「あやしいファイナンス」の見分け方

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4月からのisologue(イソログ)の新機軸に向けてちゃくちゃくと作業を進めておりまして、ブログの更新をさぼっておりまして、すみません。

さて、そんな中、本日は日本公認会計士協会の臨時研修会ということで、証券取引等監視委員会(SESC)事務局総務課長の佐々木清隆氏による、「不適切なファイナンスへの対応について」という講演があったので、(私、今年のCPEはもう足りているのですが、興味を引かれたので)行って参りました。

以前、日経さんにご招待いただいたセミナーのときは、(もちろん、各国の当局と連携しながら市場監視をしているとか、流通市場にだけ目を向けるのではなく発行市場にも目を向けているとか、非常にアクティブで既存の枠組みに縛られないで活動されているなあ、という感じはしたのですが)、一般向けだったせいか、わりと一般論的な話でちょっと隔靴掻痒感があったのですが、本日は、会計士向けということもあってか、いろいろかなりディープなお話が。

不公正なファイナンス」とは何かということについては、「それは実は定義できないものなんじゃないか」なぜならば、定義(法に)すれば、必ずそのすきまを縫うやつが出てくるので、ということでしたが、全く同感です。

そういう不公正なファイナンスの属性として、(もちろん、この要件に当てはまればすべてが不公正というわけではないが、という断り付きですが)、例えば発行会社として、ただ上場しているだけの「箱」企業が用いられ、経営不振になったり、時価総額が上場廃止基準に抵触しかけていたり、会社の目的が「投資事業」になるなどビジネスモデルの大幅な変更があった企業が用いられることが多い、といった基本的なことの他に、一番熱く語られたのが、「ファイナンスの割当先」についてのお話。

この割当先の属性、出資者、特に真の所有者(beneficial owner)が誰かということが重要なわけですが、表面的な引受人は実態不明のファンドだったりするわけです。

そして特に、(以下についてもすべて、個人的な見解ですが、という断り付きですが)、「英領バージン諸島(British Virgin Islands=BVI)」のファンド等を引受先にしているファイナンスは、不公正ファイナンスである確率が8割以上である、という、かなり具体的な話がありました。

よりディープな例として、まず、日本の不公正ファイナンスの直接の割当先は香港の法人であるケースも多いのですが、これは「『Hong Kong company registry』といったキーワードでGoogleを検索してもらうと出てきますけど、香港の法人登記はすべてインターネットで見られる」というtipsも紹介されました。

(探してみると、それらしきサイトは、

 http://www.icris.cr.gov.hk/csci/

 でしょうか。
  「証明書エラー」が出るのですが、それはさておき。)

この香港の会社の株主が、さらにシンガポール法人だったりするが、シンガポールもインターネットで会社の情報は検索できるそうで。

こうしてたどっていくと、最終的には英領バージン諸島のファンドに行き着くことが多いが、「国際金融界の常識」として、英領バージン諸島が関わっているスキームは非常に怪しいことが多い。佐々木氏がIMFに出向していたときにも、タックスヘイブン各国の法や制度について知る機会があったが、「まともな」ヘッジファンド等は、ほとんどケイマンかバミューダのvehicleを使用している。

海外のヘッジファンドの人に「なぜ、英領バージン諸島は使わないんですか?」と質問すると、「あそこは評判が悪く、信用を落とすだけだから。」と言う、とのこと。

なぜなら、英領バージン諸島は本人確認が非常に緩く関係者が開示されないので、上記のように、beneficial ownerのリンクをたどって行っても、英領バージン諸島まで行ったところで、そのリンクが切れてしまうわけです。(逆に、ケイマンやバミューダでは匿名にしにくい、ということでしょう。)

こうした日本のあやしいファイナンスの引き受けをする海外のvehicleのbeneficial ownerは実際には日本にいて、反社会的勢力とつながっていることも多いわけですが、(「そういう人を、我々は『黒目の外人』と呼んでますが」とのことですが)、そういう人は、結局、そのリンク(trail)をどこかで断ち切りたいわけですから、途中に本人確認がない国のvehicleをかませる必要があるわけです。

「ところが、日本だと『英領』というので、『イギリス関係のちゃんとした国だ』と思われてしまうのか、私が今まで(個人的見解だと断った上でだが)講演会で何度も繰り返し、『英領バージン諸島を使ったスキームは8割方、不公正ファイナンスだ』と言っているのに、未だに英領バージン諸島が使われるんです。」とのこと。

また、加えて「P.O BOX 957 Tortola BVI」という私書箱を住所に使っている場合は、120%怪しいと言っていい、とのこと。

「国際的にはともかく、香港では英領バージン諸島が人気。というのは、香港返還のときにチャイナリスクというので、中国共産党の追求を恐れて、みんな匿名性のある英領バージン諸島に持って行った。そういった理由で、香港で英領バージン諸島を使うノウハウが発達し、関係者がそうしたスキームを提案する日本のアレンジャーとパイプがある等の理由で、その私書箱が使われるのではないか。」

とのことでした。

捜査妨害になるといけないのでどこまでご紹介していいのかと迷ったんですが、佐々木氏は、「これはインターネットや本などにも書いてあることで、まったく秘密ではない」と何度も繰り返されましたし、前述の通り「繰り返し講演会で言っているのに、まだ英領バージン諸島が使われる」とおっしゃるので、「英領バージン諸島が使われるファイナンスには要注意」ということを広くお伝えするのは、証券市場の健全な発展に資するんじゃないかということで、ご紹介させていただきました。

そういったファイナンスを行う弁護士、監査法人、アレンジャー等は、いつも似たような顔ぶれなので、SESCさんでもウォッチ(ブラック)リストを作って監視をしてらっしゃるようです。

また、「ぜひ、EDINETを使ってください」とおっしゃってました。

「例えば、SESCでEDINETを検索したところ、BVIでヒットした件数が400件、そのうち、そのP.O BOX 957でヒットするものが100件くらいある」

とのことです。

また、そういったファイナンスに関する「魑魅魍魎マップ」や掲示板の書き込み、ブログの記載などもSESCさんで読んでらっしゃるとのこと。「マップ」も、固定的なものではなくて、日々刻々と変わるので、アップデートも大変なようですが。

「最近は、Googleのストリートビューもあるので、怪しげな住所をインプットすると、『こんな、マンションの一室に本社がある会社だ』といったことが出張しなくてもわかるので、非常に便利になった。」

ともおっしゃってました。かなり、ネットを使いこなしてらっしゃいますね。

昨年の春頃には、かなりそういったスキームを押さえ込むことに成功したが、金融危機の進展とともに、またそういうスキームは増えて来ている。この3月期決算で、GC注記(継続企業の前提に関する注記)が付く企業などが増え、こうした不公正なファイナンスが大幅に増える可能性がある・・・・・とのことですので、みなさんも十分お気をつけ下さい。

追記:
「de factoで”黒”だけど、ルールとしては定義しにくい」ので、政府が「英領バージン諸島は怪しい!」なんてことはなかなか公式には公表しにくいんだろうなあ・・・・と思ったら、佐々木氏の同趣旨の発言は、SESCさんのホームページにも載ってました。

http://www.fsa.go.jp/sesc/actions/kouenkai/20080910a.pdf

ご参考まで。

(ではまた。)

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3 thoughts on “「あやしいファイナンス」の見分け方

  1. この情報が、一般化すると、別の新しい怪しいところが生まれるだけで、どちらかというと、公開情報をわかりやすく解説できる人が、庶民が求めているリーダーですし、庶民はちゃんと信用しますよ。江戸時代なんて、もう、日本の中で、正邪入り乱れていて、それでも庶民はちゃんと、いわゆるマクロではかなりよくいっていました。現代の方が悪いかもしれない。経済的には豊かですが。とにかく、説明が下手ですね。説明は説教でもないし。ちなみに、江戸時代の邪の部分ですけど、なにやら、「極楽往生教」とかいう、蓮華座に座って瞑想すると、皆の前から一瞬に姿が消え、極楽往生しましたと。ま、年寄りとか病気持ちが、安らかに簡単ということで流行ったらしいです。実際は、座の蓋が開いて底に落ちて、そこで槍に突き刺されて死ぬだけだったらしいです。どこまで本当のことが怪しい情報ですけど、現代は、こういうのは多いですよね。その上、知らず知らずのうちに手先になって働いていることを本人が気づかない。複雑怪奇な時代です。

  2. コメントありがとうございます。
    おっしゃることが今イチよくわからないところもあるのですが;
    >この情報が、一般化すると、別の新しい怪しいところが生まれるだけで
    といった、いたちごっこ的なフェーズでは「ない」のではないのか、というのが、この講演を聴いて思ったことでした。
    つまり、特に9/11以降、テロリスト撲滅・マネーロンダリング防止の観点から、主要な国の金融機関等は厳格な本人確認を要求されてきたわけで、世界の「まともな国」で匿名性が確保できるスキームが用意されているところというのは、かなり包囲されて「風前の灯火」になっているのが現状ではないか、ということです。
    つまり、今後また、匿名性が金融界で活躍する時代がやってくるかというと、そうではないのではないかと。
    もちろん今でも、発展途上国などで匿名性が確保できるところがあるとは思いますが、そういう国はハナから信用されないわけで(例えば「ミャンマーの法人に10億円の株式を引き受けてもらうことになりました」と言っても、「ほんまかいな?」ということになるわけで)。
    「信頼感」と「匿名性」をあわせ持つvehicleが難しくなるのは、循環的な動きではなく「一方向的な流れ」なんじゃないかというのが、私の、この講演による発見でありました。
    (ではまた。)

  3. 正直、大学でこういった国債税制についての授業を結構熱心に聞いたんですけど、英領バージン諸島もタックスヘイブンの一つとして取り上げられており、国による仕組みの違いや特徴などは学んでいませんでした。
    ですので、この事実は非常にオドロキです。同じタックスヘイブンであっても、違いが存在しており、その中にはブラックに近いものもあると言うことは勉強になりました。ありがとうございます。