ニッポン放送買収の社会的・経済的インパクト

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公平を期すためというわけでもないですが、ライブドアさん側の観点からも何か書けることはないかというのは当初からずっと考えていたのですけれども、
ライブドアさんの観点に立つと、
「直前の6800円より行使価格が低いのはおかしい!」
「取締役は、ライブドアの提案を全く検討せずにフジサンケイグループに残る方がいいと頭から決めてかかってて、ちゃんと株主のために検討しているのか?」
という非常にわかりやすい一言に尽きてしまって、(これってもう巷で語られ尽くしてますし)、それ以上私が掘り下げる余地がちょっと見つかりません。
また、有利発行かどうかという点については、オプション的要素が含まれていたり、いろいろイジクリようもあったのですが、今回の仮処分申請の争点で一番重要な論点とに考えられる「不公正な発行かどうかに」等、その他のことについて掘り下げようとすると、過去の判例とか学説とか完全に弁護士さんの領域に突入してしまいますので、ちょっと私の分を超えてきます。
ものすごい教育効果
ただ、これだけは言えるのは、今回のライブドアさんによるニッポン放送買収が社会に与えた教育効果は計り知れない影響があっただろうということ。ワイドショーや夕刊紙にまでM&Aについて掲載されて、お茶の間にまで「TOB」とか「新株予約権」とか「ホワイトナイト」とかいう用語が上がり込んできたわけです。
日本銀行金融経済統計の「資金循環」によると、日本の個人金融資産は1,411兆円(2004年 9月末速報)。
この資産は、下図のように半分以上が銀行や郵貯を通じて、必ずしもパフォーマンスのよくない第三セクターや民間企業に投資されてきたわけです。アメリカのように預金の比率を10%台前半まで落とせとは申しませんが、さすがにもうちょっと直接金融(下図で黄色っぽいところ)寄りに変更して、(一部の官僚や銀行員が資源配分をするのではなく)、広く国民が直接企業に投資をしたり、投信や年金等を通じて証券で企業に資金供給される世の中にシフトしないとあきまへん。
image004.gif
(出所:日本銀行資金循環勘定より磯崎がテキトーに作成。)
その場合に重要なのがやはり企業価値を上げて株主に報いるというベクトルを企業にいかに根付かせるかということじゃないでしょうか。
ただ、それって、どんなに偉い学者や官僚の方々が議論しても、国民の腹に落ちるにはほど遠そう。机の上のお勉強で「株主のことを考えるのが大事ですよ」といくら言っても、差し迫った危機感が無いと、内輪で固まっている取締役さん達の意識が変わるわけがない。
意識を変えるためにはやはり、「ヤンチャな企業が実際に我が社を買収するかも知れない」というほのかな恐怖感を経営者や社員のみなさんに味わっていただくのが一番。それによって、企業内に利益率を上げなきゃとか、資本効率を良くしなきゃとか、株価を上げなくちゃとかいう雰囲気が醸成されてくるんじゃないでしょうか。
買収への恐怖は資金効率を上げる
今回の「事件」で、この1400兆円が今後1べーシス(0.01%)うまく運用されるようになっても、1,400億円の経済効果。0.1%利回りがよくなれば1.4兆円の経済効果です。
ただ、日本の企業が同業の米国企業なんかと比べて時価総額が圧倒的に低いのを見ても、ホントに資本効率を高める気になったら、1400兆円の0.1%とかいうケチなバリューアップでは済まないかも知れませんね(と考えるのは楽観的すぎ?)
逆に、今回のこの「事件」がもしなかったとしたら、日本の上場会社は、ほとんど買収防衛策なんてものに興味を持たなかったり、または、現在の経営陣の保身の意図がミエミエの買収防衛策を導入したりしていたかも知れません。
今回の「事件」で、それではアカンというのが、どんな本よりわかりやすくお茶の間まで浸透したんじゃないかと思うんですよね。
またもし、企業が今まで通りボケーっとしてたままだったら、来年の会社法改正で外資にどんどん買収されちゃってたかも。期せずして「最高の予防注射」になったのではないでしょうか。
もしライブドアがいなかったら
以前も申しましたが、「もしソフトバンク(さん)がいなかったら」というのを考えてみると、ナスダックジャパンが日本に来ることも無く、それに触発されてIPOの敷居が下がることもなく、ライブドアをはじめとするベンチャーが球団買収に名乗りを上げるところまで力を付けるというような世界も無かったかもしれない。
また、ADSLも普及せず、このページをご覧の皆様も未だに56kのモデムで、「がーぴーひょろろろろー」とかやってたかも知れない。ナスダックジャパンはいなくなっちゃったし、ソフトバンクのブロードバンド事業もまだ成功とは言えないけど、「ソフトバンクがいない世界」がどんなにつまらなかったか、ということは容易に想像できると思います。
同様に、後から振り返れば、今回の「事件」でライブドアさんもそれと同じかそれ以上にすごいことをやったんじゃないでしょうか。
「あのときライブドアがニッポン放送買収に手を出さなかったら今の日本は無かった・・・」
と言われる可能性は、かなり高いと思います。
(・・・と、こんくらい褒めときゃいいかな?:-)

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8 thoughts on “ニッポン放送買収の社会的・経済的インパクト

  1. fujikoちゃんのコメント履歴を追っかけてみました。
    投稿者 fujiko : February 11, 2005 09:59 AM
     フジ側の意思が明確になりましたね。
     でもそんなの普通でしょう・・・。
    『渋い一手?フジテレビのTOB目標引き下げ』
    に関するコメント
    —-
    投稿者 fujiko : February 13, 2005 12:29 AM
     夜のテレビで社長自らのコメントとして、
    LDの意思も明白になりましたね。
    『ニッポン放送株式取得に関するLD社長の見解』
    に関するコメント
    —-
    投稿者 fujiko : February 13, 2005 03:46 PM
    社長本人が専門家なのでいわゆる外部アドバイザーとしての専門家はいないのでは?
    LD株主からの代表訴訟リスクを考慮してなかったのかしら?
    『ライブドアのMSCBとMPOについて、ちらっと考えてみた:「専門家」に聞いたのか?』
    に関するコメント
    —-
    投稿者 fujiko : February 16, 2005 01:06 AM
    金融庁はある程度想定したうえで今日釘をさしたのかしら・・・。
    機会不平等だと日本の株式市場の公正性が疑われるわね・・・。
    同日のLDのニッポン放送株取得に関する金融庁のコメントをうけての、
    『ニッポン放送株について(ライブドアと大和証券と村上ファンド)』
    に関するコメント
    —-
    投稿者 fujiko : February 17, 2005 02:13 AM
    その他の艦の所在は不明のようだけど、
    動き方次第でその艦のレピュテーションを
    決定することになりそう・・・。
    『艦長、敵艦捕捉不能ですっ!(ニッポン放送株:速報)におけるその他の艦』
    に関するコメント

    投稿者 fujiko : February 18, 2005 10:18 PM
    いまちょうどNHKで「時間外取引で大量にニッポン放送株が売りに出される」というLBの
    情報でLDは取締役会を開き・・・ということをいってたわ。
    LBの情報に乗った形でLDは動いたのかしら?
    『リーマンのライブドア株売却の「裏の裏」を読む』
    に関するコメント

    投稿者 fujiko : February 23, 2005 02:13 AM
    ルールの形成過程にあたっては、目ざとく隙を見つけて利益獲得
    機会ととらえ、法的リスクをおかしてもリターンを得ようとする貪欲なプレーヤー
    が必ずいるということ。
    期待感を維持しながら株主を妄信させることができればよいのでしょうけど・・・
    『野村證券のMPO開発者の移籍について』
    に関する追加のコメント

    投稿者 fujiko : February 27, 2005 06:40 PM
    そもそも論からいうと、今回の騒動はTOBがきっかけ・・・。
    フジ側は、「全体像を踏まえて全面的に争う」という姿勢を示し
    ているわね。
    論点は、TOBのあり方に軸足をおいたうえで、既存株主価値の
    価値をどのように捉えるかになるんじゃないかしら?
    フジ側がTOBの原則に軸足をおいてるのは明らかで、すでに既存
    株主との調整にはいっているわけで、フジテレビのTOB価格で応じ
    る姿勢をしめしている企業もあるようね。既成事実ができている状況。
    社外取締役によるコーポレートガバナンスの議論は、ことが終わって
    から出てくるような気がするわね。
    『企業買収とコーポレートガバナンス(ライブドア vs ニッポン放送)』
    に関するコメント

  2. ひとつだけ確かなことは、ライブドアがいようがいまいが、ニッポン放送買収もどきをしようがしまいが、加熱しているのは無知蒙昧な馬鹿個人投資家だけ。
    真面目な経営者は、皆さんとっても冷静です。
    だいたい、新株予約権とかTOBとか当たり前の話をいまさら騒ぎ立てるほうが、馬鹿丸出し。そんな連中が株式市場の主役だなどということこそ、日本の恥。資本市場がいつまでたっても効率性を獲得できない最悪の元凶。
    株式投資するなら、少しは基本から勉強して来い。

  3. こんなのもありました。
    投稿者 fujiko : February 11, 2005 11:24 PM
    30分で大半を取得したということから考えても、実質的には相対取引があったのでは?
    『渋い一手?フジテレビのTOB目標引き下げ』
    に関するコメント

  4. 時計を進めるのか、遅らせるのか

     こんばんわ、ひろです。
     今日はずいぶんホリエモンさんぶち上げたみたいですね。
     ソフトバンク、楽天、ライブドアとネット投資会社がそろいました。
     結局彼らは、「いつか来るであろう未来」を早く自分たちの手で作ることで
     儲けようとしていると思い…

  5. 素人発言で申し訳ないんですが、
    「1日あたり1%以上の株の取引を禁止」
    っていうルールはダメなんでしょうか?
    経済効率は多少悪くなるとは思いますが
    突然買収されちゃうことが無くなるシンプルなルールだと思うのですが。

  6. >(・・・と、こんくらい褒めときゃいいかな?:-)
    充分だと思いますw
    初めまして。いつもこっそりお邪魔させて頂いております。
    大変勉強になっています。これからもご教授の程宜しく
    お願いします。

  7. 1400兆円の使い道

     よく個人資産1400兆円と聞きますが、少しずつでもいいから海外へ
     持って行ったらどうなんだろう?と思います。
     借金時計によると、今の日本の負債は700兆円くらいだそうなので、残りの
     700兆円はわりとフリーなわけです。たとえばそのうちの300兆円…