買収防衛策と証券取引所間の競争

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(取り上げさせていただくのが、かなり遅くなりましたが、)12月5日号(No.1751)の商事法務に、「買収防衛策の導入に係る上場制度の整備等に関する要項試案の公表」(下村昌作/東京証券取引所上場部企画担当課長)という論文が載っています。
11月22日に東証さんのホームページに公表された、「買収防衛策の導入に係る上場制度の整備等について(要綱試案)」についてのご紹介、になります。
この論文での「買収防衛策」の定義として、

なお、上場会社自らが実施する買収防衛策に加え、その主要な子会社が上場会社に対する買収の実現を困難にするような方策をとる場合についても、「買収防衛策」として扱うことがあるものとしている。これは、たとえば、純粋持株会社の事業の多くの部分を占める子会社が親会社である上場会社の買収の実現を実質的に困難にするために拒否権付株式を友好的な第三者に発行するような場合が想定されるからである。

てなこともおっしゃってますが:-)、それはさておき。
ほとんどの部分はごもっともなことばかりなのですが、ちょっと興味深かったのは、P28「3 上場審査上の取扱い」という部分。

なお、新規上場会社の取扱いについては、たとえば、米国のニューヨーク証券取引所(NYSE)で一部既上場会社よりもゆるやかな対応(たとえば、いわゆる複数議決権株式の発行を既上場会社については認めていないが、新規上場時点で既に発行されていた場合には上場を認める可能性が示されていることなど)をとっていることから、わが国においても。ベンチャー企業の特性などを踏まえ同様の対応をとってはどうかという意見があり、その点については、要項試案に対して寄せられた意見などをもとに検討することとしている。
しかしながら、当初厳格な一株一議決権原則を採用していたNYSEが原稿の取扱いのように基準を緩和した背景には、NASDAQなどの他市場との上場会社獲得競争という経緯があることには留意が必要であると考えている。

これを、「日本ではJASDAQに比べて東証の方が圧倒的に強いから、アメリカの状況とか、あんま気にしなくていいんじゃないの?」というように読むというのはイジワルな読み方かも知れませんが。確かに、既上場企業が後から導入するのは認められないようなスキームが、新規上場企業には認められるというのは、今ひとつ理論的にすっきりしない面があるというのもわかります。
この本質は、「多様なガバナンス」を認めるのかどうか、と、その効果いうことじゃないでしょうか。
つまり、未上場企業はもちろん適法であればどんな資本スキームでも採りうる(そもそも譲渡制限が付いていることが多い)一方で、既存の上場企業には複数議決権等は今後も禁止される方向、ということですが、
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既公開企業が「資本の論理」だけで動かないしくみに改めることは社会全体の厚生度を下げることになるのだと思いますが、一方で、世の中には公開企業より未公開企業の方が多いわけで、そういう「多様なガバナンス」を導入しないと公開を選択しない未公開企業を、その権利の一部だけでも公開させることは、社会全体としてプラスなんじゃないかと思います。
つまり、新規上場にも複数議決権等のスキームを認めないとすれば、下図くらいの新規上場しか認められないところが、
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複数議決権を認めてくれなければ上場しないという会社が上場できるようになることで、上場企業のバリエーションは増えることになるわけです。
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一方、ハードルを下げることで、本来、複数議決権等のスキームを採用しないでも公開した会社まで、ややこしいスキームを付けて公開するようになると、かえってマイナスかも知れません。
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「どうしても必要な企業だけ」そういうスキームを採用して公開してもいい、というような、うまいスクリーニングのしくみが存在すればいいわけですが、どうでしょうか?
幹事証券としても、プレーンな株式の方が売りやすいはずですから、少なくとも今の需給関係の下では、「よほどの企業」でないと、そうしたややこしいスキームを付けての上場というのは敬遠されるはず。つまり、ルールではなく経済原理でそういう選別はできないものでしょうか。
「マザース立ち上げ時期のドタバタ」を思い返して見ると、上場会社にも対「アタリ・ショック」的配慮は必要な気はします。そうした「クソゲー」登場防止の役割を担うのは、証券取引所がいいのか、それとも証券会社や投資しているVC等のブランドでどうにかなるのか・・・。
取引所というのは、eBayやヤフオクなどのオークションと同じように、「ネットワーク外部性による自然独占(寡占)」が働きやすい業態。放っておけば自然に「一人勝ち」の取引所が現れる気がします。
(パソコンのOS会社でOSとブラウザを分離するとかしないとかいう話にも共通する気がしますが)、そうした弊害に配慮して、自主規制機能を分離するとかしないとか、クリアリング機関を作るとか、PTS(証券取引法第2条第8項第7号)や最良執行義務(証券取引法第43条の2)等で、取引所間の競争を(ちょっとでも)促そう、ということかと。
少なくとも言えるのは、取引所が一カ所しかなかったら、「ややこしいのはダメ。以上。」で終わってしまう可能性は高そう、ということじゃないかと思います。
(ではまた。)

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5 thoughts on “買収防衛策と証券取引所間の競争

  1. はじめまして。磯崎さん。
    私は、早稲田大学3年生の夏川潤香(21歳)です。
    最近、株式投資を始めました。
    単刀直入に言います!
    最近の株式投資ブームは、日本社会を二つの階層に分ける結果になっていると思います。つまり、お金を貯金することしかできない層とお金を増やせる層です。
    株に精通していれば、増やす層になれると思います。
    金で愛は買えないけれど、金で愛は滅びるという言葉を聞いたことがあります。私は、勝ち組になりたいです。
    現在、私は、社会の問題点をわかりやすく綴ったブログ活動を目指しています。
    その最初の話題は『靖国問題』に決めました。
    いずれ、起業や創業、株式市場、を取り上げていく予定です。
    私は、ブログで日本を洗濯していきます。
    そして、ブログで日本を変えていきたいのです。
    来年、ゼミの皆と、一時的に起業します。そして、経済界に一風を巻き起こせたらいいなと思っています。
    ここまでお読み頂きありがとうございました。
    ※闘う早大生:夏川潤香の『日本を洗濯します!』
                   
         http://yaplog.jp/uruka_natukawa/

  2. 昨今のTSEのドタバタを見ていると市場間競争は大いにやって欲しいと思います。
    しかしながら
    「オーサカが上場しているんだからトーキョーも上場して良いじゃん」
    というのは少し違いますよね(^^;
    話がズレました(−−;
    どうもTSEが買収防衛策の議論を出す際には
    「買収防衛策は一般投資家にとって必ずしも望ましいものではない」
    というスタンスを取っている様に見えるのは穿った見方をし過ぎでしょうか。
    上場会社のバリエーションを増やした方が仕組みは複雑になるにせよ、
    最終的に一般投資家の利益に貢献すると思うのですが。
    ただ当然、磯崎さんご指摘の「クソゲー」対策は必要だと思います。
    そうなると何処でバランス取るべきか難しいですね(_ _;
    会計士試験は今年受かりました。
    お陰様で「最後の会計士補」です。
    isologueを読み始めたのはまだ勉強中の身だった頃でした。
    それ以降に吸収させて頂いた事は非常に大きいです。
    改めて御礼申し上げます。
    m(_ _)m

  3. Competition among Securities Exchanges † Redux

    1. Introduction
    次なるテーマに行く前に、少し前に書いた証券取引所規則の正当性?および証券取引所がガバナンスを決める時代?という2つのエントリについて再度考えてみようと思います。そもそもの出発点は証券取引所規則に民主的正当性なるものが必要なのだろうかぎ..

  4. はじめまして。比重株の導入と手続きについて御教授頂けまでしょうか。
    特定の株主に500株を増資し、その株式に20倍の議決権を付与しようとする場合
    �増資価格はいくらにするべきでしょうか
    �臨時株主総会で決議すれば実行可能でしょうか
    �500株増資した場合の議決権総数はどれほどになりますか
    �導入する場合の具体手順をご教授ください
    以上の点をよろしくお願いいたします。

  5. コメント欄で一般論的にお答えできるタイプの話ではないと思いますので、ご容赦ください。
    また機会がありましたら、本文で検討させていただければと思います。
    よろしくお願いいたします。