ゲートキーパー業務

従来の銀行中心の間接金融では、調達も銀行、審査も銀行、リスクを取るのも銀行と、資金供給に必要なあらゆる機能をすべて銀行自前で行ってきたわけです。
これに対して、資本市場というのは、証券会社が全部1社でやるのではなく、リスクを取るのは投資家、情報はアナリスト、情報サービス会社や格付機関等が提供するなど、いろんな「エージェント」が登場して機能を分担するところが特色。
みなさん、日本は昔から資本主義の国だと思ってらっしゃるかも知れませんが、製造業や流通業はともかく、こと肝心の資本の流れについては、日本はいわば「(世界一成功した)共産主義の国」だったという見方のほうが的を射ているんじゃないでしょうか。おかげで世界一貧富の格差の少ない平等な国になった反面、そうした政府や政府のコントロール下にある銀行を中心とする「計画経済的」なやり方は、複雑化する社会にはついていけなかったわけです。
バブル崩壊後1990年代後半から証券化の進展や証券手数料自由化、プライベートエクイティやベンチャーファイアンスの活発化等、日本も徐々に「資本主義」への転換が進んで来ましたが、例えば、アメリカのプライベートエクイティやベンチャーキャピタルが、個人のキャラに大きく依存した主体であるのに対し、日本の大手のベンチャーキャピタルは軒並み大手金融機関の関連会社であるなど、海外とは違った「生態系」が成立しているのも事実。未だに、個人金融資産の大半は無リスクの「預金」の形で銀行や郵貯を経由して供給されているわけですから、当然といえば当然ではありますが。
ゲートキーパーとは
こうした中で、日本で一般にはあまり知られていない機能の一つとして「ゲートキーパー業務」があるのではないかと思います。これは、年金等の機関投資家に対しどのファンドに投資をすればいいかをアドバイスする機能。
なぜ日本にゲートキーパーがいない(目立たない)のか
(私の仮説ですが)、現在の日本はゲートキーパーが食っていけるほどまだファンドを経由した資金のボリュームが存在しないんでしょう。ゲートキーパーが(ほとんど)存在しないので大規模にファンドに資金が流入しないという「卵とニワトリ」も言えますが、1999年ごろのことを思い返していただければおわかりのように、ただ資金だけが流入しても、投資する対象や資金仲介者であるファンド等の実態が伴わないと「バブル」になるだけです。
やはり、まだ「それだけの市場規模がない」と考える方が適切かなと。
また、今はファンドの数も少ないので、そうしたゲートキーパーのような情報仲介者が必要とされないのかも知れませんね。ファンドのコミュニティの中にいらっしゃる方々はみなさんお知り合いなので。
またちゃんとトラックレコードがある方がやってらっしゃる「ちゃんとした」ファンドは概ね資金集めに成功されているんじゃないかと思いますので、資金集めに苦労しているのは「イケてない」ファンドということなのかも知れません。
「分析するほど情報がない」ということもあるかと。
PEやVCとは違いますが、映画の領域でもハリウッドでは監督やテーマで膨大なデータが存在しているので、どこに投資するとどれくらいのリスクでどのくらいのリターンが見込めそうかということが(もっともらしく)分析できるけど日本の映画市場ではそれができない。
日本でも、スタジオジブリやプロダクション I.G作品なら、「かなりの確率で当たりまっせ」ということが合理的に説明もできると思うのですが、そこはもう「資金はいりまへん」ということで、昔から投資されている方々(TさんとかNさんとかDさんとかMさんとか)しか投資できない世界になっており、そこに資金を導入するビジネスなんぞ成り立たないのとある意味似た構造なのかも知れません。「スタジオジブリの映画に投資したら儲かる可能性大でっせ」なんてことは、しろうとでも言えますしね。
引き続き、ゲートキーパーについては(個人的に)勉強していきたいと思いますが、以下、「ゲートキーパー」等のキーワードでググッたリンクを掲げておきます。
参考文献
「ゲートキーパーの欧米における実態と日本における可能性」
産業基盤整備基金(平成14年3月)
http://www.smrj.go.jp/isif/hoho/jyoho/doc/gate_h13.doc
三菱総研さんの作。107ページの大作で、Web上で入手できるものとしては、これが一番詳しそうです。(「生wordファイル」になります。)
(関連?図表)
http://www.smrj.go.jp/jasmec/venture/report_h13/df/pdf/df03.pdf
エー・アイ・キャピタル株式会社
三菱商事さん系の会社。日本でゲートキーパー業務をうたっている数少ない会社の一つ。
総合商社さんの「立ち位置」は、ゲートキーパー業務には向いてるかも知れませんね。
「本邦初!米パスウエイ社と提携し、プライベートエクイティファンドへの投資一任・助言業務を開始」東京海上アセットマネジメント投信株式会社
http://www.tokiomarine-nichido.co.jp/j0201/pdf/021129.pdf
2002年とちょっと古いリリースですが。
どうも三菱系のプレイヤーが多いような。
資金調達・投資制度についての課題(平成14年4月26日経済産業省)http://www.meti.go.jp/report/downloadfiles/g20426lj.pdf
P35「米国との大きな違いとして、ゲートキーパーなどの資金の出し手に対する資金運用の助言・ファンドのパフォーマンスをウォッチして選別する主体の有無が指摘される。」
という部分だけですが。
三菱総合研究所「2004年 日本バイアウト市場関係者ディレクトリー」販売のご案内
http://www.mri.co.jp/REPORT/OTHER/2004/20040617_imu01.htmlここでは、ゲートキーパーとして、前出のエー・アイ・キャピタル、東京海上アセットマネジメント投信のほか、「WestLB証券会社 東京支店」というのがあげられています。
(ディレクトリーの内容は不明。)
米国のベンチャーキャピタル − 通説と本質 −(小野 正人)
http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-PaloAlto/8285/usvc2.htm
米国のゲートキーパーについて実名がいくつか掲げられています。
かいせつ「ベンチャーキャピタルファンドなるものについて」(小野 正人)
http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-PaloAlto/8285/fund-2.html
G.W. Fenn, N.Liang and S. Prowse, The Economics of the Private Equity Market, Staff Paper of Governors of the Federal Reserve System, 1995」という、ゲートキーパーの実態について触れているFRBのレポートを紹介。
大和総研「年金運用受託者責任とファンド・オブ・ファンズ投資」 資産運用評価本部長 飛田 公治
http://www.dir.co.jp/consulting/report/library/viewpoint/0020.html
ニッセイ基礎研究所「オルタナティブ投資(代替投資)の基礎知識− ヘッジファンド・ブームのかげにリスクあり−」(金融研究部門 中窪 文男)
http://www.nli-research.co.jp/doc/eco0208b.pdf
オルタナティブ投資入門—ヘッジファンドのすべて
山内 英貴 (著) 東洋経済新報社
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4492653104/
(読んでませんが、Amazonでは☆5つですね。)
運用難時代を切り拓くオルタナティブ投資
大塚 明生 (著), 神谷 智 (著) 金融財政事情研究会
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4322102921/
(これも読んでませんが、同☆5つ。)

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ニッポン放送株の潜水艦戦(その4)

昨日までは、大和さんが法律に違反しないようにスキームを組んだとしたら、どのようなスキームの流れだったんだろうというのをいろいろ推測してみたわけですが、結論として、新聞等の報道を重ね合わせると、やっぱり、信託受益権を売買したというのが一番つじつまが合うかなあというところに落ち着いてきたわけです。
ニッポン放送が「知らなかった」場合
今度はニッポン放送の側から見たらどうでしょうか。
もし、フジテレビとニッポン放送の相談にもいろいろ乗っている大和さんが、両社に断りもなく黙って鹿内家と8%もの株を売買したのだとしたら、法律に触れるかどうかはともかく、ちょっとナニですよね。
ニッポン放送が「知っていた」場合
一方、大和さんはフジテレビやニッポン放送の意を汲んで、鹿内家から信託受益権なり株なりを譲り受けたとしたら、ニッポン放送の開示としてはどうすれば良かったんでしょうか?
これ、信託にどういう契約が付帯しているかにもよりますが、もし、やはり昨年5月に信託受益権は売買されていて、実質的に鹿内家にニッポン放送株が戻ることはないという契約になっており、もしニッポン放送がそれを知っていたとすると、たとえ株主名簿や大量保有報告書では昨年5月時点では鹿内家が株主になっていたとしても、ニッポン放送は大株主の状況の注記などで、「鹿内家所有の株式は実質的には大和証券SMBCが取得しています」というのを開示しないといけなかったんじゃないでしょうか?
もし鹿内家−大和間の取引の実態を知ってたら、昨年暮れに、あれだけ金融庁や東証から「株主関係についての開示をちゃんと見直せ」と言われて、訂正報告書を山のように出したにもかかわらず、そこについて一言も触れないというのは、許されないんじゃないでしょうか。
だって、コクドの名義になってる株が実質は堤家のものだと西武鉄道が知っていたというのとまったく同じ性質の話ですよね?
昨日までの、「証券会社が守るべき法律の話」というのは、一般の方はほとんどご興味がなかったのではないかと思いますが、「放送局の有価証券報告書の”虚偽”記載」という話になると、マスコミさんもがぜん目がキラーンと光るかも知れません。(結構、株主関係で訂正報告書を提出したマスコミって多いので、お互いにそこの傷には触れないという暗黙の了解ができあがっているかも知れませんが。[苦笑])
以上もあくまでニッポン放送さんが実質的に売買されたのを知っていたらとしたら、のお話ですので念のため。
残された謎
信託受益権を昨年の5月に売買して取得していたとすると、なぜ1月4日に信託契約を解除して大和さんは株券を取得しちゃったんでしょうか。もし、この信託受益権を使ったのが、秘密裏に株式を移動するための手段だったとすると、せっかくここまで引っ張ったんだからTOB発表後まで秘密のままで引っ張るとか、TOBにも信託勘定として応募するとか、もっとこっそりやる方法はあったんじゃないかと思いますが。
1月4日に取得して1月7日に発表というのも未だにナゾですよね。発表を1月7日にしたかったのなら、1月7日に取得して1月7日に発表してもよかったのに、なぜ1月4日だったんでしょうか。
いずれにせよ、今回の一連の流れは、「あちらを立てればこちらが立たず」で、関係者全員が無傷というわけにはいかない感じもします。
「こういう解釈をすれば、全員、ピカピカの真っ白ですよ」というアイデアがありましたら、どなたかご教授いただければ幸いです。
(ではまた。)

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ニッポン放送株の潜水艦戦(その3)

ひやしあめさんからまたコメントいただきました。

で、勝手な想像ですが、鹿内氏は信託設定する際に、議決権だけは自分に残しておいたんじゃないですかねぇ。

なるほど、これはあるかも知れませんね。
バラバラ譲渡説
つまり、ニッポン放送株に係わる経済的な権利と議決権をバラバラに譲渡した、ということですね。
大量保有報告書によると、昨年5月に鹿内氏は、「保有有価証券を受益者のために管理する目的をもって信託銀行に信託」してますが、このとき(またはこのときから今年の1月4日までのどこかで)、信託受益権(経済的な権利の部分)を大和さんに譲渡。
ただ、その信託と鹿内氏の間で議決権の行使に関しては鹿内氏が行う旨の契約が結ばれていた、と。
で、1月4日にその信託契約を解除したので、受益権を持っている大和さんに株式が交付された、という説ですね。
「保有者」は誰か
ここで大量保有報告書で開示する「保有者」とは誰なのかが問題になるわけですが、報告書のそもそもの目的や条文からして、経済的利益を誰が享受しているかではなく、「議決権を誰が持っているか」に注目して判断するということではないかと思われます。

第二十七条の二十三 第1項�
第一項の保有者には、自己又は他人(仮設人を含む。)の名義をもつて株券等を所有する者(売買その他の契約に基づき株券等の引渡請求権を有する者その他これに準ずる者として政令で定める者を含む。)のほか、次に掲げる者を含むものとする。ただし、第一号に掲げる者については、同号に規定する権限を有することを知つた日において、当該権限を有することを知つた株券(株券に係る権利を表示する第二条第一項第十号の三に掲げる有価証券その他の内閣府令で定める有価証券を含む。以下この項及び次条において同じ。)に限り、保有者となつたものとみなす。
一 金銭の信託契約その他の契約又は法律の規定に基づき、株券の発行者である会社の株主としての議決権を行使することができる権限又は当該議決権の行使について指図を行うことができる権限を有する者(次号に該当する者を除く。)であつて、当該会社の事業活動を支配する目的を有する者
二 投資一任契約(有価証券に係る投資顧問業の規制等に関する法律(昭和六十一年法律第七十四号)第二条第四項に規定する投資一任契約をいう。)その他の契約又は法律の規定に基づき、株券等に投資をするのに必要な権限を有する者

投資一任契約でも、実質的な受益者ではなく、運用している人が開示されるわけです。「村上ファンド」でも、実際のリターンは村上ファンドの出資者に行くわけですが、その投資家の名前は開示されません。
その解釈でいいとすると、「経済的権利」だけを譲渡しても、議決権が残っていれば、まだ自分が「保有」してるものとして開示するということになるということでしょうね。
鹿内家はちゃんと昨年5月に信託設定したことを開示してます。ので、本来、そこで「なんのために信託設定したんだ?」「何かニッポン放送の株主構成に大きな変化があるんじゃないのか?」と、いぶかしがらないといけなかったわけですね。
教訓その1:「大株主が株式を信託したら、実質的に譲渡したんじゃないか(これからする気なんじゃないか)と怪しむこと。」
譲渡所得に対する税率は?
さて、譲渡や議決権はそうだったとしても、税金の問題というのもあります。
ご案内のとおり、上場株の譲渡所得の税率は分離課税で10%ですが、株とか不動産以外の普通のモノを譲渡した場合、総合課税になって最高50%もの税率になってきます。
今回、鹿内家から譲渡されたニッポン放送株は100億円を超えますので、税率がどうなるかは極めて重要。税率によって、手取りが何十億円も違ってくるわけですから。
租税特別措置法では、この分離課税となる「株式等」の範囲を以下のように定めています。

租税特別措置法第三十七条の十
3 前二項に規定する株式等とは、次に掲げるもの(外国法人に係るものを含むものとし、ゴルフ場その他の施設の利用に関する権利に類するものとして政令で定める株式又は出資者の持分を除く。)をいう。
一 株式(株式の引受けによる権利、新株の引受権及び新株予約権を含む。)
二 特別の法律により設立された法人の出資者の持分、合名会社、合資会社又は有限会社の社員の持分、法人税法第二条第七号に規定する協同組合等の組合員又は会員の持分その他法人の出資者の持分(第四号に掲げるものを除く。)
三 新株予約権付社債(資産の流動化に関する法律第百十三条の二第一項に規定する転換特定社債及び同法第百十三条の四第一項に規定する新優先出資引受権付特定社債を含む。)
四 協同組織金融機関の優先出資に関する法律(平成五年法律第四十四号)に規定する優先出資(優先出資の引受けによる権利及び優先出資を引き受けることができる権利を含む。)及び資産の流動化に関する法律第二条第五項に規定する優先出資(優先出資の引受けによる権利及び同法第五条第一項第二号ニ(2)に規定する引受権並びに優先出資に類する出資として政令で定めるものを含む。)
五 公社債投資信託以外の証券投資信託(第五項において「株式等証券投資信託」という。)の受益証券及び証券投資信託以外の投資信託で公社債等運用投資信託に該当しないもの(同項において「非公社債等投資信託」という。)の受益証券
六 第八条の二第一項第二号に規定する社債的受益証券以外の特定目的信託の受益証券

今回の信託は、これらには該当しないと考えられますので、「じゃ、半分は税金でもってかれちゃうの?」と思うわけですが・・・
所得税法第十三条(信託財産に係る収入及び支出の帰属)で、「信託財産に帰せられる収入及び支出については、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める者がその信託財産を有するものとみなして、この法律の規定を適用する。」と「信託導管理論」に基づく規定がありますが、これが受益権自体の譲渡にも適用されるのかどうか。
土地信託に関する通達
実は、土地に関しては通達が出てまして、信託受益権を譲渡した場合には、その信託の目的物を譲渡したものとみなす、とはっきり書いてあります。

土地信託に関する所得税、法人税並びに相続税及び贈与税の取扱いについて
昭和61年7月9日
http://www.nta.go.jp/category/tutatu/kobetu/houzin/853/00.htm

ところが上場株を信託した信託受益権を譲渡したらどうなるかについては通達が見あたらないんですね。土地なら、信託にしたほうが譲渡の際の登録免許税が安くなるなど明らかなメリットがありますが、上場株の譲渡はそんなにコストのかかるもんじゃないので、わざわざ信託にする人はあまりいないでしょうからね。
土地がそうなら上場株でも同じ扱いのはずじゃないか、という説もあるようですが、通達はあくまで「土地信託」となってますので、そこはリスクはあるわけです。上場株をそのまま譲渡したら明らかに税率は10%なのに、分離課税でもいいけど税率は20%になるよというだけでも、10億円以上手取りが違ってきてしまいますから。
そういえばロンドンに引っ越されてました
そこまで考えて「はっ」と気づきましたが。
以前のエントリーにも書きましたが、鹿内氏は、昨年の5月の報告書を出したときには(確か)もうロンドンに引っ越されていたんですね。イギリスの税法がどうなっているかよく存じませんが、日本にいるより10億円単位で手取りが増えるのであれば、私だってロンドンに1年くらい移住してもいいです。(笑)
うーん。お金持ちの世界はすごい・・・。
上場会社の支配権移動をめぐる信託受益権の活用
ちなみに、もし、大量保有報告書の開示が上記の仮定のとおりでいいとすると、この信託受益権による譲渡のスキームは、国内の法人にはより適用しやすいことになります。
つまり、生の株で譲渡しようと信託で包んでリボンを付けて譲渡しようと、課税される法人税率は変わりませんからね。
信託を使われると、表面上の株主に変化がないので安心していたら、実は、いつの間にか知らない人に実質的な権利が移って買収の準備が進められていた、という恐ろしい事態も考えられるわけです。
同じく、ひやしあめさんのコメントでご紹介いただいたホームページに、「あさひ・狛法律事務所」の川東憲治さんという弁護士の方が「上場会社の支配権移動をめぐる信託受益権の活用」という発表をされていることが載ってます。(2004年5月26日発表)
http://www.alo.jp/practice/practice02_1g.html
偶然のいたずらか?、信託設定が記載された鹿内家の大量保有報告書が提出される前日ですねー。
(偶然なんですかねー?それとも、まさに、この方が担当されたんでしょうか?)
(ではまた。)

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訂正報告書を出しても削除してもらえない鹿内家の悲劇

昨日、東証で大量保有報告書を閲覧した結果の続き、です。
22日のエントリーで引用した、ニッポン放送の訂正報告書には、鹿内夫婦からお子さん三名への譲渡の記載が実名で行われており、
「お子さん達は、5%以下しか取得していないのに、なんでお子さんの情報まで開示されてるのかしらん??」
と疑問に思ったのですが、
やはりというか、大量保有報告書をたぐっていくと、平成16年3月18日付で鹿内家側から
「(子供)3名分の報告は削除」
という旨の訂正報告書が出てるんですね。
ところが、ニッポン放送側は、昨年の金融庁・東証の有価証券報告書見直し要請を受けた年末12月15日の訂正報告書で、無情にも、この3名の実名や株式数を開示しちゃってるんです。
鹿内家側は昨年3月に訂正しているので、時間的には十分反映可能だったわけですが、西武鉄道問題で実質株主が非常にセンシティブな昨今、(しかも元オーナー一族だし)、ニッポン放送側でわかっちゃったものについては開示しないとヤバイということで、訂正されている持ち株比率の低い3名についてもあえて実名で開示しちゃった、ということかも知れません。
元はと言えば、報告する必要のない子供の実名を報告した鹿内家側が悪いと言われればそれまでですが、おかげで、開示資料に実名や住所が永久に残っちゃうとしたら、ちょっとかわいそう。
(minoriさんのご指摘で一部訂正。EDINET等、法定の開示については期限があります。)
わたしも、22日24日のエントリーで、そのまま実名で引用してたんですが、ということで、本日、当該一覧表の実名部分を「伏せ字」に修正しておきました。
(「やさし〜い」という、私の全国の女子高生ファンの声が聞こえてくるようです。)

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ニッポン放送株の潜水艦戦(その2)

本日、昼休み時に茅場町を通ったので、東証に行ってニッポン放送の大量保有報告書を閲覧してきました。大量保有報告書は有価証券報告書と違って、必ずしもパソコンが使えるとは限らない人が提出するものだからでしょうか。EDINETで開示してないんですよね。

しかし、11時半から12時半まで昼休みで午後4時半で閲覧終わりってのは、ふつうの人がちょっと情報を閲覧しようというのには激しく不向きですね。最近は区役所の窓口ですら昼休みもやってますが。
入り口で金属探知器を当てられたり、ゲートをくぐったり、カバンの中身を見られるというのは、ま、「東京にいながら、海外旅行に行くみた〜い」と思えば楽しいかも。
実際、おじいちゃんが2名ほどいらっしゃっただけで、東京証券会館の証券業協会の閲覧コーナーより、はるかにすいてました。

で、何がわかったかというと・・・
大和証券SMBCからの大量保有報告書は、なし
先日、「ニッポン放送株式取得とインサイダー取引」でお伝えした1月4日のニッポン放送株の「取得」について、大和証券SMBCさんからの大量保有報告書は提出されてませんでした。
証券取引法を良く読むと、

第二十七条の二十六
 証券会社、銀行、信託会社その他の内閣府令で定める者(第三項に規定する基準日を内閣総理大臣に届け出た者に限る。)が保有する株券等で当該株券等の発行者である会社の事業活動を支配することを保有の目的としないもの(株券等保有割合が内閣府令で定める数を超えた場合及び保有の態様その他の事情を勘案して内閣府令で定める場合を除く。)又は国、地方公共団体その他の内閣府令で定める者(第三項に規定する基準日を内閣総理大臣に届け出た者に限る。)が保有する株券等(以下この条において「特例対象株券等」という。)に係る大量保有報告書は、第二十七条の二十三第一項本文の規定にかかわらず、株券等保有割合が初めて百分の五を超えることとなつた基準日における当該株券等の保有状況に関する事項で内閣府令で定めるものを記載したものを、内閣府令で定めるところにより、当該基準日の属する月の翌月十五日までに、内閣総理大臣に提出しなければならない。

となってまして、証券会社の場合、一般の人のように保有割合が5%を越えた日から5日以内(休日含まず)ではなく、基準日(追記2/17:3ヶ月毎で会社が決めて届け出ている)の翌月15日までに大量保有報告書を提出すればいいのですが(ただし10%以下の場合。株券等の大量保有の状況の開示に関する内閣府令第十二条)、
一昨日書きましたとおり、「自己勘定で保有」ということになると、「法人関係情報を用いた自己勘定での売買」ということになってまずいんじゃないでしょうか。
ということで、以下、自己勘定での売買ではないと仮定して話を進めます。
鹿内家側からの報告書
鹿内家からの変更報告書は、ちゃんと(連休が3日間はさまって)ギリギリの12日に関東財務局に提出されてます。
鹿内家からの報告書の「当該株券等の発行者の発行する株券等に関する最近60日間の取得又は処分の状況(短期大量譲渡に該当する場合)」には、「譲渡の相手方」として「大和証券SMBC」と明記されています。
ただ、その処分の状況の「単価」の欄なんですが、「信託終了に伴う株式の交付」と書いてあるんですね。(ひやしあめさんのコメントにも関連の日経金融新聞の記事のご紹介がありましたが。)
やはり鹿内家が提出した昔(平成16年5月27日付)の変更報告書によると、「当該株券等の関する担保契約等重要な契約」の欄に、

契約の種類:有価証券管理信託
契約者:鹿内宏明及び鹿内厚子(委託者)
契約の内容:保有有価証券を受益者のために管理する目的をもって信託銀行(受託者)に信託したもの

と記載がありますので、その信託銀行の信託勘定から株券を返してもらったということだと思いますが、それが大和証券SMBCに株を譲渡することには直結しないわけですし、そういったことが、「単価」の欄に書いてあるというのも、ちょっとヘン。
「この1月4日の時点では単価が定まってないので書けなかった」、ということかも知れませんね。
1月4日に通常の株式の譲渡をしたと考えた場合
以下、ジャスト推測ですが。
大和さんは1月7日に(誰からかは言わずに)株を「取得」したことをプレスリリースしている。
12日には鹿内家から変更報告書の提出があり、そこには単価が記載されていない・・・。
これらの事実を理解するには、(あくまで一つの仮説として)、以下のような推測が成り立つんじゃないでしょうか?
まず、このフジテレビによるニッポン放送株の公開買付(TOB)を理解するにあたっては、単にフジテレビがニッポン放送の50%超の株式を取得したいというフィナンシャルなお話だけではなく、「鹿内家がフジテレビおよびニッポン放送の支配から完全に退く」という「象徴的イベント」であるという点が非常に重要なんじゃないでしょうか。
ということで、フジテレビとしては「集まらなかったら撤回すればいいから、気楽にTOBかけちゃお」というわけにはいかない。TOBの本格的な準備に入るにあたって鹿内家から協力の意向が示されていたにしても、万が一にも後で前言を翻されては絶対まずい。
このため、フジテレビやニッポン放送側としては、後で撤回ができないように、事前に株式を押さえておく必要があった。
(追記:2/17、以上まではいいと思うんですが、以下の推測[保護預かり説]は結果としてはハズレの可能性が高いかと思います。)
一方、鹿内家側としては、これからTOBで値段がつり上がる可能性があるのに、先にいいかげんな価格でフジテレビに株式を売却してしまうのは得策ではない。
「預けておく」にしても、フジテレビは直接の当事者なので、ちょっと怖い。
そこでだれか第三者に「エスクロー」的に株を預かっておいてもらうニーズがあったと考えられるわけですが、この株式の移動はセンシティブな情報なので、まったくの第三者に預けるというのも「ちょっとなー」、と。
証券会社の行為規制等に関する内閣府令第4条第9号で、今後TOBがあるぞという「法人関係情報」を提供して大和証券SMBC側から株の売買の媒介、取次ぎ、代理等を勧誘するのは禁止されてますので、「あくまで鹿内家またはフジテレビ等側から」大和証券SMBCに、「TOBの時まで株を預かっておいてくれ」という依頼があったんではないか、とすると、一つスジは通るかと思います。
そういう趣旨だとすると、おそらく、鹿内家が大和さんに株を渡すときの契約書は、
「TOBがあった場合には応募します」
「TOBが成立しなかったら返してください」
というような、「売却予約」または「条件注文」的内容だったんじゃないでしょうか。
で問題は、その場合、大量保有報告書上の開示をどうするか、です。
株券の占有は大和証券SMBC側に移ってますし、上記の趣旨のとおりほとんど鹿内家側に株式が戻ってくる可能性がないのであれば、保守的な観点から考えれば、鹿内家としては「保有」では無くなったとして速やかに開示しなければならない。
一方、大和証券SMBC側は、あくまで「保護預かり」のつもりだったとすると、大量保有報告書を出すというのはおかしい。(証券会社がお客さんからの預かってるだけの資産の大量保有報告書を出さなきゃいけないなんてことはないわけで。)
「一任勘定」取引なら、もしかして来月15日に大和さんから大量保有報告書が出てくるのかも知れませんが(証取法第27条の23第3項第2号)、鹿内家側としては大和さんに「一任」するかなあ?
22日のエントリーで鹿内夫妻(?)がお子さん(?)三名に株を譲渡したというニッポン放送の訂正報告書を引用しましたが、鹿内家の報告書はそのお子さんのうちの1名が提出者となって、ロンドンにいるご両親のかわりに申請を行ってます。
この提出者の方の勤務先や連絡先が某大手監査法人になってますので、当然、開示はご専門でしょうし、商売柄、ものごとを「保守的」に考えられるでしょうから、1月4日に「処分」したとして開示に踏み切ろうとした。
大和さん側では、単なる「保護預かり」のつもりでいたし、コンプラ上自己勘定で取得できるわけもないと考えていたが、年明け以降株価もなんか上がり始めちゃったし、鹿内家側が大量保有の変更報告書を提出すると聞いて、後で誤解を受けてもなんなので、あわてて1月7日にプレスリリースすることにした。(または、週の途中で相場に影響が出ないように配慮して、はじめからそういう段取りになっていた。)
ただし、大和さんとしては「TOBを予定してますので預かってます」とは口が裂けても言えない。ということで、プレスリリース上の文言は「購入」や「預かり」ではなく「取得」にした、と。鹿内家側が株を手放したとわかれば、「何か大きな動きがある」というのはわかっちゃうでしょうから、鹿内家側の開示も法律上最も遅い1月12日に報告してもらった。これなら12日までは誰から取得したのかわかりません。
で、13日の日経朝刊には(記者がまだ大量保有報告書の現物を見ないうちに書いた?)「鹿内家が手放した」という記事が載り、

ニッポン放株、鹿内氏一族が売却——大和証券SMBC、「時機みて放出」
 フジサンケイグループ実質創業者の一族でかつて同グループ議長を務めた鹿内宏明氏らが、ニッポン放送株式を手放したことが十二日分かった。近く大量保有報告書が提出される見通し。これらの株式は既に大和証券SMBCが取得を発表しており、今後は第三者に売却されることになる。(以下略)

また、14日の朝刊には比率まで言及した記事が載りました。

ニッポン放送株、鹿内氏一族、保有0.01%に
 ニッポン放送の大株主だった鹿内宏明氏ら一族の同社に対する持ち株比率が今月四日時点で八・〇一%から〇・〇一%になった。十四日に開示された大量保有報告書で明らかになった。同氏はかつてフジサンケイグループ議長に就き、一九九二年に議長を解任されて現在は経営に携わっていないが、大株主からも姿を消すことになる。(以下略)

ここで、大量保有報告書を見た記者は、単価の記載がないですが、いくらで売買されたんですか?どういう性質の「取得」なんですか、とか当事者にツッコんでもよかったようなもんですが、この14日の記事はやけにあっさりしてますね。
どなたかから「これこれこういう事情なので、TOB発表まではそっとしといて」というリークでもあったんでしょうか。
(追記1)信託受益権売買説
読者の方から、「鹿内家と大和証券SMBCは、信託受益権を売買したんじゃないでしょうか?」というご意見をいただきました。
「ひやしあめ」さんのコメントにあった1月24日の日経金融新聞20面の「フジテレビ、『高価』な防衛策——損得勘定、投資銀など恩恵」という記事をよく読んでみると、大和さんがいろいろ「おいしい」思いをした、という記述の後に、

 しかも防戦買いに協力する形で、フジサンケイGのオーナー一族が保有するニッポン放株(発行済み株式の八%分)を信託設定した証券を昨年五月末に購入。自ら代理人を務めるTOBに応ずれば、推計で十五億円の利益。株価上昇を狙うニッポン放株の保有者と、ニッポン放をなるべく安く買いたいフジテレビのアドバイザーという二つの顔。証券取引法違反のリスクもあった利益相反の果実は大きく、フジテレビ防衛から得られた収益合計は推計約百二十億円とM&A社に匹敵する。

と書いてあります。
(追記:2/17、以上までもいいと思うんですが、以下の推測[信託受益権を今年1月に売買した説]は結果としてはハズレの可能性が高いかと思います。)
しかし、鹿内家が昨年5月に出した大量保有報告書では、鹿内家が実質保有者であるとして株式に有価証券管理信託契約が設定されているという報告をしてますし。
昨年5月にすでに信託受益権を大和さんと売買していたなら昨年の6月15日までに大和さんが大量保有報告書を提出してないといけないですし、鹿内家が1月12日付で変更報告書を出すのもおかしい。
その1月12日付変更報告書の保有目的に、「今般、有価証券管理信託終了に伴い株式を交付した」とあるのもあまりうまく整合しません。
大和さんの、「本年1月4日付で株式会社ニッポン放送の株式を取得いたしました。」というコメントは、信託契約を解除して取得しましたって意味なんでしょうか?
昨年5月に取得というのは、記者さんが関係者に取材してコメントをとった記事なんでしょうか?それとも大量保有報告書の記載から記者さんが推測したことなんでしょうか。
また、1月4日に信託受益権を売買したのだとしたら、「法人関係情報を用いた自己勘定での売買」にあたっちゃいます。・・・と思いましたが、よく見てみると、証券会社の行為規制等に関する内閣府令第4条第9号は「有価証券」等についてのみ書いてあって、信託受益権の売買は含まれていません。
いずれにせよ、 信託受益権を使えば大量保有報告義務やインサイダー規制を逃れられるんだったら、みんなが信託受益権を使って、証券取引法の意味がなくなっちゃいますよね。
信託もお金がかかるので、数億円程度までの株だったらあまりやる人はいないかも知れませんが。
(追記2)バラバラ譲渡説
ひやしあめさんからまたコメントいただきました。
ニッポン放送株に係わる経済的な権利と議決権を「バラバラに」譲渡したのだとすると、いままでのいろんな開示資料や報道がうまく整合する気がします。
大量保有報告書によると、昨年5月に鹿内氏は、「保有有価証券を受益者のために管理する目的をもって信託銀行に信託」してますが、このとき(またはこのときから今年の1月4日までのどこかで)、信託受益権(経済的な権利の部分)を大和さんに譲渡。
ただ、その信託と鹿内氏の間で議決権の行使に関しては鹿内氏が行う旨の契約が結ばれていた、と。
で、1月4日にその信託契約を解除したので、受益権を持っている大和さんに株式が交付された、という説ですね。
別途、1月28日のエントリーに詳細を書きましたので、そちらをご覧ください。
これが一番いろんなつじつまがあう説かも知れません。
ひやしあめさん、その他、今回のシリーズにいろいろ情報提供いただいた方々、ありがとうございました。
−−−
以上、すべてあくまで新聞記事や開示資料から推測される「仮説」ですので、ご了承ください。
23日のエントリーでの仮説のように、TOBを準備していた部門と取得をした部門の間にチャイニーズウォールがしかれていて、「TOBをやるとは知りませんでした」とか、「まだ4日の段階では、TOBの”決定”はされてませんでした」という、(はた目にはより苦しそうな)理由かもしれません。
アナログ開示のメリット?
ちなみに、東証にファイルされたこの鹿内家側の報告書には3〜4回分の、(コピーを取るための)ホチキスをはずして綴じ直した跡がありました。おそらく、13日以降、各社の記者の方が激しく注目してコピーしていったんでしょう。
「紙」によるアナログな開示ならではですが、ネットでの開示と違って個別の報告書がどのくらい注目されたかがよくわかります。
(ではまた。)

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女性方面に、キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!

まずは、伊藤さんの「NDO:Weblog」のエントリーをご覧ください。:-)

JJ にキター

女性方面への2ちゃんねる文化の進出もめざましいものがあります。
我が家でも、それまで2ちゃんねるなど見たこともなかったうちの奥さんが、昨年末「ヨン様サイト」が落ちたので、「何が起こったんだ?」と、毎日2ちゃんを見に行くようになり、
(おそらくこの事件で、ヨン様サイトに登録していた10万人強の女性が、どどっと2ちゃん方面に流れたはず。)
気がつくと毎日何時間も2ちゃんねるをチェックするようになっちゃってます。
奥さん曰く;
「まったく、2ちゃんねるに入りびたってるやつらって、どんなやつらだよ。」
(・・・って、おまえだよ。)

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企業買収と潜水艦戦

22日のエントリーでお伝えした大株主や大量保有報告書の開示は、有価証券報告書や半期報告書のままの期ごとの表示でわかりにくかったと思いますので、時系列に整理して比率を出してみました。
いわゆる「村上ファンド」は黄色で表示してあります。
image001.gif
徐々にいろいろな投資家が株を買い集めて忍び寄ってくる様がお楽しみいただけるのではないかと思います。(BGM:「ジョーズ」のテーマ)
ご案内のとおり、(名義はどうあれ)実質としての持株比率が5%を超えると「大量保有報告書」を提出し、その後1%の変動があるごとに変更報告書を提出する必要がありますので、密かに買い集める場合には、5%未満のギリギリのところまで買ってきて名義変更をしない、という手法がよくとられます。
また逆に、5%を切っていても、あえて名義変更をして「海面に浮上」し、存在をアピールすることもできるわけです。例えば、平成15年3月末の「�エム・エイ・シー」の行を見ていただくと、持株比率は3.81%なのに、あえて名義書換をしてらっしゃるわけですね。
さらに、緑色で示した外国人投資家2名については、(放送法を考慮してか)、名義書換せずに大量保有報告書のみでの開示となっています。このため、「ピーターキャンディル アンド アソシエイツ」の行を見て頂くとおわかりの通り、1%以上持分が増減しないと相手の動きが見えません。
平成16年3月末には5%を切ってますが、こうなるともう、
「敵艦、変温層の下に潜航!」「敵艦、ロストしました!」
状態になっちゃいます。
また、今回調べてみてちょっと面白かったのは、水色で示した「ボストンセーフデポズィット ビーエスディーティー トリーティー クライアンツ オムニバス (Boston Safe Deposit BSDT Treaty Clients Omnibus)」という株主の方。
住所もボストンですし、名前からしていかにも海外のカストディ業者か何かのようですが、Googleで検索してみると、ヒットするのはすべて日本企業のホームページの大株主欄ばかり。実体は「日本人」でらっしゃるんでしょうか。
カタカナでの検索結果
中外製薬株式会社
株式会社トーメンエレクトロニクス
株式会社大和証券グループ本社
エスペック株式会社
株式会社日興コーディアルグループ
アイフル株式会社
英文での検索結果
東京エレクトロン株式会社
株式会社 コナミ コンピュータエンタテインメント ジャパン
山之内製薬株式会社
中外製薬株式会社
(その他100件強)
私はよく存じませんが、きっと、上場会社総務担当者の方々の間では有名な存在なんでしょうね。どなたか、お差し支えなければ教えていただければ幸いです。
(では、本日はこれにて。)

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ニッポン放送株式取得とインサイダー取引

昨日の長文の最後に、1月17日にフジテレビはニッポン放送のTOBを発表し、そのTOBの公開買付代理人である大和証券SMBCさんが、その直前の1月4日に(報道では鹿内氏から)ニッポン放株8%を取得したのって「アリなの?」と思う方も多いのではないかというお話をいたしました。
つまり、これって、「インサイダー取引」にはならないのでしょうか?
(追記2006/06/12:「ニッポン放送」「インサイダー」で検索すると、このエントリーが上位に来るので、大和証券SMBCさんの名誉のために追記いたしますが、これ以降のエントリでも記載してますが、このスキームは生の株式を売買したものではなく、鹿内家の保有するニッポン放送株式に信託受益権設定をして、その信託受益権[≒株式の経済的価値]だけを、半年以上前にすでに取引していた、ということのようです。このへんの経緯は、「ヒルズ黙示録」に詳しいです。)
TOBに関するインサイダー取引とは
「公開買付」にかかわるインサイダー取引は、メインの証券取引法166条とは別に同167条で、
(1) 公開買付等関係者や公開買付等関係者から重要事実の伝達を受けた者は、
(2) 公開買付等事実を知って、
(3) その公開買付等事実が公表される前に、
(4) 株式等の特定株券等の売買(開始前には買い、中止前には売り)をしてはならない

と規定されています。
大和証券SMBCさんは、おそらく1月4日の時点ではTOBについての相談をフジテレビから受けていたでしょうから(1)(2)には該当するでしょう。1月4日はTOBの公表前ですから(3)にも該当しますし、開始前に買ってるわけですから(4)にも該当するように見えます。
例外規定
ただし、同167条第7項前段に、

第一項に規定する公開買付け等の実施に関する事実を知つた者が当該公開買付け等の実施に関する事実を知つている者から買付け等を取引所有価証券市場若しくは店頭売買有価証券市場によらないでする場合

という例外規定があります。
つまり、売り手も買い手も両方TOBの事実を知っていて、納得の上、市場外で売買するのであれば、インサイダー取引にはならない、ということですね。
鹿内氏がTOBの予定をちゃんと知っていた上で売却したのであれば、大和証券SMBCさんのケースはこれに該当するので(「少なくともこの条文に関しては」)、「OK」ということかと思います。
(追記)証券会社の場合
・・・と、ここまでは一般人にも適用されるインサイダー取引の規定ですが、「証券会社の場合、さらに『法人関係情報』を用いた勧誘や自己勘定での売買はできないことになっているんじゃないでしょうか」、というご指摘を読者の方からいただきました。
おっしゃるとおりで、証券取引法第42条第1項第9号および証券会社の行為規制等に関する内閣府令第4条第10号で、

九  有価証券の売買その他の取引、有価証券オプション取引等、有価証券店頭オプション取引若しくはこれに係る媒介、取次ぎ若しくは代理(以下「有価証券店頭オプション取引等」という。)、有価証券店頭指数等先渡取引若しくはこれに係る媒介、取次ぎ若しくは代理(以下この号において「有価証券店頭指数等先渡取引等」という。)又は有価証券店頭指数等スワップ取引若しくはこれに係る媒介、取次ぎ若しくは代理(以下「有価証券店頭指数等スワップ取引等」という。)につき、顧客に対して当該有価証券の発行者(有価証券オプション取引等又は有価証券店頭オプション取引等にあつては、オプションが行使された場合に成立する売買に係る有価証券の発行者、有価証券店頭指数等先渡取引等にあつては、当事者があらかじめ約定した数値としての価格に係る有価証券の発行者、有価証券店頭指数等スワップ取引等にあつては、当事者の一方が相手方と取り決めた価格に係る有価証券の発行者)の法人関係情報(法第百六十三条第一項 に規定する上場会社等の運営、業務又は財産に関する公表されていない重要な情報であつて顧客の投資判断に影響を及ぼすと認められるもの並びに法第二十七条の二第一項 に規定する公開買付け(同項 本文の規定の適用を受ける場合に限る。)、これに準ずる株券等(同項 に規定する株券等をいう。)の買集め及び法第二十七条の二十二の二第一項 に規定する公開買付け(同項 本文の規定の適用を受ける場合に限る。)の実施又は中止の決定に係る公表されていない情報をいう。以下この条及び第十条において同じ。)を提供して勧誘する行為
十  法人関係情報に基づいて、自己の計算において有価証券の売買(オプションが行使された場合に成立する有価証券の売買を除く。)、有価証券オプション取引、有価証券店頭オプション取引、有価証券店頭指数等先渡取引又は有価証券店頭指数等スワップ取引をする行為(取引一任契約に基づきこれらの取引をする行為を含む。)

ということになっており、この規定の場合には、売主と証券会社が双方TOBが行われることを知っていた場合にも原則として違反になります。
上記令第4条9号における、TOBの「実施又は中止の決定に係る公表されていない情報」というのの「に係る」という表現は微妙ですが、(この条文とは違いますが)、証券取引法第166条第2項の「行うことについての決定をしたこと」という表現は、取締役会等の最終決定だけではなく、それを実現するための準備等を会社の業務として行うことを決定したことも含まれると考えられているようですので(平成11年6月10日最高裁)、仮に「17日まで機関決定されていなかったので、1月4日の時点ではまだ”決定”ではなかった」という理屈だとしたらちょっと苦しい気もします。
このため、例えば、TOBをやっている部門または担当者と、鹿内氏から買い取った部門の担当者の間に「チャイニーズウォール」が敷かれていてお互いに情報を知らずに取引をしてしまったとか、「証券会社の自己の計算」ではない取引(例えば鹿内氏が直接TOBに参加できない何らかの理由があって、TOBで得た資金は基本的にすべて鹿内氏に戻されるというような契約の上での取得など)として行われたとか、ということでないと問題になるかと思います。
道義上
さすがにフジテレビやニッポン放送にないしょで鹿内氏から買ったのだったら、法律的にどうかということはさておき、ビジネス倫理上は「おいおい」ということになるでしょうけど、さすがにそこは両社了解の上なんでしょうね。
いくらで取得したのか?
TOB資料には、

本公開買付けの買付価格5,950円は、ニッポン放送株式の東京証券取引所における平成17年1月14日までの3ヶ月間の終値平均値(4,937円)に約21%のプレミアムを加えた価格であります。

とあり、売買時の市場での価格とTOBの価格に大きな開きがありますので、大和証券SMBCさんは鹿内氏から「いくらで」株を取得したのかという疑問がうかびます。
鹿内氏もTOBの予定を知っていたのであれば、さすがに20%も安い5000円を切る値段じゃイヤでしょうし。また、一般のブロックトレードとは違い、TOBが控えていてマーケットインパクト無く売却できるわけですから、通常であれば(TOB撤回のリスクを大和証券SMBCさんが負うにしても)、鹿内氏としては本来、TOBの買付価格である5,950円に限りなく近い値段で売却するのが合理的なはず。
1月4日の相場とTOB価格にも相当開きがありますが、税務上はどうなんでしょうか。
鹿内氏はなぜTOBに直接応募しなかったのか
なぜでしょうね?
前述のとおり、証券会社側としても「自己の計算」で取得することはまずいとすれば、やはり、(例えば、鹿内氏側が何らかの理由でTOBまで待てないとか、急遽資金が必要等の事情で)、先に大和さんが取得しておいて、実際TOBされた価額で精算をするというような取引だったのかも知れません。
大和さんのプレスリリースでも、「取得」とだけ書いてありますね。
ただ、前回のエントリーの最後の方で引用した1月8日日経新聞13面の記事では、

大和SMBCは「経済合理性にかんがみた純投資で、ニッポン放の経営に参画する意図はない。タイミングを見て売却していくことになる」(経営企画部)としている。

と、自己勘定での取引であるようなことをおっしゃってます。
まあ、この時点で「鹿内氏がTOBまで待てないので」というようなことを言うわけにもいかないでしょうし、
記者さんが、「経済合理性にかんがみた取引で」と聞いたのを、「純投資で」と補足したのかも知れませんが・・・。
うーん。ナゾですね・・・。
なぜ7日まで公表しなかったのか
1月4日に売買していながらなぜ7日まで公表しなかったんでしょうね。
適時開示する義務はない事項と考えられますので、別にいいといえばいいのですが。逆に、なぜ開示したんでしょうね?(前述の記事にもありますが、大量保有報告書は提出する必要があります。)
ちなみに、年末は5,000円ぴったりくらいの株価で推移していたのに、大発会以降200円程度株価があがっちゃってますね。大和さんの7日の発表で、さらに週明け11日からは株価が跳ね上がりました。
思惑を呼ぶ話なので週の途中では開示しないことにした、ということでしょうか。
・・・と、なぞはちょっとかなり残りますが、本日はこれにて。

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フジテレビのニッポン放送買収(第2回)

ニッポン放送と言えば、いわゆる「村上ファンド」が筆頭株主なので有名ですが、村上氏のニッポン放送株保有が最初に新聞に載ったのは、2003年7月17日の日経本紙朝刊17面の記事のようです。

村上ファンド、ニッポン放の第2位株主に——買い増しで7.37%保有。
ニッポン放送の実質二位の株主に、村上世彰氏の率いる投資ファンド運用会社、M&Aコンサルティングが登場したことが十六日明らかになった。これまでも村上氏が出資する別の投資会社が第五位の株主だったが、投資ファンドが買い増したため二番手に浮上した。今後、ニッポン放に対する村上氏の発言力が強まる可能性がある。
 大量保有報告書によると、七・三七%の保有者としてM&Aコンサルティングの名が新たに登場した。これまで村上氏出資の投資会社エム・エイ・シーが三・八%を保有していたが、村上氏が運営するファンドが買い増したとみられ、今回、これらをたばねるM&Aコンサルティング名義が表に出てきた。

翌日(2003年7月18日)の日経産業新聞には、村上氏のインタビューが載っています。

村上ファンドがニッポン放送第2位株主——村上氏「前から関心」
 M&Aコンサルティングの村上世彰社長に、ニッポン放送株を買い増した狙いを聞いた。
 ——いつから株式を買い集め始めたのか。
 「ニッポン放送を含むフジサンケイグループの株式持ち合い構造については、私が通産省(現経済産業省)にいた時代から関心を持っていた。本来あるべき姿ではないと、ずっと考え続けてきたが、具体的には昨年秋ごろから徐々に動き始めた」

というわけで、この前後からの大株主の状況を見てみましょう。
平成14年3月31日現在
「昨年秋」からさらに半年戻りますが、有価証券報告書で、平成14年3月31日現在の大株主を見てみると、以下の通りです。
image002.gif
ということで、「村上ファンド」の名前はまだどこにも出てきていません。が、先日も書きましたとおり、西武鉄道問題に端を発するつい先日の金融庁・東証さんからの「企業開示情報の再点検の依頼」によって、ニッポン放送さんからは訂正報告書が山のように提出されているんですね。
この大株主の部分についても、昨年末の2004年12月15日になって訂正報告書が提出され、注記に、

4 次の株主から、当期中に大量保有報告書の提出があり、次のとおり株式を所有している旨報告を受けておりますが、当期末における当該株主名義の実質所有株式数の確認ができませんので、上記「大株主の状況」では考慮しておりません。

という文言が追加されており、
image004.gif
という報告書を受け取ったことが報告されています。いずれにせよ、このお二人の外人投資家も、表面上どこの名義に入ってるのかは、よくわかりません。
平成14年9月30日現在
村上氏が取得を始めたという「昨年秋」近辺の大株主は以下の通りで、
image006.gif
これも、訂正報告書による注記がありますが、いずれにせよ「村上ファンド」の形跡はまだ出てきません。
image008.gif
平成15年3月31日現在
次に、最初に記事が出たちょっと前に開示された第70期の有価証券報告書で平成15年3月31日現在の大株主を見てみると、
image010.gif
となっており、これも同様に昨年12月15日に訂正報告書が出てまして、
image012.gif
というのが注記されていますが、まだ「村上ファンド」は表面に出てきません。
平成15年9月30日現在
この鹿内ファミリーに関する記載ですが、2003年10月29日の日経本紙朝刊17面の記事によると、

村上氏投資会社、筆頭株主の公算、ニッポン放、鹿内氏3位に
 ニッポン放送は二十八日、筆頭株主だったフジサンケイグループ創業者一族の鹿内宏明氏が第三位の株主になったと発表した。新たな筆頭株主については「とりまとめ中」としているが、村上世彰氏が出資する投資会社が筆頭株主に浮上する公算が大きい。
 ニッポン放の資料によると、九月末時点のニッポン放の議決権株式に対する鹿内氏の保有割合は五・七五%(百五十八万株)。それまでの一一・三一%(三百二十二万株)からほぼ半減した。ニッポン放は「売却ではなく、身内の間で名義を換えたため」としている。
 十月初めに提出された大量保有報告書によると、村上氏が出資する投資会社「エム・エイ・シー」がニッポン放株の六・三五%を保有しており、このままいけば同社が筆頭株主になる可能性がある。(後略)

とのこと。(鹿内氏が「身内」の方に贈与したのか、もともと譲渡していたのに名義書換を行っていなかったのかはよくわかりませんが。)
上記記事の通り、半期報告書による平成15年9月30日現在の大株主には、以下の通り、株式会社エム・エイ・シー、いわゆる「村上ファンド」が登場します。
image014.gif
同注記(2004年12月15日付訂正報告書による。)
image016.gif
「村上ファンド」以外の登場人物
さて、この「鹿内氏」は、みなさんよくご存じだと思いますが、2003年7月18日の日経産業新聞 32面の記事によると、

村上ファンドがニッポン放送第2位株主——狙いはフジ?
(略)
 「村上ファンドが放送業界を物色しているのは耳にしていたが、こんなに早く動くとは」。十六日午後、ニッポン放送の株式七・三七%の保有者としてM&Aコンサルが登場したことを知ったフジテレビ幹部は驚きを隠さなかった。M&A側は「株価が安いので買った」と説明するが、同幹部は「フジサンケイグループの残された“宿題”を知っていて株を買い増したとしたら、村上氏は脅威だ」と警戒する。
 宿題とはいびつな株式の持ち合い関係だ。フジサンケイグループ議長として君臨していた鹿内宏明氏が解任されたのは九二年。その後は日枝久フジテレビ社長(現会長)らグループ首脳を中心に多メディア戦略を展開。一方、鹿内氏は次第に公の席に現れなくなり、存在感は薄れつつある。

という方です。

 勢力拡大の陰でグループには宿題が残った。現在も鹿内氏が筆頭株主のニッポン放送が三二・三%のフジテレビ株を保有するという「実態とかけ離れた親子関係」が続いているからだ。
 フジテレビの二〇〇三年三月期売上高(単体)はニッポン放送の約十倍の三千三百三十七億円。新聞社・テレビ局が親会社でラジオ局を傘下に置くという関係の多いメディア企業の中で、フジサンケイグループはニッポン放送(ラジオ)からフジテレビジョン(テレビ)、産業経済新聞社(新聞)という逆の流れ。
 「テレビが影響力、事業規模ともにラジオを上回る中でニッポン放送がフジテレビの三〇%以上の株を持つのは不自然」との指摘は従来もあった。投資家も「ニッポン放送に大株主が現れたらフジテレビへの影響は大きい」と警告していた。

という流れで来ていたわけですが、同じく、大量保有報告書に顔を出す大株主、「サウスイースタン・アセット・マネジメント インク」についても、

 実際、著名投資家のメイソン・ホーキンズ氏が経営する米サウスイースタン・アセット・マネジメント社が昨年、ニッポン放送株を買い増した。「狙いはフジテレビ」(関係者)。

と紹介されてます。
2003年7月23日の日経金融20面では、

ニッポン放、外国人も配分圧力——村上氏と共同歩調の可能性
(略)
 「ラジオ事業を差し上げるから、皆様には出ていっていただきたい」。米運用会社、サウスイースタン・アセット・マネジメント(テネシー州)のメイソン・ホーキンス代表は春先にニッポン放送を訪れ、経営陣に詰め寄ったという。サウスイースタンの保有株は大量保有報告書によると一一%に達した。株主名簿上一位のオーナー、鹿内宏明氏の保有比率九・八%を上回る。
(中略)
 ニッポン放送の推計によると、失念株を含めた外国人投資家の保有比率は最大で三二%ある。例えば、カナダの運用会社カンディル・グループ(バンクーバー市)も五・五%保有する大株主。同グループを率いるピーター・カンディル氏も、フジテレビ株の含み益吐き出しをニッポン放送幹部に迫ったという。

と、お二人の外国人投資家を紹介しています。ニッポン放送さんについては、あまりウォッチしてなかったのですが、暴れてらっしゃるあるべき企業像を追求されてらっしゃるのは村上氏だけではなかったんですね。
外資規制と名義書換
大量保有報告書では名前が出るのに大株主リストには載っていない点ですが、2003年8月12日の日経金融5面に、

ニッポン放送——含み経営に落とし穴、市場、資本政策変更迫る
(略)
村上ファンドが浮上する直前の七月上旬、米国の投資家、メイソン・ホーキンス氏率いるサウスイースタン・アセット・マネジメントの保有割合が一一%に達したとの大量保有報告書が提出された。放送法で外国人持ち株比率が二〇%を超えると放送免許を失うため、名義が書き換えられていない可能性もあるが、保有割合は筆頭株主の鹿内宏明氏(一〇%弱)を超えた。

とあるように、放送事業には外資の持株規制があるのはご案内のとおり。
平成16年3月31日現在
平成16年4月28日には、臨時報告書で、3月末の株主名簿確定にともない、「株式会社エム・エイ・シー」が18.31%の株主に躍り出たことが報告されます。

1 【提出理由】
当社の主要株主に異動がありましたので、証券取引法第24条の5第4項及び企業内容等の開示に関する内閣府令第19条第2項第4号の規定に基づき提出するものです。
2 【報告内容】
(1)当該異動に係る主要株主の氏名又は名称
株式会社エム・エイ・シー
(2)当該異動の前後における当該主要株主の所有議決権の数及びその総株主の議決権に対する割合
� 当該株主の所有議決権の数
異動前     208,430個
異動後     545,663個
� 総株主の議決権に対する割合
異動前      7.59%
異動後      18.31%
(3)当該異動の理由及びその年月日
� 異動の理由
平成16年3月31日現在の株主名簿確定に伴い、主要株主の異動が判明しました。
� 異動年月日
平成16年3月31日
(以下略)

実際、有価証券報告書では、平成16年3月末の大株主は以下のようになってます。
image018.gif
これも昨年12月15日に訂正報告書で注記が追加され、(あわてて集計ミスしたのか)、さらに12月28日にもう一つ注記訂正の訂正報告書が出て、結果、注記は以下の通りとなっています。
image020.gif
平成16年9月30日現在
2004年9月11日の日経新聞朝刊9面の記事は、

フジテレビ、ニッポン放送株買い増し——12.4%保有第2位に、グループ基盤強化。
 フジテレビジョンは十日、自社の筆頭株主であるニッポン放送の株式四百五万株を取得したと発表した。ニッポン放送の発行済み株式数の一二・四%に相当し、村上世彰氏が出資する投資会社の一六・六%に次ぐ第二位の株主となる。フジテレビはニッポン放送への出資比率を高めて発言力を強め、グループ経営基盤の強化を狙う。
 フジテレビは同日の立ち会い外取引でみずほコーポレート銀行など国内銀行五行からニッポン放株を取得。二百億円強の取得代金は手元資金でまかなった。これにより持ち株比率は〇・〇三%から一二・四%(議決権の比率は一三・六%)へと大幅に上昇した。
 ニッポン放送はフジテレビの筆頭株主。春先にフジテレビ株の一部を売却するなどした結果、出資比率は三二・三%から二二・五%に低下した。商法上の規定により、ニッポン放送の出資比率が二五%以下に低下したことで、フジテレビはニッポン放送に対して議決権を行使できるようになったため、資本関係の強化に踏み切った。

と、フジテレビが第二位株主に浮上したことを報じています。銀行方面から買い集めたわけですね。
ちなみに、その「商法上の規定」というのは、以下の商法第241条�のこと。

第二百四十一条  各株主ハ一株ニ付一個ノ議決権ヲ有ス但シ一単元ノ株式ノ数ヲ定メタル場合ニ於テハ一単元ノ株式ニ付一個ノ議決権ヲ有ス
2 会社ハ其ノ有スル自己ノ株式ニ付テハ議決権ヲ有セズ
3 会社、親会社及子会社又ハ子会社ガ他ノ株式会社ノ総株主ノ議決権ノ四分ノ一ヲ超ユル議決権又ハ他ノ有限会社ノ総社員ノ議決権ノ四分ノ一ヲ超ユル議決権ヲ有スル場合ニ於テハ其ノ株式会社又ハ有限会社ハ其ノ有スル会社又ハ親会社ノ株式ニ付テハ議決権ヲ有セズ
4 第二百十一条ノ二第四項及第五項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス

半期報告書による平成16年9月30日現在の大株主は以下の通り。
image022.gif
この半期報告書は昨年12月に提出されたものですので、さすがに注記にははじめから下記のように実質株主についてのコメントがついています。
image024.gif
今年に入ってからの動き
その後、今年に入ってから、1月8日日経新聞13面で、

大和証券SMBC、ニッポン放株8%取得
 大和証券SMBCは七日、ニッポン放送株式二百六十二万五千株を一月四日付で取得したと発表した。発行済み株式の八・〇%に当たり、現時点では村上世彰氏系の投資会社エム・エイ・シー(MAC)、フジテレビジョンに次ぐ持ち株比率となる。(中略)
 取得の相手先や取得額などは明らかにしていない。ニッポン放の昨年九月末時点の大株主であるMAC(持ち株比率一六・六%)とフジテレビ(一二・四%)の両社は引き続き同社株を保有している模様。この他の大株主は、名義を書き換えていない海外の投資会社(約一三%を保有)やフジサンケイグループ元議長の鹿内宏明氏らの一族(同八%)がおり、これらの株主が売却した可能性もある。
 大和SMBCは「経済合理性にかんがみた純投資で、ニッポン放の経営に参画する意図はない。タイミングを見て売却していくことになる」(経営企画部)としている。

という報道があり、(大和証券SMBCさんの発表はこちら)、また、1月13日には、

ニッポン放株、鹿内氏一族が売却——大和証券SMBC、「時機みて放出」
 フジサンケイグループ実質創業者の一族でかつて同グループ議長を務めた鹿内宏明氏らが、ニッポン放送株式を手放したことが十二日分かった。近く大量保有報告書が提出される見通し。これらの株式は既に大和証券SMBCが取得を発表しており、今後は第三者に売却されることになる。
 鹿内氏一族は昨年九月時点で、二人の名義でニッポン放株を計八・〇%保有。合計すると第三位株主だった。大和SMBCは七日、これとほぼ同量に当たる同社株の取得を発表している。

と報道されてますので、鹿内氏の株式が大和証券SMBCさんに移ったということなのでしょう。
しかし、この直後の1月17日にフジテレビはニッポン放送のTOBを発表し、そのTOBの公開買付代理人は、まさにその大和証券SMBCさんなわけです。
ニッポン放送株を取得した1月4日に、大和さんがフジテレビからTOBについて相談されてないということはありえないでしょうから、大和さんはTOBが行われるのを知りつつ、この株式を取得したわけですが、「それってアリ?」と思う方も多いのではないかと思いますが・・・
・・・と、いいところに差しかかりましたが、非常に長くなりましたので、本日はこの3年間の大株主の変遷までということで。
続きはまた明日(・・・の予定)。

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フジテレビのニッポン放送買収(第1回)

やろうやろうと思っているうちに、あっという間に4日前の話になっちゃいましたが、フジテレビのニッポン放送買収について、財務的に掘り下げてみようかなと思っております。
(思ってるだけで、忙しくなっちゃったらすみません。)
(また、掘り下げてみたら、意外につまんなかったら、これまたすみません。)
とりあえず、本日は資料集め(主にEDINETの切り貼り)で力尽きましたので、関連URLを以下に掲げて、分析は次回以降ということで。
■株式会社フジテレビジョン
公開買付けの開始に関するお知らせ(平成17 年1月17 日)
http://www.c-direct.ne.jp/japanese/uj/pdf/10104676/00029546.pdf
公開買付開始公告
http://ir.nikkei.co.jp/data/pdf/20050118/05010068.pdf
公開買付届出書
EDINETがページ毎に分断されて読みにくいったらありゃしないので、内容をコピペしてつなげてPDF化したものです。
経理の状況については、とりあえず、直近の連結中間財務諸表のBSだけ引用し、その他は省略してあります。
第1回無担保転換社債型新株予約権付社債の発行に関するお知らせ
http://www.c-direct.ne.jp/japanese/uj/pdf/10104676/00029547.pdf
■株式会社ニッポン放送
平成17年3月期 中間決算短信(連結)
http://www.jolf.co.jp/company/IR1242/PDF/2004.9renketsu.pdf
平成17年3月期 中間決算短信(単体)
http://www.jolf.co.jp/company/IR1242/PDF/2004.9kobetsu.pdf
■関連法規等
しかし、証券六法では、平成16年版以降、「放送法」が削られちゃったのですが、こうもいろいろ放送局の持株関係で事件が起こると、むしろ、16年版以降の証券六法にこそ掲載が必要だった気もしますなあ。
放送法(昭和二十五年五月二日法律第百三十二号)
マスメディア集中排除の原則
放送局の開設の根本的基準(昭和二十五年十二月五日電波監理委員会規則第二十一号)
第九条

以下に引用します。↓

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