社外取締役は役に立つか?(キヤノンのケースで考える)

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社外取締役は役に立つんでしょうか?


 
商法上の社外取締役の要件は、ざっくり言うとその会社や子会社に勤めたことがない人、ということですから、そのへんを歩いているオッサンを連れてくれば、ほぼ100%の確率で社外取締役の要件を満たします。
つまり、ある企業1社の社外取締役候補の数は約60億人。(笑)「社外取締役は役に立つか?」というのは非常にアホな疑問ですね。「人による」わけです。
御手洗氏のご発言に学ぶ
7月22日の金曜日の日経朝刊に「会社とは何か」という日経シンポジウムで、CSファーストボストンの大楠氏、伊藤忠の丹羽会長、キヤノンの御手洗氏、アベグレン氏の発言された内容が載ってました。

司会 キヤノンは実力主義を導入する一方、終身雇用を残しています。企業統治では委員会等設置会社などの米国型を選ばず、日本型にこだわっていますね。
御手洗 重要なことを決める全役員出席の会議に監査役も出て議事録にサインします。そして一年かけ、議事録と実際が一致しているか監査します。年四十−五十回の会議に出席しなければ話がわからない。ところが社外取締役は時間は割けない。月に一回来るだけで経営構造を監督するというのは幻想です。監査役制度で十分ガバナンスが利いています。

トヨタさんとかキヤノンさんとか、業績もよく社員のクオリティやモラルも高い会社さんの話が全上場企業に通用するか、というと、また話は別だと思うんですよね。
先日、「私、”監査役”ということになってますが、実際は技術開発のトップを兼務しています」という(上場企業の!)方の話を聞いて、ヘナヘナと腰の力が抜けました・・・。
−−−
さて、先ほどの御手洗氏の発言をよく読んで考えてみると、いくつかのことがわかります。
まず、御手洗氏は、(社外取締役はともかく)、監査・監督機能自体を否定されているわけではないんですね。
次に、「社外取締役は時間が割けない」とありますが、社外取締役の候補は60億人くらいいるわけで(笑)、中には時間が割ける社外取締役候補の方もいらっしゃるんじゃないかと思いますが、どうなんでしょうか。
「その会社に何十年勤務した人じゃないと話がわからない」と主張されるならもうどうしようもありませんが、もし「年四十−五十回の会議に出席」すればなんとかなるという話であれば、毎週一回来られる方を探せばいいと思うんですよね。
また、商法特例法では(今年の5月1日から)監査役の半数以上は社外監査役でないといけないことになってます。「重要なことを決める全役員出席の会議に監査役も出て議事録にサインします」というご発言と、「月に一回来るだけで経営構造を監督するというのは幻想」という(ある意味社外監査役の方に失礼な)ご発言を考え合わせると、もしかすると社外監査役は取締役会にはまったく出席されてらっしゃらないのかも知れませんね。
もし社外監査役の方が出席してるんだったら、その方を「社外取締役」と名前を変えれば、今と同じレベルのガバナンスができるはず、というのはおわかりになるはずですから。
キヤノンの有価証券報告書に学ぶ
キヤノンの役員の方を有価証券報告書で調べてみると、以下の通り。
image002.gif
(出所:キヤノン株式会社第104期有価証券報告書より引用、一部加工。)
生年月日データから年齢を計算させていただきましたが・・・すごいですね。平均年齢60歳。一番年下の方が54歳。(きっと「若手」とか呼ばれてらっしゃるんでしょうね。)
確かに、この方々にご意見申し上げる社外取締役を捜してくるというのは、結構難しいかも知れません。というか、私もキヤノン製品をいろいろ愛用させていただいておりますが、こうした年齢の方々がトップでありながら、若者にもウケる製品を開発できる組織を構築されているというのは、逆の意味ですごいことだと(皮肉ではなく真面目な意味で)感動します。
(ではまた。)

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7 thoughts on “社外取締役は役に立つか?(キヤノンのケースで考える)

  1. 御手洗さんのことをとりあげていただいて、ありがとうございます。
    キヤノンは、法的な事は置いておいて、株主的には突っ込みどころ満載な所だと思いますよ。
    村上さんの出陣を待ってます。

  2. Check and Balance – 2005/7/25

    有名ブログ、isologueの社外取締役に関するエントリー。キャノンの御手洗社長がインタビューで「社外取締役は必要ない」といった考えを披露されているそうだ。
    本件については、そもそも「取締役会にどのような機能を期待するか?」という問題に行きつくように思う。僕…

  3. ろじゃあです。
    結局は、磯崎さんが言うように
    「全上場企業に通用するか」というところに逢着するのではないかと。
    ところで・・・何かいつもの磯崎さんとタッチが違うようで・・・
    「大気瘴気症候群」とお見立てしたのですが違いますでしょうか・・・?(^^;)
    その後、トーリー監督はグランドに出てきているのでしょうか、しばらくベンチでしょうか。
    日経をよく読んでないものでよくわかりませぬ。
    ひとかたならぬご心痛はおありかと存じますが、ご自愛くださいませ。

  4. はじめまして、弁護士の47thさんの友人のdaisukeと申します。今回のエントリー、思うところがありましたので、恐れ多くもトラックバックさせていただきました。今後とも宜しくお願いいたします。なお、先日47thさんとお会いされた際のご本人に関する描写、納得してしまいました…(笑)

  5. 取締役会

    投資、株式関係のブログでは有名なISOLOGUEさんの7月23日のブログに社外取締役に関する文章があった。投資銀行の仕事をしていて直接的に、取締役について、考えさせられた経験は今に至るまで、あまりなかったかもしれない。いい機会なので、ちょっと考えてみた。
    同じ汐..

  6. はじめまして、少し前から磯崎さんのブログ読ませて頂いております。今回初めてTrackbackさせて頂いております。ファンド系の方とは別の視点にて、日本の伝統的な優良企業も顧客とさせて頂いている立場からコーポレート・ガバナンスを考えてみました。東大の岩井克人教授の本の影響もちょっとあるかもしれません。