会計士がダークサイドに墜ちるのを防ぐには?

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ちょうど昨日、クリステンセンファンのうちの奥さんの要望で、「ニュースの天才」(原題:Shattered Glass)
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を、ビデオで見ました。
スターウォーズ エピソードII、IIIでアナキンを演じたヘイデン・クリステンセン演じる若手人気記者が、大統領専用機Air Force Oneにも置かれている権威ある雑誌「The New Republic」で、ねつ造記事を書いてしまうお話。(クリステンセンくんは、ここでもやはり、「ダークサイド」に墜ちていく役なわけです。)
これ、マスコミの話ではありますが、昨日書いた監査法人のお話と似てます。つまり、やはり「信用」が重要なビジネスであり、チェック機能も存在したのに、それが機能しなかった・・・。違いは、同じ米国でありながら、アーサーアンダーセンは崩壊したのに、この出版社は残った、ということでしょうか。
なぜそうした違いが生じたのか、というのは興味深いのですが、なぜでしょうね?やはり、一般人から見えるアウトプットが監査報告書1枚(または純粋な意味での「信用」)だけでなく、いろんな有用な情報を提供している、より「アモルファス」な構造だから、というあたりが理由でしょうか?
ダークサイドに墜ちることは防げるのか?
zooeyさんからコメントいただきました。

フツーの商売をしている者として、昔から不思議でした。監査法人はクライアントからお金をもらっていて、クライアントの不利益になるような監査報告書が書けるものだろうか、と。
当該会社の株主がお金を出し合って、より厳しくチェックしてくれる監査法人に委託するようなシステムはできないものでしょうか。

この部分については誤解を受けやすいので補足させていただきますが、昨日、「報酬とペイオフ曲線」の項で書きましたとおり、日本の現状は、「もらえるお金はちょっとで、損失は底なし沼」だと考えられるので、むしろ、わずかなお金のために大きな危険を冒してクライアントの粉飾を手伝う気持ちが沸くほうが不思議ですし、もちろん、ほとんどすべての会計士さんたちは、そんなことは夢にも考えないはずです。
私が昨日のエントリで申し上げたかった主旨は、「ほとんどの会計士はそういう悪いことを考えないはずなのに、一人罪を犯す人が現れるだけで監査法人全体が崩壊する構造というのは、いったいどういうことなのか?」ということです。
世界で何万人の会計士がいる法人であれば、必ず、「ダークサイド」に墜ちるやつは出てくるわけで、こうした不正が起きることは、確率を低くすることはできてもゼロにすることはできないはず。
「悪いやつは必ず出てくるもの」で、かつ「そうした悪いやつが一人出てくるだけで組織全体が崩壊する」とすれば、大手の監査法人というのは、いつか必然的に崩壊する存在である、ということになっちゃいますし、そうした「インフラ」に依存する社会というのも、極めて危険ですね。(米国の法人で1社について不正があるわけで、日本の[法律上はまったく別の]法人まで崩壊しちゃうわけですから。)
もっと、刺激的な言葉で言えば、「ロシアンルーレット」をやってるようなもんで、これを続けていけばいつか必ず死ぬ、ということになっちゃいます。
企業側としてできること
粉飾事件が発生すると、必ず「会計士、何やってたんだ!」という話になるわけですが、財務諸表の適正性を保つ一義的責任は、もちろん監査される企業自身の方にあるわけです。
では、企業側としては何ができるのか。
まず、かなりの公開企業では、実質的に監査法人を決定しているのは経理部門だったりするんじゃないでしょうか。まさに、監査されるその人自身が監査法人を決めてるわけで。社長なんかも、「わしゃ会計のことはよくわからんから、おまえらでテキトーに決めといてくれ」みたいな。(統制リスクに対する代表者の責任は、最近、非常に重くなってるんですけど・・・・ご存じない方も多いんでしょうね。)
まずは、ここから是正していかないとあかんのではないでしょうか。
zooeyさんご提案の、株主が直接監査法人にお金を支払う仕組みというのは難しいと思いますが、株主の利害を代表する立場として、「社外取締役」や「社外監査役」というもんも存在するわけです。商法上、監査役会や監査委員会には会計監査人を選任する強い権限があるわけですから、経理部門などが実質的に監査法人を決めてそれを追認するだけじゃなくて、社外役員中心の監査役会や監査委員会が実質的に主導して監査法人(やその予算)を決める体制とすれば、監査法人も「会計の現場」や「社長」ではなく、もっと監査役会や監査委員会、ひいては株主の方を向いて仕事をしてくれるんじゃないでしょうか。
もちろん、社外取締役や社外監査役自体が、あまり企業からの独立性が無い人だったらアウトなわけですが、どういう社外役員を選んでいるかは、監査法人のパートナーがどういう人か、ということよりは、もうちょっと株主にもわかりやすい(わかりやすくできる)はず。
投資家のみなさまにも、そのへんをぜひ御注目いただきたいところです。
(ではまた。)

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8 thoughts on “会計士がダークサイドに墜ちるのを防ぐには?

  1. 粉飾決算 雑感

    カネボウ、過去5年間で2000億円を超える粉飾決算!!
    「産業再生機構の支援下で再建中のカネボウの中嶋章義会長らは13日、記者会見し、決算の粉飾が1990年代から行われていたことを認めた。内部調査により2000年3月期から04年3月期までの5年分の決算を訂正。旧経営陣によ…

  2. カントの言葉に
    「汝自身の知力を使用する勇気をもて」
    というのがあります。
    May the Force (勇気) be with you!

  3. 中央青山監査法人の事件について思う話

    私は経理部門ではないのですが、有価証券報告書の一部を担当していますので、会計士さんの監査の指摘を受けることがあります。 また、プロフィールに新商品のプレ営業なんて書いてますけど、昨今はただ既存商品に「化粧」しても売れないものですから、 足りない頭を金融機…

  4. 本物のStephen Glassの写真を奥様がご覧になられたら、さぞがっかりされるかと。
    いや、うちのかみさんの関心もHayden Christensenのみにあって
    本物のStephen Glassがどのような容姿であろうと関係はなかったな。。。
    やっぱ日々業務を行う中で担当会社の人に嫌われるのは人の情として嫌だろうし、
    事務所の大先生は営業にバイアスが掛かっているし、実際に現場で動く先生方も
    細かいことについては「まっ、いいか」ってことになり易いんじゃないだろうか。
    定期的に事務所の変更を行う事で緊張感のある関係にしたほうが良いように思ったりする。

  5. なんとなく逮捕されたら反論できなさそうな感じなんですが
    公認会計士に罪をまとめて押し付けそうなのは違和感があるかなと。
    とりあえず、公判の行方に注目かと。

  6. 会計監査とコンサルティングの分離

    木村剛さんがご自身のブログのコラムで、カネボウ旧経営陣による粉飾決算事件に関する

  7. 銀行関係者が自嘲的にぼやくフレーズに「人生はショートガンマ(オプションの売り)だ」というものがあります。いくら頑張っても報酬にさほど反映されない一方、一回でも失敗すると罰点が付き、組織内で浮上できないところなどオプション売り型に似ているわけでして。会計士業界は近年、ショートガンマ度合いが強まっている(プレミアムの低下)ように見受けられ、ご指摘にように環境がロングガンマにならない限り、ダークサイド転落リスクは最小化しにくいだろうと率直なところ思います。