ファイナンス領域の「ビッグブラザー」は現れるか?

梅田望夫さんの「GoogleのKeyhole買収に見るシリコンバレーの栄枯盛衰」で、Googleが買収したKeyhole社が取り上げられてました。
Keyhole社は、人工衛星や航空機から撮影した地球全体の画像等のデータベースをもとにしたサービスを展開している会社。
中でも「むむっ」と思ったのが、記事中で引用されている、元日本SGI社長の関本晃靖氏のKeyhole社についての解説です。

彼らが開発したアースビューワは、全地球規模の衛星画像、航空写真、地図、標高といった6テラバイトにも及ぶ空間情報(Geospaital Information)とpoints of interest (POI) データ(ユーザカスタマイズで設定したレイヤー情報)を融合させて、ユーザクライアント側に高速ストリーミング配信する。
http://www.siliconstudio.co.jp/products/keyhole/about.html

「6テラ!」と一昔前なら仰天するところですが、今回、この文章を読んで逆の意味で仰天しました。なんと自動車や人間まで見えそうな地球全体の画像や意味データが、VAIO「type X」たった6台分に収まってしまうわけです。
つまり、ということは、数年後にはパソコン1台分に収まってしまう量ということ。
知識と知恵の乖離
かように、単なる「知識」を保有するためのコストは、どんどん下がってます。Google等のおかげで、地球の裏側の「知識」まで見通せるようになったのは、「知恵の晴れ上がり」で書かせていただいたとおりですが、その知識を活用するための「知恵」はなかなかそうはいかないんですよね。
将棋の盤面を記述する情報量は数百バイト程度でいいのではないかと思いますが、だから全員が羽生名人になれるどころか、シロウトと名人の差は圧倒的になる。
先日、新聞社の方々と企業のディスクロージャーについてディスカッションしていたのですが、最近ではすでにほとんどの公開企業がネットで財務や事業の内容を適時開示するようになっていますので「生情報」は誰でも見られるようになってますが、では、「その情報が何を意味するか」というアナライズをすべてのネット投資家等が行えているかというと、そうではなさそう。逆に、「考える人」と「考えない人」との差は、ますます大きくなって行くようにも思えます。
最近、よく取り上げさせていただいているMSCBやインボイスさんのファイナンス・スキームなどについても、知らないのは私だけかと思って自習のつもりでblogにまとめていたのですが、新聞社や雑誌社、資金運用をされている方など、かなり経済や株式がわかってそうな方々から非常に多く質問をいただきましたので、「あ、結局、情報開示されてても、それを分析してる人ってほどんどいないんだ」というのがよくわかりました。
(昨日取り上げたイノテックの事例も、結構おもしろいんじゃないかと思うんですが、全く新聞記事等になってないですし。・・・・公開会社なのに・・・。)
ファイナンス領域の「ビッグブラザー」
以前のエントリー「Googleのビッグブラザー性」では、Googleのような検索エンジンが、どんどん新しい機能を取り込んでいって便利になり、限りなく「ビッグブラザー」に近づいて行っているのではないか、ということを書かせてもらいましたが、
そういう傾向は、「カネ」の世界でももしかしたらすでに起こりつつあるんじゃないでしょうか。
すなわち、株式や為替のみならず、商品、不動産、天候、CO2排出権等までがどんどん証券化され、一見「オープンで平等」な世界で情報開示されて売り買いされるようになりつつあるわけですが、
実は、ごく一部の人が、世界的な計量モデル等を駆使して資金を動かし、確実に儲けるようになったりして。
計量経済モデルなんてのは神社のおみくじくらいの御利益しか無いのではないかと思ってましたが、最近では地球シミュレーターなどのスパコンで台風の進路までかなり正確に予測できるようになってきているとのこと。(よく存じませんが。)
何かイベントが起こったときの市場の反応というのも結構単純なことが多いですし、Google並の予算で経済学者やアナリストにプログラムを書かせて、確実かつ大量に儲かる「ビッグブラザー」が育っていくという可能性は無いでしょうか?
為替とか株式指数等のマクロなものはイケそうな気もします。
また、回転売買をするネット投資家は平均しても日経平均以上のパフォーマンスを出していらっしゃったりするので、逆に、板の状況等をながめつつ超ミクロに多数の銘柄にマーケットインパクト無く投資する自動プログラムで自動的に儲けるやつが現れる、なんてのも面白そうです。
・・・アイデア倒れで、想定していなかったリスク要因が出てきて、LTCMの二の舞になるオチかも知れません。
(本日の妄想、以上。)

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イノテックの転換社債と新株予約権

本日(10月28日)の日経朝刊24面に、イノテック株式会社(JASDAQ:9880)の転換社債型新株予約権付社債および新株予約権の発行に関する公告が載ってました。
イノテック株式会社ホームページ:第3回無担保転換社債型新株予約権付社債および第1回乃至第4回新株予約権の発行に関するお知らせ
http://www.innotech.co.jp/back_number/contents/pr041126.pdf
転換社債と単独の新株予約権を同時に発行、というのがちょっと「むむ?」という感じですので、よく見てみましょう。
新株予約権の目的は?
プレスリリースを見ると、野村證券が全額引受とのことですが、業績もよくないようですので、社債で5億円資金調達するとともに、「株価が回復してくれば増資してあげるかもね」という意味での新株予約権の発行ではないかと思います。
しかし、ただ投資家側だけに有利なだけではなくて、先述のように会社側がいつでも新株予約権を消却できるという条件もついてますし、下方だけでなく上方にも行使価格が修正される条件ですから、あまり「アコギ」な内容でもないかと思います。
新株予約権の内容
「新株予約権の発行価額及び行使時の払込金額の算定理由」としては以下のような理由があげられています。

本新株予約権は、発行日の翌日以降任意の時点において、発行価額と同額の対価をもって消却できるものとされていることから、本新株予約権の時間的価値は特定し難く、ブラック・ショールズモデルや二項モデルといった一般的なオプションプライシングモデルを用いてオプション・バリューを算定することには馴染まないと判断した。

もちろん、一般的なオプションモデルにあてはまらないからといって、オプション・バリューを計算しなくていいわけではないわけですが、そこはさすが野村證券さんというか、

他方、本新株予約権の消却を決議した場合にはその公告がなされた日から最長7週間に行使請求期間が制限されてしまうことから、仮定的に行使価額を667円とする期間7週間のコールオプションの価値を算出し、本新株予約権の発行価額はかかるコールオプションの価値を下回らないことを確認した上で、本新株予約権の目的である株式の低流動性や、本新株予約権自体の流動性も限定的でありこれを取引の対象とすることは予定されていないこと、また、当社の財務状態、収益状況、配当状況等の事情から、投資家の当社に対する投資リスクを総合的に勘案した。かかる状況において、本新株予約権の発行により企図される目的が達成される限度で、当社株主にとって有利な発行価額であると当社が判断した43,000円を、本新株予約権の1個あたり発行価額とした。
また、本新株予約権の行使時の払込金額は、当初、平成16年10月27日に日本証券業協会が公表した当社普通株式の最終価格を概ね20%上回る額とした。
尚、第1回乃至第4回新株予約権各々の内容の違いは、上記の理由から、その発行価額の違いを生ぜしめるものではないものと判断した。

ということで、どうも、ちゃんとオプション・バリューの算定はモデルを作って(?)やってらっしゃる風です。いつでも消却できるので、公告してから消却までの期間だけの比較的価値の小さい新株予約権だ、ということですね。
転換社債のオプションバリューとのバランス
一方、転換社債と新株予約権を同時発行することによって、オプションバリューが顕在化してしまっているわけです。以下の通り、直感的にはヘンなわけですが、ここに問題がないのかどうか。
image002.gif
上記の表のように、条件としては、転換社債についている新株予約権の方が条件がいいように見えます。にもかかわらず、各回の新株予約権の発行価額は1個あたり43,000円で、転換社債についている新株予約権は「無償」。
ちなみに、「新株予約権の発行価額を無償とする理由」は、以下の通りとなってます。

本新株予約権は、転換社債型新株予約権付社債に付されたものであり、本社債からの分離譲渡はできず、かつ本新株予約権が行使されると代用払込により本社債は消滅し、本社債と本新株予約権が相互に密接に関係することを考慮し、また、本新株予約権の価値と、本社債の利率、発行価額等のその他の発行条件により得られる経済的な価値とを勘案して、その発行価額を無償とした。

前掲の、単独の新株予約権の発行価額決定のロジックは、「なるほどちゃんと考えてそうですね」という感じがするわけですが、上記の理由は「いろいろ考えたんです」というのはわかりますが、理論的にどうして無償としたのか、なぜ、単独で発行した新株予約権より発行価額が安くなるのか、については伝わってきません。
もちろん、他社の転換社債でも上記程度の説明しかされてませんので、これが悪いとか違法だとかいうことを申し上げてるわけでは全くありませんが、転換社債と新株予約権単体を並べてみると、オプションに関する実務の「矛盾」が浮き彫りになりますねえ、ということです。
(では。)

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MSCB(転換価額修正条項付転換社債)と「私募債マフィア」

47thさんから「過激な条件のMSCBは商法違反ではないのか?」にコメントいただきました。

CBにおける、特に有利なる発行条件については、平成13年11月改正の際に相当な議論があったところです( http://www.jsda.or.jp/html/oshirase/CBWGreport.html 参照)。このあたりの議論を意識していれば、発行価額無償としていても、ある程度評価の裏付け等をとってやっているのだと思いますが、なかには実際の訴訟事例がないので、とりあえず当初転換価格が時価を下回っていなければいいといった程度の認識のところもありそうですね。
ただ、新株予約権付社債については、無効の訴えができないという判決が東京高裁で出てしまったので(東京高判平成15.8.20金商1196号35頁)、実際に争うことは難しそうです。(この判決もかなり問題が多いと思いますが・・・)
下限のないMSCBについては、ご指摘のような問題のほかにも授権枠保留規制(222条の2第3項が準用)との関係も問題となり、最悪、新株発行ができなくなるという事態すら起こり得るのですが、ファイナンスの実務では余り意識されていないようです。
何れにせよ結局紛争が起きないと、こうした点は検証されずに終わってしまうのですよね・・・

ありがとうございます。大変参考になります。
先日よりこのMSCB(転換価額修正条項付転換社債)に関しては、新聞、雑誌、テレビ局の方などから、多数取材をいただきまして、「大反響」といったところなんですが、
そういった記者さんからの情報を総合すると、「私募債マフィア」と呼ばれる方々(具体的にどういう方々なのか私もよく存じませんが、弁護士・会計士などを含むチーム?)が、体力の弱った企業にMSCBの発行を持ちかけて、空売りなどを組み合わせて利益を上げている動きがあり、「行政」側もかなり「注視」している模様。
もしかしたら、「事件」になるのかも知れません。
一方で、この過激な条件のMSCBの問題は、商法・証券取引法などの法解釈の「弁護士的」側面だけでなく、オプションバリューの計算のような「金融工学(クオンツ)的」側面や、空売りなどの「相場師的」実務など、いろんな専門知識が表裏一体となっているので、そういった意味でも事件を立証するのが難しいかも知れません。
ただ、ややこしくて誰もわからんだろうから何をやっても許されるというはずもないわけで。
47thさんからいただいたURLの、日本証券業協会の「商法改正に伴う転換社債の取扱いについて」(平成14年2月28日)の記述では、

さらに従来の転換社債の発行を困難なものにするのではないかと懸念されたのが、発行に際して株主総会の特別決議が必要となるいわゆる有利発行(新第341 条ノ3 第3 項)に該当するか否かの判断基準並びに新株予約権の発行価額及びその行使に際して払い込むべき額の算定理由の公告又は既存株主への通知(新第341 条ノ15 第3 項において準用する新第280 条ノ23)である。解説3によれば、新株予約権の行使によって発行される新株の発行価額4が新株予約権の行使期間におけるその会社の株式の合理的に予測される時価よりも低い価額で発行される場合に、その新株予約権の発行が有利発行となるとされている。しかし、将来時点における株式の時価を合理的に予測するためには非常に複雑な理論が必要である。これを公告又は通知したところで一般の投資家や株主がその算定理由の妥当性について適切な判断を下せるかどうかは疑問であり、有利発行に該当するか否
かの判断をめぐって混乱が生じることも考えられる。一方、有利発行に該当する可能性があっても株主総会の特別決議を行えば発行することは可能であるが、取締役会の決議に比べて厳格な手続きが必要となり、また公開会社等多数の株主が存在する会社においては株主総会を頻繁に開催することは困難であることから、資金調達活動の機動性が大きく損なわれることとなる。
加えて、投資家に対する商品性についての説明が従来の転換社債と同じ方法ではできなくなるのではないかと考えられたのが、転換社債への投資に当たっての判断材料として用いられてきた転換価額やパリティが計算できなくなるという問題である。転換社債型、すなわち代用払込しか認めない新株予約権付社債の新株予約権を行使したときの払込金額は社債部分の発行価額であり(新第341 条ノ3 第2 項)、新株予約権の発行価額を有償とした場合、当該新株予約権付社債の発行価額と比較すると新株予約権の発行価額の分だけ減る5こととなり、発行価額すべてが払込金額となる従来の転換社債とは異なることとなる。このため、従来から用いられてきた転換価額の算定は困難6となり、ひいては転換社債のパリティの算定もできなくなる。これにより、転換社債の投資尺度を根本から見直すことを余儀なくされ、証券会社による投資家に対する説明が非常に困難になるばかりでなく、投資家の投資判断に混乱を惹起し、ひいては投資対象としての魅力が著しく損なわれることが懸念された。

・・・と、投資家の立場(というか、「ややこしいと売りにくくなるやんけ」という証券会社の立場というか)から、

新株発行に際しての有利発行か否かの判断基準は、新株の発行価額が発行当時のその株式の時価を著しく下回っているどうかである。従来の転換社債についての判断基準は「特ニ有利ナル転換ノ条件」であった(旧第341条ノ2 第3 項)が、実務上は新たに発行しようとする転換社債の転換価額が転換により発行される株式の発行当時の時価を著しく下回っているかどうかが重要な判断基準となっていた。
改正後の商法下における新株予約権についても、その行使によって発行される新株の発行価額が有利発行か否かを判断する重要な要素の一つであることには変わりがないが、改正後の商法上、新株予約権付社債の新株予約権についての有利発行の基準は「特ニ有利ナル条件」をもって発行することとされている(新第341 条ノ3 第3 項において準用する新第280 条ノ21 第1 項)ことから、新株予約権付社債の条件を総合的に判断する必要が
ある。
従って、改正前の商法下において取引所有価証券市場や店頭売買有価証券市場に上場されている転換社債と同様の条件設定が行われる場合(海外における同様のものを含む。)は有利発行の問題は生じないものとするが、それ以外の場合は諸条件を総合的に勘案して条件設定を行う必要がある。
当初、有利発行に該当する諸条件を数的基準を含めて具体的に列挙することも検討した。しかし、一つの条件が有利発行に該当するものであっても他の条件と併せて勘案すると有利発行には該当しないと判断されるものも十分にあり得る。勘案すべき要素が何で、それについてどのような条件が設定されたとき、それらの条件がどのように組み合わさったときに有利発行に該当するものと判断するのかをあらかじめ想定することは困難であるため、この検討の場では具体的な条件を示すことはしないこととした。
なお、勘案する要素としては、例えば、発行当時の行使価額の水準、将来の行使条件の修正条件、社債の年限・利率、普通社債との利率の格差、行使可能期間等が考えられる。

・・・と、新株予約権を無償発行しても必ずしも株主総会決議は必要ないよ、と言ってます。同時に、具体的にどういった要件を満たせば有利発行にならないか、ということについては例示を避けてますね。
ただ、別紙2の2ページでは、

5. 現在、取引所有価証券市場や店頭売買有価証券市場に上場されている転換社債と同様の条件設定が行われる場合(海外における同様のものを含む)は、有利発行の問題は生じないが、今後は、当初の行使価額の水準に加え、将来の行使価額の修正条件、社債の年限・利率(普通社債との格差)、行使可能期間等を勘案して、条件設定を行う必要がある。
6. ただし、この場合であっても、例えば修正行使価額の下限が定められていない場合、あるいは著しく低い水準で定められている場合は、有利発行となるおそれがあるので留意が必要となる。

と具体例を出してますので、行使価格の下限が定められていないようなMSCBの発行には、おそらく証券会社は関与してない(「私募債マフィア」等の指導で発行した)んでしょうね。
有利発行かどうかは、実体的・理論的側面からすると、オプションバリューの理論で決まってくるはず。
証券会社によっては、オプション価値をシミュレーションするモデルのプログラムを作成して、株式のボラティリティ、行使条件などからシミュレーションして引き受けるMSCBの条件の限界を設定しているかも知れません。また、そこまで深く考えてない(シミュレーションが構築できないので、横並びで条件等見比べている)証券会社もあるんじゃないかと思います。
私も、ボラティリティや条件などから、パターン別(行使価格変更のタイミング(月、週、日等)、下限価格、上方に修正がついている場合と下方のみの場合、等)、または条件の特殊なものは個別に、オプション価値を算出するシミュレーションを作成しようと思ってるのですが、ちょっとバタバタしてましてまだ取りかかれてません。
(ではまた。)

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資本金を上げずに増資する方法

krpさんの経営・会計通信「有限会社と合同会社」より。

会社法現代化の目玉の1つは日本版LLCである合同会社(仮称)です。一方、有限会社は株式の譲渡制限のある株式会社という扱いになり、会社法施行後は設立できなくなります。
出資口数1口あたりの資本金の額を定款に記載する為に、たとえ10億円の増資でも、増加資本金は1口当たりの資本金額として定款に記載されている金額で良い(株式会社は資本金を5億円以上増やさなければならない)などがあります。そういうメリットを享受したい場合は、駆け込みで有限会社を作っておくのが良いのかも知れません。なぜなら、現行有限会社法にもとづいて設立された有限会社は、経過措置として有限会社のままとなる予定だからです。

新会社法が成立して、有限会社がなくなった後でも、先日、インボイスの転換社債と自己株式(第2回)で解説させていただいたような、自己株式処分による方法は使えるかも知れませんね。
例としては、下記のような感じ。(例えば資本金を300万円に押さえたいが、資金は2億円くらい欲しい場合。)
(1) 設立
例えば資本金100万円で株式会社を設立。
(最低資本金制度が無くなっているとして。)
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(2) 増資
さらに、400万円を増資。200万円を資本金に、残り200万円を資本準備金に組み入れ。
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(3) 資本準備金の取り崩し
(追記:定時株主総会で)資本準備金を取り崩し(125万円)、自己株買いの決議をする。もちろん、その間に利益が出て配当可能な場合には、資本準備金の代わりにその利益剰余金を原資を使ってもいい。
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(4) 自己株買取
決議に基づき、自己株を買い取る。
image008.gif
(5) 自己株の処分で資金調達
その後、高い株価で自己株式の処分を行い、資金調達を行う。
株を渡して資金が入るので、増資と効果は同じにもかかわらず、2分の1を資本金に組み込むのではなく、自己株式との差額が資本剰余金である「自己株式処分差益」になり、資本金は増えない。
例えば、調達額が2億円の場合、単純に増資にすると、半分しか組み込まなくても資本金は1億300万円になっちゃいますが、自己株の処分だと300万円のまま。
image010.gif
以上で、資本金300万円で自己資本が2億375万円ある会社のできあがり。
ややこしいようですが、株主数が1ないし少数であれば、総会の招集の手間や税務上の問題も小さいので、ドキュメンテーションだけの問題。期間も、資本準備金の取り崩しの債権者保護手続き以外は、それほどかからないはず。
(追記10/28 5:37:自己株式買取決議が定時株主総会のみなので、設立してすぐとこれをやるというわけにはいかないですね。設立直後で株主が1名等の場合には、決算期変更するとか年2回以上配当する会社とする[商法234条�]というようなウラ技が使えるかも知れません。)
また、最終的に資本金1000万円以上にするのであれば、現在の株式会社や確認会社を使っても同様のスキームが行えるかと思います。
先述のインボイス関連のエントリーで見たように、この「その他剰余金(自己株式処分差益)」は、配当原資にも使えるし、自己株取得の原資にも使えて非常にフレキシブルでよろしいかと。
(利益の資本組入れ[商法293条ノ2]や準備金の資本組入れ[商法293条ノ3]はありますが、その他の剰余金の資本組入ってのはできないのか知らん?、という点ですが、
利益の資本組入れ[商法293条ノ2]の「利益」というのは、利益剰余金だけではなく、290条で定義される配当可能部分全体を指すという解釈でいいんですよね?つまり、後で資本金を増やしたいと思ったときにフレキシブルに増やせると・・・。
ま、仮にダメでも、既存株主から自己株を買い取って、同額を第三者割当で増資すれば、資本金は増やせますが。)
●用途
例えば、
・大企業が、資本集約型の事業を行う非公開の会社を作る場合とか、
・ベンチャー企業を設立したが、当面赤字が続く計画なので、ベンチャーキャピタルからの増資で資本金が増えて、法人住民税の均等割額が増えたり外形標準課税の資本金割の部分が増えたりするされるのががイヤだ、とか、
・同じく、商法上の大会社等になって、監査役や監査法人のコストが増加するのがイヤだ、
・増資のときに、銀行に保管金証明書のコストを払うのがアホらしい、
・登録免許税をケチりたい、
というような場合に有効かも知れません。
大企業の非公開子会社などで、ずっと株主が1名の場合にはいいですが、ベンチャー企業で将来的に増資を考える場合には、株主数がまだ1人ないしは非常に少ない時に自己株式の買い取りまで準備しておいた方が、いいかも知れませんね。(税務上等の株価の問題がややこしくなるので。)
公的投資やエンジェル税制など、新株発行でないとメリットが受けられないケースもあるので要注意。
その他、本スキームが適用できるかどうか、適当かどうかは、個別に弁護士さん税理士さん等にご確認ください。
(ではでは。)

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インボイスの新株予約権申込証、来ました

今まで何度か書いてきましたとおり、インボイス(東証9448)さんが、9月末時点の株主向けに新株予約権を発行するというので、9月末に(1株だけ)インボイス株を買いました。
その申込関係書類が本日到着。

invoice_stockoption2.JPG

(クリックで拡大。)
他に、
・新株予約権のお申込に関するご案内
・新株予約権証券発行届出目論見書
・発行登録目論見書
・当社へのご売却についての概要
・返信用封筒(UFJ信託銀行宛)
が同封されてます。
9月末での取得価額は、権利行使価格(+行使手数料210円=22,300円)とほぼ同額の22,760円、本日の終値は17,350円で、5,410円の損です。(行使価格以下(out of the money)なので、今のところ当面、誰もこの新株予約権は行使しないと思われますが。)
ま、この書類の取得費用というか、「株主割当で新株予約権を発行して、しかもそれを売出しで売却させるという、未だかつて無いスキーム」の見学料というか、セミナー参加費と思えば、安いもんかも。(1株だけで、迷惑な株主ですみません・・・)
内容については、書類を読み込んで、またレポートしたいと思います。
(では。)

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金融内部監査士試験

(いろいろありまして)、土日に金融内部監査士試験を受けてきました。
(1日目上智、2日目青学の会場。)

参考:日本内部監査協会:「金融内部監査士」試験・「金融内部監査士補」試験について
http://www.iiajapan.com/kinyu-info.htm

問題は論文形式は無く、全部「4択」で計算問題もほとんど無いのはいいんですが、一科目3時間(!)で2科目×2日にわたって、というのは、ちとキツい。(totally exhausted…)
1科目4択80問だと1時間くらいで終わっちゃうかとおもいきや、丁寧にやってるとやはり2時間半以上はかかります。
(他の会場もあるのかどうか存じませんが、私の会場では)受験者は100人くらい。
受験資格を、「金融内部監査士補、公認内部監査人(CIA)、日本内部監査協会認定内部監査士(QIA)、公認会計士、大学教員、等」に限ってるので、そもそも受験する母集団が小さそう。日本内部監査協会のホームページによると、公認内部監査人450名(世界で35,000人)、内部監査士は約5,000人とのこと。青学では金融内部監査士補の試験も同じ会場でやってたのですが、こちらはさらに少なくて30人前後。
(あまり、今後、ガンガン資格取得者が増えそう・・・って感じでもないですね。)
「内部監査」という位置づけからか、年齢層は下は30代中盤で、40代から50代中心と、年齢層高め(オッサンが多い)。
科目は、「内部監査論」「リスク管理�」「リスク管理�」「金融論および経営管理」の4つ。
中身は、COSO(トレッドウェイ委員会)のinternal controlの概念、銀行・証券・生保等関連の法令、フロント・ミドル・バックオフィス間の統制、BIS規制等の信用リスク管理や不良債権管理、自己資本規制、ソルベンシー・マージン比率、VaR(Value at Risk)・EaR(Earning at Risk)やストレステスト、新BIS規制で導入される「オペレーショナルリスク」の概念など。
金融関連知識だけではなく、ネットワーク管理やコンティンジェンシープランなどのシステムに関する項目もありますし、「金融論および経営管理」では、IS-LM分析などのマクロ経済学・ミクロ経済学とか、コーポレートファイナンス、デリバティブ、財務諸表論まで入ってます。
・・・と、むちゃくちゃ幅広いので、今までそういったことをやってきた人にはあまり難しいレベルではない(一般常識的)かも知れませんが、座学で一から勉強しようという人にとっては結構大変かも知れません。
(ご参考まで。)

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中吊り広告の「電車男」

先日、電車の中吊り広告を見ていたら、週刊新潮の広告で、

話題沸騰!「電車男」って何?

・・・ってのが。
ネットの世界の「話題沸騰」と一般大衆のそれのタイムラグが、4ヶ月もあるということか(笑)と思いきや、新潮社が「電車男」を書籍化したんですね。今日、東京駅の書店に大量に平積みになってるのを見て、遅ればせながら知りました。
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(ではまた。)

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監査役トリビア

水曜日の話で恐縮ですが、トリビアの泉で、
「株式会社レンタルのニッケンでは、社員全員があだ名をつける事が 義務づけられている」
というのをやってました。
レンタルのニッケンでビジネスネームをつけていて、創業者の以前の社長が「亀」さんというのは有名なので存じてたのですが(0へえ)、サスケ、マックス、ギター、マカロニといったビジネスネームが紹介される中に「大目附(おおめつけ)」という方がいらっしゃったので、「もしかして」と会社概要を見たら、やっぱり常勤監査役の方でした。
http://www.rental.co.jp/profile/gaiyou.html
役員一覧を見てみると、非常勤取締役や非常勤監査役でビジネスネームを付けていない人がいますね。
「レンタルのニッケンでも、ビジネスネームをつけていない人がいる」(72へえ)

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名義書換代理人をおかない上場会社があったとは・・・

昨日の日経新聞朝刊11面の記事。

株式事務外部委託、東証、例外なく義務化
 東京証券取引所は西武鉄道の問題を受け、全上場企業に例外なく株式事務の作業を外部の専門機関に委託することを義務づける方針だ。株式の実質的な保有者などの状況を専門機関のチェックを受けさせ、情報開示の透明性を高める。
 現在、名義書き換えなどの株式事務を自社で行っているのは西武鉄道のほかに、西武鉄道グループの伊豆箱根鉄道、タクシー大手の大和自動車交通(ともに市場第二部上場)の二社。有価証券報告書には「大株主の状況」という欄があり、西武は誤った株式保有比率を記載し続けていたことになる。有価証券報告書は会社の責任で金融庁に提出するため、東証にチェックする義務はないが、再発防止のため株式事務の外部委託を徹底する。

この西武鉄道の初期の報道で「西武鉄道が親会社であるコクドからの指示で株式の名義を書き換えていた」というのを聞いたとき、「実務上、名義書換代理人とはどう情報をやりとりしてたんだろう?」と疑問に思ったんですが、名義書き換えを全部西武鉄道自身でやってたんですね。
日経会社情報を見ても名義書換代理人の欄に「本社」と書いてあります。
商法上は確かに、「定款ヲ以テ名義書換代理人ヲ置ク旨ヲ定ムルコトヲ得」(商法206条�)とありますので、置かなくてもいいわけですが・・・。それで事務が回っていたというところもある意味すごいかも知れません。
(ではまた。)

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西武鉄道株売却がなぜインサイダー取引になるのか

(今日のできごと。元町・中華街駅のエレベータで、はなさんと乗り合わせた。モデルさんだけに、でかかった・・・。)
本日は、西武鉄道株のインサイダー取引疑惑の機会に、インサイダー取引規制のおさらいをしておきたいと思います。
根拠条文は、下記の通り、証券取引法第166条が中心となります。

証券取引法第一六六条(会社関係者による内部者取引の禁止)
 次の各号に掲げる者(以下この条において「会社関係者」という。)であつて、上場会社等に係る業務等に関する重要事実(当該上場会社等の子会社に係る会社関係者(当該上場会社等に係る会社関係者に該当する者を除く。)については、当該子会社の業務等に関する重要事実であつて、次項第五号から第八号までに規定するものに限る。以下同じ。)を当該各号に定めるところにより知つたものは、当該業務等に関する重要事実の公表がされた後でなければ、当該上場会社等の特定有価証券等に係る売買その他の有償の譲渡若しくは譲受け又は有価証券指数等先物取引、有価証券オプション取引、外国市場証券先物取引若しくは有価証券店頭デリバティブ取引(以下この条において「売買等」という。)をしてはならない。当該上場会社等に係る業務等に関する重要事実を次の各号に定めるところにより知つた会社関係者であつて、当該各号に掲げる会社関係者でなくなつた後一年以内のものについても、同様とする。
一 当該上場会社等(当該上場会社等の親会社及び子会社を含む。以下この項において同じ。)の役員、代理人、使用人その他の従業者(以下この条及び次条において「役員等」という。) その者の職務に関し知つたとき。
二 当該上場会社等の商法第二百九十三条ノ六第一項に定める権利を有する株主若しくは優先出資法に規定する普通出資者のうちこれに類する権利を有するものとして内閣府令で定める者、商法第二百九十三条ノ八第一項に定める権利を有する株主又は有限会社法(昭和十三年法律第七十四号)第四十四条ノ三に定める権利を有する社員(これらの株主、普通出資者又は社員が法人(法人でない団体で代表者又は管理人の定めのあるものを含む。以下この条及び次条において同じ。)であるときはその役員等を、これらの株主、普通出資者又は社員が法人以外の者であるときはその代理人又は使用人を含む。) 当該権利の行使に関し知つたとき。
三 当該上場会社等に対する法令に基づく権限を有する者 当該権限の行使に関し知つたとき。
四 当該上場会社等と契約を締結している者又は締結の交渉をしている者(その者が法人であるときはその役員等を、その者が法人以外の者であるときはその代理人又は使用人を含む。)であつて、当該上場会社等の役員等以外のもの 当該契約の締結若しくはその交渉又は履行に関し知つたとき。
五 第二号又は前号に掲げる者であつて法人であるものの役員等(その者が役員等である当該法人の他の役員等が、それぞれ第二号又は前号に定めるところにより当該上場会社等に係る業務等に関する重要事実を知つた場合におけるその者に限る。) その者の職務に関し知つたとき。

つまり、上記で定義される上場企業の「会社関係者」(役職員、帳簿閲覧権のある株主、取引先等)については、「重要事実」について知ったときには、株式等の売買等を行ってはいけないということですが、では、何が「重要事実」に該当するかというと、次の第2項の定めの通りとなります。

� 前項に規定する業務等に関する重要事実とは、次に掲げる事実(第一号、第二号、第五号及び第六号に掲げる事実にあつては、投資者の投資判断に及ぼす影響が軽微なものとして内閣府令で定める基準に該当するものを除く。)をいう。
一 当該上場会社等の業務執行を決定する機関が次に掲げる事項を行うことについての決定をしたこと又は当該機関が当該決定(公表がされたものに限る。)に係る事項を行わないことを決定したこと。
イ 株式(優先出資法に規定する優先出資を含む。へにおいて同じ。)、新株予約権及び新株予約権付社債の発行
ロ 資本の減少
ハ 資本準備金又は利益準備金の減少
ニ 商法第二百十条若しくは第二百十一条ノ三の規定又はこれらに相当する外国の法令の規定(当該上場会社等が外国会社である場合に限る。以下この条において同じ。)による自己の株式の取得
ホ 商法第二百十一条の規定又はこれに相当する外国の法令の規定による自己の株式の処分
ヘ 株式の分割
ト 利益若しくは剰余金の配当又は商法第二百九十三条ノ五に定める営業年度中の金銭の分配(その一株若しくは一口当たりの額又は方法が直近の利益若しくは剰余金の配当又は金銭の分配と異なるものに限る。)
チ 株式交換
リ 株式移転
ヌ 合併
ル 会社の分割
ヲ 営業又は事業の全部又は一部の譲渡又は譲受け
ワ 解散(合併による解散を除く。)
カ 新製品又は新技術の企業化
ヨ 業務上の提携その他のイからカまでに掲げる事項に準ずる事項として政令で定める事項
二 当該上場会社等に次に掲げる事実が発生したこと。
イ 災害に起因する損害又は業務遂行の過程で生じた損害
ロ 主要株主の異動
ハ 特定有価証券又は特定有価証券に係るオプションの上場の廃止又は登録の取消しの原因となる事実
ニ イからハまでに掲げる事実に準ずる事実として政令で定める事実
三 当該上場会社等の売上高、経常利益若しくは純利益(以下この条において「売上高等」という。)若しくは第一号トに規定する配当若しくは分配又は当該上場会社等の属する企業集団の売上高等について、公表がされた直近の予想値(当該予想値がない場合は、公表がされた前事業年度の実績値)に比較して当該上場会社等が新たに算出した予想値又は当事業年度の決算において差異(投資者の投資判断に及ぼす影響が重要なものとして内閣府令で定める基準に該当するものに限る。)が生じたこと。
四 前三号に掲げる事実を除き、当該上場会社等の運営、業務又は財産に関する重要な事実であつて投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすもの
五 当該上場会社等の子会社の業務執行を決定する機関が当該子会社について次に掲げる事項を行うことについての決定をしたこと又は当該機関が当該決定(公表がされたものに限る。)に係る事項を行わないことを決定したこと。
イ 株式交換
ロ 株式移転
ハ 合併
ニ 会社の分割
ホ 営業又は事業の全部又は一部の譲渡又は譲受け
ヘ 解散(合併による解散を除く。)
ト 新製品又は新技術の企業化
チ 業務上の提携その他のイからトまでに掲げる事項に準ずる事項として政令で定める事項
六 当該上場会社等の子会社に次に掲げる事実が発生したこと。
イ 災害に起因する損害又は業務遂行の過程で生じた損害
ロ イに掲げる事実に準ずる事実として政令で定める事実
七 当該上場会社等の子会社(第二条第一項第四号、第五号の二又は第六号に掲げる有価証券で証券取引所に上場されているものの発行者その他の内閣府令で定めるものに限る。)の売上高等について、公表がされた直近の予想値(当該予想値がない場合は、公表がされた前事業年度の実績値)に比較して当該子会社が新たに算出した予想値又は当事業年度の決算において差異(投資者の投資判断に及ぼす影響が重要なものとして内閣府令で定める基準に該当するものに限る。)が生じたこと。
八 前三号に掲げる事実を除き、当該上場会社等の子会社の運営、業務又は財産に関する重要な事実であつて投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすもの

今回の西武鉄道株の疑惑は、第�項第二号ハの「特定有価証券又は特定有価証券に係るオプションの上場の廃止又は登録の取消しの原因となる事実」に該当するのではないかと考えられます。
ここでいう「特定有価証券」とは、第百六十三条で、「当該上場会社等の同項(第2条第1項)第四号、第五号の二若しくは第六号に掲げる有価証券(政令で定めるものを除く。)その他の政令で定める有価証券(以下この条から第百六十六条までにおいて「特定有価証券」という。)」と定められておりまして、社債(四号)、優先出資証券(五号の二)、株券、新株引受権証券、新株予約権証券(六号)のこと。(「政令」関係は、証券取引法施行令第二七条〜第二七条の三あたりを参照。)
いずれにせよ、株券はずばり対象です。

� 会社関係者(第一項後段に規定する者を含む。以下この項において同じ。)から当該会社関係者が第一項各号に定めるところにより知つた同項に規定する業務等に関する重要事実の伝達を受けた者(同項各号に掲げる者であつて、当該各号に定めるところにより当該業務等に関する重要事実を知つたものを除く。)又は職務上当該伝達を受けた者が所属する法人の他の役員等であつて、その者の職務に関し当該業務等に関する重要事実を知つたものは、当該業務等に関する重要事実の公表がされた後でなければ、当該上場会社等の特定有価証券等に係る売買等をしてはならない。

当然、その証券を発行する会社の「会社関係者」だけじゃなくて、その「会社関係者」から情報を入手した人も取引しちゃダメ、ということですね。

� 第一項、第二項第一号、第三号、第五号及び第七号並びに前項の公表がされたとは、上場会社等に係る第一項に規定する業務等に関する重要事実、上場会社等の業務執行を決定する機関の決定、上場会社等の売上高等若しくは第二項第一号トに規定する配当若しくは分配、上場会社等の属する企業集団の売上高等、上場会社等の子会社の業務執行を決定する機関の決定又は上場会社等の子会社の売上高等について、当該上場会社等又は当該上場会社等の子会社(子会社については、当該子会社の第一項に規定する業務等に関する重要事実、当該子会社の業務執行を決定する機関の決定又は当該子会社の売上高等に限る。以下この項において同じ。)により多数の者の知り得る状態に置く措置として政令で定める措置がとられたこと又は当該上場会社等若しくは当該上場会社等の子会社が提出した第二十五条第一項に規定する書類(同項第七号に掲げる書類を除く。)にこれらの事項が記載されている場合において、当該書類が同項の規定により公衆の縦覧に供されたことをいう。

「多数の者の知り得る状態に置く措置として政令で定める措置」とは、2004年2月1日からいわゆる「12時間ルール」が改正、施行され、2つ以上の新聞やテレビ等に公開されて12時間以上経った時(施行令第三〇条第一項一号)だけでなく、当該情報が自主規制機関のホームページに掲載された時点でOKになってます。(「同第二号(略)、その発行する有価証券を上場する各証券取引所の規則で定めるところにより、重要事実等又は公開買付け等事実(略)を当該証券取引所に通知し、かつ、当該通知された重要事実等又は公開買付け等事実が、内閣府令で定めるところにより、当該証券取引所において公衆の縦覧に供されたこと。」)
いずれにせよ、まったくこうした重要事実を公表していなかったらアウト。

� 第一項及び次条において「親会社」とは、他の会社(協同組織金融機関を含む。以下この項において同じ。)を支配する会社として政令で定めるものをいい、この条において「子会社」とは、他の会社が提出した第五条第一項の規定による届出書、第二十四条第一項の規定による有価証券報告書又は第二十四条の五第一項の規定による半期報告書で第二十五条第一項の規定により公衆の縦覧に供された直近のものにおいて、当該他の会社の属する企業集団に属する会社として記載されたものをいう。

以下、適用除外事項が列挙されてますが、

� 第一項及び第三項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
一 新株引受権(優先出資法に規定する優先出資引受権を含む。以下この号において同じ。)を有する者が当該新株引受権を行使することにより株券(優先出資証券を含む。)を取得する場合
二 新株予約権を有する者が当該新株予約権を行使することにより株券を取得する場合
二の二 特定有価証券等に係るオプションを取得している者が当該オプションを行使することにより特定有価証券等に係る売買等をする場合
三 商法第二百四十五条ノ二第一項、第二百四十五条ノ五第三項、第三百四十九条第一項、第三百五十五条第一項(同法第三百七十一条第二項において準用する場合を含む。)、第三百五十八条第五項、第三百七十四条ノ三第一項(同法第三百七十四条ノ三十一第三項において準用する場合を含む。)、第三百七十四条ノ二十三第五項、第四百八条ノ三第一項若しくは第四百十三条ノ三第五項若しくは有限会社法第六十四条ノ二第一項の規定による株式の買取りの請求又は法令上の義務に基づき売買等をする場合
四 当該上場会社等の株券等(第二十七条の二第一項に規定する株券等をいう。)に係る同項に規定する公開買付け(同項本文の規定の適用を受ける場合に限る。)又はこれに準ずる行為として政令で定めるものに対抗するため当該上場会社等の取締役会が決定した要請(委員会等設置会社にあつては、執行役の決定した要請を含む。)に基づいて、当該上場会社等の特定有価証券等又は特定有価証券等の売買に係るオプション(当該オプションの行使により当該行使をした者が当該オプションに係る特定有価証券等の売買において買主としての地位を取得するものに限る。)の買付け(オプションにあつては、取得をいう。次号において同じ。)その他の有償の譲受けをする場合
四の二 商法第二百十条若しくは第二百十一条ノ三の規定又はこれらに相当する外国の法令の規定による自己の株式の取得についての当該上場会社等の商法第二百十条第一項の規定による定時総会の決議若しくは第二百十一条ノ三第一項に規定する取締役会の決議(委員会等設置会社にあつては、執行役の決定を含む。)(同条第二項に規定する事項に係るものに限る。)又はこれらに相当する外国の法令の規定に基づいて行う決議等(以下この号において「定時総会決議等」という。)について第一項に規定する公表(当該定時総会決議等の内容が当該上場会社等の業務執行を決定する機関の決定と同一の内容であり、かつ、当該定時総会決議等の前に当該決定について同項に規定する公表がされている場合の当該公表を含む。)がされた後、当該定時総会決議等に基づいて当該自己の株式に係る株券若しくは株券に係る権利を表示する第二条第一項第十号の三に掲げる有価証券その他の政令で定める有価証券(以下この号において「株券等」という。)又は株券等の売買に係るオプション(当該オプションの行使により当該行使をした者が当該オプションに係る株券等の売買において買主としての地位を取得するものに限る。以下この号において同じ。)の買付けをする場合(当該自己の株式の取得についての当該上場会社等の業務執行を決定する機関の決定以外の第一項に規定する業務等に関する重要事実について、同項に規定する公表がされていない場合(当該自己の株式の取得以外の商法第二百十条若しくは第二百十一条ノ三の規定又はこれらに相当する外国の法令の規定による自己の株式の取得について、この号の規定に基づいて当該自己の株式に係る株券等又は株券等の売買に係るオプションの買付けをする場合を除く。)を除く。)
五 第百五十九条第三項(同条第四項において準用する場合を含む。)の政令で定めるところにより売買等をする場合
六 社債券(新株予約権付社債券を除く。)その他の政令で定める有価証券に係る売買等をする場合(内閣府令で定める場合を除く。)

等、ストックオプションの行使や、自己株式の買付の場合については除外されております。さらに、西武鉄道の場合に該当する可能性があるのは、以下の市場外で取引する場合の除外ですが、

七 第一項又は第三項の規定に該当する者の間において、売買等を取引所有価証券市場又は店頭売買有価証券市場によらないでする場合(当該売買等をする者の双方において、当該売買等に係る特定有価証券等について、更に第一項又は第三項の規定に違反して売買等が行われることとなることを知つている場合を除く。)

上記の通り、「第一項又は第三項の規定に該当する者の間において」となってますので、事情を知らずに株式を交わされたビール会社等の場合には、これに該当しないことになります。

八 上場会社等に係る第一項に規定する業務等に関する重要事実を知る前に締結された当該上場会社等の特定有価証券等に係る売買等に関する契約の履行又は上場会社等に係る同項に規定する業務等に関する重要事実を知る前に決定された当該上場会社等の特定有価証券等に係る売買等の計画の実行として売買等をする場合その他これに準ずる特別の事情に基づく売買等であることが明らかな売買等をする場合(内閣府令で定める場合に限る。)

しかし、すごいチャートですね。
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(出所:Yahoo!ファイナンス)
(以 上)

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