■長いので、要旨
企業買収の裁判が多い米国の判例を見ることはそれなりに意味があるはず。
今回の法廷での闘争でどっちが勝つかというのもさることながら、大事なのは今後のお話。
全員社長子飼いの取締役しかいない会社に強力な買収防衛策を渡したら、自分たちの保身に使われるのは目に見えている。
よく考えると、企業買収防衛の際には、社外取締役の導入が不可欠のはずだが、日本は経団連を始めとして社外取締役に乗り気じゃなく、ホントに今後導入されていくのかしらん?
ライブドアさんもコーポレートガバナンスに関しては社内取締役のみだが、ニッポン放送は(村上ファンドからのプッシュもあり)昨年社外取締役を導入。
今回、裁判所が社外取締役に注目した判断をしたら、日本の将来のためになると思うなあ。
■以下、詳細
いただいたコメントやトラックバックでは、「海外の判例なんて見ても、意味無いんじゃないの?」というご意見が結構多かったですが、ホントに意味無いでしょうか?
確かに、「今回の仮処分申請でホリエモンが勝つか負けるか」を占うためには関係ないかも知れませんが、多数のM&Aやその防衛策を取り扱ってきた経験が生かされた判例は、そういったことにウブな日本にとっては、それなりに参考とすべきところがあるんじゃないかと思います。特に、今後を日本の行く末を占うにあたって。
一昨日のエントリーにTT-ouchさんからトラックバックいただきました。
社外取締役なりが株主の利益を代表して公正中立な立場から社内取締役・買収側・社外専門家の意見を聞くというプロセスがあり、それから司法がそのプロセスが本当に公正中立であったかということを判断するという仕組みが必要だという主張には全面的に賛成です。
法律で今回あったような行為そのものを規制しても、やっぱり法律の抜け穴を探す人たちとのいたちごっこになってしまうと思います。プロセス自体を評価するとなればある程度、柔軟な運用ができるのではないでしょうか。
これってその道では常識なんでしょうか?私は感動すら覚えたのですが。
あんまりまだ日本の常識になってないところが大きな問題だと思うんですよね。
現在の日本の企業の大半は、「従業員がエラくなった人」が「取締役」になり、かつ、取締役というのは「社長の部下」なわけですよね。商法上は本来、取締役会というのは社長等の執行を監督するもののはずですが、実際は逆です。米国のように、過半数が社外取締役で、取締役会は社長を見張るお目付役であり株主のエージェントだ、という位置づけからはほど遠いわけです。
買収防衛策と社外取締役
先日も、日経の一面で、政府が「買収防衛策」を検討しているという記事がありましたが、このような「社長の子飼い」である取締役会に買収防衛ツールを渡したりしたら、経営陣の保身のために使われるのは目に見えています。(ガクガク(((((゚Д゚;)))))ブルブル)
経済産業省さんでやっている「企業価値研究会」の議事要旨が、このへんの参考になるんじゃないかと思います。
第3回(平成16年10月20日(水))議事要旨
○ ユノカル社の買収からパラマウント社の買収に至る判例経緯は、デラウェア州におけるガバナンスの発展の歴史とも言えるだろう。
(中略)
(2)社外取締役について
○ 社外取締役の比率や数、独立性については80年代にじわじわ上がっている。
○ 社外取締役の人数については条文上で半数以上いることが絶対条件とはなっていない。しかし、実態としては、ほとんどの取締役会で6〜7割は社外取締役が採用している。また、日本では形式的にとらえる風潮があるが、米国の判例では、社外取締役が真に経営者から独立的かどうかについて、裁判所が判断する。
○ 防衛策が否認された判例のうち、レブロン社買収の際には、社外取締役は存在したが、他のケースと比較して十分いたとはいえなかった。また、パラマウント社買収の際には、人数的には社外取締役が多かったものの、パラマウント社に強力なCEOが存在し、社外取締役はCEOの昔からの友人であって、全く独立しておらず、情報を十分に把握した上での判断をしなかったのが否認の隠れた原因と言われている。
(下線部は磯崎による。)
やはり、敵対的買収が活発化すると、社外取締役の必要性も認識されてくるのかも知れません。
裁判所は社外取締役に注目するかしらん?
今回の仮処分申請でも「社外取締役が第三者専門家にちゃんと聞いて十分な注意義務を果たしているので仮処分申請は却下」とか「そのへんをちゃんとしてなかったから仮処分OK」というように、社外取締役の対応について裁判所が注目していただくと、今後の日本にとって大きなプラスになるんじゃないかと思います。
(法律論としてそういうことになりうるのかどうかについては、よく存じませんが、47thさんの最新のエントリーが参考になります。
http://blog.drecom.jp/fallin_attorney/archive/95)
つまり、今回、無条件に買収されそうになったら大量の新株予約権を発行してもOKなんてことになったら非常によろしくないわけです。
ただ、そもそも今回のバトルが時間外取引というやや「ん?」という手法から始まったことも含めて、「独立した社外取締役や専門家がちゃんと株主のことを考えて決定したからOK」というようなニュアンスが裁判所の判断に含まれれば、日本の大半の会社はそうした安易な防衛策を取れることにはならないわけですから、悲惨な結果にはならないと思うんですが、どうでしょうか?
社外取締役は日本でも活用されるようになるのか?
日本では、経団連さんからして社外取締役導入にあまり積極的ではないわけです。
以下をごらんください。
OECDコーポレート・ガバナンス原則改訂案(2004年1月)に対する日本経団連のコメント
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2004/014.html
The review process for the OECD Principles of Corporate Governance
http://www.oecd.org/document/26/0,2340,en_2649_34487_23898906_1_1_1_37439,00.html
OECD(Organisation for Economic Co-operation and Development:経済協力開発機構)では、1999年に「コーポレート・ガバナンス原則」を策定したが、昨今の米国におけるエンロン事件等を契機に原則見直しへの機運が高まり、2002年のOECD閣僚理事会において改訂作業が行うことが決定され、本年2月の最終会合での改訂案審議を経て、5月の閣僚理事会において決定される予定である。
日本経団連では、OECD諮問委員会(委員長:鈴木邦雄商船三井社長)を中心に、改訂作業に参加している外務省・法務省・金融庁との懇談会を開催するなどしてきたが、今般、経済法規委員会コーポレート・ガバナンス部会(部会長:立石忠雄オムロン専務取締役)においてOECDより公開されたコーポレート・ガバナンス原則および注釈に関する最終ドラフトのコメント募集に対応し、本コメントをとりまとめた。
(中略)
E.1.の注釈において、「独立した社外取締役は市場参加者に対して彼らの利益も擁護されている確証を提供することができる」とあるが、企業運営を知らない独立社外取締役が中心では投資家は確証を得るどころか不安を感じる可能性もある。社内取締役中心の取締役会の方が他の場合よりも高い企業価値を実現しているケースも少なくない。この記述は削除すべきである。
E.3.の注釈において、 第2パラグラフで、取締役等に対する社内トレーニング並びに社外研修を有用としているが、これらは会社のコストとなるため、株主にとって不利益である。こうしたコストをかけなくとも会社のために役割を果たせることを取締役等に求めるべきである。本記述は削除すべきである。
トヨタさん等の超優良企業が社外取締役の必要性を感じないのはある意味当然です。ただ、普通の企業は山あり谷ありなわけで、社外取締役は、そうした企業が買収されそうになるとか、代表訴訟を受けるようなときにこそまさに最悪の事態になることを防いでくれる(可能性のある)存在なんじゃないでしょうか。
委員会等設置会社制度を導入された上場企業の方に伺っても、社外取締役を導入したことは非常に評判がいいです。もちろん「社内のことは社内取締役の方が詳しいのは確か」とみなさんおっしゃいますが、社内だけの論理や用語ではなく、それなりの見識をお持ちの社外取締役にも理解できる議論をするということが、結構、会社にとってプラスになっていると感じておられるようです。
ライブドアさんは「21世紀型の企業」か?
ライブドアさんは、企業価値を高めることを標榜し会社の成長戦略としてM&Aという手法に重きを置くという点では「新しいタイプの会社」って感じがしますが、コーポレートガバナンスという観点からは全員が社内の取締役で、20世紀のコテコテのワンマンオーナー系中小企業と同じタイプのコーポレートガバナンスというように見えます。例えば堀江社長が「MSCBを発行して時間外取引でニッポン放送を買収するぞ!」と言った時に、「オイオイ」とツッコミを入れられる取締役はいらっしゃるのでしょうか?
もちろん、社内の取締役だけで決めてもいい決断となるかも知れないし、社外の取締役がいても失敗するかも知れない。ただし、社内の取締役だけでは、その重要な意思決定の妥当性が独立した第三者に検証されたものでないことは確かです。
先日申し上げたように、裁判官に「インターネットと既存メディアが融合する時代に、どっちの買収者が株主のためを考えてると思います?」というような判断を求めるのは酷かと思います。裁判官は日頃からそんなこと考えてるわけないわけでもなく、そうしたことの専門家でもないので。ただし、会社は「インターネットと既存メディアが融合する時代に、どういう方策が株主のためになるのか」を判断して行動しないといけないですよね。取締役といえど人間ですので、社内の人だけだったら、自分たちに都合のいいように考えてしまうことが無いとは言えません。特に、経営陣と株主の利害が相反するようなケースでは、会社のことをよく知っていてなおかつ独立した「社外取締役」の位置づけは重視すべきでしょう。
やはり、時価総額が1000億円を超えるような21世紀の公開会社であれば、株主のお金を預かって運用する際に、それなりのガバナンス構造が求められるんじゃないでしょうか。
そうしたチェックが働いた上でなら過激な条件のMSCBを発行しても、貸株をしても、「それなりにちゃんと考えてのことなんだろう」と株主もより安心することができるんじゃないかと思います。
一方、ニッポン放送は(村上ファンドからのプッシュもあり)昨年社外取締役を導入しました。今回、この社外取締役の方々が中立な判断を下したので仮処分はナシということに(もし)なれば、(イメージとは異なり?)、ニッポン放送のほうが21世紀っぽい会社だったということになって、(不謹慎ではありますが)ちょっち面白いかも知れません。
(そしたら、ニッポン放送は結果的に「村上ファンドに救われた」、ということになりますね。:-)
(では。)
[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。