私が「日本人には IFRS はキツそうだ」と思う理由

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【追記:すみません、「はてブ」で教えていただきましたが、サーバでエラーが出て二重に投稿されていたようです。一つ削らせていただきました。】

昨日の「IFRSという名の新興宗教」に、はてなブックマークで id:activecuteさんからいただいたブックマークに、

これはひどい, コンサルは詐欺師, コンサルは帰れ
今の日本会計基準からすると、IFRSとの差より、10年前の日本会計基準との差の方が大きい。無駄に煽るな。

とありましたので、ちょっと補足をば。

まず、私は、「J-SOX導入コンサル」「IFRS導入コンサル」等はやってませんし、これからもやる予定がないので、どちらかというと、「コンサル」に煽られないように、いかにムダなコストは抑えて必要な要件を満たすか、ということを考えないといけない立場側の人間であります。

また、activecuteさんがおっしゃるように、日本の会計基準も、「公正価値(fair value)概念」やストックオプション会計、減損、リース会計、工事進行基準の徹底など、国際的な会計基準との差を埋めるために、かなりヤヤこしいことを既に強制されてきたし、IFRSに対応するための基本的な「技術」は既に手にしているのではないかと思います。
現在の会計基準からIFRSにしても、あまり現在と「数字」が変わらない会社も多いかも知れません。

それでも、日本の企業にとってIFRS(国際財務報告基準)がキツそうだなあと思う理由は、以下の通り。

 

「戦略」転換の必要性

一つには、IFRSによって「戦略」「戦術」の転換を求められる可能性があるということです。

J-SOXというのは、基本的には会社の事業にあわせた内部統制を構築していけばいいだけで、それによって何か戦略的な転換を求められるという話ではなかったと思います。
しかし、IFRSでは、包括利益に影響を与える資産の保有をどうするか、上場している子会社をどうするかといった、取締役レベルが判断しないといけない戦略、戦術レベルの話になってくる会社も多いと思われるところです。

 

「自分で考える」必要性

それよりももっと本質的にキツいんじゃないかと思うのは、IFRSが「原則主義」であって、
「当社は、こう考える」
ということを表明することを求めており、こうした「原則」をベースに自分の考え方を構築するというノリに、日本人がついていけるんでしょうか?ということです。

日本人は、「法律でそうなっているから」「ルールでこう決まっているから」ということに対して「すり合わせ」的な工夫をすることは非常に得意ですが、「自分の考えを構築してそれを述べなさい」ということは非常に苦手なんじゃないかと思います。

欧米に比べて日本では、実名ブログで自分の考えを述べる人が非常に少ないのも、その一つの現れではないかと思います。
また、「市場」というのも、本来、各個人が自分でそれぞれ行動して考えて行動することなはずですが、日本だと、自分では決められずに「バナナはおやつに入るんですか?」という質問が出るので、市場に関する法令がどんどん細かくなり、結局自由度があんまりなくなっちゃうというのもそうかと思います。

(ちなみに、私は日本人がアホだ、とか、精神がなってない、ということを申し上げているんじゃなくて、そういう行動様式の方が日本では情報処理的に合理的なので、そういう風土ができあがったんだと考える、ということです。
以下の、過去エントリをご参考まで。
「タメグチ」的ガバナンスの歴史
キリスト教のベースがない日本は「法化社会」になれるのか?

 

— 

昨日ご紹介した、この本

の11ページに、

原則主義のIFRSでは、財務数値以外の記述説明情報が増えるため、通常は日本基準よりもページ数が大幅に増える。この記述説明の大部分は、自社で定めた会計方針が占める。「IFRSになると、今の3倍以上に膨れ上がる」(八田教授)という。

とありますが、「量」の問題もさることながら、「自分で考える」ということが、はたして日本人にできるのかしらん?ということですね。

もちろん、大手で何十人も経理部員がいるようなところは対応できるでしょうけど、何千社ある上場企業のうちでも、そうやって「自社で(他社と違う)会計方針を考える」ことができる会社は限られる気がします。

で、以下は想像ですが、

日本だと、コンサルに高額の報酬を払っていっしょに何かを構築するというのに抵抗がある企業も多いと思うので、IFRS強制適用に向けての非常に日本的な解決としては、日本経団連等の経済団体が音頭をとって、「IFRS対応協議会」や、その「産業別部会」といったものを作って、それぞれ、「こういった会計方針の書き方だと、IFRSに準拠していると考えられる」といった「ひな形」が作成され、それが産業別等に「横並び」で採用されるという姿が、一つ考えられます。

これは、日本においてIFRSを適用する場合に、そうした「集中処理」で効率がよくできる部分と、個別企業でそれぞれ差異をつけないといけない部分のバランスが、まだまったく想像できないところであります。

今までと違って、国際的にも比較されるわけですから、海外の企業が独自の書きっぷりで書き込んでいるものを、そのまま邦訳すればOKということにもならないかも知れませんね。
海外では、どのくらい文言がそろっているもんなんでしょうか?(要研究>私)

海外では個々の企業毎に個性的な記述になっている部分が、日本企業だけ、全社又は業界ごとに横並びで同じ文言だったら、 それもブキミかも知れないですね。

また、ライブドア事件、日興コーディアルグループの課徴金、長銀の配当の裁判等が、もしIFRS適用後だったら、どういう様相を呈したか?ということについても、機会があれば考えてみたいと思います。
(そもそもIFRS的な開示をしていれば、事件自体起こらなかったような気もしますし、事件にならないようにするにはどのような開示をすればいいかと考えるのは、日本人的にはやはりキツいという気もします。)

(ではまた。)

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3 thoughts on “私が「日本人には IFRS はキツそうだ」と思う理由

  1. 「日本的な解決としては、日本経団連等の経済団体が音頭をとって」の表現、面白く読ませていただきました。
    私は、全社強制適用にはならないと思っているのです。上場会社でもある一定以上の資金需要がある規模の会社がIFRSを採用する。外国の投資家は、報告書を丁寧に読むわけで、その会社としての考え方が表れていないと魅力がない、不安を感じるになるような気がします。
    外国投資家からの資金も得て、資金調達で国内市場においても有利に立ちたいと思うのであれば、財務報告書は重要なToolであり、横並びを避け、差別化を図るのがやり方だろうと思います。一方、国内市場からの調達のみにするのであれば、わざわざ苦労してIFRSを適用する必要はないだろうと。

  2. IFRSは日本人にはキツいのかな?

    アルファブロガー磯崎哲也氏の「ISOLOGUE」の投稿。 私が「日本人には IFRS はキツそうだ」と思う理由 >それよりももっと本質的にキツいんじゃ…

  3. 「日本経団連等の経済団体が音頭をとって」の部分、上記の方のコメントとは違った意味で納得しました。
    経理側としては業務の定型処理が魅力ですし、会計士側としても仕事がしやすいでしょうし、また投資家としても比較しやすいでしょうし。
    しかし現在の日本の会計基準を勉強している身にとっては、負債が時価評価(公正価値評価?)という話は衝撃的ですらありました。一般事業会社の財務部においては、現場の実務としてどのような混乱が起きるのでしょうか(汗)しかもそれが会計慣行的な「収斂(Convergence)」でなくて「採用(Adoption)」となる衝撃や如何に…。
    これを見越して政策上「2018年度までの会計士5万人計画」が為されており、企業会計士が加わることでIFRSの強制採用で起こる衝撃を緩衝するということなのかとも思いました。それでも米国が採用する2014年以降になるだろう「IFRS採用」にギリギリ間に合わない感じなので浅薄者の考え過ぎですね(笑)失礼いたしました。