イコノグラフィー的に見るアップルのロゴマーク

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先日の「なぜ『クラウド』か?」で、「クラウド」というのは普通の日本人にとっては「モヤモヤした得体の知れないところ」など、あまりポジティブなイメージをもたれないんじゃないかと思われるのに、なんでこんな言葉を使うのかしらん?という話をいたしました。

つまり、いただいたコメントを引用させていただくと、キリスト教イコノグラフィー的教養がある欧米の方々にとっては、

文庫クセジュのキリスト教シンボル事典で「雲」を引いてみたところ、「空にあって、明るくも暗くもあり、近づきがたく、漠としてとらえがたい雲は、目には見えずに偏在[ママ]する神の象徴である」とありました。

とおっしゃるとおりであり、「クラウド」の志向するイメージは、「虫が食う事も、さび付く事もなく、また、盗人が忍び込む事も盗み出す事もない」(マタイ6:19-21)、「富を積む場所」として最適のイメージなのではないか、ということです。

「遍在 (ubiquitous)」というのも、まさにクラウドと接続環境が普及した時代のコンピューティングと表裏一体の概念でありますな。

 

そして話は変わりますが、(本日ツイッターで、これこれこれこれなどの あほ話をしておりまして思ったのですが)、

日本で「リンゴと言えば何を連想しますか?」と聞いたら「青森」「長野」「赤い」とかだと思いますが(例えばこちらご参照)、

欧米では恐らくかなりのパーセンテージで、「創世記で、神の言いつけに背いて食べてしまい、エデンの園を追い出された原因になってしまった、あの善悪の知識の木の実」を連想するのではないかと思います。

つまり、「かじられたリンゴの実」というのは、「犯してしまった禁断」または「手に入れてしまった知性」を表すはずですね。

 

そう考えると、この「半分のイチジクの葉」

201006131714.jpg

のロゴと、アップルの「齧られたリンゴ」のロゴは、表裏一体にしか見えなくなってきます :-)。

 

ところが、Wikipediaを見てみてびっくり。

日本語版のロゴの説明では、

Apple が創業されたときのロゴマークは、ニュートンがリンゴの木に寄りかかって本を読んでいるところをモチーフにした絵(ロン・ウェインのデザイン)であった。
しかしこれでは堅苦しいと考えたスティーブ・ジョブズは、レジス・マッケンナ社のアートディレクターロブ・ヤノフに新しいロゴマークのデザインを依頼する。
ヤノフは、シンプルな林檎の図案の右側に一かじりを加えた。「一かじり」を意味する “a bite” とコンピュータの情報単位の “byte” をかけたのだという。

とあり、「ニュートン」とか「byte」とかは出て来るけど、アダムやイヴが一言も出てきません。まったく触れていないのが、かえって怪しくないですか?

 

ちなみに英語版の説明は下記の通り。

Apple’s first logo, designed by Jobs and Wayne, depicts Sir Isaac Newton sitting under an apple tree. Almost immediately, though, this was replaced by Rob Janoff’s “rainbow Apple”, the now-familiar rainbow-colored silhouette of an apple with a bite taken out of it. Janoff presented Jobs with several different monochromatic themes for the “bitten” logo, and Jobs immediately took a liking to it. While Jobs liked the logo, he insisted it be in color to humanize the company.
The Apple logo was designed with a bite so that it would be recognized as an apple rather than a cherry. The colored stripes were conceived to make the logo more accessible, and to represent the fact the monitor could reproduce images in color.

こちらも、「cherryではなくappleに見えるように歯形を付けた」とか、そらぞらしいことが書いてありますが、アダムもイブも出てきません。

 

こういうイコノグラフィー的な教養はアメリカ人にはあまり無いのか、そういうのは宗教美術が少ないプロテスタント系の社会ではあまりイメージされないのか?(でも「Adam’s apple」という言葉は使うんですよね?)、それとも宗教臭さを前面に出さない広報の方針なのか、はたまた、アップルにはゼーレやネルフのように何か裏の使命があって、あえてそれを隠しているのかw。

 

このロゴをデザインしたRob Janoff氏についての情報もネット上にはほとんど何も無いのですが、英語版のWikipediaによると、その他の説として、

It has also been suggested (notably by Sadie Plant in her book Zeroes and Ones) that the idea for the Apple logo may have come from the story of the death of Alan Turing who was found dead after he had taken a bite of an apple laced with cyanide.
Another theory is that the missing bite is a reference to the Fall of Man, representing the acquisition of knowledge.

アラン・チューリング(数学者)が青酸化合物のついた?リンゴを一齧りして死んだ、ということに基づく、という説も紹介されてます。
また、アダムとイブの話も出てきますね。

 

ところが、

These theories are however all discounted by Rob himself, who says the stripes were included in line with design trends at the time, and the bite was included so that people didn’t mistake the apple for a tomato or some other fruit.

と、これらの説はデザイナー自身によってdiscountされたとありまして、「cherry」ではなく「tomatoなど他のフルーツと間違えないように歯形を付けた」とあります。

(Rob Janoff氏のサイトはこちら
音が割れてて聞きにくいですが、ロゴに関するラジオのインタビューのMP3もこちらにあります。)

 

しかし。

やはり、「なぜ歯形を付ければcherryやtomatoと間違えないか」というと、「齧られた果物」といえば「(アダムとイブの)リンゴ」だから、ということが前提にあるからですよね?

つまり、(特に欧米で)アダムとイブの話を聞いた事が無い人がいるとも思えないので、なぜWikipediaに記載されていないかというと「あまりに当たり前だから」説が有力なんではないかと思います。

 

ただし、上記のラジオインタビューでも、アップルの創業者2人は「パンク」だった、とあるとおり、このロゴマークができた当時に、ジョブス氏等が、深い意味合いを持たせた、というのも、あんまり説得力が無いかも知れません。

 

週末のあほ話でございました。

 

(ではまた。)

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