ライブドアのLBOについて、もうちょっと考えてみた

今週にもライブドアがフジテレビ株にTOBをかけるとか報道されてますが、ホントなんですかね?
ライブドアがフジテレビにTOBをかける場合に具体的にどんなことが想定されるか、もうちょっと考えてみました。
SPVの設立
ニッポン放送株(の立会外取引による)取得の際には、「株式会社ライブドア・パートナーズ」という会社が使われましたが、フジテレビの買収を行う際にもSPV(Special Purpose Vehicle:特別目的事業体)が設立されることになると思います。
LBOの場合、最終的に「合併」が想定されますので、この場合、SPVとしては有限会社か株式会社が使われるということになると思いますが、(法律上はどちらでもいいし有限会社の方がコストは安くなりますが)、きっとニッポン放送の時と同様、株式会社が使われるんでしょうね。
商法上の事後設立の問題がありますので、実務上は、新設法人ではなく設立2年以上経ったペーパーカンパニーを購入してくることが多いようです。
TOBの開始
フジテレビのTOB(公開買付)を開始します。
公開買付の時には日刊新聞2紙以上に公告を行わないといけませんが(証券取引法27条の3、発行者である会社以外の者による株券等の公開買付けの開示に関する内閣府令第9条)

(公告の方法)
第九条  法第二十七条の三第一項 の規定により公開買付開始公告を行う場合には、次に掲げる日刊新聞紙の二以上を含む日刊新聞紙に掲載して行わなければならない。
一  国内において時事に関する事項を総合して報道する日刊新聞紙
二  国内において産業及び経済に関する事項を全般的に報道する日刊新聞紙

この公告を出す実務ですが、ライブドアが直接、公告枠を取ったら新聞社にそれとわかってしまうので、(TOBの公告枠のサイズはだいたい決まってますし)、公開買付代理人となる証券会社が代わりに取るんでしょうか。
ちなみに、新聞社の広告の部門と経済部等の間には、どのくらいチャイニーズウォールが敷かれてるんですかね?
今朝、新聞に公開買付の公告が出るかと思ったら、出てませんでしたね。
価格設定の方針は?
今回、報道されている「ご予算」は3000億円程度ということですが、先週金曜日終値の324,000円からすると、それより20%程度高い株価を付けたとしても、みなさんTOBに応じるでしょうか?
仮に+20%で388,800円とすると、3000億円で約773,200株で発行済株式数2,548,608株の約30%が取得できることになります。
ただし、友好的TOBで買付予定を最大100%とすれば上場廃止も確実なので、(他に誰も買い手が現れなさそうであれば)、ニッポン放送の1月からの株価のように、相場の価格はTOB価格に張り付くことになるわけですが、
一方、今回もし敵対的TOBを行うとしたら、フジテレビがおいそれとそれに応じるとは思えないわけですし、取得する弾薬も全体の30%分程度しかなさそうということであれば、必ずしも上場廃止になるわけではない。(その後の株価の変動についてのプレミアムが理論上残っちゃうわけです。)
加えて、ホワイトナイト(スポーツ紙でソニー説が報道されてるようですが)が現れたり、さらなる増配などで株価が高くなる要因があると市場が考えれば、株価はニッポン放送のケースと同様、TOB価格を上に突き破っちゃいますので、ライブドアとしてはさらにTOB価格をつり上げないとTOBが成立しなくなってしまいます。
TOBをかけることでフジテレビに心理的プレッシャーをかけることを目的とするのか、本当に「占領」を目的にするのかでも方針が違ってくると思いますが、価格設定の方針をどうするのか(あまりプレミアムを付けずに相場を見ながらじりじりと釣り上げていくのか、一気に市場を「観念」させるようなプレミアムをドーンと付けてくるのか)が、一つ、見所ですね。(ホントにやるとしたら、ですが。)
テレビでも、「フィナンシャルな株主は価格によってはTOBに応じるのではないか」と解説されてましたが、当然、こういう不確実性が残る状況では、TOBの最終日(公告から20日〜60日。証券取引法施行令第八条�)までは、様子見でしょうね。
加えて、すぐに上場廃止にはならないとすると、既存株主は必ずしもTOBに応じなくても説明はつくかと思います。
image002.gif
ニッポン放送保有フジテレビ株の取扱い
ニッポン放送はフジテレビの株式の22.5%(573千株)を保有していますが、うち、220千株(約8.6%)は既に大和証券SMBCに貸株されています。
http://www.jolf.co.jp/company/IR1242/PDF/kashikabu.pdf
この残った株券を、どうするか、ですが。
一部報道のように今週にもTOBを開始するとすると、最大60日だと6月の定時株主総会にはかからないので、今回のTOBへの応募は無理。
ライブドアが取締役会の過半数の取締役を送り込んだ後は、取締役会でSPVへの譲渡を決議することが可能になってきますが、これだと大量の譲渡益が出ちゃいますね。
要は、SPVとフジテレビの合併さえ承認されればいいわけですから、しばらくそのまま持っているという手が合理的かも知れません。
貸し手がつけてくる条件は?
これだけの金額ですので、貸し手も、単に自己資金で貸すとは考えられず、契約書の厚さの合計が10cm単位になるようなストラクチャード・フィアナンスのスキームを組んで(?)、このローン債権自体が流動化されて転売されるんじゃないかと思います。
この場合、問題は、このSPVが取得するのが30%程度にしかすぎないとすると、議決権の3分の2の賛成を必要とする合併のための特別決議が行えない可能性があるという点。
もちろん、SPVにはフジテレビ株という担保はあるわけですが、この株自体、マーケットのプライスに(例えば20%とか)プレミアムを上乗せして買うわけですから、常識的に考えると、最低でも2割くらいはエクイティ部分はほしいところ。3000億円としても600億円。ライブドアからは、もうこれ以上そんな自己資金は出せなさそうですよね。
とすると、この流動化された債権を売りやすい「商品」にするためには、何かあと一工夫・二工夫必要じゃないでしょうか。例えば、
・金利をバカ高くする。(ジャンクボンドと同じ。これだと、金額や金利によっては、合併後のフジテレビが長期的に金利負担に耐えられなくなるので、合併後、フジテレビ資産の切り売り発生の可能性が大きくなります。)
・巷で言われるような「ご予算3000億円」どころじゃなくて、ニッポン放送とあわせて3分の2を確実に取れるところまでをTOBの下限にして、確実に合併ができるようにし、合併までの信用リスクを小さくする。
(そんな量が売りに出るかどうか。また、ニッポン放送の取締役の席がほんとに確保できるかどうかが現段階では不確実。ニッポン放送に「進駐」してからの方が、レンダーから見たリスクは減少するので、調達条件はよくなるはず。)
・ノンリコースではなく、リコースローンとしてライブドアが保証する形にする。(どこまで保証力を認めてもらえるか微妙ですが、、、)
・ライブドアが保有している資産で処分価値の高いもの(例えばバリュークリックジャパン株とか弥生株とか)を担保として提供する。
・「甘味料」としてライブドアの新株予約権等をつける。(また、ライブドアにdilutionが発生しちゃいますけど、)
・SPVのエクイティ部分も販売する。(エクイティ部分も外部調達。ただし、フジテレビ株と交換できても、そこから利益が出る絵が描けるのか?)
どれも、ライブドアの経営に多大な影響を与えかねない条件ですので、どういう条件にすればいいのかを決めるのは非常に難しそうです。
なおかつ、こうした条件を厚さ10cm超の英文の契約書(かどうか存じませんが)に落とし込んだりするとなると、クローズまでに1日とか2日で済むなんてことはありえないわけで、(先週あたりから準備を開始したとすると)、なんだかんだで、条件に合意したりあと1〜2週間はかかっちゃってもおかしくないんじゃないでしょうか。
このへんで、また、日本初のウルトラC的なスキームが使われると、勉強になりますね。:-)
以上、推測が非常に多く含まれているたまたま思いついたアイデアベースのものですので、その点にご留意の上、ご参考になれば幸いです。
ではまた。

[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。

ラジオ局の経営をちらっと考えてみる

先日来、ラジオへの出演依頼があったので、(ライブドアさんがラジオ局を買収するということはどういうことなのか、ということを考えるという意味でも興味もあり)、2局ほど出演させてもらったんですが、
担当ディレクター氏が、「わかりやすいとリスナーにも好評でした。」てなことをおっしゃるので、(そんな見え透いたオベンチャラを〜。リスナーの反応なんかわかるんかいな?)と思って聞いてみると、
「生放送で、リスナーからのメール・FAXを受け付けているので、反響はリアルタイム。斬新な視点にはリスナーも敏感に反応してくれるので、そこがラジオの面白さでもあります。」
とのこと。ラジオって意外にインタラクティブなんやなー、と思いました。
−−−
ちなみに、以前4年半ほど某誌に書評を書かせてもらってたんですが、担当の方に、
「たまには、ファンレターとか来ないんスか?(笑)」
と聞いたら、
「全くありません。」
とキッパリとしたお返事が。(ガ━━━(゚Д゚)━━━ン)
やはり、情報を受け取る人の反応が何もないというのは萎えますし、私のようなもんのブログが続いているというのも、読んでる方のレスポンスがダイレクトに来るところが大きいわけです。<(_ _)>
−−−
では、そういったラジオの現状以上に「インターネットとラジオの融合」てなことができるのかどうかですが、技術的にも事業的にも直感的には非常に難しそうなわけですけど。
−−−
某テレビ局の方が「あそこの営業はスゴい」と関心されてましたが、ニッポン放送の営業マンは、他局が出かける前の朝一からスポンサー等を回るなど、かなり気合いが入っているので有名なようです。
そもそも、テレビ局ですら収入の要であるCM等の契約書が存在しないというスゴい世界とのことですし、ホイチョイのマンガでも白クマ広告社のラ・テ局の方はライターでアレを焼いたりラップでアレを包んでくわえたりして営業してらっしゃるようで(笑)、テレビ局やラジオ局の収入が、「契約ベース」ではなく、「人間関係ベース」に大きく依存しているというのは想像に難くないところ。
私も隊長氏と同様、AMはほとんど聴かないわけですが、車に乗ってる時などによく聴く某FM局が、従業員十数人でやってるのに開局8年も経って売上10億円で赤字というのにはびっくりします。
そう考えると、ニッポン放送が、単体半期で売上143億円、営業利益6.6億円(昨年4月〜9月)も稼いでいるというのは驚異的。よく存じませんが、「ビジネスモデルがいいから」というわけじゃなくて、上述のような「クローズドな社会における人間関係のテンション」でかなり膨らんでいる数字なんじゃないかと。
そうした中で、経営者が変わって従業員のやる気もそがれて、同じキャッシュフローが得られるのかどうかは全くわかりませんわね。外の風が吹き込めば、契約書や内部統制は整い、ライターだラップだというような世界は無くなって、それはそれで「いいこと」なのかも知れませんが、経営が「現代的」になると売上や利益が膨らむかというと、おそらく逆なんじゃないかと。
(ではまた。)

[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。

未来の同窓会

本日は中学校の時の同窓会ということで、ひさびさに荻窪の駅に降り立ったが、店に行ってみるとそれらしき雰囲気が全く無い。改めて案内メールを確認すると、なんと同窓会は来週だった・・・。_| ̄|○
腹も減っているので、仕方がないから荻窪ラーメンでも食って帰るかと思ったら、なんと「丸福」が店をたたんだ模様。_| ̄|○
激しく脱力したので、本日は休載とさせていただきます。<(_ _)>

[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。

ライブドアがLBO?

LBOと来ましたかー。(M&Aの教科書状態ですね。)
http://www.asahi.com/business/update/0317/099.html

ライブドア、フジテレビ買収狙い3000億円調達へ
2005年03月17日20時13分
 ライブドアがフジテレビジョン買収に向けて、レバレッジド・バイアウト(LBO)と呼ばれる手法を使って、3千億円の資金調達を検討していることが17日分かった。LBOは80年代に米国で発達した手法で、3000億円にものぼる調達が実現すると日本では過去最大級。ライブドアはこの資金で、フジ株の過半数の取得をめざす見通しだ。(中略)
 関係者によると、ライブドアは買収をめざすフジの資産を担保にして、複数の外資系金融機関などからなる融資団から、借り入れや債券・コマーシャルペーパー(CP)発行の形で資金を得る。2月の同放送株取得時に転換価額修正条項付き転換社債型新株予約権付き社債(MSCB)で調達した約800億円をしのぐ金額が要るため、別の手法を用いる。 (中略)
 フジの発行済み株式数は254万8608株で、時価総額は約7000億円。外国人の保有比率(議決権ベース)は15日時点で18.6%になるなど、市場で買い付けられる余地(流動性)はあるとされる。同放送はフジ株の22.5%を保有しているため、ライブドアはあと30%程度取得したい考えだ。(中略)
 LBOは80年代後半、米国でブームを巻き起こした企業買収法で、89年の米投資会社コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)による、たばこ・食品大手のRJRナビスコ買収が代表事例。
 日本では、03年の米系投資会社リップルウッドによる通信大手の日本テレコムの買収がLBOを使った最大事例。買収額は2600億円あまりだったが、リップルはこのうち約2000億円を、国内外の銀行から調達したとされている。

こうしたこと自体の是非とか、こうしたことを報道することの是非はさておき、フジテレビをどうやってLBOするか、ですが。
まず、平成16年9月末中間(単体)貸借対照表を非常にざっくりと要約すると以下の図のとおり。
image004.gif
オレンジ色の部分が、特に換金しやすそうな部分。
建物+土地のうち、建物のほとんどはお台場の局舎のようです。お台場の土地は東京都から借りているとのこと。こんなの全部equityで(借入金ゼロで)建ててるんですね。(こりゃびっくり。)これこそ、流動化してBSから落としちゃったりとか考えなかったんでしょうか。土地を東京都から借りているので難しいのかな?
その他流動資産は売掛金や手形が主ですが、信託受益権335億円とか、よくわかんないのも入ってます。(リース債権の信託受益権がほとんどとのことですが。)
つまり、フジテレビの資産って、ほとんどは本業であるテレビ局には直接関係なさそうな資産ですね。
テレビをやるだけなら、LBOして「不要資産」を売っぱらえば借金もほとんど返せるかも知れません。
おまけに、自己資本比率84.1%!
中間純利益11,818百万円の2倍が年間純利益としてもROE6.3%?
こりゃ確かにROE(または株価)を最大化しようという発想は、あまり感じられませんね。
(少なくとも財務的には)、ライブドアさんに大規模な財務リストラをしてもらったほうがいいのかも知れません。
フジテレビさん、よく見ると、(財務体質的には)相当LBO向きの会社かも知れません。
前述の朝日の記事だと、ライブドア本体が借り入れや債券・コマーシャルペーパー(CP)を発行して資金調達するようにも読めますが、実際には、SPVを設立して、
image006.gif
こんな感じで、SPV作って負債を借り入れるんでしょうか?(ノンリコースでなくライブドア保証で。)
上記の図だと、SPVがライブドアから倒産隔離されてませんが、ライブドアの連結子会社にすることはあきらめて、倒産隔離し、匿名組合出資などで果実だけ得るとか?(そちらのほうが、ライブドアの倒産リスクは下がるし、金を貸す方も安心かも。)
普通だと、このSPVとフジテレビを合併して、フジテレビにSPVが抱える負債を押しつけることになるかと思うのですが、ニッポン放送(議決権が復活するとして)とSPVを足しても50%ちょいしか議決権がなかったら、合併ができるのかしらん?
それとも、SPVは作らずに、ライブドア自身が負債を調達して、フジテレビと合併するつもりでしょうか?
その場合、放送免許がありますので、ライブドアが消滅会社になるんでしょうね。
そもそも、2月23日のニッポン放送のプレスリリースだと、大和証券SMBCに貸したフジテレビ株(議決権も)は、平成19 年3月15 日まで返ってこないようですが、その間2年間ふんばるんでしょうか?
しかし3000億円というような数字が出てくると、パックマンディフェンスがバカバカしく見えなくなって来ますね。(笑)今の株価ならライブドア25%で約500億円、50%でも約1000億円だから防衛費としては安いかも。
堀江社長のご発言によると、買収に使うなら第三者割当で資金調達しても不公正でないそうですので、ライブドア買収のために新株発行すれば、ライブドアのLBOも防止できて一石二鳥。ライブドアも株価が高止まりしてハッピーかも。
(ホントにやったら笑います。)
(まとまりませんが、とりあえず今時点でこれ以上考えてもしょうがない気がしますので、本日は、このへんで。)

[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。

カブドットコム証券、東証一部に上場

守秘義務上の線引きが面倒だとか会社の立場からの発言ととらえられても困るということで、基本的に本ブログでは私が直接関係している会社のことは書かないようにしているのですが、本日は特別に。
私が社外取締役をやらせてもらってますカブドットコム証券が本日、東証一部に上場いたしました。

kabucom[1].gif

設立準備から約6年で東証一部に直接上場を果たしたというのは、ひとえに、お客様や株主、取引先の方々のサポートと、何より執行部門の方々の努力のたまものだと思います。私は非執行の社外取締役なので、こういう場合、外部の立場から「おめでとう!」と言うのがいいのか、会社の立場から「ありがとうございます」と言うのか迷いますが・・・法律的には一取締役は機関ではないので「何も言わない」が正解かも知れません。ただ、一人の人間としては、執行部門の人達に「設立前から今まで本当によくがんばった。」と言ってあげたい。(面と向かって言うのは照れくさいので、ブログに書かせていただきます。)
本日は、朝10時から東京証券取引所15階で贈呈式に出席、その後、アローズを見下ろすテラスで鐘を鳴らしてきました。「五穀豊穣」ということで5回鳴らすんだそうです。
出産の時から知っている子の結婚式に出席したような気分、です。
引き続き粛々と、株主のみなさまの利益になるよう、経営の監督に努めたいと思います。
<(_ _)>
(ではまた。)

本サイトの内容はすべて当事務所および筆者個人の見解であり、筆者の属するいかなる法人、団体等の意見を代表するものでもありません。
本サイトのコンテンツは投資勧誘または投資のための情報提供を目的としたものではありません。利用者は本サイトの各コンテンツより得た情報を、利用者ご自身の判断と責任において利用していただくものとします。

[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。

[pseudo]ハードディスクビデオで花粉症がなおる

私は社会人になった春の新人研修の最中に鼻血を垂らして以来、その後何年も「新人研修で鼻血を出した」いそざき、と、ありがたくない修飾語を付けて呼ばれる人生を歩むことになったわけですが、思えばあれが私の花粉症の始まりでした。当時はまだ花粉症という概念が一般には知られてませんでしたが。
ところが、ここ2年ほど、花粉症の症状がほとんど出ない。もちろん、ちょっとクシャミが出たりはしますが、以前のように頭痛がしたり意識がぼやけるというような仕事に差し支える状態からはほど遠い。ではなぜ、いきなり症状が劇的に緩和したのかと考えていたら、「ハードディスクビデオ」に行き着いたわけです。
「高圧縮」可能な報道コンテンツ
うちのCoCoonは自動的に山ほど番組を録画してくれるわけですが、中でも、(番組を作ってらっしゃる方には大変申し訳ないですけど、)報道番組というのはまさにハードディスクビデオで30倍速や120倍速で飛ばし見をするのに最適なコンテンツなわけです。
先日テレビ局の方に伺ったところ、画面の左上や右上に表示される説明書きや字幕は大きく視聴率を左右する要素だとのことですが、まさにあれが高速飛ばし見中のインデックスとなって、興味ある事件や特集のところだけ通常のスピードで見ることができます。
また、報道番組は激しい競争を展開してますので、皮肉なことに、逆に放送される絵面が局間でもみんな似かよってきますし、5時のニュースでも11時のニュースでも同じ素材が使われたりします。最近だとニッポン放送の亀渕社長へのぶら下がり取材のシーンとか、堀江社長の記者会見のシーンとか。そういう部分は120倍速でOK。
「シャノンの定理」的に言うと、報道番組は「非常に高圧縮率で情報を圧縮することが可能なコンテンツ」ということが言えるかと思います。
「お笑い」はどうか
一方、お笑い番組やバラエティ番組はというと、そうはいかないわけです。なぜなら、お笑いというのは「絵」もさることながら「間」が大切なわけで。「間」というのは早回しではわかりませんわね。
また、当たり前のことではなく常識との「差異」がお笑いになるわけですから、そういう意味でも「お笑い」は、エントロピーが高く圧縮しにくいコンテンツということができるかと思います。
ちょっと考えると、お笑い番組よりは報道番組の方が「中身がある」ように思われますが、実は、情報理論的には逆なのかも知れません。
真夜中の大爆笑
するとどういうことになるかというと、必然的にテレビを視聴する時間のうち報道番組の比率は下がり、お笑い番組を見る時間が増えるわけです。(笑)
また、以前は、視聴率の高いバラエティ番組はゴールデンタイムに放送されていて、夜中にはイマイチな番組が多かったわけですが、今では、朝の3時でも、(その時間帯に放送している番組の中からではなく、過去数日間の番組の中から)最高におもしろい番組を見ることができます。
かくして、私は、仕事で煮詰まったり休憩したいときに、真夜中であれ早朝であれ、バラエティ番組を見て大爆笑するようになりました。
以前、末期ガン患者の方々を吉本新喜劇につれていったらNK細胞の活性が上がったと報道されてましたが。真偽のほどはよく存じませんし、私も別に花粉症を治そうと思ってお笑い番組を見ていたわけでもないんですが、ここ2〜3年で大きく変わった要因って他に無いからなあ。大爆笑していたおかげで免疫機能が活性化してきたんじゃないかと。
ちなみにうちの家族は、同じものを食って同じ家で生活しているので、ほとんどの条件が私とまったく同じなわけですが、テレビを見て大爆笑している私に冷ややかな視線を浴びせている点は異なります。で、引き続き花粉症で苦しんでるわけですが。
「投資家」さんからコメントいただきまして、

率直な感想です。最近、投資家目線ではどうでもいい議論が続いてます。
以前はもっとアナリスト的なBlogだったと記憶しているのですが・・・
ご多忙中だとは思いますが、早く戻って欲しいものです。

とのことですが、いえ、残念ながら、以前からこのブログはこういうヨタ話もするサイトでございまして、そんなアナリスト的なblogなんて大それたもんではございませんです、はい。
また、上述のように「差異」(お笑いを含む)が情報の価値を形成するのではないかと考えている次第でして、引き続きこんな感じで参りますので、よろしくお願いいたします。<(_ _)>
(ではまた。)

[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。

フジテレビ増配が意味する「落としどころ」

要旨
フジテレビが増配したのは、ライブドアとフジテレビが「株式交換」で落としどころを見つけるという可能性と関係あるか。(ないか。)
以下、本文
Nikkei Netの記事より。
http://www.nikkei.co.jp/news/main/20050315AT3L1505415032005.html

フジテレビ、今期大幅増配・株主に還元
 フジテレビジョンは15日、2005年3月期に期末配当4400円(前期末の配当は1400円)を実施し、年間配当を5000円(前期は2000円)にすると発表した。年間配当の従来計画は1200円だった。昨年5月に株式1株を2株にする株式分割の効力が発生していることを考えると、大幅な増配となる。フジテレビでは今期の配当は配当性向を50%メドに決定したとしており、来期以降も株主還元の充実を図っていく。〔NQN〕 (16:37)

うーん。株価を上げようということだとは思うんですが・・・。
今回の、ライブドアとフジテレビの「大人の落としどころ」として、「株式交換によるニッポン放送の子会社化」という手があるんじゃないかなと思っていたわけです。
つまり、ライブドアからニッポン放送株を買い取ろうにも、現金で買い取るとすると、TOBに応じてくれた株主さんへの義理として、(ただでさえ今でも株主代表訴訟されちゃったりしてるわけですから)、5,950円以上の価格では買い取れない。一方、以前推定したように、おそらく、ライブドアさんは6,200円くらいの平均取得コストになっているから、それ以上安く売るわけにはいかない。
ところが、株式交換となると交換比率が前面に出て、いくらで評価したのかという実額は比率の裏にちょっと隠れます。キャッシュで買い取るよりは、価格をボヤかせられる効果がある。(かも)
ライブドアや村上ファンド等の既存株主には、フジテレビ株がわたるわけですが、結果としてそのフジテレビ株が、もとのニッポン放送株の取得価額より高く売れればライブドアも納得できる可能性はあります。
既にフジテレビとライブドアでほとんどすべての株式を持っているわけですから、ライブドアだけでも説得できれば、株式交換は確実に実行できます。少数株主に負担をかけるスキームでもない。
つまり、
image002.gif
と、なってるのを、
image004.gif
と、こうするわけですが。
ここで、例えばTOBをやっていた時点でのTOB価格(5,950円)とフジテレビ株の株価の比率で株式交換をすることにすると、TOBをしていたときよりもフジテレビの株が上がっていれば、ライブドアが投下した資金を回収することも可能になってきます。
ソトーやユシロのときと同様、配当を上げれば株価は上がる可能性が高いわけですが、「それによって企業の本質的な価値が上がったとは言えない」とも言えなくはないですから、そのへんの理屈を付けて交換比率を決定すれば、TOBに応じてくれた株主さんにも一応スジは通る。(・・・かも・・・ちょっと苦しいですが・・・。)
フジテレビ株主の観点からは相対的に悪い交換比率にはなるわけですが、焦土作戦だなんだという話よりは損害は少なくて済むでしょうから、フジテレビ株主に対しても経営判断としてはアリなのかな、と。株なので、キャッシュよりはプレミアムが付くのが通常でしょうしね。
ま、単にフジテレビ自体が買収されないように株価を上げとこ、とか、今まで株主重視の姿勢があまりになかったので反省して、という単純な話かも知れません。
思いつきで恐縮ですが。
(ではまた。)

[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。

ニレコの「セキュリティ・プラン」(ポイズンピル条項)

本日の話題と言えば、やはり、ニレコさんの発表された「セキュリティ・プラン」(ポイズンピル条項)条項でしょう。
これを詳細に見ていきたいのですが、私、ひとには「確定申告はお早めに」と勧めておきながら私自身はこれから申告書を書くという状況でして、本日は夕方までそっちの作業等をさせていただきます。
ということで、ここはニレコさんの「セキュリティ・プラン」(ポイズンピル条項)検討エントリ建設予定地、ということで。(後で追記します。)
ニレコさん、プレスリリース:
企業価値最大化のための「セキュリティ・プラン」について
http://www.nireco.co.jp/jap/info/img/050315.pdf
さらっと拝見したところ、新株予約権を既存の株主に発行し、「手続開始要件」に該当した場合のみ、株主が保有する株式数の2倍の新株を取得できるようにするというもののようです。
手続開始要件とは、「ある者が特定株式保有者に該当したことを当社の取締役会がそのように認識し、公表したことをいう。」とし、特定株式保有者とは、ざっくり会社の議決権の20%を取得した買収者ということのもよう。
(取り急ぎ。)

[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。

あるべき防衛戦略策に向けた教訓

今回の地裁のニッポン放送の新株予約権発行差し止めの仮処分とこれまでの経緯を考えて、他の企業への教訓(法律的にというよりも、主にコーポレートガバナンスやIR的に)としては以下のような感じでしょうか。
本エントリは、他の企業で今回のような状況のときにどうしたらいいかの参考としてもらうためのものですので、「ライブドア派としての勝利宣言」とか「フジテレビ派(苦笑)としての反省点」と取っていただかないようにしていただけるとありがたいです。やはり、今後の大買収時代を迎えるにあたって、買収防衛が全否定されるのはまずいし、敵対的買収が全否定されるのもまずいわけで、そのへんのバランス感覚を考えて頂く一助になれば幸いです。
「株主のため」というスタンスを強調
全体として「株主のため」というスタンスがニッポン放送側に欠如していたのではないかと思います。
ニッポン放送やフジテレビ経営陣の記者会見では、印象として「自分たちの保身」「グループ絶対主義」といった要素が全面に出てしまってました。こうした態度が地裁の決定に影響したかどうかはともかく、一般の投資家や国民への印象は相当悪くなったのは事実。
買収防衛策を打ち出すにしても、「どちらが株主のために有利なのかを見極めるために時間を確保するためのものです」という点を強調したほうがよかったんじゃないかと思います。
第三者専門家の活用
今回の地裁の決定は、有利発行でない点については、「大和証券エスエムビーシー株式会社作成の説明資料等に明らかに不合理な点は認められないから」とあっさりと「OK」が出てしまったのでちょっとびっくり。
また、ライブドア側が提出した事業計画についても、「債権者(ライブドア)の事業計画に基づき第三者機関であるPwCアドバイザリー株式会社の行った分析にかかるものであることからすると」と、第三者の分析を評価しています。
オプション価値や事業計画の中身についてはいろいろツッコもうと思えばツッコめる余地もあったのではないかと思いますが、とにかく仮処分が出るまでの時間は短いですから、裁判官がその中で詳細なオプションの数式やら事業計画の前提を詳細に検討することはほぼ不可能なはず。今回も、裁判官は「プロセス」を見るべきで、企業の複雑な個別の状況の中身を完全に理解するなんてことを考えるべきではないというスタンスを取られたのかも知れません。(私はそれは正しいと思います。)
今後、高裁や最高裁がどう判断されるのかはよく存じませんが。
実際に買収者側の言い分を聞く
というわけで、やはり、ニッポン放送としては事前にライブドアの意見を聞いて事業計画を提出させ、それをさらに第三者に「ほんとにこの事業計画通りいくのか」と算定させた意見書を取っておくべきだったんじゃないでしょうか。(時間的に間に合ったかどうかはともかく。)
少なくとも、「ライブドアと交渉するつもりはない」ではなく、「ライブドアさんの事業計画もよく伺って、フジテレビと比べてどちらが株主のためになるのかをよく取締役会で検討したい。」くらいのことを言うべきだったのではないかと思います。
社外取締役がもっと前面に出てたら?
せっかく久保利弁護士や野中ともよさんといった社外取締役を4人も抱えていたわけですから、
「社内の取締役だけで判断すると株主のためにどちらがいいのか公平な判断ができないので、取締役会とは別に、社外取締役だけで今回の防衛策について検討をしてもらいました」
というように、もっと社外取締役を活用したほうがよかったと思います。
社外取締役としては「そんな火事場に引きずり出されるのはイヤだ」ということじゃなかったとは思いますが、まさに、それが社外取締役の役目でしょ?
「排除的」「抑圧的」な買収防衛策でないことを強調
今回の買収防衛スキームでは、「これでフジテレビの子会社になることが決定」と(やや勝ち誇ったようにも聞こえる)形で報道がなされてしまいましたが、ニッポン放送としては、ユノカル基準でいう「排除的」「抑圧的」な買収防衛策でないことをもっと強調したほうがよかったんじゃないでしょうか。
以前も書きましたが、
「この新株予約権は消却可能なものです。」とか、
「ライブドアさんは、違法な可能性がある立会外取引によって株を取得されました。このスキームはそうした状況にいったんストップをかけ、株主のみなさんに、どちらが本当に有利なのかを判断していただくための時間を確保するためのものであって、フジテレビの子会社になることを決定づけるものではありません。」
くらいのことを言ってもよかったんじゃないかと思いますが。(交渉としては弱気すぎ?)
スキームにもうひと工夫は?
単なる新株予約権だったら、大量に新株が発行されてフジテレビの子会社になって「The End」という感じが強くなってしまうので、もうちょっとスキームに「排除的」「抑圧的」でないというニュアンスを加える方法は無かったのかな?とも思いますが。
例えば、普通株でなく、消却可能な優先株を購入できる新株予約権みたいなものだとおもしろいですが(単なる思いつきなので税務上等のいろんな角度からの検討してないですが)、いずれにせよこれは株主総会決議で定款変更しないとできないですから今回ちょっと使えません。
ニッポン放送とフジテレビの二者契約で、「新株を発行した場合、別途、慎重に検討してライブドアに売った方がいいということになった場合には、新株を消却する」というような決まりをしておいたらどうかとも考えたのですが、新株の行使価格+新株予約権の発行価額の合計額で消却するのが難しそうです。
そもそもフジテレビは引き受けるという機関決定をしてなかったわけですから、契約も結べるわけないですわな。
ま、弁護士さんが徹夜でいろいろ考えられたのでしょうから、スキームとしてはこれ以上どうしようもなかったのかも知れませんが、
例えば、フジテレビとしても、
「TOBが終了しだい、新株予約権を引き受けるかどうかを慎重に検討する」
「その場合、ニッポン放送の株主にとってどちらが有利なのかのニッポン放送取締役会の判断を尊重して、今後のスキームの変更に応じる。」
というような「精神論」だけでも取締役会決議等で明確にしておいた方が、(対裁判所はともかく)、少なくとも投資家にはウケがよかったような気がします。
(取り急ぎ。)

[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。

「ごくせん」と証券取引法

「ごくせん」も、いよいよ次回が最終回。前々回すでに最終回まで2回を残して視聴率が30%を超したというオバケ番組ですが、昨日の視聴率はどうだったんでしょうか。
コンプライアンス的観点から見ると、「ごくせん」はトンデモない番組なわけです。生徒が校舎の形状は変更するわ、家宅侵入はするわ、毎週 暴力沙汰はおこすわと、法令違反のオンパレードなわけで。
一方、最近の社会では、インターネットの発達や、証取法や商法といった法律の高度化で、どんどん「ルールの抽象化」が進んでおります。そういった経済の根幹となる法律は、経済学的・ゲーム理論的に社会全体の厚生が高まるようなルールにしないといけないわけですが、それが「人間の素直な感覚」と一致するかというと、これは必ずしも一致しないわけです。というか、そうした「バーチャルな」ルールは、人間の素直な感覚からは、大きく乖離してきているんじゃないでしょうか。
例えば、
(以下、男の声で読むとコワいので、仲間由紀恵さんの声でお読みください。)
インサイダー取引について:
「株が上がるとわかっていながら、私に教えてくれねえなんて、水くせえんじゃねえのか?」
証券会社の損失補填について:
「てめえが勧めた株でこちとら損してるんだ。自分がかけた迷惑は償いましょうってのが人の道ってもんじゃねえのかい?」
経営陣に対するガバナンスのあり方について:
「私は社員の信任を集めた上で株主総会で選任いただいて取締役になり、社長をやらせていただいております。ここは一つ、私を信用して、全面的にお任せいただけないでしょうか。」
これらはどれも「人間としてわかりやすいお話」であって、それを「インサイダー取引は違法」だとか「損失補填は禁止」とか「社外取締役を導入」だ、などという話は、「世知辛ぇ話」であって直感的にはピンと来ない。だけど、そういうルールにしないと、資本市場がうまく回らなくなるから、そういうルールができあがってきたわけですし、上記のようなことについては、それでもまあ徐々に理解は浸透しつつあるわけです。
ところがこれが、「発行済株式数の3分の1超を立会外取引で取得していいのか悪いのか」てな話となると、大半の人にとってはもう量子力学と同じカテゴリーの話であって、日常的な観念の延長からは全く善悪の推察は不可能かと。
「ごくせん」がこれだけ支持されているというのも、日頃多くの人がそうしたルールが抽象化する社会の中で直感と理性が乖離していくストレスを感じているところに、仲間由紀恵が「人として本来あるべき姿」をズバっと提示してくれるからじゃないでしょうか。
少なくとも私は毎回、クライマックスのシーンで仲間由紀恵が、
「それが人の道ってもんじゃねえのか!」
と啖呵を切るところで、
「そうだ、その通り!あんたのおっしゃるとおりだ!」と涙ボロボロ流して膝を叩きながら見ております。
(ではまた。)

[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。