ネット・エコノミー解体新書 第6回「グーグルはなぜYouTubeを買ったのか?」

日経BPさんのサイトで書いている、「ネット・エコノミー解体新書」の第6回、「グーグルはなぜYouTubeを買ったのか?」がアップされました。
http://www.nikkeibp.co.jp/netmarketing/column/economy/061019_google/
先日のエントリは「有限責任」性の話が中心でしたが、もうちょっと「なぜ買ったか」にウエイトを置いて、一般向けに書かせていただいてます。
(よろしくお願いいたします。)

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祝、島耕作氏ご昇進

週刊モーニング連載中の「常務 島耕作」も、本日発売号が(4度目の)最終回。
万亀会長から、(社長を)「引き受けてくれるか?」と言われた某氏、

某氏 私が・・・ですか?
しかし新社長の選任は
取締役会の過半数の賛成がないと・・・

万亀 そうだ 法的にはそういう手段をとるが
今の初芝で 私と勝木(社長)の推薦に異を唱える人間はいない
勝木とも話したんだが
赤松でも楠本でもなく キミだ
キミしか適任はいない

私はこれからキミを推薦する旨を
役員達一人一人伝えて説得する

先日、学習院でのセミナーでご一緒させていただいた、りそなホールディングスの社外取締役の渡邊正太郎氏がおっしゃっていた言葉が非常に印象的だったんですが、

(コンプライアンスも重要だが)、コーポレートガバナンスで最も重要なのは、「社長をいかに変えるか」だ。
社長がしかるべき業績をあげられない人間だったら、代わりの人間を見つけてくる。
また、(当然、急に見つかるわけもないので)、会社の人が推薦する人物が本当に次期社長たりうるか、いかに社長になるための教育をしていくか、社外取締役が時間をかけてじっくり見ていくことが必要だろう。

とのこと。
就任される前に、竹中大臣のところに行って、「りそな は、委員会等設置会社にしなければ、取締役は引き受けられない。」とおっしゃったそうです。
(そういえば、道路公団は、委員会設置会社にならなかったようですが・・・。)
そういう観点からすると、万亀会長、というか、初芝電産、日本有数の大企業のコーポレートガバナンスとしては、「ビミョー」。
しかし、社外の人間が、会社側から出てきた人事案を追認的に承認するだけでなく、能動的に人事にかかわるというのは、実際には大変でしょうね。
特に、初芝電産のように大所帯の家電メーカーなどだと、事業構造も複雑で、なかなか社外の人間が(積極的に関与して)決めた人事に納得性があるかというと・・・・まだ、日本だと厳しいのかも知れません。
「役員人事や取締役の報酬を身内だけで決められるかどうか」というのが、委員会設置会社と監査役設置会社の最大の違いですし、委員会設置会社が、ここまで不人気(たぶん、まだ100社ちょっと)な原因でしょう。
−−−
さて、マンガの後に「常務島耕作 最終回記念対談」として、作者の弘兼憲史氏と、「取締役島耕作、常務島耕作のNo1ブレーンだった」という弁護士法人キャスト糸賀の村尾龍雄 代表弁護士の対談も、なかなか興味深かったです。

村尾「取締役 島耕作」の連載がスタートした2002年頃は、現地法人に総経理として赴任するのは、せいぜい本社の課長や部長クラスというのが普通でした。ところが、最近は、どの企業も当たり前のように取締役を送り込んでくるようになりました。これって、「島耕作」の影響じゃないかと思います。

弘兼 そんなに増えたんですか?

村尾 爆発的ですね。たとえばソニーはウォークマンの開発者でもある副社長が中国常勤なんですよ。資生堂も専務が直接指揮を執っておられます。大手家電メーカー、大手商社は役員が代表として常勤されているところが大半ではないでしょうか。本当に大企業の中国担当者は役職がレベルアップしました。実際にそのうちの相当数が「島耕作」の愛読者なんです。

・・・だそうです。
(ではまた。)

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GoogleのYouTube買収と有限責任性

日経BPさんで連載させてもらってます、「ネット・エコノミー解体新書」の次の回の原稿として、GoogleがYouTubeを買収した件に関して先週金曜日に書いて送らせてもらったのですが、webにアップされるのはちょっと先になると思いますので、その件に関して若干。
YouTube買収スキームの詳細
まず、SECのEDGARに、先週金曜日にフォーム8-Kで、開示が行われました。
これによると、今回の買収のスキームは、この買収のために新たに設立するグーグルの100%子会社(ペーパーカンパニー)「Snowmass Holdings, Inc.」とYouTubeを合併させ、YouTubeの株主に合併対価として、(Snowmass Holdings, Inc.の株式ではなく)、16.5億ドル分のグーグル株式(Class A common stock)を渡す、という・・・いわゆる三角合併の取引となるようです。(下図)
 
 
google_youtube_merge.jpg
つまり、報道にあったとおり、YouTubeは引き続き「別会社で」営まれるということになります。
池田信夫さんのブログ「Google/YouTubeの深いポケット」、および、小飼弾さんのブログ「子会社の賠償責任は親会社に及ぶか?」でも議論されてますが、今後、YouTubeがコンテンツプロバイダー各社から巨額の訴訟を受ける可能性があるという点が、今回の取引の最大のポイントの一つかと思います。
(池田さんのブログでは、WSJの報道として、違法なビデオクリップ1本について15万ドルなので、7000万本以上あるクリップの0.1%(7万本)が請求の対象になるとしても、総額は100億ドル、という規模感が提示されてます。)
こうした訴訟が提起された場合に、YouTubeおよびGoogleにどういう影響が及ぶか?というところが、非常に興味をそそるところ。
取締役はどう行動したのか?
さて、今回の買収で、Googleの取締役、officerのみなさんが、経営判断の原則(business judgement rule)を果たすために、どういうことを検討する責任が発生し、何を押さえておかないといけないかったか、ということですが;

  • 日本円で2000億円というような巨額な投資が、ちゃんと経済的にペイする確証があるという点を確認したのか?金額はどういう根拠をもって妥当と判断したのか?
  • 特に、YouTubeが著作権侵害について訴訟された場合に、その訴訟について勝てる見込みがあるかどうかを、YouTubeに対する(法務を中心とする)デューデリをきちんと行ってから投資を意思決定したのか?
  • YouTubeが仮に訴訟に負けた場合に、Googleが大ゴケするというようなことが無いように、適切なスキームを検討したか?

等は、真っ先に思い浮かぶところでありましょう。
訴訟大国アメリカのことですので、訴訟が行われることを前提に対策を打たないとアホであります。Googleは(過半の日本企業とは違って)社外取締役がboardの過半を占める会社ですし、この社外取締役の方々は、アホというよりは、どちらかというとアメリカの中でも最も優秀な(こういうことに慣れた)方々がそろってらっしゃるわけです。
ということで、このディールを行う前提としては当然、米国の中でもベスト&ブライテストな弁護士の方々を多数駆り出して、調査(デューデリ)を行ったことでしょう。
その結果、「絶対大丈夫です」てな意見が弁護士から出たとはとても思えないが(むしろ、「訴訟される可能性は極めて高いし、その場合に負ける可能性も結構あります」という言い方のほうが、ありうるかな、と思いますが)、少なくとも、「YouTubeが訴訟されてGoogleも共倒れになる可能性が極めて高い」といった結論が出たのにGoogleのboardが「Go」を出した、とは思えません。(経営判断を適切にしなければ、代表訴訟で負けるし、負ければ取締役自身の財産が危ないので。)
ということで、工夫(というか当然の話)として、YouTubeはGoogleと直接合併するのではなく、上記のように子会社として引き続き別会社として運営することとして、「limited liability protection」が働くスキームを採用しているのではないかと思います。
「YouTubeは、Googleとは本社も別々の場所で運営できる自由のある条件で・・・」といった感じの報道も見かけたのですが、ヒネた見方をすれば、これは、「自由」というより、「Googleと事実上一体の運営がなされているという外観を作らないため」の工夫の一つではないかと思います。
もう一つは、(法務というよりは、経済的なお話として)、YouTubeの株主に、合併の対価として現金ではなく、Google株式が渡されるスキームを採用した、という点ですね。デューデリしたとは言っても、検討期間は短かかったでしょうから、いくらYouTube経営陣が「representation and warranty(表明と保証)」でコミットしても、リスクは大きいわけで、それをヘッジする意味でも、「YouTubeがコケてもYouTubeの元株主はキャッシュが日本円で2000億円も入ってウハウハ」ではなく、「YouTubeの訴訟の影響で、Googleの株価が下がった場合には、YouTubeの株主も損する」ようにしたということじゃないかと思います。(つまり、当然、今回の取引で得たGoogle株式は、ある程度の期間、売却してはいけないというロックアップは掛かっているんでしょう。)
本来、下記BSのとおり、Googleは、現預金・有価証券あわせて、98億ドル(約1.2兆円)ものキャッシュを持っており、16.5億ドルなら、「ポン」とキャッシュで払っても、痛くもかゆくも無いはずなわけです。
google_BS.jpg
 
Googleの時価総額に対して1.3%程度の株式が発行されるだけで、しかも、これがもし、上述のように当面ロックアップされるとすると、需給が株価に与える影響は微小なはず。
ちなみに、グーグルの14-6月 第2四半期の税引前利益は17.8億ドル。半期ごとにYouTubeが1社づつ買えるほど利益が出ているわけで、仮にGoogle本体に壊滅的な影響を与えるというようなことがなければ、別会社であるYouTubeが訴訟に負けて破産しても、保有しているYouTube株式の価値がゼロになるだけで、痛くもかゆくも無い。
(追記10/25:すみません・・・四半期でなくて、半期[6ヶ月]の利益を見ておりました。)
Googleに影響は及ぶのか?
問題は、みなさんご心配の通り、YouTubeの行為についての損害賠償請求がGoogleに及ぶのか?というところでしょう。
アメリカの法律や判例を詳しく知らないので以下推測にすぎませんが、アメリカの書物でも「有限責任は資本主義の最大の発明の一つ」てなことが書いてあるので、(もちろん、「法人格否認の法理」的なものもあるでしょうし、別会社だから何をやっても許される、ということにもなるわけがないですが)、株式を投資しただけで責任が株主に及ぶというような(不良債権処理で、日本の法人が「株主責任」を問われて、外国の人にはわけがわからなかった、というような)ことが原則だ、てなことは無いと思います。
今のところ、Googleが実質的にYouTubeをコントロールしていた、というようなことは事実から反するでしょうし、今回、株式を購入(正確には子会社と合併)しただけなので、それでもGoogleにまでYouTubeの損害賠償請求のトバッチリが及ぶ、ということだと、資本主義の根本原理である「有限責任」というお話は吹っ飛びます。
もちろん、「訴訟する側がGoogleを訴えるなんてことがありえない」ということじゃありません。
YouTubeにVCが投資した資金は、Forbesの記事などを読むと、たかだか数十億円のオーダーのようですので、YouTube自体は金もってない。むしろ、池田さんのおっしゃるとおり、コンテンツを持ってる側の弁護団は、当然、なんとかGoogleにも責任が及ぶという理屈をつけてGoogle本体を訴訟できないか、と頭をひねると思います。
ちなみに、技術的なお話ですが、池田さんのコメントで、

アメリカでは連結財務諸表しか発表しないので、両者は法的にも財務的にも一体である。

とありますが、これは、「財務的には一体であるが法的には一体とは限らない」が正確ではないかと思います。
連結財務諸表は、経済的に一体な企業集団についてまとめて財務諸表を作成するものであって、証券化のSPCなどで倒産隔離がきちんと図られていても、経済的に一体と考えられるものについては、一体として表示することが義務付けられており、また、財務諸表で一体だからといって法的にも一体と解される、というわけではないと思います。

今のところ、Googleの時価総額は1300億ドルもあるので、たとえ100億ドルの賠償を命じられたとしても破産することはないと思われるが、その企業価値は大きく損なわれるだろう。

という部分ですが、上記のGoogleのBSのとおり、Googleはキャッシュ(有価証券含む)は今年の6月末で98億ドル「しか」持っていないので、”万が一”、Googleが100億ドルもの賠償をしないといけなくなれば、破産もありえない話ではありません。
「時価総額」は、市場がGoogleが将来生み出すであろうと考えているキャッシュフローの現在価値(のはず)で、破産するかどうかは、現在の資金繰りの話ですので、賠償額が時価総額に対して十分小さいからといって安心はできません。
でも、上述の通り、Googleのキャッシュフローは、すさまじくストロングであり、これがYouTubeの件で減少するということも考えにくいので・・・実際にも、おっしゃるとおり、Google倒産てなことにはならないとは思います。
訴訟する側は、テレビに変わりうる世界第6位(alexaベース)のトラフィックを持つ「金のガチョウ」のYouTubeやGoogleを「殺す」よりも、今までの損害額としてそこそこの額(多くてもせいぜい5000億円程度まで)を一時金として支払わせて、後はYouTubeやGoogleと、コンテンツについてプロフィットシェアリングをしたほうが、長期的に得なはずなので。
Googleも5000億円なら、半期分くらいの利益にすぎませんから、それを払って後はおおっぴらに商売できるなら、払う価値はあるかと。
少なくとも、コンテンツ保有側の論理として、日本でなら想定される「映画館を守るため(だから、何があってもYouTube、コロス)」といった理屈が働くとは、あまり思えません。
(ではまた。)

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ネット・エコノミー解体新書第5回(Yahoo!とローカライゼーション)

日経BPさんのサイトで書いている、「ネット・エコノミー解体新書」の第5回、「ヤフーの財務から見る、「海外展開」と「文化」の関係」が公開されてます。
http://www.nikkeibp.co.jp/netmarketing/column/economy/061011_yahoo/
Googleのように「技術」で行くのか、Yahoo!のように「メディア(destination)」であろうとするのか、それによって世界展開の方法も、資本政策も、違ってくるのかな、というようなお話であります。
(ご参考まで)

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学習院マネジメントスクールセミナー無事終了

本日の学習院でのセミナーには、当ブログをお読みのみなさんにも多数お越しいただき、ありがとうございました。<(_ _)>
いっしょに講師をやらせていただいた、りそなホールディングスの渡邊正太郎氏は、花王の副社長まで務められた方ですが、日本でも最も早い時期に花王で「EVA」(つまり初号機?)を導入されるなど、「企業価値」というものを最も考えておられる日本の経営者の一人ではないかと愚考いたしました。
今年70歳でらっしゃる、ということですが、勉強している若いプライベート・エクイティの方とまったく同じ感覚でお話ができる、というのもすごいことかと。
というわけで驚くほど「市場」を向いた経営のマインドをお持ちですが、この場合の「市場」というのが、「株式市場」だけでなく、「お客様」をも向いているところが、ファイナンスをちょこっと囓っただけのそこらへんの若造とは違うぞ、という感じであります。

なぜ、「コーポレートガバナンス」をやるのか?
金融機関の人間は、例えば「コンプライアンス」についても、「何かあったら会社が損害を被りますので、会社が潰れないために・・・」という感覚で考えていることが多いが、とんでもない。コンプライアンスは、会社を守るためにやるのではない。
「お客様」を守るためにやるのだ。

というお言葉は、非常に感動いたしました。
−−−
さて、私、学習院大学という場所には(たぶん)生まれて初めて足を踏み入れさせていただきまして、「もしかしたら、皇室の方々とすれ違ったりするような場所なのか知らん?」とミーハーなことを考えながらおもむいたのでありますが・・・・・
・・・・すれ違いました・・・・・・。
同じ学習院大学創立百周年記念講堂で、私めの講演の後に、皇位継承順位1位のあの方のご講演が。
といっても、私が校門から出ようとする時にちょうどご到着ということで、SPの方々がトランシーバーでやりとりして、ピリピリした空気が漂っているという状況で、第三種接近遭遇とまでは行かなかったわけでありますが。
(非常に庶民的とも思える)「あの料理」がお好きとのことで、私めの講演の後の懇親会のケータリング業者さんが某有名レストランだというところが共通・・・というくらいの接近遭遇でありました。
(ではまた。)

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Google+YouTube

The Wall Street Journalが、GoogleがYouTubeの買収に成功したと報じてますね。
http://online.wsj.com/article/SB116039852999986783.html (有料)

Date: Mon, 9 Oct 2006 10:34:46 -0400 (EDT)
Subject: WSJ TECH ALERT: Google Closes In on YouTube Deal
—-

Google is closing in on an acquisition of YouTube for $1.65 billion in stock, which could be announced after the close of trading today. The companies announced licensing deals with TV networks and music labels aimed at addressing concerns about copyright violations on their video-sharing services.

株式交換で16.5億ドルとのことなので、(円が下がってますが、119円として)2000億円弱。
「まだやっと回線費用が広告費でまかなえるようになった程度の会社が2000億円!」、と、びっくりする方も多いと思いますが、Googleの時価総額1,304.2億ドルの1.3%程度なので、すでに世界10位(alexaベース)のトラフィックを集めるサイトの価格としては、安いっちゃ安いかも知れません。
記事では、「19ヶ月前に設立されたばかりの社員67人の会社のディールは、インターネット・エコノミー上のランドマークになるだろう」とも言ってます。
Sequoia CapitalがYouTube株の30%を持ってるそうで。おめでとうございます。
また、同記事では、YouTubeによると、毎日のビデオ視聴は1億回以上とのこと。ページビュー換算だと少なすぎると思うので、pvではなく、「ビデオ」のみの視聴回数なんでしょうね。
また、Hitwise社のリサーチ結果として、9月の全米オンライン・ビデオ・サイトの46%のシェアを取っており、続いてNews Corpが買収した(SNSの)MySpaceのビデオが21%、Google Videoが11%、と報じてます。
当然、著作権訴訟等のリスクも心配されているわけですが、この勢いで、中長期的にアメリカの方でコンテンツに関する「ゲームのルール」が変わることになると、日本のテレビや映像・音楽コンテンツ業界にも、「原爆実験級」のインパクトがある・・・ような気もします。
(ではまた。)

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北朝鮮核実験と「その日」

北朝鮮が核実験を実行しました。
今から10年ほど前の97年2月に、38度線を見てきました。
「その日」が、また近づいた気がしますが。38度線に行ったときのメモ(下記引用部分、一部加筆修正)をもとに、その時の感想を、ご参考まで。
−−−
前日にソウル市内で、韓国の某シンクタンクに勤めるK氏、先日まで東大で教鞭を取ってらっしゃった朝鮮半島問題専門家のおねえさま、先日金融庁を退職した(らしい)某氏と4人で、夜メシを食っていたときの会話。
 

(韓国は徴兵制なので、みなさん学生時代に38度線に行ってるわけですが、)
K氏 「私も徴兵された時に板門店は行きました。”北”の方からスピーカーでいろいろ言ってくるんですよね。」
私 「それって、『君たちはアメリカの傀儡政権に毒されている〜』みたいなやつですか?」
K氏 「いや、そういうんなら別に驚かないんですが、韓国の政界、財界の腐敗状況など、われわれが知らないようなことまで教えてくれるんですよ。いや、あれ聞いてると勉強になります。(笑)
われわれが行ったときも、『××大学のみなさ〜ん、お勤めご苦労様です〜』ってね。(笑)
何で我々が××大学から徴兵された部隊だって知ってるの?って感じですが、全部漏れてるんですよ。」
私 「それって・・・ソウルの相当深部まで”北”側の人が入ってるってことですよね・・・。」

 
同じ民族で戦っている、というのはこういうことなんですね。
−−−
(今もたぶん同じだと思いますが)、38度線にいけるのは外国人観光客だけ。(韓国の人は北に逃亡する恐れがあるということか、行かせてもらえない。)
ロッテホテルの前からバスが出発。基本的に、行くのは、日本人と(なぜか)オーストラリア人だけ。
 

バスで板門店に近づくに連れ、窓の外を行き過ぎる男達の顔が引き締まっていくのが、如実にわかる。緊張の中にいる人間というのは、かくも顔が引き締まってくるわけですね。
争いの無い中でへらへらと暮らしている人間とは顔つきが違う。

そのとき、「人は、恐怖と隣り合わせでないと美しくなれない生き物なんだろうか?」と思いました。

板門店に向かう平原の中の主要道には、山もないのに、ところどころ、コンクリートで作ったトンネルのような構築物があります。
ガイドさんによると、
「あのトンネルのコンクリートの中にはダイナマイトが仕掛けてあり、非常時にはあれを爆破することで、北からの戦車の侵攻を30分だけ食い止めることができます。」
との説明でした。
30分!
3日でも3時間でなく、30分。
そのわずか30分の間に、北がどうやってそれを乗り越え、南が戦闘態勢を立て直すために、何ができるのか。
朝鮮戦争時の戦闘を体験したからこそ思いつく仕組みなんだろうな、と。

 
−−−
 

北を望む板門店の丘の上に立っていたとき、ガイドさんが「有事の際には、あそこから北朝鮮の戦車が侵攻してきます」と説明。
朝霞の中を、その丘を越えて「キャタキャタキャタキャタ」と戦車の大群が侵攻してくるのを想像しただけで、全身の血の気が引いて、喉のところにグッとモノが詰まったような感じに。
「その時」に、自分が銃を持ってこの場に立っていたら、足がガクガクガクどころか、今までの人生で体験したことがないような恐怖を感じることになるんだろうなあ、と。

 
そう。朝鮮半島は、ただ「休戦」しているだけの「戦場」。
もちろん、戦闘状態にある戦場とはまた違うのでしょうけど、テレビで見て「戦場とは何か」を理解してたのと、「その場」にいるのとはまるで違うことが、(ほんのちょっとだけ)体で分かった気がしました。

“南”側の守りには、軍事境界線から幅何KmかのDMZ(非武装地帯)のすぐ後ろに世界最強の米第八軍がいます。
38度線からちょっと南の空軍基地で、F14だかF15だかが、24時間・365日、エンジンを回しっぱなしで待機してるわけです。
しかし、DMZの中には、拳銃以上の武器は持ち込めません。
ツアーのガイドさんは、
「有事の際には、後方の部隊が、45秒で軍事境界線(国境)まで到達できるように待機しています。」
と言っていました。
45秒!
しかも、後で説明をしにきた軍の広報担当者は、
in thirty-eight seconds
と言っていました。
訓練の成果で、記録は7秒縮まっていたようです。

(おしまい。)

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(続)本日の物欲(DoCoMo M2501)

昨日のエントリを書いている間に、FOMA M2501 High-Speed
Docomo_M2501.jpg
という通信カードを発見して、物欲がフツフツと湧いてきたので、早速、午前中から近所のドコモショップに行って、衝動買いをして参りました。(昨日ご紹介した、ソフトバンクのカードは、12月発売とのことなので、待ちきれず・・・。)
代金は19,000円ちょっと。
最大3.6Mbps出るという「FOMAハイスピードエリア」は、下記
FOMA_High_Speed_map[1].gif
のとおり、平成18年8月末時点で23区内(一番濃い赤)、平成18年10月末までで東京近郊の政令指定都市が入るくらい(次に濃い赤)まで拡大されるとのことなので、本日現在、我が家がまだ「ハイスピードエリア」に入ってるかどうか不安でしたが、スピードテストのサイトで計ったところ、実効スピードは500Kbps以上。(ということは、すでに「ハイスピードエリア」に入ってるということですな。)
もともとFOMAの電波のアンテナが1本立ったり立たなかったりという家なので、ちゃんと電波が飛んでるところに行ったら、もうちょっと出るかも。
(「FOMAハイスピードエリア」でない、タダのFOMAのエリアでも、最大384K出るそうで。)
体感で、現在使ってるauのカード
AU_w01k.jpg
より、数倍早い感じがします。
これで、たいていの国でローミングもできるとなりゃ、大変結構ですね。
(ご参考まで。)

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本日の物欲(ソフトバンクC01SI)

携帯のナンバーポータビリティが始まるので、現在使っているドコモから、AUかVodafoneに乗り換えようか、とずっと考えておりました。が、「Vodafone」は「ソフトバンク」ブランドになって、「美咲さん」がいなくなっちゃったようなので、ちょっと気持ちが萎えておりましたが、先月末に発表になったコレ
Softbank_C01.jpg
は、ちょっと物欲をくすぐられます。
国際ローミング
私、海外出張に行きまくり、という仕事っぷりでもないのですが、出入国でバタバタしてるときに、成田でドコモのWorldWing のカウンタで携帯を(タダとはいえ)借りたり返したり、SIMカードを抜いたり刺したり、というのも面倒。(飛行機の中で、ちっちゃいSIMカードを差し替えようとしたら、ポロっと落としてどこ行ったかわかんなくなっちゃった・・・なんてことになったら最悪であります。)
ということで、できれば、いつも使ってる携帯&電話番号が、世界中どこででも使えたら、うれしい。
ソフトバンク(Vodafone)は、国際ローミングがそのまま使える機種が大半、というところが魅力。auの電話機だとヨーロッパは使えないようですし、そもそもデータ通信の料金が見当たらない。
また、(先日、FAXの使用がほとんどゼロ、という話をいたしましたが)、よくよく考えると、携帯電話をかけることもかかってくることも非常に少なくなってる今日この頃。(つまり、仕事上の連絡がほとんどメールになってます。)
海外でも、電話を最も使うのは、インターネットの接続ですが、これも、ホテルの部屋でブロードバンドが使える場合はそれを使うでしょうし、電話のモジュラーがあれば、現地のダイアルアップのアクセスポイントに接続したほうが、料金はぐんとリーズナブルなはず。
ただ、どこにいても携帯カードでアクセスできるというのは、やはり魅力ではあります。
この「C01SI」というカードが、国際ローミングに対応してるのかどうか、ソフトバンクのサポートに問い合わせたところ、「すみませんが、今のところ対応するかどうか、という情報は入ってきてません〜」とのお答え。
ぜひ、対応してください!
通信スピード
この「C01SI」、W-CDMAの他にHSDPA方式にも対応してるようで、通信速度は「3Gハイスピード(HSDPA)」で下り最大3.6Mbps、上り最大384Kbps、W-CDMAで下り最大384Kbps、上り最大64Kbps、とのこと。
現在使ってるauのカード
AU_w01k.jpg
だと、下り最大2.4Mbpsということになってるのですが、最近、よくて数百Kの下のほうしか出ないような気がします。
C01SIは、実効でどのくらいスピードが出るのか、確かめてみたい願望がフツフツと。
(ソフトバンクのカード・・・使ってる人が少ないと、すごいスピードが出るような気もします。もちろん、海外では3.6Mなんてところはほとんどなくて、よくて384Kでしょうけど。)
モバイルSUICA、等
以下、音声通話の携帯のお話。
まず「felica系」のお話ですが。
すでに私のドコモの携帯には、「モバイルSUICA」の他、「Edy」、(ビックカメラのポイントカードも)がFelicaに乗っており、これはも〜手放せない。
auはこの点はクリア。
Vodafoneは、モバイルSUICAにも対応してなかったので論外でしたが、ソフトバンクになってからは対応する模様。Edyとかビックカメラとかはどうなるんでしょうか。
Bluetooth
携帯のBluetoothって、コードレスのイヤホン以外、何に使うんだろと思ってたんですが、車のカーナビがBluetooth対応してると、コードでつながなくても(つまり、ポケットやカバンに携帯を入れたままで)「ハンズフリーフォン」が使えるんですね。
ただ、例えばトヨタのメーカーオプション・カーナビを見ると、ドコモとauのBluetooth対応機種はハンズフリーで使えるのに、VodafoneのはBluetooth対応機種でもハンズフリーが使えないんです。(どういうことでしょ?)
−−−
ということで、ナンバーポータビリティへの私めの取り組みといたしましては、当面、音声はドコモのままとし、ソフトバンクの「C01SI」が発売される12月上旬にそれを購入して使用しつつ、徐々に、音声のキャリアをどちらにさせていただくか決めようかな、と考えております。
(ご参考まで。)
(追記19:26)
不勉強で、今気づきましたが、ドコモからすでに、HSDPA対応の、M2501
Docomo_M2501.jpg
ってのが出てますね。
「GSM・GPRS対応で、83の国と地域でデータ通信が利用可能です。」とのこと。
(あ・・・新たな物欲が・・・。)

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産業構造とブログ(葉玉さん引退に思う。)

先日、著名ブロガーの方々数人と、米国の「ブログネットワーク」みたいなものについての意見交換を行ったのですが、その際、私が思った最大のギモンは、「(単なる感想文とか何食ったとか日記とか、でない)『個』として意見を述べるようなブログは、今後も増えていくのかしらん?」・・・・つまり、「中身の濃い(「ヘッド型」の)」ブログをネットワーク化するのはいいとして、そのパイ(マーケット規模)は、今後もどんどん増えていくのかしらん?また、そのパイを前提とするビジネスモデルは、成立するのかしらん?ということでありました。
少なくとも、今のところ日本では、中身の濃い読みがいのあるブログが次から次に出てきて、読みきれなくて困っちゃう・・・ということは無いような気がするので。
「niftyのフォーラム」とか「ホームページ」や「メーリングリスト」も、最初に主だった人たちがやりはじめて、一定の時間が経つと、出尽くし感が漂ったねえ、というような話も出ました。
そんな中、先月まで法務省民事局にお勤めだった葉玉さんがついにブログ(会社法であそぼ)から引退されることに。
http://kaishahou.cocolog-nifty.com/blog/2006/09/post_2109.html
10月2日付で、東京地検特捜部に異動されたとのこと。(9月中旬からライブドアブログから移転されたので、なんでかなーと思っていたのですが・・・・東京地検特捜部でライブドアブログはまずい(笑)とというお考えだったんでしょうか。)
私は、会社法の施行という「天地がひっくり返るようなこと」が、これだけスムーズ(?)に行えたのは、この葉玉さんのブログの存在なくしては、(つまり、タテマエしか書いてないお役所風冊子を配ったり、時々説明会をやったり、といった旧来型のコミュニケーション手法だけでは)、ありえなかったと思ってます。
検事さんの世界のことはよく存じませんが、「ご栄転」だと思いますので、おめでとうございます。新しい職場でのご活躍をお祈り申し上げます。
大組織でブログを書くのは難しい
日本だと、(特に世間で「優秀」とされる方ほど)大組織に属してることが多いわけですが、大組織だと、いろいろ考えると、やはりブログで自分の意見を述べるというのは、一般的に非常に難しいはず。自分の直接の仕事には関係なくても、自分の所属する組織全体を見渡すと、誰かがやっている仕事に関係することも出てきてしまう可能性が非常に高くなるので。
法律職の方のブログというのも非常に多いですが、やはり、独立して事務所をやってる弁護士の方や、大手の事務所でも海外留学中の方が多く、大組織に属しながら実名で、というのは極めて例が少ないのではないでしょうか。葉玉さんもおっしゃってるとおり、かなり特異な「職場や上司のものわかりのよさ」がないと、大組織にいながら「個」として情報発信するというのは、日本の雰囲気ではキビしいはず。
監査法人に勤めながら実名でブログ、という人も非常に少ないと思いますし、一般の経済人でも、大企業勤務で実名ブログという人はほとんどいなくて、「ベンチャーの社長」だったり、「大学教授」だったり、独立性がある(勝手にモノが言える)ポジションの方が多いのではないかと。
フリーエージェント社会とブログ
ということは、さらに言えば、「読み応えのあるブログが多いかどうか」は、日本全体の産業構造にも関連するかもしれないな、と。
おっしゃっていた方が、ダニエル・ピンクだったか、渡辺千賀さんだったか忘れましたが、カリフォルニア州では、すでに労働人口の4割(だったか)は、独立事業者や臨時雇用者などの「フリーエージェント」であり、全米でも4分の1程度はそういう独立事業者などになっているとのこと。
つまり、労働人口のうちに占める「フリーエージェント」の比率が高い社会になっていかないと、結局、「勝手に情報発信する」という人がどんどん出てくるということにはならないし、今後、読み応えのあるブログがどんどん増えていく、といったことにはならないのかも知れないですね。
(ではまた。)

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