ブルドック買収防衛策で考える、新株予約権の不思議な性質

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ブルドックの買収防衛策は「新株予約権」を使っているわけですが、代わりに「(取得条項付)種類株式」を使ったらどうなるのか、という観点から頭を整理(妄想)してたんですが、経済的実態がほぼ同じでも、株式と新株予約権では会社法や税務上の性質がかなり異なるなあ、ということをあらためてかみしめた次第です。


 
(以下、ざっと考えただけのコメントでありますし、ブルドックソースの株主のみなさん他の税務に関わるアドバイスを目的としたものでもありません。当然のことながら、会社の正式な発表をご覧いただくとともに、具体的な案件は、読者の方の顧問弁護士、税理士等にご相談ください。)
ご案内のとおり、新株予約権は取締役会で発行できる(可能性もある)けど、種類株式はあらかじめ定款に記載していない限り、株主総会で特別決議が必要なので、総会を開いているヒマがない防衛の場合には使いようが無い。ただ、今回のブルドックソースの買収防衛策は、(ていねいに)総会で定款変更するスキームだったので、種類株式でも似たようなスキームは組めたはずだよなあ、と。
ここで考えた今回の新株予約権と同様の挙動をする取得条項付き種類株式というのは、下記のようなイメージです。

1.議決権
本種類株主は、議決権を有しない。
2.配当金
(普通株式と同じ。)
3.残余財産分配権
(普通株式と同順位。)
4. 本種類株式の取得条項
(1)以下の�乃至�に該当する者(以下「非適格者」という。)の有する本種類株式については、当社はこれを取得して、対価として当社普通株式を交付することができないものとする。� (a)スティール・パートナーズ・ジャパン・ストラテジック・ファンド−エス・ピー・ヴィー�・エル・エル・シー、(・・・うんぬん。以下略)
(2)当社は、当社取締役会が別途定める日(但し、行使可能期間の初日より前の日とする。)をもって、本種類株式(但し、非適格者の有する本種類株式を除く。)を取得し、その対価として、本種類株式1株につき当該取得日時点における割当株式数の当社普通株式を交付することができる。
(3)当社は、当社取締役会が別途定める日(但し、平成19年7月5日より前の日とする。)をもって、本種類株式(但し、非適格者の有する本種類株式に限る。)を取得し、その対価として、本種類株式1株につき金396円を交付することができる。
(3)当社は、本種類株式を無償で取得することが適切であると当社取締役会が合理的に認める場合には、当社が別途定める日をもって、全ての本種類株式を無償で取得することができる。
(以下略。)

いわば、「if文(case文)付きの株式」を発行して、一般株主には普通株式を、スティールにはキャッシュを与える、というイメージ。
「一部キャッシュアウト付きの株式4分割」とも言えます。
分配可能額規制が無い!
ところが、この種類株式を使うと、分配可能額規制に引っかかってきます。
というか、逆に、ブルドックの新株予約権の取得は、分配可能額規制の対象となっていないんですね、よく考えると。(会社法170条5項、461条。)
今回の、1円払い込めば普通株式1株が手に入り、原則として普通株式と「交換」される予定である新株予約権というのは、経済的価値としては限りなく普通株式に近い。
しかし、自己株式を取得する場合であれば、分配可能額を確保するために資本金の減少(減資)や準備金の減少といった手続きを踏んだり、債権者保護手続きも必要になる可能性があるのに対して、新株予約権を購入する場合にはこうしたことをする必要が、ない。
ということは、(今回の買収防衛策は、そういった脱法的行為をする意図があるとは思えませんが)、例えば、全株主に新株予約権を割当てて、全員からそれを取得して現金を渡すと、経済的には配当とまったく同じことが、分配可能額規制の制約を受けず、債権者保護手続きなども無視して行える、ということにもなり得ます。
(法律論として、度を越したものだと、また話は変わるでしょうが。)
新株予約権の会計処理
次に、このブルドックの新株予約権の発行と取得、消却を、会計上どう処理すればいいか・・・というのを考えてみたんですが、これがまた悩ましい・・・。
まず、「ストック・オプション等に関する会計基準(企業会計基準第8号)」は、「財貨又はサービスを取得する対価として自社株式オプションを取引の相手方に付与」する場合を取り扱っているので、この基準は使えないことになりますし、

33. 敵対的買収防止策として、一定の者に自社株式オプションが付与される場合があるが、このような自社株式オプションは財貨又はサービスを取得する対価として付与されているわけではなく、第3項の適用範囲には含まれないと考えられる。 このような自社株式オプションの付与は、通常、第37項にいう、「対価関係にある給付の受入れを伴わない取引」に該当すると考えられ、そのように対価性のないことが明確である取引の場合には、当該取引に関して費用を認識しないことになる。

現行の「金融商品に関する会計基準」にも見当たりませんし、4月に出たばかりの、「払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品に関する会計処理(企業会計基準適用指針第17号)」でも、

範 囲
2.本適用指針は、金融商品会計基準が適用される場合において、払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品に適用する。また、本適用指針は、これに関連する新株予約権及び自己新株予約権の会計処理についても取り扱っている。ただし、新株予約権については、現金を対価として受け取り、付与されるものに限る

とあるので、これも適用外、ということになるかと思います。
ただ、他に規定が見当たらないので、この「払込資本・・・」の発行者側の会計処理の規定を無理やりあてはめてみると、

(発行時の会計処理)
4.新株予約権を発行したときは、その発行に伴う払込金額(会社法第238条第1項第3号)を、純資産の部に「新株予約権」として計上する。

とあるので、当然、株主割当時には計上額ゼロ。

(取得時の会計処理)
11.自己新株予約権を取得したときの取得価額は、取得した自己新株予約権の時価(取得した自己新株予約権の時価よりも支払対価の時価の方が、より高い信頼性をもって測定可能な場合には、支払対価の時価)に取得時の付随費用を加算して算定する。
12.新株予約権の発行者が一定の事由が生じたことを条件として当該新株予約権を取得できることとする条項(取得条項)が付された新株予約権について、発行者が当該取得条項に基づき自己新株予約権を取得し、次のすべてを満たす場合には新株予約権が行使された場合の会計処理(第5項参照)に準じて処理するが、それ以外の場合には、第11項のとおり処理する。
(1)取得条項に基づく取得の対価がすべて自社の株式であって、その金額が当該新株予約権の目的である自社の株式の数に基づき算定された時価と行使に際して出資される財産の時価との差額であること
(2)取得条項に基づいて取得した際に消却することが募集事項等に示されており、かつ、当該募集事項等に基づき取得と同時に消却が行われていること
(保有時の会計処理)
13.自己新株予約権は、取得原価による帳簿価額を、純資産の部の新株予約権から原則として直接控除する。なお、間接控除する場合には、純資産の部において新株予約権の直後に、自己新株予約権の科目をもって表示する。

とのことなので、純資産の部にマイナスで表示されるということになるのでしょうし、

(消却時の会計処理)
16.自己新株予約権を消却した場合、消却した自己新株予約権の帳簿価額とこれに対応する新株予約権の帳簿価額との差額を、自己新株予約権消却損(又は自己新株予約権消却益)等の適切な科目をもって当期の損益として処理する。

とあるので、23億円は「自己新株予約権消却損」として、損失計上する以外、考えにくい。
しかし、自己株式だと「その他資本剰余金」等と相殺するのに、自己株式の消却と基本的に同様な行為が、「損失(P/L計上)」というのは、生理的にまったくピンと来ません。
時価で発行した新株予約権が、その後の事情の変化で違う価格で取得された、というのであれば、その差額は「損失」という気がしないでもないですが、タダで発行しといて、それを23億円で買ったから損失です、と言われても・・・。(実態は、株の買い戻しじゃん!)という気がします。(よね?)
やはり、「株主割当の現金での取得条項付新株予約権の取得」なんてことは、会計基準上、想定されているとはいえないんでしょうね。
発行者側の税務
この23億円の「損失」ですが、ブルドックはこれを法人税法上の損金に計上できるでしょうか?
(できるとすると、一般論として、新株予約権を使った「配当」をジャンジャン出せば、いくらでも利益を圧縮できる!)
純資産の部に計上されているから違和感があるけど、新株予約権はもともと債務なので、債務消滅損と考えれば、損金算入されても不思議ではない気もするけど。
逆に、現行の税法上、損金参入してはいけないという理屈が構築できるのかしらん?
みなし配当への課税と源泉徴収
自己株式の取得だったら、みなし配当が発生しますが、自己新株予約権の取得の場合、みなし配当が発生するかというと、定義(所得税法25条等)をみても、自己新株予約権の取得は、みなし配当課税の対象となるとは読めないかと思います。
特に、ブルドックのように、利益剰余金がたんまり溜まっている会社(正確には、時価総額に対する資本金等の額が小さい会社)では、自己株式の取得でやってしまうと、みなし配当がどっさりかかってくる。
なので、スティールに「いやがらせ」をしたいなら、新株予約権じゃなく種類株式でスキームを組んでいれば、みなし配当の分に対する税金が源泉徴収され、キャッシュアウトされたキャッシュでさらに株式を買い増して、さらに買収防衛策が発動されて・・・・というのを何度も繰り返そうとしても、だんだん資金は目減りしていったはず。
(会社としては、適正な「時価」分を払おうとしているから「株主平等原則」的にも問題ない、税金は仕方ないじゃん!・・・という理屈でも、差し止めされなくて済んだかも。)
もちろん、差し止めのリスクを最小化しよう、ということであれば、源泉徴収されないほうが裁判官のウケはよさそうですが・・・。
個人株主の場合、譲渡所得で分離課税になるか?
租税特別措置法第37条の10(株式等に係る譲渡所得等の課税の特例)には、新株予約権の譲渡は分離課税の対象となる、と書いてあり、みなし配当の所得税法25条にも、自己新株予約権の取得はみなし配当、と書いてないということは、個人株主の場合、新株予約権を発行会社に取得されると譲渡所得で分離課税、ということでよろしいんでしょうか?
もちろん、同族会社であきらかに「ソレ目的じゃん」というスキームの場合には行為計算の否認、ということになるでしょうけど、メインは他のことである場合に、新株予約権の取得を「つけあわせ」として添えると、全体として税率が抑えられる場合が出てくるようにも思えます。
(取り急ぎ。)

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3 thoughts on “ブルドック買収防衛策で考える、新株予約権の不思議な性質

  1. 発行者側の税務のところですが、社債の繰上償還損と同様に損金算入でよいと私も考えます。法人税基本通達でいえば2-1-45。
    確かに新株予約権の発行&買取で損金算入しつつ利益分配が出来てしまうわけですが、株主側は配当控除や受配益金不算入が出来なくなるので、基本的にはニュートラルではないでしょうか。
    外国株主にとっては、配当控除等は関係ないので、法人の利益圧縮&源泉所得税回避でいいことづくめのような気もしますが、やはり主たるbusiness purposeが他に欲しいところでしょうね。

  2. コメントどうもありがとうございます。
    いろいろ考えて、上場会社としては「みなし配当」も、損金算入もしない、という方向がいいのでは?という感じを持っています。(以降のエントリご参照。)
    まだ考え中ですが、まずは御礼まで。