福井総裁の責任とファンドのvehicleの建て付け

日銀の福井総裁が村上ファンドに1000万円出資していたことでバッシングを受けているのを見て、
「なんでやねん。じゃあ、
・預金を預けている銀行が法令違反をしたり
・持っている投資信託を運用している投資信託委託業者が法令違反をしたり
した場合にも、バッシングされないとあかんのかいな?」
と、一瞬思いかけましたが。・・・ん?ちょっと待てよ。
(日銀の総裁である人がどういう態度で資産運用に臨まないといけないか、というのは、話がややこしくなるので、この際、ちょっと横に置いときますが)、一般の出資者にも関連する話として、

  • 預金を持つのか、
  • 投資信託に出資するのか、
  • 普通の信託の受益権を持つのか、
  • 限定責任信託の受益権を持つのか、
  • 株式を持つのか、
  • 特定目的会社(TMK)の優先出資を持つのか、
  • 匿名組合で出資するのか、
  • 投資事業有限責任組合の有限責任組合員として出資するのか、
  • 民法上の組合の組合員として出資するのか、
  • 等で、出資者にかぶさってくる責任というのは、当然異なりますよね。
    村上ファンドは確か、今は、投資事業有限責任組合も使ってらっしゃるようですが、昔はケイマン籍のLPと日本の民法上の組合を組み合わせた構成になっていたはず。
    民法上の組合(任意組合)は、いわゆる「無限責任」のvehicleでして、財産は組合員の共有であるとともに、組合の債権者に対して「直接」「無限責任」を負うものです。
    このため、不動産投資など借入を行う投資には向きませんが、株式投資の場合には「株式」自体が間接有限責任なので、レバをかけない限り実際には組合員が出資額以上の責任を負うことは無い「はず」。このため、税務上パススルーということもあり、投資事業有限責任組合(LPS)の使い勝手がよくなる前は、(ベンチャー投資など)株式投資の私募ファンドには主に民法上の組合が使われてました。
    ただし、銀行借入はしなくても、例えば、組合が不法行為を行って損害賠償責任が発生した場合には、組合員に債権者からの権利行使が行われるということもありうる、ことになるかと思います。
    また、有限責任事業組合(LLP)でも(ですら)、工作物責任については組合員は有限責任にならずに、共有している財産につき所有者として責任を負う、という見解もあるようです。
    (例えば、信託大好きおばちゃんのブログ「工作物責任と限定責任信託」
    では、組合がインサイダー取引をしちゃったら、各組合員の責任は?
    当然、(村上ファンドはキャッシュが潤沢なようですが)、分配後で組合の財産がなかったりしたら、「得られた財産(元本+利益)の没収」等については各組合員からも取り返される可能性は高いと思いますが、その他の刑事罰(懲役、罰金等)についての組合員の責任というのは、どう考えればいいんでしょうか?(どなたかご存知の方。)
    ・・・ということで、福井総裁が責任を問われるべきかどうかはともかく、アクティビスト・ファンドのような、「株式の間接有限責任の範囲だけにとどまらないような活動」をするファンドを任意組合で組成すると、出資者(組合員)も、ちょっと怖い思いをする可能性もあるんじゃないでしょうか?というお話でした。
    (ではまた。)

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    阪急のナイス花婿さん度

    昨日、関西の記者の方から阪急と阪神の統合についてどう思うかインタビューを受けまして、(関西の鉄道について土地勘もないので)いろいろヒントをいただきながら考えをまとめていましたが、その検証ということで。
    阪神と阪急を統合するだけなら、合併とか株式交換だけにしたほうが、借り入れもしなくて済むので負担としては少ないわけですが、株主はキャッシュインできませんので、当然、阪神の3分の2以上の議決権を持つ村上ファンドが総会で賛成せず承認されないので、可能性があまりない。
    toshiさんは、

    関西の人間はどうみても企業価値(シナジー効果)という点からみたら阪神・京阪統合しかありえない思うんですよね。。。私はいまでも「阪神・阪急統合」は、単なる「村上ファンドへの敵対的買収防衛策」(阪急HDホワイトナイト説)でしかありえないと確信しています。

    おっしゃってますが、この営業面でのシナジーのあたりは、関西の土地勘のない私にはなんともいえないところ。
    借入負担力
    ということで、よそモンの目で純粋に財務的に見てみると、誰かがが借り入れをしてTOBする場合には、最大約4000億円にもなる阪神TOBの借入金負担に耐えられる企業じゃないとまずいわけですが、
    近畿日本鉄道(14日終値ベース時価総額6029億円)
    を除くと、他の関西上場電鉄事業会社では、
    南海電気鉄道(同2000億円)、
    京阪電気鉄道(同2993億円)、
    神戸電鉄[阪急系](同380億円)、
    京福電気鉄道[京阪系](同36億円)
    と、阪急ホールディングス(5562億円)に比べると、体力的に見劣りしそう。
    連結利益でもトップの阪急は、体力的にはなかなかいい相手なんではないかと関東もんからは思えます。
    不動産流動化のシナジー
    TOBで最大4000億円膨れ上がる借入金の負担を低減させるには、(タイガース公開てな選択肢はさておき)、不動産の流動化あたりが現実的な路線ではないかと思います。
    つまり、不動産を(なんらかコントロールが効く形で)売却しちゃうわけですが、関東に住む私が聞き及ぶところでは、阪神さんは(今までほとんど何もしてこなかったので)、相当(数千億円単位で)不動産の含み益を抱えてらっしゃるということで、この含み益を使うことを考え付くわけですが、ただ単純に売却したら法人税で売却益の4割程度が持っていかれてもったいない。
    一方、阪急さんはバブル期に大量の不動産を買いこむなどの「積極」経営で、含み損のある資産を大量に保有されているとも聞きます。(僻地の関東で聞いた話なので、真偽のほどはよくわかりません。)
    こういう含み益・含み損をうまく相殺して売却することができれば、法人税によるキャッシュアウトが削減され、効率のいい資金調達ができる可能性があります。
    「仮に」500億円(連結固定資産の5%)程度の含み損があるとしたら、200億円の価値。PER20倍として、税引前で毎年25億円も利益を増額させるのに匹敵、とも考えられます。阪神の保有資産でポテンシャルが生かしきれてないようなものを活用して生まれる利益は「シナジー」ではない・・・と考えると、どんな電鉄会社と組んでも、営業上のシナジーで25億円とか利益を増額させるのは厳しそう。とすると、「王子様」の要件としては、こうした財務的メリットの方が比重が大きいかもしれないですね。
    財務的ノウハウ、ガバナンス面のシナジー
    阪急さんのリリースを見ると、昨年度・一昨年度はリストラのリリースが非常に多かったようで、流動化手法を使った不動産の処分(東京の第一ホテル等)などもいろいろやられておられる模様。
    苦労されてきて、不動産リストラや有効活用をするノウハウをお持ちでしょうから、そういう意味では、阪神の嫁ぎ先としてはいいんじゃないかと思えます。
    今年の1月に買収防衛策も発表しており、独立委員会を作るなど、コーポレートガバナンス的感覚とか、資本効率を高めていかなければならない、という感覚もお持ちではないかとお見受けします。
    もともと阪神の問題は、ポテンシャルがなかったことではなく、「ポテンシャルを活用しなかったこと」だとすると、「活用しなくちゃ」というプレッシャーを与えてくれる経営陣というのは、何よりの「シナジー」ではないかとも思います。
    ホントに含み損のある資産はあるのか?
    (以下、テクニカルなお話ですので、ご興味のある方はお読みください。)
    昨年度から減損会計が導入され、昨年度の半期報告書では、

    当中間連結会計期間より、「固定資産の減損に係る会計基準」(「固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書」(企業会計審議会 平成14年8月9日))及び「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第6号 平成15年10月31日)を適用している。これにより税金等調整前中間純利益は5,221百万円減少している。

    と、5,221百万円、期末の連結決算短信(年間)では6,987百万円の減損損失を計上していますが、1兆円もの連結固定資産の額と、バブル期にブイブイ投資をされていたという情報からすると、ちょっと含み損の額としては少ない感じもします。(すでに処分済みなのかも知れませんが。)
    減損会計(「固定資産の減損に係る会計基準」等)では、まず「減損の兆候」があるものとして、discount前の将来キャッシュフローが総額が帳簿価格を下回る場合にのみ減損を行うことになってますし(「対象資産すべてについてこのような判定を行うことが、実務上、過大な負担となる恐れがあることを考慮したためである」基準四2(1))、
    資産は個別の不動産等に検討するのではなく、いくつもまとめて「グルーピング」してもよく、(つまり、あるグループで含み損・含み益を相殺して考えることができますし)、
    減損損失を認識する場合でも、帳簿価格を「回収可能価額」まで減額すればいいわけです。
    この回収可能価額というのは、「資産又は資産グループの「正味売却価額(時価−処分費用)」「使用価値(将来キャッシュフローの現在価値)」のいずれか高い方の金額をいう。」(基準注解(注1.1))ということになってますので、時価より高い金額になってることもありえます。
    つまり、将来計画が大量のキャッシュが沸くものになっていたり、グルーピングをしていたりすれば、適正に会計基準を適用していても、必ずしも一般に言うところの「不動産の時価」まで評価減されているとは限らないかと思います。
    そういう「ホントは含み損がある資産」を上手に組み合わせて流動化することができれば、税負担を抑えた効率のいい資金調達が可能かも知れません。
    持株会社化の影響
    (以下、さらにマニアックになりますが、)
    阪急さんは、昨年の4月1日付けで持株会社化しています。

    2005年04月01日 純粋持株会社体制への移行に伴う商号変更及び無担保社債・転換社債に関する名称変更・連帯保証について
    http://holdings.hankyu.co.jp/ir/data//HD200504011N3.pdf
    当社は、本日分社型(物的)吸収分割により当社の営む全ての営業を、当社の完全子会社である阪急電鉄株式会社(本日付で阪急電鉄分割準備株式会社より商号変更)へ承継させ、「阪急ホールディングス株式会社」へと商号変更し、純粋持株会社となりました。

    つまり、先に「阪急電鉄分割準備株式会社」という100%子会社を用意しておいて、そこに吸収分割(阪急電鉄事業を現ホールディングスから分割して切り離し、その子会社と合併させるイメージ)としたわけです。
    image003.gif
    ちなみに、分割前後の要約貸借対照表(個別)は、以下のとおり。
    image005.gif
    営業用の資産(流動資産1300億円、固定資産7700億円)が1兆円弱減少するのにあわせて、長短借入金が合計8000億円減少、長期貸付金も約2800億円減少(紫色部分)、分割により取得した子会社(阪神電鉄)の株式が主だと思いますが、投資有価証券が1176億円増加しています。(水色部分)
    土地も分割で子会社に移っていますので、今まで、土地の再評価に関する法律により、1回だけ再評価が認められて自己資本増強していた「土地再評価差額金」936億円と「土地再評価に係る繰延税金負債」642億円が取り崩されています。
    投資その他の資産に計上された「繰延税金資産」800億円も子会社にくっついていったのか、無くなってますが、一方で、繰延税金負債が173億円計上されています。
    税務上は、100%子会社への分割なので、「適格分割」に相当し、売却益は認識されません。会計上も、100%子会社間なので、売買処理法ではなく簿価引継法で、ホールディングス側に売却益は計上されていないようです。
    一方、子会社側の処理は(よくわかりませんが)、新設分割(分割して新会社を作る)でなく吸収分割(わざわざ子会社を先に用意して、そこに分割事業を移転する)を採用してますので、おそらく、簿価引継ではなく、商法で許容される時価以下の範囲で資産の計上額を調整したり、のれんを計上したりしてるかも知れません。
    ということで、基本的に、子会社での会計上の不動産の帳簿価格は時価以下になっているはずですが、税務上は取得価額で子会社に移転しているはずなので、「税務上の含み損」がある不動産はあってもおかしくないかと思います。
    ただし、法人税法第六十二条の七(特定資産に係る譲渡等損失額の損金不算入)で、新阪急電鉄との関係が分割事業年度前5年以内のもの(例えば、この分割のために新会社を設立したもの)で、共同事業用件を満たさない場合には、あと2年弱は不動産等を売却して損失が出ても、損金参入できない可能性があります。
    (一方、法人税法施行令123条の9(特定資産に係る譲渡等損失額の計算の特例)では、時価純資産≧簿価純資産の場合等には、損金参入可。当然、阪急さんは、引き続き今後も保有資産のリストラや流動化などを進める前提で持株会社化のスキームを構築してると思いますので、そうでなくても、5年以上前からグループ内にある休眠会社などを利用するなど、流動化に影響が出ないようにはチェックされたんじゃないかとは思いますが・・・。)
    (以上)
    以下、資料

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    toshiさんのご尊顔、発見

    (昨晩の出来事でブログを書く力も沸いてきませんが・・・。)
    ウェブを見てたら、「ビジネス法務の部屋」を書かれている弁護士の山口 利昭(toshi)さんのご尊顔入り記事を見つけました。

    読売新聞[緊急インタビュー] 阪急・阪神統合
    <3>教訓 山口 利昭(やまぐち としあき)・弁護士
    http://osaka.yomiuri.co.jp/tokusyu/h_kabu/hk60613a.htm

    今日も、大阪から新聞社の方がわざわざ阪急・阪神統合問題でインタビューに来てくださるというので、「関西地方の電車の路線の感覚とか土地勘とかも無いし、大阪のことならtoshiさんに聞けばいいのになあ・・・」などと思いつつ、予習のため記事検索をしていて発見したものであります。
    (ではまた。)

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    本日休載

    今週号のAERA
    aera060619.jpg

    の大鹿記者の記事「村上無罪への大逆転」や、池田さんのブログの記事「インサイダー取引はなぜ犯罪なのか」についてコメントしようかと思ったのですが、どーせこの時間、みなさん気もそぞろで誰も私のブログなんか読んでないと思うので、(・・・と思うのと・・・私も気もそぞろなので・・・)、本日、休載とさせていただきます。<(_ _)>
    (ではまた。)

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    「業界」な披露宴

    グランドハイアットで、尾関さん山口もえさんの披露宴に出席。
    いや、なかなか楽しくて、そのわりに華美でもなくて、いい披露宴でした。
    ちなみに、私の隣のテーブルは芸能人席(ほぼ女性)でして・・・眼福、眼福。
    おめでとうございます。
    (ではまた。)

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    Google Spreadsheets、来ました

    Google Spreadsheets
    spreadsheets.gif
    のテストアカウントが来ました。
    モーソーが先走りすぎていたんですが、実際使ってみると、

    How many spreadsheets can I create? What’s the limit per spreadsheet?
    Given that Google Spreadsheets is being offered at this time as a limited test in Labs, it’s still experimental and we have set some conservative usage limits. You may create up to 100 spreadsheets, each of which may contain up to 20 tabs, 50,000 cells, 256 columns or 10,000 rows – whichever comes first (meaning, any one of these limits may prevent you from continuing to add data to a spreadsheet). We allow you to import .xls and .csv files which are approximately 400k in size originally.

    といった制限がまだいろいろあり、縦は100行横はT列までしかない・・・。orz
    「ネット上に無限に広がるスプレッドシートと、無尽蔵なコンピューティングパワー」
    「周期が219937−1」のメルセンヌツイスター乱数」
    「Googleのハードウエアに最適化された超高速処理」
    ・・・とかいう夢は、とりあえずかなり先のものになりそうです。
    (ご参考まで。)

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    村上氏の逮捕は「ホリエモンの復讐」なのか?

    マスコミでは、「ライブドアをケシカケたのは村上ファンド」「だから村上ファンドが悪い」的な報道が主流になりつつあるようですが、先にどちらが けしかけたかでインサイダー規制(167条)が適用されるかどうかが決まるわけではないですよね。
    本日の読売新聞の記事
    http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060608-00000006-yom-soci
    http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20060608it06.htm
    によると、

    25万株一気に購入、ライブドアから連絡あった日に
    (中略)
    関係者によると、ライブドア側の担当者は同年10月20日のメールで、「購入資金として200億円を用意する準備ができたので、会合の場を持ちたい」などと伝えていた。女性担当者は、この内容を村上容疑者に報告したという。ライブドアが用意しようとした200億円はこの当時、5000円前後で株価が推移していた同放送株の発行済み株数の約12%、400万株の購入資金に当たる。
     ライブドア側の報告を受け、村上ファンドの投資顧問会社だった「MACアセットマネジメント」はこの日のうちに、同放送株を約25万株購入していた。MAC社の大量保有報告書によると、同ファンドは少なくとも同年8月以降は、10万株台の大量購入はしていなかった。
     村上ファンドは、この日以降、11月4日に約17万株、同12日に約15万株などと断続的に大量購入を続けた。

    とのことなので、ここまで読むと、「こりゃ村上ファンドは完全にインサイダー規制に引っかかってアウトじゃん」、と思いますよね。
    (聞くところでは、M&AコンサルティングとMACアセットマネジメント[一任の投資顧問業者]の間にはチャイニーズウォールが敷かれていて、M&Aコンサルティングがインサイダー情報を取得するとMACに売買を停止するように指示が行ってインサイダー取引を防止する仕組みが構築されていた、という話もありますので、その両者の間でインサイダー情報の流通があった、ということを検察は別途立証する必要もあるかも・・・・ということは、さておき、)
    一方、同記事によると、

    ところが、12月に入っても、ライブドア側が同放送株をほとんど買い進めておらず、0・5%程度しか保有していないことを知った村上容疑者は、ライブドア幹部に「全然、買ってないじゃないか」と怒ったという。

    とのことで、実際に買ってたのは村上ファンドだけで、ライブドアはこの時点までは「大量買付け」はしてないわけですよね。
    メールの内容にもよりますが、10月20日でホントに「公開買付等の開始に関する事実」を村上氏が「知った」ということになるんでしょうか?
    (記事の「怒ったという。」という文章には、「ライブドアが買うはずだったので村上ファンドも買い増したのにライブドアは買ってないじゃないか」という「期待はずれ」的ニュアンスが出てますが、村上氏はもともと普通の会話でも声がでかそうなので(笑)、怒ってるように聞こえた、というだけかも知れません。)
    「共同買付者」ではないのか?
    47thさんがおっしゃる「ライブドアと村上ファンドは『共同買付者』に該当するのではないか?」という可能性もまだ消えてませんよね。
    ライブドアが買うと、5%を越えた時点で5日後に公表しないといけないわけですので、買い始めると市場が大騒ぎになるのは見えてました。が、村上ファンドはすでに10月時点で約12%を保有していたわけで、多少買い増しても怪しまれない。
    ライブドアが後で引き取る可能性も前提に「共同で」購入して、ライブドアが食指を伸ばしているのをカモフラージュしようにした、と考えるのも筋が通ります。
    「ライブドアの要請」に該当しないか?
    また、47thさんの以前のエントリ(ブロック・トレードとインサイダー取引規制(2))の最後でも触れられていた、「(167条)5項4号」ですが、この条文では、公開買付者等(ライブドア)の要請により、あとでライブドアに売り付ける目的で村上ファンドが買い付けを行う場合には167条インサイダーの適用除外ということになっています。ただし、これには「ライブドアの取締役会が決定して」という条件が付いてます。

    四  公開買付者等の要請(当該公開買付者等が会社である場合には、その取締役会が決定したもの(委員会等設置会社にあつては、執行役の決定したものを含む。)に限る。)に基づいて当該公開買付け等に係る上場等株券等(上場等株券等の売買に係るオプションを含む。以下この号において同じ。)の買付け等をする場合(当該公開買付者等に当該上場等株券等の売付け等をする目的をもつて当該上場等株券等の買付け等をする場合に限る。)

    実際には、村上ファンドはライブドアの取締役会議事録を確認したわけではないでしょうから、これに該当するとしても(注意不足も含めて)真っ白でないのは確かですが、仮に、堀江・宮内・熊谷といった主要かつ取締役会の過半数のメンバーから「後で売ってくださいよ」といった要請を受けていたにも関わらず、取締役会の決議がないだけで懲役だとしたらキビシイですね。
    マスコミでは、「後でライブドアに高く売り付けるために株を買った(ゆえに村上ファンド=悪人)」といった表現が使われているようですが、ライブドアの(取締役会の)要請によるものならむしろ逆に問題なかったはずです。そして、村上ファンド側はケアレスではあったものの、ライブドアの取締役会の決議により要請があったのとほぼ同様の実態を有していた可能性も高そう。
    ライブドアはインサイダー違反ではないの?
    スポーツ紙系の報道では、「村上逮捕はホリエモンの復讐」というような見出しで、「いっしょに経営権を取ろうと約束していたのに裏切られたので、検察に情報を提供した」というようなことも書かれているようです。
    「いっしょに」ということだとすると、村上ファンドとライブドアは(少なくとも昨年の時点では)「共同買付者」だったということで、前述のとおりほんとに167条が適用できるのか?という気もします。
    一方、「共同買付者であっても167条は適用される」という厳しい解釈を取るとすると村上ファンドはアウトなわけですが、昨年秋の時点で村上氏が「うちのファンドでも(5%以上)買い増していく予定だよ」「いっしょにやろう」とライブドア役員に告げていた場合には、ライブドアも167条違反、ということにならないでしょうか
    実際、大量保有報告書によると平成16年10月1日時点でのMACアセットマネジメントの持株比率は12.02%で平成17年1月5日に18.57%まで6.55%買い増してます。
    image001.gif
    これに対して、「大量買付けを行うはず」のライブドアは、実際には1月中旬になってもニッポン放送株を約0.5%しか保有しておらず、本格的な取得を始めたのはフジテレビがTOBを発表した翌日の1月19日以降。(後掲の表ご参照。)
    つまり、9月ごろから「いっしょに大量に買い付けよう」という話をしていたのだとしても、翌年1月までの間に「大量買付け」の事実が客観的にあったのは、どちらかというと村上ファンドの方の話。
    両者ともニッポン放送株を買い付けていたのだとすれば、村上ファンドが167条の解釈上「黒」になるとするなら、ライブドアのほうがより黒になる可能性が高いんじゃないでしょうか。
    村上ファンドよりライブドアの買い付け額の方がはるかに小さいですが、0.5%とはいえ10億円弱の金額になりますし、インサイダー取引というのは「額が小さいから許される」という話でもないです。
    平成17年2月10日にライブドアが提出した大量保有報告書の「最近60日間の取得又は処分の状況」では、平成17年1月7日の取得がもっとも古い取得日として開示されており、合計株数と明細の差を取るとそれ以前に取得したものは157,720株。
    その157,720株を取得したのは60日以上となる平成16年12月上旬より前、ということになりますので、その中に村上氏と緊密に連絡を取った時期以降に取得したものがあるとすると、ライブドアも167条違反である可能性が高くなりますね。
    image002.gif
     
    (追記:6/9、9:34)
    大量保有報告書では、2004年12月上旬以前に157,720株持っていたことまではわかるものの、それらをいつから保有していたのかがわかりませんが、いただいたヒルズ黙示録
    hills_mokujiroku.jpg
    を読み返したところ、93ページに、

    最初はライブドアの「純投資」として、いわば資産運用のつもりで前年の2004年7、8月ごろからニッポン放送株を買い進めている。ニッポン放送が最新の株主名簿を作成した2004年9月末時点では、0.1〜0.2%ほど取得していた。村上がどんなイグジットを考えているのか分からないが、とりあえず「提灯をつける」つもりで、見よう見まねで株を買い始めたのが真相だろう。

    とあります。
    株主名簿の名義と実際の保有株式数が一致しているとは限りませんが、もし一致していたとしたら、10月から12月上旬にかけて残りの0.3〜0.4%を買ったということになり、9月ごろから村上氏に「うちも買い進む」という旨の話を聞いていた場合には、ライブドアも同罪、ということになりえます。
    (/追記)
    つまり、ライブドアの役員の方々はまだ167条インサイダー違反では逮捕されてませんから、「復讐のため」に検察に情報提供したりしたら、自分にもさらに罪が加わっちゃう。ということは、「復讐説」というのは違うんじゃないですかね? 「毒食わば皿まで」ということか、あるいはそこまで深く考えてないということでしょうか?
    (ではまた。)
    付録:「言ったもん勝ち」について
    ちなみに、先日のエントリで、「言ったもん勝ち」という表現を使いましたが、他のブログで「磯崎さんの言うとおり、聞いただけでインサイダーになるというのはおかしい」と多数引用されてるのを見て、誤解を招きやすい表現だったかも・・・と思っております。
    「言ったもん勝ち」というのは「(実際には行うかどうか決まっていないようなどんなテキトーなことでも)言った方が相手の行動を制約できる、というのは、ちょっとねえ・・・」というニュアンスを込めたつもりでした。
    つまり、わかりやすく例えれば、私が一昨年の10月あたりにタイムスリップして堀江社長に会って、「私、磯崎は、ニッポン放送の経営権を取得するために、50%超の株式を取得できたらいいなあ、と思ってるんです」と告げるだけでライブドアは株式を取得できなくなってしまうのか?また、私が「200億円程度なら調達できる目処が付きました」と付け加えたら、確実にアウトになるのか?というあたりですね。
    「磯崎がそんな資金を調達できないのはあたりまえだが、ライブドアは可能性があった」ということであれば、どのへんの確かさがその境目になるのか?
    もちろん、上記は私の頭の体操としての興味から考えていることであって、よいこのみなさんには、ぐっちーさんのおっしゃるとおり、「李下に冠を正さず」をオススメします。
    (「光の中」を歩んでください。)

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    Google の Web-Based Spreadsheet

    でましたな。

    Date: Mon, 5 Jun 2006 18:13:44 -0400 (EDT)
    Subject: WSJ TECH ALERT: Google Plans Web-Based Spreadsheet
    Google plans to release Tuesday a Web-based spreadsheet application, the Internet giant’s latest challenge to Microsoft’s core PC software business. Google Spreadsheet will be made available on a limited test basis.
    FOR MORE INFORMATION, VISIT: http://online.wsj.com/article/SB114954419577771854.html?mod=djemTECH (注:←有料)

    で、

    Spreadsheet documents users create will be saved on Google computers.

    なのは当然として、

    That will allow consumers to give other users access to view and edit them over the Web. Multiple users will be able to simultaneously edit the same spreadsheet, and type messages to each other in a separate window.

    てなこともできるようです。
    (特にexcelとの)、import、exportあたりをばっちりするのは当然でしょうけど、

    “I see them as complementary,” said Jonathan Rochelle, product manager for Google Spreadsheets. “I know a lot of users will use both.”

    だそうです。
    乱数の精度をましにするとか、行や列の制限をなくすと、一部の金融関係者にはウケそうですね。
    もし仮にGoogleのマシンパワーが使えるとしたら、すんごい重いモンテカルロシミュレーションとかが一瞬で終わっちゃったり、とか。
    (そのかわり、世界のメジャーな金融関係企業のリスクポートフォリオがGoogleからは丸見えになっちゃったり、とか。[笑])
    手元パソコン側のコンピューティング・パワーを使って計算するだけのしろものだったらアホっぽいですが、Google側で、誰がどのような計算をどんな目的で使いたがっているのかがわかるようなしくみであれば、これは一種の革命かも知れないです。世界の人々が使い込めば使い込むほど、進化していくわけですからね。
    そういう「計算のアルゴリズムをより洗練させて、レスポンスや使い勝手を高める」なんてのは、まさにGoogleのエンジニアが得意そうなところじゃないでしょうか。(先日買収したオンラインワープロのWritelyなんかよりも。)
    Gmailではタダで湯水のようにディスクスペースをくださったGoogle様なので、今度は、タダで湯水のようにマシンパワーを下さるとしたら非常にいいんじゃないかと思いますけど。
    速くて高いワークステーションなどを購入せずとも、また、ややこしいプログラミングの技能を修得せずとも、Excelと同じようなワークシートのインターフェイスで、超高度な科学計算が誰にでもできる世界・・・・うーん、もーそーしてるうちにだんだんコーフンしてきました。
    (ではまた。)

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    村上氏、インサイダー取引認める(どうなる、投資実務の今後?) 

    村上氏が罪を認める記者会見をしたとのこと。
    http://dailynews.yahoo.co.jp/fc/economy/murakami_fund/?1149474186

    インサイダー取引認める 村上氏、一線から退く意向
     村上ファンドのニッポン放送株売買をめぐるインサイダー取引疑惑で、村上世彰氏(46)は5日午前、東京証券取引所で記者会見し、「私自身が罪を認め、反省すべきことがある」と述べ、インサイダー取引容疑を認め、謝罪した。同日までの東京地検特捜部の任意聴取にも「ライブドア(LD)によるニッポン放送株の大量取得をある時点で知っていたと言われれば、そう取られてもやむを得ない」と供述している。(共同通信)

    いやー、びっくりしましたね。
    今までも、奇手・巧手含め、人が考え付かない様々なことをやってこられた村上氏ですが、しかしこれは、よく考えると非常〜にシブい一手かも知れないですね。
    世間の皆さんは堀江氏のアナロジーで、誰しもが村上氏も今後一貫して容疑を否認して争うものだとばっかり思っていたと思っていたんじゃないかと思います。しかし、よく考えてみると、堀江氏は公開企業であるライブドアの社長であって、しかもそのキャラで株価を高く保っていた面があったわけで、堀江氏が事業を「やーめた」と放り出すことは極めて困難であったのに対して、村上氏は(簡単ではないにせよ、はるかに容易に)ファンドの事業から身を引くことができるわけです。(保有している資産も、非公開化した電鉄株などがまだ残っている場合等を除き、非常に流動性の高い「公開株」ばかりですので。)
    自分から事業を投げ出すことで代表訴訟リスクをも負う可能性のあった堀江氏に比べて、村上氏はファンドの投資家からの訴訟さえ回避できれば、他からの民事訴訟を受ける可能性は小さいかも知れません。
    聞けば、阪神株のTOBに応じれば4000億円の総資金のうち3分の2はキャッシュになるとのこと。(それだけ4000億円もの資金を回すというのは至難の業になってきていた、ということかとも思いますが)、全体として大きな利益も計上しているうちにファンドを(実質的に)止めてしまって投資家に返金しても、ファンドの投資家から訴訟を受けるリスクは小さいのではないかと想像します。
    それよりも、長期に勾留されて弁護士を通してしか情報がやりとりできないような状況におかれて、ファンドの保有する株の処分に失敗して大損を出すほうがリスクは高い。
    また、こういった手に出ることで、「ホリエモンに比べて、なんと潔い」というイメージも形成できるかも知れない。
    積極的に自分から罪を認めることで裁判で執行猶予が付く可能性も高くなるかと思います。執行猶予が付いたら、今までどおり普通に生活もできるわけですし。(執行猶予が付くと海外渡航等も制限を受けると聞いていますが、シンガポール等外国に自宅を移している人は、その外国で生活してもいい、ということになるんでしょうか?もしかして、拠点の移動もそのへんも目的だったんでしょうか?)
    今回の容疑では(詳細はよく存じませんが)、ライブドアが大量にニッポン放送株を取得したことが発覚するはるか昔(2004年9月11月とかから)の取得が問題にされているようです。
    その当時、たとえ、堀江被告や宮内被告から「ニッポン放送を買収したいと思っている」と相談を受けたとしても、(後知恵で今ならそれが絵空事ではないとわかるわけですが)、2004年9月11月当時、ビジネス上の常識のある人ほど、ライブドアが800億円もの資金を調達してそんなことを確実にできるとは考えなかったんじゃないでしょうか
    つまり、「ニッポン放送を買おうかと思ってる」とライブドア社の経営幹部から話を聞いたにせよ、「そんなことがライブドアの体力でできると思わなかった」というような167条の要件について争う余地も十分あるのではないかと(法律の専門家ではございませんが)思います。
    しかし、それをやらずにあっさり罪を認めちゃったわけですね。
    投資・買収の実務にどう影響するか?
    今、罪を認めずに逮捕されて長期に勾留されたり裁判が長期化したりすると、テレビをはじめとするマスコミでは、確実に「ワルモノ」として取り扱われるのは確実。
    株式を数百円で買えるまで株式分割して、一般投資家を「インベスタマー」という形で顧客層とタブらせる戦略を取っていたライブドア社の場合では、そういうテレビや雑誌を見ている一般大衆の支持を失うということは非常にまずいことだったと思いますが、
    村上氏は、罪をとっとと認めて「マスコミネタとしては全く面白みのない状況」に持っていこうとされているんじゃないでしょうか。つまり、マスコミとしては、「村上氏が逮捕されて車に乗り込む瞬間」とか「勾留がとけてうなだれて拘置所から出てくる絵」とかがほしいはずですが、罪を認めて長期に拘束もされないのであれば、そういう感情的な一般庶民対策はほうっておいて、あとは冷静な大口投資家と裁判所だけを向いて合理的に対策を立てればいいだけのはず。
    実際、これが裁判になったとしたら、裁判官もあまり重い罪を下すのには戸惑うんじゃないかと思うわけです。(今回の個別事情も判例の動向もよく存じませんので、無罪になるのかどうかとか、執行猶予が付くのかどうかとかは予想できませんけど。)
    −−−
    というのも、前述のとおり、「大量の資金を動かせる2つの投資家」がいて、一方の投資家が別の投資家に「大量に株を取得しようと考えてるんですけど」と告げるだけでもう片方が証券取引法167条[公開買付者等関係者の禁止行為]違反になるので株式の取得を中止せざるを得ないことを意味するキツい判例が出たとしたら、自分だけが有利に株を買いたいので相手に株を買うのを止めさせようと思う投資家の「言ったもん勝ち」になっちゃうので。
    つまり、強敵と目される投資家がいたらランチにでも呼び出して、「実は・・・」と切り出せば、相手の動きを完全に封じることができるようになるわけですな。
    (追記:誤解を招きやすい表現だったので、2つ先のエントリの終わりの方をご参照ください。ホントの事実だったら当然アウトですが、「磯崎もニッポン放送の経営権獲得を狙っております」といった、現実味に乏しい情報等によって、どこまで行動を制約しないといけないのか、という「頭の体操」のお話であります。)
    実際、もし容疑がTOB等インサイダー(167条)違反だとしても、今回ライブドアはニッポン放送株をTOBすらしてないわけです。TOBする相手にだったらTOB公表後に正面からより高い価格で対抗するという手が取れるわけですが、「市場内」で購入する人から「大量に株を取得しようと考えている」と告げられるだけで購入を止めないといけないとしたら、(TOBなら株主がTOBへの応募を撤回して、より高い価格を提示した自分側に鞍替えさせる可能性も残りますが、市場内の買い付けだとT+3で受け渡しまで済んでしまうわけで、敵方にわたっちゃった分の取り戻しは困難になりますので)、ファンド等をやってる人をはじめとして投資活動に関わる人は、今後、非常に困っちゃうはずだと思うわけです。
    (あとで、「やっぱ、アレ、やめました。あはははは。」と言われても文句も言えない。)
    つまり、もし村上氏が、このへん冷静に考えたら争う余地があると思うからこそ戦略的に逆に罪を認めたのであれば、非常に頭がいいなあ、というか。
    今までも村上氏の取ってきた手法を分析することで非常に証券取引法その他の勉強になったんですが、最後の引き際まで勉強させていただいたなあ、という気分であります。
    (今後どうなるか、まだわかりませんが。)
    (ではまた。)
    (追記)
    書き終わってみてみたら、47thさんも同様の趣旨(と思われる)エントリを書かれています。
    過去のエントリでも167条関係についてまとめられてますので、ご参考まで。
    http://www.ny47th.com/fallin_attorney/archives/2006/06/05-000557.php
    M&Aコンサルティングのページに掲載された、村上氏による「ニッポン放送株式の売買について」というリリース
    http://www.maconsulting.co.jp/PDF/060605_apology.pdf

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