「小が大を呑む合併」とは何か(その2)

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先々週の「華麗なる一族」(「大川先生」の回)を見逃した磯崎です。
先日の「『小が大を呑む合併』とは何か」には、多数のコメント、トラックバックをいただきまして、ありがとうございました。
中でも、あかはね@Fujisan.co.jpさんのコメントが力作かつ大変示唆的だったので、本文に引用させていただければと思います。

僕は三井信託銀行にいて、中央信託銀行との合併を経験しました。この合併は、当初はまさに小が大を飲み込む合併だったと思います。
三井信託銀行
+ 預金量大、店舗数多、顧客数多、従業員数多
− 不良債権大、規模の割に収益力低い、株価低い
中央信託銀行
+ 不良債権小、株価高い(流動性が低かった)
− 預金量小、店舗数少、顧客数少、従業員数少
両行の要素が上記のとおりだったとことを考えると、大とは一言で言うと「図体(ずうたい)がでかい」という感じでしょうか。
参考までに3つ面白い現象がありました。
一つは、図体がでかいの中の「従業員数多」の部分です。従業員全員が烏合の衆なら別ですが、そうでなければ一定比率優秀な人は存在します。つまり従業員数が多ければ、優秀な人も多いのです。その人たちが呑み込まれてたまるかと必死になった時、形勢が変わります。小が大を呑み込んだものの、体内で吸収できず、逆に体を乗っ取ろうとする現象が起きます。その結果、合併が破談になる場合もあれば、結局大が小を呑み込んだ形に実態上なる場合もあります。三井信託銀行と中央信託銀行の合併の場合は、後者になりました。これを考えると、小が大を呑み込む場合、小には、大の優秀な人材群を超える少数精鋭が必要なのかもしれません。

結局、普通にやってくと人数が多い方が勝っちゃう、ということですね。
旧長銀の とあるエラい方は、
「結局、銀行の合併は行員数が多い方が勝つに決まっているから、単に経営統合して生き残ろうなんてことを言うやつがいるけど、アホだ。長銀は投資銀行化していくしかない。」
というビジョンを、まだ長銀がかなり体力がある昔に掲げられてましたが、少人数の長銀の中でさらに投資銀行的なマインドの人は少数派で、多くの人は不動産を担保に貸付をするというような国内業務をやっていたので、結局このビジョン自体が立ち消えになって、普通の銀行と同じような「量の拡大」に走っちゃった結果がアレ、ということかと思います。
また、最近、「みずほフィナンシャルグループの中でも、旧興銀の人がかなり主要ポストで活躍しているらしい」というウワサを聞いたんですが、みずほさんの例というのは、もしかすると、「小が大を呑む合併(経営統合)」だったんでしょうか。
(外からでは、何がどうなってるのか、さっぱりわかりませんが。)

2つめは、「思考スタイル」です。大は業界上位にいるので、常に「当行はどうすべきか」という視点で考えるという思考になっています。一方、小は業界下位なので「上位にならう、上位の出方を伺う」という思考になっています。その結果、小が大を呑み込んだとしても、小が急に「当行はどうすべきか」と考えることができず、結果大のメンバーがリーダーシップを取るという現象が起きます。
これも上記同様少数精鋭、山椒は小粒でもピリリと辛いみたいな集団だと違うのかもしれません。

「志」とか「戦略構築力」みたいなところですかね。

3つめは「システム」です。合併の場合、システムは基本3パターン。三井信託銀行のシステムを使う、中央信託銀行のシステムを使う、全く新しいシステムを作るのいずれかです(両行のシステムをブリッジする場合もありますが、これは一時的なものですね)。合併後のシステムとして、いかに自行のシステムを採用させるか、実はこれは非常に重要です。なぜなら現在の銀行業務はシステムと密接な関係にあり、一からシステムを覚えなければいけない⇒当面は役に立てない⇒合併後のバタバタと、両行の軋轢で教えてもらえない⇒時間が経っても役に立てない⇒追いやられる、という結果が待っているからです。なので、合併後に小のメンバーが優位に立つためには、優れたシステムを持っていることも重要かもしれません。
ま、全ては結果学んだことで、当時は全く予測できませんでした。
一年後の4/1に合併すると発表され、合併ってどうやればいいのか全く分からず、「まじで、ドラえもんのどこでもドアで、一年後を見たい」と思ったのを覚えてます。

今まで、金融機関の統合で、「人事部が2つある」とか「たすきがけ人事」とかいう話を聞くにつけ、なんてアホくさいんでしょ、公開会社なんだから、まずは企業価値が上がるように行動すべきで、中の人間がどのポストに着くかなんてのは二の次では?と思っていたんですが、
結局、金融機関というのは「巨大な情報処理装置」で、やってることはどこも基本的には似たようなことなので、その統合というのは、「広い意味での情報処理方式として、どちらのものが生き残るか」、または「ミーム」のぶつかり合いであって、その「情報処理の遺伝子」の感染力が強い方が勝ちのこる。
勝つためには「数」も重要だが、感染力(情報処理)的な「強さ」も重要だし、何よりシステムという「スタンダード」を取れるかどうかで、ドミノ倒し的に勝負が決まってしまう(OSが二つ要らないのと同様、処理方式は一つでいい)、ということでしょうか。
(なるほど、なるほど。)
大変、勉強になりました。ありがとうございます。
(ではまた。)

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8 thoughts on “「小が大を呑む合併」とは何か(その2)

  1. 半年ほど前から読ませて頂いているものです。はじめてコメントをさせて頂きます。
    <本文引用>
    一年後の4/1に合併すると発表され、合併ってどうやればいいのか全く分からず、「まじで、ドラえもんのどこでもドアで、一年後を見たい」と思ったのを覚えてます。
    <本文引用終>
    あかはね@Fujisan.co.jpさんのコメントですが、「どこでもドア」ではなく「タイムマシン」ではないでしょうか?しょうもないつっこみですいません。

  2. 日本金融村で暮す人間には あまりにリアルなお話でした。金融業は 今や、システムという名の巨大装置産業なんですよね。

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    404Blogさんのケータイ!=小さなPCは 
    上記の例外処理=プロとアマの違いを 咀嚼(そしゃく)してから読むと 実に味わい深いのである。
    この サラ…

  4. システムを使いこなせない側が不利というのは,社会人の経験から非常によく分かる気がしますねえ。

  5. 本文中で金融機関というのは「巨大な情報処理装置」と言っている意味が分かりません。
    当方まだ学生なのですが、教えていただけませんか。

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