ワールドカップを見て思う日本のベンチャー企業・上場制度

昨日のサッカーワールドカップ・パラグアイ戦、残念でした。でもよくがんばったと思います。

(本格サッカーファンのみなさまにおかれましては、にわかサッカーファンの私めがサッカーをネタに語るのをお許しいただければと思います。<(_ _)>)

 

さて、日本では、へんな上場企業が不公正ファイナンスを行ったり、上場してみたら上場前からものすごい粉飾をしてたり、といったことが、かなりの頻度で発生しているように思います。

こういう事件が起こるたびに

「何やってんだよ、もう。」
「日本の株式市場最悪。」
「証券会社や取引所は、もっとちゃんと審査しろ!」

といった声があがるわけです。
(私もつい(F○I社の件など)、「それド真ん中でしょ、なんで通しちゃうの!?」と口から出ちゃうこともありますが…。)

 

しかし、今回、ワールドカップの試合を見ていて、敵に点を決められた時にキーパーをなじったり、PKで点を入れられなかったキッカーを非難するというのは、人間としてやっぱ最低だなと反省いたしました。

 

例えば今回の「未上場時に個人から出資を受けた企業が原則としてIPOできない」という規制案の件。

そもそもなぜ未公開株詐欺といったことが起こるのか、という根本原因を考えてみると、それは「未公開株はオイシイ」という認識が存在するからです。

もちろん、上場前の株価は、上場株式と違って流動性が無い分 discount されていると理論的には考えられますので、その分安い、ということは言えます。

しかし、それは上場できるかどうかわからないリスクを織り込んだものですので、市場メカニズムが効率的に働いていると仮定するなら、その分を適切に反映したディスカウントとなり、つまりはリスクに見合った儲けしか得られないはずです。

 

しかし、上場した企業の多くは、上場直後の株価がピークで、その後は滑り台のように右下がりに株価が下降して行くばかりになったりします。果ては、不公正ファイナンスに使われる「箱企業」((c) SESC佐々木氏?:-)と成り果てたりもします。
こういう状況だと、いちばんオイシイのは上場直前の株式を手に入れること、になってしまいます。

 

しかしこれ、結局すべては「ベンチャー企業が少な過ぎることに起因しているものじゃないでしょうか。

主幹事証券会社の人も取引所も、何も好んで上場後にクソ株になるような企業を上場させているわけじゃないかと思います。

ビジネスなので、ベンチャー企業の数が少なければ、消去法で「まだまし」な(追記:つまり「ものすごく有望」ではなくても、失敗の可能性が高いとも言えず、成長の可能性もある)企業から順番に公開させないと生きていかれない。
芥川賞じゃないので「今年は該当作品なし」では、ベンチャー企業を取り巻く生態系自体が滅びてしまうわけです。

 

逆に、もし「イケテるベンチャー企業」ばかりが上場し、そのベンチャー企業がますます成長できるような環境があれば、右上がりの株価で成長していく企業も増えるでしょうから、わざわざ本当に上場するかどうかもわからない未公開株に手を出さずとも、 上場直後に買っても十分利益を得られるようになります。

「この会社、上場してもやってけるのかなー」ということが頭の隅に浮かぶような企業をわざわざ上場させなくても、イケてる企業が上場順番待ちにワイワイ列をなしていれば、そういう「クソ株候補」は自ずと上場機会を失うわけです。

 

つまり、「イケテるベンチャー企業」を増やすことこそが、現在の株式市場周辺の頭の痛い諸問題を解決する根本的解決策です。

そのためには、起業をもっと活性化させることも必要ですし、上場したベンチャー企業がさらに大企業をも追い抜くような成長ができるもろもろの環境を整えていかないといけません。
これっておそらく、「日本の成長戦略」とかなりの部分が重複すると思うんですよ。

 

今の日本は、点を取られたと言ってはキーパーをなじる最低なチームではないかと思います。
攻められっぱなしで、いつも敵がこちらのゴールの周りに張り付いているような状況では、精神的に消耗もしますし、点も入れられてしまう。

もっとフォワードがガンガン敵ゴールにシュートを蹴り込んでばかりいるような状況が作りだせれば、それが最大の防御にもなるわけですし、チームの心が一丸となっていれば、もっといいプレーができるはずです。

 

私は、エースストライカー(ベンチャー企業そのもの)というよりは、ベンチャー企業にパスを出すような(あるいは選手の飲み物を用意するような)位置付けの人ですが、FWからDF、キーパーまでが一丸となれるチーム形成に何らかのお役に立てればこれにまさることはない、と考えております。

 

(ではまた。)

 

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個人から出資を受けたらIPOできなくなる日本証券業協会の規則変更に大反対します

(追記21:18:論旨は全く変わりませんが、字句・表現等、大幅に加筆、修正しました。)

 

今月10日付けで、日本証券業協会から「新規公開前に行われる不適切な自己募集を規制するための「有価証券の引受け等に関する規則』等の一部改正について(案)」という文書が公開されました。

http://www.jsda.or.jp/html/oshirase/public/10061001.pdf

 

この変更案(以下「本変更案」といいます)は、ベンチャー企業がその役職員又はその親族以外の個人から出資をしてもらった場合には、日本証券業協会の引受会員が新規公開時の引受けを行うことを原則として禁止するものです。

ベンチャー企業の実務では、創業初期等に友人や知人、元の会社の社長などの「個人」から出資を受けることがよくあります。つまりこれは、そうした個人から出資を受けたベンチャー企業の上場が事実上不可能になる可能性を持つ規定変更です。

現在、日本経済は停滞し、国を挙げて成長戦略が模索されていますが、既存の企業だけで成長できないわけですから、新しいベンチャー企業が生まれて成長し、新しい産業を次々に興すことこそが成長戦略のはずです。

ところが、この規定変更が行われれば、その新しい事業の芽は踏みにじられ、国民が自由に起業し、新しい仕事を生み出すことが大きな制約を受けることになります。憲法に定められた基本的人権である職業選択の自由さえ脅かされかねないわけです。

また、本変更案には来月7月20日以降に新規公開の決議を行う企業に適用されると書いてあるのみで、既に個人から資金調達した企業は除外するとは書かれていません。つまり、すでに個人から出資を受けられた未上場企業は、この変更案が通れば、今後原則上場ができないことになります。

すなわちこれは、今まで上場を目指してがんばってきたベンチャー企業の夢を打ち砕き、上場する可能性を信じて投資を行った人達の財産を著しく毀損させる変更案であります。

さらに、本変更案は、頻発する未公開株詐欺を防止するために行われるものとのことですが、後述の通り、その抑止効果がほとんど無いばかりか、むしろ詐欺の助長・悪質化を招く可能性も高いものであると言わざるを得ません。

私は、多数の上場前・上場後のベンチャー企業の役員やコンサルタントを行ってきましたが、その経験からもこの規則変更がベンチャー企業や日本に大きな損害を与えると考えており、この規則変更案に強く反対するものであります。

 

以下、なぜこの規則変更が大問題なのか、個々の点について述べさせていただきます。

 

 

形式的な要件では適切な投資かどうかの判断はできない

本変更案は、新規公開前に自己の株券、新株予約権証券、新株予約権付社債券及び社債券について個人投資家に対して募集又は私募を行っていた場合に、日本証券業協会の引受会員が新規公開での引受けを行ってはならない、とするものです。

(注:金融商品取引法に定める「募集」は、各財務局を窓口として内閣総理大臣に「届出」を行うことが原則で、その適用除外を受けられるその他の少数向け又は少額のものが「私募」です。)

現行の「有価証券の引受け等に関する規則」においても改正案においても「個人投資家」の定義は行われていませんので、個人が投資を行った場合には、すべて個人投資家に含まれてしまうものと考えられます。

細則の変更案においては、例えば親戚が投資する場合は適用除外となっていますが、親戚よりも一緒に仕事をしてきた友人や知人などの方がはるかに事業の内容に詳しいこともよくあり、親戚であれば投資家として適切であるということにはなりません。投資が適切であるかどうかは、投資を行う者が、その企業の内容やリスクをよく理解しているかどうかで判断されるべきであり、それは親戚かどうかといった形式的な基準では線を引く事ができないものです。

また、この規定案では「株券」等の証券を対象にしていますが、多くの未公開企業は株券不発行会社であり、近年のベンチャー企業の実務においては、株式も新株予約権も、証券が発行されるものはむしろまれです。

証券が発行されない募集等については適用除外であるなら、未公開株詐欺を行う詐欺師は、
「証券を発行しない募集の場合には上場できるんですよ。」
と言えばいいだけのことでなり、それでは規定が詐欺を抑止する効果はありません。
本変更案が証券を発行しない増資の場合を適用除外とする意図かどうかは存じませんが、この改正案が一度採用され、それ以降に上記のような証券を発行しない詐欺が横行すれば、証券を発行しない場合も対象になることは明らかです。

また、既発行の株式を譲渡するという詐欺は、この規制では防げません。

 

■未公開企業の円滑な資金調達を著しく阻害

平成19年に施行された金融商品取引法においては、みなし有価証券の自己募集を行うには金融商品取引業として登録することが求められるようになりました。
つまり、民法上の組合、匿名組合などのファンドの他、合名会社や合資会社、合同会社の出資等を自分で集める場合にも、出資者が常時業務に従事するといった場合以外は、「第二種金融商品取引業者」として登録しないと資金調達ができないことになってしまいました。

つまり、映画などで出資を受ける場合にも、法律上はいちいち「金融業者」にならないといけなくなったわけです。

ご参考:拙稿「今時のインディーズ映画制作と金商法(規制のおさらい編)

 

これはビジネスを行う場合のエンティティの選択を狭める規定ですが、民法上の組合や匿名組合などは、日本のビジネスにおける資金調達方法の主流ではないので、まだ国家経済に与える影響は小さかったかも知れません。

しかし、株式会社は(旧有限会社法からの特例有限会社を含めれば)、全国で250万社もあり、日本経済の中核・根幹を占める存在です。

この株式会社にも同様の制約がかけられて、個人に対する自己募集すら大きな制約がかかり、資金調達が円滑に行われないようなことになれば、中堅中小企業は多大な影響を受ける可能性がありますし、特に、成長して大きな企業価値、付加価値や雇用を生み出すはずのベンチャー企業に、大きな足かせをはめることになってしまいます。

 

詐欺会社は上場しない

本変更案は、個人向けに私募等を行った企業の上場を事実上禁止するものですが、資金だけ集めて上場する気がないから詐欺なのであって、詐欺をする会社は上場が出来なくても全く困りません。

つまり、この規定は、真面目に上場を目指している企業が迷惑を被るだけで、詐欺をする会社には効果がほとんどありません。

 

「ベンチャー企業は個人から資金調達しない」という事実誤認

本変更案では、「上場前に個人投資家に対して自己の発行する株券の勧誘行為を行うことはないものと考えられる」とありますが、まったくの事実誤認です。

今までに上場したベンチャー企業の相当の割合が、創業間もない時期などに、友人や取引先、経営を指導してくれる専門家など、役員や従業員の親戚以外の個人からの資金調達を行っています。(上場時の有価証券届出書を見て、株主の欄を見てみれば容易にわかることです。)
それらの会社は、その資金がなかったら会社が潰れていたかも知れないし、その資金があったからこそ、今の上場企業があるわけです。

現在、仮に昔からこの規制が存在したとしたら、日本を支える今の上場企業のうちどれほどが上場できたか、上場できないことによって今の日本のGDPが何%下がっただろうかと考えてみれば、その悪影響は容易に想像が付くことではないかと思います。

そもそも、見ず知らずのベンチャー企業に出資したり、ベンチャー企業が見ず知らずの人から出資を受けたりするのは、私個人もお勧めはしません
しかし、それと、一定の形式要件で不適切な資金調達を定義できるかどうかは、また別の話です。

例えば近年、既に上場したベンチャー企業の社長や、引退した優秀な経営者が、有望な次の世代のベンチャー企業に出資をするといったケースは急速に増えています。
こうした、ビジネスモデルや技術力などに目利きができる有名な社長等が出資していれば、企業の信用力も高まり、ベンチャー企業が他社と取引するのにも大きなチャンスが生まれるわけです。
また、アドバイスを行う専門家等が、その事業の可能性を見いだして出資をし、それによって企業の信用が高まるということもあります。

このように個別性が非常に高い個人の出資を形式要件で十把一絡げにして、「個人投資家から募集や私募したらすべて原則上場禁止」とすることは、ベンチャー企業の経営の自由度や可能性を大きく奪うことになります。

 

有価証券届出書は詐欺師には意味が無い

本変更案では、少人数の個人投資家からの出資が除外されていないにもかかわらず、詐欺であれば被害が大きくなる大規模な募集の際に提出される有価証券届出書を提出していた場合には適用除外になる旨が定められています。
しかし、この形式要件も不公正なことを意図する人にとってはさしたる障害にはなりません。

時価総額数億円の上場企業ですら、専門家が関与して不公正ファイナンスが行われているわけです。
未上場企業でも、企業価値数十億円になることもありますから、規模から考えても、ファイナンスに詳しい反市場的な専門家の協力がいくらでも得られるはずです。

むしろ、詐欺師が、
「普通だと個人の方が出資すると上場できないんですが、有価証券届出書というこの書類を提出すれば上場できるんです。これは関東財務局も認めた増資ということなのでご安心ください。」
と、分厚い書類を見せたら、詐欺の信憑性は逆に上がってしまいかねません。
(抵当証券詐欺を思い出していただければと思います。)

ベンチャー企業の関係者の中にも、
「その有価証券届出書っていうのを提出すれば大丈夫なんでしょ?」
と甘く考えている方が散見されますが、有価証券届出書を作成するには監査法人等による会計監査を受ける必要があり、真面目に作成するとなれば、会社側スタッフの多くの時間・賃金と、監査法人や弁護士に支払う費用で、数百万円から数千万円のコストがかかるものだ、ということを知っておいた方がいいと思います。

一方、詐欺師は全くそんな費用をかける必要がありません。
詐欺の被害に遭う素人は、有価証券届出書を読んで形式の不備等を発見するなんてことはできませんから、詐欺師は他社の有価証券届出書を切り貼りして、もっともらしい書類を作ればいいだけです。

つまりこれも、真面目に資金調達や上場を考えるベンチャー企業だけが被害を被って、詐欺師にはほとんど効果を及ぼさない規定ということになります。

 

「法人で出資すればいい」か?

この規定が禁止しているのは個人からの出資であって、法人からの出資は問題にしていません。
おそらく、ベンチャーキャピタルのファンド(組合等)からの出資も問題にしていないはずです。

「だから、法人から出資を受ければいいだけではないか」かというとそうではありません。

詐欺師は、
「個人からの出資では上場できないですが、法人からの出資は問題になりません。だからこの法人に出資したら儲かりますよ。」
と言うだけのことですから、個人だけに絞る意味は全く無いわけです。

一方、真面目に個人で出資しようと思っていた個人商店等のオーナーが、この規定ができたおかげで法人から出資をせざるを得なくなった場合、個人であれば上場後のキャピタルゲインには10%の課税だけで済むのに、法人で出資すると、キャピタルゲインにも約4割の法人税等が課せられることになってしまいます。
出資者にとってはそれだけ実質利回りが下がるわけであり、その分、ベンチャー企業は調達条件が不利になる可能性があります

個人商店的な企業であれば、個人から出資するか法人から出資するかを自由に選択できるのでまだいいかも知れませんが、中堅企業以上であれば、会社と個人の財産が明確に分かれていることも多いでしょう。
企業の事業目的にそぐわない場合には、そうしたベンチャー企業への出資も閉ざされてしまうことになります。

結局、「個人か法人か」という区分も、詐欺師にはほとんどなんの効果もなく、真面目にベンチャー企業を応援する人に悪影響を及ぼすだけです。

 

■「上場できない可能性」はベンチャー企業の資金調達を著しく不利にする

「有価証券の引受け等に関する規則」に関する細則第2条第4項では「その他本協会が第1号から第3号に準ずると認めたとき。」という除外規定を置いています。

日本証券業協会は、個人向けの私募等を行った企業であっても、不適切なことを行った企業でなければ、この規定を用いて救済できると考えているかも知れません。

しかし、ベンチャー企業が個人から資金調達をするのは、上場のはるか以前のことが多いわけです。

起業した時には規制関係の知識も乏しいでしょうし、特に日本証券業協会の規則などは知らない、個人から資金調達をしてしまうこともありえます。
例えば、「元勤務先の社長がビジネスモデルを見込んで出資してくれるというので出資してもらったら、後から原則IPOが禁止されていた」ということに気が付くということも頻発するでしょう。

もちろん「個人から資金調達したら上場できないんだろ?」と個人からの出資を断られることも増えるはずです。

ベンチャーキャピタルから投資を受ければいいかというと、そうではありません。
すでに個人から出資を受けてしまった企業にIPOできない可能性が存在するとなれば、受けられないか、その分、ベンチャー企業に不利な条件で投資を受けざるを得ないことになります
また、個人から投資を受けたことがなくても、 資金調達をする時に、個人が出資をしてくれる可能性がある場合と、ベンチャーキャピタルだけと交渉しなければならないのとでは、当然、交渉力が違ってきます。

 

「日本証券業協会が不適切な募集でないことを事前に確認する制度を作ればいいではないか」
と考える方もいらっしゃるかも知れません。しかし、そのようなものを作ったにしても、日本証券業協会も、何も見ないでOKを出すわけにはいかないはずです。

結局、そのような場合に日本証券業協会が内諾をするにも、上場審査の内容に準じたことを行う必要があるということになります。すなわち、その会社の将来性があるかどうかの事業計画や、株主等に反社会的勢力がいないかどうか親戚や関連会社の一覧表を出すといった過大な作業を、創業して間もない企業にも強いることになるわけです。

 

前述のとおり、現在存在する未上場企業の多くは、個人から資金調達を行った経験があるはずです。

今後も同じ頻度で個人からも調達した企業が上場するとなると、それを救済しないわけにはいきませんが、この例外規定で救われる企業が、上場する企業の何割にもなれば、それはもはや「例外」ではなくなります。

いくら、日本証券業協会が「個人から募集した企業は原則上場できない」ということを広報しても、詐欺師が、過去に上場したベンチャー企業の有価証券届出書等の資料から一覧表を作り、「実際には、この企業も、この企業も、個人が出資してますが、上場できていますよ。」と言えば、逆に、詐欺の説得力は増してしまいかねないわけです。

 

この規定は資本主義の死を意味する

この細則による適用除外のように、日本証券業協会の裁量の幅を大きくし、「真面目な」企業にはOKを出すが、「不適切な」資金調達をした企業は通さないようにするという考え方は、それ自体が非常に危険です。

資本主義社会が共産主義社会と違ってうまくいったのは、特定の少数の人間が生産等の経済活動を決定しコントロールするのではなく、多様な考えの個人や企業が自由に製品やサービスを生み出し、それが人々の需要を喚起して経済を活性化させたことにあります。

ベンチャー企業は、今まで誰もやったことが無いような新しい営業、新しい技術にもチャレンジをするわけで、「確実に成功するベンチャー企業」なんてものは無いわけですし、また、どんな人間でも未来を完全に予測することなんてできるわけがありません。

例えば「グーグル」社が創業しようというときに、「検索エンジンを中核に据えたビジネスモデルが将来、10兆円を超える企業価値を持つ企業が登場するなんてことは、ほとんどの人は考えなかったはずです。
8000億円を超える時価総額の「楽天」ですら、10年前「あんなビジネスモデルはアメリカじゃ全然相手にもされない」なんてことを言っていた「専門家」を何人も知っています。

だから、「多様な価値観」こそがベンチャー企業には必要なのです。
いや、資本市場や資本主義は、そもそも、そうした多様な価値観にこそ支えられているわけです。
不確実な未来に挑戦しようという「アニマルスピリッツ」です。

日本証券業協会は、
「公言すると詐欺抑止効果が無くなるから言わないけど、普通の私募なら例外規定で通しますから大丈夫」
と考えているのかも知れませんが、それは大間違いです。

どんなチェックも100%完璧ではありえないので、将来、「OKを出したのに実は詐欺だった」というケースは発生し得ます。そうなれば、以降この規定は字義通りに運用されることになり、「始めから規定では原則禁止でしたが?」となるに決まっています。

この規定の構成から考えても、日本証券業協会の方々は、上場企業には詳しくても未上場のベンチャー企業の実務に詳しいとはとても思えません。
いや、上述の通り、たとえ「詳しい人」が担当者になってもダメなわけです。
それは、ベンチャー企業の成否が「一定の価値観」でコントロールされることであり、それは多様な価値観に支えられた資本主義の死を意味することになります。

 

 

以上のとおり、本変更案は、ベンチャー企業の活動を著しく阻害し、日本の成長に足かせをはめるばかりか、詐欺の防止にもほとんど効果はなく、詐欺の助長すらしかねない内容となっています。

 

みなさんにおかれましては四半期末でお忙しいこととは思いますが、ぜひ、日本証券業協会のパブリック・コメントに対して、メール等で本件に反対する旨を送っていただければと思います。

この件については7月1日の17時までが〆切となっています。

日本証券業協会:パブリック・コメントの募集について
http://www.jsda.or.jp/html/oshirase/public/bosyu.html

 

パブリック・コメントの募集スケジュール等

(1) 募集期間及び提出方法

募集期間:…平成22 年7月1日(木)17:00 まで(必着)

提出方法:電子メールの場合:public@wan.jsda.or.jp

(2) 意見の記入要領

件名を「『有価証券の引受け等に関する規則』等の一部改正に対する意見」とし、

次の事項を御記入のうえ、御意見を御提出ください。

[1] 氏名又は名称

[2] 連絡先(電子メールアドレス、電話番号等)

[3] 法人又は所属団体名(法人又は団体に所属されている場合)

[4] 意見の該当箇所

[5] 意見

[6] 理由

よろしくお願い致します。

 

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週刊isologue(第65号)NTTから「光の道」を分離する方法(接続会計編)

先週は、「光の道」に関連して、アクセス回線会社をNTTから分離する際に、どんなことが起こる可能性があるのか、概観してみました。

今週は、NTT東日本及びNTT西日本が公表している「接続会計」(めちゃ細かいです)を読んで、このアクセス回線会社を分離した際のバランスシート(貸借対照表)をイメージしてみたいと思います。

この「接続会計」関係の話は、ものすごく細かい表や図がたくさん出て来るので、見てるだけで目がチカチカしてくるのではないかと思いますが、本質がどのへんにあるのかをなるべくわかりやすく解説させていただければと思います。

201006282358.jpg

 

ということで、今週の目次&キーワード:

  • NTT東日本、NTT西日本の接続会計、財務会計関連資料
  • 接続会計の概要
  • 監査法人の報告書
  • 接続会計の損益計算書
  • 接続会計の貸借対照表
  • メタル回線設備の価額及び「減損」の金額の想定
  • 流動資産の想定
  • 負債・資本構成(仮)
  • 次週予告

 

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(ではまた。)

 

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WEBRONZA、スタート

今日から朝日新聞の新しい言論・解説サイト「WEBRONZA

http://webronza.asahi.com/index.html

がスタートしました。


201006240743.jpg

 

一応、私も「経済・雇用」セクションの筆者一覧に入れていただいてます。

が、まだ何も書いてません。どんな感じになるか、さっき初めて見たもので・・・。他の人はもうみなさんいろいろ書いてらっしゃいますね・・・汗)

 

6月中はすべてのページが無料で見れますが、7月1日からは有料になるそうです。

これだけ無料の言説があふれているところに「有料のウェブ」なんてものが成立するのかどうか全く謎ですし、うまくいったら奇跡だという気もしますが、新しいことにチャレンジしてみるのはいいことじゃないかと思います。

 

みなさんもよろしかったらご覧下さい。

 

(ではまた。)

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週刊isologue(第64号)NTTから「光の道」を分離する方法(問題意識編)

先月、週刊isologue第60号で「ソフトバンクの分離案(「光の道」関連)を読む」を書いたところ、今月に入って、ソフトバンクさんから資料について説明したいというご連絡をいただきました。

「何かまずいこと書いちゃって怒られるのか?」
と、ちょっとドキドキしながらお会いしたら、全く逆でして、

この試算に対して定性的な意見は出たが、今のところ数字をベースにした反論が全く無い。
議論されてこそ作ったかいもあるというもので、この数字をもとにした議論は歓迎。」

とのことで、算定根拠や参考になる公表資料などを丁寧にご説明いただきました。

大間違いを書いてしまったというわけでもなさそうでホッとするとともに、そこそこ話題になっている話なのに、数字に関する反論が一件も無いという事実に、かなりビックリした次第です。

言われてみると確かに、巷の議論も、
「昔も似たような分割の議論があったけど無理だった」
「孫さんがんばれー」
「ソフトバンク態度でかすぎ」
といった議論ばかりな気がします。

文学や哲学の話じゃなくてビジネスの話なんだから、数字をベースに議論しないと意味がないですよね
重要なのは、それぞれの関係者にどういう数字上のインパクトや、メリット・デメリットがあるか、ということのはず。

もちろん、「光の道」について数字的に語れる人が私以外誰もいないなんてことがあるわけがなく、そういう人は恐らく、監督官庁や電気通信事業者に勤務していたり取引がある方など、立場上、本件について発言しにくい立場にある方だというだけだとは思いますが。

さて、ソフトバンクさんからは「アクセス回線会社」の収支についてのご説明はいただいたものの、NTTからの具体的な分離方法については立場上言いづらい面もおありでしょうし、実際、具体案のご呈示もありませんでした。

そこで今回は、先日のUStream上での孫社長、池田信夫氏、夏野氏の対談も踏まえた上で、私の方で勝手に、NTTから「光の道」を分離する方法が財務的にどういうイメージになるのかを考えてみます。

また、「光の道」の新会社「アクセス回線会社」の財務諸表のイメージは、現行の会計基準に準ずると、ソフトバンクの試算とは、かなり違う形になると考えられます。

そして、さらにこれを一ひねりしてやると、国・NTT・新会社それぞれにとって「三方一両得」になるスキームも組めるのではないかと思います。

(今回までの検討はソフトバンクの試算をベースに出発しており、それ自体の数字はまだ検証しておりませんが、それをベースにする限り)、国費の投入が不要なだけでなく、逆に、法人税等の税収が数千億円増えるメリットを国にもたらすことも可能ではないかと思います。
(今回は、「光の道」による技術革新や成長等のインパクトは考慮していません。)

201006220951.jpg

 

ということで、今週の目次&キーワード:

  • なぜ、池田信夫氏が言うように「『光の道』を国費の投入無しで民間でやって採算が合うなら、NTTがやればいいはず」とはならないのか?の財務的説明
  • 「減損」って何?
  • 事業分離スキームのイメージ
  • 株式の現物配当による分離
  • NTT、NTT東日本、NTT西日本3社の配当余力
  • 新会社「アクセス回線会社」の自己資本比率イメージ
  • 「メタル資産」1.6兆円はどこに消える?
  • 国・NTT・新会社「三方一両得」な方法

 

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週刊isologue(第63号)ソフトバンクのファイナンス(後編)

(カメルーン戦のところ、失礼いたします。)

先週は、ソフトバンクの決算説明会の資料をもとに、ソフトバンクの財務内容の現状を俯瞰しました。

今週の「週刊isologue」は、ソフトバンクのグループの全体の財政状態を、特に、

  • ソフトバンク株式会社の持株構造と、少数株主持分、優先株主への優先配当金等の関係
  • ウィルコム(から切り出された新会社)に対する投資
  • 社債、グループ全体の負債構造

等に注目して、分析してみたいと思います。

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今週の目次とキーワード:

  • ソフトバンクのグループ全貌
  • ソフトバンクモバイルの優先株式
  • ボーダフォンは「高値掴み」だったか?
  • 未払の優先配当金が累積していないか?
  • 累積条項
  • 非参加条項
  • 連結会計上の子会社の優先配当の取扱い
  • 子会社利益からの「漏れ」まとめ
  • ヤフーの株主が怒っても大丈夫?
  • 社債コールオプション
  • 社債プットオプション
  • ウィルコム関係への投資
  • 社債の発行ラッシュ(?)
  • 発行日順社債一覧
  • ピークからすでに8800億円も純有利子負債を削減は本当か?
  • 「純有利子負債がゼロ」と「実質無借金経営」
  • ソフトバンクのファイナンスや財務状況についての、まとめ

 

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イコノグラフィー的に見るアップルのロゴマーク

先日の「なぜ『クラウド』か?」で、「クラウド」というのは普通の日本人にとっては「モヤモヤした得体の知れないところ」など、あまりポジティブなイメージをもたれないんじゃないかと思われるのに、なんでこんな言葉を使うのかしらん?という話をいたしました。

つまり、いただいたコメントを引用させていただくと、キリスト教イコノグラフィー的教養がある欧米の方々にとっては、

文庫クセジュのキリスト教シンボル事典で「雲」を引いてみたところ、「空にあって、明るくも暗くもあり、近づきがたく、漠としてとらえがたい雲は、目には見えずに偏在[ママ]する神の象徴である」とありました。

とおっしゃるとおりであり、「クラウド」の志向するイメージは、「虫が食う事も、さび付く事もなく、また、盗人が忍び込む事も盗み出す事もない」(マタイ6:19-21)、「富を積む場所」として最適のイメージなのではないか、ということです。

「遍在 (ubiquitous)」というのも、まさにクラウドと接続環境が普及した時代のコンピューティングと表裏一体の概念でありますな。

 

そして話は変わりますが、(本日ツイッターで、これこれこれこれなどの あほ話をしておりまして思ったのですが)、

日本で「リンゴと言えば何を連想しますか?」と聞いたら「青森」「長野」「赤い」とかだと思いますが(例えばこちらご参照)、

欧米では恐らくかなりのパーセンテージで、「創世記で、神の言いつけに背いて食べてしまい、エデンの園を追い出された原因になってしまった、あの善悪の知識の木の実」を連想するのではないかと思います。

つまり、「かじられたリンゴの実」というのは、「犯してしまった禁断」または「手に入れてしまった知性」を表すはずですね。

 

そう考えると、この「半分のイチジクの葉」

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のロゴと、アップルの「齧られたリンゴ」のロゴは、表裏一体にしか見えなくなってきます :-)。

 

ところが、Wikipediaを見てみてびっくり。

日本語版のロゴの説明では、

Apple が創業されたときのロゴマークは、ニュートンがリンゴの木に寄りかかって本を読んでいるところをモチーフにした絵(ロン・ウェインのデザイン)であった。
しかしこれでは堅苦しいと考えたスティーブ・ジョブズは、レジス・マッケンナ社のアートディレクターロブ・ヤノフに新しいロゴマークのデザインを依頼する。
ヤノフは、シンプルな林檎の図案の右側に一かじりを加えた。「一かじり」を意味する “a bite” とコンピュータの情報単位の “byte” をかけたのだという。

とあり、「ニュートン」とか「byte」とかは出て来るけど、アダムやイヴが一言も出てきません。まったく触れていないのが、かえって怪しくないですか?

 

ちなみに英語版の説明は下記の通り。

Apple’s first logo, designed by Jobs and Wayne, depicts Sir Isaac Newton sitting under an apple tree. Almost immediately, though, this was replaced by Rob Janoff’s “rainbow Apple”, the now-familiar rainbow-colored silhouette of an apple with a bite taken out of it. Janoff presented Jobs with several different monochromatic themes for the “bitten” logo, and Jobs immediately took a liking to it. While Jobs liked the logo, he insisted it be in color to humanize the company.
The Apple logo was designed with a bite so that it would be recognized as an apple rather than a cherry. The colored stripes were conceived to make the logo more accessible, and to represent the fact the monitor could reproduce images in color.

こちらも、「cherryではなくappleに見えるように歯形を付けた」とか、そらぞらしいことが書いてありますが、アダムもイブも出てきません。

 

こういうイコノグラフィー的な教養はアメリカ人にはあまり無いのか、そういうのは宗教美術が少ないプロテスタント系の社会ではあまりイメージされないのか?(でも「Adam’s apple」という言葉は使うんですよね?)、それとも宗教臭さを前面に出さない広報の方針なのか、はたまた、アップルにはゼーレやネルフのように何か裏の使命があって、あえてそれを隠しているのかw。

 

このロゴをデザインしたRob Janoff氏についての情報もネット上にはほとんど何も無いのですが、英語版のWikipediaによると、その他の説として、

It has also been suggested (notably by Sadie Plant in her book Zeroes and Ones) that the idea for the Apple logo may have come from the story of the death of Alan Turing who was found dead after he had taken a bite of an apple laced with cyanide.
Another theory is that the missing bite is a reference to the Fall of Man, representing the acquisition of knowledge.

アラン・チューリング(数学者)が青酸化合物のついた?リンゴを一齧りして死んだ、ということに基づく、という説も紹介されてます。
また、アダムとイブの話も出てきますね。

 

ところが、

These theories are however all discounted by Rob himself, who says the stripes were included in line with design trends at the time, and the bite was included so that people didn’t mistake the apple for a tomato or some other fruit.

と、これらの説はデザイナー自身によってdiscountされたとありまして、「cherry」ではなく「tomatoなど他のフルーツと間違えないように歯形を付けた」とあります。

(Rob Janoff氏のサイトはこちら
音が割れてて聞きにくいですが、ロゴに関するラジオのインタビューのMP3もこちらにあります。)

 

しかし。

やはり、「なぜ歯形を付ければcherryやtomatoと間違えないか」というと、「齧られた果物」といえば「(アダムとイブの)リンゴ」だから、ということが前提にあるからですよね?

つまり、(特に欧米で)アダムとイブの話を聞いた事が無い人がいるとも思えないので、なぜWikipediaに記載されていないかというと「あまりに当たり前だから」説が有力なんではないかと思います。

 

ただし、上記のラジオインタビューでも、アップルの創業者2人は「パンク」だった、とあるとおり、このロゴマークができた当時に、ジョブス氏等が、深い意味合いを持たせた、というのも、あんまり説得力が無いかも知れません。

 

週末のあほ話でございました。

 

(ではまた。)

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週刊isologue(第62号)ソフトバンクのファイナンス(中編)

今週の週刊isologueもソフトバンクのファイナンスについて取り上げます。

先週に引き続き、問題意識も下記の通りになります。

 

ネット上でも、結構な識者の方々が、

「また何百億円も社債を発行してる!この会社、どうなっちゃうの?」
とか、
「ソフトバンクは借金まみれになって沈んでいく。登りゆくドコモと対照的。」
とか、
「溺れるものは藁をもつかむで、光の道に飛びついちゃって・・・」

等、ソフトバンクに対して悲観的なことをおっしゃっているので、
ソフトバンク、大丈夫かしらん?
と思ってる方も多いのではないかと思います。

 

一方、孫社長の決算説明会のプレゼンを素直に見ると、

  • 今回の決算は、三社(NTT、KDDI、SB)の中で1社だけ増収増益
  • ARPU(ユーザーの平均利用単価)が伸びてるのは3社中(そして世界でも)ソフトバンクだけ。
  • ボーダフォン買収以降、有利子負債は計画を超えて9000億円近くも減少
  • 今の計画だと、あと数年でソフトバンクは実質無借金経営になる。
  • 営業利益、フリーキャッシュフローで日本の全上場企業中3位、4位に入る優良企業
    (NTTとかトヨタに次いで。KDDIは既に抜いた。)
  • さらにウィルコムにも出資して基地局数倍増、
    (フェムトやホームアンテナなどをセコくカウントしてかと思いきや、なんとそれは含めずに。)
  • 設備投資はつながりにくい電波に応急処置をする後ろ向きなものではない。
    次世代の高速通信のためには「小セル化」が必須。ネットワークの設計思想を先取りした先進的な投資。

と「景気がいいにもほどがある」状態にも見えます。

いったい、どちらのイメージがソフトバンクの実態として正しいのか。

 

例えば、信用リスクを取り扱うCDSの参考値を見ても、(一見)ソフトバンクの信用リスクは急上昇しているように見えます。

 

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図表1.ソフトバンクのCDS参考値(出所:東京金融取引所
(参考:CDS Q&A )  

 

CDS市場が効率的でソフトバンクの信用リスクを仮に正しく盛り込んでいると仮定するなら、これはソフトバンクが破綻するリスクが実際に高まっていることを反映しているようにも思えますが、どうなんでしょうか?

 

今週は、ソフトバンクの2010年3月期決算説明会での孫社長のプレゼンをベースにソフトバンクの財務内容について考えてみたいと思います。

 

先週「前後編で」と申し上げたんですが、今回のがまた結構なボリュームになってしまったので、今回を「中編」とさせていただき、来週「後編」ということでよろしくお願い致します。

 

今週の目次とキーワード:

  • 決算説明会の概要
  • 携帯3社中、唯一の「増収増益」を考える
  • 昨年と今年のスタンスの差異
  • 「EBITDA、5期連続過去最高」
  • 契約数の動向
    (「MNP2年連続純増No1」の意味)
  • 契約当たり単価(ARPU)の動向
  • 「iPhone」の伸びの意味
  • スティーブ・ジョブスの気持ちになって考える
    「ソフトバンクと組んで何のメリットがあるのか?」
  • 固定もヤフーも好調
  • 有利子負債の減少
  • 設備投資の大増額計画
  • ソフトバンクのCDS参考値の意味
  • 「通話」「非通話」と回線品質
  • 「5年で40倍」の通信量の時代は来るのか?
  • 「小セル化」投資は、後ろ向き?前向き?

 

ご興味のある方は、下記からお申し込みいただければ幸いです。

次週は、もうちょっとディープなところ、

  • ソフトバンク株式会社の持株構造と、少数株主持分、優先株主への優先配当金等の関係
  • ウィルコムなどを含む投資
  • 今回発行した社債、グループ全体の負債構造

等について、図解して分析してみたいと思います。

 

(ではまた。)

 

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なぜ「クラウド」か?の文化的考察+スキャナの効用第二弾

私は(そしてみなさんの多くも)「クラウド」という言葉に「ん?」という違和感を感じたことがあるのではないかと思います。

ご案内のとおり、クラウドというのは、インターネット上にあるコンピュータリソースを使う、使い方の呼び名です。
(SaaSとかASPとかといった概念と何が違うのといった話を含めて、詳しいことはネットでお調べいただければと思います。例えばWikipediaの記述はこちら。)

 

クラウドの説明図に、

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といった図もよく出て来るわけですが、普通の日本人だったら、こんなモヤモヤした得体の知れないところに大事な処理を依頼したり重要なデータを保存したりするというのは、気持ち悪い以外の何物でもないのではないかと思います。

なぜ「クラウド」なんて言葉を選んだのだろうか(ネットワークをこうした「雲」で表すというのは、今の「クラウド」が出て来るはるか以前から行われていましたが、なぜ今後も使う気になったのだろうか)、「クラウド」というイメージは欧米人にとってはイケてるんだろうか?と考えていて、もしかして、新約聖書に下記のように書いてあることが欧米人の潜在意識に作用してる面もあるかも知れないなあ、と、ふと思った次第であります。

 

あなたがたは地上に富を積んではならない。そこでは、虫が食ったり、さび付いたりするし、また、盗人が忍び込んで盗み出したりする。富は、天に積みなさい。そこでは、虫が食う事も、さび付く事もなく、また、盗人が忍び込む事も盗み出す事もない。あなたの富のあるところに、あなたの心もあるのだ。
(マタイによる福音書6:19-21)

 

擦り切れることのない財布を作り、尽きることのない富を天に積みなさい。 そこは、盗人も近寄らず、虫も食い荒らさない。
(ルカによる福音書 12:33)

 

つまり「クラウド」=「天」と考えると(または「天」とまで行かなくても、「地上」ではない「天」に近い存在、と考えると)、アメリカを中心とするキリスト教が文化の土台にある国の人達にとっては、まさに「クラウド」こそが財産を蓄える場所だ、ということが感覚的に違和感なく受入れられやすいのかも知れないなあ、と思いました。

特に小さいころからキリスト教の教育をしっかり受けているお金持ちの人達(含むIT系の成功者達)は、「金持ちが神の国に入るよりも、らくだが針の穴を通る方がまだ易しい。(マタイ19:24他)」と聞かされているはずなので、「地上」に富があることに対して、意識するかどうかにかかわらず、心の片隅で負い目を感じているのではないかと思います。

そういう人達にとっては「クラウド」に投資するというのは、心理的に非常に心地がいいかも知れませんね。

そう考えると、グーグルがウェブだけでなく地理情報や書籍といったすべてのものをデータ化し、それをサーバーにどんどん蓄えて公開していっているのも、金儲けやビジネスを超えた、何やら宗教的なパッションが背後にあるようさえ思えて参ります。

 

 

さてそんな中、先日ブログに書いた「ビジネスマンのための書籍スキャン入門ー既に始まっている電子出版」には大変な反響をいただきまして、ありがとうございました。

 

この記事では、日本の出版社が行う「電子出版」はどうも待っていてもラチがあかなさそうなので、自分で書籍をスキャンして電子化(「自炊」)してしまおう、ということをご提案させていただきました。

実は私ほどモノグサな人間もいないので、他の人がネット上で「自炊」の技をご披露されてるのを見て、「スキャン?それホントに人件費まで考えたコストパフォーマンス的に見合う話なの?」と思っていたわけでありますが、実際やってみると、今のテクノロジーの下では、これが驚くほど簡単だったわけです。

たとえば「コピーを取る」という作業は「そんなのオレがやる仕事じゃないよ。オレの時給を考えたらアシスタントの子にやらせるに決まってるでしょ。」てなことをおっしゃる方が多いかと思います。しかし、「CDをiTunesに読み込むのが面倒」という人は、かなり数が減るんじゃないでしょうか。

書籍のスキャンというのは、今や、CDをiTunesに落とすのよりちょっと面倒なくらいでできると言っていいのではないかと思います。

 

そして本日の本題は、その書籍のデータをどこに置くか、であります。

 

そこで「クラウド」登場なわけですね。

私は、パソコン間を同期するのは「DropBox」、同期しない古いデータを取っておく場所として(Macを使っているので)AppleのMobileMeというサービスについている「iDisk」を使うことにしました。

スキャンしたデータをパソコンの「DropBox」内のフォルダに入れておくと、他の(例えば持ち歩き用の)パソコンなどとも自動的に同期してくれますし、iPhoneのアプリもあるので、外出しているときにもファイルを見る事ができます。

(もちろん、スキャンしたデータじゃないとダメなわけではなくて、仕事のファイルでも写真でも何でもいいわけです。)

 

また、iPhoneやiPadのアプリもあります。
「パソコン」でなくても、外出先でちょろっと資料を見るということが可能になるわけですね。

さらに、Goodreaderというアプリ(Dropboxとの親和性もいいです)にデータをダウンロードしておけば、電波が届かないところでもpdfファイルなどをサクサクと読む事ができます。

ちなみにネット上で評価が高かった「SugarSync」ですが、私はMacを使っているので、古い情報などをアーカイブするならiDiskでいいし、常に他のパソコンやiPhoneから見たい情報については、「DropBox」の方が優れている気がしたので、SugarSyncは1日で解約してしまいました。

(Sugarsyncは、インターフェイスも直感的にわかりづらくイケてない気がしました。でも、アップルのMobileMeを使ってない人とか、パソコン間で同期させるフォルダを自由に選びたい、といった人には、Sugarsyncはいいんじゃないかと思います。)

 

実は、データが数GB単位で存在すると、最初にそのデータを「クラウド」上に持って行くのは1日がかりになります。
しかし、毎日地デジの録画データをアップロードしたりしない限り、1日あたりのアップロード量は、せいぜい百MB程度が普通になると思いますので、一度初めてしまえばさほど不自由は無いはずです。

とにかく、「光の道」でもなんでもいいので、インターネットが数十Gbpsといった実効速度になって、「ネット上でも手元のパソコンでもあまり体感速度が変わらない」ということになってほしいところであります。そこまで行けば、世界がいろいろ変わって来るはずじゃないかと思います。

 

こうして、徐々にではありますが、私は本棚の書籍を「クラウド」に移し始めています。

冒頭にのべた「クラウド」なんてわけのわからないところにデータを置いてしまって大丈夫?という気がする方も多いと思いますが、こちら(How secure is Dropbox?)に、Dropboxのセキュリティについて書かれていますので、ご参考まで。

今どき当たり前のことではありますが、

  • 保管されたデータはバックアップされている
    (間違って削除してしまったデータも復元してくれるサービスもある。)
  • ネット上のやりとりはすべて「SSL」による暗号化が行われている。
  • サーバーに保管されているデータは「AES-256」により暗号化されている。
  • Dropboxの従業員といえども、利用者のファイルにアクセスすることはできない。
  • ただし、トラブルシューティングの際に、ファイル名、ファイルサイズ、などのファイルのメタデータにはアクセスすることがある。しかしファイルの中身を見る事は従業員でも行えない。

といった感じになってます。

つまり、今後は、

  • 「間違ってファイルを消しちゃった」
  • 「パソコンを落として壊しちゃった」
  • 「家が火事にあった」
  • 「近所一帯が大雨で水没」

といったことで慌てることもなくなるし、泥棒に入られてパソコンが盗まれることはあっても、中のデータまで失って、明日から仕事ができない、なんてこともないわけです。

 

まさに「さび付いたりする」こともなく「盗人が忍び込んで盗み出したり」もできないわけですね。

 

また、上記のセキュリティについての説明を読むと、Dropboxが使っているサーバーは、アマゾンのクラウドサービスである「Simple Storage Service (S3)」であり、それはここに説明があるように、非常に robustなsecurity policyを持っているようであります。

 

つまり今どきは「駆け出し」のベンチャーであっても、技術力さえあれば、大量のサーバーを購入したり、地盤のいいところに頑強な建物を建設したり、物理的な入退館システム等を構築しなくても、利用料を払って、非常に高度な物理的なセキュリティをいくらでも簡単に手に入れることができるわけですね。

 

もう一つ。
昨日気付いた、書籍や雑誌をスキャンしてみていいこととして、

  • 古い本を久しぶりに開いたら、上にホコリがたまってたり、
  • 酸性紙で黄ばんだりボロボロになってたり、
  • ちっちゃいムシがこそこそっと歩いてたり、

といったことが一切なくなるということが挙げられます。

虫が食ったり」もしないわけですね。

私、アレルギー体質ではないんですが、図書館に行ったり、本棚の掃除をしたりすると、なんとなく目や鼻がむずむずするので、これはありがたい。

 

また、私、生まれてこのかた机の上をきれいに整頓できた試しがなかったのですが、苦節48年、会議で使った資料でも送られて来た書籍や雑誌でも、何でもスキャナで電子化するようになって、先週あたりから、ついに机の上が毎日スッキリした環境で仕事ができております。

 

「『クラウド』に富を積む。」・・・まさに私にとって福音であります。

 

以上、ご参考まで。

 

(ではまた。)

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