飛行機

JALさんのトラブルが続いているようですが。
−−−
昨日、昭和40年代のJALを知る方にお会いして伺った、印象的なお話。

当時は、松尾さんが社長のころで、社員の一人一人から社長の顔が見える会社でした。
松尾さんは、ほんとに飛行機の大好きな方で、今では考えられませんけど、夜更けのフライトで飛行機が空港に到着すると、「夜遅くまでご苦労さま」といって、社長が出迎えてくれることもしばしばありました。
当時はまだ、かつてゼロ戦を操縦していたというようなパイロットがいた時代。「エンジンが4つとも止まっても、この人の操縦なら安全に着陸してもらえる」と思ったもんです。

−−−
(なぜか)今、読んでいる本。
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そんなカヨに川野は、みどり色の縛帯に結びつけたカヨの特攻人形を軽く叩いてみせた。
「知覧に来て、よかった。この人形と二人で突っ込めるからな」
そう言いながら川野は、首に巻いた純白のマフラーをとり、カヨの手に握らせてやった。
そして川野は急にきびしい顔つきになり、踵を鳴らして二人に挙手の礼をした。
(ありがとう……ありがとう。)
そうでもしないと、いまにも涙があふれてきそうであった。川野は、その思いを断ち切るように背を返して、搭乗機の方へ走り出した。
(中略)
−が川野は死ねなかった。油圧調整弁の故障で、黒煙を上げて絶海の孤島、子宝島に不時着している。
豊増幸子(特攻機整備班、女子挺身隊員)の語る−
「私たちの整備した特攻機は旧式のおんぼろの九七戦で、それはひどいものでした。機体の鋲はねじを締めてもとまらないし、燃料タンクには穴があいて……油が洩れてくるその小さな穴に、私たちは泣きながらボロ布を詰めるしかなかったのです」

−−−
先日のNHKの生放送で、ゲストから「小さい頃、どんなテレビドラマを見てましたか」と質問されて、NHKの若手男性アナウンサー曰く、
「えーと・・・きゃ・・客室乗務員物語・・・」
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モーソーとリアルの間(その2)

私、以前ベンチャー勤めをしていたときに、
「人生でおそらく今しかできない」
と思ってスキンヘッドにしてみたことがあります。(笑)
スキンヘッドで背広着ると、ソッチ系の人に見えるらしく(笑)、若手社員等から、
「磯崎さん、こ・・・怖いっス」
と大変不評でしたので、やめましたが。
スキンヘッドは、毎日剃り続けないといけないので、非常にメンテナンスコストが大きいという面も発覚。
0mm→1mmでまったく違うもの(イガグリ君)になってしまうわけですが、6mm→7mmならあまり見かけは変わらないわけです。と、合理性を追求した結果、今のような髪型に。
その昔は長めだったので、ひさしぶりに人に会うと、
「髪、短くなりましたねー」
と言われる場合とか、
「髪、伸びましたねー」
と言われる場合とか、いろいろ。
ヒゲもいろんなパターンを試してみましたが、「似合わん」と奥さんにバッサリ切り捨てられて、結局、ヒゲ無しで定着。
(以上、私の姿を想像しようという方に、ジャミング電波をお見舞いさせていただきました。
<(_ _)>)

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モーソーとリアルの間

実は私、「英語の勉強になるから」という人の紹介で、中学生の時にアメリカに住む女の子(かなりかわいい。お父さんがNYSEにお勤め。コネチカット州に家があって庭に川が流れている。)と、「文通」なんぞというものをやっておりました。
ある日、その子の写真が送られてきて、「あなたの写真も送ってください」と言われたので、修学旅行の時の写真を送ったら、その後ぱったり手紙が来なくなって(笑)、ちょっとショックでした。
かなり経ってから手紙が来て、「スキーに行ったら足の骨を折ってしまって」と書いてありましたが、「ベッドから動けなくても手紙は書けるだろ」と思って不信感が消えず(笑)、なんとなくその後文通は終わってしまいましたが。
かように、バーチャルなおつきあいが長くなると、かってに想像しているイメージと実物とのギャップが徐々に大きくなるリスクがあるわけです。オフ会をやると、そのギャップが一挙に解消されたりしておもしろいわけですが。
−−−
で、ブログを読ませていただいている人も、なるべくネット上の写真などを探して、イメージのギャップが発生しないようにしているのですが、探してもなかなか見つからなかった方の一人、47th氏のお写真をついに昨日発見いたしました!
書類を整理してたら某法律事務所のブローシャが出てきて、そこにお写真が載ってました。
今までブログに書かれているものとか、同じ事務所で存じている他の方々数人のお顔とかいった限られたデータから勝手に、もうちょっとキャシャなイメージを想像していたのですが、実物は(私の想像よりは)もうちょっとフテブテしい感じの方とお見受けいたしました。:-)
R30さんも、想像してたよりはがっしりした方でしたね。(私の想像力は、キャシャ目にバイアスがかかるんでしょうか。)
ろじゃあさんも、そのかわいい名前と現実のお姿のギャップは結構あるかも。:-)
(ではまた。)

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株主総会トリビア(議長は立つのか座るのか)

今日聞いた話。
株主総会の議長というのはほとんどは議長席で立ってやるそうですが、NTTさんだけは議長が座ってらっしゃるとか。一瞬、「NTTさん、偉そー」という気もしますが、よく考えると、そもそもなぜ議長が立つ必要があるのか。「株主様に敬意を表して」というのだったら、壇上の他の取締役等もみんな起立している必要がある気もします。
他の会議体でも議長だけ立っているという例はあるかなあ。「結婚式の司会」ってのはありますが・・・結婚式は会議体じゃないしなあ。(笑)
株主総会の運営って商法に詳細に定められているわけではないので、今まで、証券代行さんや弁護士さんの「他ではみなさんこうしてらっしゃいますよ」というようなアドバイスが、強力な「横並びの力」として働いてきたんでしょうね。
でも、上場したベンチャー企業や、ストリーミングで株主総会の様子が見られる企業が増えてきたりすると、客観的に全体の状況が見えてきて、法律上自由度がある部分については、バリエーションが増えていくんじゃないかという気もします。
(ではまた)

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顔から火が出るほど恥ずかしいご報告をさせていただきます

某ネット系企業社長より、「親子ゴルフをしませんか」とお誘いをいただき、本日、対戦してまいりました。
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大人同士の勝負とかいう以前に・・・・・・負けました・・・・息子(小4)に・・・。
_| ̄|○
・・・しかも14打差。
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もちろん息子はレディースティーからではありますが。
おかしいなあ。今日も10打差くらいで勝つはずだったんですが・・・。
というわけで、明日以降ブログが書けるかどうかは、精神的ショックからの立ち直り状況によりますことをご了承下さい。<(_ _)>
(ではまた。)

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shiftキーとSEO(”敵対的M&A”)

おそれ多くも、Googleで「敵対的M&A対応の最先端」を検索すると、なんとisologueがトップに来ますね。(11日現在)
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敵対的M&A対応の最先端—その理論と実務
太田 洋、中山 龍太郎 (編著)

「敵対的M&A」でも、なんと上から4番目。
ただし、「敵対的買収」だと全然ひっかかりません。
そういえば、検索ワードでシフトキー押してまで「&」とか打つ人は、少ないかも知れませんね。
SEOの本を読むと、「シフトキーを使う単語より、使わない単語を優先して強化せよ」とか書いてあるんでしょうか。
(ではまた。)

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はっ、と気づいたら

2日も間が開いてました。
(仕事が忙しいことは忙しいのですが、ちょっと一段落したら逆に気が抜けたんでしょうか・・・。)

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「敵対的M&A対応の最先端」を拝読して

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敵対的M&A対応の最先端—その理論と実務
太田 洋、中山 龍太郎 (編著)

を読ませていただいて感じた疑問。
289ページに、三角合併による買収の図があるのですが、その図で株主から会社に向かって伸びている線の付け根の部分の四角、
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は、何を意味しているのでしょうか?
(1) 株主と会社が強固な関係で結ばれていること。
(2) 株主側では株式は資産の部に計上され、会社側では資本の部に計上されていること。
(3) バクテリオファージが大腸菌に取り付く際の尾部タンパク質と同様の構造。

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信託型買収防衛策における「弱者」救済

私の、「通常の株式分割で子株を株主に配る実務で名義人にうまく届かずに手残り(?)が出ちゃった場合というのは、どうしてるんでしょうか。」という疑問に対して、「証券代行社員から」さんからコメントいただきました。どうもありがとうございます。(こういうコメントを待ってました。)
匿名ではいらっしゃいますが、中身を拝見するとホントに実務現場にいらっしゃる方のようですので、以下ホントであるとして参考にさせていただきます。

株主名簿には保管振替制度を利用している「実質株主」と、そうでない「一般株主」の2種類が居ますが、「一般株主」には株券を一方的に発行して郵送しちゃう事があります。株式分割の他に、売買単位の引き下げに伴って、これまで売買単位以下の株が売買単位になったため未発行だった株券が発行されるような場合です。こういうのは、効力発生日以降に一斉に発送しますので何らかの理由で、株券を発送したのにも関わらず届かない株主さんは実は山ほど居らっしゃいます。

そうでしょうねえ。

で、こういう株券やその株主の権利関係はどうなってしまうのかですが、基本的には保全されます。というか、少なくとも私の勤めている会社ではすべて現物を保管しております。何十年前であろうと。他の信託銀行では、一度廃棄して、後にその株主が出てきた時に再発行するという所もあるようですが、少なくともその株を手にする権利がなくなる事はありません。

なるほど、非常に株主に「やさしい」運用になってるんですね。

ただし、「基本的には」と申し上げましたように例外があって、それは株主が所在不明(通知が未逹)になって5年以上、尚且つ配当も受け取らない「一般株主」についてはもうその株を勝手に売ってもいいですよという法律があるんですが、これが適用されればもうその株を手にする事はできません。
ただし、その時売却した代金を10年以内であれば受け取る事ができます。
とはいえこの法律、まだほとんど運用実績がありませんので、現時点ではあまり気にする事もないかもしれません。

商法224条ノ2と商法224条ノ4ですね。(条文を末尾に添付。)
新株予約権の送付は株主にやさしいか?
(「生」の)株式の事務について、こうした「やさしい」運用が行われているとしたら、有事の際に新株予約権証券を送りつけて、「とっとと行使しろ。さもないとおまえの権利が薄まるぞ」と、株主側に事務負担を負わせて半ば強制的に行使させるというのは、なおさら違和感を覚えますね。
行使期間が非常に短いですし、書類のやりとりや金銭の払い込み負担もあります。
実際、万が一防衛策が発動されることになったら、新聞で以下のような特集が組まれるんじゃないかとモーソーいたしますが、考えすぎでしょうか?

○○社買収防衛策発動を追う(中)−「弱者株主」はその時
○○社の買収防衛策の行使期限は今年○月○日だったが、会社発表によれば、この期限までに新株予約権の行使を行わなかった株主が二十三名存在し、保有する株式の資産価値は約二分の一に目減りすることとなった。株主へのインタビューを通じて、買収防衛策の発動の過程を追った。(登場人物はすべて仮名。)
「なけなしの年金の一部で買った株だった。」鈴木久仁子さん(72)は、ぽつりとつぶやいた。×月○日、「○○社ライツプランに基づく新株予約権行使のお願い」という分厚い書類が入った封筒が鈴木さんのもとに届けられたが、「書いてあることが複雑すぎてよくわからなかった」。周囲に相談できる人もおらず、どうしようかと思っているうちに行使期限の○月○日を過ぎてしまったという。
山田源蔵さん(68)夫婦は、定年を機に物価の安いオーストラリアで暮らすようになり、半年に一回程度帰国するという生活をはじめていた。今回、○月に帰国したところ、○○社から書類が届いており、中を読んですでに行使期限が過ぎていることを知った。「買収防衛策が発動したというニュースはインターネット等で見聞きしてはいたが、まさか自分の資産価値が半分になるとは思わなかった。自分のような長期不在の人間に対する会社側の対応は不十分で、会社の対応次第では法的な措置も辞さない。」と怒りを隠さない。
伊藤太郎さん(75)は、行使期限には間に合ったものの、「資金集めに大変な苦労をした」という。○○社のライツプランでは、株式一株に対して一・五株分の新株予約権が割り当てられ、その一株に対して時価の二割を払い込まなければならないため、結局、保有している株式の時価の三割の資金が必要となる。基準日に○○社株を保有していた伊藤さんは、会社から書類が届いてはじめて資金が必要なことに気付き、老骨に鞭打って、保有していた時価約一千万円の三割、三百万円の金策にかけずりまわることとなった。「息子や親戚などからなんとか資金を借りることができたが、一時はもうだめかと思った。」今でも、金策が行使期限に間に合わない悪夢を見て夜中に目覚めることがあるという。
今回の買収防衛策発動では、高齢の投資家を狙ったオレオレ詐欺も発生した。
吉田一郎さん(52)が留守の間に、「今日中に資金を払い込まないと、あなたの持っている○○社の株の価値が二分の一になる」という電話がかかってきたが、奥さんが吉田氏に確認の電話を入れて、難なきを得た。
新株予約権を送付する方式の買収防衛策については、こうした一般株主のこうむる負担をいかに少なくするかが問われることになりそうだ。

・・・ってな。
また、実際に買収防衛策の基準日が設定されることになると、以上のような事務や資金負担の面倒を嫌って、基準日前に市場での売りが増え、株価下落要因となるかも知れません。
発行差し止め要因になるかどうかはさておき
ニレコさんのケースの地裁決定を見ると、「ライツプランというのは、あくまで買収者に対する”威嚇”の目的で、実際には使わないので、有事の時のことは関係ない」という理屈も成り立たなさそうです。
こうした状況が想定されることが、「著しく不公正な発行」等として「入り口」での発行差し止めの要因にまでなるかどうかはともかく、万が一実際に買収防衛策が発動して、こういう「被害者」が現れたときには、世論としても、「そりゃねーよなー」「安心して株式投資できないよなー」という風向きになる可能性は高いんじゃないかと思います。
(適法性についてはよくわかりませんが)、せっかく信託を使うんだったら、受託者が受益者に代わって新株予約権を行使してあげて、株券の形で株主に送付する方が親切だし、戻って来ちゃった場合には証券代行における通常の株券の扱いと同じにしていただければいいわけで、株主にもやさしい。
現金の払い込みも伴わないし、株式分割等のときのフローと同じですので、株券を送付する方が、証券代行側の負担は(もしかしたらコストも)少なそうです。
(ではまた。)
[以下、関連条文]

第二百二十四条ノ二  前条第一項ノ住所又ハ宛先ニ対シ発シタル通知及催告ガ継続シテ五年間到達セザリシトキハ会社ノ株主ニ対スル通知及催告ハ之ヲ為スコトヲ要セズ
○2 前項ノ場合ニ於テハ其ノ株主ニ対スル会社ノ義務ノ履行ノ場所ハ会社ノ本店トス
○3 前二項ノ規定ハ質権者又ハ端株主ニ之ヲ準用ス

第二百二十四条ノ三  会社ハ議決権ヲ行使シ又ハ配当ヲ受クベキ者其ノ他株主又ハ質権者トシテ権利ヲ行使スベキ者ヲ定ムル為一定ノ日ニ於テ株主名簿ニ記載又ハ記録アル株主又ハ質権者ヲ以テ其ノ権利ヲ行使スベキ株主又ハ質権者ト看做スコトヲ得
○2 前項ノ日ハ株主又ハ質権者トシテ権利ヲ行使スベキ日ノ前三月内ニ於テ之ヲ定ムルコトヲ要ス
○3 会社ハ第一項ノ日ヲ二週間前ニ公告スルコトヲ要ス但シ定款ヲ以テ其ノ日ヲ指定シタルトキハ此ノ限ニ在ラズ (以下略)

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企業買収防衛策と暗号システム

企業買収防衛策と暗号システムのようなセキュリティシステムのビジネス構造って似ている気がします。似てるかどうかは主観の問題なので、「オレは似てないと思う」と言われればそれまでですが。
セキュリティ技術の拡散過程
新しい暗号システムがまず使われるのは、だいたい「軍事」の世界。その後は、外交、警察、通信、金融といった領域で使われていくわけですが、こうした初期のユーザーは、そうした最新の強固な暗号システムを使う必要性に迫られていて、なおかつその(高い)コストの負担力があります。
こうした初期段階の暗号システムは、一般の事業会社ではコストパフォーマンスが合わないことが多いわけですが、経営者が新しいもの好きだったり悪いベンダーにダマされたりして、あまり必要ない高価なシステムを導入する企業が無いわけではありません。もちろん、セキュリティにかけるコストというのは事故の発生確率をどう見るかという主観的要素で大きく変わってくるわけですが、一般的には、その技術が今、「軍事」で使われるような段階なのか一般企業でも使える段階にあるのか、ということは考えた方がいいんじゃないかと思います。
「技術」に対する理解の必要性は?
現代の暗号システムというのは、導入するに際して、経営者が必ずしも中身を完全に理解できるしろものではなくなっているというのが特徴です。

RSA暗号とは、平文をe乗して素数pqの積nで割った剰余を暗号文とする方式で、素因数分解の困難さに根拠をおいている

とか、

楕円曲線暗号とは、有限体上で定義された楕円曲線の点の集合上の有限可換群上の離散対数問題(EDLP)の困難性を用いた公開鍵暗号である

というような話をされたときに、それを直接理解して会社の安全を守るためのセキュリティ方式を決めるというようなことは、(よほど数学の素養のある経営者でもない限り)不可能でしょうし、通常は、「セキュリティが重要だ」という点さえ理解していれば、後は「信用できる専門家がA方式を進めている」とか「A方式の方がシェアが高い」というような情報をベースに意志決定すれば十分ではないかと思います。
ただし、普及がまだ「軍事」的な初期段階にあるような技術については、もうちょっと技術の中身まで踏み込んだ検討が必要とされるはず。
日本における買収防衛策も、(現代暗号理論ほどディープかどうかはともかく)、法的安定性がどこまであるかというのはビミョーなところ。経営者自身が法学的なリスク度合いを勘案して導入することが求められるのが、現段階の状況じゃないかと思います。
「オープン」な環境による検証
ネット上の暗号システムは、単に解読が難しければ難しいほどいいわけじゃなくて、「相手」とコミュニケーションできることが必要なわけです。コミュニケーションできるためにはその方式が普及していることが必要で、普及するためには(第二次世界大戦時のエニグマ暗号などとは違って)、暗号のアルゴリズム自体をすべて公開して、他の研究者等からの批判にさらされる必要があるわけです。そういう「アタック」に耐えられたものだけが「proven」な方式となり、デファクトスタンダードとして生き残っていくことになります。
公開会社の買収防衛策の場合も、防御が堅ければ堅いほどいいわけではなく、買収者や株主、または裁判所との「コミュニケーション」が必要なシロモノであるわけです。買収防衛策は株価にも影響する可能性があるわけで、対買収者だけでなく、一般の株主の理解が得られるものでないといけない。
一般株主の理解を得るためには、リリースの内容を丁寧に書くことも重要ですが、他の専門家やマスコミが理解しやすい「provenな」スキームであることも求められることになっていくんじゃないでしょうか。
この点、単に法律や税務上 最適なスキームを組めばいいプライベートなファンドのスキーム等と、買収防衛策のような「オープンさ」が求められるスキームとは大きく異なるんではないかと思います。
買収防衛策のコストは安くなるか?
普及のためにオープンさが求められるものは、アルゴリズムが公開されているわけですから、「ソフトウエア」だけで実装できれば価格は限りなく安くなっていくはずです。ただ、「ハードウエア」を使う実装だと、その分、値段は下げ止まったりしますね。極めて技術的に高度なのにタダに近い代替品があるというのがセキュリティビジネスの難しいところで、そのためには、「ハードウエアとバンドルする」というのは重要な戦術の一つになりえます。
先日、ある信託銀行から「買収防衛策のお値段は5000万円〜」(弁護士費用や、有事の際の手数料別)と言われたという会社の話を聞いて、そりゃ確かに「有力収益源」(笑)だわなー、と思いましたが。信託とかSPCとか「ハードウエア」を使った実装のお値段はやっぱり高くなっちゃうんでしょうか。
もちろん、セキュリティのシステムでも、自分でフリーのライブラリを活用すればほとんどタダでも、「信頼できるところに頼みたい」と大手のSI業者さんに構築を依頼すれば、それなりのコストがかかるでしょうから、必ずしも全部のシステムが「タダ」なわけではないですが、少なくともそういう選択の自由がある方がいいですよね。
(ではまた。)

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