日経ビジネスが金商法違反になる日(「投資助言」の境界線)

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今回、メルマガを始めるにあたって、ふと気になったのは、「有価証券報告書等を分析した情報でお金をいただくというのは、金融商品取引業(投資助言)に該当したりするなんてことが万が一にも無いだろうか?」ということ。

「財務分析したら金商法違反」なんてことは常識では考えにくいですが、金商法の条文を見ると、

第百九十八条
次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一  第二十九条の規定に違反して内閣総理大臣の登録を受けないで金融商品取引業を行つた者
(以下略)

ということで、無登録で投資助言をするのは結構重い罪ですし、そうでなくても万が一にも金商法違反なんてことになるわけにはいかないので、ちょっと考えてみました。

事業が金融商品取引業に該当するかどうかの個別の判断は各財務局で行っているとのことなので、関東財務局に、

「有価証券報告書などをもとに財務分析等を行う有料のメールマガジンを発行しようと計画しているんですが、これは投資助言にあたりますでしょうか?」

と伺ったところ、

「可能性は、ありますね。」

とのこと。

「disclaimerとして『このメルマガは財務分析を目的とするもので、投資助言を目的にするものではありません』といったことを明記し、実態としても、投資の助言というよりビジネスへの視点といったことを中心にする予定なんですが。」

といったご説明をしたところ、

「そうした内容でしたら(実態にもよりますが)、金融商品取引業の登録は必要ないのではないかと思います。」

というご回答をいただきました。

ということで、一応セーフではないかという感触は得ましたが、念のため法律の条文も見てみますと、「助言」に関する条文は、金商法2条の「定義」にあります。

第8項第11号
当事者の一方が相手方に対して次に掲げるものに関し、口頭、文書(新聞、雑誌、書籍その他不特定多数の者に販売することを目的として発行されるもので、不特定多数の者により随時に購入可能なものを除く。)その他の方法により助言を行うことを約し、相手方がそれに対し報酬を支払うことを約する契約(以下「投資顧問契約」という。)を締結し、当該投資顧問契約に基づき、助言を行うこと。
イ 有価証券の価値等有価証券の価値有価証券関連オプション(金融商品市場において金融商品市場を開設する者の定める基準及び方法に従い行う第二十八条第八項第三号ハに掲げる取引に係る権利、外国金融商品市場において行う取引であつて同号ハに掲げる取引と類似の取引に係る権利又は金融商品市場及び外国金融商品市場によらないで行う同項第四号ハ若しくはニに掲げる取引に係る権利をいう。)の対価の額又は有価証券指標(有価証券の価格若しくは利率その他これに準ずるものとして内閣府令で定めるもの又はこれらに基づいて算出した数値をいう。)の動向をいう。)
ロ 金融商品の価値等(金融商品の価値、オプションの対価の額又は金融指標の動向をいう。以下同じ。)の分析に基づく投資判断(投資の対象となる有価証券の種類、銘柄、数及び価格並びに売買の別、方法及び時期についての判断又は行うべきデリバティブ取引の内容及び時期についての判断をいう。以下同じ。)


「有価証券の価値等」とは?

まず、どういった情報を提供すると金融商品取引業になるかというのが、「イ」「ロ」に書いてあるわけですが、まず、イの「有価証券の価値等」を見てみます。

仮に、「有価証券の価値」について助言したら金融商品取引業に該当しちゃうとすると、M&Aや投資の際に企業価値や株価を算定をする会計士の方なども、ズバリ、金融商品取引業として登録しないと懲役3年ということになりかねないわけですが。

(私、法律の文章の読み方に付いては、いつも弁護士の方や大学の先生等にご指摘いただくのであまり自信はありませんが)、日本語として普通に読めば、この場合の「有価証券の価値」というのは続くカッコ内で説明されていて、カッコ内は、「有価証券の価値」「有価証券関連オプションの対価の額」「有価証券指標」の3つが「OR(又は)」で結ばれており、それら3つの「動向」のことをいうのだと読めるのではないかと思います。

「動向」という言葉は、この条文の2カ所以外に、金融商品取引法ではあと1カ所しか使われてませんし、特に説明もないのですが、(和英辞典で出てくる「トレンド」という訳が該当するとすると)、単にある一時点における株価や企業価値に言及しただけでは、「動向」を助言したことにはならないんじゃないのではないでしょうか。

つまり、例えば上場株式や未上場企業の株価算定をする会計士が、ある時点における企業の有価証券の価値を算定したとしても、それだけでは、「金融商品取引業としての登録なしで業務を行った」としてタイホされる可能性は低そうです。

ただし、今後の事業計画から将来数年分の株価を算定したら「動向」にならないのか?とか、「今が買いでっせ」といったことを言った場合にどうかというと、また別かもしれません。

 

「金融商品の価値等の分析に基づく投資判断」とは?

次に「ロ」ですが。

「金融商品」については第二条24項に定義があり、有価証券だけでなく、預金、通貨等を含む概念ですが、これに基づく投資判断というのは、やはり続くカッコ内に説明があって、「いつごろいくらで売買したほうがいい」といったイメージのようです。

 

「メディア」によってどう規制が異なってくるか

助言を行う「手段」については、

口頭文書(新聞、雑誌、書籍その他不特定多数の者に販売することを目的として発行されるもので、不特定多数の者により随時に購入可能なものを除く。)その他の方法により助言を行うこと」

とあります。

「その他」という場合には、その前に続く「口頭」や「文書」というのは単なる例示ということかと思いますので(こちらのエントリご参照)、イやロに該当する助言を行った場合には、基本的にどんな方法でも、金融商品取引法に該当するということになるかと思います。

ただし、カッコ内(新聞、雑誌、書籍その他不特定多数の者に販売することを目的として発行されるもので、不特定多数の者により随時に購入可能なものを除く。)にあたる場合には、該当しないわけですね。

このカッコ内の「その他」は、今度は「その他」ではないので、新聞、雑誌、書籍については、「不特定多数の者に販売することを目的として発行されるもの」には含まれないという理解だとしても、その後の、「不特定多数の者により随時に購入可能なものを除く。」は、全体にかかるのでしょうから(新聞や雑誌の形態をとっていれば、なんでも該当しないということはないでしょうから)、とにかく、そういった「文書」で、いつでも誰でも買えるようなものは除く、と言っているということかと思います。

 

「文書」とは何か

では、「文書」とは何でしょうか。

つまり、ずばり「メルマガ」はメール「マガジン」というくらいなので、ここでいう「文書」に入れてもらえるのか、それとも「その他の方法」一般になるんでしょうか。

法令や判例をつぶさに研究した訳ではないのですが、金商法には「文書とは何か」を定義した箇所はないようですし、法律では、電子メール等の場合には、わざわざ「電磁的記録」といった言い方をしている場合が多いようで、文書というのは、紙など人間が直接目に見えるものを指すことが多い気がします。

(ただ、電子文書法(民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律 )では、電磁的記録に対応する用語は「文書」ではなく「書面」となってます。)

金商法で「文書」というのがナマで出てくる箇所は、手続き的な条文を除けば、168条の

(虚偽の相場の公示等の禁止)
第百六十八条  何人も、有価証券等の相場を偽つて公示し、又は公示し若しくは頒布する目的をもつて有価証券等の相場を偽つて記載した文書を作成し、若しくは頒布してはならない。
2  何人も、発行者、有価証券の売出しをする者、特定投資家向け売付け勧誘等をする者、引受人又は金融商品取引業者等の請託を受けて、公示し又は頒布する目的をもつてこれらの者の発行、分担又は取扱いに係る有価証券に関し重要な事項について虚偽の記載をした文書を作成し、又は頒布してはならない。 (以下略)

という部分くらいじゃないかと思います。(では、「文書その他の方法」と書いてないので、相場や募集に関して、虚偽のpdfファイルなどを頒布してもいいのか、というといいことにはならないとは思いますけど・・・。)

ただ、「助言」の定義で、文書に電磁的記録も含めると、「その他の方法」がなくなっちゃうんじゃないかとも思いますので、ここは電子メールやファイルなどは「文書」ではなく「その他の方法」に入ると考えておいた方がいいのではないかと思われます。

 

「メルマガは不特定多数相手でもダメ」ではないか?

まとめますと、条文的には、「文書」の場合には、書籍や雑誌など不特定多数がいつでも購入できるものであれば投資助言にはあたらないが、メルマガやウェブなど電子媒体での情報提供だと、たとえ不特定多数がいつでも購入できるしくみであったとしても、投資助言にあたる可能性が出てくる、のではないかと思います。

まず、例えば「週刊ダイヤモンド」であれば、(定期購読もありますが)基本は書店やKIOSK等で売っているので、株価のトレンド等についての記事を書いたとしても、不特定多数相手の文書ということで、金融商品取引業にはあたらないのは確実かと思います。

しかし、これが「日経ビジネス」となると、(一部の売店等では売ってますが)、基本は定期購読でしょうから、これが「不特定多数の者により随時に購入可能なものを除く」に該当するのかどうかが問題になってくるかと思います。

著作権法の判例では、社内LAN上で著作物のコピーが見られるようにしただけで「不特定多数」と判断されているようですが、著作権法と金商法の判断はまた異なるかと思います。

仮に、誰でも申し込める会員制度で、月に30万円の料金をとって投資に関する文書を配布する場合、1000人会員がいたから不特定多数であって金融商品取引業にはあたらないと判断してもらえるかというとどうでしょうか?(常識的には、そういうのをずばり投資顧問業という気がします。)

では、月2000円程度ならいいけど、月30万円じゃだめだという金額の問題なのか?

または、30万人くらい読者が入ればOKだけど、1000人くらいだと投資助言にあたるということなのか?

条文に書いてあることだけからは、こういった線引きは非常に難しいのではないかと思います。

加えて、前述の通り、電子媒体になると「不特定多数」でもだめだとすると、日経ビジネスさんも、今の業態(メルマガは無料登録)だと「金融商品取引業だ」と言われる可能性は限りなく低いと思いますが、海外の雑誌のように「すべて電子化します」といったことになった場合には、ビミョーになってきますね。

いくらなんでも、日経BP社を金商法違反で摘発したら、「表現の自由の侵害だ!」と大メディアキャンペーンが展開されるのが目にみえているので、当局もそんなアホなことをするわけがありません。日経ビジネスは、確かに「株価の動向」に言及することはあるかも知れないけど、それが「投資に関する助言」にあたるといったこといは、常識的にはなりにくいでしょう。

では、これが「オール投資 (の電子版)」だったらどうでしょうか?

日経ビジネスの読者は、「ビジネス」一般についての情報を得たい読者が多いと思いますが、「オール投資」は文字通り「有価証券の価値の動向」とか、「売り買いのタイミング」について知りたい人が読む雑誌じゃないでしょうか?

当局が東洋経済新報社を金商法違反で摘発するということもないにしても、オール投資と同様の内容のメルマガ等がセーフとは全く言えないと思います。

 

そもそも「助言」を規制する目的は?

このように、昔ならそこそこの企業でないと不特定多数を相手に情報を発信して料金をもらうといったことは不可能に近かったわけですが、情報化時代で、単なる1個人がコストをほとんどかけずに数十人から何十万人の読者を相手にできる時代になってきているので、「助言」の境界線も極めて不明確になってきている、ということが言えるのではないかと思います。

前述の財務局の方が、開口一番、「いや、財務分析が投資助言にあたるなんてことはないですよ」とおっしゃっていただければ、安心していられるのですが、「財務分析の結果を提供する場合でも投資助言にあたる可能性がある」と言われてしまうと、非常におっかない。

民主党の小沢代表の政治献金に関連する事件もありますので、上記のような危惧というのは単なる笑い話や他人事じゃなくて、今や、複雑極まりない法令と切り離せない社会の中で活動を行う人には不可欠な感覚ではないかと思います。

そもそも、こういった「投資助言」を規制する目的というのは何なんでしょうか?

他人のお金を預かって運用するというのであれば、それを規制する必要があるのは非常によくわかります。

しかし、「助言」というのは極めて不明確な概念で、なぜ助言を規制しなければいけないのか、定義を見ただけではピンと来ません。

金商法では、第41条から41条の5までで、「投資助言業務に関する特則」として禁止事項を定めてますが、結局、(忠実義務等は定めているものの)助言の内容やクオリティそのものというよりも、顧客との利益相反取引、顧客相互間の利益相反や、顧客から証券や金銭の預託を受けることを防ぎたいということではないかと思います。

(「金融商品取引業者等検査マニュアル」では、内部管理態勢等、より広範なチェック項目が書いてありますので、参考になるのではないかと思います。)

しかし、「助言」とそうでないものの境界線がはっきりせず、業者登録してないのが形式犯的に判断される可能性があるとなると、株や金銭の取引は一切せずに単に「助言」だけしていれば金融商品取引業にあたらないかというと、そういうことではない、というのが怖いところではあります。

 

「まぐまぐ」だと助言業務にあたらない?

「まぐまぐ」の「株式」「FX」のカテゴリに入っているメルマガの発行者さんでも、金融商品取引業者の登録をされている方と、登録しているかどうかよくわからない方がいらっしゃるので、「ん?」と思ったのですが、

よく考えると、今回利用させていただく「まぐまぐ」さんのシステムは、購読者と直接契約するのは「まぐまぐ」さんであって、メルマガの発行者と購読者が直接に契約を行うのではない(発行者は購読者の個人情報すらわからない)ので、形式的には、これを「発行者が購読者と投資顧問契約を締結」しているとみなされる可能性はかなり低いのではないかと思います。

(もちろん、購読者の問い合わせに直接に助言したりすれば話は別になってきます。)

同様に、発行者は特定商取引法上の業者にもあたらないんでしょうね。

他のメール配信業者さんだと、契約は発行者と購読者の間で直接行う形式のところもあると思いますが、これで投資系の情報を配信した場合には、形式上は、金融商品取引業者の登録を受けないと法令違反、ということになる可能性が高そうです。

以上、個人的にも、今回発行させていただくメルマガは「金融商品取引業者」でなくても発行できるだろうということが納得できました。(ほっ。)

ということで、ご興味がありましたら、「週刊isologue」、ご登録、よろしくお願い致します。:-)

(ご登録はこちら(まぐまぐプレミアムのページ)から。)

(ではまた。)

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2 thoughts on “日経ビジネスが金商法違反になる日(「投資助言」の境界線)

  1. 、「有価証券の価値」「有価証券関連オプションの対価の額」「有価証券指標」の3つが「OR(又は)」で結ばれており、それら3つの「動向」のことをいうのだと読めるのではないかと思います。
    「有価証券の価値等」の定義ですが、「動向」は「有価証券指標」にのみ係り、「有価証券の価値」「有価証券関連オプションの対価の額」「有価証券指標の動向」の3つを指していると思います。
    「動向」が3つに係るのでしたら、「有価証券の価値等」ではなく、「有価証券の価値の動向等」と記載すると思いますので。

  2. >「動向」は「有価証券指標」にのみ係り
    (私も自信はないですが)、もしそうだとしたら、株価算定をやっている会計士などは、確実に無登録の投資助言でタイホ、ということになりますね・・・。
    「(A OR B) OR C」ということを明確化させたい場合には、法律の用語の使い方では、「A、B又はC」ではなく、「若しくは」を使って、「A若しくはB又はC」と書く気がしますが・・・。
    (ではまた。)