特例業務が「登録」制になると、不動産業界にも大きな影響が出るのではないか、というお話

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金融審議会の「投資運用等に関するワーキング・グループ」の第1回では、「特例業務の『届出』制をやめてすべて金融取引業者として『登録』させたらどうか」という意見が出ましたが、昨日某パーティで、不動産ファンドに詳しい専門家と話をしていたところ、「登録」ということになると、特例業務の中で数でも金額でも大半を占める不動産ファンドにも多大な影響が出そうだ、とのことで「なるほど」と思ったので、メモです。
(私も以前は大手の不動産ファンドのSPCの運営に関わっておりましたが、ここ数年は離れておりますので、もし理解が足りてない部分がありましたら、ご指摘いただければ幸いです。)

  • 不動産ファンド業界は、大規模な投資家からの投資や大手銀行などからのdebt(借入)での調達が中心で、個人投資家から投資を受ける必要性は低く、業界として前回のパブコメにこれといった意見は出さなかったと思うが、今回いきなり「登録」といった方向に話が進んでいるのでビックリしている。
  • 現在の特例業務の届出をする主体は、ベンチャーファンドなどの「組合」と、不動産ファンドなどでよく用いられる「匿名組合」では異なる。「組合」(=投資事業有限責任組合(LPS)など)の場合は、ファンドである組合自体は「契約」であって法人格がなく、権利義務の主体とならないので、組合を運営する運営者(GP)が届出を出しているが、不動産ファンドは商法上の匿名組合契約を使って組成されていることが多いので、匿名組合を運営する法人(=営業者≒ファンド)自体が届出の主体となっている。
  • この法人(営業者)は通常、取締役が1人しかいないSPC(=特別目的会社(special purpose company))であり、この取締役もファンドの実質的な運営会社の従業員等ではなく、運営会社から独立した会計士等の専門家が行うことが多い。なぜかというと、ファンド運営においては物件ごとに倒産隔離(bankruptcy remote)」を行う必要があるからだ。
  • ファンドは案件(不動産の物件やその集合)によっていろいろ別のレンダー(金融機関)や出資者から投融資を受けているので、一つの案件(物件)がうまくいかなかった場合に、他のファンドのレンダーや出資者にまで影響が及ぶと困る。
  • つまり、例えば新宿区のオフィスビルAという物件のファンドにローンやエクイティを出そうという金融機関等は、その物件だけに投資するつもりで採算分析や土壌汚染、アスベスト使用等のDD(デューディリジェンス)などを行うのであって、別のファンドの大阪市の商業ビルBのプロジェクトがうまくいくかどうかの影響は考えない(考えないで済むように工夫されている)。ローンを証券化する場合の格付も、当然、その関連する物件だけのリスクを考えて、他の物件の投資の成否からの影響が及ばないという前提のもとで検討が行われる。
  • しかしこれが、この営業者自体が「登録」をしなければならない制度に変更になるとすると、当然、この営業者(法人)自体でのコンプラ態勢等が審査されることになるはず。つまり、ファンドの実質的な運営者はコンプラ等の体制がきちんと整っていたとしても、このSPC自体にもコンプラ等を担当する従業員等を置かなければならないことになるだろう(つまりSPCというより「普通の会社」になっちゃう)。
  • この従業員が兼務できないとコスト面で採算に合わなくなるし、他の物件(ファンド)や運営会社と兼務ということになると、倒産隔離が図られなくなる。使用者に対する責任といったことがファンドごとにごっちゃになってくるからだ。
  • (物件に投資するSPCを設立するたびに、実質2ヶ月では終わらない「登録」をしないといけないとすると、そもそも不動産ファンドの業務自体がスピード的にも回らないかも知れませんし、財務局の方の審査体制もかなり人員を増やす必要があるかも知れませんね。)

この審議会のワーキンググループがはじまるときに、「私はベンチャーキャピタル業界の現状については、そこそこ知識はあると思うが、他の業界が特例業務をどう使っているかは知らないので、ベンチャーキャピタル業界からだけの委員だけでいいのかなあ?」と思ったのですが、やっぱりこのWGでの議論は、ベンチャーキャピタル以外の業界にも影響しそうです。

金融取引業者として「登録」しなければならなくなるとすると、ファンド規模の比較的小さいベンチャーキャピタル業にとっても一大事なのですが、不動産業界のみなさんも、この審議会の行方には注目されたほうがいいかもですね。

(ご参考まで。)

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