カリスマ・ヘアサロンの「のれん分け」と個人情報保護

家を出る直前に見たテレビの「今日の占い」によると、本日は「美容院に行くとラッキー」な日だとのこと。そういえば、先日のパーティで知り合ったヘアスタイリストのお兄さんに「ぜひ一度来てください」と言われてたのを思い出して、本日、表参道のカリスマ系ヘアサロンに行って参りました。
afloat
以前書きましたように、わたしはかれこれ5年も、美容院はおろか床屋にも行かずに自分でバリカンで散髪してまして、美容院ともなると、大学生のとき、おふくろの行きつけの美容院でパーマをかけて大仏のような頭にされて以来(笑)だから25年ぶりくらいでしょうか。
「わかるかわからないかくらい軽〜く、色、入れてみますか?」なんて聞かれたわけですが、スキンヘッドにもしたことのあるチャレンジャーなわたくしとしては、そのくらいの挑戦は当然受けて立ちます。
というわけで、おそるおそる家に帰ってみると、奥さんの反応は「なんでもっと早く行かないのよ。自分で刈らないで美容院行けって今までもさんざん言ってたでしょ。」とのこと。
お気に召していただけましたようで、よかったです。
−−−
さて、こういう店は指名制になってますし、スタイリストさん曰く「僕も2〜3年後には自分の店を持ちたいな、なんて考えてるんですよ」てなことになると、独立するときには自分のお客さんも連れて行くということになるんでしょうね。数年後に、「独立しました。ぜひお越しください。」てなハガキが来るんでしょうけど、それは、独立したスタイリストや元の店はよくても、個人情報保護法上はどーなのか。
こうした美容師の「のれん分け」は、「営業の一部の譲渡」にあたるのかしらん。あたるとすれば、

第二十三条(第三者提供の制限)
個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない。(中略)
4  次に掲げる場合において、当該個人データの提供を受ける者は、前三項の規定の適用については、第三者に該当しないものとする。 (中略)
二  合併その他の事由による事業の承継に伴って個人データが提供される場合

の「合併その他の事由」に該当するから、いいのかしらん?
ところで、営業譲渡だとすると、カリスマ・ヘアサロンが株式会社化していたら、原則としては株主総会決議が必要。ただし美容院の場合、のれん分けで持っていくのは顧客だけであって、帳簿上の総資産の5分の1もの資産(新会社法第467条1項2号かっこ書)は持ち出さないだろうから、株主総会は省略できるか・・・。
(逆に言えば、会社法で「重要な一部」の定義が帳簿ベースとして明確化されたことで、顧客その他、DCFや時価ベースで非常に高い価値のある資産が、株主総会の了承なしに持ち出されてしまう可能性があるわけでしょうか。クラウンジュエルと同じで、妥当な対価がどのくらいなのか、で悩みそうですが。)
ただ、その場合にも株主への通知は必要(第469条3項)で、株式買取請求権も発生する(同条1項)から、一等地に店を出したりするのに、後援者から株式の形で出資を受けてたりすると、絶好のexit機会にされちゃうかも知れないし、従業員が独立するたびに株式買取請求権が発生してたんじゃたまらないので、従業員の独立が常態である大型ヘアサロンの場合、株式で後援者から出資を受けるのはよくないんでしょうね。
そもそも、ヘアスタイリストが「お金出してください。儲かったらそれなりにお礼しますので」といって、後援者にポンとお金を出してもらうのは、匿名組合契約に該当するのか・・・・
・・・てなことを考えながら髪を切られてましたが・・・ま、かなりどうでもいいですね。
(ではまた。)

[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。

証券関係法令等リンク(平成18年度版)

shoken_roppo_H18(s).jpg
証券六法(平成18年度版)が9月末に出たのにリンクの更新をさぼっておりました。
あまり使われなさそうな法令等を削って17年版にくらべてちょっと薄くなっちゃってるんですが、削られた法令も残す予定。まだ全部チェックしきれてません。以下、とりあえず前回の版をそのまま掲げておきます。(近々更新予定。)↓

続きを読む

[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。

How Much Is My Blog Worth?

How Much Is My Blog Worth?というサイトを教えてもらって早速このisologueの価格を算定。
結果、$144,522.24.(日本円で約1700万円)という数字が出ましたー。


My blog is worth $144,522.24.
How much is your blog worth?

technoratiを使って計算しているもよう。
そんなに高く評価していただいてありがとうございます〜。と思う反面、仮に「PER20倍」としたら「年収約80万円相当」なので、あんまり高くないなあ、という気もします。(アフィリエイトをベタベタに貼り付けてもそんなには稼げないとも思うので、もっと高PERな評価なのか?)
日本のCNETで450万ドル。asahi.comで520万ドル。
みなさん、その値段じゃ売らないでしょうねえ。(笑)
(ではまた。)

[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。

birthに行ってきました

尾関さんが誕生日&出版記念パーティ(and moreもといmoe:-)をやるというので、西麻布のbirthまで行ってきました。
kinnosaji_ginnosaji.jpg
パーティ開始時間ギリギリに店の前まで行くと、芸能系とおぼしきマスコミの取材陣が黒山の人だかりが。
20051104_birth.jpg
しばらくすると店内は人で溢れかえることになるんですが、さすが西麻布、夜型でスロースタートなようで、私が到着した時にはまだ数人しか人がおりませんで。おかげさまで、到着したばかりの山口もえさんを一番(?たぶん)に、ご紹介いただく栄誉にあずかりました。
このブログの第一回目でも書きましたが、isologueを始めようと思ったのも尾関さんの一言がきっかけで、おかげさまでこの1年半で非常に多くの人との(リアル&ネット上での)出会いがありました。あらためて、尾関さんに感謝したいと思います。そして、ご結婚おめでとう!
(ではまた)

[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。

アインシュタイン「奇跡の年」から100年

先日、商社の金融部門のエラい方とかREITのCFOの方とかの金融関係者で食事しているときに、なぜか「奇跡の年から100年—アインシュタインの3つの理論」という東工大での講演を聞きに行こう!、ということで盛り上がりまして、本日行って参りました。

社団法人 日本物理学会2005年度公開講座
奇跡の年から100年—アインシュタインの3つの理論
会  場:東京工業大学大岡山キャンパス西9号館デジタル多目的ホール
対  象: 高校生/大学生/中学・高校の理科の先生/そのほか一般社会人
プログラム:
○ 特殊相対性理論:光と同時性からの革命
風間 洋一 (東大総合文化)
○Brown運動の理論:ほろ酔い機嫌のアインシュタインに学ぶ
保江 邦夫 (ノートルダム清心女子大)
○ アインシュタインが「奇跡の年」にいたるまで,およびその後
安孫子 誠也 (聖隷クリストファー大学)

アインシュタインの発想はそれまでの人とどう違ったのか
今から100年前の1905年たった1年間に、弱冠26歳のアインシュタインは、「光量子仮説」、「ブラウン運動」、「特殊相対性理論」といった、一つだけとってもノーベル賞ものの論文を立て続けに発表しましたが、風間先生は、これらの業績とそれまでの説の考え方がどう違うかについて、数式を使いながらもわかりやすく解説。人間が世界を理解する方法というか「スキーマ」というか、そういうものがどう転換していくか、の片鱗を見せていただいた気がしました。
風間先生の推薦本
einstein11.jpg
相対性理論
岩波文庫(アインシュタインの原論文)
A. アインシュタイン (著), 内山 龍雄 (翻訳)
相対性理論入門講義 現代物理学入門講義シリーズ
風間 洋一 (著) 培風館
ブラウン運動とは何か
保江先生は、この日のために2週間かけてヒゲをのばし、アインシュタインそっくりの顔つきになって登場。「ブラウン運動」の名前の元になった植物学者ブラウンのフルネームが「Robert Brown」だ、ということで、自ら壇上で酔っぱらいの千鳥足を熱演、女子高生がメジャーで歩幅を測ったりして、ブラウン運動についてわかりやすく解説。
アインシュタインの業績の一つに、ブラウン運動する粒子の移動距離(x)が、移動し始めたときからの時間(t)の√(平方根)に比例するということを示した、ということがあるとのことですが、熱演のおかげもあり、(VaR [Value at Risk]など、価値がランダムウォークする資産のリスクも、ご案内の通り「√」がつくわけですが、)、そのへんが体感的に非常によくわかりました。
ちなみに、保江先生、金融関係の本も書かれています。
einstein21.jpg
Excelで学ぶ金融市場予測の科学
—市場を動かす中心金融定理とは何か ブルーバックス
保江 邦夫
einstein22.jpg
Excelで学ぶ金融市場予測の科学
ブラック-ショールズ理論完全制覇 ブルーバックス
保江 邦夫
ブラウン運動と相対論はどう関係があったのか
さて、アインシュタインがノーベル賞を取ったのは、相対性理論ではなくブラウン運動だかった、というのは存じてましたが、相対性理論や光量子仮説とブラウン運動が何の関係があんねん?、というのが長年の疑問でした。(追記11/6,17:19:アインシュタインがノーベル賞を取ったのは、光電効果で、でした。大変失礼しました。)
我孫子先生の講義は、アインシュタインの頭のなかで、それらがどうつながって、「奇跡の年」の多様な論文に繋がっていったのか、ということを、アインシュタインの生い立ちから科学史的に解説。
「なるほど、一見、何の関係も無いようなことが、アインシュタインの頭の中では全部つながってたんだ」ということがわかって、大変スッキリ。
つまり、「ブラウン運動的なモノの考え方」というのは、単に花粉(正確には花粉が破裂して出る微粒子など)が水の上でチョコチョコ動く話、という話ではなく、多数のモノが動いている世の中の森羅万象を表す一つのモデルだ、ということですね。
ブラウン運動の研究がなければ、今のオプション理論もMSCB(転換価額修正条項付転換社債)もなかったわけで、改めてアインシュタインの偉大さに感服。
我孫子先生は、そうした業績から晩年の平和活動までが、「アインシュタインの頭のなかでどうつながっていたのか」の研究に半生を捧げてこられた、とのことで、その集大成が昨年出された下記の本だそうです。
einstein31.jpg
アインシュタイン相対性理論の誕生
講談社現代新書
安孫子 誠也 (著)
(ではまた。)

[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。

The Fog of War

映画館で見る機会を逃したのですが、レンタルビデオ屋に来ていたので見てみました。
the_fog_of_war.jpg
これは面白い!の一言。
マイケル・ムーアの華氏911が、ただのアホに見えます。
アマゾンのレビュー曰く;

ケネディとジョンソン。ふたりの大統領の下で国防長官を務めたロバート・S・マクナマラの人生に、本人へのインタビューとともに迫っていく。アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞受賞作。太平洋戦争で日本への爆撃作戦に参加し、フォード自動車の社長を経て、国防長官としてはベトナム戦争など重要な局面で大統領をサポート。(以下略)

とのことですが、マクナマラがハーバード等で統計的手法を学んで、(ウスウスは知ってましたが)これほどまでに「MBAっぽい」というか「戦略コンサルタントっぽい」人だというのは存じませんでした。
第二次世界大戦次にすでに統計的・科学的考え方を使って東京大空襲が決行された、というのは聞いてましたが、それがマクナマラ他の統計的分析とルメイ将軍の「好戦的」(≒非論理的)な意思決定とが結びついて実行されていた、というところも非常に興味深い。
(「戦争」だけでなく、敵対的買収やその防衛時など、経営における「戦時」の意思決定というのがどういうものになるかを想像するのにも、非常に参考になると思います。)
インタビューは11の教訓に分けて構成されているのですが、その中で、「Lesson #2: Rationality will not save us.」が、最も象徴的かと。
マクナマラ氏曰く;
キューバ危機で核戦争を回避できたのは単なる「luck」だった。ケネディもフルシチョフもカストロもみんな「rational」だったが、それでも人類は全滅の寸前まで行ってしまった。そして、それを回避できたのは、単なる「luck」によるものだった。
と、「luck」という言葉を何度も強調しているのが非常に印象的。
経営のしくみでも、ゲームの参加者全員が合理的に行動するとして、それがうまい落としどころに落ち込むように設計しておくというのは、必要なことではあると思いますが、それと、戦時に参加者全員が実際合理的に行動するかどうか、というのは全く別の話なんでしょう。
DVDの特典映像として映画でカットされたインタビューも載っているのですが、
「(マクナマラ氏が)戦後フォード社に入った時には、フォードは創業以来、一度も財務諸表を作ったことが無かった。」
という驚愕の事実も話されていて、これまた非常に興味深い。
監査とか内部統制とか、財務会計の体系というのが洗練されてきたのは、人類の歴史の中で極めて最近のことということですね。
粉飾事件などが起こると、「こうした体系自体、大丈夫なのか?」と暗澹たる気になりますが、それでもそうしたしくみは着実に進化を遂げてきている、ということかと思います。
経済学的に言うと「限定された合理性」というキーワードで貫かれた作品、と言えるかも知れません。
経営の意思決定に関わる方は、ぜひ一家に一枚、お買い求めください。:-)
(ではまた。)

[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。

ハッスルマニア

hustlemania[s].jpg
プロレスとか子供の時以来見たことなかったんですが、あまりの話題豊富さに、ついスカパー!で(奥さんが見てるのを横から)見てしまいました。
感想: 大変感心した。 (興業ビジネスとして。)

[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。

日吉の大学院に行って参りました

日吉にある某大学院のファイナンスの先生に呼んでいただきまして、今年起こったコーポレートファイナンスの出来事について振り返る、という内容でしゃべって参りました。(1月の鹿内家のニッポン放送株が突如大和さんに移った、信託受益権を使ったスキームのお話から始まって・・・・ライブドア、ニレコ、日本技術開発、TBS、経済産業省のレポート等々、今年はホントにいろんなことがありました・・・。)
数人でこじんまりと、というのかと思ったら、ちょっとした階段教室がいっぱいでびっくり。その後、飲み会もやっていただきまして、女子学生の方から「大ファンなんですー」とアルファブロガー本にサインを求められたのにはまたびっくり。
(本にサインなんて、生まれてはじめてしました・・・。ちなみに、他にはグロービスの小林雅さんとか、梅田望夫さんとかR30さんのファンだそうです。)
それなりにみなさんに喜んでいただけたようで、よかったです。
(ではまた。)

[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。

タイガース上場(等)と多様なガバナンスの可能性(その2)

47thさんにトラックバック「コントロールとキャッシュ・フローの分離雑考(イントロ)」 をいただきました。
47thさんは、「公開企業は経済学的に効率的な経営をするようにインセンティブ付けされるべきだ」というお考えのようで、私も基本的には賛成なのですが、「テイクオーバーの可能性もない形での公開というのは、やっぱり問題が多いんじゃないか」というところには、いくつか意見があります。
「議決権をデザインすること」と「解任されないこと」は違う
まず、

不完備契約一般の理論からいうと、非効率的な経営をしても解任されることがないという状況では、適切なインセンティブ付けは難しいわけです。

ということですが、(確かにそのとおりなんですが)、「議決権をデザインすること」と「何をやっても解任されない」ことは、必ずしも一致しないと思います。(もちろん、何をやっても解任されないようにデザインすることも、[公開審査等の要因を考えなければ少なくとも]商法・会社法上は可能ですが。)
image001.gif
(再掲)
昨日のエントリでイメージした上図のような阪神タイガースの資本政策(案)では、「ファンクラブが普通株式より強い議決権を持つ種類株式を保有し、ファンクラブで1人1票で投票して、その比率で、保有している議決権を不統一行使する」というアイデアを取り入れてみました。
例えば、公開されているタイガース普通株式の株価が20万円(1議決権)、ファン種類株式の株価も20万円で10議決権なら、ファンは1人1万円をファンクラブに納めれば、2人で1議決権獲得できるわけです。(公開の勢いでファンクラブの人数も若干増えるとして)20万人で10万議決権。
仮に公開市場で付くタイガースの時価総額が400億円ちょっと(阪神電鉄の企業価値の約10分1がタイガースのものとして)とすると、ファンの議決権割合は約3分の1。阪神球団など他にも安定株主がいれば、外部の投資家が普通株式を買い占めても、札ビンタで阪神球団を思いのままにする、というのはちょっと難しくなります。
image004.gif
一方で、まったく買収は発生しないかというと、もし外部の投資家がいい提案が出してきてファンも納得すれば、まったく可能性が無いとは言えない。ファンの批判を買ったら経営陣も十分クビになり得ます。ファンクラブの投票によって議決権の不統一行使をするのであれば、ファンクラブ会長等の一部の人の独断で役員が思いのままに決められる、ということもありません。
横浜FCの種類株式とは発想が逆
一方、47thさんのエントリで紹介されていた、紅の牛さんの「市民球団が危ない」でも紹介されていた横浜FCの種類株式のリリースには、

クラブメンバー株式は利益配当請求権、残余財産分配請求権のほか、営業譲渡、合併、解散に関する議決権を有します。そしてクラブメンバー株式株主総会(甲種種類株主総会)を新設し、このクラブメンバー株式株主総会が、営業譲渡、合併、解散に関する決議に拒否権を持ちます。

とあります。つまり、この横浜FCの種類株式は、「ファンは金は出してくれ。ただし、よほどのこと以外は経営に口は出すな」ということで、取締役の選任等を含む普通決議その他には参加できないようです。
前述の私のタイガース公開に向けた資本政策案は、むしろファンの発言力は高くなるし、それを全体のガバナンスの構造に前向きに反映させよう、ということで、発想が全く逆のものです。
未公開時と比べたらオープン
(タイガースを離れて一般論に戻りますが)、
上場企業同士で比べれば、全部がプレーンな普通株式の会社の方が、議決権をいじった種類株式を発行している会社よりオープンなのは間違いないかも知れません。
ただ、前回、前々回のエントリで考えていたのは、現在公開を躊躇している未公開の企業を公開させるにはどうするか、というお話。議決権がまったく無い優先株だけ上場する、というならともかく、そこそこの議決権がついた株式を公開するのであれば、少なくとも未公開の時よりはオープンでプレッシャーのかかった経営が行われる可能性が高いかと思います。
つまり、現在プレーンな普通株式のみで公開している企業がdual classの構造になることはさておき、議決権構造を若干デザインしないと公開に踏み切れない企業が公開することは、社会全体のオープンさや効率性を高めることはあっても、低めることにはならないと思うわけです。
日本におけるスクリーニングの方が実際厳しい(はず)
5年前くらいまでは種類株式というもの自体が全くと言っていいほど使われることのなかった日本においては、実際問題、こういった「ややこしい」企業は、公開時の主幹事証券や証券取引所の審査においても、どちらかというと敬遠されるはず。種類株式を普通株式に転換せずにIPOしたケースというのは、まだほとんど例が無いと思います。
公開時には、公開企業にふさわしい統制のしくみができあがっているかという審査が行われますから、種類株式を使っていても適切なガバナンスが働いているとみなされないと公開はできないし、それは実際問題かなり厳しめに見られるだろうというのが、日本の実情ではないでしょうか。
これに対して、GoogleがIPOしたころのエントリでご紹介したとおり、カナダではなんと20-25%(!)もの企業が「dual class」を採用して公開しており、アメリカでも全公開企業の3%、新規公開企業の7%程度は、dual classを採用しているとのこと。
image001.jpg
出所:Shareholders Association for Research and Education(SHARE)レポート
日本では、逆にもうちょっと「多様性」を取り入れた方がいいんじゃないでしょうか。
従来の日本型の構造の方が問題
そもそも、「何をやっても(株主の力によっては)解任されない」のは、むしろ、今までの日本の上場企業の構造の方ですよね?
持ち合い解消が進んだ今でも、同族や親密企業で議決権の2/3以上を持って公開している企業は非常に多いわけで、同様の企業のIPOを認めるのであれば、議決権について種類株式を採用した企業の公開を認めない理由はないと思います。
GoogleのIPO時のS-1でも、(「where problems arise, ordinary investors have difficulty pushing for change」と言いつつも)、「The existence of a dual-class structure does not imply poor governance」と言ってますが、
企業の効率性を決める要因としては、種類株式を採用しているかどうかということよりも、直接には、取締役会や内部統制等のガバナンスの構造の方がはるかに大きいはずです。
個人投資家は保護されるか?
また47thさんは、

しかも、こうした会社では、テイクオーバーも起きないわけで、一般投資家というのは、経営者の不適切な経営に対して、ほとんど何の保護手段も持ち得ないということになります。

とおっしゃってますが、これはちょっと言い過ぎで、上場会社の株主には「公開市場における株式の売却」というexit手段が存在します。売る人が多ければ株価は下がり、次回のファイナンスもより悪い条件でしかできなくなりますので、経営に対するプレッシャーはそれなりに存在します。
また、種類株式を採用している企業の場合、普通株式だけを採用したプレーンな構造の企業よりは理解しにくい可能性も想定されます。
しかし、経済的価値についてややこしいリスクや条件がついた種類株式ならともかく、こと議決権に関しては、適合性の原則の対象となるような個人株主は実際問題、それを使ってテイクオーバーする可能性というのは今までもほとんど無いわけで、その可能性のある「プロの投資家」が読めばわかるような適切かつ詳細な開示が行われていれば(今の規制でも十分それは行われるはずで)、問題は小さいと思います。
(ではまた。)

[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。