ブルドックの買収防衛策の感想 − 「番犬にならないブルドック」

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バタバタしてましたせいで、ブルドックの買収防衛策の中身について、遅ればせながら、今頃やっと目を通した次第であります。
「後出し」型の買収防衛策とはいえ、取締役会だけでなく株主総会での決議までして、「非適格者」であるスティール・パートナーズの新株予約権はプレミアムのついた時価で買い取るという条件なので、これで差し止められたら他の買収防衛策もみなアウト、てな内容ではあるかと思います。が、逆に言うと、買収防衛策の設計としては、「慎重すぎ」というか「気前よすぎ」じゃないでしょうか。


(以下、ざっと見ての感想ですので、事実認識等に間違った点があるかも知れません。その際は、ご教示いただければ幸いです。)
新株予約権の概要
まず、下記のブルドックソース株式会社のリリースにある新株予約権の内容を見て見ます。

スティール・パートナーズ・ジャパン・ストラテジック・ファンド−エス・ピー・ヴィー�・エル・エル・シーによる当社株券等に対する公開買付けへの反対の意見表明並びに新株予約権無償割当て及び関連議案の定時株主総会への付議に関するお知らせ(6月7日)
http://www.bulldog.co.jp/company/pdf/070607_IR1.pdf
(同訂正:6月11日)
http://www.bulldog.co.jp/company/pdf/070611_IR1.pdf

基準日:平成19年7月10日
(権利落ち日:平成19年7月5日)
効力発生日:平成19年7月11日
行使可能期間:平成19年9月1日〜9月30日
「名指し」とジェットストリームアタック
ちょっと目を引くのは、新株予約権を取得できない非適格者を、「当社株式を20%以上取得した者」等の抽象的な表現でなくスティール・パートナーズとその関係者(以下「スティール」と呼ばせていただきます)限定で名指ししているところ。

(1)以下の�乃至�に該当する者(以下「非適格者」という。)は、本新株予約権を行使することができないものとする。
� (a)スティール・パートナーズ・ジャパン・ストラテジック・ファンド−エス・ピー・ヴィー�・エル・エル・シー、(b)スティール・パートナーズ・ジャパン・ストラテジック・ファンド(オフショア)、エル・ピー、(c)スティール・パートナーズ・ジャパン株式会社、(d)スティール・パートナーズ�、(e)スティール・パートナーズ�、(f)スティール・パートナーズ・ジャパン・アセット・マネジメント・エル・ピー、(g)リバティ・スクェア・アセット・マネジメント・エル・ピー、(h)リバティ・スクェア・アセット・マネジメント・エル・エル・シー、(i)エス・ピー・ジェイ・エス・ホールディングス・エル・エル・シー、(j)スティール・パートナーズ・ジャパン・ストラテジック・ファンド−エス・ピー・ヴィー�・エル・エル・シー、(k)スティール・パートナーズ・リミテッド、及び(l)WGL キャピタル・コーポレーション((a)から(l)までを併せて、以下「SPJら」という。)
� SPJらの共同保有者(証取法第27条の23第5項に規定する「共同保有者」をいい、同条第6項に基づき共同保有者とみなされる者を含む。)
� SPJらの特別関係者(証取法第27条の2第7項に規定する「特別関係者」をいう。)
� 上記�乃至�に該当する者から、当社取締役会の承認を得ることなく本新株予約権を譲り受け若しくは承継した者
� 上記�乃至�に該当する者の関連者
(なお、ある者の「関連者」とは、実質的にその者を支配し、その者に支配され若しくはその者と共同の支配下にある者として当社取締役会が認めた者、又は、その者と協調して行動する者として当社取締役会が認めた者をいう。また、「支配」とは、他の会社等の財務及び事業の方針の決定を支配している場合(会社法施行規則第3条第3項に規定される「財務及び事業の方針の決定を支配している場合」をいう。)をいう。)

つまり、(スティールが株主共同の利益に反する者だ、ということを株主総会も含めて判断した、という実績を作ることを優先して)、「ジェットストリームアタック対策」は、あえて考えていない、ということかと思います。このため、スティールが「おぼえとけよ!」と去っていったとしても、その直後に他のまったく別の買収者が現れたら、その人向けの(または、より一般的な)買収防衛策をまた(臨時)株主総会で特別決議しないといけないんじゃないでしょうか。
(ご丁寧に、下記の条項を付け加える定款変更までしちゃっているので。)

(新株予約権無償割当てに関する事項の決定)
第19条 当会社は、当会社の企業価値および株主共同の利益の確保・向上のためになされる、新株予約権者のうち一定の者はその行使または取得に当たり他の新株予約権者とは異なる取扱いを受ける旨の条件を付した新株予約権に係る新株予約権無償割当てに関する事項については、取締役会の決議によるほか、株主総会の決議または株主総会の決議による委任に基づく取締役会の決議により決定する。
� 前条の規定にかかわらず、前項の株主総会の決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、その議決権の3分の2以上をもって行う。

ちなみに、なぜ、わざわざこのような条項を定款に入れたか、というと、下記のとおり、会社法295条2項で、(取締役会設置会社の)株主総会では会社法や定款で定めたこと以外決議できない(と読める)からだと思われます。

(株主総会の権限)
第二百九十五条
 株主総会は、この法律に規定する事項及び株式会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項について決議をすることができる。
2  前項の規定にかかわらず、取締役会設置会社においては、株主総会は、この法律に規定する事項及び定款で定めた事項に限り、決議をすることができる。
(以下略)

「総会としては、法律や定款で定まっていないことを決議する権限はないが、取締役会が総会に意見を聞くこと自体はかまわない」「定款変更しないと買収防衛策の株主総会決議ができないというのは、買収防衛策すべての否定につながる」という見解も某弁護士さんより拝聴しましたが、万が一にも適法性についてツッコまれないように、念には念をいれて、ということではないかと思います。
総会の議案の具体的な文言を存じませんが、今回の新株予約権の発行以外にも、「また別のヤツが現れたら、そいつ向けの新株予約権発行も取締役会にまかせた」という趣旨の委任を取っていない限り、また株主総会を開かないといけないことになるのではないかと思います。
(「取締役会の決議によるほか、株主総会の決議または株主総会の決議による委任に基づく取締役会の決議により決定する。」というのは、「取締役会決議に加えて、株主総会の決議も必要」という意味だと思ったのですが、もしかして、取締役会単独でも決議できる、と読むのでしょうか?
今回は、特別委員会を作る時間もなかったので、その時間稼ぎであって、今後は、買収防衛策の導入および発動の判断は、取締役会や特別委員会が行うということもアリということでしょうか?)
どうせなら、
「取締役会の決議のみによる方法のほか、株主総会の決議または株主総会の決議による委任に基づく取締役会の決議により決定することができる。」
的な言い回しにしておけば、総会に諮るのも適法だし、取締役会単独でも決議ができることが明解で、かつ、フレキシビリティとしてはバッチリだったように思えますが。
新株予約権無償割当てと、行使または取得
この新株予約権、行使価格1円で行使期間の9月中に行使するほかに、

(1)当社は、当社取締役会が別途定める日(但し、行使可能期間の初日より前の日とする。)をもって、本新株予約権(但し、非適格者の有する本新株予約権を除く。)を取得し、その対価として、本新株予約権1個につき当該取得日時点における割当株式数の当社普通株式を交付することができる。

ということで、会社側から株式と交換で強制取得してしまう、ということを原則として考えているようです。(ただし、税務当局に、課税が発生しないか、確認中の模様。)
また、スティールに対しては、

(2)当社は、当社取締役会が別途定める日(但し、行使可能期間の初日より前の日とする。)をもって、本新株予約権(但し、非適格者の有する本新株予約権に限る。)を取得し、その対価として、本新株予約権1個につき金396円を交付することができる。

という条項を使って、現金で強制的に買い取ることを予定しているようですが、新株予約権の要項上は、あくまで「することができる。」と書いてあるので、どうなんでしょう。
次の条項、

(3)当社は、当社が消滅会社となる合併契約書の承認の議案又は当社が完全子会社となる株式交換契約書の承認の議案若しくは株式移転計画の承認の議案が当社株主総会で承認された場合、その他本新株予約権を無償で取得することが適切であると当社取締役会が合理的に認める場合には、当社が別途定める日をもって、全ての新株予約権を無償で取得することができる。

も、「その他本新株予約権を無償で取得することが適切であると当社取締役会が合理的に認める場合」というのに、どういう場合が含まれるのか、私が買収者側なら、ちょっと怖い。
マスコミも裁判所も、1個396円で買い取ることを前提に考えてらっしゃるようですが・・・・まさか、それ以下の条件ということは考えていないんでしょうね。(さすがに。)

新株予約権無償割当てに関する手続きについてのお知らせ
http://www.bulldog.co.jp/company/pdf/070629_IR3.pdf

買収防衛策は「コワく」ないと
前述プレスリリースの新株予約権の説明に、

本公開買付け後に公開買付者らが保有することとなる当社の議決権について、公開買付者らに経済的価値の損害を被らせることなく希釈化させる効果を有するものです。

とあります。
6月29日の日経金融新聞の(ブルドック側)岩倉弁護士のインタビューでも、
「スティールは高値買い取りを要求する者がグリーンメーラーと言うが、明星食品の例を見てもわかるようにさんざん脅して結局、ホワイトナイトに持ち株を買ってもらうやり口は広義のグリーンメーラーだと考える」
とおっしゃる一方で、
「これには相手をみすみす利するといった批判があるのは承知しているが、司法判断をクリアするにはやむをえない」
というご判断とのこと。
新株予約権1個396円×1株あたり3個付与×スティールの持株数1,770千株=約21億円ということになりますが、この396円という単価は、スティールの第一回目提示のTOB価格である1,584円から割り出しているので、つまり、スティールの取得価額より(おそらく)かなり高いことが予想されます。
この買収防衛策を発動することは、スティールの株式数の4分の3をTOB価格で買い取るのと同じ効果がありますから、ずばり「グリーンメーラー(だとして)」の要求にこたえたのとほぼ同じ結果になるとも言えますし、スティールはそれだけで投資額をほぼ回収するかも知れず、残った4分の1の株式を市場で売却すれば、その分は丸儲け、ということにもなります。
市場で売却した場合のマーケットインパクトを考えれば、買収防衛策を回避するより、買収防衛策を発動してもらって当初TOB価格で買い取ってもらうほうが、回収額は大きくなると考えても不思議ではない。
つまり、スティールはTOB止めないのでは?
当然、価格は引き下げることになります。

(3)【買付け等の価格の引下げの条件の有無、その内容及び引下げの開示の方法】
 法第27条の6第1項第1号の規定により、公開買付期間中に対象者が令第13条第1項に定める行為を行った場合には、府令第19条第1項の規定に定める基準に従い、買付け等の価格の引下げを行うことがあります。(スティールの公開買付届出書より。 以下略)

注:「令第13条第1項に定める行為」というのは、株式分割と株式・新株予約権の割当てのこと。

第十三条  法第二十七条の六第一項第一号 に規定する政令で定める行為は、次に掲げるものとする。
一  株式又は投資口の分割
二  株主に対する株式又は新株予約権の割当て(新たに払込みをさせないで行うものに限る。)

また、怖いのは、これでスティールの持分が薄まっても、「ジェットストリームアタック」で、次に別のヤツが現れる可能性もある、ということ。(だって、損しないんだから。)
(追記:というか、スティール本人が買い増す場合にこの買収防衛策でなにか不都合が生じるのでしょうか?)
「2回目に来たやつは、1回目で会社がいやがっているのがわかっているんだから、もっと過激な買収防衛策にしてもOK」という司法判断が出るならともかく、やはり「後出し」で買収防衛策を導入する限り、「司法判断をクリアするにはやむをえない」という判断をするとなると、今回と同じような条件になってしまうのでは?
であれば、株を買いあがってプレミアムをたんまりつけてTOBをかければ、取得価額を上回るキャッシュが確実に手に入る、ということにも。
買収防衛策は、「それ以上、株買うたら、おまえの持分薄めたるど!買えるもんなら買うてみい!」という「男らしい条件」だから買収者はビビるのであって、「お金を多めにお支払いしますので、どうぞ出て行ってくださいな。」という、品のいいご婦人風の条件では、あとからあとから買収者がきちゃうんじゃないでしょうか。
(経営陣だけでなく、株主も八〇%超が賛同した、とのことなので、みなさん「いい人」ばっかりですね。)
損失を与えることを認めないのは買収防衛策の否定ではないか?
「男らしい条件」の買収防衛策は、「事前」じゃないと入れられない、ということなんでしょうか。
大量保有報告書によると、スティールは2002年から株式の保有を明らかにしていますが、いつからだったら「事前」だったんでしょうか?
なんで、経営陣は、TOBがかかるまで買収防衛策を導入しなかったんでしょうか?
このブルドックソースという会社、下記の図のように、確かに自己資本比率は高め(75.7%)だし、有利子負債もほとんどない一方で、キャッシュが山ほどあるわけでもない(約19億円)ので、この新株予約権を買い取る金21億円がポンと出るわけでもありません。
bull_BS.JPG
このため、これは銀行から借入をするか、投資有価証券などを売却するしかない。
(結果的には、外資系ファンドが望む形に近づくとも言えますが。)
というより、(PBR>1のもとで)このような自己新株予約権の取得を繰り返すと、どんどん自己資本が減っちゃうので、これが永久に続けられるスキームでないのは当然であります。
つまり、ちょっとでもファンドに株をもたれたら、あとは「損失を与えない」買収防衛策しか入れられないというのでは、あまりに不合理。もうちょっと「男らしい条件」で勝負してもよかったんじゃないか、と野次馬的には思う次第であります(が、当事者としてはなかなかそうもいかないんでしょうね)。
一方で、「買収防衛策には総会決議が必要」とか「総会決議をするためには総会決議ができる旨の定款変更が必須」とか「損失を与える買収防衛策はダメ」「『株主平等原則』を守れ」といった理解が広まると、上述のとおり、結局、買収防衛策自体を完全否定することにもなってしまうと思われ、非常に恐ろしいところであります。
自己資本が厚かったり、キャッシュや遊休資産がたんまりあったりする会社ばかりが買収をかけられるのであればいいですが、誰の目にもすごい技術はあるが、キャッシュも自己資本もないような会社は、今回のブルドックのような気前のいい防衛策を導入できませんので。
(ではまた。)

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3 thoughts on “ブルドックの買収防衛策の感想 − 「番犬にならないブルドック」

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