日出づる処の優先株、日没する処の優先株

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本日の日経34面に、三菱自動車工業の「臨時株主総会及び普通株式に係る種類株主総会招集のための基準日設定公告」および、株式会社ケンウッドの「資本減少につき株券提出公告」が並んで載っています。
ケンウッド、離陸へ
ケンウッドの公告は「減資」なので、一見、会社の調子が悪いのでは?と見えますが、よく見ると非常に景気のいいお話です。(株主総会ラッシュのせいか、記事になってませんが・・・。)
ケンウッドのプレスリリースを読むと、
まず、200億円の無償減資を行い、約181億円あった繰越欠損金を一掃してます。無償減資なので普通株主の権利になにか悪影響があるということではないですし、繰越欠損金が消えて配当もできるようになるということです。
また、先月すでに普通株で調達している220億円を使って、りそな銀行が全額引き受けていた第一回A種優先株式を一発で完済するという景気のよさ。

第一回A種優先株式は上限転換価額98 円ですべて転換されたと仮定した場合、普通株式127,551,020 株となり、新株式の発行により増加する株式数(92,000,000 株)では約28%減に抑えられますので、普通株式の希薄化のインパクトを大幅に縮減する効果があります。

とのこと。
ケンウッドの社長は、東芝から来られた方のようですね。一ヶ月前(6/1)の日経新聞1面に「ニッポン株式会社最高益の実相(下)リストラの涙忘れず——資本効率、米国に迫る。」という記事で、

「和製ゴーン」と呼ばれる経営者がいる。東芝の元上席常務で、二年前にケンウッドに転じた河原春郎社長だ。
 当時の同社は債務超過。大幅な人員削減や生産再編を断行、就任一年目で最高益を達成した。環境にも恵まれ前期も最高益に。再建のため苦肉の策で発行した優先株の半数を消却し、リストラの総仕上げにかかる。
 短期間での復活劇は日産自動車を見るようだ。河原社長は「再生のセオリー(理論)には無駄の排除という共通点がある」という。累積損失の解消にメドを付け、今期は成長のための投資を五十億円上積みする。

と紹介されています。
三菱自動車、また株主総会
一方、その隣に公告を出している三菱自動車は、今年9月開催予定の「臨時株主総会及び普通株式に係る種類株主総会」の基準日設定の公告を出しています。
臨時株主総会というのは、議決権のある株主の総会。普通株式に係る種類株主総会というのは普通株式の株主の総会です。すでに発行されている優先株式はすべて無議決権株だけですから、つまり、この両方の株主総会に出席する株主はイコール。すなわち、両方、普通株式の株主だけになるはずです。
この総会で何を決議するんでしょうか?
5月27日の日経新聞の記事でフェニックス・キャピタルが時価(26日終値220円、本日終値170円)より低い約100円で第三者割当増資を引き受ける予定という記事が出ていたことから想像するに、フェニックスの安東代表も先日の株主総会で取締役に無事選任されたので、いよいよフェニックスのファンドが出資するための「有利発行」(商法280条ノ2第2項)のための特別決議をするんじゃないでしょうか。
(参考:https://www.tez.com/blog/archives/000093.html

商法280条ノ2第2項
株主以外ノ者ニ対シ特ニ有利ナル発行価額ヲ以テ新株ヲ発行スルニハ定款ニ之ニ関スル定アルトキト雖モ其ノ者ニ対シ発行スルコトヲ得ベキ株式ノ種類、数及最低発行価額ニ付第343条ニ定ムル決議アルコトヲ要ス 此ノ場合ニ於テハ取締役ハ株主総会ニ於テ株主以外ノ者ニ対シ特ニ有利ナル発行価額ヲ以テ新株ヲ発行スルコトヲ必要トスル理由ヲ開示スルコトヲ要ス

種類株主総会
また、ある種類の株主だけに損害を及ぼすときには、その種類の株式の株主総会が必要です。このために「普通株式に係る種類株主総会」も併せて開催するのだと考えられます。

第345条 会社ガ数種ノ株式ヲ発行シタル場合ニ於テ定款ノ変更ガ或種類ノ株主ニ損害ヲ及ボスベキトキハ株主総会ノ決議(第221条第2項ノ規定ニ依リ定款ヲ変更スル場合ニハ2 同項ノ決議)ノ外其ノ種類ノ株主ノ総会ノ決議アルコトヲ要ス
2 前項ノ総会ノ決議ハ其ノ種類ノ総株主ノ議決権ノ過半数ヲ有スル株主出席シ其ノ議決権ノ3分ノ2以上ニ当ル多数ヲ以テ之ヲ為ス
3 株主総会ニ関スル規定ハ第1項ノ総会ニ之ヲ準用ス

第346条 前条ノ規定ハ第222条第11項ノ規定ニ依リ株式ノ種類ニ従ヒ格別ノ定ヲ為ス場合及会社ノ株式交換、株式移転、分割又は合併ニ因リテ或種類ノ株主ニ損害ヲ及ボスベキ場合ニ之ヲ準用ス
第222条
11 第1項ノ場合ニ於テハ定款ニ定ナキトキト雖モ新株ノ引受、株式ノ併合、分割、買受若ハ消却、株式交換、株式移転、会社ノ分割若ハ合併ニ因ル株式ノ割当、新株予約権若ハ新株予約権付社債ノ引受又ハ資本若ハ資本準備金若ハ利益準備金ノ減少ニ伴フ払戻ニ関シ株式ノ種類ニ従ヒ格別ノ定ヲ為スコトヲ得

優先株の種類株主総会は開かなくていいのか?
「フェニックスが有利発行すると他の優先株式の株主は損害を受けないのか?」「他の優先株式の総会は開かなくていいのか?」という疑問がわくかも知れません。
しかし、今まで発行された優先株式の要項にはすべて、「転換価額の修正」「転換価額の調整」という項目が入っており、普通株が希薄化した場合には、希薄化した分だけ転換価額も下がるようになっています。
転換価額の「修正」の条項は、時価が下がっていった場合に、転換価額も下げる、というもの。
転換価額の「調整」は、転換価額より低い価格で発行が行われた場合に調整する、いわゆる「コンバージョン・プライス方式」ではなく、時価より低い価格で発行された場合に調整する、「マーケット・プライス方式」を採用しています。
というか、逆に優先株主に有利すぎないか?
逆に考えると、これって優先株主にはトク過ぎはしないでしょうか?
つまり、前述の5月の報道などで、フェニックス・キャピタルが有利発行することは既に既定路線として報道されているわけで、株価がこの希薄化を織り込んでその分下がっているとすると、その価格より低いからといってさらに優先株主だけ調整するのは、二重にメリットを享受しているとも考えられるんじゃないでしょうか?
しかし、この調整式は、時価を下回る払い込み金額で「普通株式が」発行されるとき、と書いてあるので、フェニックスが優先株式で投資する場合(優先株式でするんですよね??)、はこの調整は行われないことになります。
ということで、有利発行を株価が織り込めば、昨日お話したとおり、転換価額の「調整」ではなく、転換価額の「修正」条項に従って、転換価額がその分下がることになります。
有利か不利か、よくわからないのでは?
ただし、普通株式の有利発行が行われたら調整されるのに、ほぼ同じ内容で優先株の形態をとる有利発行が行われた場合には調整されない、というのも理屈としてはヘンかも知れませんね。
三菱グループに割り当てた優先株分については、それで訴訟になるというようなリスクはないと思いますが、JPモルガンに割り当てた優先株が第三者に譲渡されるとすると、「フェニックスの有利発行によって、当優先株は損害を受けたのに、商法第346条に定める種類株主総会を開催しなかった。(ので、増資は無効だとか、その分損害賠償しろとか)」と言い出す株主が現れないとは限らない気もするのですが。
別途、種類株主の株主総会も開催するんでしょうか?
それとも、そういう場合は「修正条項等があるので損害は与えてない」ということで論破できる、ということなのでしょうか?
そもそも「有利」発行になるのか?
5月27日のインタビューでは、フェニックスの安東代表は「100円でも高いくらいだ」と言ってましたが、確かに、このままズルズルと株価が下がっていったら、時価があんまり100円と変わらなくなっちゃうかも知れませんね。どうするんでしょうか?もっと有利な条件に変更するんでしょうか?
もっと有利な条件に変わるのは、株価にも織り込まれて無いし、他の優先株主も「聞いてねーよ」ということになるんじゃないでしょうか。
(ではまた。)

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