「悪いMSCB」の見分け方(その2)

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47thさんから、昨日の記事にコメントいただきました。
たびたび引用させていただいて恐縮ですが、

私が磯崎さんのブログから考えたことは、MSCB固有の問題は、「事後的に」引受人が市場でとる行動(例えば空売り等)によって価値が大幅に変動し得るので、そうした事後的に変なことができるかどうかに関する情報(例えば引受人が取得した株式の一定期間ロック・アップの有無等)がないと、プロですら予測が難しいみたいだが。。。しかし、現行法では、そうした情報は、必要的に開示が求められていないようだし(手元にSRSの様式がなく未確認)、実際に開示も余りされていないようだが、それでいいんだろうか?・・・という点でした。

この点については、あえて昨日は触れなかったのですが、

磯崎さんが書かれているように、転換条件からある程度の「推測」はできるのだと思いますが、見かけの条件が「悪」でも、機会主義的行動が契約上制約されている場合もあるでしょうし、見かけが「良く」ても、何の歯止めがなければ悪用される危険は却って高い場合もあるように思えます・・・その辺りの情報開示については、どのような印象をお持ちなんでしょう?

見かけの条件が「悪」でも契約によって「良」い条件になっているなら、発行体側は任意でそれをIRすればいいだけだと思うんですよね。
(例えば、前日の終値だけで修正されて、しかも一度転換価額が下がったら二度と上がらず、さらに下限もないなど)見かけが(も)「悪」いCBの問題の一つは、
→売り崩されて価格が下がる (1)
→転換して得られる株式数が非常に多くなる (2)
→希薄化が発生する (3)
→それによって、さらに株価が下がる (→(2)に戻る。くりかえし。)
という、「ポジティブ・フィードバック」(というかハウリングというか)が起きちゃうところかと思います。
「下限は付けてないけど、別途の契約でこれこれの条件が付いているので、既存の株主のみなさまにとってもプラスになると考えます。」ということが、もし説明できるのなら、説明してみんしゃい、ということですね。
「100円の転換価額が1円まで下落する可能性があり、目的となる株式数が100倍になるかも知れないけど合理的です」なんてことは、基本的にはどうやっても説明できないと思いますが・・・。
見かけの条件が比較的「良」い(例えば、転換可能な期間中に2回しか転換価格の修正が行われなくて、下限が当初転換価額の80%に制限されている等の)場合には、なにか「グレー」なことを仕掛けるにしても、タイミングは限られてきますし、かなり大規模な操作を行わないと儲からないわけで。(少なくとも、岩をちょっと指先で押すだけで坂道を転がり出すようなことにはならないはず。)
もし法令違反に該当するところ(例えば、インサイダー情報の利用、相場操縦的行為等)まではみ出したら「アウト」ですし、踏み出さないなら「セーフ」という、通常の証取法の規制をするしかないんじゃないでしょうか。

もっとも、私もMSCBが複雑だから、リスクが高いから、というだけで、これを規制すべきだとか、適切な開示は、常に法律で書かなければいけないとは思っていません(法的に考えても、開示事項として特定されていないとしても、解釈上、material ommission(重要な事項の不開示)の責任は負っていますし)。磯崎さんの仰るように、適切な情報開示のデファクト・スタンダードが確立されて、それにそぐわないものが自然に淘汰されていく筋道こそ、本来なのだろうと思います。

昨日引用させていただいた部分にも書かれてましたよね。私もまったく同意見です。
規制でなく、「ビジネス」としていろんな機能を担うエージェントが出てくるからこそ「資本市場」なのであって、規制されないと動かないんだったら、それはどちらかというと共産主義っぽいわけでして。
経済学的に明らかに「市場の失敗」が発生するということが言える領域については規制も必要でしょうが、MSCBは、ただ「難しそうでよくわかんなーい」というだけで、開示されるべきことは既におおむね開示されてるんじゃないかと思います。「怪しい」条件のものについては、開示してなくてもマスコミさんが取材されてもいいわけですしね。
さて、HidetoIshibashi@ZEROBASEさんからもコメントいただきました。

なるほど。衆目監視が有効なのですね。「衆目」として機能するためには投資家教育が必要で、一方で(がんばって投資家が勉強しなくてもそこそこ理解できるように)分かりやすく解説するエージェントも必要だと。
そのエージェント役を誰がやるかですよね。ISSみたいな機関?どこで儲けるか?

単純なモデルでオプションバリューを算定するだけだったら、昨日も書きましたが、新聞や雑誌で取り上げていただくのが一番じゃないかと思います。
例えば、日経新聞さんの企業財務面あたりで、小さい定型タイプの記事に必ずなるとか。MSCBのオプションバリューの計算程度だったら、モデルといってもExcel+アドイン程度でできると思いますので、それほどコストはかからないと思いますし。
または週刊ダイヤモンドさんあたりがお得意の「いい転換社債、悪い転換社債」:-)みたいなランキング特集が組まれるとか。
逆に、それをやられちゃうと、他の業態がその情報提供してビジネスにするのはちょっとキツいかな、とも思います。(参入障壁は意外?に低いはず。)

あるいは、もっと図解などを多用した、分かりやすい公告を義務づけるとか?

商法ベースで未公開の中小企業も対象ということだとちょっと負担が厳しいかも知れませんね。義務としては今の開示内容でも十分じゃないかと思います。
MSCBは、マーケットではどちらかというとマイナス要因としてとらえられるわけですから、プラスにとらえて欲しい場合には、企業の自主的なIR努力でよろしいんじゃないかと。

あるいは(思いつきですが)市民オンブズマン的なメディアがあるといいのかもしれません。オープンソース的に、金融のプロがボランティアでいろいろ分析した記事が載っているサイト。

「金融のオープンソースというのは」、私、以前より非常〜に興味があるコンセプトです。こういう領域についてブログをやってるのも、なにかそのへんでおもしろいことができないかなあということもあるんですが、金融領域は需要者の数も比較的少なく、供給者も「それなり」の方って、「単価」も高くて非常にお忙しいので、ビジネス?モデルとしてはちょっと厳しいのかなあ、と思っております。
(ご参考:弁護士事務所の「オープン化」
Yahoo!ファイアンスの掲示板を「金融のオープンソース」と呼ぶなら、あれが成功例かも知れませんね。w
(ではまた。)

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3 thoughts on “「悪いMSCB」の見分け方(その2)

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     ” 私のなかのゴーストが囁くのよ ” とは、攻殻機動隊・草薙素子の名台詞です…

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    年末に書いたMSCBの件について、更に磯崎さん(isologue by 磯崎哲也事務所)、minoriさん(Law Maniac)、Randam Walkerさん(投資.org)から以下のトラック・バックを頂きました。
    「悪いMSCB」の見分け方 from isologue by 磯崎哲也事務所
    売り方が違えば、中身も変わる`..