IFRSという名の新興宗教

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日経BPさんに送っていただいた本。

 

 

この日経BPさんのムックは、会計的な厳密さというよりも、導入する企業の戦略、業務、システム等にどういうインパクトがあるかをオムニバス的にまとめている本なので、経理部門の人もさることながら、経営者とかシステム部門の人が、IFRSのインパクトの全貌をざっと見るのに非常に適していると思います。

(そう。IFRSは、社長が経理部門の人に「よろしくやっといて」では済まない可能性が高いと思われるわけです。)

日経新聞やぐっちーさんを始め、いろんな方が、米国投資銀行等が負債を時価評価して巨額の利益を計上してるのにビックリしたり唖然とされてらっしゃいますが、これからやって来るIFRS(国際財務報告基準)の大津波に比べれば、そんなのはまだ「さざ波」に過ぎない気がします。 

このブログでも繰り返し話させていただいてますが、そもそも「会計」というのは、企業等の活動の森羅万象を、単なる数字に落とし込もう、という変換処理であります。

地図というものが、3次元の立体である地球を2次元の上に投影するものですから、どうしても、

200906021033.jpg

「アメリカとヨーロッパの間、切れとるやん!」

とか、


200906021044.jpg

「グリーンランドや南極、デカ過ぎやん!」

といった現象が発生します。

つまり、3次元のものを2次元にするんだから、面積、距離や方向を、同時にすべて正確に表すことなんてできるわけがないわけでして。

同様に、会計において「図法」に相当する「会計原則」でも、非常に複雑な現象を1つの数字に落とし込む際には、いろんな方法が考えられるわけで、それぞれにメリットとデメリットがあるわけです。

それにも関わらず、みんなが「ビックリ」することなく会計の数字を見ることができるのは、ビジネスモデルの変化が徐々に進んでいて」しかも「会計基準(図法)が変わらない」からですね。
(「継続性の原則」といった形で、「ビックリ」しないようにショックを吸収する配慮が行われて来たわけです。)

ですから、ライブドアや日興コーディアルグループのように、ビジネスモデルの中身自体が大きく変化したり、長銀の配当の裁判のように、会計基準が変わる節目にさしかかると、 違法かどうかの前に「ビックリ」しちゃう人が多数表れてしまうわけです。

 

J-SOXとの対比

現在、3月決算の会社が初年度の最後の追い込みに入っているJ-SOX(財務報告に係る内部統制)の導入も、それなりにドタバタはしたわけですが、おそらく、IFRSはそれどころの騒ぎじゃなくなるんじゃないかと思います。

なぜなら、J-SOXの場合、会計に内部統制が必要なのはそもそも当たり前の話であって、基本的には「そんくらいはやってて当然だったでしょ?」という話を、「めんどくせえなあ」と思いながらも、徹底させたりドキュメンテーションしたりといった話だったわけで、それまで保有していた理解が根底から覆されるといったものではなかったはずです。

しかし、IFRSは違います。(たぶん。)

それまで持っていた概念を、根底から変える必要が出て来るんじゃないかと思いますし、一般の人はもちろん、公認会計士等でも、まだかなりの割合の人(私も含め)が、本当に腹に落ちて概念を理解しているかというと、そうではないのではないかと思います。

これが「なるべくそれに近づけましょうよ(コンバージョン)」ではなく「強制適用(アドプション)」ということになると、「図法(の考え方)」自体が変わっちゃうわけですから、世の中のほとんど全員が「ビックリ」することになっちゃうのではないかと思います。

「一般に公正妥当と認められる会計の慣行」というのは、今までは、瞬時に変わるものでなく、時間とともに徐々に変化して行くイメージがあったんではないかと思いますが、それが、(移行期間はあるにせよ)「強制適用」されるというのは、これまたすごいことであります。

 

「文化レイヤー(層)」で最初の「世界統一思想」になるか?

今までも、例えば、ITUで電話その他の通信の標準が決められるといったことはありましたし、近年はインターネットのプロトコル等が「デファクトスタンダード」的に全世界共通の仕様になるようになってきました。
それらも、世界の人々の生活にとてつもないインパクトを与えてきたのは事実ですが、そうはいっても、それはまだ「技術」のレイヤー(層)の話であって、人々の生活や文化のレベルまでに「直接」影響を与えるものではなかったのではないかと思います。

また、 「国際」という名前にはなってるけど、IFRSは当初は(IASの時代から)、「ヨーロッパのローカルな基準」であって、「EU統合すると、いろいろたいへんでんなー」という話ではあっても、それが本当に世界共通の基準になるなんてことはないよね?、という感じだったものが、ここに来て急速に、世界中で統一化される動きになってきたわけでして。

IFRSは、(今回は詳しいことは省きますが)、上場企業を中心とする企業の(単に経理部門だけでなく)、業務全般に広範な影響を与えるわけで、こういった、「文化」のレベルにまで世界統一の「思想」が強制されるといった事態は、人類史上、最初のことになるんじゃないかという気がします。

4年前に、契約書等の領域でXML文書の規格が世界共通規格として普及して行くというSF小説的なものを書いたのですが、(こちら)、こういったことは、今の中堅以上の弁護士の方々が現役のうちには体験されない可能性も高いかと思います。法律というのは、それぞれの国の「文化」そのものであって、その概念や表現系が統一されるのには、相当な時間を要すると思いますので。

しかし。
会計もそういう「文化」としての側面があったんですが、法律よりははるかに、国際的な比較可能性等が要求されるとか、見かけがシンプルであるといった要因から、今の会計士の方々が現役のうちに、モロにそのインパクトを被ることになりそうで・・・。

1ヶ月ほど前に、日本公認会計士協会で「IASBの最新動向及びIFRS教育のあり方」という講演会があって、来日していたIASBの理事でスタンフォード大学のMary Barth教授の講演もあったのですが、全く違う世界の到来を予感させるもので、ちょっと頭がクラっとしまして、
「キリストの十二使徒の伝道を最初に聞いた人も、こんな感じだったんだろうなあ」
てなことを思いました。

 

(ではまた。)

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3 thoughts on “IFRSという名の新興宗教

  1. 村上春樹の新刊「1Q84」は浦沢直樹の「20世紀少年」にややもすれば近いものがあるわけでして。
    そういえば村上春樹自身が世界の都会における空虚さの共通認識という意味でグローバルな受け方をしていますね。

  2. コメントどうもありがとうございます。
    以前ご紹介いただいた「アマテラスの誕生—古代王権の源流を探る」は、非常に面白かったので、「1Q84」も読んでみようかなと思います。
    (ではまた。)