ルーカスと映画産業

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スター・ウォーズ トリロジー DVD-BOXを買ったんですが、これがものすごくすばらしい!


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IV・V・VI以外に「BONUS MATERIAL」というオマケディスクが付いているのですが、この内容がすばらしいんです!このディスクだけでもお値段(6,480円)の価値があると思います。
ありがちな「メイキングもの」かと思ったのですが、映画産業にジョージ・ルーカスおよびスターウォーズが与えた影響を克明に理解することができ、ビジネススクールのケースとかプロジェクトX並、というかそれ以上の濃い中身です。スピルバーグをはじめ、現代映画産業の主要な登場人物のインタビューも。
スタートは1970年代まで遡るんですが、ルーカス曰く、「1970年代は、映画会社の創業者が退いて、映画会社が他の産業に買収された時代」で、そうした食品会社などの異業種は、映画制作のことがよくわからないので、調査やマーケティング手法でいろいろ分析した結果、「若者をターゲットにすることが必要だ」ということになり、ルーカスやスピルバーグなどのをはじめとする若手の監督が起用されるきっかけとなった、とのこと。
つまり、M&Aが業界活性化のトリガーになったわけですね。
その後、ルーカスは「アメリカン・グラフィティ」で大ヒットを飛ばしてスターウォーズの制作に取りかかるわけですが、ポイントは、V・VIという続編の制作権を20世紀フォックスに与えなかったことと、関連グッズの商品化権という注目度の低かった権利を手元に残したこと。交渉相手との選好関数とか期待キャッシュフローの違いを認識して、戦略法務的な交渉をしたところがミソですね。
スターウォーズとその関連グッズによって、自己資金が潤沢になったルーカスは、Vの制作に入り、資金が足りなくなりかけたわけですが、そこでも20世紀フォックスに口出し権を与えたくないために「エクイティ」ファイナンスは行わず、銀行からのデットファイナンスでしのいだ、というところがまたポイント。
こうしたアートの領域のマネジメントでは、アーティストとビジネスマンの利害が激しくぶつかるわけですが、こういう場ではこういうルーカスのようなアートとビジネスの両方がわかる人材というのはホントに貴重です。
ルーカスは、今はヒゲをたくわえて温厚そうな風貌なので、その人間的魅力でスタッフを引きつけていく「親分肌」な人かと思っていたのですが、インタビューを聞いていると、むしろ「ネクラ」「オタク」「無口」という言葉の方が当てはまる方のようですね。「ヨーダのような」哲学的な人だ、という評も。
また、ルーカスは「ハリウッド的なやり方が嫌いだった」というのが、ちょっと意外でした。日本では、「日本の映画産業のやり方はダメで、ハリウッド的なやり方が・・・」というような議論が行われますが、現在、いい意味で「ハリウッド的」と言っているカルチャーやファイアンスの慣行の大部分は、大昔から存在したのでなく、ルーカスが作り上げてきたということがわかります。「エクイティ」部分を映画会社に渡さず、銀行からのファイナンスでまかなうというのも、ハリウッド的には新しい挑戦だったようです。スピルバーグ(だったか)も、「スターウォーズはハリウッドの映画制作自体を根底からくつがえした」というようなことを言ってます。
また、ILM(Industrial Light & Magic)やTHXSkywalker Sound PIXER(後に売却)などを作って、編集・特殊効果・音響効果・CGアニメ等の広範な分野でハリウッドに多大な影響を与えてきたこともよく分かります。
ルーカスは、「エクイティ」を他人にわたして、作品や経営に口を出されるのを極度に嫌っているようで、「ガバナンスされていない」人なわけです。一方で、「彼は非常に優秀なジャーナリストでもある」という評がありましたが、神話の研究者など、参考になる意見はすべて専門家の意見を聞いて回るようです。こういう「独裁者型」の場合には、人の意見を聞く人でないと成功しないのかも知れません。
このディスク、映画に限った話ではなくて、他のアートや「アート的状態」(state of the art)にある初期の産業領域に取り組むベンチャーのマネジメントなどにも非常に参考になるところがあるんじゃないかと思います。
何か未知の新しい領域にチャレンジしようとされている方には、必見ではないでしょうか。
(ご参考まで)

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