古代インカ帝国の法制度の調査から戻られた47thさんに、トラックバックいただきました。
http://blog.drecom.jp/fallin_attorney/archive/92
こんな「主要目的ルール」では、企業買収をめぐる複雑な利害関係を適切に調整できないので、私を含めて、最近多くの学者・実務家が主張しているのが、米国で主流になっている「ユノカル基準」と同様の判断枠組みです。
というわけで、今回、ライブドアがこの新株予約権の発行の差止請求をするのであれば、まず第一のポイントは、裁判所が従来の「主要目的ルール」をベースにした判断を行うのか、それとは別の基準を使うのかというところです。
いずれにしても、この点についての現在の裁判所の考え方が示されるということは、現在同時進行中の会社法現代化にも影響を与え得るもので、かなり重要な判決となることは間違いありません。
(中略)一般論としては、磯崎さんの分析に付け加えるとすれば、米国的な基準が適用されるとすれば、次のような点についても、裁判所がどのような判断を加えるかが興味深いところです。
・米国におけるユノカル基準が社外取締役や第三者専門家の関与といった手続的公正を重視する方向にあることとの関係で、ユノカル基準を適用するとしても、日本の裁判所がそこをどの程度見るのか?
引用途中ですが、47thさんご指摘の、「社外取締役や第三者専門家の関与」という点は、今後の日本においても非常に重要じゃないかと思いますので、この点についてちょっと考えてみたいと思います。
買収防衛と社外取締役の役割
今回、あまたのブログ上では「フジテレビは株主に損害を与えてけしからん。おれはホリエモンを応援する。」「ライブドアこそTOBの手続きをちゃんと踏んでないから株主に損害を与えたと言えるわけで、オレはホリエモン許せん。」といった話が多いんですが、「ライブドアとフジテレビ、どっちが株主にプラスかという判断をする”行司”を誰がやるか」、という点にあまり誰もコメントされてませんよね。
法廷で決着を付けるというのは、今後の日本ではどんどん取り入れられていかなければならない「オープンな」解決方法だとは思いますが、こと現状を鑑みるに、(こうした流れにお詳しいある弁護士さん曰く)「そういった新しいガバナンスのあり方については、裁判官はほとんどわかってないと考えた方がいいし、また人によって差が激しい。」とのことですので、経営陣と買収者で解決がつかなかったら、いきなり裁判所に持ってくというのは、今の日本では、どちらの側にとっても極めてリスクの高い方法と言えるんじゃないでしょうか。
しかも今後、いくら司法がオープンになっていったとしても、裁判になってはじめて会社のことを聞く裁判官が会社のことを深く理解できるわけがないのは、未来永劫変わるわけないわけで。
やはり、社外(独立)取締役が、日頃から会社の状況に接していて、そうした独立の立場にある人が、社内の経営陣と買収者の両方の言い分を聞き、外部の専門家等にも意見をもらうという「プロセス」が踏まれていて、はじめて、実質的にどちらの言い分が正しいのかということが公正に判断できると思うんですよね。裁判所が、そうした独立性やプロセスに落ち度がなかったかどうか等を中心に見るなら、あまり会社の内情や会社を取り巻く状況に詳しくなくても、適切な判断が行われやすいというもんです。
そうした「行司」である独立した社外取締役等のインフラ抜きで議論している日本の現状は、非常に不毛に感じられます。
(ご参考:「社外取締役の調査結果に愕然・・・」
https://www.tez.com/blog/archives/000180.html)
・・・とここまで書いて思い出しましたが、そういえば、ニッポン放送って、すんばらしい社外取締役の方々がいらっしゃるじゃないですか。昨年の6月付で社外取締役として、みずほ信託銀行社長衛藤博啓氏、弁護士の久保利英明氏、野中ともよ氏が就任されてますね。ということで、おそらく取締役会としてもちゃんと株主の視点から考えられたんでしょう。(よく存じませんが。)
これだけの有識者の方々をboardに入れて、それでも株主の視点からの議論が行われなかったのだとしたら、日本のコーポレートガバナンスはお先真っ暗とも言えます。
レブロン基準
47thさんのコメントの続き:
・ユノカル基準の派生基準として、対象会社取締役は競売人として行動しなければならないというレブロン基準という基準がありますが、米国的に考えるのであれば、本件ではレブロン基準が適用される場合にあたらないか?・・・
について。
レブロン基準については、昨日のエントリーに、日経の前田さんの解説記事を引用されたコメントをいただいてます。
磯崎さん、言うのならユノカル基準でなくて、レブロン基準ではないの?
以下は2月24日付日経金融新聞の解説記事より引用。
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「米国なら、フジテレビジョン側の防衛策は規則違反の可能性が高い」。M&Aビジネスの専門家はこう分析していた。複数の買い手が企業を買収しようとしているときは、価格だけを判断材料にしなければならないという決まり(レブロン基準)があるからだ。
ライブドア側が法廷闘争に動けば、十分に議論の余地がある対抗策にフジテレビ側が出たのは、今回の買収合戦が最初から場外乱闘の色彩を帯びているためでもある。資本の論理よりも、放送局の公共性を前面に押し立てて事態を乗り切ろうとする思惑も見え隠れする。来年からの大買収時代を控え、フジテレビが突いた制度の穴も埋める必要があるだろう。
第一の穴は米デラウェア州裁判所の判例を基にできたレブロン基準の不備。フジテレビがニッポン放送に対して株式公開買い付け(TOB)を掛け、ライブドアが株式を買い集めている状況では、株主はより有利な方に売却する自由がある。ポイズンピル(毒薬条項)が発効すると、敵対的買収が成り立たない。従って、ポイズンピルの効力が停止されるのが米国のルールだ。ところが日本には基準がないため、ニッポン放送は新株予約権の発行を決議した。
第二の穴は、TOBを掛けた側がTOB以外の手段で株式を取得することを禁止するルールの不備だ。現行法では市場内でも外でも既発行の株式を買うことはできない。しかし、新株や新株予約権の取得に関しては規定がないという。フジテレビが新株予約権の取得を取締役会で決議するのはTOB期間終了後とはいえ、ニッポン放送は二十三日の決議でフジテレビへの割り当てを決めており、ルールの不備を突いている。
第三の穴は強圧的買収を制限する規定の不備だ。今回、フジサンケイグループは「ニッポン放送がライブドアの支配下に入れば、一切の取引を停止する」と言ってニッポン放送の取締役や株主に判断を求めている。今月十日にフジテレビが対抗策を講じた際も、上場廃止の可能性をことさらに強調し、株主に判断を迫った。過剰防衛に当たる恐れもある。
一連の対抗策は、「そもそもライブドアの立会外取引を利用した株式買い集め策がルールを逸脱している」という観点に立てば、正当防衛の範囲内との見方もできよう。しかし、ルール違反かどうかは本来、法廷で争うことだ。公共性がある企業を敵対的買収からどう守るかは放送法や電波法など個別の法改正によるべきで、企業買収のルールは公平、透明な運用が求められる。
(編集委員 前田昌孝)
上述のように、「ルール違反かどうかは本来、法廷で争うことだ。」というのは、ちょっと違う気がするんですよね。
レブロン基準について詳しいことは47thさんが詳しい解説をしていただけるのではないかと思いますし:-)、私はよく存じませんが、
どんなときにでも単純に株価だけで見て高い方に売らないといけないということはないと思うんですよね。(単純にどっちが高いかだけで決めるんだったら、社外取締役なんかもいらないわけですし、女子高生でも判断できるわけでして。)
ちなみに、ググって見ると、レブロン基準(Revlon duties)やユノカル基準を含むデラウエア州法の観点から、日本におけるUFJとMTFG、SMFGのバトルについて分析した非常に興味深い論文(英文)があります。
モリソン・フォースター外国法事務弁護士事務所
An Assessment of the UFJ Merger and Integration Protective Provisions Under U.S. Law
Ken Siegel / Jeff Schrepfer
http://www.mofo.jp/news/20050125.html
ご案内のとおり、UFJはSMFGからMTFGからの条件より「より高い条件」を提示されていたにもかかわらず、MTFGのもとに嫁いでしまったわけで、これは、レブロン基準やユノカル基準等から考えて大丈夫なんかいな?ということですが、結論として、この論文では、デラウエア州法的に見てもOKだろう、とおっしゃってます。
(他のご参考:東京三菱のUFJへの出資の「毒薬」度
https://www.tez.com/blog/archives/000205.html)
ただし、この論文の中でも、
However, the scope of the transactions giving rise to Revlon duties is limited. Most relevant here is the case of Paramount Communications, Inc. v. Time, Inc., in which the Delaware Supreme Court narrowed the scope of transactions giving rise to Revlon duties so as to exclude certain public-to-public mergers. Specifically, the court found that, for Revlon purposes, no “change of control” occurred where control, both before and after a transaction, resides not in any one controlling stockholder, but rather in a “fluid aggregation of unaffiliated stockholders representing a voting majority….” In other words, the court found that Revlon duties do not arise in a transaction such as this, where the shares of both the target (here UFJ) and the combined entity resulting from the transaction (here either the combined UFJ/MTFG or UFJ/SMFG entity) are publicly held, and no one stockholder emerges from the transaction with a clear voting majority. Thus, under Delaware law, Revlon duties would not apply to the UFJ board’s review of the competing MTFG and SMFG proposals.
とはおっしゃっているものの、今回のケースが、その「certain public-to-public mergers」他のレブロン基準に該当しない場合なのかどうかは、私にはようわかりまへん。
経済的な観点から
少なくとも、フジテレビ側としては、結果としてライブドア側がそうしたレブロン基準が暗黙に前提とするであろう公正なauctionのプロセスをそもそも踏まずに、「ズル」で株をゲットしたんじゃん、という主張はされるんでしょうね。つまり、
そもそもライブドア側がちゃんと法の趣旨に沿って、フジテレビに対抗してTOBの手続きを踏んでいたら、フジテレビ側もTOB価格をつりあげるなど普通の対抗策を踏めたはずだし踏まざるを得なかった。すなわち、ライブドア側は「コントロール・プレミアム」を支払っていない。
ちゃんとしたプロセスが踏まれていたら、その分、株価もつり上がって株主も得したはず。
また、平均取得単価はより上がり、ライブドア側の負担も今より大きくなったはずだし、ライブドアの取得株式数も今より少なかっただろう。
でも、ライブドアは、今回、そういうプロセスをそもそも踏んで無いじゃん。
そこで、株主に有利にするために、やむを得ずこうした撤回可能で株主の利益を損ねない方法で、とりあえず「待った」をかけてるんです。そもそもレブロン基準が適用される前提が崩れているわけで、そういう法理の適用は無い。
・・・てな理屈をフジテレビさんとしては主張されるのかも知れません。(よく存じませんが。)
(ではまた。)
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