コンプライアンスの(ネガティブ)スパイラル現象

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昨日のエントリ「飲食産業におけるアルコールに関する「積極的」確認の必要性?」に対して、ろじゃあさんからトラックバックいただきました。

ちなみに磯崎さんが触れておられる
第一項の規定に違反して車両等を運転することとなるおそれがある者に対し
という条文の文言ですけど、この書き方だと、上記環境を踏まえればお店サイドとしては積極的に確認する方向になるだろうなと思います。
実際に確認したかどうかで争いになったときに常に従業員には確認させることになってます、ほら、これがマニュアルです・・・って形で対応せざるを得ないかもしれないからだと思うのですがね。


もちろん私も、上場企業(または金融庁所管の)企業から聞かれたら、「そう解釈しておいた方が安全だと思います。」と答えると思います。というか、そうとしか答えようがない。「そんなことやんなくて絶対大丈夫。いざ、誰かが何か言ってきたら、オレが話をつけてやる。」と答えられる人は今や存在しないんではないかと思います。
一方で、立法を検討された方々が本当に、(未公開企業まで含めた)飲食店すべてが、客から酒類の注文を受けた時に必ず「お車でご来店ではないですか?」と聞く社会になったらいいなあ、なるべきだ、と思って法律を改正したのかというと、そうではないと思うんですよね。
10日ほど前に金融庁さんから、「内部統制報告制度に関する11の誤解」
http://www.fsa.go.jp/news/19/syouken/20080311-1.html
が公表されて、「あと20日で施行というところまで来て今更、『もっと気楽に考えていいよ』と言われましても・・・」という感じで苦笑してしまいましたが。現場は眼を血走らせて、今まさにフローチャートを作り終えようとしているところであります。
このような善管注意義務なり監査なり内部統制というのは、「ここまでやったら完璧だ」ということが言えないものです。すなわち、やればやるだけリスクは小さくなるが、コストも高くなるので、「合理性(≒コスト・パフォーマンス)」を考えて、リスクヘッジとコストの適当な均衡点を見つけ出すことが必要なわけです。
監査法人が完全な独立性(実質的かつ最終的な意見の決定権限)を持っていれば、(良くも悪くも)おおらかに「そんくらいにしといたらどや」と、各企業の実態に合わせた均衡点を示唆できるわけです。しかし、金融庁の検査を想定して、自分の出した意見形成のプロセスが否定される可能性が出てくるとなると、この均衡点を会計士や監査法人が勝手に決めるわけにはいかない。「第三者(金融庁)」に対する説明責任が出てくるわけです。
このため、「ここまでやっておけば、いくらなんでも文句言われないだろう」というレベルまで均衡点を上方シフトさせる必要が出てくる。結果として、社会的に適切なチェック機能より、かなり重たいチェック機能が盛り込まれて、社会的に資源配分がゆがむ可能性が出てきます。
監査や内部統制に限らなくても、現在のように社会が複雑化し絶対的な権力が存在しない時代においては、何かあれば善管注意義務上、専門家に意見を求めるしかなく、専門家は「そんくらいで十分ですよ」とは言えない。「どこまでやればいいか」という水準は、自己だけで決定できるものではなく、「社会の全般的な水準」との対比で決定されるものだから、真面目な日本人にこうしたことをやらせると、どんどんスパイラル的に世知辛い状況に陥ってしまう、ということになります。
金融庁さんが「絶対的権力」であればまだいいのですが、金融庁さんも「世論」等から自由ではいられない。
昔であれば、議員さんなどから「もうそんくらいにしといたれや」という力が働いて、適度なところで均衡が図られた気もするのですが、今や、企業の味方をして「そんくらいにしといたれや」てなことをいうリスクもかなりのもんになってきてしまったので、厳しくなる方向のベクトルだけが働いて、それを押し戻す力が働いてない気がします。
先日書いた、「アメリカでは『フェア』の一言で済む話が、日本だと膨大かつ細かい法令や政令や省令に化けてしまうという現象」と同じ構造かと思います。)
(ではまた。)

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3 thoughts on “コンプライアンスの(ネガティブ)スパイラル現象

  1. [法律]「内部統制報告制度に関する11の誤解」批判

    今回のネタは、お笑い、悪ふざけ一切なし。当局にガチンコ勝負を挑むこととする。 以下、金融庁が「誤解」として挙げた11の項目について、一つ一つ、批判的に検…

  2. こんにちわ。
    ふと、デジャブが・・・。
    同じ金商法(金融商品取引禁止法!?)の行為規制に関する、金融業者(特に銀行)による過剰反応と金融庁の「まあまあ」といった風情のQ&Aです。
    業者は、右に左にと振り回されておりますよ!

  3. M要素解放スパイラル

    isologue – by 磯崎哲也事務所で指摘されているとおり、某コンプライアンス等の規制はM要素を多いに持っている構成員からなる社会の場合、どんどん大…