人材の流動性確保と規制(警備業法の場合)

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1月に書いた、「派遣業法違反(昨日の「世知辛い系」ニュース)」に、「警備会社経営者」さんからコメントいただきましたが、なかなか生々しいお話なので、ちょっとご紹介。
 

私は、警備会社の経営者で全国警備業協会の交通誘導警備、雑踏警備の講師をしています。とくに、過去に警察にいたとか暴力団にいたとかはありません。また、身内にそのような方がいるわけでもありません。そのような立場から警備員の派遣禁止についてですが、これは、警察庁が特殊な業務ということから法務省や各種経済団体に派遣業務としては妥当ではないとの判断ということで禁止業務の一つとして選ばれました。

これは、上述の私のエントリでも書きましたとおり、「人の命を預かる」仕事だから確かに規制の必要性もあるのも納得できる一方で、単なる「スーパーの駐車場の車の誘導」も「テロが予測される場合の護衛」も一律に法で規制するのは、(経済的な)効率性の観点からは疑問もあるところで、バランスが難しいところかと思います。

このことから、警備会社が警備業務を受注し、警備員が不足したときに他社の警備会社に警備員の派遣をお願いすることも、派遣業務と見なされます。

とのこと。
例えば基本的な車の誘導方法も知らないような人がへんな誘導をして交通事故を引き起こしてしまったり死者が出たりするのは問題ですが、もし問題が「警備に関する教育を受けているかどうか」だとすると、おっしゃるように、警備業者間で派遣されるのまで規制するのは、ちょっと意味がわかりかねるところであります。

また、警備会社の実情は、同業者同士で警備員の派遣をお互いに行っていることが珍しくなく、業務をこなしていくためには、そのような形をとらないとできません。

警備業というのは労働集約的な産業でしょうから、事業に関わる人をすべて正社員で固定費として抱えてしまうのは避けたいのはやまやまでしょうし、仕事にも波があるでしょうから、そうした稼動の低い企業や高い企業が、市場でお互いに人材を融通し合えないと社会全体の効率性は下がる可能性は高いんでしょうね。
ただ、そうした「経済合理的な工夫」は上記のように現状のところ法律違反とみなされているようですが、

このような形をとった警備会社に警察は、労働者派遣法違反として一部の警備会社を摘発しています。摘発された警備会社は、主に警察OBや暴力団と無関係の会社が摘発対象となっています。今の警備業法で行政処分の適用を免れない警備会社はほとんどないと思います。言ってみれば、警備業界は警察のいいなりにしかなれないように、法律により整備されています。

・・・というのがもし本当だとすると、(「警察は自らの権力や天下り先の確保のために意図的に法がゆがめられて運用されるようにしている」とまで言えるかどうかは私にはわかりませんが)、少なくとも、規制によって経済効率性が損なわれている可能性は高い気がします。

その他、参考として暴力団の警備会社を取り締まれないのは、警備業は、生活安全関係の部署が管理をしていているため、暴力団については暴力団対策の部署しか暴力団を摘発できない縦割りの影響です。

というのも、「さもありなん」という話ですし、

経済団体及び業界は、派遣を望んでいます。ぜひ、マスコミ等も取り上げていただきたい事案です。このままでは、大量退職する警察官を警備会社は天下り先として採用しないと、警察にそのような警備会社は、行政処分として圧力をかけられるかもしれません。

というのも、そうなんだろうなあという感じです。
−−−
その一方で、(若干冷たいことを申し上げれば)、マスコミは、「経済効率性を重視した結果、死者が出た」といった話は非常に記事にしやすいし放っておいてもボコボコに叩いてくれるわけですけど、「死者を出さないように規制をキツくしすぎた結果、社会全体の経済効率性が落ちている」といった(抽象的な)話は、(たとえそれが社会全体で何十億円分の不効率であろうが)、非常に取り上げにくいと思います。
また、警備業界の方にとって最も都合がいいのは、一定の研修を受けた人であれば「警備業法の認定を受けた業者間では人材を派遣しあえる」けど、一定の研修を受けた人であっても「一般の派遣業者が警備員を派遣することは禁止」とすることであるはず。
ただし、規制の趣旨が前述の理解でいいとすると、一般の派遣業者にも警備の研修を受けた人を派遣することを認めるべきでしょうし、そこまで認めてしまうと競争は激化するので、既存の警備業界全体の収益性は悪化する可能性も大きいかと思います。
もちろん、社会全体としてはそのほうがよくなるはずですが、ほとんどの企業はさほど警備員さんの人数がいるわけではないので、1社1社では警備のコストが多少改善されるかどうかは優先順位が低い話のはず。
ということで、(例えばもっと寡占度が高い薬品業界などに厚生労働省の役人が天下る、といったケースだと、「薬の認可」など利権の構造がシロウトにも非常にわかりやすいし目立つのに対して)、
警備業界のようにfragmented(小規模業者多数乱立型)な産業の場合、1つ1つの非効率性は小さくて全体を積み上げないと効率の悪さが浮かび上がってこないので、マスコミや産業界等の批判を浴びにい(悪く考えれば、残念ながら、お役所の「利権」を確保するには絶好の産業構造)、と言えるかも知れませんね。
「人材バンク法案」のパロディで、警備員の派遣を独占的にマッチングさせるネットのサービスを行う公益法人をつくって、そこを警察関係者の天下り先にするかわりに、警備業者間(のみ)で警備員をやりとりできる、ということにすれば八方丸く収まるかも。
(・・・そういう独占的サービスがうまく機能したためしはないので、もちろん冗談ですが・・・。)
コメントありがとうございました。
(ではまた。)

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1 thoughts on “人材の流動性確保と規制(警備業法の場合)

  1. いつも拝見しております。
    私は薬品業界の末席におりますが、企業数などや企業規模を見ると警備業と比べて、それほど寡占度が高い業界には思えないのですが、実際他業種と比べてどんなものなのでしょうか?