうとする業務の内容及び方法を定めて、内閣総理大臣の認可を受けなければならない。

ということで認可業種になってしまいます。(「認可」というのは「免許」よりはゆるいが「登録」よりさらに厳しい、というイメージです。証券業は一般には「登録」でOKですが、元引受けを行う場合などは「認可」になります。)
また、

2  前項の認可を受けようとする者は、株式会社(外国の法令に準拠して設立された株式会社と同種類の法人で国内に営業所を有するものを含む。第二十七条第二項において「株式会社等」という。)でなければならない。

ということで、GPは個人ではなく株式会社でないといけないということになります。
株式会社がGPになること自体はいいとして、キャピタルゲインがどーんと出た場合の個人GPのインセンティブ部分についての課税をどう最適化するか、というのがちょっと難しくなるかも知れません。
(個人がGPなら公開した法人のキャピタルゲインに10%しか課税されないところが、株式会社だと法人税で40%持って行かれるところをどうするか。日本版LLCがまだ使えないですし、日本版LLCが投資顧問業者になれるのかどうかもよくわかりませんし。
海外にLLCを作った場合にも、「国内に営業所を有するもの」ということで税務上「PE」になりますので、源泉税関係をどう処理するか等、いろいろ考えないといけません。)
さらに、認可にあたっては、

(認可の基準)
第二十七条  内閣総理大臣は、第二十四条第一項の認可をしようとするときは、次に掲げる基準に適合するかどうかを審査しなければならない。
一  認可申請者がその営もうとする業務を健全に遂行するに足りる財産的基礎を有し、かつ、その者の当該業務の収支の見込みが良好なものであること。
二  認可申請者が、その人的構成に照らして、その営もうとする業務を公正かつ的確に遂行することができる知識及び経験を有し、かつ、十分な社会的信用を有するものであること。

というあたりを見られるわけですが、具体的には、

第二十七条の三  内閣総理大臣は、申請が法第二十七条第一項第一号 の基準に該当するかどうかを審査するに当たつては、次に掲げる要件を満たすかどうかを審査しなければならない。
一  資本の額(外国の法令に準拠して設立された法人にあつては、その本邦支店の持込資本金(資本に対応する資産のうち国内に持ち込むものをいう。)の額とする。)が五千万円以上であること。
二  認可申請時の収支見込みに基づく純資産額が、収支見込み対象期間(認可を受けた日の属する営業年度及びその翌営業年度から起算して三営業年度をいう。次号において同じ。)において五千万円を下回らない水準に維持されていること。
三  投資一任契約に係る業務に係る営業の収支見込みが、収支見込み対象期間内に黒字になると見込まれること。

というように、資本金五千万円以上などのハードルが課されることになります。
さらに、投資顧問業者には、取締役の兼職の制限(法30条)、兼業の制限(31条)、金融庁への営業報告書の提出(35条)など、様々な規制がガチガチにかけられることになり、「シリコンバレー的な」のびのびした運営ができるのかというとビミョーかも知れませんね。
適用除外で「抜け道」があるのかも知れませんが、基本的に「やる気はあって優秀な(だけど金や実績はまだあまりない)GP」と「詐欺的商法を企てているGP」を見分ける法律上のフィルターを作るのが非常に難しいのではないかと思うので、現在「抜け道」があったにしても、いずれにせよ長期的には一律に規制が強化される可能性が高いのではないかと思います。
結局、日本ではシリコンバレーのように個人のGPがイケてる企業に投資する世界にはならず、金融機関系のベンチャーキャピタル等のみが投資を行う資本主義のイメージになっちゃうということでしょうか?
(追記7/21, 12:08)
金融庁総務企画局市場課さんに電話で伺ったところ、
「証券取引法第二条第二項三号の政令については現在策定中であって、秋口にパブリックコメントを募集し、12月1日の施行までに間に合うようにする予定。どういう内容の政令になるかは、パブリックコメントを求めるまでは何とも申し上げられない。」
というご回答をいただきました。
うーん。このパブリックコメントと決定される政令の内容いかんで、日本のベンチャー投資、その他のオルタナティブ投資の方向が大きく変わっちゃうかも知れませんね。(ご注目あれ。)
(本件は、引き続き折に触れて継続検討していきたいと思います。)
参考URL:
有価証券に係る投資顧問業の規制等に関する法律
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S61/S61HO074.html
有価証券に係る投資顧問業の規制等に関する法律施行令
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S61/S61SE333.html
有価証券に係る投資顧問業の規制等に関する法律施行規則
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S61/S61F03401000054.html
金融庁事務ガイドライン等−投資一任契約に係る業務
http://www.fsa.go.jp/guide/guidej/syouken/s3_004.html

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2 thoughts on “証取法改正で「シリコンバレー的ファンド」等の運営に影響が出るか?

  1. 「ファンド」といえば、かなり意味の広い用語ですよね。最近では、匿名組合方式による不動産私募ファンドというのも世に出回っておりますが、一連の新規制のコンテクストの沿って、近い将来、ここらへんまで証取法の適用範囲下に取り込まれたりする可能性はあるのでしょうか?

  2. 「投資サービスと規制」
    http://www.tez.com/blog/archives/000032.html
    にも書かせていただきましたが、そういったいろんな「ファンド」を一元的に取扱うためには、「投資サービス法」のようなものを作るのがいいのではないか、という方向で調整中のようです。
    不動産のファンドについては、ご案内の通り、「不動産特定共同事業法」によってすでに規制が行われることがあります。(念のため。)