週刊isologue(第225号)ベンチャー経営者の持分を増やす方法

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今週は、ベンチャー経営者の持分を増やす方法について、です。

昨今は、エンジェルやインキュベーター、シード・アクセラレーター(以下「エンジェル等」)の方々も増えて、設立直後の企業にも数百万円から1千万円程度までの資金が付くようになってきました。それは大変すばらしいことなのですが、一方で、そうした投資のかなりの部分が、非常に低いvaluation(株価)で行われるため、資本政策が上場に向かない(M&Aでexitするしかない)ことになってしまっているケースがたくさんあります。

これはそうしたエンジェル等の方々が強欲で悪辣だからそうなっているというわけではなくて、ある意味、シンプルに普通株式だけで投資すると、必然的にそうなる宿命なのです。つまり、まだサービスやプロダクトもできていないシード期のベンチャーはものすごくリスクが高いわけですから、そのリスクに見合った投資を単純に普通株式で行うと、持株比率を高めるしかなくなるわけです。

別の視点からは、こうも言えます。
一般のビジネスや上場株などへの投資は、「安く買えば買うほど必ず儲けは大きくなる」のが当然です。ところが、シードやアーリー期の投資は「高く買った方が得」になることが往々にしてあるんですね。自分の持株比率を落として大量の資金を供給すると、一見損なようですが、さらなる資金調達余力が生まれ、成長スピードが高まる可能性があるので、仮に、持株比率が2分の1になったとしても、企業価値や株価が10倍になれば、逆に5倍も儲かるのです。ここがなかなか理解されないということもあるかと思います。

普通株式の代わりに優先株(種類株式)を使えば問題がすべて解決するかというと、そうでもありません。種類株式は理解するのがそこそこ大変で、当事者間で調整を行うのに、それなりの力量も必要ですし、リーガル・フィーもそれなりにかかります。また、発行後の運営(種類株主総会等)の負担や、万が一そうした決議を間違った場合に、将来、上場にストップがかかるといったリスクも大きい。優先株はシードやアーリーステージで1億円以上の投資をする際には必須と言えますが、逆に、数百万円から3千万円まで程度のファイナンスで種類株式を使うのは、投資家にとってもベンチャーにとっても負担が重過ぎる場合がほとんどです。

このため、あまりコストや負担をかけず、株主間契約だけでシンプルに経営者や投資家間の権利の調整ができることを考えたのが「日本版convertible equity」でした。(しかし、なにせ私もまだ1件しか投資で使ったことが無いくらいなので、実際、まだ全く普及していないわけです。)

今まで、このようにエンジェル等によって3割から5割弱の持分を持たれてしまったベンチャーは、ベンチャーキャピタルに投資を申し込んでも、「この資本政策じゃIPOできないなあ」と、そっぽを向かれてしまったケースも多かったと思います。既存のエンジェル等に嫌われてまで比率を引き下げて投資をしても、投資した後の株主間の人間関係にも影響を与えかねませんし、何より交渉も面倒です。ベンチャーキャピタルもビジネスなので、そうした手間やコストやリスクを払って投資するのは、よほどの案件に限られます。

将来IPOして大きく羽ばたけるかもしれなかったベンチャーが、資金調達ができず潰れてしまったり、少額のM&A等で買収されて終わってしまっていたのだとしたら、非常にもったいないことだと思います。

そういうわけで今回は、IPOモデルから乖離してしまっている資本政策を、「乙種普通株式」という株式を使って是正する方法を考えてみました。

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目次とキーワード

  • 乙種普通株式の要項
    • 議決権
    • 株式分割等の場合の取り決め
    • 普通株式への転換
    • 配当
    • 残余財産分配権
  • 株主間契約
  • 実例で考えてみる
  • 乙種普通株式が使える「経済的」前提
  • 税務上の問題
    • 発行時の価格
    • M&Aのexit時の価格
    • 上場時の普通株式への転換
  • 「特に有利な価格での発行」か?
  • ストックオプションによる是正では何がダメか?
    • 普通の(無償)ストックオプションを使う方法
    • 有償ストックオプションを使う方法

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(ではまた。)


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