「いかがわしくない」MSCBの活用法

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クリスマスイブですが、isologueは本日も不粋な分析をお届けいたします。<(_ _)>
先日の「転換社債(CB)を用いた”新”資金調達スキーム」(その1)(その2)でご紹介したスキームに対して、Law Maniacのminoriさんから、かなりお怒りモードのトラックバックをいただきました。
Law Maniac「いかがわしい。 – 松井証券とUBSのニュー・ビジネス」
http://www.minori.com/archives/law/2004/12/post_100.html

まず、私は、磯崎さんに反感を持っているわけではないことを最初に申し述べておきます。

と言っては頂いてますが、スキームそのものに対しては、かなりお怒りモードです。
わりとイケてるんじゃない?
結論を先に申し上げると、私は、今回のスキームでのMSCBの使い方は、今まで本blogで取り上げてきたMSCBの中でも、かなりイケてる方じゃないかと思うんですが。
その2」でご紹介した先行事例の例では、公告後すぐチャートは「底」に達し、発行日を迎えるのですが、
chart_x_sha6.gif
(出所:Yahoo!ファイナンスをもとに磯崎が加筆)
引き受けた証券会社は(発行の翌日から転換できるにも関わらず)、そこでは転換してないんですね。というのも、そのちょっと後の決算が開示されているのですが、そこでの資本金の額も転換社債の残高も、発行時のまま残っていますので。
「悪いヤツ」なら、発行前に空売りをしておいて、発行と同時に転換して安く株を入手し差益を取るということもしかねないわけですが、それをしてないので、「ほう」という感じがしたわけです。
空売りを組み合わせないのであれば、時価連動性の高いMSCB(転換価額が下方のみでなく、上方にも修正されるもの)は、むしろ転換して即売却という誘因を弱めるはずです。なぜなら、時価マイナス数%で転換して即時売却しても、基本的にはその数%の鞘しか抜けないわけですから。
image002.gif
私の考えるMSCBの「いい使い方」というのは、例えば、以下のような感じです。
・企業が「建て直しモード」の最中にあるが、そろそろ薄日が差してきた。
・ただ、大胆なリストラ資金が必要なのに、銀行は及び腰でそんな資金はとても出さない感じ。
・株式市場環境も悪く、企業実体よりかなり低い株価しかついておらず、時価発行増資をしても、それよりさらに低い株価でしか引き受け手がいない。また、資金全額もとても集まらない。
・でも、思い切って今、資金をつぎ込むことで、「ウミを出し切れる」可能性が非常に高い。(銀行や市場はわかってくれないけど・・・。)チャンスは今しかない。
・そこでMSCBを発行。当初の転換価額は今の(過小評価された)時価近辺で決定されるが、上方に倍までは価格修正されるようになっている。つまり、うまくやれば、株価が倍にまで回復したときに時価発行増資したのと同じ希薄化で済む。既存株主にもその方が有利なはず。
・証券会社も、IR等で全面的に協力を申し出てくれている。上方への価格修正は2倍なので、それを越えた分については、「ごほうび」として引き受けた証券会社のキャピタルゲインとなる。
・ただ、再生に自信はあるものの、当然リスクが無いわけではない。証券会社とは「より高い株価で時価発行増資したのと同じ」になるように転換してもらうよう基本的に合意してはいるが、当社の業績が立ち直らなかった場合などには株価半分までは下方にも修正できる条項を付けるのはやむを得ない。
なんたって、資金は今すぐ全額入ってくるわけで。
こういった意志決定の結果、時価発行増資ではなくMSCB発行スキームを選んだとしても、「経営判断の原則」上、必ずしもまずいということにはならないでしょう。
というか、minoriさんご自身もblogに書かれてますように、株価が上がる可能性、下がる可能性を考えて、既存株主にとって、より高いリターンがある方を選択すべきですよね?「MSCB=既存株主の権利は必ず侵害される」ということではなく、MSCBを使った方が合理的な場合は、そちらを選択すべきかと思います。
オンライン証券活用の場合
minoriさんは、さらに、オンライン証券を経由するスキームの場合、

おそらくこのスキームによる株式を取得した大半のユーザは、すぐに売却して利鞘を稼ごうをするでしょう。
※ これでは、一時的な需給悪化を本当に回避できるのかすら疑問になります。

ということを危惧されてます。
確かに投資銀行が自己ポジションでCBを持って適当な売却時期を決めるよりは、そういった危惧の可能性も高まるかも知れません。ただし、これも、やり方によるのではないかと思います。
例えば、1000億円引き受けて、それを初日からオンライン証券に全部流してしまったら、株価が下がりきったところで大量に転換されて株価はますますグズグズに、ということになる可能性大かも知れませんが、引受証券会社との間で、「株価が当初株価を上回って安定してきたら、オンライン証券向けの放出を始める」、というような合意が行われていれば株価が上昇トレンドを描きながら消化していけるかも知れませんね。
また、最近では、株主層の分散や株主数の増加目的のために、発行体もオンライン証券の顧客への公募に徐々に積極的になっているようですが、とはいえ、「全部オンライン証券の個人客に」という会社はまだ少なくて、「7割は機関投資家、3割は個人投資家に」というように、オンライン証券に割り当てられるのは「一部」なんじゃないでしょうか。
で、どうやって「見分ける」のか?
ということで、「いい人」がMSCBを引き受けた場合と「悪い人」がMSCBを引き受けた場合とでは、長期的な予測株価はまったく逆に動くかも知れないわけです。
MSCBを発行したというだけで株価が急落するという現象は当面続くでしょうけど、「うちのは”いい使い方”のMSCBだ」ということを投資家にうまく伝えられれば、株価が好転する可能性も高まるのではないでしょうか。
で、前回の「どうやって『いい使い方』を守らせるか?」「甘い言葉で近寄ってくる『悪いヤツ』をどう見分けるか」という問いとなるわけですが・・・。
(どうやりましょうかね?)
(ではまた。)

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7 thoughts on “「いかがわしくない」MSCBの活用法

  1. こんばんわ。昨日は論点がずれていたようですいませんでした。
    で、今回の公募の仕組みですが、私的には悪意のあるものではなく、どかんと公募してマーケットで売りさばいて株価に悪影響というのは嫌だから、じわりじわりと売り出していきたいけど、そういう手法がない。そういうことで、作られた仕組みのような気がしてます。勝手な想像ですが。

  2. >昨日は論点がずれていたようですいませんでした。
    いえ、ずれてないです。こちらのほうこそ、表現がわかりにくくて(途中で変えちゃって)すみませんでした。
    「だまされて」MSCBを発行させられちゃう会社も結構あるとは思いますが、おっしゃるように、さすがに100億円単位以上のCBを発行するほどの会社さんだったら、何も考えずに一方的に既存株主に不利な条件のCBを発行するってことは(原則としては)無いと思うんですけどね・・・。
    ただもちろん、投資家にとっても既存株主にとっても発行体にとっても、リスクがあるのは確か。修正条項の内容によっても、まったく違ったことになるので、そのへん気合いを入れて見る必要はあると思います。
    ではまた。

  3. やぶにらみMSCB

    昨今の株式市場で「株式分割はカイ」というのと同じくらい気に食わないのが「MSCBはウリ」というやつである。MSCBとは何か、ということについてはisologue −by 磯崎哲也事務所のブログに詳しい記述があるのでそちらを参照されたい。
    MSCBを発行企業の方から見ると、�私…

  4. ろいやー頭の体操†資金調達の「新」スキーム(蛇足)

    さて、松井証券が発表したCBを用いた「新」資金調達スキームについては、このBlogでも3回に亘り((その1)(その2)(その3))とりあげたのですが、それと同時並行的に、MinoriさんのLaw Manacでも「いかがわしい。 – 松井証券とUBSのニュー・ビジネス」ということで、このス…

  5. こんにちは。日本振興銀行の件、興味深く拝見しました。
    このスキームで「良いな」と思った点があります。
    この当事者の方々には、「市場は万能ではないし、市場参加者より自分たち(経営者&証券会社)のほうが賢い(はずである)」という確信があるんでしょうね。
    市場参加者として「それって傲慢だ」という人もいるかもしれませんが、、、私は支持します。
    「経営者がその企業についてもっとも賢い」というのは当たり前(そうなっていないなら経営者が交代するべき)だと思います。それくらいは「傲慢」と批判されるべきではないと。
    実際に傲慢・暴走にならないように、チェック機構(ガバナンス)の仕組みもまた大事なのでしょうけど。
    そもそも「株価はすべての情報を織り込んでいる」というのを私は信じていません。ネット証券で個人投資家が増えてきて投機的売買の比重が高くなってくると。。。市場ってバカじゃないかと思ってます(笑
    > ところがこのスキームは、市場に合理性などないとばかりに、恣意的に株価をつくりあげます。
    > 市場を馬鹿にし、既存株主や長期保有を指向する投資家を愚弄しています。
    ここはスタンスの違いで、たぶんこの方は市場の機能を高く評価されているのだと思います。ただ、私はあまり高く評価していません。どちらかというと磯崎様と私は考え方が近いような気もします。
    どちらが正しいということは無くてスタンスの違い。また、議論のための議論に意味はなくて、行動が重要。結局、自分がプレイヤーとして何を行うかですよね。
    以下、経営者として弊社の株式公開(するとしても10年後でしょうが)について考えてみると。。。
    弊社も将来は公開するのかなと考えていますが、正直株式市場に失望している部分が大きいので永久に非公開を選ぶかもしれません。
    ただ、ベンチャースキームで子会社を作って上場して資金調達、その場合も親会社は非公開、、、って西部とコクドの関係みたいですね。社会的に批判されまくり?
    1990年ごろのリクルートとコスモス、FFの関係でもありますね。正直、何が悪いの?と思ってしまうのですが、私には資本主義、株式についての理解が足りないのでしょうか?
    といったジレンマ?を抱えていますが(まだ具体的な悩みではないのですが)、これって資本政策のプロの間では解決済みの低レベルな問題でしょうか?

  6. あ、すみません、一行目は無視してください。
    >こんにちは。日本振興銀行の件、興味深く拝見しました。
    これは「切込隊長ブログ経由でやってきました」という意味です。
    二行目
    >このスキームで「良いな」と思った点があります。
    この「スキーム」は当該MSCBの件です。
    誤解を招く表現で失礼しました。

  7. 今日のフォーサイド・ドット・コム

     というわけで、本日のフォーサイド・ドット・コムの時間です。
     MSCB議論の続きもあり。あと、こんなのとか。こんなのも。引き続き、磯崎さんのBlogより抜粋。表敬とらっくばっく。
     良いこと言ってくれますね。励まされますよ。結局のところ、投資家にはそのMSCB.