レプワラと税務

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(追記あり:3/30、12:45)
一昨年、フジテレビはライブドアに対して約440億円を出資し、ライブドアの上場廃止で結局それを昨年の3月にUSENの宇野氏に約95億円で売却して約345億円の売却損を平成16年3月期に計上しました。
昨年3月29日の日経新聞の報道で、フジテレビは発生した損害の補償を求める催告書をライブドアに送付した、とのことですが、それから1年経った今週26日に損害賠償を求める訴えを東京地裁に起こしています。
この一連のアクションを(法律的に、はさておき)税務的に見るとどうなんだろう?というのが本日の疑問であります。


フジテレビのプレスリリースのURL:
http://www.c-direct.ne.jp/japanese/uj/pdf/10104676/00057774.pdf
 
以前のエントリでも申し上げたとおり、フジテレビはニッポン放送騒動のさなかには、ライブドアのTOSTNETでの取得等を指して「違法なことをする会社」と公言していたわけで、当然、440億円出資の際のデューデリジェンスでも厳しく調査する義務があったし、おそらく実際にもそうしたことでしょう。
過去の決算において、本業以外の投資事業組合への投資のリターンが売上のかなりの部分を占めることについても、当然、突っ込まれたのじゃないかと思いますので、前述のエントリのとおり、私はこのデューデリで何かを発見して投資が中止になるという事態も想定していたんですが・・・投資は実行されました。
当然、監査法人にも開示されなかった資料がデューデリ担当者に開示されたとも思えないですし、デューデリですべてがわかるわけじゃありません。
そこで次はもちろん、投資時の契約の「表明と保証(representation and warranty)」の項で、
「本投資に関連してライブドアがフジテレビに対し開示した書類は、全ての重要な点において、真実、かつ真正である。」
というようなことが表明され、
「本条の規定に反する事実が発見された場合はフジテレビはライブドアに損害賠償請求することができる。」
というようなことが保証されているはずです。
また、証券取引法18条、19条で、

第十八条  有価証券届出書のうちに、重要な事項について虚偽の記載があり、又は記載すべき重要な事項若しくは誤解を生じさせないために必要な重要な事実の記載が欠けているときは、当該有価証券届出書の届出者は、当該有価証券を当該募集又は売出しに応じて取得した者に対し、損害賠償の責めに任ずる。ただし、当該有価証券を取得した者がその取得の申込みの際記載が虚偽であり、又は欠けていることを知つていたときは、この限りでない。
2  (略)
第十九条  前条の規定により賠償の責めに任ずべき額は、請求権者が当該有価証券の取得について支払つた額から次の各号の一に掲げる額を控除した額とする。
一  前条の規定により損害賠償を請求する時における市場価額(市場価額がないときは、その時における処分推定価額)
二  前号の時前に当該有価証券を処分した場合においては、その処分価額

2  前条の規定により賠償の責めに任ずべき者は、当該請求権者が受けた損害の額の全部又は一部が、有価証券届出書又は目論見書のうちに重要な事項について虚偽の記載があり、又は記載すべき重要な事項若しくは誤解を生じさせないために必要な重要な事実の記載が欠けていたことによつて生ずべき当該有価証券の値下り以外の事情により生じたことを証明した場合においては、その全部又は一部については、賠償の責めに任じない。

と定められているので、上記下線部のとおり、フジテレビが被った損害額の算定も容易。
会計上は、保守主義の観点から、ライブドア株式の売却損が出たときにそれを全額損失として計上するのが正しいと思いますし、実際にフジテレビさんは、平成18年3月期の有価証券報告書で約345億円の特別損失(投資有価証券売却損)を計上。「法人税、住民税及び事業税」の額も、その前の期の171億円から52億円に大きく減少しています。
一方、ライブドアは上場廃止時には、(予想される損害賠償請求に関わる偶発的なものを除けば)負債もほとんど無く、キャッシュはたんまり持っていたので、法令上も投資契約上も、この損害額が戻ってくる可能性はかなり高かったと言えます。
フジテレビはなんで上場廃止になってすぐ裁判を起こさなかったんでしょうか。
控訴されたとはいえ一審判決で有罪が出てからの方が、裁判所も虚偽記載についての判断が容易で効率がいいと判断した、と考えるのが素直な見方でしょう。
一方、この回収の確実性が高いのであれば、税務的に見ると、このライブドア株による損失は大きな課税繰延効果を発生させることになります
(345億円の約4割として138億円。)
ここでふと思ったんですが、税務当局から、
「これは法律でも投資契約書でも明確に保証されている権利で、損失が確定した平成16年3月時点で損害額についてライブドアから弁済を受ける権利が既に発生している。つまり、権利確定主義をとる税務上は、平成16年3月期に保証による益金345億円を計上すべきだった。」
というようなチャレンジを受ける可能性は無いでしょうか?
もしそういう可能性があるとしたら、投資で損失が発生した方にしてみれば、損失は発生するわ税金も取られるわで踏んだり蹴ったりであります。
一方、そういう可能性が無いとしたら、キャッシュ・リッチだが近々重大な虚偽記載が発覚する可能性の高い企業に投資するというのは、「究極の節税商品」・・・かも知れませんね。(冗談)
(証取法18条1項の後段で、この虚偽記載を知っていた場合には損害賠償を受ける権利がなくなるとしているので、怪しさを知っていればいるほど、損失発生の確実性は高まりますが、保証を受けられないリスクも高まります。)
いずれにせよ、通達、裁決事例等を詳細に調べたわけではないので、思い付きのメモとして。
(どなたか、こういったケースの税務上の取り扱いについてご存知のことがあれば、ご教示いただければ幸いです。)
ではまた。
(追記:3/30、12:45)
QWERTYさんからコメント欄で教えていただきましたが、通達が出てますね。
どうもありがとうございました。

通謀虚偽でもない限り、法人税基本通達2−1−43の
後段の取扱いということで、大丈夫だと思います。

http://www.nta.go.jp/category/tutatu/kihon/houjin/02/02_01_06.htm
(損害賠償金等の帰属の時期)

2−1−43 他の者から支払を受ける損害賠償金(債務の履行遅滞による損害金を含む。以下2−1−43において同じ。)の額は、その支払を受けるべきことが確定した日の属する事業年度の益金の額に算入するのであるが、法人がその損害賠償金の額について実際に支払を受けた日の属する事業年度の益金の額に算入している場合には、これを認める。(昭55年直法2−8「六」により追加、平12年課法2−7「二」により改正)
(注)
 当該損害賠償金の請求の基因となった損害に係る損失の額は、保険金又は共済金により補てんされる部分の金額を除き、その損害の発生した日の属する事業年度の損金の額に算入することができる。

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4 thoughts on “レプワラと税務

  1. 通謀虚偽でもない限り、法人税基本通達2−1−43の
    後段の取扱いということで、大丈夫だと思います。
    (損害賠償金等の帰属の時期)
    2−1−43 他の者から支払を受ける損害賠償金(債務の
    履行遅滞による損害金を含む。以下2−1−43において
    同じ。)の額は、その支払を受けるべきことが確定した
    日の属する事業年度の益金の額に算入するのであるが、
    法人がその損害賠償金の額について実際に支払を受けた
    日の属する事業年度の益金の額に算入している場合には、
    これを認める。
    (注)当該損害賠償金の請求の基因となった損害に係る損
    失の額は、保険金又は共済金により補てんされる部分の
    金額を除き、その損害の発生した日の属する事業年度の
    損金の額に算入することができる。

  2. QWERTYさん、
    その通達にちゃんと書いてあったんですね。失礼しました。
    損害賠償金の支払いというのはモメるところだから、そうでないと困りますね。
    どうもありがとうございます。
    (ではでは。)